著者
城山 智子 PENG Juanjuan PENG JUANJUAN
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、裕大華紡績公司の1880年代から1960年代までの事業展開を事例として、近現代中国に於ける企業の態様を明らかにしようとするものである。本研究は、特に、裕大華が、現代中国で「集団」と呼ばれる、多業種にまたがる複数の会社の集合体のプロトタイプと看做されることに注目している。清朝から中華民国を経て中華人民共和国に至る政治体制の変化の下で、企業への投資と経営とがどのような変容を遂げたか、という時系列の分析を行うと同時に、日本の財閥や韓国のチョボルといったアジアの企業形態との比較から、中国の企業の特質を明らかにし、平成22年度は、平成21年度の資料調査の成果を踏まえて、事例研究をまとめた。6月には台湾中央研究院近代史研究所で、中華民国期の産業振興に関する資料調査、7月には京都大学経済学部図書室で戦前期中国企業に関する調査報告の収集を行い、より網羅的なデータの収集を行った。また現代中国史研究会では研究発表、"Crossing the 1949 divide : changes and continuities in a Chinese Textile Company"(一个中国紡績企業在1949年前后的変化与延續)を行い、武漢、石家荘、西安、重慶、成都で展開した、裕大華紡績公司の事業について、20世紀委はじめから1950年代までを対象として分析した結果を明らかにした。そこでは、1920年代には未整備だった企業をめぐる経営環境が、1930年代の法整備を経て、1940年代の戦時統制下で大きく政府・党の影響を受けるようになり、さらに、そうした傾向が1950年代の中国共産党政権下でも引き継がれたことを論じた。
著者
安田 英典 鈴木 和男 山本 健二
出版者
城西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

新型インフルエンザH1N1の学童間の流行伝播パラメータを2009年夏はじめの小集団の流行ケースから求め,仮想中央線モデルによる流行伝播シミュレーションを実施した.シミュレーションに基づいて学校閉鎖,家庭隔離などの対策の評価を行った.新型インフルエンザでは,感染した学童の成人対する割合が季節性インフルエンザとは大きく異なっていた.流行終焉後,公開された実データとシミュレーションによってポストアナリシスを行い,季節性インフルエンザとH1N1の流行伝播の差異について検討した.
著者
高 友希子
出版者
法政大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

『法典調査会民法議事速記録』を見ると、参考文献として英判例の記載があるにもかかわらず、英法の日本民法典への影響に関する研究は極めて少ない状況である。そこで本研究では、民法716条が立法されるきっかけとなった英国における独立契約者概念の形成・発展のプロセスを、判例の検討を通じて解明することにより、英法の日本民法典への影響について検討を加えた。
著者
西村 篤
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究はサウンドスケープデザインにおける住民の参加と主体性の意義について示すことを目的とし、関連する3つの国内事例、すなわち「平野の音博物館」(大阪市)、「瀧廉太郎記念館庭園デザイン」(大分県竹田市)、「長崎サウンドデザイン塾」(長崎市)に対する現地調査が行われた。調査結果の分析から、これらの事例には、形式的な違いはあれども、住民による参加と主体性が不可欠であったことが明らかになった。
著者
北島 滋
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本調査報告書は,調査対象とした非成長型中小都市を東北・北海道地区に限定している。北海道深川市,ニセコ町は,典型的非成長型の小都市であり,岩手県北上市は中枢・中核都市の臨接地域でないにもかかわらず,極めて例外的な成長型の小都市である。この3つの小都市の変動を構造分析の方法で分析し,それらを「街づくり」の視点から比較的に考察してみた。それらの分析結果については本文を参照していただきたいが,ニセコ町は,現在全国の街づくりで最も注目されているそれである。本報告書では,ニセコ町のまちづくり条例,情報公開条例に至る経緯を分析し,結論的には,町民の知恵が行政を変え,行政のリーダーばかりでなく,市民サイドのリーダーをも生み出したということである。言い換えれば,市民サイドのリーダーの輩出及びそのリーダーシップの在り方が行政に先行したということである。これに対して,深川市は従来見られてきた典型的な行政主導型の街づくりである。しかしこれとても,駅前再開発までであり,これからの街づくりは市民の創意でという方向に行政のスタンスが変化してきている。但し,創意を引き出す仕掛けづくりが必ずしも双方から提起されていないというのが現状である。深川市の街づくりはまさに転換期にある。北上市は,中枢・中核都市以外の中都市でありながら成長型に属する稀有な事例である。但し,工業化それ自体が街づくり(=職の確保)というその域から未だ脱することができていない。したがって,NPOを含む市民参加,行政との協働の街づくりが現在進行形で模索されている。この意味でも市民参加への転換期にある。
著者
角田 延之
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

今年一年間の研究を通して、明らかになったのは以下のことである。まずフランス革命におけるフェデラリスムのディスクール分析を行う上で当然重要となる「フェデラリスム」という語そのものは、研究対象地域であるマルセイユの各革命勢力によっては、ほぼ使用されていない。「フェデラリスム」はマルセイユにとっては他者の言葉であった。次に、先行研究は、いわゆる「フェデラリストの反乱」を起こした諸セクション集会にとっての重要な理念は「人民主権」であるとしているため、諸セクションのみならず、対抗勢力であるクラブについても「人民主権」および「国民主権」の理念についての調査を行ったが、双方の勢力による語使用に顕著な差異を見出すことはできず、反乱を起こした諸セクションのみに「人民主権」の理念を負わせることは正当ではないことが明らかとなった。そこで、両勢力の地域意識を調査するために、「マルセイユ」、「マルセイユ人」、「パリ」、「パリ人」、「フランス」、「フランス人」の6つの語彙について、詳細に使用状況の調査を行った。その結果、地域主義は存在したが、それは即座に反乱に結びつくものではなかったことがわかった。現地で収集した一次史料の調査は以上であるが、この分析を導くにあたっては、既存の革命史研究が大いに参考になった。例えば、解説付きの国王裁判議論集は、人民への判決の委託、いわゆる「人民上訴」が、敵対勢力に抵抗するための戦術的方便であるという認識を与えてくれた。ゆえにマルセイユのジャコバン・クラブの、「人民上訴派」への態度は硬化したのである。また逆に、リン・ハントの『人権を創造する』からは、革命期には様々な対立がありながらも、各勢力は絶えず融和の道を探っていたことへの着想を得た。地方史を研究する上では、地方ごとの差異、中央との敵対、という側面が強調されがちであるが、共通点も踏まえて考察しなければ一面的なものになるのであり、そのような認識を導くのは常に様々な先人による諸研究の読解であることを改めて認識することができた。
著者
関 朋宏
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は過去3年間を通じて研究課題にあるペリレンビスイミドのJ会合体の構築・内部構造の解明、更にはその機能材料化に取り組んだ。残念ながら、見出したペリレンビスイミド分子の合成が非常に困難であり、内部の構造を詳細に調査できるだけのサンプル量が得られていなかった。しかしながら、これまでに得られた知見を最大限に活かして大量合成が可能な一つの合成経路を確立することに成功し、内部構造の解明および機能材料化を急ピッチで調査中である。一方昨年度までの研究を通じて、ペリレンビスイミド色素においては元来困難とされてきた「塗布法により薄膜形成が可能な二次元層状構造の創製」、および「最低ゲル化濃度が低く透明なゲル材料の構築」に成功した。これらの系の分子レベルでの集合構造を精査し、光学的・電子的特性、および材料特性との相関を明らかにした。前者に関しては、半導体有機エレクトロニクス材料としての応用展開を見出し、溶液塗布法により作成可能な有機薄膜トランジスターデバイスの活性層への適用に成功した。一方後者の系では、ゲルの分子レベルの配列とよりマクロな層構造との明確な相関関係を解明することに成功した。得られた成果は、機能性の色素分子から望みのゲル材料の形態を構築させるための重要な分子設計指針を与えた。本研究を通じて、ペリレンビスイミドの機能化を目指した合成の高収率化、分子レベルの集合構造と光学的・電子的特性との相関の解明、有機エレクトロニクス材料としての有用性の証明に成功した。更なる詳細な調査によって、他の色素材料の構築にも適用可能な分子設計指針の確立が期待される。
著者
鹿島 央 橋本 慎吾
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、以下の2点である。(1)リズムの契機は、日本語話者と日本語学習者ではどのように異なるか。そのときの呼気圧、呼気流量はどのようであるか。(2)持続時間が特徴的な学習者の発音は、日本語話者とは呼気圧、呼気流量にどのような違いがあるか。実験1では、リズム契機とユニット長の関係を調べるため、日本語母語話者と日本語学習者(中国語)を対象とし特殊拍を含む音節を組み合わせた6語(たーたん、たーだん、たんたん、たんだん、たったん、さったん)を分析した。発話はメトロノームにあわせ1語につき10回収録し、呼気圧、呼気流量について分析した。結果は、全体長では日本語話者の方が長く、語中の破裂音の外破からメトロノームまでの時間は学習者の方が長いという特徴がみられた。特に呼気圧がより強いことが観察されたが、語頭の破裂音にはそのような傾向はなかった。このことは、呼気圧の影響がリズム契機を形成する違いに何らかの役割を果たしていることを示唆する。実験2では、リズム配置の異なる18語を選定し、単独発話と「これは...です」というフレームに入れたものを発話資料とし、呼気圧、呼気流量の側面から分析した。発話者は中国語(北京語)話者2名、スペイン語話者1名、日本語話者2名で、KAY社製の「エアロホン」を用いて収録した。この研究の特徴は、生理的な要因である呼気流量と呼気圧のピーク値が学習者では各語の特徴的な持続時間の開始点とどのような関係であるか、また日本語話者とどのように異なるかを分析する点にある。分析の結果、中国語話者では呼気圧のピーク時点が第3ユニットにきていること、流量は調音法によっても異なることが判明した。しかしながら、これまでの結果では、特に呼気圧、呼気流量の違いが持続時間の違いとなるという結論には至っていない。ただ、破裂音の閉鎖時間や発声の違いに影響を与えていることを示す結果となっている。
著者
伊藤 太一郎 中村 孝 神澤 公 藤村 紀文
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

次世代の強誘電体不揮発性メモリーとして嘱望されている、MFS型FETの実用化に向けた検討を行った.現在我々が提唱しているMFS型FETのための物質は、YMnO_3であるが、実用化に向けていくつかの問題点が生じていた.大きなリ-ク電流、小さな残留分極である.この原因を探るために、様々な角度から検討を行った.単結晶上やPt基板上に作成されたYMnO_3薄膜はデバイスとして十分に機能する0.2μC/cm^2程度の残留分極値を示すが、Si直上に成長させた試料においては結晶性が悪く残留分極を示さなかった.いくつかの界面修飾を検討した結果、還元のY-Mn-OやY_2O_3が界面層として結晶性の向上に効果があることがわかった.これらの界面層を付加することによって、Si表面のキャリアを制御できることが確認された.そのときのメモリーウインドウ幅は1.1Vであった.これらの試料を用いて詳細なC-V特性、パルス特性等の電気特性の検討を行った結果、MFS型FETの基本的な動作は確認されたもののいくつかの問題点を明らかにすることができた.一番大きな問題点は保持特性が悪いことである.リ-ク電流が原因と考えられる.そこでパルク試料を用いてリ-ク電流の原因を探った.その結果、リ-ク電流はMnの価数揺動に起因しており、またそれはAサイトをYbと置換すること、Zrのド-ピングによって低減することが明らかにされた.また、AサイトのYB置換によってプロセス温度の低下が確認された.YbMnO_3Zrの薄膜化の検討を始めたところであるが、RMnO_3を用いたMFS型FETデバイスは実用化へ大きく前進した.
著者
佐藤 隆広
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の特筆すべき研究成果は以下の3点にある。第一に、解雇規制がインド労働市場に与える効果を事業所レベルのミクロデータや州パネルデータなどを通じて分析した。第二に、労働市場にかかわるデータ整備を行い、そうしたデータの一部を用いてインド経済のマクロ分析を行った。第三に、家計調査のミクロデータを用いて、労働供給の規定的要因である人口問題や貧困層向けに政府が自営を奨励したり賃金雇用を提供したりする貧困対策事業などの政策評価、などの実証分析を行った。
著者
永原 陽子 粟屋 利江 鈴木 茂 舩田 さやか 阿部 小涼 今泉 裕美子 小山田 紀子 尾立 要子 小林 元裕 清水 正義 前川 一郎 眞城 百華 濱 忠雄 吉澤 文寿 吉田 信 渡邊 司 津田 みわ 平野 千果子 浅田 進史 飯島 みどり 板垣 竜太 大峰 真理 後藤 春美 高林 敏之 旦 祐介 津田 みわ 中野 聡 半澤 朝彦 平野 千果子 溝辺 泰雄 網中 昭世 大井 知範 柴田 暖子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、「植民地責任」概念を用いて、脱植民地化過程を第二次世界大戦後の植民地独立期に限定せず、20世紀の世界史全体の展開の中で検討した。その結果、第一次世界大戦期の萌芽的に出現した「植民地責任」論に対し、それを封じ込める形で国際的な植民地体制の再編が行われ、その体制が1960年代の植民地独立期を経て「冷戦」期にまで継続したことが明らかになった。
著者
大鋸 順
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、Jリーグのクラブチームの一つである川崎フロンターレと川崎市商店街を例にし、協働の可能性、協働による効果について究明し、豊かで潤いのある地域形成の実現可能性を検証するものである。研究結果の概要は、次の通りである。1.フロンターレの設置が地域の人々に与えた影響は少なく、また、商店街の人々のフロンターレに対する関心・愛着についても高いものではなかった。このことはフロンターレが地域の文化セクターとして機能しているとは思えないことを示している。2.フロンターレに対する応援状況では、「個人としての応援」「商店としての応援」「商店街としての応援」のいずれも高いものではなかった。また、応援を得るためのフロンターレの条件としては、「チームが強くなる」「テレビなどのメディア露出が増加する」「地元を大切にするチームになる」等があげられていた。幸い、フロンターレは2005年度からJ1に昇格し、メディア露出も期待される。この意味で、2005年シーズンは、フロンターレにとって重要なシーズンである。3.人々のフロンターレに対する地域文化セクターとしての期待は大きく、「町への愛着が増える」「子供達が誇りをもつようになる」「人々が町を誇りに思う」「楽しみが増え生活に潤いがでる」「若い人が集まる町になる」「商店街に活気がでる」などの項目に現れていた。4.千葉ロッテマリーンズ、東京ヴェルディなどのプロスポーツチームのフランチャイズの川崎市から他都市への移転については、多くに人々が残念に思っていることが現れていた。以上、今回の調査時点において、フロンターレが地域文化セクターとして機能しているとは言い難い状況である。しかし、人々のフロンターレに対する期待は大きく、地域文化セクターとして十分機能すると考えられる。そのためには、フロンターレ自らの努力は必要であるが、フロンターレだけにそれを求めるべきではない。「自分たちの街をどのようにするか」という理念のもとに、フロンターレと商店街との協働、フロンターレと行政との協働、あるいは他の地域セクターとの協働等地域のあらゆるセクターが協働し、地域全体で育てていくことが必要である。
著者
原 正幸
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本人の音感覚、特にある種の自然音(例えば、風の音、虫や鳥の鳴き声等々)に対する感覚には季節との繋がりを感じ取るというような独自性が見られることがしばしば指摘されて来た。その原因として既に四半世紀以上も前のことになるが、大脳生理学者角田忠信によって大脳機構説、即ち西洋人の場合そのような自然音は雑音として大脳の非言語半球において処理されるのに対して日本人の場合は有意味な音として大脳の言語半球において処理されるという特異性の存することが科学的に実証されることが主張され、この解釈は世間にも広まることになった。しかしながら、この大脳機構説は当時小学生であった彼の子供には当て嵌まらなかったという彼自身の証言がヒントとなって、本研究代表者はある種の自然音に対する日本人の嗜好は大脳の機構の特異性によるものではなくて、文芸的伝統によって培われ間主観的に形成されて来た文芸的美意識によるものであると考えるに至った。本研究ではこの考え方を古典的文芸作品に基づいて実証すべく、「万葉集」、「古今集」を始めとする和歌集、「源氏物語」全五十四帖および「平家物語」、松尾芭蕉全発句および紀行文「奥の細道」等々のような日本の代表的な古典的文芸作品における音感覚を精査・分析することを通じて、日本人の音感覚の独自性は文芸的な美意識の伝統と、家屋の構造および生活形態(旅、隠居、男女の離別等)によって育まれてきたものであることを解明した。
著者
畑尾 直孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は,屋内外環境での自由な行動の実現を目指すパーソナルモビリティロボットプラットホームの研究の一環として行われた.本研究は,将来のパーソナルモビリティの普及による高齢者に対する"バリア"のない社会に向けた歩みに貢献するものである.採用第1年度の研究により,パーソナルモビリティによる歩行者の存在する屋内環境における自律移動機能,ならびにレーザーレンジスキャナなどを用いて障害物を識別し,パーソナルモビリティが危険な領域に進入しないように制御する操縦アシスト機能を実現した.今年度は,歩行者,自転車,自動車などが行き来する屋外環境において,より安全な自律移動のために有効な意味情報を付加した「セマンティックマップ1の構築システム並びにそれを用いた屋外自律移動機能を実現した.これにより,搭乗者が前述の操縦アシスト機能を用いて屋外環境を移動すると,そのセンサのログデータからパーソナルモビリティがマップを構築し,その道のりを自律移動で辿ることができるシステムが完成した.本研究では,従来の"空き領域""障害物領域"といった単純な情報だけのマップでは,パーソナルモビリティが辿っている道路の向き,歩道・車道の区別,分岐点の位置といった地理的情報,周囲の移動体の速度や頻度などの交通流情報,道路標識や通行可能方向指示記号などの記号的情報を付加した「セマンティックマップ」をロボットが自動的に取得する.このシステムの実現のための要素技術として,上下にレーザーレンジスキャナをスイングすることで3次元地形情報を取得し,そのデータから大規模な屋外トポロジカルマップを構築する手法や,水平に固定したもう1台のレーザーレンジスキャナを用いた自動車,歩行者,自転車などの移動物体の検出,位置・速度推定,識別を行う手法などを開発した.
著者
高樋 さち子 首藤 登志夫 下渡 敏治 小川 克郎 福岡 克也 成田 堅悦
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,環境負荷を低減するパーム油の利用促進とパーム油生産の大規模プランテーション開発に伴う環境破壊の修復との両側面から進められた。パーム油などから作られるバイオディーゼル燃料にバイオエタノールを混合し,環境負荷の減少を試みるとともに,今後持続的水質修復効果を進めるため,現地生産品の"炭"の有効利用を研究することに発展した。
著者
金子 百合子
出版者
岩手大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

動的事象の推移において「限界」の概念はロシア語の言語的世界像を形成する意味的優勢素として提示されてきた(ペトルーヒナ)。事象の安定的側面を優勢的視座で記述する日本語と対照させることによって、日本語と比較した際のロシア語における「限界」の際立つ優位性を検証した。当概念の優位性は、終了限界性に基づくアスペクト的動詞分類、結果を修飾する動詞語形成手段の多さ、和訳における限界的解釈の希薄さ、アスペクトの文法範疇の主導的役割といった点に特徴的に現れる。
著者
松原 孝俊 有馬 学 松野 陽一 中野 三敏 入口 敦志
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

2年間にわたる台湾大学総図書館所蔵日本語古典籍に対する書誌的調査を終えたが、同館所蔵・旧台北帝国大学所蔵本の総数は、約2万2百冊であると判明した。但し台湾大学の諸事情から、残念ながら漢籍の和刻本は未調査である。この漢籍和刻本も含めると、推計2万2千冊の所蔵量であるまいか。本研究プロジェクトは約2万2百冊の書誌的データの収納に努め、その棒目録を作成した。もっともこれら2万2百冊の残置本は、高温多湿な機構の中で放置されたので、破損や劣化が進み、早急な保存策を講ずる必要がある。本研究プロジェクトの進展の中で、台湾所存の日本語資料を研究調査対象としてきた各研究プロジェクトとの橋渡し役を果たし、各プロジェクト間のネットワークが構築できた。日本史・台湾史・日本文学・琉球史・東アジア文化交流史などの専門家による総合データベース作成の機運も生じ、実現の一歩を進めた。
著者
江藤 茂博
出版者
二松学舎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

(1) 小説が映像化されて映画やテレビドラマとして提供されている現実をデータとして把握した。(2) 具体的な言語表現による作品の映像化に関する分析を行った。(3) 小説の映像化作品も含めた日本の映画やテレビドラマの世界的な広がりを違法コピー市場を中心に調査した。
著者
武田 靖
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

鳥衝突データベースの解析を進めるために、前年度の米国、英国に、フランスとドイツを追加するべく、両国の担当者と交渉を行ってきた。入手は確約されたが、公式データベースとするための承認手続きが期限内に得られず、継続となった。後述のように、より多くの国のデータを解析することが要請され、ロシア、イタリア、ノルウェー等の欧州各国のデータベースも含めて展開することになった。またカナダのデータベースでは、高度の情報が一切含まれないという欠陥も見つけ、同国への勧告を発信した。(2)鳥分布関数の測定のために、米国イリノイ大学と共同研究をすすめ、ダラス空港(DFW)での新型鳥レーダーのデータ解析を共同で行うこととなり、一部の仮データを入手した。その結果、レーダでの観測は、空港直近での観測に誤差が大きいことが判明した。500フィート以上の高度でのデータを引き続き解析中である。(3)市販の3Dビデオ装置で取得したステレオ画像を解析することで、300m(1000ft)程度までの飛翔体の位置測定が十分可能であることを確認した。この技術を発展応用することで、空港での野鳥対策担当官による情報収集をより容易に、さらには高精度にすることが期待された。(4)鳥衝突世界大会(Norway)で研究成果の一部を発表・討論することで、より確度の高い理論研究とすることができた。特に大陸間での比較から、大陸や地域によらない、普遍性のある鳥衝突発生の高度依存性は各国の航空安全担当者の間での評価が高く、より多くの国を巻き込んだ今後の展開が期待された。
著者
藤本 一勇
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

『存在と出来事』と『世界の諸論理』を研究対象とし、両者の連続性と差異を研究した。『存在と出来事』では数学的存在論の領域に議論が限定されており、たとえその限定作業が後の拡張に必要不可欠なものだったとはいえ、バディウの究極目標である主体化や出来事性にまでは届いていなかった。世界における出来事と主体化の論理を展開する『世界の諸論理』こそ、バディウが真に目指していた地点だということを解明した。