著者
秋草 俊一郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

今年度も研究活動、具体的には学会報告、論文執筆・発表といった活動を引き続き積極的に行った。研究はナボコフの自作翻訳について調査した。その結果、多くの作品について新たな知見がえられ、研究が大幅に進展した。また、ナボコフの翻訳論については実際にそれを翻訳するなどの作業も行った。一般的に英文学研究のオピニオン誌と見なされる『英文學研究』に二本、ロシア文学研究・スラヴ研究のオピニオン誌と見なされる『ロシア語ロシア文学研究』『スラヴ研究』に一本ずつの論文を掲載しており、双方で研究が質量ともに高い水準であることを示した。また日本ナボコフ協会でも成果として論文を発表するなど、専門家に向けたアピールも忘れなかった。学会発表も、ロシア文学会とナボコフ協会で二度行った。それ以外にも、大小さまざまなワークショップや研究会などで積極的に発表を行った。その際、海外の一流研究者を含むさまざまな研究者と交流し、幅広い意見交換を行った。さらに特筆すべきは、今年度の平成20年9月、博士論文『訳すのは「私」:ウラジーミル・ナボコフにおける自作翻訳の諸相』を完成させたことである。このため、博士課程修了を3年で修了して博士号を授与された。研究テーマが一応の完成を見たといえ、事実上、日本学術振興会に提出した当初の研究計画をほぼとどこおりなく遂行したと言えるだろう。なお、この博士論文と学業成績を対象にして、東京大学総長賞並びに総長大賞が授与された。
著者
嵯峨山 茂樹 小野 順貴 西本 卓也 金子 仁美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

数理モデルに基づいて音楽信号および音楽情報の解析・認識・加工・生成の多角的な研究を行い、多大な成果を生み出した。この中には、多重音の解析のために多重音モデルのパラメータ推定(HTC)に基づく方法、同じくスペクトログラムの非負値行列分解(NMF)に基づく方法、調波音と打楽器音の信号分離(HPSS)、スペクトログラムからの位相成分の復元に基づく楽曲の速度変換やピッチ変換などの高品質な信号加工、ステレオ音楽信号からのパート分離、人声に含まれる揺らぎ成分に基づく歌声の抽出と消去、音楽信号からの和声自動推定、楽曲を構成するリズムの自動学習と小節分割(RhythmMap)、それに基づく楽曲ジャンルやムードの自動分類、多声部音楽信号からのリズム構造推定と自動採譜、上位の音楽理論から下位の信号観測までを統合したDynamic Bayesian Net に基づく音楽モデルと自動採譜、楽譜データからの作曲家自動推定、確率場学習に基づく楽譜からの音楽的な自動演奏、テーマ模倣を含む自動対位法による自動作曲、歌詞の日本語韻律を利用した自動歌唱作曲、以上の研究を支える機能和声データベースの構築など、極めて広い範囲の研究成果を含む。これらは、ジャーナル論文、国際会議論文、解説論文、国内学会発表、自動作曲のwebサービス、メディアによる報道などにより社会に公表している。
著者
中村 光宏
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

調音動作の制御と声道形態の個人差との関係を調査するために、有声歯茎側面接近音 (英語L)の調音動作の空間的・時間的動態を調査・分析した。先行研究では、英語Lは歯茎部との接触状態に基づき、舌尖調音と舌端調音に大別されるが、2種類の調音動作を時間的制御の観点から検討した研究はほとんど無い。更に、2種類の調音動作は独特の舌全体の形状を生成するが、その生成プロセスは十分に理解されていない。本調査分析では、リアルタイムMRIデータベースを使用し、歯茎部における完全閉鎖の形成過程、舌全体の形状の形成過程、舌尖・舌端調音と舌背調音との協調タイミングを観測し、調音動作の構成性の観点から考察した。3つの主要な結果が得られた。①構音時の正中矢状面画像の分析により、10名の被験者のうち8名が舌尖調音、2名が舌端調音であることが分かった。②舌尖調音による完全閉鎖形成過程は3段階に分れる。(a)正中矢状面において舌前方に「くぼみ」が形成され、(b)舌尖が歯茎部方向に伸長して完全閉鎖が実現し、舌全体は凹面状(concave)になる。そして、(c)舌背が咽頭壁方向に後退する。くぼみの形成は、母音化Lにも観察されたが、舌端調音には観察されなかった。舌尖調音に独特のくぼみの形成は、歯茎部に対する舌尖動作の接近角度(orientation angle)調整のための準備動作であるとともに、舌尖調音の開始動作でもあり、完全閉鎖形成時に、凹面の舌形状を生成すると考えられる。③音節頭/l/における協調タイミングは、舌尖・舌端調音が舌背調音に先行するパタンが観測され、音節末/l/では逆のパタンが観察された。この協調タイミングに関する結果は先行研究のものと一致する。このような結果は、調音動作の構成性には個人差が認められることを示唆する一方、それぞれの調音動作と音響的特徴との対応関係を検討する必要性を提示している。
著者
瀬野 裕美
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

感染症の伝染ダイナミクスの基本モデルとして幅広い応用の基礎になっている常微分方程式系による連続時間モデルに対して,確率過程を応用した数理モデリングの手法を用いた新しい非線形差分方程式系による数理モデルを構成し,その数学的な性質の解析を行った。さらに,自然に定義される感染個体の期待再生産数に関する基本的な結果をまとめた。
著者
北村 達也
出版者
甲南大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,発声時や歌唱時の体表面の皮膚振動パターンを計測する方法,さらには発声訓練において皮膚振動を視覚的にフィードバックする方法について検討した.まず,歌唱時の皮膚振動パターンをスキャニング型レーザードップラ振動計により計測した.そして,裏声と地声により顔面の皮膚振動パターンが異なること,歌声の基本周波数によって前額の皮膚振動のパワーが増加することなどを明らかにした.また,ストロー発声に基づく発声訓練において口唇部の皮膚振動の情報をフィードバックするシステムを開発した.10名を対象にした評価実験の結果,このシステムを利用することによって訓練効果が向上することが示された.
著者
門脇 誠二 西秋 良宏 キリエフ ファルハド マハール リサ ポルティヨ マルタ
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

西アジア北端のコーカサス地方における農業発生のプロセスを明らかにするために、アゼルバイジャン共和国の初期農村遺跡(ギョイテペとハッジ・エラムハンル、約7,500-8,000年前)を発掘調査し、この地域に世界最古の農業が普及したタイミングやプロセスについて研究を行った。具体的には、穀物管理に関わる道具(穀物の収穫・加工具)や貯蔵庫の発達過程を調べると共に、初期家畜ヤギの骨からDNAを増幅し、系統解析を行った。その結果、南コーカサスへの農業普及は約8,000年前に急速に始まり、農業先進地であるメソポタミア(肥沃な三日月地帯)の北部から穀物管理具の影響や家畜ヤギの運搬が生じていた可能性を指摘した。
著者
深瀬 浩一 真鍋 良幸
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

3糖構造α-Galエピトープは,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトはこの糖鎖構造を持たない.その代わりに,ヒトは大量の抗Gal抗体を持つ.本研究では,化学合成したα-Galエピトープとがん抗体を複合化させることで,がん細胞を特異的にα-Gal標識し,超急性拒絶反応を引き起こすことにより,がん細胞を排除する全く新しいがん免疫療法の開発を目指した.まず,α-Galの効率的な化学合成を行った.さらに,合成したα-Galをリンパ腫細胞に発現するCD20に対する抗体と複合化し,全く新しい抗体薬物複合体の調製に成功した.また,α-Galのアジュバント(抗原性補強剤)としての利用も検討した.
著者
岡田 康志 松岡 里実 石島 秋彦 伊藤 創祐 川口 喬吾 池崎 圭吾 澤井 哲 佐々 真一 神原 丈敏 榎 佐和子 竹内 一将 猪股 秀彦 沙川 貴大 青木 一洋 小林 徹也 中島 昭彦 福岡 創
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本領域は、生命現象を分子レベルから定量的に計測する技術の発展と、非平衡系の統計力学・情報熱力学理論の深化を背景とした、両者の融合領域である。生命現象の理解という具体的な課題に対して「情報を力、エネルギーと同列に物理的対象として議論する新しい物理学」を構築することで、生物学と物理学の間の新たな学際領域を開拓する。この目的を達成するために、本総括班は、領域内での生物系の実験研究と物理系の理論研究の学際融合研究を推進する
著者
岩本 美砂子
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究にあたり、比較研究の基礎となる日本の現状の先行研究が無に等しいことに直面した。そこで日本における女性の政治的リクルートの歴史と現状を把握するべく、女性国会議員およびOGへの面接調査と政党の機関誌紙の調査を行った。1980年代後半の「マドンナ・ブーム」に関して、社会党の従来の労組兼務議員のリクルートが困難になったことから、女性候補が注目された点を解明した。しかし党内で女性候補抜擢が組織的になったのではなく、マスメディアによる「土井ブーム」という風が女性候補を後押ししたのだった。が、このブームは、「女性にとって政治は遠い」という既成概念を崩し、その後の女性候補の進出に資した。また同時期、共産党・公明党も女性候補抜擢に着手していた。さらに、1999年4月の統一地方選挙を中心に、女性の進出の背景について全国調査を行った。全国レベルで、無党派を中心とした「女性を議会へ送る」市民活動が活発化している。「ネット」運動も女性議員を増やしている。既成政党については、特に公明・共産両党が女性候補擁立に熱心であるが、党内部での候補者選抜過程は外部からは捉えがたい。アメリカの選挙は候補者中心であり、政党は女性候補に対して特別の後援を行っていないが、かつてのように女性の立候補(予備選挙における選抜)を妨害することはなくなった。英国では若い女性票が政権の帰趨を制するという見通しの元、労働党が候補者選抜過程で女性比率を維持する仕組みを制度化した。ドイツでは緑の党による候補の女性を半数にする動きが、社民党を刺激し、後者の40%が女性というクウォータを実現させた。フランスでは厚い現職の壁に対して、新設の欧州議会や地域圏議会に女性が進出しており、社会党が熱心に女性候補を選抜している。2000年制定のパリテ法(男女衡平法)により、2001年統一地方選挙にむけ、各党が女性候補発掘に追われている。
著者
下出 敦夫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

昨年度は重力のゲージ場である多脚場と場の強さである捩率の時間成分を用いて熱輸送の理論を確立したが,今年度はそれらの空間成分を用いて運動量輸送の理論を確立した.まず捩率の空間成分の電場が回転の角速度と歪み速度テンソルを記述することを示し,軌道角運動量と粘性がそれぞれ電気分極と電気伝導度の運動量版であることを見出した.特にゲージ原理の観点からは角速度が磁場ではなく捩率の電場であるということは重要な指摘である.昨年度までに確立した曲がった時空におけるKeldysh形式を用いてそれらを定式化し,波数空間における簡単な公式であるBerry位相公式を導出した.Cooper対が軌道角運動量をもつ2次元または3次元カイラル超伝導体に対してこの公式を応用し,既存の普遍的な結果を再現するとともにHall粘度の温度依存性を得た.この研究は理化学研究所およびCEA Saclayの木村太郎氏との共同研究であり,Physical Review Bに出版されている.さらにCooper対自身は軌道角運動量をもたないトポロジカル超伝導体に対しても軌道角運動量のBerry位相公式を応用し,2次元カイラル超伝導体とは異なる,Rashba型のスピン軌道相互作用に依存した非普遍的な結果を得た.これにより,既に知られているトポロジカル超伝導体の非普遍的な不純物効果を定性的に説明することができた.この研究は日本原子力研究開発機構の永井佑紀氏との共同研究であり,Physical Review Bに投稿中である.
著者
宮崎 謙一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本,中国,ポーランド,ドイツ,アメリカの音楽専攻大学生を対象にして,絶対音感と相対音感のテストを行った。参加者は,絶対音感テストでは5オクターブにわたって提示された60音の個々の音の音高名を答えた。相対音感テストでは,調性を確定する2つの和音に続いて提示された2つのピアノ音の音程名,または最後の音の階名を答えた。日本の参加者は,絶対音感テストのスコアは優れていたが,相対音感テストのスコアは低かった。対照的にヨーロッパとアメリカの参加者では,絶対音感を持つものはほとんどいなかったが,相対音感テストでは高いスコアを上げるものが多かった。この結果は,日本における音楽教育の問題を示唆する。
著者
沖 英次 園田 英人 佐伯 浩司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

申請者らの研究グループはこれまでに、イヌの嗅覚応答を用いる(がん探知犬)ことで、大腸がんを感度・精度ともに高く診断可能であることを見出してきた。このように非侵襲にて採取可能な生体サンプルを用いた高感度・高精度ながん早期発見技術の確立は、まさに患者に優しいがん診断法となる。我々は、がんの匂いを利用して尿1滴でのがん検査を可能としがん検診の受診率と正診率の向上、健康寿命の増進に貢献し穏やかで健やかな社会の形成に資する。がんの発生は複数のがん関連遺伝子の変化に起因することが知られている。尿中代謝物によるがん細胞の発生の検知は、当該代謝物による遺伝子変異の検知の可能性を示していると考えられる。したがって私達は、尿代謝物でのがん遺伝子変異の特定の可能性を探ってきた。バイオマーカーとしての安定性と存在量を考慮して、中程度~難揮発性成分に着目し、乳がん細胞(MCF-7)培養液から直接カラム回収することで、中~難揮発性成分を網羅的に回収し、特定の中鎖不飽和脂肪酸群が乳がん細胞に特徴的な難揮発性代謝物であることを世界で初めて見出している(特願2018-53010、論文投稿準備中)。具体的には、乳がん細胞株MCF-7培養液中より、正常線維芽細胞株KMST-6培養液中にはほとんど存在しない特徴的な2種の低揮発性化合物(がん細胞特異的脂肪酸代謝中間物である中鎖不飽和脂肪酸類)をGC-MS分析により同定した。今後はこれを利用した癌の早期発見システムの開発が可能であるのか検討する。
著者
千艘 秋男
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、室町時代前半における飛鳥井雅世の動静および和歌を中心とした文芸活動を総合的に研究するための基礎的な文献資料を整理することである。今回の研究対象は、雅世の人物像の考察と和歌資料の整理とに絞った。本研究の期間は、平成13・14年度の二年間である。平成13年度は、雅世の年譜考証の基礎資料を整備するために、南北朝・室町前期の『吉田家日次記』『教言卿記』『満済准后日記』などの日記、内裏や仙洞御所で開催された歌会の記録類を調査した。雅世の和歌作品と、公家や武家との交際、官界・歌壇での動静に関する記事とに注目し、その資料を収集・整理をして、先覚が作成した基礎文献の補足と訂正とを試みた。その結果、平成13年度の成果として、雅世の1〜25歳までの動静を対象とした記録類を収集し、考証を試みて「飛鳥井雅世年譜稿(一)」を作成することができた。平成14年度は、主に次の二つの作業に従事した。一つは、13年度の継続作業である雅縁・雅世父子の年譜考証のための基礎資料の整理である。もう一つは、家集「雅世集」と定数歌を整理し、『宋雅集』『飛鳥井雅世歌集』『雅世卿集』『飛鳥井雅世集』『入道大納言雅世卿百首』などの本文整理を行った。特に、『雅世卿集』『飛鳥井雅世集』『入道大納言雅世卿百首』の三作品は底本を決定し、それぞれ他本との校合を行い、校本を作成した。これらは、将来『飛鳥井雅世全集 本文篇』(仮称)に、雅世の詠歌(歌集)の一部として収める予定である。また、平成13・14年度の二年間に、雅縁並びに雅世の自筆および他筆懐紙・短冊・詠草、関連資料を収集することができた。これらの資料は、将来『飛鳥井雅世全集 資料篇』(仮称)に、可能な範囲で図版掲載の予定である。
著者
北 一郎 西島 壮
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

運動は脳の機能構造的変化を引き起こし、うつ病や不安障害などのストレス関連精神疾患の発症予防に貢献することが示唆されている。しかし、その脳内神経機構や有効な運動条件については依然として解明されていない。本研究では、運動の抗うつ・抗不安作用、関連脳部位に及ぼす影響及び有効な運動条件について明らかにしようとした。本研究の結果から、運動による抗うつ・抗不安作用の神経機序として、セロトニン神経系の活性化、HPA軸(CRF神経)活性の正常化、海馬神経新生の増加が考えられ、これらの脳神経系は適切な運動条件を設定することで、より効果的に変化し、抗うつ・抗不安作用をもたらすことが示唆された。
著者
山川 隼平
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

棘皮動物は左右相称の祖先から五放射相称の体制を獲得した。進化過程を通し棘皮動物はなぜ他でもなく五放射相称の体制を獲得したのだろうか。本研究ではヒトデにおける五放射の発生機構を明らかにし、その獲得プロセスの分子基盤の解明を目指す。ヒトデは変態期に入ると幼生体内に五放射相称の成体原基を形成する。これまでに成体原基のパターン形成への関与が示唆される候補因子を幾つか絞り込んだ。そこで、今後はゲノム編集技術の導入等により以上の因子の五放射形成への関与を検証する。
著者
友竹 浩之
出版者
飯田女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、蚕サナギの栄養価、生理活性成分および糖質分解酵素阻害活性について調べた。蚕サナギ粉末の熱水抽出物はアンギオテンシン変換酵素、糖質分解酵素、そしてラットの血糖上昇を阻害した。また、蚕サナギ粉末のリン酸緩衝液抽出物は、DPPHラジカル補足活性を示した。さらに、蚕サナギ粉末のメタノール抽出物は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を示した。これらの結果により、蚕サナギは糖質分解酵素阻害作用およびその他の生理活性を有する新規素材となることが示唆された。
著者
森川 茂 朴 ウンシル
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)は、フェニュイウイルス科フレボウイルス属に分類されるマダニ媒介性のSFTSウイルス(SFTSV)による急性ウイルス感染症で、高熱、血小板減少、白血球減少、肝機能低下、出血、多臓器不全などを主徴とする。SFTSの致死率はヒトで約17%、ネコで約50%と極めて高い。ネコのSFTSには有効な特異的治療法もなく、獣医医療従事者や飼育者が発症動物から感染して発症した例も報告されている。One Health及び人獣共通感染症の観点からネコ及びヒトのSFTSの予防に寄与する。本研究ではネコに有効なSFTSワクチンを開発する。
著者
久岡 朋子 森川 吉博 北村 俊雄 小森 忠祐
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自閉症リスク遺伝子として知られているKirrel3遺伝子の欠損マウスを作成し、その行動解析を行った結果、自閉症様の行動に加えて、多動(ADHD様行動)を伴うことを見いだした。さらにKirrel3欠損マウスにおいて、小脳や副嗅球のシナプス部の構造異常を見いだした。これらの結果から、Kirrel3遺伝子欠損による小脳や嗅覚神経回路・シナプス回路の形成異常は、ADHDを伴う自閉症様行動の発現に関与している可能性が考えられた。ADHDを伴う治療抵抗性の自閉症患者で異常となる脳領域・神経回路に関しては不明であり、本研究結果はADHDを伴う自閉症の病態解明につながる重要な知見を提供すると考えられる。