著者
中井 俊樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大学教員の教育と研究の葛藤はどの国においても大きな課題である。イギリスの高等教育アカデミー、アメリカの学生研究体験協議会などにおける研究と議論を中心に分析した結果、教育と研究の関連性を高めるための方策を明らかにすることができた。特に教育と研究の関連性を高める有効な形態の一つとして、学生の研究体験(Undergraduate Research)が注目されており、日本の大学のカリキュラム、教授法、FDの内容にどのように反映することができるのかについて示唆が得られた。
著者
鳴海 一成 黒木 良太 由良 敬
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランス由来のDNA修復促進タンパク質PprAについて、1.35Åの分解能での結晶構造解析に成功し、DNA結合に重要なアミノ酸残基の空間配置を明らかにした。また、PprAタンパク質の放射線誘導に関わる新規制御タンパク質PprMを同定し、その作用機序を明らかにした。さらに、デイノコッカス属細菌で使用できる新規プラスミドベクターを開発した。
著者
八木 淳子 桝屋 二郎 福地 成 松浦 直己
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

東日本大震災から8年余りが経過するが、現在でも、特に激甚被災地において、さまざまな被災の影響が残存する。我々は震災後の1年間に岩手・宮城・福島の沿岸被災地で誕生した子どもたちを対象に、子どもの発達やメンタルヘルス、社会適応について包括的に把握し、ハイリスクな状態にある子どもたちに多層的かつ専門的な支援を実施してきた。 調査開始初年度には、子どもの認知発達と母親のメンタルヘルスに関する深刻な状況が窺知されたが、ベースライン調査から3年が経過し、特に子ども達の発達・行動面で良好な改善が認められる。本研究チームは、これまでの基盤の上に今後9年間、追跡調査と多面的支援を実施していく予定である。
著者
田辺 由幸 中山 貢一
出版者
岩手医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

培養細胞レベルでは、周期的ストレッチ刺激により脂肪細胞の分化が抑制されるとともに、成熟脂肪細胞では幾つかのサイトカインの発現が一過的に誘導される。更に個体レベルの実験として、マウス腹部への局所バイブレーションの効果を調べた。高脂肪食を負荷したddY系雄性マウスを、無麻酔での30分間の物理的拘束に馴化したのち、片側の精巣周囲脂肪の真上の腹部に、皮膚の上から100Hz、30分間の振動刺激を1日2回与えた(n=16)。経過期間の体重と摂餌量の推移、16日後に摘出した各種脂肪組織重量/体重比、血中グルコース濃度には差が見られなかったが、バイブレーション負荷群では血漿中トリグリセリド(TG)濃度は僅かに低下する傾向があり、血漿中遊離脂肪酸(NEFA)濃度は有意に低値を示した。更に、振動刺激直下の精巣周囲脂肪組織では、刺激と反対側の脂肪組織に比べてTG/タンパク質比、ならびにPPAR-γ_2やSREBP-IcのmRNAレベルが有意に低下していた。同組織ではレプチンの発現も低下し、これに伴い血漿中レプチン濃度も低下傾向を示した。これらのことから、中・長期にわたる局所バイブレーション刺激を受けることにより、幾つかの遺伝子発現が抑制され、脂質代謝や一部のアディポサイトカインの発現分泌低下にまでつながる脂肪細胞の機能変化が生じることが示唆された。この際、刺激側の脂肪組織では、IL-6やIL-1βのmRNAレベルが増大する傾向にあり、軽度の前炎症性変化が生じていると考えられた。本研究から、局所バイブレーション刺激は体重減少につながる脂肪組織の減少効果はもたらさないが、刺激部位直下の脂肪組織の中・長期的な遺伝子発現および代謝内分泌機能の変化を介して、肥満に付随する高レプチン血症などが改善される可能性が示唆された。前炎症性反応の意義や功罪については今後の課題として更に検討を進める。
著者
小室 靖明
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究の背景筋小胞体カルシウムポンプはP型のATP加水分解酵素であり,筋小胞体膜中に存在する膜タンパク質である.1個のATPを加水分解し,2個のCa2+を細胞質から小胞体内腔へ1万倍の濃度勾配に逆らって能動輸送する.これまでX線結晶構造解析によって輸送サイクルの反応中間体の立体構造が決定され,カルシウムポンプは大規模な構造変化によってイオン輸送を実現していることが示唆された.本研究では,分子動力学(MD)計算によって生体環境中のカルシウムポンプの熱運動を解析した.多リン酸分子力場の改良脂質二重膜に埋め込まれたATPとADPそれぞれの結合状態の筋小胞体カルシウムポンプの全原子MD計算を実行した.本研究では,多リン酸分子の力場パラメタをより高精度に改良した.改良された力場パラメタをATP結合状態のカルシウムポンプだけでなく,他のATP結合タンパク質のMD計算に適用して検証を行った.カルシウムポンプの場合では,従来の力場を用いるとATPの構造が大きく崩れてしまう結果に対し,改良された力場ではATPの構造は安定に保持した.他の4種類のATP結合タンパク質を用いた場合でも同様な結果が得られた.また,ATPの取り得るコンフォメーションの多様性の比較のため,改良した力場とオリジナルの力場を用いて溶液中ATPのレプリカ交換MD計算を行った.従来の力場を用いた場合ではATPの三リン酸部分が伸びきった構造のみ出現したが,改良された力場ではこの構造も含むより広範囲なコンフォメーションを実現していた.改良された力場で得られた三リン酸構造の分布は,PDBに収容されているタンパク質に結合したATPの構造との重なり合いが見られた.改良した力場は生体分子のダイナミクスの研究に適しており,カルシウムポンプや一般のタンパク質のMD計算におけるATPの熱運動の解析に有用であることを示した.
著者
辻本 和子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

〔目的】エビデンスに基づいた感染防御の基礎データを得ることを目的に、小学生が日常環境で触れる材料に付着したウイルスがどのくらいの時間感染性を保っているかを調べた。【材料と方法】ウイルスには単純ヘルペスウイルス1型(HSV)、インフルエンザA型Aichi株(IAV)、ポリオウイルスセービンワクチン株(PV)を用いた。適当量を分取した材料にウイルス液2μlを置いて汚染し、経時的にウイルス希釈液を加えた試験管に汚染材料を移し、回収される感染性ウイルス量を定量した。【結果と考察】1、檜(机)や砂(運動場)ではウイルス液が汚染直後に吸収された、檜は汚染5分後に全ウイルス種で感染性が失われたが、砂は15分間有意に感染性が保たれた。2、ペットボトル、ゴム、ランドセル、など撥水性素材では15分から20分間は汚染直後と変わらない感染性が全ウイルス種で見られた。3、ステンレスではウイルス種によって挙動が異なったが5分から10分程度で感染性が低下した。4、種々の布地では汚染すぐにウイルス液を吸収するものは感染性維持も短かったが、撥水性では長かった。5、IAVで共存タンパク質の影響をランドセルを用いて調べた。0.5%BSAを加えてもウイルスの感染性に差はなかった。以上の結果は、ウイルス液の乾燥を早める材料では感染性維持の時間が短く、撥水性で液が残る材料では感染性維持が長い事を示す。ステンレスでは液が残っても金属による不活化の関係か感染性維持は比較的短い。液を乾燥させやすい素材か否かは、集団環境での接触感染経路になりやすいか否かに関連すると言える。感染性維持が15分以上の材料が多種あるが、通常ヒトがくしゃみをした後や感染者が触れた材料を15分間も気に留める人はいない事は留意点であると言える。【今後の課題】定量的に検出する方法が確立され結果も得られ始めており、材料の範囲を広げ消毒法など更に応用へ繋げたい。
著者
熊ノ郷 直人
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

区分的定数経路による時間分割近似法を用いて、相空間Feynman経路積分が数学的に厳密な意味を持つ2つの一般的な汎関数のクラスを与えた。各々のクラスは和、積、平行移動、線形変換、汎関数微分に関して閉じている。さらに、使用する際に注意が必要であるが、その相空間経路積分において、積分や極限との順序交換、平行移動や直交変換における自然な性質、汎関数に関する部分積分、Hamilton型の準古典近似を証明した。
著者
平田 正吾 奥住 秀之 国分 充
出版者
茨城キリスト教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

自閉症スペクトラム障害(ASD)児における不器用すなわち運動スキル障害の特徴について、国際的によく知られた運動アセスメントであるMABC2を用いて評価すると共に、その成績の個人差に関わる要因について探索的に検討した。重篤な知的障害のないASD児を対象とした一連の測定の結果、ASD児における運動スキル障害の個人差は、彼らの自閉症特性や内部モデルの機能水準などと関連することが明らかとなった。また、ASD児の運動課題遂行の様相を分析したところ、運動要素間の移行がスムーズでない可能性が示唆された。更に年齢縦断的に見ると、ASD児におけるMABC2の低成績は改善する場合もあることが明らかとなった。
著者
大沢 真理
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は日本に視座を置き、ドイツとの対比に焦点を当てて、危機・災害とレジリエンスの比較ジェンダー分析をおこなうものである。生活保障システムにおいて類似点が多い日独両国が、金融経済危機を契機に、異なる軌道をたどるようになったという仮説を設けており、社会的投資戦略を軸とすることによって、両国の分岐を定量的に明らかにすることができた。そうした成果を、国際学会での招待報告や国際会議での基調講演、日本学術会議第177回総会特別講演等を通じて発信し、有益なコメントを得て研究を深めた。国際学会・会議での報告は、①韓日経済政策研究フォーラムにおける招待報告「“誰もが活躍する”ための課題」(9月);②世界社会科学フォーラムのパラレル分科会CS7-01 における“Poverty Reduction is a Vital Way of ‘Investment in Society’”(9月);③ドイツ日本研究所ワークショップにおける招待報告“Issues for ‘Society5.0’, Poverty Reduction is a Vital Way of ‘Investment in Society’”;④千葉大学「未来型公正社会研究」第5回国際シンポジウム「グローバルな福祉社会の構想力―東アジアの介護・ジェンダー・移民―」における基調講演「社会政策の逆機能とジェンダー:少子高齢化は「国難」か」(12月)など。本研究ではまた、2018年2月に都道府県・市区町村を対象として「2017年度女性・地域住民から見た防災・災害リスク削減策に関するアンケート調査」を実施した。2018年度はその結果の分析を進め、2019年2月1日に第30回東京大学社会科学研究所シンポジウムとして結果等の報告を行った。同シンポの要旨とアンケート調査結果を編集し、社会科学研究所研究シリーズ66号として刊行した。
著者
矢嶌 裕義 高梨 知揚 高山 美歩 高倉 伸有
出版者
東京有明医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

当該研究は、術者及び患者をマスクした状態(ダブルブラインド下)で、非特異的腰痛に対する鍼治療の効果を観察することを最大の目的としている。この研究で用いる最も重要なダブルブラインド鍼について現時点では、これまでに開発してきたダブルブラインド鍼を臨床研究に使用しつつ、製品として安定的に供給できるダブルブラインド鍼の開発を目指している。この鍼は、通常の鍼(刺さる鍼)と皮膚に圧迫を与える鍼(刺さらない鍼)、これらの鍼を支える内鍼管、この鍼管内には術者に生じる刺入感覚を相殺する為のシリコン、これら全てを支える台座、及び鍼を叩き入れる際に用いる外鍼管で構成されている。これまでにこれらの各パーツの製作が終了し、臨床研究で使用可能とはなったものの、研究中に何本かの鍼においては、刺入操作時に鍼が進まなくなり刺鍼できなくなってしまう事態に見舞われる事が確認された。しかしながら、現在はこれらパーツを使用しながら臨床研究は進めているものの、こうした欠点が見つかっていることから、シリコンと内鍼管については、スムースな刺入を目指し現在も試作を繰り返している状況である。また平成30年度は、本学においての臨床研究が附属の鍼灸センターでなされるのが初めてであったこと、附属のクリニックとの共同の臨床研究も実施されたことがなかったことなどから、研究に参加していただく患者様に生じる金銭的および時間的なご負担を軽減するための方法についてクリニックや本学事務局と協議し、よりスムースな臨床研究の実施が可能となるルール作りを行った。そのため研究開始の時期が当初の予定よりも遅れたものの、事務局の協力のもと、現在20名の非特異的腰痛患者に対する研究を実施することができた。
著者
勝田 忠広
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

初年度は大きく二つの研究を行った。1) まず日本の安全目標の概要と課題を明らかにし、将来の原子力発電利用のあり方について調査を行った結果、以下の成果が得られた。i. 現行の安全目標は福島事故の実績から求められているが、その意思決定プロセスは不明瞭で、またそれが十分であるか分析は行われていない。ii.リスクと交換関係にあるはずの原子力発電の価値は不在で、かつ社会的価値観の向上により、単純な原子力利用ありきの安全目標の存在は困難となっている。iii. そのためにも対話は重要だが、その動きは原子力規制委員会や事業者にはみられない。2) 続いて福島事故対応の現状と課題を調査した。「安全性」を議論する上では、実際的な政府の対応能力の有無が国民にとっては重要な指標となる。その結果、以下の成果が得られた。i. 福島県の避難区域から解除された富岡町での放射能現地測定の結果、いまだ住民が懸念する程度の多くのセシウムが除染終了場所から検出されることが明らかとなった。ii.文献調査等から、3号内の使用済み燃料取り出し等がはじまった一方で作業者2名のがんが福島事故の作業が原因であると認定され、また2年ぶりに避難区域の一部がまた解除されたが解除区域に帰還する住民は少ないなど、国民の政府に対する不信感をあおるような状況が続いていることが明らかとなった。3) 福島事故後の安全性向上の取り組みの一つである新検査制度について調査を行った。i. 有識者として原子力規制庁の会議に参加し、規制の取り組みについて意見を述べると同時に、規制者や非規制者の現状の取り組みや課題について整理を行った。ii. 九州電力川内原発の新検査制度の取り組み状況を視察し、その現状と課題について調査を行った。
著者
池田 奈由 西 信雄
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

国民健康・栄養調査の協力率は長期的に低下傾向にあり、国民全体の特徴を適切に反映した統計データが得られていない可能性があることから、非協力者バイアスとその修正方法について検討した。その結果、世帯属性等により世帯別の協力状況に差があるとともに、人口当たり協力率は低下傾向で、性・調査票別に差があることが示された。また、喫煙率の非協力者バイアスは限定的である可能性が示された。さらに、多重代入法を用いて、喫煙状況別の上半身肥満率の非協力者バイアスを修正できる可能性が示された。以上の結果を参考に、少なくとも現状の協力率を維持し、統計手法の活用により非協力者バイアスを最小限に止める方策を検討する必要がある。
著者
今村 律子
出版者
和歌山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

同一素材肌着を夜間睡眠時に4週間着用することによって、皮脂腺活動に違いが認められるかについて検討した。供試肌着は、綿およびポリエステルフライスの長袖・長ズボンの肌着とした。研究協力者は、健康な男子大学生17名であり、綿肌着着用者(C群)9名、ポリエステル肌着着用者(PET群)は8名であった。実験実施時期は10〜11月とし、4週間の実験前後に研究協力者の背中肩甲骨上部から皮脂をカップ法によって有機溶媒を用いて採取した。皮脂成分の分析には、薄層クロマトグラフ法を用い、スクワレン(SQ)、トリグリセリド(TG)、ワックスエステル(WE)、遊離脂肪酸(FFA)コレステロールエステル(CE)、コレステロール(Cho)、セラミド(Cer)の7種類に分離するよう展開した。展開後の薄層プレートは、デンシトメーターによって各波長ピークから濃度を算出した。各皮脂成分のうち皮脂腺由来成分であるWEおよびTGは、PET群では8例中7例においてそれぞれの濃度が4週間経過後に低下したが、C群では9例中5例においてその濃度が上昇またはほぼ変化なしという結果であった。SQに関しては、C群もPET群も4週間経過後に低下する例がほとんどであった。以上のことより、肌着の水分特性の差が皮脂活性に何らかの影響を与えることがわかった。皮脂の分泌はホルモンによって調節を受けることは広く知られている。特にアンドロゲンは、脂腺の成長と皮脂の合成を促進するといわれている。一方、ストレスが増すとアンドロゲンの分泌が減少するともいわれている。疎水性のポリエステル肌着を長期間着用することが何らかのストレスとなり、皮脂腺活動が抑制されたと考えられるが、今後ホルモン測定もふまえて検討する必要がある。
著者
福田 早苗 江口 暁子
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

慢性疲労は、ウイルスを含む何らかの外的なストレスを原因として神経内分泌-免疫系の異常が生じその結果として「疲労」という言葉に代表される諸症状により、パフォーマンスの低下が起こっている。疲労を主訴とする代表的な疾患である慢性疲労症候群では脳内グリア細胞の発現異常があり、またその原因に何らかの炎症がかかわっていることは様々な先行研究より明らかとなっている。しかしながら、血中で測定可能なバイオマーカーは同定されていない。本研究では、疲労に特異的なバイオマーカー探索を実施したので報告する。
著者
小幡 圭祐
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本研究は、薩摩藩出身の政治家・大久保利通の国家構想と大久保が長官を務める内務省の制度・政策を解明することで、明治初年に近代国家形成の基礎を構築したとされる「大久保政権」の位置づけを解明し、日本近代史研究に理論的な貢献をすることを目的としている。平成30年度においては、⑤地方三新法を巡る内務省と地方官、⑥明治憲法体制の確立過程についての分析を行うため、⑤については、国立国会図書館憲政資料室・大分県公文書館などが所蔵する、地方三新法の起草や地方勧農政策に関する未刊行史料を、⑥については、国立国会図書館などが所蔵する、井上馨・大久保利通・伊藤博文ら国家建設当事者に関する未刊行史料を網羅的に収集した。分析結果は以下の通りである。⑤地方三新法を巡る内務省と地方官前年度の④で解明した明治10年の中央行政改革は、内務省への地方管轄権一元化を志向した地方行政改革としての性格も併せ持っていたことを明らかにした。その成果は、④の成果とあわせて東北史学会・内務省研究会で発表を行い、雑誌論文を準備中である。また、内務省の改革志向性は、内務省によって任命された地方官の志向性とは必ずしも一致していなかったことを地方勧農政策の事例より展望した。この点については、研究発表・雑誌論文を準備中である。⑥明治憲法体制の確立過程日本において近代国家が明治憲法体制によって確立する過程が、井上馨・大久保利通・伊藤博文ら主要な国家建設当事者の国家構想の相克過程として位置づけられることを、明治4年の廃藩置県前後に行われた制度取調を事例に展望した。分析の成果は、『明治維新史研究』第16号に査読付論文「太政官三院制の成立過程―明治四年の制度取調―」として公表した。
著者
松下 千雅子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1990年代にはカミング・アウトしたレズビアン作家やゲイ作家によって書かれた作品のアンソロジーが多く編纂された。それと平行してキャノンに属する過去の作家たちについても、これまで気づかれなかった同性愛的傾向が文学批評においてクローズアップされるようになった。そして、これらの批評の多くが「クィア・リーディング」と呼ばれた。この手法では、歴史上のゲイ/レズビアンや、これまでストレートだと思われていた人たちの中に隠されたホモエロティックな欲望を可視化することに成功したが、しかし、クィア理論において「クィア」という語に込められた意味を十分に満たしているとは言えない。テクストにある同性愛のコノテーションを見つけ出す読み方は、一見すると解放主義的かもしれない。しかし、実際にはクローゼットの中に隠れている同性愛者を外に引っ張りだしているにすぎず、見つけられた同性愛者は、結局は正常な異性愛/異常な同性愛という不平等な二項対立の図式に回収されていくことになる。そもそも、「クィア」という言葉が批評理論に導入された背景には、異性愛/同性愛の二元論を脱構築するという明確な意図があった。その意図に忠実であろうとするならば、隠れた同性愛を明るみに出すような「アウティング(外に出すこと)」の読みでは、「クィア」という批評概念に基づく読解とは言えないはずである。それゆえ、「アウティング」に頼らないクィア・リーディングの方法論を確立することは急務であった。本研究は、その課題を遂行するために行ったものである。アーネスト・ヘミングウェイとウィラ・キャザーの文学テクストについて、「アウティング」が行われる際、いかなる力関係が介在するのかを、物語論や精神分析を用いて分析した。もし、文学の読みにおいて、テクスト内の登場人物の性的な欲望や行動が描写され、そのことによりホモセクシュアルであると決定されうるとしたら、それはどのようにして可能になるのか。そうした描写は誰に帰属するのか、誰がその描写の意味を解釈するのか、そしてその人物のセクシュアリティを判断する決定権を持つのは誰なのか。本研究では、これらのことを明らかにし、同性愛者がクローゼットの中にいるのか外にいるのかという議論ではなく、クローゼットそのものがどのようにして構築されていくかを明らかにした。それゆえ、本研究では、テクストに込められた性的な意味を、言説の外に存在するものの反映ではなく、あくまでも言説的な経験、すなわち、作者、語り手、読者の間で取り交わされる言語行為として捉えることが可能になった。
著者
植田 信太郎 黒崎 久仁彦 太田 博樹 米田 穣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

2500年前から2000年前にかけて古代中国の人類集団の遺伝的構成が大きく変化したことを示した我々の先の研究成果を発展させるため、黄河中流(中原)の3000年前ならびに3500年前の遺跡から出土した古人骨のDNA分析をおこなった。その結果、(1) 3500年前から3000年前にかけても変化が起きていたこと、(2) 3500年前と現在の人類集団の遺伝的多様性には違いがみられないこと、が明らかになった。
著者
本間 之夫 野宮 明 西松 寛明 藤村 哲也 桝永 浩一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、難治性疾患である間質性膀胱炎の病態に上皮由来の各種伝達物質が如何に関与しているかを解明することにあり、そのために、患者の尿と膀胱組織を用いて伝達物質の測定と遺伝子発現の定量を行い、治療後の変化も検討してきた。また、併せて間質性膀胱炎の動物モデルを作成してその排尿生理学的・分子細胞学的な特徴の評価を行ってきた。臨床症例を用いた研究では、尿中マーカーの測定系の条件設定を検討してきた。尿中のNGFCXCL10,TNFSFの測定の至適条件を適宜調整し、間質性膀胱炎に対する治療前後での評価、自覚症状との相関について検討してきた。結果、症状との有意な相関を認めていないのが現状である。膀胱組織を用いた検討では、サンプルの収集と免疫組織染色を行い、データを検討してきた。その結果、間質性膀胱炎の中でも潰瘍の有無でCD11b陽性細胞、VEGF-Aなどに違いを認め、またSjogren症候群に合併した間質性膀胱炎ではCD4ならびにCD8陽性細胞の増加をみとめ、それぞれ病態解明の鍵となることが期待される。動物モデルを用いた研究では、アクロレインを用いた動物モデルの膀胱粘膜組織におけるTRPM8の発現を検討したが、現時点では投与前後でその発現に差を認めていない。また、ケタミン乱用者における間質性膀胱炎様症状を参考に、ケタミンを用いた動物モデルの作成を試みたが、頻尿や潰瘍形成を認めず、現時点では間質性膀胱炎モデルとは言いがたい。今後も、さらに研究を進め、病態解明を目指していく。
著者
土井 健史 井上 豪 橘 敬祐
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヒストンH3K9を特異的にメチル化するSETDB1について、その酵素機能を制御する分子機構を解析した。(1)SETDB1のモノユビキチン化修飾がH3K9me3活性を介して、遺伝子発現を制御していることを明らかにした。また、その制御機構に関わる因子として、クロマチン制御因子であるTRIM28を同定した。(2)核内のSETDB1がプロテアソーム阻害剤と核外排出阻害剤によって増加し、それに関わる候補因子を見出した。(3)SETDB1-MCAF1のX線結晶構造解析を行うため、蛋白質の精製および結晶化を試みた。本研究で明らかとなった知見は、SETDB1を標的とした新たながんの治療薬の開発につながる。
著者
高柳 敏幸
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

放射線照射によって生成する低いエネルギーを有する2次電子が生体損傷を引き起こすことが指摘されているが、その動力学機構はほとんどわかっていない。本研究課題では、低エネルギー電子による生体分子損傷の反応動力学について、理論的な立場から研究を行った。塩基ペア等への余剰電子の束縛機構を量子化学計算によって明らかにし、さらに分子系の全自由度を量子力学的に取扱う動力学シミュレーションも行った。これにより、損傷ダイナミクスを実時間で追跡できるようになった