著者
大喜多 紀明
出版者
北海道言語研究会
雑誌
北海道言語文化研究 (ISSN:18826296)
巻号頁・発行日
no.17, pp.19-36, 2019

本稿において、樺太アイヌ民族である浅井タケを話者とする2編の口承テキスト(「水汲みの話①」および「水汲みの話②」)を分析したところ、当該テキストは交差対句により編成されていることがわかった。さらに、かかる交差対句の編成には、述語的論理が優先されることが確認できた。また、当該テキストの場合、こうした述語的論理がストーリーの編成に対しても影響を与えていることがわかった。併せて、本稿では、交差対句の要素対を分類するに際し、主語的対応、述語的対応、主語・述語的対応に基づく手法が有効であることを述べた。
著者
岡田 俊裕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.20-38, 1996-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
128
被引用文献数
1

地質学専攻の小川琢治 (1870-1941) が地理学研究に着手したのは,『台湾諸島誌』 (1896) を執筆し,『地学雑誌』を編集した (1897~1907年)ことに要因があった. 1908年京都帝大地理学講座の主宰者となった小川は,孤立荘宅と条里集落に関する研究を例示して居住地理学研究を唱導した.当初彼は,農業経営や農村生活へも考察を及ぼす姿勢を示したが,以後,もっぱら村落居住の起源・成立と変遷の研究を重視するにいたった.また小川は,刀剣の銘文を判読して刀工の地理的分布を明らかにした.それは当時の有力な集落の分布を示し,古代・中世日本の地域像の描出に役立った.小川が翻訳または考案した地理学用語は,あまり普及したとはいえない.しかし,彼の創見に富んだ研究業績は,高い研究レベルにおいて強い指導性をもった.ことに居住地理学の分野にはそれが明瞭に認められ,歴史地理的考察を軸とする研究方法は今日の人文地理学にも直結している.
著者
齋藤 涼平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第36回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.177, 2017 (Released:2019-04-03)

【はじめに】ボクシングのパンチは、ジャブ、ストレート、フック、アッパーの4 種類とされている。今回左フックでの痛みが強いと訴える左肩インピンジメント症候群と診断されたボクシング選手を担当する機会を得た。各パンチ動作の動作分析を行い、患部への力学的負荷を推察し理学療法を実施したので報告する。【症例紹介】症例は30 歳代男性。職業プロボクサー、中量級の日本トップランカー。主訴は左フックの時に左肩が痛い。現病歴、1 年ぐらい前から左肩の痛みが発生、試合後に疼痛が強くなり当院受診し理学療法開始。ヘルシンキ宣言に基づき症例には同意を得た。初期理学的所見関節可動域(Lt)肩関節屈曲160°1st 外旋/60°2nd 内旋/50 °疼痛評価安静時- 動作時痛+( 左フックNRS7/10 左ストレートNRS2/10) 整形外科テスト Neer- Hawkins+ CAT+ HFT+ EPT+【理学療法および経過】3 か月後に試合が決まっておりスケジュールを考え理学療法(週2 回)を行った。1 カ月で肩関節の可動域制限の改善と肩甲骨と胸郭のmobility とstability の向上。2 か月目では、ミット打ちでの強さを向上。フォームによって疼痛がありビデオでのフォームチェック等行った。3 か月目ではよりステップを踏んだ中やスパーリング等の実践を行っていく事で、競技復帰を行った。【考察】シャドーでの動作分析を行った際に、ジャブやストレートやアッパーは両股関節での重心移動や胸郭の動きは、矢状面上の前後/ 上下系になるが、フックでは両股関節と胸郭では回旋系の動きであった。症例はインファイタータイプでステップが少なく、両股関節での回旋が少ない中で肩甲胸郭を固めてしまい肩甲骨の動きが少ない中でフックをすることで、肩甲上腕関節に負荷が増大したと考えられる。【まとめ】ボクシングのパンチの種類の力学的課題を考え、症例の動作分析を行い力学的負荷を推察し、それを軽減するための運動療法を実施することは重要と考える。
著者
森本 兼曩 丸山 総一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.241-251, 2001-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26

情報化社会, 高齢化社会の到来といった社会経済構造の変革, 疾病構造の変化などにより, われわれのライフスタイルは大きく変わろうとしている.このような現代社会において, 国民の健康意識は高く, 病気になって考えるのではなく, 健康な時期に将来発生するかもしれない疾病に対する一次予防の方法を積極的かつ科学的に考え, さらにQuality of Life(QOL)を高める具体的方策を追求していくことが, 緊急かつ重要な課題となっている.こうした問題に対するアプローチとして, われわれが必要と考えているのはストレスに強いライフスタイル, より健康的なライフスタイルへの変容に個々人が自主的, 自発的に取り組むことである.喫煙, 飲酒, 運動などのライフスタイルが, 心身の健康と関連性のあることをこれまでに報告してきた.われわれは, 勤労者, 地域住民, 高齢者, 阪神・淡路大震災被災者を対象に, 一般的健康質問票, 健診データ, 染色体変異, NK細胞活性, IgE, コルチゾールなどを調べた.われわれは, これまでの研究やBreslowの報告に基づき, 8つの健康習慣として, (1)喫煙しない, (2)適量飲酒, (3)定期的な運動, (4)7〜8時間の睡眠, (5)栄養バランスを考える, (6)労働時間10時間未満, (7)毎日朝食を食べる, (8)ストレスを適正に保つ, を抽出した.同時に, この8つの健康習慣をいくつ守るかによって健康習慣指数(HPI)を算出した.2, 148人の勤労者における6年間の追跡調査の結果からは, 不健康なライフスタイルの人は, 慢性疾患の発症の割合が有意に高いことを示した.一方, 癌免疫力の指標の一つであるNK細胞活性は, 良好なライフスタイルの人で有意に高いことも明らかにした.遺伝的健康度は, リンパ球染色体変異の頻度(姉妹染色分体;SCE, 小核;MN)で測定した.その結果, 良好なライフスタイルを多くもつ人ほど, 染色体変異の頻度が有意に低かった.また, 不健康なライフスタイルの人で異常にIgEが高くなっていることも明らかにした.震災の被災者を対象にした調査では, 不良なライフスタイルの人ほど, また心的外傷後ストレス傷害(PTSD)傾向の強い人ほど, NK細胞活性が有意に低く, コルチゾールは有意に高くなっていることを示した.勤労者や高齢者のデータからは, 良いライフスタイルの人やヒューマンサポートの多い人ほど, 高い職場ストレスや身体的健康状態が良くないにもかかわらず, 高いQOLを示していたことを報告した.以上の結果から, われわれがライフスタイルをより健康的なものに変容させようとするのも, 個々人のいわば短い生涯のうちで, なるたけ大きな自己実現に向けての活動が, 健康であればあるほど容易になるからである.そのような意味からは, より健康的なライフスタイルは, 将来のさまざまな健康破綻への負荷に対する防御力, 耐性力, 抵抗力を示す資料でもある.
著者
前田 正信 羽野 卓三
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.71-76, 2013-04-25 (Released:2015-07-06)
参考文献数
11
被引用文献数
2

背景 : 本研究の目的は,医学部学生の生理学筆記試験の成績がどのように変化しているかを調べ,試験の成績が入学定員増とどのような関係であるか明らかにし,入学定員増後の医学部学生の試験の成績よりみた学力低下が実際に生じている根拠を与えることである.方法 : 医学部の入学定員増以前の学年,定員増以後の学年の生理学筆記試験の成績の平均値,標準偏差,平均値+標準偏差,平均値–標準偏差,学生数,不合格者数,学生数に対する不合格者の割合を調べた.結果 : 医学部学生の試験の成績は入学定員増以後に有意に低下していることが明らかとなった.考察 : 医学部学生の試験の成績よりみた学力低下は入学定員増が関与していると考えられる.
著者
松尾 信之介 藤井 宏明 苅山 靖 大山 卞 圭悟
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
pp.1106020186, (Released:2011-06-07)
参考文献数
21
被引用文献数
4

Changes in the activity of hip adductor muscles with increased running speed were investigated in 4 male sprinters (personal best for 100 m: 10.58±0.26 s). The subjects were instructed to run at three different speeds (3 4 m/s, 6 8 m/s and 9 m/s). The surface electromyograms (EMGs) of 10 muscles around the hip joint were recorded, and whole-body motions were also filmed with a high-speed video camera (150 fps). Regardless of running velocity, the adductor longus (AL) showed activity concomitant with the rectus femoris when the hip joint was in extension. This suggested that the AL functioned as a hip flexor. On the other hand, the adductor magnus (AM) showed activity when the hip joint was flexed, suggesting that the AM assisted hip extensors such as the gluteus maximus. During high-speed sprinting, the AL was also activated when the hip joint was flexed. Similarly, the AM also showed activity when the hip joint was extended, corresponding to the latter half of the support phase. During the support phase, the AM may serve to stabilize the frontal plane by co-contracting with hip abductors such as the gluteus medius and tensor fasciae latae. Furthermore, the AL and AM showed increased activity while the hip was fully flexed and extended. This remarkable muscle activity around the flexion-extension reversal point during high-speed sprinting may stabilize the hip joint so that it resists dislocative force through the unique anatomical features of the hip adductor muscles, i.e. “shunt-” rather than “spurt-type” architectural characteristics.
著者
大島 雄治 藤井 範久
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-19, 2017 (Released:2017-06-22)
参考文献数
40

The purpose of this study was (1) to quantify the contribution of the adductors and iliopsoas to the hip joint torque, and (2) to clarify the function of the adductors and iliopsoas for terminal support until early recovery in maximal velocity sprinting. Eight male track and field athletes volunteered for the present study, and sprinted 60 m from a standing start position. Ground reaction force to the right leg was measured using a force platform (1000 Hz) placed at the 50-m mark from the start position. Simultaneously, 3-dimensional coordinates of body landmarks were recorded by a motion capture system (250 Hz) with 20 cameras. The right hip joint torque was calculated using inverse dynamics. To estimate the muscle forces of the right lower limb, we created a musculoskeletal model. The contribution of the muscle forces to the right hip joint force was calculated based on both equations of motion for each segment and equations of constraint conditions for adjacent segments connected by a joint. The main results for terminal support until early recovery were: (1) The adductor muscles generated less torque during hip joint flexion. (2) These muscles were involved in forward acceleration of the leg on the same side. (3) The iliopsoas was involved in the forward swing of the thigh on the same side.  Based on these results, it can be concluded that the hip adductors do not function as hip flexors, but as forward accelerators of the leg on the same side, based on the hip joint adductor torque. In contrast, the iliopsoas does not function as a forward accelerators of the leg on the same side, but delivers forward swing to the thigh on the same side for hip joint flexion torque.
著者
吉田 早織 中村 豊
出版者
東海大学
雑誌
東海大学スポ-ツ医科学雑誌 (ISSN:09153659)
巻号頁・発行日
no.19, pp.69-74, 2007

The purpose of this study is to examine the training effect to the foot by having three-week training period on sand with a bear foot. Footprints were taken before and after the training period. From footprints, the number of toes that was contacting to the ground and the development of medial arch were compared. 53 male college American football players who were not having injury to lower extremities participated in this study. The findings are as follows : 1) There was an increase of the number of toes contact to the ground after the training period. 2) There was a tendency of the development of the medial arch. 3) There was a larger improvement in left foot with both the number of toes contact to the ground and the development of medial arch.
著者
大山 秀子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.630-633, 2008-12-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

「反応速度論」とは,化学反応の速度に関する法則を論じると共に,実験結果を基に異なる反応条件での反応速度の予測,任意の時刻における反応系に存在する各化学物質の濃度の予測,さらにはその反応機構の決定まで可能とする分野である。ここでは,単純な反応系だけでなく,いくつかの反応段階を経る複雑な反応系においても,どのように取り扱うべきかについて,事例を挙げて説明することとする。
著者
名村 章子 西嶋 攝子 朝田 康夫
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.12, pp.1563, 1992 (Released:2014-08-12)

近年(1989年)米国Pennsylvania大学で考案されたFull-hand touch plate法と画像解析装置(Computerized Image Analysis)を用いて,手洗い時間による手表面の除菌効果を比較検討した.流水による手洗い時間を10秒,30秒,1分,3分間とし,手洗い前後に手掌をFull-hand touch plate用の培地に押しあて,37℃,48時間培養後コロニー占有面積を比較検討した.手洗い前を100として手洗い後の除菌率をpercent(%)reductionで表わした.結果は3分,1分,30秒,10秒の順で除菌効果は優れており,それぞれ76.4%,76.0%,65.5%,55.7%であった.手洗い時間10秒では55.7%と除菌効果は低く,1分では76%とかなり有効な結果であった.しかし3分間でも76.4%であり,手洗い時間は1分間もしくはそれ以上が必要と考えられた.また76%以上の除菌効果を得るためには殺菌消毒剤の併用が必要と考えた.

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著者
私学経営研究会 [編]
出版者
法友社
巻号頁・発行日
0000
著者
菊池 誠 岡本 賢吾 岡田 光弘 三好 博之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

現代の数学の哲学には (1) 数学の算術および集合論への還元,(2) 一階論理上での集合論の公理化,(3) 一階論理による証明概念の形式化,(4) チューリング機械による計算可能性の特徴付けという[四つの原理]がある.本研究はこの[四つの原理]と現代の[標準的数学観]の関係,[四つの原理]とそれらの相互の関係をに検討することで,数学の哲学の新たな展開と,計算・推論・情報の概念の哲学的解明を目指すものである.2018年度中には以下の活動を行った.(1) 2018年9月3日から9月6日まで神戸大学六甲台第二キャンパス内工学研究科において「数学基礎論サマースクール(テーマ:証明論,特に算術の無矛盾性証明)」を開催した.(2) 2018年9月18日から20日まで神戸大学瀧川記念会館において「Symposium on Advances in Mathematical Logic 2018(竹内外史追悼シンポジウム)」を会した.(3) 日本科学哲学会2018年度大会においてワークショップ「計算の哲学:推論および物理的現象との関係の再考に向けて」を開催した.(4) 共立数学文献を読む会において講演「幾何学の基礎に関するフレーゲ・ヒルベルト論争について」を菊池誠が行なった.これらの活動の結果として,以下の成果を得た.(1) 竹内の証明論と集合論の哲学の特徴について分析を行い20世紀の数学基礎論についての議論の枠組みの詳細を定めた.(2) フレーゲ以前の論理学,フレーゲ,ヒルベルトの量化と含意についての考え方の共通点と相違点の分析の重要性を明らかにした..(4) 量子論理の基本的な性質についての議論を進めた.(5) 不完全性定理と有限の立場についての分析を行なった.
著者
仁平 千香子
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.9-22, 2018

現代において「豊かな生活」というのは「忙しい生活」を意味することが多い。忙しいことは、労働による収入をもとに、消費活動を通して余暇を楽しむ生活への近道とされるからである。そのような忙しい生活が当然のように正当化される時代に、忙しい主人公を描かないことで有名な村上春樹がなぜこれほど世界的人気を博したのかを考えるのが本稿の目的である。忙しさが当然となった社会の成り立ちを振り返ることで、主人公「僕」たちの時間の過ごし方の特異性が浮き彫りになり、またそこから村上の資本主義社会への視座が伺える。