著者
矢野 亮
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は、長期間に渡る資料調査を実施し、機密性の高い文書や資料にアクセスし、希少なリソースに到達した点については何よりの研究成果であった。具体的には、次の各時代区分に応じた詳細な資料収集と整理、分析を行ってきた。(1)1945年~1960年:大阪における融和運動とその事業展開の実際の状況について、とりわけ戦前・戦時に関する第一次資料(約700点)の収集と整理に終始した。その成果の一部として、拙著,「被差別部落における/をめぐる政策的展開と当事者運動に関する生活史研究」,セルフ社,2011年8月[予定]がある。(2)1960年~1970年;当時の資源配分に大きく関連する隣保事業について、全国隣保館協議会の諸資料を調査し当時の実情の把握を行った。これは平成22年度以降の立命館大学G-COEプログラム「生存学」創生拠点HPに掲載してきた。(3)1970年~1980年;特にここでは同和対策の資源配分が問題となる。これら同和対策をめぐる諸資料(約1800点)もすでに収集し分析を行っている。この成果物として、拙稿,「同和政策の歴史社会学--1970年代・1980年代を中心に--(仮題)」,天田・堀田・村上・山本編『差異の繋争点(仮題)』,出版社未定,2012年[予定]がある。(4)1980年~2000年;上記の時期の資料に加え、大阪市内における隣保事業及び同和事業の実施機関の一次資料の解読・分析を行ってきた。そこでは他の運動や他施策との関係性についても具体的に明らかとなってきた。その経過の一部として、「マイノリティ関連文献・資料/関連年表」と「大阪の部落問題関係資料」として上記HP(上掲)に掲載している。収集してきた文献・資料(約1800点)については言説分析を行い、成果物として、拙稿,「住吉部落をめぐる社会調査史(仮題)」,住吉隣保館編『住吉部落の歴史』出版社未定,2012年10月がある。また論文として所属学会誌等に投稿予定である。(5)2000年~現在:以上の研究の蓄積を踏まえた上で、その歴史的帰結について、拙稿,「大阪の同和政策における老いの位置--その政策的帰結(仮題)」,天田城介編『老いの政策と歴史(仮題)』,出版社未定,2012年[予定])にて分析結果を公表予定である。
著者
岡田 秀二 伊藤 幸男 土屋 俊幸
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究はイギリスの森林政策転換の背景を含めたその現実について明らかにしている。特に森林認証やラベリング制度といった環境重視の森林政策に注目している。80年代後半以降の林政は、60年代までの森林資源造成、木材生産重視の林政、あるいは80年代の田園地域の整備や森林へのアクセス向上から、生物多様性や持続可能な森林経営など環境林政へと展開した。国有林は依然として国内木材生産の主要な部分を担っているが、2000年に森林認証を取得したことによる大きな影響は出ていない。それは一連の政策転換の中で国有林の森林管理も環境・景観重視へと移行してきたためである。イギリスに特徴的なトラストによる森林保有の形態における森林管理では、単なる保護から積極的な管理を含む多様性の保全へという移行がみられた。イギリスの国立公園はユニークな管理の特徴が見られる。そこでは単に狭義の生態系の保全が目指されるのではなく、人間活動を含んだ田園空間の保全が目指され、そこでは分権的な制度発展がみられた。私有林の経営においては、地主的経営やエステートを中心に環境政策がある程度受け止められていたが、それは必ずしも木材生産上のインセンティブを生むものとはなっていなかった。逆に環境基準や森林認証が新たな系列化を生むという問題が見られた。森林認証については、情報公開と多様な利害関係者の参加が重視されている点が森林管理面で影響が大きいことが指摘された。また、バイヤーズグループは認証品の取扱いシェアを急速に増加させており、それはプレミアム価格を含まない形で実現されていた。このような林政転換において、政策定着のための重要な存在として政策的中間組織の役割が重要であることが明らかとなった。
著者
余田 成男 石岡 圭一 内藤 陽子 向川 均 堀之内 武 小寺 邦彦 廣岡 俊彦 田口 正和 柴田 清孝
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

全球気象解析データおよび力学コアモデルから気象庁1ヶ月アンサンブル予報モデルまでを駆使して、成層圏変化が大気大循環の主要力学過程に及ぼす影響と力学的役割を明らかにした。特に、成層圏突然昇温現象に関連して、周極渦周縁の大規模前線構造を発見するとともに、極域循環の予測可能性変動の新知見を得た。また、化学-気候モデル実験結果も加えて、成層圏寒冷化、太陽活動変動などの外部要因変動が季節内変動・年々変動の及ぼす力学的役割を明らかにした。
著者
小笠原 道雄 那須 俊夫 アルカン M. 深田 昭三 ボールスマ J.P. 森 楙 相原 和邦 小倉 康 マンザーノ バヒリオ U 武村 重和 山口 武志 唐川 千秋 羽生 義正 鑪 幹八郎 二宮 皓 MANZANO V.u ALKAN M KARSTEN S KOPPEN J.k KOPPEN J.K. ALKAN M. KARSTEN S. BOORSMA J.P. 伊藤 克浩 草間 益良夫 細田 和雅 小笠原 道雄
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

(森楙)テレビゲームがメディア・リテラシーの無意識的な形成という潜在的な教育的役割を演じている点を明らかにすることを目的に調査研究をした。(1)学生を対象に質問紙調査を行ない、テレビゲームとコンピュータ・リテラシーとの関係を調べた。その結果、知識レベル、行動レベルいずれでも、リテラシー形状には、性別、専攻、子供時代の遊びなどの要因が大きく関わっていることが分かった。(2)テレビゲームの内容分析をした。その結果、ゲームの内容が男性中心主義で、暴力を多く含んででいることが分かった。(森楙・深田昭三・ボールマス)コンピュータのイメージやビデオゲームの過去経験がコンピュータへの態度に及ぼす影響を学生について調べた。5つの尺度からなる質問紙を作成した。これらの尺度は、コンピュータやビデオゲームの使用頻度、コンピュータに対する態度、コンピュータのイメージ、などである。質問対象は学部学生633名であった。コンピュータとしてのイメージで一番多かったのはプログラミング・モデルであり、ついでメイン・フレームまたはワードプロセッサー・モデルであった。分析の結果、コンピュータにたいする態度は、「親近感」と「難しそうだという感じ」という2つの因子を含み、パス解析の結果、コンピュータのイメージは「難しそうだという感じ」を規定し、過去におけるビデオゲームの使用は、間接的にであるが、両方の因子に影響することが分かった。(山田武志)最近の、コンピュータを使った数学の教授-学習過程に関する理論的考察を行なった。一般的考察のあとコンピュータ利用によるマニピュラティーブの特徴と役割を吟味した。このようなマニピュラティーブの特徴として相互作用機能の顕著さが明らかになった。この機能は子供にたいしコンピュータの有効な使用により「推論-証明」という問題解決活動の機械を提供し、また、数学的概念の多様な表現を準備すると思われる。現行の指導要領から、数学教育においてもコンピュータや電卓等の有効な活用が本格的に盛り込まれるようになった。もちろん数学教育においては、コンピュータの構造やプログラミング言語の理解がねらいでなく、それを一種の知的道具として活用しながら、数学的な概念や考え方の理解を図ることが意図されているといえる。従来、説明やシミュレーションといった形態で活用されがちであったコンピュータの新しい分野を開拓すべく、本研究では、コンピュータに基づく教具の特徴について、表記論的な立場から検討を加えた。その結果、多様な表現を同時に提示するというコンピュータの機能によって、表現間の翻訳が推進され、そのことがひいては数学的な意味の構成にも貢献することを指摘した。さらに、方法論的な視座から、コンピュータが「仮説-検証」型の問題解決的授業の構築に貢献することを指摘した。(カルステン、コッペン)オランダの教育界におけるニューメディアを使った色々な新しい試みを報告し、新しい試みについていけない教師の問題を指摘している。技術習得の速さは教師たちよりも児童・生徒の方が勝るので、教師たちはニューメディアにたいし恐怖さえ感じている。ここで提案として、教師のこの方面での技能開発と、一般社会におけるコンピュータの使用基盤の拡大を挙げている。(マンザ-ノ、二宮)オランダを含む数カ国のインターネットを中心とする新しい教育システムの活用の実情を、文献からのみならず直接訪問して得られた情報をもとに、比較教育学的立場から、考察を行なった。なかでも「国際教育及び情報源ネットワーク」(I*EAR)並びに「ヨーロッパ学校プロジェクト」(ESP)を検討対象とした。結論として、今や電子ハイウェイが教育刷新のイニシアティーブをとっている感を強くするとしている。(相原和邦)日本文学の研究者として、日本の文学作品(特に明治期の)にみられるヨーロッパ絵画との関係を探ることを通して、イメージを通した異文化との接触による作家(とくに夏目漱石)の内面的変化の過程を考察した。漱石が最も深い共感を示しているのはターナーで、その作風は、「草枕」、「文学論」等で言及されているほか、言語による女性描写のぼかし・幻化の手法に生かされている。本国際共同研究を機会に、今後の異文化理解に関する研究の手掛かりを得ることができた。
著者
竹田 仰
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

近年,映画館やテーマパークでのVRシアターにおいて,映像や音響の効果に合わせて風や水滴などを提示して触覚情報を与える演出が多くなっている.例えば,乗り物に乗っているときには風を吹き付けたり,波しぶきに合わせて水滴を吹き付けたりする.このようにVRシアターにおいて触覚のおける役割は欠かせないものなりつつあるがまだ普及には至っていない.なぜなら触覚ディスプレイは大掛かりな上に一つの装置で表現できる演出も限られている現状にある.そこで,本研究では風圧を制御し,顔面の任意の場所に空気をあてることで触覚を伝える風圧型顔面触覚ディスプレイの提案を行う.本研究では空気砲の原理に着目し,渦輪と呼ばれる空気の塊(渦輪)を適格な風圧で顔面にあてることで,空気を利用した自由な触覚表現が可能なシステムの実現を目的とする.そこで,精密な実験を重ねて空気砲を設計し,コンピュータ制御が可能な風圧型顔面触覚ディスプレイを製作した.製作した風圧型顔面触覚ディスプレイで渦輪の特徴的な印象や演出の幅広さを評価し,印象指標を作成した.そして,移動式の大型スクリーンと組み合わせて使用できるように小型化し,観客に平等な触覚刺激を与える制御システムを製作し,評価した.
著者
内田 篤呉 秋山 光文 荒木 史 有賀 祥隆 今井 康弘 大川 昭典 大下 浩司 奥村 公規 河合 正朝 木村 法光 宍倉 佐敏 下山 進 ジャンジャック ドロネー 城野 誠治 鈴田 滋人 玉蟲 敏子 中井 泉 中野 嘉之 馬場 秀雄 早川 泰弘 林 温 藤本 孝一 増田 勝彦 室瀬 和美 森口 邦彦 柳橋 眞 矢萩 春恵 河野 泰典 矢代 勝也 尾西 勇 柴田 伸雄 中本 久美子 米井 善明
出版者
(財)エム・オー・エー美術・文化財団(学芸部)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

科学調査は、東京理科大学・中井泉教授、吉備国際大学・下山進教授らが中心に担当し、型の技法は重要無形文化財保持者・森口邦彦氏、鈴田滋人氏、室瀬和美氏が伝統工芸技術から技法解明を実施した。科学調査の結果は、金地は金泥でなく、金箔とする第1次調査の結果を覆すものであった。有機色料は、波の部分に藍の存在は認められず、青墨の可能性が指摘された。伝統工芸の技法の調査は、金地と流水の境界の輪郭線は、縁蓋(型地紙)を用いた可能性が高いが、流水は型では表現できず、防染剤で描いたものと考えられる。文化財の研究は自然科学のみの調査に頼るのではなく、歴史と伝統の中で蓄積された技術や経験を踏まえることが極めて重要であった。
著者
丹生 健一 志水 賢一郎 大津 雅秀 石田 春彦 菅澤 正 石橋 敏夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

目的:甲状腺疾患は食生活や人種により発生頻度や病態が異なることは良く知られているにも関わらず、日本人のret/PTC遺伝子発現に関する報告は、これまでのところ、ほとんどない。本研究では、日本人の各種甲状腺疾患におけるret/PTCの有無を調べ、病理組織・臨床的事項との相関を検討し、本邦の甲状腺疾患におけるret/PTCの意義を研究した。対象と方法:東京大学附属病院耳鼻咽喉科および神戸大学附属病院耳鼻咽喉科において治療が行われた日本人の各種甲状腺疾患の手術標本を用いて免疫組織染色手法によりret/PTC遺伝子の有無およびp53遺伝子の過剰発現を調べ、得られた結果を、病理組織像ならびに臨床的事項と比較検討した。結果:対象となった症例は濾胞腺腫19例、濾胞腺癌2例、分化型乳頭癌40例、低分化型乳頭癌6例・未分化癌4例、髄様癌2例であった。Ret/PTC遺伝子は、分化型乳頭癌40例中14例に認められたが、他の組織型には全く認められなかった。一方、p53遺伝子の過剰発現は、分化型乳頭癌の中では1例にしか認められなかったが、低分化型乳頭癌6例中2例、未分化癌4例中4例に認められた。臨床的事項との関係を検討したところ、ret/PTC遺伝子は40歳以上34例中12例に認められたが、40歳未満の6例には一例も認められなかった。病期分類との関係では、T分類、N分類、いずれとも相関は認められなかった。一方、慢性甲状腺炎を合併した症例では9例中4例(44%)、慢性甲状腺炎を合併しなかった症例では31例中8例(26%)にret/PTC遺伝子が認められた。考察:ret/PTC遺伝子は日本人の甲状腺乳頭癌においても35%に認められた。低分化型や未分化型には全く認められないことから、分化度の低い乳頭癌では発生機序が異なると考えられた。
著者
小助川 元太
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、室町時代後期から安土桃山時代にかけての、いわゆる乱世における政治や文化を支えた知の問題を、その時代に制作された百科全書的テキスト群の生成と享受という視点から解明するべく、いくつかの作品を取り上げて、基礎的調査を行った。具体的な成果としては、以下の4点が挙げられる。(1)江戸初期成立の、狩野一渓編の画学全書『後素集』が、中国の百科全書『事文類聚』を和訳した、伝一条兼良編の漢故事説話集『語園』を利用している可能性が高いことを明らかにした。(2)戦国期成立の百科全書的編纂物『月庵酔醒記』が、政道に必要な教訓や知識と諸芸に関する雑学的な知識とを同一の地平線上にあるものと捉え、戦国武将に必要な知識の集積として編まれた可能性が高いことを明らかにした。(3)『〓嚢鈔』の編者行誉の著述活動(自伝・『八幡愚童訓』の書写)に注目し、中世を代表する百科事典が生まれた背景を明らかにすべく調査を進めた。(4)同時代に成立したと思われる、百科全書的特徴を持つ『源平盛衰記』が、いかなる論理のもとに、既成の平家物語を再編していったのかという問題を、いくつかの場面を分析しながら明らかにしてきた。
著者
中島 道男
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

[第1章]魅力的な社会批判のあり方を探るために、日本の知識人をめぐる言説を検討し、ロマンチックな観念性/普通の日常生活という対立への批判、観念的な自己還帰に終わるラディカリズム批判、“九〇度の転向"論などに注目した。さらに、近代化と知識人をめぐる問題、とりわけいわゆる近代主義をめぐる議論を検討することによって、魅力的な社会批判といえるためには、知識人が論じるその対象が「その内部に自己をふくんだ集団」であることが必要、という論点が得られた。魅力的な社会批判にかんする以上の議論を内在的社会批判の立場として整理した。[第2章]戦後日本の知識人を幾人かとりあげ、彼らがムラ共同体をいかなるスタンスから取り扱ってきたのかという問題を検討した。そこで確認されたのは、「没批判の現状肯定」か外在的社会批判かという二者択一は誤れる選択だということである。換言すれば、きだ・みのるの知識人としての仕事の意義をもっとも明確なかたちで取り出せるのは、戦後の進歩的な知識人に往々みられた、自己を、日本の外部、西欧型の近代市民社会におくという「自己特権化という欺瞞」への対抗という脈絡においてである、という論点にほかならない。そして、こうした立場がなぜ「没批判の現状肯定」ではないのかということを明らかにすることの可能な枠組みづくりをめざした。[第3章]前2章の、知識人・きだみのるの位置を確定するするための枠組みづくり作業を踏まえて、きだ・みのるの評論活動を、彼の著作・論文・エッセイを読み込みながら検討・考察し、彼の社会批判のスタイルが、外在的社会批判に対比される内在的社会批判の立場にほかならないことを指摘した。そのさい、検討の中心においたのは、きだ・みのるがいわゆる“東京の知識人"にたいしていかなるスタンスをとっているかという点である。[資料]「きだ・みのる著作一覧」(論文やエッセイも含む)
著者
錦見 盛光 幸村 定昭
出版者
(財)応用生化学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ヒトはアスコルビン酸生合成経路の最終段階を触媒するグロノラクトン酸化酵素(GLO)を欠損しているため、ビタミンCを合成できない。本研究において、ヒトにおけるGLO欠損の原因を遺伝子レベルで解明することを目指し、次のような結果を得た。ラット肝臓のGLOに対するcDNAをプロ-ブとして用い、種々の動物ゲノムDNAをサザンブロット法で分析した結果、ヒトはGLO遺伝子を持つが、ハイブリダイゼ-ションの強さは、他のGLO活性を有する動物の場合に比して弱いことが分かった。そこで、ヒトとラットのGLO遺伝子を塩基配列の上で比較するため、ラムダファ-ジで作ったヒトおよびラットのゲノムDNAライブラリ-から同遺伝子のクロ-ニングを行い、得られたクロ-ンの塩基配列を決定した。ラットの重りを持つ三つのクロ-ンについて調べたところ、ラットのGLO遺伝子は20キロベ-ス以上の長さを持ち、12個のエキソンと11個のイントロンより構成されることが明らかとなった。また、ヒトの陽性クロ-ンの一つはゲノムDNAのサザンブロットで認められる約12キロベ-スのEcoRI断片を含み、その中にラットのGLO遺伝子の3個のエキソンに対応する塩基配列が見出された。その内一つの配列では、ラットのエキソンの5′側でかなりの部分が欠失していた。108塩基からなるエキソンについてラットとヒトの間で配列を比較すると、ヒトで1塩基の欠失があり、両者の相同性は75%であった。アミノ酸配列で比較すると相同性は64%と低く、しかも変化の大きい置換が数多く認められた。これらの事実は、ヒトのGLO遺伝子が進化の過程で機能を失った後、選択圧を受けることなく変異を蓄積して来たことを示唆する。即ち、ヒトのGLO遺伝子は偽遺伝子の状態でヒトゲノム中に存在していることが判明した。
著者
村井 宏栄
出版者
名古屋学院大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究では、中世日本語辞書を対象とし、字体認識及び注記構造の解明を目指した。結果、『色葉字類抄』では、多くの部首分類体字書や音義書とは異なり、「作」注記が字体注記と見なしがたい例がまま見られ、「又作」と「亦作」によって用法の相違が認められること、また「亦作」の所在の偏りから編纂過程を考慮に入れる必要性を指摘した。『下学集』では「作」注記の主目的が異表記表示に移行しており、異体字注記形式は「作」から「同字」へと移行してゆき、逆に「作」注記は異表記表示に特化していくという仮説を提示した。
著者
西浦 廉政 寺本 敬
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

トポロジー的手法により,材料科学の新規機能材料作成法において重要な自己組織化原理の数理的基盤,とりわけ新たな「非侵襲的数理測定法」の確立を目指すことが本研究の主題である.手法としてはComputational Homologyの有効性をポリマー系において実証することを実施した.具体的には相分離におけるトポロジー量のスケール則を数値的に示した.相分離が進行する過程をベッチ数で計って,それが時間の-1乗に比例する巾則を発見した.またブロックコポリマー系においては,非局所項の影響でミクロ相分離に移行するが,その遷移の様子もベッチ数の巾則の変化から捉えることができた.さらにパラメータを変化させたときの,ポリマー形態の遷移の様子もベッチ数あるいはオイラー数の変化により,どのような遷移状態を経て経過するか明らかとなった.例えばレイヤーからシリンダーに変化するとき,その途中に穴あきレイヤーという形状を経由することが,ベッチ数の計算より判定可能となる.このアプローチはポリマー系のように自由エネルギー最小を達成する定常状態のみならず,より一般の反応拡散系においても有効であり,それにより極めて動的かつ複雑な形態を示すものに対しても今後大きな寄与を果たすと考えられる.例えばインターミッテント的挙動をする時空カオスに対し,経由するいくつかの遷移的パターンについてより詳しいトポロジー情報が得られると期待される.以上の成果はMorphological Characterization of the Diblock Copolymer Problem with Topological Computationという題目でJJIAMに投稿した.
著者
株丹 洋一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ESD(持続可能な発展のための教育)理論に基づいて設計されたドイツのリューネブルク大学で実施されている環境教育プログラムを日本の教育体制に合わせて圧縮したプログラムを、国際的な環境規格ISO14001の規定上、毎年すべての構成員に対して実施することが義務付けられている「一般教育訓練」として、学生を対象にして実施することで、高い教育効果を挙げることができる。
著者
森 ます美 浅倉 むつ子 遠藤 公嗣 木下 武男 大槻 奈巳 山田 和代 浅倉 むつ子 遠藤 公嗣 木下 武男 大槻 奈巳 山田 和代 禿 あや美 小倉 祥子
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近年のイギリス賃金平等法の発展、同一価値労働同一賃金原則に関する職務評価制度・紛争解決システムの現状を把握した。その成果を反映させ、日本のスーパーマーケット販売・加工職および医療・介護サービス職をモデルに職務評価調査を実施した。これら一連の研究から日本における同一価値労働同一賃金原則の実施システムとして、(1)関連する法制度の改正と労働審判制度を活用した紛争解決システムの提案、(2)日本の職務実態・職場慣行等を考慮した職務評価制度の構築を行った。
著者
熊谷 亮平
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

次年度以降の「近代建築修復の技術知識基盤の体系化」に向けて、平成20年度の目的は海外先進国における修復の方法論・制度および事例についての概要を把握すること、また国内における近代建築修復の現状を把握することであり、以下の手順により研究を進めた。(1)日本の伝統的建物に関する修復制度の把握、および国内で手に入る文献を用いてフランスやドイツ等欧州の修復制度に関する文献調査を行った。また近代建築修復に関する海外刊行の技術文献の収集整理を行った。(2)国内における近代建築修復事例リストの作成を行った。具体的には、重要文化財指定の建物における修復の有無、また登録文化財や非指定建物を改修専門誌等から抽出し、修復事例のリストを作成した。(3)スペインのバルセロナを対象とし、修復の方法論・保存制度・アーカイブ・教育に関して公的機関に対するインタビュー調査および関連資料収集を行い、その実態を把握した。また、バルセロナにおける修復事例リスト作成及び事例調査(図面採集、現地視察)を実施した。(4)国内における近代建築修復事例調査を行い、その実態と課題を把握した。具体的には、戦前に建設された近代鉄筋コンクリート造建築および近代木造建築再生事例を対象とし、図面採集および設計者に対するインタビュー調査を行った。
著者
笠井 裕之 田中 淳一 朝吹 亮二 朝木 由香
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

瀧口修造は1960年代前半から他の芸術家との共同制作、いわゆる「コラボレーション」を活動の主軸とし、とりわけマルセル・デュシャンとの交流を通じてオブジェと言語をめぐる考察を深めていった。本研究は遺された草稿、メモ、書簡等の資料を読み解くことによって「後期瀧口」の歩みに光をあてる試みである。晩年の瀧口の創造的実践が、戦前のシュルレアリスム運動を「集団的想像力」の角度から捉えなおし、シュルレアリスムの新たな展開を導く試みであることを提示した。
著者
白井 裕子
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

炊き出しの場所で,ホームレスの人々が主体的に自身の健康に取り組んでいけることを目指した健康支援活動を実施した。自己の健康を知る機会のなかった人々が,それを知ることを通して,健康に対する意識の変化や健康行動を獲得していくことにつながった。また、活動を積み重ねることで「互いに思いやる身近な存在としての関係」が構築された。この関係性は,支援活動の成果であるが、その一方で支援関係の基盤でもあった。
著者
横川 吉晴
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

【目的】脳卒中既往者に血流制限を伴う低負荷抵抗運動(以下加圧トレーニング)を行い、運動療法としての可能性と安全性について検討した。【対象】73歳男性。脳梗塞(被殻部位)。平成13年7月に発症。左片麻痺、感覚障害あり。高次脳機能障害、心疾患既往なし。現在ADLは自立。下肢静脈血栓症なし。【研究方法】シングルケーススタディ。4週間毎にプログラムを交代するABABデザイン。A:既存の理学及び作業療法を各40分。B:A+加圧トレーニング30〜40分。A、B共に治療は週2回。専用ベルトを上腕及び大腿基部に装着、空圧式加圧装置により加圧し運動を行った。1回加圧時間は10分以内。手指の屈伸、重錘1kgによる肘関節屈伸、肩関節挙上を麻痺側上肢のみ行った。下肢は、ハーフスクワット、一歩踏みだし、つま先立ちを行った。各回数は3セットにわけ合計45回とした。【測定項目】肘および膝関節等尺性収縮筋力。10m歩行速度、Timed up and go test(以下TUG)、片脚立位時間。筋力と10m歩行速度は、A、B前後に測定した。TUGと片脚立位は、すべて治療開始前に測定した。最終日上下肢各10分間の加圧トレーニングを行い、開始前、直後、終了15分後に採血、生化学検査を行った。介入前後に上腕中央部と膝蓋骨上縁10cm上位の断面をCT画像撮影した。【結果】運動中、脳貧血など健康被害はなかった。初回A期に比べ、TUG遂行時間は短縮、非麻痺側片脚立位時間は延長した。同じく終了時麻痺側筋力は、非麻痺側以上の増加を示した。10m歩行速度は23.1%増加した。成長ホルモン、IGF-1、ノルアドレナリン、硝酸イオンがトレーニング直後に増加した。CT画像では麻痺側上腕三頭筋横断面積が増加した。【まとめ】一定の実施基準のもとで、加圧トレーニングによる身体機能の改善を得ることが示唆された。
著者
中村 哲子
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

1801年にアイルランドは政治的にイギリスの傘下に入り、以降、アイルランドの作家はアイルランド性を色濃く打ち出した小説を広くイギリス読者に向けて発表していく。プロテスタントの作家だけでなく、1820年代以降はカトリック出身の作家の活躍も顕著となる。こうした中で、イギリスからの旅行者がアイルランドの実態を語る旅行記を数多く発表するようになる。小説と旅行記を読み解くことから、イギリスとアイルランドの双方の視点から見るアイルランド性の諸相を浮彫にした。
著者
中村 豊
出版者
宮崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

【目的】2007年度科学研究費補助金を受け、生鮮食品の品質管理用小型温湿度記録装置が、動物陸送時の微環境温湿度の経時的モニタリングに有効であることを実証した。今回は、この装置を用いて長距離空輸される動物に及ぼす輸送箱内温湿度の影響を検討する。【方法】小型データロガー「ハイグロクロン(Dallas Maxim USA)」を用いて、動物輸送時の空調車内部と空港内荷物保管室、機内貨物室の輸送箱外部、および輸送箱内部の温湿度を測定記録する。動物輸送は静岡県厚木市から宮崎県清武町まで陸送と空輸で所要時間約25時間である。この間車内温度は15℃、機内貨物室は25℃前後に設定し、測定間隔は5分とした。【結果】測定は20年9月2日、9日(夏季)および21年1月13日、27日(冬季)に行った。1.記録された夏季と冬季の荷物保管室、機内貨物室の平均箱内温度は25.4±3.0℃、27.7±1.8℃、および15.3±3.6℃、25.5±5.4℃であった。2.平均箱内湿度は92±3.6%、83.5±3.9%、および85.2±11.7%、72.6±16.2%であった。【考察】空港到着後の平均箱内温湿度を陸送時と比較すると、夏季温度は荷物保管室、機内貨物室で上昇するが、冬季では荷物保管室で降下し機内貨物室では上昇することが示された。陸送中の箱内湿度は高めであるが、荷物保管室の箱内湿度は夏季でさら上昇し、冬季ではほぼ同じ湿度を保ち、機内貨物室では夏季、冬季ともに降下することが示された。動物を空輸する場合、空港に到着した輸送箱が荷物保管室や機内貨物室に置かれている短い時間に、急激な温湿度変化で箱内温湿度環境が悪化し、輸送動物に大きな影響を与えることが示唆された。以上より長距離空輸する際、ウサギ等の高温多湿に弱い実験動物輸送には充分な配慮が必要であることが判った。