著者
柴田 明穂
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、国際法理論と環境条約交渉のインターフェイスを分析することを通じて、形成途上にある条約制度がそれを基礎づけ枠づける国際法の理論的支柱とどのように関連づけられたのかを、動態的に解明することを目的として行われた。その結果、一般国際法理論たる責任(liability)概念が「学者外交官」の主張により環境条約交渉に反映されることもあったが、現場の交渉状況を反映した政治的判断により、条約解釈に関する一般国際法との整合性を排して特別法を創設する国際法の断片化現象が顕著であることが分かった。
著者
石黒 浩 中村 泰 岩井 儀雄
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

22年度では,三者間の非言語コミュニケーションを用いた親和的な情報メディアの創出を目的として,病院の診察場面に陪席するアンドロイドを用いた実証実験に取組むと共に,ヒューマノイドロボットを用いたロボット演劇に取組み,アンケートを実施することで演出家による演技指導の中に含まれるロボットの自然な振る舞いについてのルールの抽出に取組んだ.さらに,小型で単純な構造を持つロボットを利用することで,人間がもつ対話に対する印象に与える影響を調査することで三者間でのコミュニケーションの仕組みの理解に取組んだ.これらの技術を支える動作認識機能を利用した動作生成メカニズムとして,視覚や聴覚に基づいた対話への陪席者として自然な自動動作生成法の開発も行った.病院での実証実験では,医師の後方に陪席アンドロイドを設置し,その振る舞いが患者の持つ診察に対する印象にどのような影響を与えるかを調査し,陪席者としてのアンドロイドが患者の笑顔や頷きに合わせてそれらの表情を表出することで,患者の診察に対する印象が向上することを明らかにした.この結果は,以前行った実験と整合性を取ることが可能なものである.また,以前の実験において課題となっていたアンケートの天井効果などの問題も克服した結果となっており,この知見に対する信頼性を向上することができた.ロボット演劇においては,動作生成システムに改良を加え,それを用いて40分の長編演劇である"森の奥"の上映を行った.アンケートにおいては特に共感性に着目した解析を行っており,人間の役者の共感に関わる評価と同様に,自身の共感性の高低によってロボットの共感に関する評価が分かれることが明らかになった.
著者
大貫 繁雄 大塚 友彦 清水 昭博 城石 英伸 西村 亮 小坂 敏文
出版者
東京工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,技術者を目指す学生のモチベーションを向上させるため,15歳という低年齢から学生の意識を「頑張ること=達成感を得るための第一歩」が「嬉しい(さらなる向上へ)」という状態に遷移させる仕組みを提案する.まず,現行の新入生専門導入科目「ものづくり基礎工学」の現状分析を学生意識調査により,入学当初から,複合・融合的視点を修得する意義を認識する学生が多いことが明らかになった.次に、社会ニーズ(環境やエネルギー等)の高い分野の基礎実験テーマを組み込み、社会で望まれる技術者像の理解向上を試みた.学生の意識調査から社会ニーズの高い分野への関心や社会で望まれる技術者像についても高い認識を持っていることが明らかになった.最後に,社会人技術者から構成される人材バンクを立上げ,外部教育力を活用して,「ものづくり基礎工学」の授業の一環として設計・製作物の発表会(競技会),講演会等を実施し,学生の自発的な発想力や行動力向上のための新しい授業形態を検討した.学生意識調査から,現場技術者から実務能力について講演を受けることで、技術者意識について共感する学生が多い結果となった.
著者
新谷 寛
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ガラスは工業的に非常に重要であるが、ガラス転移転移の基礎的メカニズムに対する回答は未だに得られていない。この問題に対し我々は、「局所安定構造形成による短距離秩序化」と「結晶化による長距離秩序化」との競合によるフラストレーションが過冷却液体には存在し、それがガラス転移現象の本質と深く関わっているという「二秩序変数モデル」を提案している。そこで、相互作用ポテンシャルに上記のフラストレーションを導入することで、結晶化からガラス化までを続一的に扱えるモデルを構築した。ガラスには、ガラス転移現象の他にも、ボゾンピークと呼ばれる未解決問題が存在する。ボゾンピークとは、THz領域に存在する、デバイの状態密度(低温での結晶の振動状態密度を良く記述できるモデル)よりも過剰の振動状態密度である。しかし、ボゾンピークがガラス転移現象と関連があるのかどうかや、その起源に関しては未解明のことが多い。我々は、前述したモデル用いて、分子動力学シミュレーションを行った。このモデルの圧力やフラストレーションを制御することで、ボゾンビーク振動数を幅広く変化させ、系統的に研究することにより、ボゾンピーク振動数と横波の音波の Ioffe-Regel limit(ガラスのランダムネスの影響のため、音波が強い散乱を受け伝播できなくなる振動数)とに深い相関があることを発見した。さらに、この事実は次元性やポテンシャルの詳細によらない普遍的なものであることも明らかにした。このことは、ガラス(非晶質)の振動ダイナミクスの理解に大きく寄与するものと考えられる。
著者
小林 満
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

絶対王政の理論的な正当化が進んだ16~17世紀、カンパネッラはキリスト教的都市国家を目指し、ブルーノも社会改革に触れたが、両者とも自由に哲学することを禁じられ迫害された。『偽金鑑識官』における原子論もガリレオを異端者と判断する原因となったが、異端審問後には、ガリレオは数学的議論として不可分者と無限について論じているものの、有限の人間の知性は無限を理解できないという慎重な態度も見せた。ガリレオ裁判後、イタリアのガリレオ派には、マガロッティのようにリベルタン的テーマにも取り組んだ者もいたが、マルケッティによるルクレティウスの翻訳は、原子論的性格のために出版を許可されなかった。
著者
成田 千恵
出版者
日本女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、個々の重症心身障害児(者)の体温調節障害の特性や身体の変形の程度、精神活動レベルを生体情報等の詳細な実測より客観的に評価し、それを基に個人の障害や生活環境の状況に適切に対応した衣服要素を検討することで、重症心身障害児(者)の衣生活における温熱性快適性の向上を目的としている。今年度は、これまでに計測を実施した重症心身障害児(者)、および健常者の衣服内環境と生体情報等の計測データの比較検討を行った。寝たきりの重症心身障害児(者)の衣服内環境の計測結果において、個人により衣服内湿度の変動レベルに差違が観察された。これまでの計測結果から衣服内湿度の変動は精神的ストレスの影響が反映されていると予想されることから、変動レベルの差違が障害の程度に影響を受けているとも考えられる。計測対象とした重症心身障害児(者)では部位による皮膚温変動に個人による特徴が観察されているが、健常者の長時間にわたる皮膚温計測においても、皮膚温変動には大きな個人差がみられ、重症心身障害児(者)にみられるような特徴的な皮膚温変動のケースが観察された。また、身体の変形が観察される重症心身障害児(者)においては、着用している健常者用衣服のサイズが身体に適合していないことにより衣服による保温性が十分得られないことが考えられる。衣服による保温性を高め、かつ介護者が無理なく着脱させることが可能である適切なゆとり量を検討するため、健常者を用いて異なる身体的障害を有する重症心身障害児(者)を模擬した被験者実験を行い、着脱による衣服開口部の伸張を計測し、障害により着脱に必要とされるゆとり量の差異について検討した。
著者
小柳 正司
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本年度は,以下の諸点について,2年間にわたる研究のまとめを行った。第1に,機能的リテラシーの捉え方の変遷を考察した。その結果,能的リテラシーは,当初の経済開発と人的資源確保に結び付いた「仕事のためのリテラシー」から,より広く社会的,市民的,文化的な次元を含む人間の基本的な生活能力の一環として捉えられるようになったことが明らかになった。第2に,機能的リテラシーの官製モデルを分析した。そして,一般の成人識字教育は,もっぱら非識字の「二流市民」を「良き市民」へと社会的に再適応を図る一種の補償教育であることを明らかにした。第3に,こうした通常の機能的リテラシーと成人式字教育の在り方を「飼い慣らし」と「非人間化」と批判したパウロ・フレインの識字教育論を考察した。そして,彼の識字教育は,文字の獲得を,民衆が自らの言葉で現実世界の成り立ちを読み取っていく過程として組織するものであることを明らかにした。第4に,1980年代のレ-ガン・ブッシュ政権下で新保守主義の教育改革が進行する中で登場した「文化的リテラシー」の主張を取り上げ,それが多民族国家アメリカの国民的共通文化の確保という課題をリテラシーの問題として新たに提起するものであることを明らかにした。第5に,文化的リテラシーの新保守主義的傾向への対抗理論として登場した批判的教育学のリテラシー概念を取り上げ,そこでは,(1)リテラシーの獲得は人々を既成の文化構造への参入を保証しつつ,それへの従属を図るものであり,(2)従ってリテラシーの問題は,何をもって「正統文化」とするのか,だれがそれを決めるのかという政治力学の問題であることが鋭く問われていることを明らかにした。
著者
佐藤 尚子 岡田 亜矢 江原 裕美 内海 成治 大林 正昭 黒田 一雄 横関 祐見子 織田 由紀子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.女子教育の問題は、その社会におけるジェンダーのありようと深く関係していることを明らかにした。たとえば、ジェンダーギャップの少ないと言われているブラジルにおいても、女子教育の現状は問題がある。ジェンダー概念は文化の深層に根ざすため、微妙な形で表出するからである。女子教育の発展はジェンダー規範と関係があり、ジェンダー規範はそれぞれの地域や民族の文化と深い関係がある。しかし、イニシエーションや早婚など女子教育を阻害する民族的文化的背景を絶対視する必要はない。近代中国において女子の伝統であった纏足が消滅した例があるからである。2.女子教育を促進または阻害する文化のもつ意味は重大であるが、しかし、本研究は、題目にあるとおり、現在の文化的要因を越えて「社会経済開発」を考えようとした。たとえば、フィリピンでは、識字率、就学率、最終学年への到達率、教育の理解度などで性別格差がみられないと報告されている。しかし、フィリピンはまだ途上国経済から脱していない。女性と女子教育が社会経済開発に強い役割を持つことが重要である。経済開発に対する教育の貢献度を男女別で量的に比較することは困難であるし、女子教育と経済開発の関係性は複雑でもあるが、社会経済開発における女子教育の有用性については強い相関関係がある。日本でもナショナリズムの台頭時期に主に社会開発の視点から女子教育が普及した。インドでは女子教育は階層間格差によって増幅され、重層的な格差の構造を形成している。この構造を破るものは、目に見える形で社会経済開発と女子教育が結びつくことである。3.単なる人権・倫理的視点からの女子教育振興ではなく、社会経済開発という視点を入れた女子教育振興こそ、発展途上国の女子教育を成功に導くものとなると思われる。
著者
川上 陽子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

H19年度は、おもに贈与について研究を深めた。贈与が死と密接な連関をもっていることをつまびらかにした。そのために、ハイデガー、キルケゴール、デリダ、レヴィナス、ブランショらの著述をひもとくこときながら、彼らが死が到来するものということを前提とし、他の誰のものでもなくこのわたし固有のものである死という概念、それをぞんざいの担保としていたのに対し、死は誰しもに必ず訪れるものであるにもかかわらず、死の瞬間にわたしは雲散霧消するのであるから(すくなくとも「わたしたち」の「世界」においては)、死は届きそうでその瞬間に姿を消す、決して届き得ないものであること、つまりは絶対的他者性であり、にもかかわらず、それは産まれる瞬間にどこからともなく誰から都もなく贈与された、わたしとは切っても切り離すことができない不気味ななにものかであることを論じた、さらには、誰しもに贈与されていることば、とりわけその先鋭的な形態である一人称代名詞「わたし」が、誰しもに贈与されているがゆえに、誰しもにとってもっとも近しいものでありながら誰のものにもなりえないアンヴィヴァレンスをはらんでいることを、多和田葉子やブローディガンなどの文学作品を論じることによって明らかにした。ここにおいて、死とことばが、贈与という概念によわて結ばれることになる。死はぞんざいにとって絶対的他者性であるがゆえに、またその他者性においてのみそのぞんざいの単独生を支え、ことばも絶対的他者性であるにもかかわらず、わたしはそれを使用することによってしかしゅたい化することができない。どちらもぞんざいにとってなくてはならぬものであるにもかかわらず、それをつきつめると、しゅたい化とともに脱しゅたい化がおこるのである。これはいままで論じられることのなかった論点であり、たいへん重要な示唆に富むものであるとおもわれる。
著者
松見 法男
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

平成16年度は,「日本語を母語とする幼児の英語学習において,言語の種類と色のイメージがものの認識にどのような影響を与えるか」を明らかにするため,日本語単語と英語単語の聴解課題を用いた実験を行った。被験児は英語未習の幼稚園年長児24名であった。日常カタカナ語として用いられる「赤,黄,緑,青,黒,白」の6色を色イメージとして選定し,それらの日本語単語と英語単語を,特定の色をもつ普通名詞3個(いちご,ヒヨコ,はっぱ)ならびに特定の色をもたない普通名詞3個(かばん,車,花)と組み合わせ,計72個の言語刺激材料を作成した。6色の名詞に対応する絵カードは,標準絵を利用して36枚を作成した。実験計画は2(刺激言語:日本語,英語)×2(色イメージ性の有無)×2(音韻短期記憶容量の大小)の3要因配置であった(第3要因のみ被験者間変数)。実験は個別に行われ,被験児は,ヘッドホンから流れる言語刺激(日本語-英語バイリンガルによる発音)を1個ずつ聴き,それが表すものをできるだけ早く36枚の絵カードから選ぶ(1枚を指差す)ように教示された。測度は正答率と反応時間であった。聴解課題終了後,日本語ディジットスパンテスト(DST)が行われた。正答率に関する分散分析の結果,言語刺激の主効果が有意であり(日本語で高い正答率がみられ),DSTの主効果にも傾向差(DST高群で高い正答率)がみられた。色イメージの主効果は有意ではなかった。幼児が「色のついたもの」を認識するときは,色イメージよりも言語音声に影響されること,また,カタカナ語の借用元である英語よりも日本語で色名単語が発音されるほうが「色のついたもの」の認識が正確になることがわかった。さらに「色名単語+普通名詞」の聴き取りでは,音韻情報を一時的に保持する音韻短期記憶の容量が要因の一つとして関わることが示唆された。
著者
米倉 達広 住谷 秀保 米倉 達広
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 筆者らは、最近その応用が盛んとなっている仮想空間構築の方法論を、視覚、聴覚、触覚の融合方法に関する理論的基盤を確立することにより達成しようとする。本報告ではそのための主たる予備実験として、個々の感覚モードを互いに分離し、それぞれが視覚機能をどのように代行するかを調査した。このための第1段階として人間の聴覚機能に着目し、視覚機能を主体とする空間認知の感覚機能をこれに代行させることを試みた。すなわち、音響媒体を用いた3次元位置情報の提示と3次元動作情報入力を用いた3次元空間インタフェースを提案し、視覚媒体を失った場合においても整合感のあるインタフェースを用いることにより、簡単な訓練のみで十分な空間認知が可能となることを実験的に証明した。これにより、視覚メディアの空間認知機能の補助として聴覚メディアの重要性を確認したのみでなく、聴覚メディアのみによる仮想空間走査性を示唆した。2. 次に触覚提示装置を用いた空間認知方式を考案し、これによる周囲障害物までの距離感覚提示を試作した。具体的には、人間の蝕覚特性を独自の方式で計測し、そのうえで視覚情報を遮断した状態で同装置を用いて周囲障害物回避を伴う歩行実験を行った。その結果、適切なインタフェース方式を用いた場合、触覚メディアが視覚メディアの適切な代行機能となり得ることを示唆した。これらにより視覚的な障害を有する操作者や視覚機能低下者のための情報機器操作、生活環境把握の一助として、聴覚メディアならびに蝕力覚メディアが十分利用できることを主にタスクパフォーマンスを用いる方法論により確認した。3. 更に、各種の利用目的に応じた仮想空間の構築に際して、感覚統合を有効に用いた幾つかの事例を述べ、仮想空間における感覚統合の重要性とそのための方式についてまとめる。有効な仮想空間を構築する際、人間のもつ環境適応能力による感覚代行機能は極めて重要なヒューマンファクタであり、今後はネットワークインフラまでをも含めた分散仮想環境(Distributed Virtual Environment)構築に関するヒューマンファクタを調査していきたい。
著者
大野 寿子 野呂 香 早川 芳枝 池原 陽斉
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

『メルヒェン集』、『伝説集』の森の特性を検証しつつ、グリム兄弟の「理念としての森」の意義を、「生の連続性」という観点から明らかにした。言語、歴史、文学、文化における「古いにしえのもの」の喪失を森林破壊プロセスにたとえ、「古いにしえのもの」の再評価の重要性を説く彼らの自然観および詩ポエジー観は、19世紀エコロジー運動の理念における先駆的地位を担いうる。伝承文芸に必要な想像力の豊かさとは、心情としての内面的「自然」を豊かにする「癒し」の力を有する意味で、現代社会における「心のエコロジー」にも繋がりうる。
著者
直江 眞一 朝治 啓三 井内 太郎 國方 敬治 苑田 亜矢 都築 彰 沢田 裕治 吉武 憲司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、イギリス(イングランドのみならずスコットランドおよびウェールズも含む)中世史および近世史における諸史資料を、総合的・学際的・系統的に検討し、あわせて諸史資料の解釈を通して、イギリス中・近世史の再構成を試みたものである。研究分担者の間では、史資料を、[1]文書の性格に応じて、統治・行政文書(都築)、荘園関連文書(宮城)、証書(中村)、叙述史料(有光)、私文書(森下)に分類する一方、[2]発行主体に応じて、国王裁判文書(澤田)、国王立法関連文書(苑田)、国王宮廷関連文書(吉武)、国家財政関係文書(井内)、貴族家政文書(朝治)、領主支配関連文書(國方)、ジェントリ関連文書(新井)に一応分類することによって、全体として体系性を保つようにした。研究代表者および研究分担者はそれぞれ、研究対象とする史資料に関するマニュスクリプトをはじめとする1次史料に関する情報を国内外の図書館・文書館から収集し、それらを分析・整理する一方で、とりわけ研究会における共同討議を重視した。毎年度2回、研究期間全体で8回開催された研究会の活動を通して、史資料に関する情報の共有化、さらには各史資料の間での形態・様式・機能・伝来状況の比較研究等、個人レヴェルでの研究では到達しえない研究組織全体としてのイギリス中・近世史資料に関する知見の拡大を得ることができた。また、毎年度3名がイギリスに出張し、史資料の調査・収集および学会ないし研究会における研究成果の発表あるいはイギリス在住研究者との意見交換等を通して、研究の深化を図ることができた。
著者
大高 泉 鶴岡 義彦 江口 勇治 藤田 剛志 井田 仁康 服部 環 郡司 賀透 山本 容子 板橋 夏樹 鈴木 宏昭 布施 達治 大嶌 竜午 柳本 高秀 宮本 直樹 泉 直志 芹澤 翔太 石崎 友規 遠藤 優介 花吉 直子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究プロジェクトは、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ等のESD(持続可能性のための教育)としての環境教育の展開を探り、実践、効果の一端を探った。具体的には、ドイツの環境教育の40年間の展開を探り、持続可能性を標榜するドイツの環境教育の動向を解明した。また、ESDとしての環境教育政策やその一般的特質、意義と課題を解明した。さらに、12の事例に基づきイギリスや日本の環境教育の広範な取り組みの特質を解明した。
著者
吉田 毅 山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

一流選手のキャリア・パターンを明らかにするために、16校の一流サッカー選手たちを対象に調査を行った。また、スポーツキャリア形成過程をめぐる日本的特徴を明らかにするために、ユニバ-シア-ド競技大会参加選手を対象に国際比較調査を行った。ここでは、紙幅の都合上、前者についてのみ報告する。選手たちは非常に早期から、ほとんど独占的にサッカーと関わっていた。生活においても、小学校時代よりサッカーが中心を占め、また多くが一流選手になりたいという指向性を持っていた。彼らの主たる活動の場は、地域や学校のクラブであった。始めるきっかけは、自分の判断やメディア、友人の影響が大きかった。サッカーとの関わりで中学校への進学を考えた者は少数であったが、多くの者にとって、進学する高校の選択には、サッカー環境は重要な要因であった。現在、4割以上が遠征に年間1月〜2月を費やしており、そのことが将来の進学や就職、勉強への不安となって現れているようであった。卒業後は4割以上が大学への進学を希望しており、すぐにプロとして活躍したいとする者は意外にも少なかった。スポーツ選手のリタイアメントについては、過去に大学で活躍した人々を対象に調査を行った。その主な結果は次のようなものであった。彼らは大学時代、生活の多くを犠牲にして競技に取り組んでおり、4割以上が将来一流選手になることを強く願っていた。2割は、大学への進学はスポーツの推薦入学であった。8割近くが大学卒業後も実業団・教職員チームなどで競技選手としての活動を続けていた。引退の決断は自発的なもので、体力や意欲の減退、時間的な制約などが主な理由であった。多くは、競技生活について後悔の念を抱いてはいなかった。引退後の職業生活上の困難を感じている者は少数であった。これは、多くが体育やスポーツに関わりのある職業を得ることができたためと考えられる。
著者
薩摩 雅登 竹内 順一 稲葉 政満 薩摩 雅登 横溝 廣子 古田 亮 佐藤 真実子 松村 智郁子 竹内 順一
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

東京藝術大学大学美術館では、明治期の音楽録音資料・蝋管を212本所蔵している。しかしながら、経年変化とカビにより保存状態が悪く、音楽資料としての価値を失いつつある。そのため、その保存体制として、アモルデン水溶液による蝋管の洗浄、収納棚やトランクの薫蒸、針接触方式のデジタル再録音機・アーキフォン(Archeophone)により124本の音源の再録音を行った。また、蝋管の基礎調査として、国内や海外の各機関や個人コレクターを対象としたアンケート調査および実地調査にて、収蔵環境や音源のデジタル化、蝋管の公開の手法、関連する最先端の情報を収集した。さらに、明治期の蝋管や蓄音機に関する新聞記事および広告を調査し、当時の社会状況を把握した。現在に至るまで断片的な研究しか行われていなかったが、本研究において、蝋管に関する情報を集約した。
著者
深尾 葉子 安冨 歩 安冨 歩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究により、現地における通年の農作業調査を行い、また社会的コンテキストに働きかける緑化実験として、「黄土高原国際民間緑色ネットワーク」の活動を支援、参画し、観察を行った。同活動は、陝西北部楡林市一帯で、着実に活動を定着させ、広がりを見せており、地域の文化的社会的コンテキストに依拠した自律的自発的緑化モデルとして、貴重な事例となっている。現在一連の活動の成果を、『黄土高原生態文化回復活動資料集』としてまとめており平成21年度中に東京大学東洋文化研究所および風響社より出版予定である。
著者
入野 俊夫 河原 英紀 津崎 実 西村 竜一
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

音声知覚の基盤となる聴知覚特性を明確にし、数理的な理論の構築/検証を行った。1)寸法・形状知覚:発声方法による寸法弁別閾の違いが無いことや時間特性を明確にした。2)聴覚フィルタ特性/難聴者・健聴者の聴知覚特性:聴覚フィルタの周波数選択性や圧縮特性の同時測定と、模擬難聴を実現できる枠組みを世界に先駆けて開発した。3)機能的磁気共鳴像(fMRI)実験:音声からの寸法知覚の情報処理の座に関して知見を得た。4)音声知覚モデル化/音声・音響処理:理論的な背景をもとに話者の声道長推定が精度良くできることを示した。また、知覚的音響処理の改善も行った。
著者
清水 厚志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1)データベースの構築1000個のカオナシ遺伝子についてデータベースを構築し相同性のある遺伝子および他の生物種の相同遺伝子のデータをBLASTを用いて集積するシステムを立ち上げた。ヒトカオナシ遺伝子に関しては、cDNAの増幅のために必要なゲノム構造の入力を行いプライマーの設計も自動で行うシステムを構築した。設計した20個のモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)の配列データおよび位置の登録を行った。RT-PCRの結果やメダカ胚の画像、条件などをインジェクション機器に付属したPCからデータベースにアップロードするシステムを構築した。さらに、これらのデータをウェブブラウザーで表示できるシステム構築を行った。2)カオナシ遣伝子に対するRT-PCR及びWhole mount in situ法による発生初期ステージの発現解析メダカの発生ステージごとに受精卵を100-1000個採取しmRNAを抽出しcDNAを合成した。これらのcDNAライブラリーを用いて130個のヒトカオナシ遺伝子のメダカオルソログのRT-PCRによる発現解析を行った。これらの発現情報をもとにMOが有効な初期胚から発現している遺伝子20個をノックダウン解析の対象遺伝子とした。3)ノックダウン法による機能解析2)で選択した20個のカオナシ遺伝子についてMOを作製しメダカ初期胚に対しノックダウンを行った。その結果、脳室の肥大、発生阻害、アポトーシスなどを引き起こすMOを得ることができた。これらのことから機能推定が全くできず逆遺伝学の対象から外れているカオナシ遺伝子の中に発生に関与する遺伝子が含まれていることが確認できた。一方で、より安価にノックダウン解析を進めるためMOの他に市販されているアンチセンスオリゴであるGripNAやLNAなどを用いてノックダウン解析を行ったがMOと同様の表現型を得ることができなかった。
著者
伊東 久之
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

鵜飼は飼い慣らした鵜をたくみに利用して魚を獲る漁法である。この漁法は中国と日本において盛んにおこなわれ、一部は東南アジアからインドまで広がっている。両国の鵜飼はほぼ、同類と思われてきた。そのため、日本の鵜飼は中国から伝わってきたとする考え方が一般的である。しかし、両者の間には大きな違いがあるのである。長江にそって中国南部に広く分布する鵜飼は、鮎を獲る漁ではない。中国に鮎はいないのであり、鯉科の魚を獲るのである。この獲物の違いは、鵜を獲る漁法と鵜の日常生活に大きな差をもたらしている。日本の鵜飼が夏に行われるのに対して、中国の鵜飼は冬をシーズンとしている。中国に限らず、鯉は年中川にいて、晩春に産卵する。中国ではこの時期を禁漁とする。一方、日本の鮎は秋になると産卵のために川を下り、春に子供が遡上するまでの間、川には魚の姿がほとんど見られなくなる。このことは日本の鵜飼の漁期が短かいという結果をもたらす。しかし、最も大きな問題は、魚が減少する冬の間,鮎をどうやって食べさせていくかを考えなければならないことである。鮎の越年方法を持たない鵜飼は、日本では成り立たない。これが中国の鵜飼と大きく異なる点である。こうした観点から、日本での鵜の越年方法を全国的に調べてみた。そこには三つの方法が見出される。一つは秋になると鵜を海に戻す「放鳥方式」。二つめは海辺に預ける「里子方式」。三つ目は鵜とともに漂泊の旅に出る「餌飼方式」である。このように、さまざまな越年方法が各地で編み出されているということは、この漁法の歴史の長さを感じさせる。また、中国からの伝来説も、単純な移入でないことがわかり、簡単に決めつけることができなくなった。ともかく、鵜飼が鵜と鮎の習性の中で営まれる巧みな技であることが再確認された。