著者
三ツ矢 幸造
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

ヒトDNAに書き込まれた全遺伝情報は,新聞記事に換算するとおおよそ30年分にも及ぶ。このゲノムDNAは「生命の設計図」とも表現されるが,そもそも親から子へ,親細胞から娘細胞へと伝達される情報は,すべてDNAに書き込まれているわけではない。例えば,卵子には一束のDNA以上のものが含まれている。つまり,クロマチンには「遺伝暗号」あるいは「遺伝子コード」と表現されるいわゆる遺伝情報に加え,膨大なDNA情報が適切に利用されるための第2の暗号が隠されていると考えることもできる。これは,DNAメチル化やヒストンの化学修飾に代表される「エピジェネティックコード」とも呼ばれ,近年になって大変な注目を集めている。本研究課題においては、維持メチル化酵素であるDnmt1に結合能を有する新規のヒストンユビキチン化酵素(XNDs)を欠失したマウスES細胞とノックアウトマウスを樹立し、XND95を特異的に欠失させたES細胞だけでなく,胎生初期に致死に至るノックアウトマウス個体においても大規模な脱メチル化が認められることを明らかにした。また、母親と父親由来の遺伝子が区別されるゲノムインプリンティングが完全に消失することを明らかにした。このように、個別的かつ包括的なDNAメチル化状態とヒストン修飾の解析を精力的に進め、DNAメチル化とヒストン修飾の機能的な役割分担を明らかにすることにより,エピジェネティクスの分子基盤の本質に迫る大変に貴重な知見が得られた。
著者
北御門 学 荒木 利芳
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

海藻葉体細胞壁の構成多糖は、陸上植物のものと異なったものが多く、分解酵素も殆ど知られていない。それ故、海藻葉体のプロトプラスト融合の研究には、海藻多糖分解酵素の開発が不可欠である。本研究は、細菌及び海産動物の消化器官を原料として、これらの分解酵素を得ようとしたものである。まず、非水溶性または水溶性多糖分解細菌の鑑別法について検討し、後者について一つの鋭敏な鑑別法を考案した。つぎに、主として海水環境から集めた細菌分離用試料を、目的とする海藻多糖を唯一の炭素源とする制限平板培地上に塗抹して培養し、形成したコロニ-を釣って多糖分解鑑別用培地に移植した。分解能があると鑑別された細菌は、純粋培養としてから、多糖分解酵素産生力を測定した。このようにして、多糖分解酵素産生力の強い細菌として、菌株Aromonas sp.F-25(β-1,4-マンナン分解細菌)、Vibrio sp.AX-4(β-1,3-キシラン分解細菌)、Vibrio sp.AL-128(アルギン酸分解細菌)、Vibrio sp.AP-2(ポルフィラン及び寒天分解細菌)、Vibrio sp.FU-629(フコイダン分解細菌)を得た。また、サザエ中腸腺アセトン乾粉の水抽出液も種々の海藻多糖の分解酵素を含有していることを明らかにした。最後に、分離細菌の酵素、または分離細菌の酵素とサザエ中腸腺酵素との混合酵素を使用し、多くの緑藻、褐藻、及び紅藻の葉体からプロトプラストを分離した。分離したプロトプラストの一部は、栄養補強海水中に移して培養すると細胞壁を再生し、分裂を開始した。
著者
曽根 泰教 玉村 雅敏 古谷 知之 柳瀬 昇
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、「討論型世論調査」という社会実験を実施することにより、民主主義において解決が難しいとされている「世代を超える問題」(将来世代と現世代との関係をめぐる問題)を解決できるのかについて検討するものである。全国の有権者3,000人を対象とする世論調査を実施し、その回答者のうち、さまざまな世代の男女127名が、2泊3日の討論フォーラムに参加した。参加者は、各3回の小グループ討論と全体会議で議論し、その前後でアンケート調査に回答した。その結果、将来世代の利益をも考慮に入れて問題を十分に把握して議論をし、有意な意見変化を観察することができた。
著者
山本 利和
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

視覚に障害を持つ幼児であっても移動経験が増すことによって空間理解力や移動能力が高まると予想される。つまり、移動に伴う衝突などの危険性をなくし、子ども自身が移動は不愉快なものではないことを解るようになれば、視覚障害児の移動は一層増加し、視覚障害児の定位能力や移動能力が高まると考えられる。そこで、本研究では以上の促進効果をもたらすものとして白杖を使用したい移動訓練を2名の視覚障害児に実施し、移動姿勢や環境情報の捉え方の変化についての事例研究を実施した。被験者1の記録は3歳1ヶ月から5歳0ヶ月までのものであり、被験者2の記録は2歳5ヶ月から3歳8ヶ月までのものであった。なお2名の白杖歩行技術としては幼児を対象としていることからタッチテクニックは用いず、白杖をバンパー代わりに身体の前方に出し床を滑らせる方法(対角線テクニック)を訓練しようとした。また、被験者2にはPusherタイプのプリケーンの使用もさせた。事例から視覚障害児への白杖導入についてのいくつかの示唆を得ることができた。まずプリケーンであるが、被験者2は3歳0ヶ月で白杖を利用できなかった。ところが、同じ日にプリケーンを利用した歩行を容易に行っているため、プリケーンを幼児に積極的に導入する価値は十分にあると思われる。白杖の導入については2名の被験者の結果より3歳を越えないと導入が難しいことがわかった。さらに、白杖を常に体の前方に突き出して歩く対角線テクニックを利用できるのはおよそ4歳半以降であった。階段での白杖使用は4歳台で可能であるが、白杖による階段の終点発見は5歳0ヶ月でも無理であった。
著者
林 隆志 村上 和雄 林 啓子 河合 徳枝
出版者
(財)国際科学振興財団
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

笑いやすい体質作りのためのトレーニング法を開発し、その効果を分子生物学的に検証した。トレーニング後のコミックビデオ鑑賞で脳波・α2帯域成分(生命維持中枢部の活性を反映)が増加する被験者の笑い体験後で発現が変化している遺伝子を抽出しオントロジー解析した結果、発現増加している遺伝子は免疫系に関連し、発現減少している遺伝子は癌に関連する遺伝子であった。また、これらの被験者では、α2帯域成分の増加を認めない被験者と比較して、平常時の同一カテゴリーに属する遺伝子の発現にも差を認めた。
著者
和田 快
出版者
高知大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

第三年度は、第二年度に阪神淡路大震災未成年期被災者を対象に行った生活改善を目的としたリーフレットを用いた介入フィールド実験や、フィリピンのビコール地方において行ったインタビューによる質問紙調査の成果をまとめ、各種学会等で発表後、関連雑誌に投稿した。第一年度の調査結果から、食事や光環境など、生活リズムと環境を整える取組が未成年期被災者の心的外傷度の軽減に効果的である可能性が高いことが考えられた。そこで、第二年度に、生活改善を目的としたリーフレット『「早ね、早起き、朝ごはん」3つのお得―被災者の皆さんへのメッセージ―』を作成し、睡眠日誌と共に阪神淡路大震災未成年期被災者である研究協力者(96名)に配布し、生活改善介入フィールド実験を実施した。その結果、今なおPTSD症状が残る未成年期被災者に対して、リーフレットを用いた介入がPTSD症状の緩和に効果的である可能性が示唆された。(①)また、心的外傷後ストレス障害と睡眠健康、食習慣の関係をより幅広く探る目的で、フィリピンのビコール地方において行ったインタビューによる質問紙調査(2006年11月発生の地滑り災害被災者88名を対象)の結果、被災者のPTSD症状は, 朝食時にタンパク質を多く摂取している程軽度であり, 朝食内容充実によるPTSD症状緩和の可能性を示した。(②)①の成果はNatural Science (Vol. 6, p. 338-p. 350, 2014)に掲載され、②の成果はヨーロッパ時間生物学会議(European Biological Rhythm Society, XIII Congress, 18-22 Aug 2013, Munich, Germany)で発表した。また、本プロジェクトの基礎研究にあたる成果もJournal of Circadian Rhythms (2013,11:4)に掲載された。
著者
江谷 和樹
出版者
上越教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

1研究目的本研究は、小学校音楽科におけるアジア伝統音楽の指導について、インドネシア・バリ、島に伝わる行列形態の打楽器合奏「ガムラン・バラガンジュールgamelan balaganjur」の表演特性に基づく教材開発を試み、児童の音楽行為を省察することを通して、この教材がもつ教材価値を明らかにする教育実践研究である。2研究方法バラガンジュールの表演は、演奏者同士のコミュニケーションを基盤に行われる。演奏が行われる状況の中で、演奏者同士が繰り広げる臨機応変な音楽行為を省察することで、教材としてのバラガンジュールの価値を分析するとともに、小学校音楽科授業における実践の可能性を探る。3研究成果(1)バラガンジュールの音楽構造が、「ギラッgilak」と呼ばれる基本旋律の繰り返しで構成されるため、小学校の児童でも個別の技能差に関わらず比較的容易に演奏に取り組めること。(2)演奏者同士が独自の合図を共有し、場の状況に応じて太鼓奏者が出す即興的な合図をきっかけに、一時停止、身体的パフォーマンスの挿入等、多様な表演ができること。(3)演奏者が特定の楽器に固定されず、一旦全てのパートを口頭伝承で習得するため、個々の奏者が常に音楽の全体像を把握して演奏でき、状況の変化に瞬時に対応することが可能であること。
著者
杉山 あかし 直野 章子 波潟 剛 神原 直幸 森田 均
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、テレビ放送を、個別の番組としてではなく、われわれが生きている環境を形作るものとして捉え、この環境の分析を行うことを目的としている。具体的主題は、「戦争と原爆の記憶」である。わが国では例年、8月前半に満州事変から第二次世界大戦に到る戦争についての特集番組が多く組まれ、人々の戦争観の形成に大きく寄与している。8月前半、1日~15日の地上波アナログの全テレビ放送を録画・内容分析し、現代日本における戦争・原爆に関するメディア・ランドスケープを明らかにする。本年度は、H.19年度、H.20年度に録画記録したデータを分析する作業を行なった。分析結果の一端として数量的分析によって得られた知見を以下に列挙する。(1)登場人物は日本人と推定される者がH.19年で89.7%、H. 20年で81.1%。これに対し連合国(アジア地域を除く)側と推定された者がそれぞれ9.4%、15.9%であった。朝鮮(当時地域名)・中国、その他の日本占領地を含むアジア地域の者はそれぞれ1%以下、2%以下と、ごく少ない。(2)日本人の描かれ方は、H.19年で74.0%、H.20年で52.8%が被害者として描かれており、加害者としての取り上げはそれぞれ8.1%、7.4%であった。(3)日本人が被害者として描かれる比率はかなり大きく変動しているが、これは描写の仕方が変化したためではなく、北京オリンピックの放送編成に対する影響であったと考えられる。ワイドショーはオリンピック一色であり、ドラマについては、この期間、特集的なものはほとんど放送されなかった。結果としてH. 20年に当該戦争を描いた番組は、ほとんどドキュメンタリー形式の番組であり、ドキュメンタリーで比較すれば、H.19年とH.20年で日本人の描かれ方(被害者的/加害者的)に大きな差はなかった。
著者
秦 劼
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究課題は証券市場における投資家の行動と情報のあり方を分析し、株価暴落の仕組みの解明を目指します。本年度は投資家のリスク回避度と市場の情報非対称性を中心に考察を行いました。ひとつは、個人が証券を取引する際に、リスクに対してどのような態度を取っているのかを、実験に通して調べました。証券投資にはさまざまなリスクが伴い、投資家のリスクに対する態度は彼からの投資行動に大きな影響を与えます。特に、株価下落が続くと、個人投資家のリスク回避度が急速に高まり、クラッシュに繋がる可能性があります。そこで、大阪大学および中国の復旦大学の関連分野の学者の協力を得て、リスク回避度に関する実験を2005年3月に中国上海で行い、被験者たちのリスク回避度やそれに影響を与える思われる要因についてデータを収集しました。今年度は実験で採集したデータを翻訳、整理、集計し、リスク回避度に影響を与える諸要因を分析しました。もうひとつは、証券市場の情報のあり方が価格形成と市場の流動性に対する影響を考察したものです。従来の証券価格理論は情報の完全性を前提にしていますが、現実の市場では、情報が非対称であり、取引に通じてさまざまな情報が価格に織り込まれていきます。情報のあり方と価格に反映されていくプロセスは、証券市場での価格形成、流動性、安定性と深くかかわっています。本研究課題は、市場参加者の間に非対称情報が存在する場合の取引モデルを構築しました。均衡における最適注文ルールと価格関数を導き、それを用いて市場の流動性と非対称情報の関係を調べました。さらに非対称情報と株価暴落の関連性について分析しました。上記の研究予想より時間がかかり、2005年度中の公表には間に合わず、2006年度中に学術誌に投稿する予定です。
著者
明石 真言 蜂谷 みさを 朴 相姫 高井 大策 安藤 興一 平間 敏靖
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

放射線による血液中アミラーゼレベルの上昇の機序を明らかにするために、唾液アミラーゼの産生、分ヨ泌機構の変化の2つ分けて検討を進めた。マウス、ラット放射線によりマウス、ラット血液中のアミラーゼ活性は増加し、唾液中では減少した。ヒト唾液腺由来の細胞株では、放射線により活性の上昇が観察されなかった為、マウス耳下腺細胞の初代培養を行った。初代培養細胞内のアミラーゼのレベルを免疫染色法、Western法で調べた。照射により分泌顆粒の数は減少し、細胞のアミラーゼレベルは線量に依存して減少した。一方培養液中には上昇が観察された。この細胞は放射線によりapoptosisは誘導されなかった。マウス、ラットの導管を機械的に結紮したところ、血液中のアミラーゼが上昇した。これらのことより、唾液腺で産生されたアミラーゼが何らかの機序で血液中に逸脱している可能性を示した。ヒトアミラーゼを導管より投与し血液中のアミラーゼ活性を非変性ゲルで泳動、染色したところ、照射マウスでヒトアミラーゼが増加していた。光顕像で照射されたラットの耳下腺を非照射と比べると間質腔が広がり浮腫像を呈し分泌顆粒の減少(縮小化)、また一部の腺房細胞に空胞がみられた。さらに、ラットの静脈よりマーカーを投与し、電子顕微鏡で耳下腺の腺房細胞を観察した。マーカーの分子量に係らず、照射ラットでは細胞間隙を通って腺腔にマーカーが観察されたが非照射ラットでは観察されなかった。また唾液腺導管よりマーカーを投与すると、、照射ラットでは細胞内にも観察された。唾液腺細胞は細胞分裂をあまり行わず、放射線抵抗性であると考えられていることから、放射線による血液中のアミラーゼ活性の上昇は、apoptosisや細胞での産生増加によるのではなく細胞間のtight junction機構が破綻し、細胞間隙に漏出したアミラーゼが血液中に逸脱する可能性が示唆された。
著者
小場瀬 令二 斎尾 直子 吉田 友彦 吉田 友彦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

筑波研究学園都市はTXの開発により、中心地区は再び活性化したが、開発当初のニュータウンの環境的ストックを食いつぶす超高層大規模マンションが乱立する結果となった。他方駅勢圏から遠い超郊外住宅地においてTX効果はない。今後、持続性を保持していくには、住環境の維持を手がける組織の立ち上げが必要であり、そうでないとすでに衰退の段階に突入しており、現状のままであれば持続性はない
著者
大中 忠勝 都築 和代 栃原 裕
出版者
国立公衆衛生院
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究は高齢者において、1)生理・心理機能の変動を指標とした寒冷暴露後の暖房や暑熱暴露後の冷房の快適条件を求める研究と2)生理・心理反応から寝室の快適な温熱条件を求める研究の2つから成り立っている。1)寒冷暴露後の暖房や暑熱暴露後の冷房の快適温度条件63〜73歳の女子高齢者8名(高齢群)と19〜27女子若年者9名(若年群)を対象に、寒冷および暑熱曝露後の快適温度を被検者が快適となるように室温を制御する方法で調査した。高齢者の暑熱および常温暴露後の快適温度条件は若年者と異ならないものの(24〜25℃)、寒冷暴露後では高齢者はやや高い温度を好む傾向にあり、時間経過に伴っても変化が無かった。また、高齢者では快適とする範囲は大きく、温熱環境を正確に把握できない場合も見られた。これらの結果は、高齢者の居住温熱環境の設定、改善には高齢者以外の関与が不可欠である場合があることを示唆するものである。2)生理・心理反応に基づく寝室の快適な温熱条件高齢者の睡眠に及ぼす室温の影響を調べるため、年齢67〜82歳の高齢者20名の睡眠中の体動を冬季(1〜2月)と夏期(7〜8月)において、各被検者の住居で測定した。同事に室温、寝床内温度を測定した。夏季においては、年齢20〜21歳の若年者20名についても同様の測定を行った。睡眠中の体動と室温との関係について検討し、以下の結果を得た。1)測定期間中の室温は冬季8℃、夏季28℃前後であり、両季節ともは睡眠に好適とされる温度範囲外であった。2)寝床内温度は、夏季は室温と正の相関関係にあり、室温よりやや高い値であった。一方、冬季は電気毛布等の使用により、10〜40℃の間の広い範囲に分布していた。3)夏季での体動数は高齢者において若年者より有意に高い値であった。4)高齢者の冬季での体動数は夏季より有意に低い値であった。5)夏季での体動数は室温と有意な正の相関関係にあり、特に高齢者では室温26℃付近で体動数が増加する傾向にあった。一方、若年者では高齢者よりやや高い室温で体動数は増加した。以上より、高齢者では睡眠は快適とされる環境温度域においても、若年者と比較し体動が多く、さらに夏季の睡眠において体動数が増加する環境温度は高齢者で低く、高温環境は高齢者の睡眠により強い影響を与えていることが示唆された。
著者
玉田 芳史 河原 祐馬 木之内 秀彦 戸田 真紀子 木村 幹 岡本 正明 村上 勇介 藤倉 達郎 横山 豪志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

民主主義が政治のグローバル・スタンダードになった今日でも、軍事クーデタは生じうることを複数の事例の比較研究から確認した.1 つには、政治の民主化が進んで、軍があからさまな政治介入を控えるようになっても、軍が政治から完全に撤退することは容易ではないからである.もう1 つには、クーデタに対する国際社会からの歯止めは、軍首脳が国際関係よりも国内事情を優先する場合には、あまり強く機能しないからである.
著者
小松 啓子 岡村 真理子
出版者
福岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、保育所が果たすべき社会的役割が変化するなか、今後保育所(園)は家庭の役割を受け継ぎ、深め、発展させていく必要が求められているという前提にたち、伝統的な食文化を取り入れた保育所(園)給食のあり方について検討した。福岡県の京築地区、筑豊地区、福岡地区、筑後地区で開所している522園の保育者を対象にアンケート調査を実施した。調査内容としては、保育活動のなかで取り組んでいる歳時記行事と園児の関わり、給食のなかに取り入れられている行事食の内容、給食のなかに取り入れられている伝統的な郷土食の内容と園児の関わり、保育活動のなかで菜園活動と園児の関わり、地域のお祭りと保育活動とした。同時に、京築地区および筑豊地区の保育所(園)に通っている6563名のを対象に、伝統的な食文化を子ども達に伝承していくための基礎資料を得るために、基本的生活習慣および食生活習慣の実態調査も実施した。我が国においては、伝統的な食文化は家庭において「おふくろの味」を通して子ども達に伝承されてきたが、これからは、そのような機能を家庭だけにとどまらずに、保育所(園)に持たせることが重要と考えられる。伝統的な郷土食を給食に取り入れることにより、これまで軽視されがちだった地城性や季節感を子ども達が体得できるようになることが期待できる。今回の調査から、保育活動のなかに給食を位置づかせ、子ども達が季節感豊かな伝統的な郷土食に関わる環境作りが、健全な心と身体を培うことに直接的につながっていくことが示唆された。なお、地城の伝統的な食文化は、人が生きてきた長い歴史のなかで、地域の食材活用、季節、行事などを背景に、人と人との関わりを通して心豊かな人間の形成に大きく寄与してきたことを考えると、伝統的な食文化を重視した保育活動は子ども達の「心の教育」に必須と言えよう。
著者
武内 和彦 LASAS Ainius
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

6月までに主な研究プロジェクトを計画したとおり終了させ、Foreign Policy Analysis誌に査読のため論文を提出した。JSPSフェローとしてのこれまでの研究をもとに、近い将来本の執筆を予定しているため、今後も論文の改定を続ける計画である。この本はPalgrave Macmillan出版社より今後3年以内に出版される見込みである。2011年4月から9月の間、自身の理論的興味の補足プロジェクトとして、アメリカ・ルワンダに関する事例研究の最新の学術文献と人々の経歴談の包括的な見直しを完了し、これにより研究論文を仕上げることができた。2011年3月にスイス・ローザンヌ大学で開催された"Emotions in a Globalized World"(「グローバル化した社会における感情」)をテーマとした会議において、論文の初期ドラフトを発表した。この論文は私のアドバイザーであったベセリン・ポポフスキー氏による編集予定著書「国際関係における感情」(仮題)(シカゴ大学出版社刊)の1章として掲載される予定である。自身の研究に関連する2008年のグルジア戦争とオランダ・セルビア関係における2つの論文もEurope-Asia Studies誌とPolitical Psychology誌に査読依頼のため提出し、どちらも改訂依頼を受け、現在必用な訂正と補足的な研究を行っている。これらの改訂は10月末には完了する予定である。7月前半はイスタンブールにて開催されたInternational Society of Political Psychology(国際政治心理学会)の年次会議に出席した。その後行われた政治心理学の基礎と最先端の研究に関する3日間のワークショップ形式の夏季アカデミーにも参加した。この研修では自身の研究技術の強化、そして新しい研究手法を得る機会を与えてくれた。また同様に、将来の学術キャリアに有用な面識を得ることもできた。最後に、2011年9月には国連大学サステイナビリティと平和研究所において、最終発表を行った。発表に引き続いて行われたフォーマルな討論では、討論参加者から主な研究プロジェクトに対して今後の改善となる有益なコメントや提案があった。
著者
多屋 淑子 成田 千恵
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、重症心身障害児(者)の日常生活のアメニテイ向上を衣服により支援し、障害者と介護者のQOL向上を最終目的としている。複数名の重症児(者)と健常者を対象に、非侵襲にて長時間の生体情報モニタリングを行った結果、本研究で対象とした最重度の複合障害を有する重症児においても、サーカディアンリズムや体温調節機能が観察され、刺激による精神性発汗活動を有すること、また低体温の場合にも日常的に発汗活動の可能性が示唆された。本研究による生体モニタリングは、衣服の温熱的快適性の評価、衣服の肌触りや衣服の身体への圧迫感などから生じる不快感を客観的に評価することを目的として行ったが、着心地の評価に加え、日常生活上の種々のストレスの有無を客観的に判定する手段としても有効であることがわかった。また、本研究における長時間の生体情報モニタリングから、重症児(者)では手足末梢部の皮膚温低下が顕著である場合が観察され、温熱的に快適な状況を提供するための手段として、靴下の効果的な着装方法を提案した。重症児(者)の衣服の留め具である面ファスナの接着強さを実現するための方法について検討した。さらに、介護現場の看護師との意見交換を行いながら、寝たきりの重症児(者)に望ましい衣服の試作を行った。以上から、重症児(者)に望ましいデザイン、素材、個人の嗜好等を考慮した衣服を、製作し、重症児(者)をモデルとしてファッションショー形式で提案した。
著者
入澤 崇 宮治 昭 吉田 豊 山田 明爾 井上 陽 山田 明爾 井上 陽
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アフガニスタン中央部バーミヤーンを中心としたハザラジャート地域において仏教がどの程度広がりをもっていたか、またバーミヤーン以西へどれほど仏教が及んでいたかについて現地調査を行った結果、8世紀前半にバンデ・アミール川流域に仏教が及んでいたことが判明した。
著者
西 菜穂子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

政治学における既存の視点変換としてのルーマン政治システム論の意義は、ルーマン自身の権力理論の慎重な解釈のみならず、従来の権力理論の構造に対するルーマンの批判の要点を明確にすることによってはじめて明らかなものとなる。かかる認識に基づき、これまでの研究のまとめとして「コミュニケーション・メディアとしての権力に向けて-初期ルーマンの古典的権力理論批判-」をテーマに学会発表を行い、論文を執筆した。本論文では初期著作『権力』の準備的作業として執筆された論文「古典的権力理論批判」(1969)において展開された諸論点を敷桁し、中・後期以降の社会システム論の概念装置を適宜参照することによって、従来の権力理論との構造・概念的相違からコミュニケーション・メディアとしての権力という視座の性質を浮かび上がらせることを試みた。この試みはルーマン社会システム論の社会理論史におけるゼマンティーク的転換を明らかなものとするためのひとつの導入点ともなったと考えられる。上述の論文を布石に、後期の政治システムに関する記述も参照し連関させうつ『権力』の再解釈を試みることによりて、コミュニケーション・メディアとしての権力のオートポイエーシス的政治システムにおけるはたらきについて考察を深めた。この作業を土台に現在『権力』の解釈をテーマとした論文を執筆中である。さらに秩序形成という観点から政治学において重要な問題となる倫理・規範について「道徳の反省理論としての倫理学」というルーマンの視点に関する記述を精読・解釈し、現代社会における秩序形成にたいして倫理学の持つ意義を考察した。以上、ルーマンの政治システムの核となる議論である上述の作業を段階的に進めた。
著者
森脇 健夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

子どもの学習の物語論的分析は、子どもが授業での経験をどのように意味づけ、自らの文脈に位置づけるか(自らの世界に取り込むか)、という関心にもとづく。本研究では、これまでのさまざまな分野におけるNarrativeに関連する研究を概観すると同時に、子どものNarrativeを分析する際の枠組みを構造主義やstoryの社会学から導き出した。実践分析としては、奈良女子大学附属小学校の小幡肇教諭の一連の実践(「阪神大震災・大研究」)を分析対象とした。「『気になる木』の『はっぱ』をふやそう」という独特のシステムを持つ小幡氏の授業の特質を分析すると同時に、そこで子どもたちが授業体験をどのように意味づけしているか、その意味づけの特徴を分析した。その結果、授業の構造の分析、すなわち共時的な分析によって、多様な物語(個性的な意味づけ)が生まれる条件としての「装置」が必要であること、また、通時的な子どもの「物語」の分析によって、さまざまな事象へのアプローチがその子ども独特のストラテジーにもとづいて行われていること、またそのストラテジーが授業での経験の意味づけに大きな影響を与えていることを明らかにした。こうした分析結果を踏まえて授業技術形成を行っていく必要があるが、これまでの技術とは異なった技術(たとえば「装置」を築いていくこと)を形成していくことの重要性を指摘することにとどめた。教師の力量形成としてこうした技術をどのように身体化していくのか、は次の課題としたい。
著者
村上 晋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

抗ウイルス薬であるリバビリンに耐性化するために必要な変異を持ったポリオウイルスは複製忠実度が高く、抗原変異しにくく、そして病原性が低くなることがわかっている。同じくRNAウイルスであるインフルエンザウイルスにおいても、リバビリン耐性ウイルスを獲得できれば、安全な生ワクチンが作製できる可能性がある。そこで本研究においては、インフルエンザウイルスでリバビリン耐性に必要な変異を同定し、その変異を導入した新規弱毒生ワクチンの作製を目的とした。インフルエンザウイルスの増殖に対するリバビリンの効果を調べた。ポリオウイルスでは、リバビリン存在下で培養すると、ウイルスゲノムRNA上のCがUにあるいはGがAとなる変異がランダムに挿入され、その結果ウイルス増殖抑制される。インフルエンザウイルスの場合でも同様の作用機序で増殖が抑制されるか調べた。MDCK細胞にウイルスを感染後、リバビリン存在下で培養し、上清を回収した。ウイルスRNAを抽出し、RT-PCRにてウイルス遺伝子を増幅後、クローニングし、ウイルスゲノムのシークエンスを調べた。その結果、28クローン中13クローンで変異が導入されており、そのすべてがCからUあるいはGからAの変異であった。これらの結果からインフルエンザウイルスでもポリオウイルスと同様の機序でウイルス増殖が抑制されており、複製忠実度の高いウイルスを獲得できる可能性があることが示唆された。リバビリンの有効濃度を調べたところ、20μMでウイルス増殖を50%抑制することがわかった。そこで、20μMおよび40μMのリバビリン存在下でインフルエンザウイルスを継代した。11代まで継代したが、耐性ウイルスは獲得されなかった。ポリオウイルスでは6代目で耐性ウイルスが出現したと報告されている。したがってインフルエンザウイルスではポリオウイルスよりもリバビリン耐性化がおきにくい構造のポリメラーゼを有しているものと考えられる。