著者
齋藤 幸平
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、カール・マルクスのエコロジカルな資本主義批判の方法論が、「存在論的一元論」と「方法論的(分析的)二元論」を採用していることが明らかとなった。近年マルクスは「社会」と「自然」のデカルト的「存在論的二元論」を採用していると批判されてきたが、それは誤っていることが示された。さらに、「方法論的二元論」を採用することで、資本主義の歴史的特殊性を把握することができる。その点において、マルクスの理論的枠組みは、ハイブリッドを掲げる論者たちが採用する「存在論的一元論」と「方法論的一元論」のペアよりも優れていることが示された。
著者
野崎 千尋
出版者
早稲田大学
雑誌
国際共同研究加速基金(帰国発展研究)
巻号頁・発行日
2020

令和2年度に実施した研究成果は、研究の開始および施設の移動に伴う新たな研究環境構築である。科研費の交付内定後に予想外の国内異動が決まった中、新施設と国内旧施設が有する機材が全く異なるため、双方にどのような研究機材があるかを洗い出し、本研究に必要となる機材のうち新施設に無いもので、かつ使用頻度が高くなるであろう物を中心に、特に大型の機材を揃え、そのセットアップを行った。加えて国外旧施設から供与されることが決定していた遺伝子改変動物およびサンプルの輸入を、国内旧施設ではなく新施設に向けて移動できるよう、各種手続きを進めた。その中で当初凍結精子の形で輸入する予定だった動物の個体化を元の国外施設で行い、生体の形で輸入できるように手はずを整えた。また一方で新施設内の他研究室と協力関係を結び、本研究計画を協力して行う体制を整えるとともに、本計画外の共同研究計画も推進し始めた。
著者
平賀 一希 江口 允崇
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究において、政府債務の持続可能性の検証を行うため、動学的一般均衡モデルの枠組みを用いて経済理論ベースに検証する手法の考察を行った。成果としては、①広義の意味での持続可能性がどこまで成立するかを簡単なモデルを用いて説明したこと、②世代重複モデルタイプの動学的一般均衡モデルを用いて、財政安定化ルールと政府債務と経済の両方が安定化するような状況がどのようなときに導かれるかの導出、および③財政安定化ルールを考慮した上での、政府債務の持続可能性の統計的な検証手法の導出の3点が成果として挙げられる。
著者
小早川 明良 藤田 成俊 伊藤 泰郎
出版者
特定非営利活動法人社会理論・動態研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

一般的に広く存在する被差別部落が屠畜・精肉、製靴などの皮革産業、竹細工と深く関係しているという考え方は、たんなるステレオタイプに過ぎない。その考え方が国民の間に形成されたことは、「科学的研究」の責任の一端がある。明治の初めから、これらの産業・職業の主要な位置を占めたのは、非被差別部落の経営者であり、労働者であった。現在では、被差別部落の人びとは、その立場は弱くてもそれぞれの地域の産業構造に組み込まれ、生産の一翼を担っている。被差別部落にあって、非被差別部落にない産業・職業は一切存在しない。これが研究の結果である。
著者
六反 一仁
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

脳腸軸は、脳と腸の機能の維持に重要な役割を果たしている。研究代表者は、腸に定着するユニークな乳酸菌CP2305が脳腸相関を介して医学生の慢性ストレス反応を緩和することを見出した。本研究は、CP2305の生体内シグナルの解明を目指した。CP2305の菌体成分自身の作用を調べるため、殺菌洗浄したCP2305のストレス緩和作用を人体解剖実習ストレスと医師国家試験ストレスモデルで調べた。殺菌洗浄したCP2305も生菌と同じく、ストレスによる身体・精神症状を緩和して睡眠障害を改善することを見出した。これらの結果から、CP2305の菌体成分が腸上皮細胞の受容体を介して作用する可能性が示唆された。
著者
河原 純一郎
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

いくつも仕事がある場合,同時にはたくさんには対応できない。また,頭を使って疲れたら,そのぶんミスが増えたりうまく頭が回らない。心理学では,認知資源という共通のリソースを仮定し,この多寡で複数の課題遂行成績や疲労,個人差を説明してきた。非常に似通った注意の課題で認知資源が枯渇するという説明が成されていることに本研究では注目し,これらの課題間で共通の認知資源が使われているかを調べた。実験の結果,共通性は殆ど無いことがわかった。本研究の結果は,これまで,認知資源という漠然とした用語で解釈されてきた注意の配分モデルに対して見直しを迫るものであるといえる。
著者
岡ノ谷 一夫 池渕 万季 橘 亮輔 柳原 真
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

模倣と共感がどちらも生得的な知覚運動メカニズムとして捉えられるという指摘は早くからなされてきたが、これを実証しようとした研究は少ない。本研究は、小鳥の歌学習とラットの情動伝染をそれぞれ模倣と共感の原初的なモデルとして、神経回路から行動のレベルまで、それらの共通点を探ろうとするものである。仮説として、「模倣も共感も、ミラーニューロンと報酬系のドパミン神経細胞とが密に接続することで生起する」を提案する。本研究はコミュニケーション行動の生物心理学的基盤を与えることとなろう。
著者
服部 恵典
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は、女性向けAVを性的主体化の装置として捉え、視聴者の受容・抵抗を、SNSの自然言語処理とインタビュー調査によって、調査の(不)可能性を踏まえながら明らかにする。表象を消費する側の存在として「女性」主体を位置づけるという第三波フェミニズムの潮流のもとでポルノを分析するとき、ポルノを男性の性的主体化の装置として捉えた赤川学の理論が有用である。と同時に赤川の理論の、「見る主体」としての「女性」が射程に入っていないこと、主体化への抵抗可能性が明らかでないことの2点の克服が目指される。調査可能性自体、セクシュアル・ストーリー論の枠組で反省的に分析しながら、語りのデータから理論の再構成を試みる。
著者
寺本 祐司
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ライスビールは,発芽させた籾,すなわち稲芽を糖化剤に用いてつくられる稀少なアルコール飲料である.現在,一部の限られた地域でのみつくられている.インド東北部ナガランドのライスビールzuthoは白色の濁酒で,約5%のアルコールを含み,日本酒に似た香りと爽やかな酸味をもっていた.一般に,稲芽の糖化力は,麦芽の糖化力より弱いので,稲芽は酒づくりにはあまり適さないとされてきた.しかし,ナガランドでは実際に稲芽を糖化剤としたライスビールがつくられていた.ナガランドのライスビールから発酵性酵母の分離を試みたところ,Saccharomyces cerevisiaeが分離された.本酵母は醸造用酵母と同等の発酵能を有していた.ナガランドでライスビールをつくっている人々は,インド・アーリア系ではなく,チベット・ビルマ系の人々である.一般に,西洋の酒は糖化剤に麦芽を使用し,東洋の酒は糖化剤に麹を使用して酒をつくるといわれる.ライスビールは,製造法や原料をみると,西洋や古代中東の麦芽を用いたアルコール飲料と,日本やアジアの麹を用いた酒の融合したタイプ,またはそれら酒の遷移型の酒のように思われる.ビール発祥の地と言われる中東やエジプトは,現在イスラーム圏で,イスラーム社会では基本的に飲酒は禁止されている.カイロでサンプリングされた小麦ビールbozaは,白色の濁酒で,約4%のアルコールを含んでいた.発酵性の酵母の分離を試みたところ,Candida kruseiが分離された.本酵母を用いて発酵試験を行ったところ,10%以上のアルコールを生成し,醸造用酵母に比べエステル生成能が高かった.イスラーム教とキリスト教コプト派,イスラーム教と現地の伝統宗教が混在するアフリカ諸国の各種伝統酒について,その製法特性を調べ,発酵微生物の分離と同定を現在行っている.あまり知られてはいないが,アジア,イスラーム圏,インド,アフリカ諸国には伝統的な民族の酒が多く残されている.現在,それら民族の酒に残るユニークな発酵法や,それら酒づくりに利用されている微生物資源の再開発と応用を試みた.また,東南アジア発酵文化圏の酒との比較検討も行った.
著者
川野 徳幸 原田 浩徳 大瀧 慈 佐藤 健一 星 正治 小池 聖一 平林 今日子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

①セミパラチンスク核実験場近郊住民を対象に、アンケート調査・証言収集調査を実施した。4年間で計597件のアンケートを回収。②朝日新聞・読売新聞実施の被爆実態アンケート調査の結果を援用し、原爆被爆者の「核なき世界」以外の「思い」の一端、「ヒロシマ」というアイデンティティ、被爆体験継承の可能性、を考察した。③被爆証言を用い、経時的に観測されたテキストデータの特徴を、時間を考慮して視覚化する方法を提案した。これは、業績に示すように国際学会において、Best paper Awardを受賞。④オーラルヒストリーを編集し、『チェルノブイリ・旧プリピャチ住民へのインタビュー記録(第二報)』を発行した。
著者
野田 文香
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

学位や資格など高等教育を含む教育訓練機関から生み出されるあらゆる「qualifications(資格)」について、その保有者に期待するコンピテンスの内容や水準を明確化し、さらに学術あるいは職業モビリティの促進などを図る「国家資格枠組み(National Qualifications Frameworks:NQF)」が、現在、世界的に拡大している。一方で、その背後にある政治社会的課題や運用の実態については明らかにされているとは言い難く、NQFを有しない日本において策定の是非を議論する根拠情報が十分に揃っていない。本研究は、現行のNQFの動向研究を踏まえ、NQFの策定プロセス・枠組み・活用状況を分析し、運用の課題を整理・類型化する。さらに具体的事例として、特に非職業系の学問分野と労働市場との接続に社会的ジレンマを抱えるフランスのNQFを取り上げ、学術・実践の両面から日本版NQFの策定可能性に関する議論に資する示唆を得ることを目的とする。平成30年度は、各国のNQFの情報が記述されているインベントリを基礎資料とし、本研究の焦点となるフランスNQF(RNCP)の活用状況を相対的に捉えるため、ドイツNQF(DQR)やアメリカNQF(CF)といった異なる設置形態、活用の動機や課題をもつ事例についても調査を進め、NQFに期待する役割や機能における国による違いを整理した。成果は著書(分担)にまとめるとともに、講演会においても発表した。
著者
阿久津 洋巳 平田 光彦
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

文字を読みやすくする空間配置を調べるために2つの問題を設定した。一番目は、文字認知に縦と横の配置はどのように影響するかであった。日本語は縦書きも横書きもでき、多くの印刷物にもそのどちらかが使われている。実験により、文字を読む視野の大きさを推定したところ、縦書きより横書きのほうが視野は大きかった。この傾向は、米国人でも日本人でも同様であった。二番目に、縦書きと横書きの読みやすさを、読みの速さを指標として調べた。縦書きと横書きに、読みの速さに違いはなかった。さらに「書の文字の美しさ」を研究課題に加えた。書の点画構成による美的効果を測定する尺度を開発し、実際の書の評価を実施した。
著者
浅見 泰司 山田 育穂 貞広 幸雄 中谷 友樹 村山 祐司 有川 正俊 矢野 桂司 原 正一郎 関野 樹 薄井 宏行 小口 高 奥貫 圭一 藤田 秀之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

あいまいな時空間情報概念の整理、あいまいな時空間情報に既存の時空間情報分析を行った時の影響分析、まわり、となりなどの日常的に使われながらも意味があいまいな空間関係の分析ツールの開発、時空間カーネル密度推定手法の開発、歴史地名辞書の構築と応用分析、あいまいな時間の処理方法の提案、古地図と現代地図を重ねるツールの開発、あいまいな3次元地形情報の分析、SNSの言語情報の空間解析、あいまいなイラストマップのGPS連動ツールの開発、スマートフォン位置情報データの分析、アーバンボリュームの測定と応用、あいまいな敷地形状の見える化などの研究成果を得た。
著者
安部井 誠人
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

現在,コレステロール(以下,Ch)胆石症に対する溶解療法(経口胆汁酸療法)の成功率は低く長期間を要することから,より有効な薬物療法の開発が望まれる.我々は,魚油(エイコサペンタエン酸;EPA)が胆汁中レシチンを増加させCh結晶析出を抑制することによりCh胆石の予防効果を発揮することを見出した.本研究ではEPAがCh胆石に対して治療効果をも有するのではないか,との仮説に基づき,魚油(EPA)の胆石溶解効果を臨床的および実験的に探究することを目的とした.まず,「ハムスター胆石モデルにおけるEPAの胆石溶解効果の実験的検討」を行った.その結果,催石食+EPA群では,催石食単独群に比し,胆汁中レシチンの増加とともに,胆石総重量の有意な減少が認められた.次に,「胆石患者におけるEPA投与の臨床効果」を検討した.その結果,EPAの6ヶ月間の経口投与が,治療前に比し,胆汁中の催石性指標(Ch過飽和度およびCh結晶析出時間)を顕著に改善することが判明した.さらに,EPAの投与を長期間(一年以上)継続した結果,2例に完全溶解,1例に部分溶解を認めた.以上,本研究により,初めて魚油(EPA)のCh胆石溶解効果が実験的ならびに臨床的に明らかとなった.動脈硬化血栓症や高脂血症の治療に広く使用されている魚油(EPA)に「Ch胆石症に対する治療効果」という新たな臨床的意義が見いだされた.
著者
久野 マリ子
出版者
国学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

東京都とその周辺の地域で話されている言葉を首都圏方言とする。首都圏方言というのは伝統的な東京方言ではなく、共通語を母方言とする話し手の言葉、あるいは異なる方言の話者が共通語と思って話している言葉とする。本研究はそのような首都圏方言の記述がなされないまま、スタンダード日本語として流布している状態に着目してその記述的研究をめざした。今回は特にアクセントと無声化について研究を実施した。無声化は音韻論的対立を持たない音声現象であるが、標準的日本語に必要な特徴として広く知られている。無声化の起こる基本的条件はすでに明らかにされているが、首都圏方言での実態はまだ明らかでなかった。本研究では無声化の現象を広く日本語全体の中で把握するため、琉球竹富方言、岩手県盛岡方言、兵庫県西脇方言を参考のため調査を実施した。今回は700余語について調査した。この研究で次のことが明らかになった。1.首都圏方言では、無声化の程度に個人差がある。例えば、無声子音+狭母音+無声子音という環境であっても、「すし(寿司)」という語はほとんどの話者が無声化しない。2.アクセントの核を無声化の影響で移動させることが知られていて、この現象が衰退する方向にあることが指摘されていた。本研究において「吹く」「拭く」では無声化してもアクセント核の移動は起こらないが、それ以外の語例,例えば、「着く」「突く」などではアクセント核が移動して同じ型に発音する話者が多いことが確認された。3.無声子音に挟まれた、広母音が無声化することが知られているが、その傾向が衰退する報告がなされている。しかし今回の研究では広母音の無声化の傾向が若年層でも確認された。ただし、従来から指摘されている語例では確認しにくく、「山手線」の「テ」のような語例である。4.無声化と促音の関係が曖昧であることも指摘されているが、今回の調査語例「西新橋」「日進橋」などで混乱が見られた。さらに研究が必要であることがわかった。無声化の研究は音響分析の立場などから多く進められているが、今回のように多くの語例で多人数の調査が首都圏方言の解明に必要なことが明らかになった。
著者
桜井 芳生 赤川 学 尾上 正人 高口 僚太朗
出版者
鹿児島大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ネットワーク変数を含む社会変数(の推移)と遺伝子変数の関連を分析する。匿名の調査協力者さんたちから採集した遺伝子試料の解析結果とその方々に回答いただいたスマホアンケートの結果との 相関分析をはじめとする統計解析をおこなう。オキシトシン受容体OXTR遺伝子の一塩基多型の一つ「rs53576」のタイプの解析をまずは目指した。SNP「rs53576」のタイプは、AAホモ、AGヘテロ、GGホモ、の三類型存在する。AAホモのヒトほど、Twitterを、する。などといった、興味深い相関が見いだされた。
著者
花澤 豊行
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1)手術時に得られる鼻粘膜標本(アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎)において、一酸化窒素合成酵素(NOS)の存在を免疫組織化学法を用いて確認した結果、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎の鼻粘膜ともNOSは、上皮細胞および血管平滑筋細胞に陽性所見を示した。しかし、両者における染色性に有意な差は認められなかった。このことより鼻腔内NOの産生部位は上皮細胞もしくは血管平滑筋であることが予想される。2)正常コントロール、アルレギ-性鼻炎患者における鼻腔内一酸化窒素(NO)濃度を測定するとともにacoustic rhinometryを用い鼻腔内容積を測定し、単位面積あたりの産生量を比較検討した結果、アレルギー性鼻炎患者においては有意に鼻腔内NO濃度が上昇していることを確認した。また、手術患者の協力のもと、鼻腔、上顎洞におけるNO濃度を副鼻腔炎症例、正常例にて上記同様単位面積あたりに換算し比較検討した結果では、副鼻腔炎症例においては鼻腔内NO濃度が上昇しているものの、NOの産生量に鼻腔と副鼻腔では有意な差がないことを確認した。この結果より鼻腔内NOガスは炎症により産生が増加することが確認できた。今後はこの機序にいかなるサイトカインが関与するかを検討する。3)鼻腔内NOの下気道における生理学的影響を検討するため、鼻呼吸と口呼吸において咽頭におけるNOガス濃度を比較するとともに、血液ガス交換の指標の一つである有効肺血流量を比較したところ、口呼吸に比べ鼻呼吸では有効肺血流量が増加する症例が多いことが確認できた。この結果は、鼻腔内NOガスが下気道の血液ガス交換に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。今後は吸気中のNOが関与することを確認するため、鼻呼吸時と同濃度のNOガスを口呼吸時に吸入させ有効肺血流量が改善するか否かを検討する予定である。
著者
松田 真由美
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

申請者はこれまでに成人女性を対象に腋窩・鼠径部の冷却実験を行った。被験者はベッド上で仰臥位安静とした。氷嚢を用いて腋窩・鼠径部の冷却を60分間行うと、鼓膜温、平均血圧が上昇する傾向を示し、また、寒さによる不快感が生じた。寒冷刺激に対して、皮膚血流の減少(熱放散の抑制)、エネルギー代謝の亢進(熱産生の亢進)が起こり、深部体温が上昇する傾向になったものと考えられる。冷却により血圧が上昇傾向にあることから、循環器系への負担が増えることも考えられる。発熱時には平熱時よりも体温を上昇させるための体温調節反応が強くなると考えられ、冷却による体温・血圧の上昇や不快感は平熱時よりも強くなる可能性も考えられる。発熱時に行うケアとして、腋窩・鼠径部冷却の有益性を再考する必要があることが示唆された。