著者
篠田 謙一 安達 登 百々 幸雄 梅津 和夫 近藤 修
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

近世アイヌ人骨122体を対象としてDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの解析を行った。最終的に100体からDNA情報を取得し、アイヌ集団の成立の歴史の解明を試みた。解析の結果は、北海道のアイヌ集団は在来の縄文人の集団にオホーツク文化人を経由したシベリア集団の遺伝子が流入して構成されたというシナリオを支持した。また同時に行った頭蓋形態小変異の研究でも、アイヌは北海道の祖先集団に由来するものの、オホーツク人との間の遺伝的な交流を持っていた可能性が示された。
著者
川合 康
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、治承・寿永内乱期の戦争のなかで形成された鎌倉幕府権力が、いかなる政策や行事の遂行によって平和状態を実現していったのかについて、考察を行ったものである。I「敵方武士の赦免の問題」、II「敵方張本の遺族の保護の問題」、III「味方の戦死者遺族と負傷者の保護の問題」、IV「村落の勧農、復興政策」、V「敵・味方を問わない鎮魂・供養」の5つの側面から史料を収集し、成立期幕府の新しい政策基調を明らかにした。
著者
木村 文隆 伊丹 千晶 LU Hui-chen HUANG J-y
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

大麻の有効成分であるカンナビノイドは、逆行性の神経伝達物質として注目を受けたが、近年では、感覚皮質においてのスパイクタイミング依存性可塑性の長期抑圧を導く伝達物質として再度注目されている。一方、長期抑圧が誘導されると、入力線維はしばしば刈り込まれることが知られている。このことは、カンナビノイド投与単独でも入力線維の刈り込がおこる可能性を示している。我々は、視床-皮質投射において、発達期にカンナビノイド受容体依存性の長期抑圧が起こることを見出した。視床-皮質投射の変化を調べたところ、長期抑圧が起こっている時期に一致して軸索の退縮が起こることも見出した。外因性にカンナビノイドを投与することによって退縮が起こるかは現在検討中である。
著者
赤川 学 出口 剛司 宮本 直美 新島 典子 柄本 三代子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究は、猫に関する社会学的知見を共同研究のなかで蓄積し、「猫社会学」を創設することを目的とする。近年、猫と人間の関わりは他の動物やペットよりも深化している。本研究は、そうした関係の深化が、現代社会のマクロな社会構造の変容によって生起していると想定し、そのミクロなプロセスを、家族、感情、文化、社会運動などの諸側面に即して記述し、文明史的な社会理論によって解釈する。そのために、(A)猫を飼った経験がある人や保護猫活動当事者へのインタビュー調査、(B)猫好きな人の社会的・心理的特性や活動のアンケート調査、(C)猫ブームに関する言説のテキストマイニング、(D)上記データの理論的解釈を実施する。
著者
中村 俊夫 齋藤 努 山田 哲也 南 雅代
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

石英管内で金属鉄を加熱、酸化して鉄中の炭素を回収する方法を検討した。石英管内に1gの鉄試料と4gの助燃剤(CuO)を封入して、1000℃で15時間加熱した場合、炭素収率は90%程度であり、外来炭素の汚染無しに14C年代測定に必要な炭素量が回収できる。この方法を用いて、日本刀から分取した金属鉄中の炭素を抽出し、年代測定を行い、日本刀の公式な鑑定年代と比較した。公式鑑定は、測定結果とほぼ一致した。出所が不明な日本刀では古すぎる14C年代が得られ、14C年代を基に出所来歴の詳細を検討する必要がある。サビ鉄でも、予想される14C年代が得られたことから、サビ鉄の14C年代測定の実用化が可能になる。
著者
石黒 直隆 猪島 康雄 松井 章 本郷 一美 佐々木 基樹
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

絶滅した日本のオオカミ(エゾオオカミとニホンオオカミ)の分類学上の位置をミトコンドリア(mt)DNAのゲノム解析により明らかにし、両オオカミの起源と系譜を海外の考古資料から調査した。エゾオオカミは、大陸のオオカミと遺伝的に近く、ニホンオオカミとは大きく異なっていた。ロシアおよび中国の古代サンプル143検体を解析したが、ニホンオオカミのmtDNA配列に近い検体は検出できなかった。また、モンゴルのオオカミ8検体および国内の現生犬426検体を解析し、ニホンオオカミのmtDNAの残存を調査したが見つからなかった。これらの結果は、ニホンオオカミはオオカミ集団の中でもユニークな系統でることを示している。
著者
川合 康 市澤 哲 高橋 典幸 下村 周太郎 栗山 圭子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、平安時代末期に草創され、地方有力寺院として発展した河内国金剛寺に伝わる約350点にのぼる中世文書を、Ⅰ平安時代末期~鎌倉時代中期、Ⅱ鎌倉時代後期~南北朝内乱期前半、Ⅲ南北朝内乱期後半~戦国時代、Ⅳ寺内法と武家権力、Ⅴ金剛寺院主職と貴族社会という5つの視角から詳細に分析し、中世の地域社会の実態を解明しようとするものである。また、金剛寺文書の高精密カラーデジタル撮影を行い、研究期間終了後には、今後の研究推進に資するため、関係機関と協議のうえ河内長野市立図書館において画像を公開する。
著者
下澤 楯夫 青沼 仁志 西野 浩史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

神経系はなぜ多数の繊維からなる束なのか?多細胞生物としての当然の帰結なのか?これらの疑問は、つまるところ、神経系は進化の上での如何なる淘汰圧への適応の産物なのか、またその適応にはいかなる拘束条件が付きまとったのか、を問うことである。情報の生成(観測)にはエネルギー散逸が避けられず、感覚細胞における情報のエネルギーコストは統計熱力学上の理論限界である0.7K_BT[Joule/bit]に近い。本研究は、細胞の熱雑音感受性は進化を通して達成した適応ではなく、生命の起源に遡る拘束であることを明らかにし、資源や危害が時間的空間的に偏在する生存環境は情報伝送(観測)速度増大の淘汰圧として働くこと、それに対する唯一の適応方策は神経細胞の並列化であること、を次のように明らかにした。1)気流感覚毛で、揺動散逸定理に従ったブラウン運動を観察できることを光学計測によって示した。コオロギ尾葉上の近傍にある二つの気流感覚毛のブラウン運動の無相関性の計測は達成できなかった。2)気流感覚毛のブラウン運動と感覚細胞の電気的応答の相関(コヒーレンス)の実証には至らなかった。3)神経細胞は熱雑音領域で動作しており、情報伝送素子としての信号対雑音比が極めて低いことを、実証した。4)計測と平行して、信号対雑音比の極めて低い神経細胞のパルス列からでも、介在神経へのシナプス加重によって信号を再構成できることを理論的に示した。確率統計学や情報理論で、標本の平均値が母集団の真の平均値から外れる確率が標本数の平方根に反比例して少なくなる「加算平均原理」に着目し、熱雑音に拘束された細胞でも多数による加算平均によって、熱雑音以下の信号の検出精度が向上することを示した。もちろん「束」の前提として多細胞化は必要であるが、多細胞化の直接的生存価自体も、「加算平均原理」で説明できることを示した
著者
渡辺 哲
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

CDAA食投与によるラットNASHモデルでは、早期より肝に著明な脂肪沈着を認め、4ヵ月で肝硬変を呈した。肝の脂質過酸化と門脈血エンドトキシンの上昇がみられた。酪酸菌を1%の割で餌に混ぜて投与すると、エンドトキシン濃度が有意に低下し、脂質過酸化も著明に抑制された。また、肝の有意な線維化抑制と前癌病変であるGST-Pの産生低下がみられた。これらの変化は、腸内細菌叢の変化と、菌が産生する酪酸によることが示唆された。
著者
小林 耕太 古山 貴文 飛龍 志津子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は近赤外レーザー人工内耳を開発することである。同人工内耳は従来型の電極を刺激プローブとして使用するものと異なり、低侵襲で聴覚を回復することを目指している。神経細胞膜中のイオンチャネルの多くは熱に対する感受性を持つ。近赤外レーザー光を神経細胞に照射することで、チャネルを加熱し(最大5℃)、活動電位を誘発することができる。生体外より聴覚末梢(蝸牛神経)をレーザーで刺激することにより、低浸襲・非接触で神経活動を誘発し、聴力を再建することが可能になると私達は考えている。当該年度は(1)スナネズミを被験体として、レーザー刺激部位の同定およびレーザー刺激による音圧、周波数の再建の可能性を検討した。具体的には、レーザーにより刺激する部位を変化させることで異なる周波数の聴こえを再建可能であるか検証するため、レーザー刺激用光ファイバーが蝸牛のどの部位を刺激しているかについてX線マイクロCTを用いて定量化を行った。またレーザーの刺激パラメータ、繰りかえし周期および出力を変化させることで、音の周波数および音圧を変化させたのと同様な神経応答(脳幹および皮質応答)がえられることがわかった。(2)ニホンザルを被験体として、音響生理実験を開始し、聴性脳幹反応および皮質由来の神経活動(Auditory evoked potential)の記録をおこなった。単純な音(クリック音)および音声(coo call)に対する脳幹および皮質応答の記録に成功した。さらに(3)ヒトを被験体として、これまでに作成したレーザーにより再建される音の「聴こえ」をシミュレートした音声が、老人性難聴に有用であるかを実験的に検証した。老人性難聴において顕著に不足する高周波のフォルマント情報をレーザーにより補強することで高周波に知覚手がかりをもつ子音の聞き取りが有意に上昇する結果が得られた。
著者
牟田 和恵 丸山 里美 岡野 八代
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本年度は、第三者からの精子提供によって女性カップルのもとに生まれた子について、インタビュー調査の設計を行うとともに、7ケースの事例調査を実施した。またフランスにおいては、関連法についても調査した。事例調査は、3ケースは日本、3ケースはフランス、1ケースはニュージーランド(調査自体はイギリスで実施)のものである。フランスは2013年に同性婚が法制化され、同性カップルの養子縁組も可能になったが、同性カップルの生殖補助医療の利用は認められておらず、現政権のもとで議論がなされている最中である。ニュージーランドは、調査対象者が子をもうけた時点では同性婚は法制化されていなかったが(2013年に法制化)、生殖補助医療の利用は可能であった。各国の法制度のあり方と、それと関連はするが相対的に独立した当該家族に対する社会の許容度は、情報開示と子のアイデンティティのあり方に強く影響するが、それだけではなく、子の発達段階、家族の居住形態、精子提供者をどのように得たかなどによってもかなり異なっていることが明らかになった。同性婚はもとより、同性カップルの生殖補助医療が認められておらず、当該家族に対する社会の許容度もきわめて低い日本では、同性カップルが子をもうけるということ自体が、金銭的にも社会資源の面でも特権的な階層にしか可能ではない。それにもかかわらず子をもうけたカップルが直面した・している困難と、その際に取った戦略、そして同様の問題が他国においてどのように生じているかに関する事例を収集することによって、当該家族のもとで育つ子の法的権利・福祉のあり方を検討していくための基礎的な整理を行った。
著者
植田 邦彦 須山 知香
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

タチツボスミレ類は日本で著しく分化したスミレ属の種群であるが,その範疇に諸説があった。本研究の目的はタチツボスミレ類における種同定の困難さの原因解明にあるが,先ずは対象種を限定して比較検討するためその範疇の解明を試みた。従来本種群とする見解もある北米とヨーロッパの種を採取し,また,本邦産のエゾノタチツボスミレなど本種群の候補種を可能な限り集め,狭義の本種群とともに系統解析を行った。これらから,外見が極めて類似する「北米産ナガハシスミレ」は本邦産ナガハシスミレと大きく異なり,その他の北米,ヨーロッパ産の種類とともにすべてエゾノタチツボスミレ類に分類されるべきことが判明した。
著者
高橋 義人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

一般民衆のあいだで語り継がれてきたメルヘンのなかには、キリスト教が導入される以前の古代ゲルマンの古い神話や信仰の痕跡が残っている。『子どもと家庭のためのメルヘン集』を収集しながら、グリム兄弟はそのような考えに想到した。本研究は、グリム兄弟のそうした意図がどの程度まで正しかったかを確証し、キリスト教導入以前のヨーロッパ文化を復元することにある。本研究の結果、「灰かぶり」のようなメルヘンには、おそらくは太古にさかのぼるヨーロッパの民衆の農耕儀礼が反映していることが判明した。それを知る上で重要だったのは、ヨーロッパの辺境の地に残る古い祭りだった。祭りにおいて村人たちが動物や植物に変身して冬を追い払おうとするように、「灰かぶり」やその類話において女主人公は動物の毛皮や植物でできたマントを身にまとい、危機から脱出する。本研究は、両者の類似性を緻密に跡付けた。「いばら姫」に登場する塔の上の老婆を、グリム兄弟は古代ゲルマン神話の女神ホルダとして描いた。ホルダは古代ゲルマンの地母神であり、地上の生死、吉凶、豊作と不作を司っていた。その地母1神を誕生パーティに招待しなかった以上、いばら姫が長い眠りにつくのは当然のことだった。ホルダは「ホレおばさん」にも登場する。ホルダ(ホレ)は働き者にはほうびを、怠け者には罰を与えるという古代ゲルマンの信仰を、メルヘン「ホレおばさん」に明瞭に見て取ることができる。また「蛙の王さま」と日本民話の「鶴の恩返し」を比較検討することによって、大昔の人類は、人間から動物、動物から人間への変身は比較的普通に起きると考えていたことが判明した。そして前者のタイプが、魔女ののろいによって人間から動物に変身させられるというグリム童話のメルヘンに、そして後者のタイプが、自分を助けてくれた人間に恩返しをするために、人間(多くは若い女性)に変身し、人間の妻となって甲斐甲斐しく働くという日本民話になったと考えられる。本研究を通して、西欧文化と日本文化の根底に流れる共通のルーツを明らかにすることができた。
著者
菊池 勇夫
出版者
宮城学院女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

基礎的な作業として近世の文献史料から田村麻呂伝説および義経伝説の記述を抜き出して蓄積した。また、義経の蝦夷渡りを物語る津軽地方三厩における数種類の観世音縁起の成立事情、仙台藩の儒医相原友直による義経蝦夷渡り説に対する考証的な批判、松浦武四郎における義経=オキクルミ説への親和的な態度と同化?義に果たした役割、仙台藩領における田村麻呂の悪路王・高丸・大武丸征伐物語の変遷、などについて解明した。
著者
岡野 八代 菅野 優香 GONON Anne 菊池 恵介
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、1) 理論研究と2) ケアの倫理研究拠点の確立という二つの目的が存在している。2016年度の実績については、1) については、フランスにおいて受容されてきたケアの倫理研究の軌跡を、文献研究を中心にすすめられた。とりわけ、フランスでのケアの倫理研究の導入が、ケアの倫理と政治、そして民主主義論を中心に行われていたことを明らかにできた。また、フランスでも深刻な、ネオ・リベラリズムの席巻による、民主主義的原理の堀くずしなど、ケアの倫理がフランスにおいて注目される政治的文脈も明らかにした。2) 京都とパリ双方において、以下のシンポジウムを開催し、来年度にむけた成果報告の基礎が作られた。2017年3月7・8日、京都同志社大学においては、研究分担者であるアンヌ・ゴノンによって、フランスおよび合衆国のケアの倫理研究者とともに、「ヴァルネラビリティ・身体、そして自己の諸様式」と題されたワークショップが二日間にわたり開催された。大学院生の報告を含め、生と身体の傷つきやすさについて学際的な議論を行った。また、2017年3月13日には、研究代表者岡野八代が滞在するパリ第8大学における「ジェンダー・セクシュアリティ・研究センター」(LEGS)において、日本軍慰安婦問題をめぐる男性中心的な日本政治の現状と歴史認識、そして安全保障観をケアの倫理の観点から批判的に考察するシンポジウムを開催した。グローバルな植民地主義の歴史と、現在まで継続する紛争時の女性に対する暴力、さらにそうした暴力の記憶をどのように継承するか。パリ第8大学からは、Carol Mann 氏からのコメントを受け、日本における事例と日本におけるフェミニズム運動がもつ、現代的な可能性について討論の機会をもつことができた。[see http://legs.cnrs.fr/spip.php?article206]
著者
高野 信治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は日本近世の宗教世界を近世的「神」観念としてとらえ、民俗神・権力神・民族神という範疇を措定し、とくに申請者の研究履歴に照らし、権力神を中心にすえながら三者の関係性と変容の検討を目的とした。具体的には以下の二点に目的とその成果は要約できる。第一の目的は、民俗神と武家権力神との関係性の解明である。権力神とは藩主(藩祖)や夫人、家中、さらに新田義貞等南朝方武将など、神格化された武家領主に関わる人物を想定している。民俗神の集団神的側面との関連では神格化された武家領主(権力神)の地域社会におけるシンボルとしての可能性が浮かび上がってきた。これは地域社会集団の成り立ち・歴史性と武家領主の関係性の指摘につながる。また「仁政」を展開した藩主・家中の民衆による神格化の事例収拾とその解析を行った。領主権力の政治支配は民衆の生活のあり方に直接関係し、生活に利益をおよぼす領主(藩主・代官など)が人神となるパターンの検出を通じて近世民衆の領主像がある程度明らかになったのではないかと考える。第二の目的はかかる第一の目的をうけ、さらに権力神という視角からみた武家集団のアイデンティティのあり方と民族神・民俗神との関わりの考察であった。ここでは各藩における藩主(祖)神の事例をできるだけ収拾しながら、その成立の契機や性格などを、具体的な政治のあり方と相即させ分析した。藩主神の措定は藩の危機的状況下で、家臣団の統合イデオロギーの再生産装置としてなされるとの見方があるが、そこには武家領主集団・藩の自己認識・歴史意識が検出できた。そしてそのような武家領主の神格を民衆側が地域社会の精神的な核としてとらえ返す動向が、とくに近代都市形成のなかで顕著にあらわれてくる、つまり武士階層が歴史的に解消したのちに武士神格の意味が大きくなっていく見通しを得るにいたった。
著者
大澤 正嗣
出版者
山梨県森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ヤノナミガタチビタマムシの生活史と環境を利用した被害軽減について研究を行った。本害虫の生活史を詳細に知るため、野外調査を実施し、産卵から成虫になるまでの時期と期間を明らかにした。本害虫の寄生によりケヤキは初夏に早期落葉を起こす。その落葉の中に本害虫の終齢幼虫が入っており、この早期落葉から本害虫が羽化、脱出するまでに9~14日かかる。落葉期間はおよそ25日であり、この間に2~3回落葉を集め除去することで、本害虫を取り除くことができることを明らかにした。また、本害虫の個体数は早期落葉時期に雨が多いと減少することとそのメカニズムを明らかにした。このことは本害虫の被害予測に役立つと思われる。
著者
吉光 喜太郎
出版者
東京女子医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

内側に黒色アルマイトを施したアルミ製筐体内に固定した10インチタブレット端末の映像をAIプレートにて空中投影し、Intel RealSenseを用いて非接触ジェスチャー操作可能な空間投影装置の試作機を製作した。空間投影性能は、水平・垂直方向にそれぞれ+/-36 deg、+/- 38 degに画像認識性能を有する画像出力を可能であった。動作種は1)モデルをつまんで回転させる動作、2)モデルの拡大縮小をする2種類とした。本ジェスチャーインタフェースは脳神経外科血管内治療時に執刀医が未破裂脳動脈瘤に塞栓コイルを誘導する際に3次元的にモデルを観察する際に使用し、2名の執刀医より有用な評価を得た。