- 著者
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服部 英雄
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1995
佐賀平野に残る地名を聞取調査によって網羅的に収集した。佐賀県の小字は明治の地租改正時に数字のくみあわせなどによって新規に採用した新地名である。地元ではこれと異なる俗称として様々な小地名を使っていた。こちらの方が中近世の古文書の記載に合致する歴史的な地名である。佐賀ではこうした地名をしこ名と読んでいる。今回の調査では、多数の調査員の協力により、700の村の古老を訪問し、この俗称・通称として語り伝えられてきた地名の収集を試みた。その結果佐賀平野分で15、000程の地名が収集できたし、それを地図上に落とすことによって後世に記録として残すことができたのである。これらを歴史資料として活用していくことは様々に可能となった。条里の復原には多くの坪地名が活用できる。従来の調査研究が明らかにしていた坪地名(条里制の遺称地名)と比較しても、およそ2〜3倍の坪地名が収集できたので、各群毎に詳細な復原が可能になった。条里の施工単位の微妙なずれなども明らかになった。荘園地名によっては、中世の村の景観が復原できる。つまり用作・正作といった領主直営田を示す地名によっては中世の開発・干拓の様子を知ることができる。アオ潅漑を利用している地域においては、中世文書の記述との組み合わせによって、中世には既にアオに依拠する耕地が多かったことも明らかにできた。近世の村については、たとえば木戸地名・高札(制札)地名・硝煙蔵地名をてがかりに村の景観を考えることができる。このように本研究では、地名を聞き取りによって網羅的に収集することを目的としたが、その当初の目的はかなりの程度達することができ、また歴史地図である地名地図を作成したことにより、後世への記録を残すことができた。と同時に今後のこれらの地名を利用した新しい研究の展開に道をつけることができた。