著者
有田 英之 市村 幸一 山崎 夏維 松下 裕子 成田 善孝
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

神経膠腫は成人悪性脳腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍である。同一の診断でも様々な経過を示すため、より詳細に臨床経過を反映した分類が可能なバイオマーカーの探索が望まれてきた。我々は、近年の神経膠腫の遺伝子解析で発見されたテロメア関連遺伝子、特にTERTに着目し、国内のコホートを用い、臨床経過との関連を詳細に検討した。TERTのプロモーター変異は、従来本腫瘍で予後因子として知られていたIDH1/2やMGMTと組み合わせることで、神経膠腫をより詳細に分類することができることを明らかとした。
著者
濱崎 直孝 浜崎 直孝 (1989) 濱崎 直考 (1987) RICHARD J.La OMACHI Akira 大久保 研之 LABOTKA Lichard J. RICHARD J La
出版者
福岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1987

本研究は高エネルギーリン酸化合物であるホスホエノールピルビン酸が細胞膜を透過するという現象についての生化学的な研究である。この現象は、当時の常識を破って、赤血球膜について1975年に我々が見出したものである。その後の研究で赤血球膜のみにかぎらず、腎尿細管上皮や肝細胞膜もホスホエノールピルビン酸が透過することが判明している。この透過現象はホスホエノールピルビン酸に特異的であり、ATPなどの他の高エネルギーリン酸化合物やホスホエノールピルビン酸に構造式が類似している2ーホスホグリセリン酸は細胞膜を透過されないことが証明された。本課題研究はホスホエノールピルビン酸透過の分子機構を解明する目的で、蛋白質化学的手法とNMRなどを用いた物理化学的手法を組み合せた協同研究である。蛋白質化学的研究は主として福岡大学にて、NMRなどの研究は米国イリノイ大学にて行なった。その結果以下に列挙する知見を得た。1.ホスホエノールピルビン酸は赤血球膜の無機リン酸透過系によって媒介輸送される。2.その媒介担体は分子量約95,000の糖タンパク質であり、透過活性中心の1部を、この蛋白質のカルボキシル末端から60番目のリジンが構成している。3.さらに、細胞膜内側に存在しているヒスチジン残基も透過に必須のアミノ酸であることが判明した。4.このヒスチジン残基は、いわゆる透過活性中心を構成しているアミノ酸ではなく、この部位にAllostericに作用する部位だと考えられた。5.赤血球膜以外でも腎細胞、肝細胞膜においてもホスホエノールピルビン酸が透過するのは証明されたが、その透過機構が赤血球膜と同じか否かはまだ明らかでない。
著者
佐藤 慶治
出版者
精華女子短期大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究2年目においては、「みんなのうた」初代チーフ・プロデューサーであった故後藤田純生氏に更に焦点を当て、国会図書館、後藤田氏遺族自宅での資料調査や論文執筆・学会発表を行った。また、申請書に記載していた六つの研究課題のうち、以下の二つの課題について掘り下げることができた。⑤「ゼッキーノ・ドーロ」の調査「みんなのうた」の楽曲には、1959年に始まったイタリアの児童音楽祭「ゼッキーノ・ドーロ」の入賞歌曲を原曲とするものが複数存在する。後藤田氏の資料より、後藤田氏が「ゼッキーノ・ドーロ」の楽曲を「みんなのうた」に輸入した経緯を検討し、また商業主義の強かった「ゼッキーノ・ドーロ」の楽曲が「みんなのうた」に入ることにより、その後のポピュラー路線につながる契機となったことを導き出した。⑥学校教育における楽曲使用の調査この課題については、まず保育現場や小学校で使用されている楽曲の実態を検討した。また「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル」にも参加し、「ポピュラー性」をキーワードとして、特集番組等における「みんなのうた」各楽曲の使用頻度について調査を行い、各楽曲の認知度について分析を行った。また、5月3日に東京・晴海区民館で初期「みんなのうた」の関係者(当時のディレクター、演奏者、ファン会会員等)を招いての研究座談会を行った。これによって、1960年代の「みんなのうた」の制作背景や、当時の番組の受容についての情報を得ることができた。更に、9月17日に国際シンポジウム「近代の音と声のアーカイブズ」を熊本大学音楽学講座と共同開催した。そこで報告「戦後のNHK児童番組の資料保存についての現状と『みんなのうた』写真資料の発見」を行い、映像が失われてしまった1962年度版「大きな古時計」について、後藤田氏の資料よりセル画の写真資料を発掘したことと、再現映像を作成していることについての発表を行った。
著者
立花 宏文
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ヒト抗体産生細胞がカフェインや植物レクチンの刺激により、本来産生していた抗体軽鎖を消失し、代わりに新たな軽鎖を産生する細胞が高頻度に出現する軽鎖遺伝子の発現シフト現象(Light chain shifting)を見出した。Light chain shiftingを起こした細胞より産生された抗体は、いずれも本来の抗原結合性を大きく変化させていることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では、Light chain shiftingの自己抗体産生機構としての可能性について検討を行った。自己免疫病では、その発症に抗DNA抗体や抗赤血球抗体などの自己抗体の産生が直接的な役割を果たしているが、その産生機構はほとんど明らかにされていない。Light chain shiftingの自己抗体の産生への関与が明らかになれば、その誘導機構を解明することで自己抗体の産生を伴うことの多い自己免疫疾患の原因究明につながる可能性がある。そこで、Light chain shiftingによって発現した抗体の性質(自己抗原との反応性や軽鎖遺伝子の構造)を明らかにするため、Light chain shiftingを起こし軽鎖遺伝子の発現を変化させた細胞を多数クローニングして、それぞれの細胞より抗体遺伝子を調製し、その構造解析を行った。その結果、自己反応性を示した抗体の軽鎖の多くは、その可変領域に組み換えの際に生じたN領域を有していることが明らかとなった。このN領域は、重鎖の可変領域にのみ存在するとされ、デオキシヌクレオチド添加酵素(TdT)の働きにより形成される。実際、Light chain shifting誘導性の細胞では、TdTの発現が見られることを確認した。また、自己反応性を有する抗体軽鎖は、特定のV遺伝子を利用した遺伝子組み換えによるものであることが明らかとなった。Light chain shiftingは、従来よりいわれていた抗体遺伝子の組み換え誘導条件であるRAG-1,2の発現と胚型転写の誘導という二つの条件では誘導されず、その誘導には第三の因子が関与していることが明らかになった。
著者
森田 茂
出版者
酪農学園大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

(目的)睡眠は、家畜の疲労回復およびエネルギー蓄積に必要なものであるとされている。したがって、1日の睡眠時間の長さや睡眠の質(N-REM睡眠、REM睡眠)を検討することは飼養管理技術の改善につながる。(方法)脳波の導出で鼻梁に基準電極、頭部に探査電極を装着する単極導出法を用いた。24時間の脳波測定のために無束縛携帯型生体アンプとコンパクトカセットデータレコーダを専用のベルトで牛体に固定した。さらに、脳波測定と同時に暗視カメラによる行動観察を行い、休息行動(横臥時間)の成長に伴う変化を脳波測定による睡眠計測から検討した。(結果)幼齢子牛での24時間連続の睡眠脳波測定では、脳波測定用の電極を前頭部中央3箇所とし、記録紙送り速度を秒速1mm、電池交換時刻を飼料給与直後および23時の1日3回交換することが適切であると結論した。1日当りの睡眠時間(=N-REM+REM)は1週齢で493分、7週齢で267分と発育に伴い減少した。N-REM睡眠およびREM睡眠についても同様の結果となった。睡眠時間の日内パターンは週齢に伴う変化は認められなかった。1日当りの横臥時間は1週齢で1120分、15週齢で594分となった。また、1日当りの睡眠時間は1週齢で505分、15週齢で146分となった。N-REM睡眠は睡眠時間と同様の結果となったが、REM睡眠については一定の傾向が見られなかった。1日当り反芻時間は、給与飼料の種類によらず1週齢時ではほとんど認められず、7週齢時では6〜8時間の範囲まで延長した。1日当りの横臥時間は給与飼料の種類によらず1週齢で約18時間から、7週齢での約14時間へ短縮した。さらに、睡眠時間は1週齢での9時間程度から7週齢での4時間程度まで短縮した。成長に伴うN-REM睡眠の変化は、睡眠と同様の傾向であった。一方、REM睡眠には週齢に伴う一定の傾向が見られなかった。このことから、幼齢子牛における週齢に伴う睡眠時間の減少には反芻時間の延焼が大きく関わるものと考えた。
著者
王 昊凡
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究では日本国外の寿司店の増加を事例に、食のグローバル化という社会現象ついて検討した。上海にある寿司店314軒のうち計92軒へのヒアリング調査を行い、調査では生食向け魚介の仕入れ状況、職人の技能養成状況、献立立案や調理実施に関する現状、接客の有り様を調査した。加えて、上海銅川市場において、生食向け魚介の流通を取り扱っている業者へのヒアリング調査も行った。社会学においてグローバル化は長らく重要な研究テーマとなっており、食のグローバル化ではG.リッツァが「マクドナルド化」概念を提唱したこともあって、多国籍企業による大規模チェーン店の展開と、それに伴う合理化した店舗運営に着目してきた。しかし、食は実際には中小零細規模での越境が容易であり、現実にも起こっている点や、食材の品質を考慮した際に、合理化が安定した店舗運営と利益の向上につながるとは限らないという点で、特徴を持っている。食べものがもつこの2つの特徴によって、そのグローバル化のあり方がどのように左右されるかを知るために、本研究では寿司を事例に検討している。本研究の知見をまとめると、以下3点のことがいえる。第一に、②食材の品質と関連して、寿司が多種多様な生食向け魚介を用いるにもかかわらず、上海ではそれを適切に仕入れることが難しいため、職人的技能に頼らざるをえない麺があった。第二に、マクドナルドのような合理化した店舗運営ではなく、技能を身につけた職人の柔軟性によって、仕入れた食材の品質が不安定であること、仕入れた食材の種類が足りないためにメニューが限られること、消費者が多様であるためにその嗜好に合わせなければならないことといった課題を解決する仕組みができあがっている。第三に、そのことは単にひとつひとつの寿司店が安定して運営できることのみならず、上海における寿司店の多様化に寄与した。
著者
古川 貢
出版者
分子科学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

現在までに,ミクロンスケールの人工周期構造を有する強磁性パーマロイ(Fe_<20>Ni_<80>)の人工格子薄膜のX-band強磁性共鳴スペクトル測定により,2つの新しいモードが生じることを明らかにしてきた.このモードは,ミクロスコピックとマクロスコピックの中間領域であるセミマクロスコピックな量子機能と捉えることができ,このモードの詳細を解明することが目的である.そこで本研究ではESRイメージングという方法で,セミマクロスコピックスケールの新規量子磁気モードを可視化することを試みた.より大きな磁場勾配を作ることが,イメージングの分解能に直結する.高分解能ESRイメージングに必要な,大きな磁場勾配を作成するために,磁場勾配用コイルを検討した.単純なアンチヘルムホルツコイルでは勾配磁場の均一領域を稼ぐことができないことが明らかになった.つまり限られた空間のみを使用するためにイメージングを行うのに解像度が低くなるために不利である.そこで,MRIで開発された方法であるターゲットフィールド法を用いて最適な磁場勾配用コイルの形状を求めた.この方法を使用することで勾配磁場の均一な空間を大きく確保することに成功した.しかし,(1)ESR線幅が数百ガウス程度あること,(2)反磁場の影響でシグナルが大きく低磁場へシフトしてしまうという2点から,十分な分解能が得られない.これを回避するためには,高磁場ESRと高磁場勾配を組み合わせる高分解能ESRイメージングシステムの開発,もしくは,適当な物質を開拓する必要がある.そこで,高分解能ESRイメージングを目指して,Q-band ESRを使用した磁場勾配用コイルを開発へと発展させる予定である.
著者
倉橋 節也 吉田 健一 津田 和彦
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本年度は,複雑システムにおけるモデルパラメータの推定と変数選択を効率的に行うためのアルゴリズムについての研究を実施した.また,逆シミュレーション学習によるエージェントモデルのパラメータ推定手法の手法を,実際の社会システムを対象に適用事例を作っていくことを主に行った,1)都市動態モデル,3)組織多様性モデルについて検討した,1)変数選択モデル エージェントモデルでは,多数の変数を扱うことになるが,それらを網羅的に探索して適切な値を求めることは,計算資源の課題から困難な場合が多い,また,取り扱う変数も削減することが,モデルの簡潔さとシミュレーション結果の解釈において,重要となる.実データを適用する場合においても,大量かつ複雑なデータの獲得と蓄積が進み,重要な変数を選択する手法の重要性が高まっている.そこで,実数値遺伝的アルゴリズムを用いて,同一世代内の遺伝子の分散を活用した変数選択手法を提案し,パラメータ推定と変数選択の両方に対応できることに成功した,2)都市動態モデル 中世において都市の集中化は始まっており,人口の増加に伴う流動化が移民の増加へと拡大している.このスプロール化した都市がどのように発生するのかを解明することは,華僑の発生と都市構造との関係を知る上で重要となる3)組織多様性モデル 少子高齢化が進む日本では,労働力を確保するために働き方,働く人が多様化している.海外からの労働者を受け入れることは,事務職においても今後増えることが予想され,オフィスにおける多様性のマネジメントが課題となるそこで,多様性を定量化するフォールトラインの考え方に基づき,日本の組織を対象にした実態調査の結果を用いて,組織の多様性と成果関係をエージェント・ベースモデルによって明らかにした.多様性はフォールトラインの強さとサブグループ数によって成果への影響が異なることがが明らかになった.
著者
友田 正彦 大田 省一 清水 真一 上野 祥史 小野田 恵 ファム レ・フイ ブイ ミン・チー グェン ヴァン・アイン
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

実物遺構が現存しない14世紀以前のベトナム木造建築の上部構造の解明に寄与することを主目的に、建築型土製品等の考古遺物と現存建築遺構等の現地調査をベトナム北部各省と中国国内で計6次にわたり実施した。これにより、ベトナムにおける中国建築様式の段階的かつ選択的な受容のあり方について新知見を加えるとともに、ベトナム木造建築様式の独自性が李・陳朝期に溯ることを明らかにした。ハノイでの研究会開催や、日越両語による研究論集の刊行を通じ、ベトナム北部出土建築型土製品の調査データも含めた研究成果を公開するとともに、従来あまり知られていなかった研究資料を提供することができた。
著者
松山 睦美 中島 正洋
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

放射線誘発甲状腺癌でのAutophagy(AP)の関与を調べるため、ヒドロキシクロロキン(HCQ)200mg/kgを6週齢雄性Wistarラットに照射前3日間経口投与し、4Gy全身/局所照射後、非照射非投与群、非照射HCQ群、照射非投与群、照射HCQ群に分け、甲状腺の急性期放射線応答と慢性期の腫瘍発症率を調べた。急性期では増殖細胞数の低下とAP関連遺伝子の低下が認められた。腫瘍は、非投与照射群が14/15(93.3%)、HCQ群は9/13(69.2%)で、HCQ群が低値だった(p=0.097)。HCQ前投与により腫瘍発生の抑制の可能性が示唆されるが、さらなる検討が必要である。
著者
木俣 行雄 都留 秋雄 河野 憲二
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

小胞体ストレスと総称される外的および内的要因により、小胞体における分泌系タンパク質の高次構造形成が阻害されたとき、細胞は様々な生体防御反応を引き起こす。それら小胞体ストレス応答のための細胞内シグナル情報伝達経路の出発点は、Ire1に代表されるいくつかの小胞体膜貫通タンパク質である。1型膜タンパク質であるIre1、C末端にRNaseドメインを持ち、これがエフェクターとして機能していると考えられる。出芽酵母Ire1の標的はHAC1 mRNA前駆体であり、Ire1依存的なスプライシングにより生じた成熟型HAC1 mRNAは転写因子タンパク質に翻訳され、小胞体内在性分子シャペロン等の発現を転写レベルで誘導する。本研究において我々はまず、非ストレス条件下で培養された細胞内でも、僅かながらこのスプライシングが起きており、生成するHac1タンパク質はいくつかの栄養状態応答遺伝子の発現を抑制していることを見いだした。栄養状態の変化により全くスプライシングが起きなくなると、この抑制が解除されると考えられる。次に我々は、小胞体ストレスによりIre1が活性化される機構として、小胞体内在性分子シャペロンであるBiPの関与を明らかにした。我々の確立したモデルでは、非ストレス条件下の細胞では、BiPがIre1に結合していて、Ire1の活性化を抑えている。一方、小胞体ストレスに応じて構造異常タンパク質が蓄積すると、BiPはそれと結合するためにIre1から解離し、自由となったIre1は活性化して小胞体ストレス応答を引き起こす。最後に我々は、哺乳類に存在する2種類のIre1パラログのうち、Ire1βは、従来から報告されている転写因子XBP1 mRNAスプライシングや28SrRNA切断の他に、未同定の新規RNAを標的として、その結果アポトーシスを誘起することを見いだした。
著者
永宗 喜三郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

我々はアピコンプレクス門原虫がいくつかの植物ホルモンを産生し、増殖の制御に用いている可能性を見出した。本研究ではそれらうち、サイトカイニンがトキソプラズマに与える影響についてさらに詳細に検討した。サイトカイニンには植物が自然界で生合成しているものと人工合成されたものに大別でき、いずれも細胞分裂の促進、光合成の活性化、葉緑体の分化・増殖といった作用を持つ。そこでそれぞれのサイトカイニンをトキソプラズマの培養中に添加し、原虫の増殖率を測定したところ、天然サイトカイニン(trans-zeatin)は、高等植物の知見から期待されるとおり原虫の増殖が促進したが、合成サイトカイニン(thidiazuron)は逆に原虫の増殖を阻害した。この増殖調節は高等植物での知見と同様、ある特定のサイクリンの発現量に依存していた。また通常原虫内に1つしか観察されないアピコプラストの数が、trans-zeatin処理により劇的に上昇し、逆にthidiazuron処理により消失した。更にELISAによる結果から、原虫はサイトカイニンを産生しているものと思われた。以上の結果からトキソプラズマにおいて植物ホルモンであるサイトカイニンは、ある特定のサイクリンの発現を制御することで、原虫の細胞周期自体と、細胞周期の進行と厳密にリンクしているアピコプラストの分裂のタイミングを調節しているものと考えられた。
著者
目崎 登 前田 清司 家光 素行 相澤 勝治
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,性ホルモンの合成組織として骨格筋に着目し,その合成経路が運動により亢進することにより,性ホルモン合成の亢進に寄与するという仮説を立証することを目的とする.上記の研究課題を明らかにするために,骨格筋における性ホルモン合成酵素の発現の有無と局所性ホルモン代謝動態について検討した(研究課題I).さらに,運動による骨格筋内の性ホルモン産生経路を明らかにするために,運動が骨格筋内の性ホルモン合成酵素に及ぼす影響とその性差について検討した(研究課題II).その結果,骨格筋における性ホルモン産生機序に着目し,骨格筋内の性ホルモン合成酵素の遺伝子・タンパク発現が存在することを確認し,骨格筋には性ホルモン代謝経路が存在し,局所にて性ホルモンを産生する器官となりうる可能性を明らかにした(研究課題I).また,骨格筋内の性ホルモン合成酵素の遺伝子・タンパク発現には性差があり,運動刺激に対するそれらの発現応答にも性差があるという結果を得たことから(研究課題II),運動による骨格筋の適応機序に局所の性ホレモン代謝が関与している可能性が示された.それゆえ,運動による性ホルモン作用は,内分泌経路の他に,末梢組織(骨格筋)における局所の性ホルモン産生が重要な役割を果たしている可能性が示された.
著者
西岡 みどり 住田 正幸 大谷 浩己 奥本 均 上田 博晤 近藤 育志
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1985

1)わが国で最も普通のトノサマガエルとダルマガエル、著しい体色変化をするアマガエル、特殊な色素細胞をもつアオガエルを主材料として、正常の体色と色彩突然変異について、形態学的、遺伝学的研究を行なった。2)トノサマガエル群では、褐色または緑色の正常色彩、配偶子の放射線照射によって得た9系統の色彩突然変異、野外で発見されたアルビノの10系統、その他黒色眼と灰色眼突然変異について、遺伝と色素細胞の微細構造について調べた。特にアルビノについては、次の重要な新知見を得た。(i) アルビノには遺伝子座の異なる5群があり、第1群は4種類の対立遺伝子によって支配される。(ii) 各アルビノは、外観および黒色素胞内に含まれるプレメラノソームに明らかな違いがある。(iii) 2遺伝子座でアルビノ遺伝子が同型接合になった12種類のアルビノを作り、各アルビノ遺伝子の表現の優劣を明らかにした。(iv) アルビノのトノサマガエルと正常のダルマガエルとの間の戻し雑種について、遺伝子型とランプブラシ染色体の組成との対比,および連鎖と転座の利用によって、各遺伝子の染色体上の位置を推定した。そのほか、オリーブ色と青色の各突然変異遺伝子座のある染色体を推定した。3)アオガエルでは、変態後黄色素胞の一部が下方に移動して、紫色素胞となり、退化した黒色素胞の代りをすることを確かめた。4)トノサマガエル、アマガエル、アオガエル、ツチガエルの黒色眼または灰色眼突然変異が、単一劣性遺伝子によって支配されることを確かめ、それぞれの色素細胞の異常を電顕観察によって明らかにした。5)トノサマガエル、ニホンアカガエル、ツチガエルを用い、色彩突然変異体と正常個体との間の前後キメラを作ったところ、前部が正常のものでは、それの色素細胞が癒着面を越えて後方に移動するが、特に虹色素胞が著しい移動をすることが確かめられた。
著者
加藤 英寿 菅原 敬 可知 直毅
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

小笠原諸島南硫黄島は国内で最も謎に満ちた地であり、山頂部を含めた学術調査は過去2回実施されただけである。そこで2007年6月に東京都との合同で南硫黄島自然環境調査を25年ぶりに実施し、生物多様性の現状を把握すると共に、植物の集団遺伝学的・分子系統学的解析に基づく種分化過程の推定などを試みた。その結果、小笠原諸島に広く分布する種の場合、南硫黄島個体群は遺伝的に大きく分化していることなどが明らかとなった。
著者
鹿 錫俊
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、蒋介石ら中国要人達の日記と関係国公文書との相互検証に基づき、公文書の制約性からくる虚像を是正すること、日中戦争期の中国の実像を復元すること、新資料を提供すること、という目的の実現を試みた。三年にわたる研究期間において、本研究は著書、論文の出版と国際学会での発信によって、「抗日」と「防共」の優先順序をめぐる蒋介石の葛藤、対ソ認識と抗日戦堅持との関連、対ドイツ政策の変遷、戦時外交の多面相、私文書と公文書の相互検証による研究の在り方、といった一連の問題について新しい知見を提示し、学術研究の深化に寄与した。
著者
渡辺 茂 伊澤 栄一 藤田 和生
出版者
慶應義塾大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本研究では3つの項目を検討した。1つは、共感性の動物モデルの確立であった。共感性を2個体間の情動とその一致性によって4分類し,マウスを対象にそれらの可否を検討した。2つめは、共感性の機能と生態因の検討であった。鳥類および霊長類の比較検討によって、協同繁殖と一夫一妻が、共感性進化の生態因であることを示唆した。3つめは、共感性の認知基盤の検討であった。高次共感を霊長類および食肉類で比較検討し、サルおよびイヌの第三者に対する情動評価能力を見出した。これら3項目の研究によって、共感性がヒト以外の動物においても協力性と随伴進化し、高次認知はそれとは独立に進化する可能性を示唆した。
著者
國澤 純
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

腸内細菌を介した免疫制御は、様々な疾患に関わることが分かり、健康科学における新潮流となっている。これまでの研究の多くは、腸管管腔や上皮細胞の粘液層に存在する細菌に焦点が当てられ解析が進められてきたが、我々は、これらの部位だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度はこれまでの研究を拡張して大腸粘膜組織にも着目し、大腸粘膜固有層に存在するマクロファージに共生する細菌としてStenotrophomonas Maltophiliaを同定し、その共生メカニズムの解明を行った。骨髄由来もしくはマウスより単離したマクロファージとStenotrophomonas maltophiliaの共培養により、ミトコンドリア呼吸とIL-10産生が増加することを見いだした。さらにsmlt2713遺伝子にコードされる分子量25 kDaのタンパク質を欠損したStenotrophomonas maltophiliaではIL-10の産生誘導能が欠失すること、逆にIL-10欠損マクロファージではStenotrophomonas maltophiliaによる細胞内共生が破綻することから、smlt2713とIL-10はそれぞれ菌、宿主細胞において共生を成立させる必須因子であることが判明した。大腸のマクロファージはIL-10を産生することで恒常性の維持に貢献していることから、本研究結果は、大腸における細胞内共生ネットワークを介した恒常性維持機構の一つを提唱したものとなる。
著者
細見 晃司
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

腸内細菌を介した免疫制御は、アレルギーなどの免疫疾患や糖尿病などの生活習慣病など様々な疾患に関わっていることが分かり、健康科学における新潮流となっている。我々は、腸管管腔だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度は、アルカリゲネスが宿主細胞である樹状細胞の内部に共生していることに着目し、樹状細胞とアルカリゲネスとの共生メカニズム、さらにそれに連動する免疫制御との関連について培養細胞を用いた解析を行った。昨年度の検討から、アルカリゲネスと樹状細胞の共培養系における樹状細胞の免疫学的な機能変化について大腸菌を比較対象として解析し、アルカリゲネスは大腸菌に比べて樹状細胞からのIL-6などの炎症性サイトカインの産生誘導能が低いこと、さらにそのメカニズムとして菌体成分であるLPSの活性が弱いことを見出している。本年度は、生理学的な観点から樹状細胞の機能変化について検討し、アルカリゲネスを取り込んだ樹状細胞では、ミトコンドリアの基礎呼吸量が上昇していることが明らかになった。ミトコンドリア活性は細胞死と関連することから、樹状細胞のアポトーシス細胞死について解析したところ、大腸菌を取り込んだ樹状細胞はアポトーシスが誘導されるのに対して、アルカリゲネスを取り込んだ樹状細胞ではアポトーシスがほとんど誘導されなかった。この結果はアルカリゲネスの樹状細胞内共生において重要な知見であると考えており、現在、その分子メカニズムの解明を進めている。