著者
大滝 修司 山川 達郎 三芳 端 飯泉 成司 岸 いずみ 稲葉 午朗
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.1100-1104, 1992-04-01
被引用文献数
4

胆汁性仮性嚢胞(biloma)は,肝あるいは胆道系の外傷や手術後合併症として,また経皮経肝胆道造影やドレナージなどによって,胆汁が肝被膜下などに被覆された状態で流出し形成された2次的嚢胞であり,1979年にGouldらにより初めて記載された.しかしながら,このような既往なしに発症することもまれながら報告されている.われわれは胆嚢炎の穿通が原因となったbilomaを3例経験した.1例は手術までの比較的短期間にbilomaが消失した興味ある症例であり,また他の1例は手術前にbilomaをドレナージしたが,症状は軽快せず手術にて完治した症例であった.残る1例は原因となった胆嚢を穿刺ドレナージすることでbilomaが消失した症例である.これら3例の経験から,胆嚢炎の消退により流出した胆汁(biloma)は,胆嚢に還流することで自然消失することが示唆され,胆嚢炎が原因となったbilomaは,まず胆嚢炎に対する何らかのアプローチが大切であると考えられた.
著者
小松 輝久 青木 優和 鰺坂 哲朗 石田 健一 道田 豊 上井 進也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東シナ海においてブリやマアジの稚魚の生育場として流れ藻は重要な役割をはたしている.しかし,流れ藻についての知見は今までほとんどなかった.そこで,東シナ海の流れ藻の分布,生態,供給源について調べた.その結果,流れ藻がホンダワラ類のアカモクのみから構成されていること,黒潮フロントよりも大陸側に多数分布すること,中国浙江省沖合の島のガラモ場ではアカモクが卓越し,供給源となっていることを明らかにした.
著者
永広 昌之 鈴木 紀毅 山北 聡
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

北部北上帯は,タウハ帯や渡島帯と南部秩父帯をリンクする重要な位置にある.本研究では,葛巻地域から安家地域にいたる北部北上帯の北部地域の東西地殻断面を作成し,この地域の付加体の構造層序と付加年代を明らかにするために,詳細な野外調査と化石層序学的検討を行った.その結果,葛巻地域に後期石炭紀の海山玄武岩-石灰岩複合体由来の異地性岩体があること,安家地域の大鳥層が後期石炭紀チャートを含むことを明らかにし,北部北上帯付加体を構成する海洋地殻の年代が後期石炭紀に遡ることを確認した.また,大鳥層中に,東北日本では初めて,深海域ペルム紀-三畳紀境界に見られる黒色有機質泥岩層を発見し,初期三畳紀を示すコノドントHindeodus parvusの初産出層準直下の黒色炭質泥岩最下部で炭素同位体組成の急激なマイナスシフトを認めた.付加年代に関しては,大鳥層のそれが中期ジュラ紀Bajocian後期〜Bathonianであること,高屋敷層のそれが後期ジュラ紀Oxfordianであることを明らかにし,安家地域の付加体の地質構造が整然相を主体とするユニットの大規模褶曲構造で特徴づけられ,構造的下位が大局的には若い付加年代を示すことを確認した.これらのデータにもとづき,異地性岩体の年代構成にもとづく,北部北上帯の葛巻-釜石亜帯(西側)と安家-田野畑亜帯(東側)への細区分が北海道渡島帯にも延長できること,岩相や海洋プレート層序の類似から,大鳥層を中心とする安家地域西部の付加体が西南日本の柏木ユニットや大平山ユニットに対比されることを推論した.
著者
根塚 秀昭 芳炭 哲也 齊藤 光和 藤井 久丈
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.467-470, 2007-08-10
被引用文献数
3 3

症例は90歳女性. 3日前から持続する腹痛と発熱を主訴に当院へ搬送された. 腹部CTにて回盲部から右腸腰筋部におよぶ径5cm大のlow density massを認め, 周囲に少量の腹水を認めたため, 急性虫垂炎および右腸腰筋膿瘍の疑いにて緊急手術を施行した. 回盲部は一塊となり臓器の判別は困難で, 近接する右腸腰筋部を剥離すると内部から透明粘調なゼリー状物質が流出した. 虫垂癌の右腸腰筋浸潤, 穿孔性腹膜炎と術中診断し, 回盲部切除術と腹腔内ドレナージを施行した. 術後の病理組織学的検査では, 細胞内に粘液を豊富に貯留した腫瘍細胞の増殖が認められ, mucinous cystadenocarcinomaと診断された.<br>虫垂癌は術前診断が困難である. 画像所見にて右腸腰筋膿瘍などの後腹膜膿瘍が疑われる場合には, 原発性虫垂癌も念頭におく精査加療の必要があると考えられた.
著者
近藤 彰則 鎌田 紗由美 藤川 真樹 古澤 健治 西垣 正勝 吉沢 昌純
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EMD, 機構デバイス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.466, pp.37-40, 2009-02-27

近年,盗難や持ち出しなどにより公務員や企業の制服が流出している.このような流出した制服や,偽造された制服を利用して警察官や宅配業者などを装うなりすまし犯罪が増加している.そこで,不正に制服を用いた犯罪を防止することを目的として,制服にコンピュータを組み込むことにより制服自身が着用状態を識別し,周囲に着用者の正当性を示すシステムを開発している。今回は,同一の人間が継続して制服を着用していることを識別するために,人体通信を利用した脱衣検知システムについて述べる.
著者
寳示戸 雅之 波多野 隆介 村野 健太郎 林 健太郎 神山 和則 荻野 暁史
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

<発生>農業に由来するアンモニア発生量を発生源別にできるだけ正確に見積もり、これを1kmメッシュ地図として示すとともに畑地、水田、草地からの発生量実態を観測した。<実態>国内27地点の大気中アンモニア、アンモニウム塩濃度を観測するとともに、栃木県の集約酪農地帯において湿性沈着、乾性沈着を観測し、地域内発生量からみた「大気を介した窒素循環」の実態を推定した。<影響>北海道標津川流域を対象として河川水の濃度と投入窒素量の解析から、流域に投入された窒素の一部は河川へ流出するものの残りは硝酸態窒素となり、脱窒を介して河川への炭酸イオンを増加させることを推定した。
著者
小川 泰浩 清水 晃 久保寺 秀夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.329-336, 2006-10-01
被引用文献数
2

1995年に雲仙普賢岳噴火活動が終息し数年が経過した時点において,降下火山灰が堆積した林地と火砕流堆積地における火山噴出物表層の透水性変化過程を明らかにするため,表層の飽和透水試験と土壌薄片による表層の土壌微細形態を解析した。リターが地表に堆積したヒノキ林地と広葉樹林地の火山灰層では粗孔隙が分布し,透水性はリターの堆積によって向上していた。ヒノキ林地の中でもリターが地表にみられない場所の火山灰層には薄層がみられ,孔隙率と飽和透水係数はヒノキリターが堆積した火山灰層に比べ低い値を示した。この薄層は,表面流で移動した火山灰が堆積して形成された堆積クラストであると考えられた。火砕流堆積地では細粒火山灰が流出した結果,孔隙特性が良好となって表層の透水性が上昇したと推察された。噴火活動終息後数年が経過することにより,林地と火砕流堆積地における表層の透水性には違いがみられ,土壌微細形態解析によってこの違いはリターの堆積や細粒火山灰の流出に伴う表層の堆積構造の変化により引き起こされていると推察された。
著者
大原 利眞 神成 陽容 若松 伸司 鵜野 伊津志
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.103-112, 2000-03-10
被引用文献数
1

1997年7月2日10時頃,東京湾中央部において大型タンカーが底触し,大量の原油が流出した。流出油は揮発性の高い原油であったため,その3割程度はすぐに蒸発し大量の石油蒸気として大気中に放出された。本研究は,この原油流出事故による大気環境影響を実測データ解析とモデル数値解析によって検討した。実測データを解析した結果,東京湾央部の流出油から揮散した高濃度NMHCは風速10m/s程度の南西風によって東京湾北東部から茨城県南部にパフ状に輸送され東京湾北部陸上で最高6ppmCに達したこと,高濃度NMHCパフの通過時にはNMHCとともに光化学オキシダントも上昇することが認められた。次に数値解析によって事故による大気環境影響を検出した。基本ケースの数値計算によって原油流出に伴う大気環境影響の基本的特徴が再現されるのを確認した後,事故ケースと事故なしケースの差を影響量とみなして分析した。この結果,高濃度NMHCパフ内においては光化学反応によってO_3等の光化学オキシダントやNO_2が生成し,その最大上昇濃度はO_318ppb,NO_22ppbであることが明らかとなった。
著者
三原 真智人 AQIL Muhammad MUHAMMAD Aqil
出版者
東京農業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

GISやリモートセンシング技術を活用して、ベンガワンソロ流域における土壌侵食の原因の解明と土壌劣化の評価に取り組んだ。これまでの研究の結果、流域全面積の約36%から年間60t/haを超える深刻な土壌侵食を生じていると評価でき、特に急傾斜地での農地開発は土壌劣化を加速させることが明らかとなった。土壌劣化や土地生産性の低下を削減することを目的に、保全地域を特定するとともに、土壌・水保全対策の実施に向けて土地保全マップを作成した。この保全マップは行政機関のみならず、学校においても土壌・水保全に関する教育プログラムとして使用できる仕様とした。更に、土壌損失の低減を目指した作物残渣マルチング(土壌被覆)法の保全能を評価するために、人工降雨装置を活用してモデル実験を行った。実験の結果、マルチングを施さない試験枠からの土壌流亡量と比較して、30~40%の土壌被覆によって土壌流亡量を38%から53%程度を削減できることが明らかとなった。このマルチング法による保全対策は、現地で容易に手に入る作物残渣を活用して適用できるものであり、ベンガワンソロ流域の現地農家からも受け入れられる技術であると期待が寄せられている。土壌劣化や土地生産性の低下の削減を目的に作成された土地保全マップに基づいて、作物残渣マルチング(土壌被覆)法などの適切な保全技術を普及することで、ベンガワンソロ流域における土壌・水保全に大きく貢献するものと評価できる。併せて本研究では、リアルタイムで河川水のモニタリングに向けた情報システムの開発にも取り組んだ。このプログラムによって約94%の予測精度で24時間後までの水位予測を可能にすることに成功している。IJERD国際誌(International Journal of Environmental and Rural Development)に掲載されたこれらの研究成果に対して、優秀論文賞が「環境に配慮した持続可能な農村開発に関する国際会議」で授与されている。
著者
橋本 誠志
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.45-64, 2003-03

論説ブロードバンドサービスの普及に伴い我が国は本格的なインターネット常時接続時代へと突入している。インターネットに長時間接続するユーザーが増加するにつれ、インターネット上にユーザーの個人データが流出する危険性は拡大する。精度の高い個人データが一旦、ネットワーク上に流出すれば、データ主体は、たとえ犯人が逮捕された後も私的生活の平穏を脅かされるリスクを常に背負う。個人データの流出予防策に加え、実際にデータが流出した際の被害拡散防止策の充実が今後のインターネット上の個人データ保護政策にとって不可欠である。現在のプライバシー侵害の主な救済手法である不法行為構成には、要件上の限界が存在し、権利保護に費用と時間がかかるばかりでなく、(1)賠償額も低額しか認容されない、(2)立証責任、時効面で柔軟性に欠ける、(3)権利保護の程度が貧富の差に左右される等の問題がある。近時では、情報主体と事業者間において契約関係が存在する場合、事業者がデータ主体の同意した範囲を超えた情報取扱をした場合に債務不履行責任を認める契約アプローチが提唱され、米国では、既にインターネット上での個人データ保護政策のフレームワークとして利用されている。しかし、我が国では事業者のプライバシーポリシーの監視制度やプライバシー保護団体のサポートが機能しておらず、契約アプローチの実効性は期待できない。本稿では、近時のプライバシー保護技術の動向に鑑み、インターネット上への個人データ流出した際の被害拡散防止手法として、財産権的アプローチの有効性を検討し、インターネット上での個人データの交換にライセンス制の導入を提案する。
著者
山口 律子
出版者
園田学園女子大学
雑誌
園田学園女子大学論文集 (ISSN:02862816)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.69-85, 1997-12-30

紅花染めには,黄色素をなるべく水に流出させた後に染める,まだ黄味の残っている紅(くれない)という美しい色がある。紅花からこの美しい色を引き出すために,どのような染色方法が良いのか検討した。今回は,特に,紅花染めにおいて,黄色素はどの程度除く必要があるのか検討した。1.染色香は,黄色素の抽出において,延べ抽出時間を長くするほど,黄味が少なくなり,赤味がわずかに増した。2.黄色素は,抽出する水の量が多いほど,早く十分に除くことができ,黄色素の延べ抽出時間を短縮できた。3.1回の黄色素抽出時間が短くても,抽出回数を多くすることにより,黄色素は十分に除くことができた。4.黄色素の抽出は,紅花染めをおこなうときの状況にあわせて,抽出条件を設定できることがわかった。
著者
小松 優 藤永 薫
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本提案は環境に負荷を与えない事を考慮した有害金属イオン除去のシステムを開発する事を目的としている。平成18年度には、二酸化チタンおよび炭酸カリウムを原料として、フラックス(モリブデン酸カリウム)法により層状構造結晶質四チタン酸カリウム繊維の合成を試みた。この繊維の物理的性質を確認した後にカリウムイオンを水素イオンに組成変換し、イオン交換体として使用した。対象金属イオンとしてアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価遷移金属イオンを選択し、バッチ法でのイオン交換能を検討した。その結果、いずれの金属イオンでも高いイオン交換能を示した。平成19年度には、アルカリ金属イオン群(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン)、アルカリ土類金属イオン群(マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン)、および遷移金属イオン群(銅イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン)を選択し、無機イオン交換体として合成した結晶質四チタン酸繊維へのバッチ法でのデータに基づいて、カラム法でのイオン交換分離を試みた。その結果、カラム中に充填した結晶質四チタン酸のイオン交換能を活用するための流入液の水素イオン濃度を調整することにより、2種類の同族金属イオン間の分離を実現させた。以上の研究結果から、高レベル放射性溶液中に含まれる長寿命核種のセシウムイオンやストロンチウムイオンの分離、遷移金属イオン中のニッケルイオンの単離等が可能となり、廃棄物の減容化の目的が達成された。即ち、環境に負荷を与える有害金属イオンの分離が可能となった。
著者
地頭薗 隆 下川 悦郎 野元 俊秀
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学農学部演習林報告 (ISSN:03899454)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-50, 1986-03-25
被引用文献数
1

火山地帯に位置し, 火山砕屑物に厚く覆われている鹿児島大学農学部附属高隈演習林において, 森林理水試験流域を設置し, 水文観測を開始した。この観測は, 火山地帯における山地流域の流出特性を解明すること, 同時にこのような特異な環境条件下での森林の水源かん養機能, 洪水調節機能, 土地保全機能等について検討するための基礎資料を得ることを目的としている。ここでは, 試験流域の地形, 地質, 土壌, 植生等の調査結果について述べ, 1984年〜1985年の水文観測資料から試験流域の流出特性について考察した。得られた結果をまとめると次のようである。1)試験流域は, 扇形をした放射状流域であり, 標高520〜680mの高度域に位置し, 面積は43.42haである。2)流域の地質は, 中世界に属する砂岩からなる四万十層, これを覆うように洪積世末期に姶良・阿多両カルデラから大量に噴出した降下軽石が分布している。また, 土層の上層部には流域ほぼ全体にわたり霧島および桜島から噴出した火山灰および降下軽石が分布している。3)試験流域にルーズな状態で堆積している降下軽石層は非常に侵食されやすいため, 流域からは多量の土砂流出が行われている。1984年8月〜1985年8月の1年間に流域から流出された土砂量は約150m^3(約345m^3/km^2)であった。4)試験流域のほとんどは森林であり, 約40%がスギを主体とした針葉樹林, 残りの約60%が壮齢の広葉樹林である。5)試験流域における降雨-流出の関係を解析し, 流出特性について考察した。その結果によると, 試験流域では直接流出は一般山地流域より短時間で終了し, 直接流出継続時間は2〜23時間であった。したがって, 直接流出量も少なく, 直接流出率は0.1〜12%の範囲にある。6)地下水減水定数は, 0.001〜0.022(1/hr)の範囲にあり, 平均0.007(1/hr)であった。これらの値は一般山地流域より小さい。試験流域は火山砕屑物に厚く覆われていることから, 地中水は一般山地流域よりも長い経路をたどりゆっくり河川に達している。その結果, 地下水減水曲線の勾配は緩く, 無降雨時期にも安定した, 高い基底流量が得られている。無降雨時期の基底流量は試験流域において夏期0.04(m^3/s/km^2), 冬期0.02(m^3/s/km^2)である。
著者
多和田 眞 (2008-2009) 多和田 真 (2007) 孫 淑琴 (SUN Shuqin)
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

発展途上国の二重経済について、環境政策と貿易政策がどのように協力して経済厚生を上昇させるかという課題に取り込んできた。特に発展途上国経済の特徴を代表するモデル(Harris-Todaro、1970)に環境問題を導入し、環境保護政策や貿易政策が労働移動や経済厚生にどのような影響を与えるかを分析した。また、循環資源貿易とリサイクル活動をH-Tモデルに取り込んで、貿易自由化がこの経済にどのような影響を及ぼすかも検討してきた。二重経済モデル(Harris-Todaro)についての拡張は多く見られるが、環境問題や循環資源貿易を導入した分析はそれほど多くない。本研究では生産要素は二要素として部門間移動が自由な労働と各部門に固定的な資本を考え、小国開放経済を想定する。そして、従来の研究を発展させて、労働移動のインセンティブが賃金の格差ではなく効用の格差であると考えて分析を行った。その下で工業部門の生産活動が環境汚染を引き起こし、消費者に悪影響を与えると考えて、工業部門の汚染発生率や工業部門の固定賃金水準の変化など、工業品の輸入に対する関税の賦課が労働移動や経済厚生水準にどのような影響を与えるかを考察した。結果は汚染削減技術の推進などの環境保護政策が都市失業の増加を招くが、経済厚生を上昇させるなどの結論を導出した。また、Harris-Todaroモデルに循環資源貿易とリサイクル活動を取り入れた新たな一般均衡モデルを構築し、循環資源の貿易パターンがどのような要因によるのか、循環資源の貿易自由化がこの経済にどのような影響を与えるかを検討してきた。そして、これまでの研究をまとめて、2編の論文を作成して、そのうち1本は国際誌に、もう1本は国内レフェリー誌に掲載となっている。
著者
張 星源
出版者
岡山大学大学院社会文化科学研究科
雑誌
北東アジア経済研究 (ISSN:18808476)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-16, 2009-03-26

本稿では、アメリカUSPTOに登録された各国の特許情報に基づき、日本を始め、アメリカ、ヨーロッパおよびアジア諸国・地域における情報技術に関連するイノベーションの国際比較を行った。得られた結果は以下のように要約できる。特許の登録件数では、アメリカ、日本、EU15カ国の順に多いが、最近では、アジア各国の成長が著しい。また、フィンランドやアイランドのような情報化先進国とともに、日本や韓国のICT特許の特化係数が最も高いことが分かる。特許一件当たりの引用回数により特許の質をみると、アメリカの被引用件数が最も多く、日本とEU がこれに次ぎ、アジア諸国の引用される回数は少ない。技術スピルオーバーについては、アメリカとアジアは、他国よりイノベーションの成果を吸収しているのに対し、日本とEUは逆に他国にイノベーション成果を流出させているといえる。
著者
李 相一
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土質工学会論文報告集 (ISSN:03851621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, 1978-03-15

サイロなどに貯蔵される粒状体の流出機構に関連して, 内径60mm, 高さ90cmの円筒形容器に豊浦標準砂を詰めて容器の底面に設けた円形の流出口から流出させ, 試料高さと流量の関係, 流出口径と流量の関係を求め, その結果に関して液体(連続体)と比較しながら考察を行なった。結果として, 流出時の試料高さは等速度で低下すること, 流出量は試料高さと無関係に一定であること, 流動部分はタイ積時の密度を維持したまま流動していること, 流出量は流出口径の3乗に比例すること, 各粒子の平均落下速度は流出口径に比例することなどの知見が得られた。さらに, これらの事実から動的摩擦係数が一定であるとすれば, 流動部分の拘束圧は試料の高さにかかわらず一定であること, 一度流動部を形成させてから静止させた場合に流出口に作用する圧力は流出口径の2乗に比例することなどを推論した。
著者
砂村 倫成 山本 啓之 岡村 慶 福場 辰洋 臼井 朗 リンズィ ドゥーグル
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

海底下の大河の海洋環境への化学・生物学・生態学的影響評価のため、深海熱水プルームの時空間定量化を実施した。熱水プルーム観測のため、現場測器・サンプリング装置・音響探査手法を開発し、西太平洋やインド洋の18箇所の熱水域にて、自律型潜水艇を含む調査航海を実施した。熱水プルーム中での微生物群集組成と噴出熱水成分の相関性を見出し、プルーム内での4つの大河仮説が検証された。熱水プルーム内での微生物による一次生産量測定手法を開発し、一次生産量を見積もるとともに、動物プランクトン化学分析により、熱水プルームでの有機物生産が深海生態系に一定の影響を及ぼしている証拠を初めて提示することができた。
著者
松波 淳也 Matsunami Junya
出版者
法政大学大原社会問題研究所
雑誌
大原社会問題研究所雑誌 (ISSN:09129421)
巻号頁・発行日
no.580, pp.1-10, 2007-03

わが国は,循環型社会形成を目指して廃棄物管理政策の法体系を整えてきたが,あくまで法体系が想定してきたのは,いわゆる「国内」循環であり,循環資源等の国外への流出や国外からの流入を想定したものではなかった。経済のグローバル化にあいまって,製品の「動脈」物流のみならず,中古品,使用済み品,廃棄物等の「静脈」物流に関しても国際的な移動は拡大してきている。循環は国内で「閉じた」ものではなくなってきている。中古品,使用済み品,廃棄物等は潜在的に環境汚染リスクを有する。国内循環の枠組みで法体系を整備し,いかにそうしたリスクが軽減されるとしても,国内循環の枠組みを越えて,中古品,使用済み品,廃棄物等が国外に流出されてしまえば,政策的に管理困難な状況となるのは自明である。さらに,国外において,流出した中古品,使用済み品,廃棄物等が原因で環境汚染の問題が生じた場合,国際的な責任問題も発生するだろう。本稿の目的は,従来の「国内」循環型社会の概念を拡張した「国際的循環型社会」の概念を検討し,また,その「国際的循環型社会」が成立するための諸条件を明示し,さらに,政策的実現に向けた課題を整理することにある。
著者
戸谷 剛
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度は親油性表面での、平成17年度は疎油性表面での、液滴の飛散と捕集を分ける閾値について調べた。作動流体には、液滴ラジエータでの使用が考えられているシリコンオイル(信越化学工業株式会社KF96-50cSt)を用いた。シリコンオイルと親油性を持つ表面はアルミ面をもちいることで、疎油性を持つ表面はアルミ面に撥油剤(信越化学工業株式会杜KP-801)を塗布することで実現した。宇宙空間(微小重力,真空環境)での液滴の捕集と飛散を模擬するために、液滴の衝突は真空チャンバー内で行い、航空機(ダイヤモンドエアサービス株式会社MU-300)を用いて微小重力実験を行った。その結果、以下の知見を得た。1.通常重力下での液滴の飛散と捕集を分ける閾値(K=We×Oh^<-0.4>)は、親油性表面で○○○、疎油性表面で○○○であることが分かった。2.宇宙空間と通常重力下での液滴の捕集と飛散の結果を比較したところ、微小重力下と地上重力下での結果に違いがないことが分かった。3.宇宙空間での液滴の飛散と捕集を分ける閾値は、微小重力実験の回数が少ないことから、はっきり特定することはできなかったが,1,2の結果より、通常重力下での閾値の値と違いがないことを推測することができた。4.親油性表面と疎油性表面で液滴の捕集と飛散を分ける閾値に大きな違いがないことから、液滴回収器の表面は親油性でも疎油性でも良いことが分かった。5.1.の結果は従来の報告よりも大きい値であり、使用した作動流体の粘性、表面張力の違いが原因と推測される。6.液滴の捕集と飛散を分ける閾値は、液膜厚さには依存しないことが分かった。従来の報告よりも液滴速度が高速(○○〜○○m/s)であるため,液滴の持つ運動量により,液滴の衝突部の流体が排除され,液膜厚さがほぼ一定であったためであると推測された。
著者
目谷 義大
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.275-278, 0000
被引用文献数
2

サイレージ発酵を経時的に追求し,各種要因解析の基礎資料を得るためにオーチャードグラス(水分含量85.5%),アカクローバー(水分含量87.2%)を用いて実験した。その結果,オーチャードグラスにおいてはGOUET^<2)>,GREENHILL^<3)>の得た結果とほぼ同様な経時的変化が認められたのに対し,アカクローバーではplant juiceが非常に早く流出し,さらにplant juice流出から活発な乳酸発酵開始までにオーチャードグラスよりは30時間以上も遅れることがわかり,さらにその後も引きつずき,オーチャードグラスよりはかなり高い乳酸含量で経過したことなど草種別サイレージ発酵には大きな相違のあることが認められた。