著者
大谷 いづみ 川端 美季
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題の第3年度に当たる2017年度は、研究代表者である大谷が体調不良で3ヶ月病気欠勤することとなった。とはいえ、2016年7月におきた相模原障害者殺傷事件の1周年にあたる7月から9月にかけて、諸方面から、相模原障害者殺傷事件と優生思想、安楽死思想についての招待講演の依頼を受け、「安楽死・尊厳死論の系譜と相模原障害者殺傷事件」をテーマに、一般市民を対象とした学習会、自立生活を営む重度障害者とその支援者を対象とした学習会、福祉行政や実務家を対象とした研修講座等において研究成果を還元するとともに、その成果を一般市民の目から検証することができた。また、日本医学哲学・倫理学会第36回研究大会(於・帝京科学大学)のワークショップ「正常さと異常さの境界」において、「「生きるに値しない生命」殺害の医療化と規範化」と題する研究発表を行った。フロアには50名ほどの参加者があり、活発な討議が行われた。同年度後半には、ナチスドイツ政権下で実行されたT4「安楽死」政策の事実がアメリカや日本に知られるようになった経緯について資料収集の緒に就いた。これは、本研究の主題の中核をなす、J・フレッチャーの安楽死思想の淵源をさぐると同時に、本研究を日本を含む東アジアと欧米キリスト教圏の歴史的経緯において検討するという、さらなる研究への発展を企図している。また、研究分担者の川端は、安楽死・尊厳死論につながる日本の文化的土壌の成立および変容過程について検討し、「近代日本の国民道徳論における「潔白性」の位置づけ」として『人間科学研究』37号において成果を発表した。加えてキリスト教・西欧の医学の日本への影響を視野に入れ、ドイツ・イタリア・イギリスを中心に医学史・身体史に関する調査、日本で医学史と教育史における言説の資料調査を行った。
著者
井筒 弥那子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は論文執筆を行った。まず、統計検定法の再検討を行った。異なる光環境で選択を受けた集団に関して、すべての組み合わせ計9組と対照検定として同じ環境で飼育した集団同士の比較計6組の検定を行い、結果を比較したところ、1対1の検定を複数回行う方法は本研究には不適切であると判断されたため、最終的に3つのレプリカ集団のシーケンス結果を合わせたデータを用いてFisher’s exact testを行い、有意差上位5%に着目することにした。他にもAllele Frequency Change(AFC)やOdds ratioなどの異なる指標を用いて適応に関与するゲノム領域の候補を絞り込んだ。これまでの研究結果をまとめ、アメリカの遺伝学会誌G3(GENES,GENOMES,GENETICS)に投稿し受理された。同時に進めていたトランスクリプトーム解析に関して、次世代シーケンサーを用いたRNAseqの結果を確認するために、qPCRでいくつかの遺伝子の発現量を調べて、RNAseqのデータと一致することを確認した。また、前述の選択実験で異なる光環境で選択を受ける遺伝子の候補84個とトランスクリプトーム解析で発現量に変化が見られた遺伝子310個を比較したところ3つの遺伝子が重なることがわかった。3つは、キチン分解酵素や神経系で発現している遺伝子、卵黄膜成分の遺伝子であり、交尾行動から産卵までの適応度に影響する形質への関与が予想された。トランスクリプトーム解析に関しては、現在論文を執筆中である。
著者
中村 豊
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

西日本の石棒は、縄文時代中期末に大型のものが伝来し、その後小型化・精製化をとげ、晩期のはじめごろ石刀へと変化し終焉を迎えたと考えられてきた。ところが最近、大阪湾沿岸地方を中心とする地域で突帯文土器にともなって結晶片岩製(泥質片岩・紅簾片岩が多い)の大型粗製石棒が相次いで発見されている。すなわち、縄文時代の最後に再び大型粗製石棒を用いた儀礼がさかんにおこなわれるようになったのである。私の本年度の研究目的は、これらがどこで生産され流通したのかを明らかにし、どのような歴史的意味をもつのか、すなわち「縄文から弥生」との関わりについて考察することにあった。私の本年度の調査によると、これら石棒は30遺跡137点の出土を確認することができ、分布は大阪湾沿岸地域(兵庫県南部から大阪府堺市付近)を中心とする地域に集中している。なかでも、最も多量の石棒を出土する遺跡は、徳島市三谷遺跡で、20点と異常ともいえるほど多量の結晶片岩製石棒が出土しており、近畿・東部瀬戸内地域に分布する石棒の多くが三谷遺跡をふくむ徳島県の遺跡で生産されたことがほぼ明らかとなった。問題はなぜ、縄文晩期終末から弥生前期初頭という時期に近畿・東部瀬戸内地域において石棒を用いた儀礼が盛行したのかというところである。この時期は、ちょうど新しい儀礼・社会のしくみが伝わる時期に相当する。これに敏感に反応して、縄文社会を維持しようとする意識がはたらいた結果、伝統的な儀礼をさかんにおこなうにいたったのではないだろうか。これが、結晶片岩石棒の分布という形で明確に現れたと理解するのである。そしてこれは、近畿・東部瀬戸内地域が、中部瀬戸内以西の地域よりも縄文時代の伝統的な社会・それを維持するシステムを保持しようとする下地があったことを示していると私は考えている。
著者
上水 研一朗 町田 修一 有賀 誠司
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、柔道選手の競技能力及び形態・体力と遺伝子多型の関連性を明らかにすることを目的とした。男子大学柔道選手216名の alpha Actinin 3(ACTN3)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)、インスリン様成長因子(IGF-2)など10個の遺伝子多型について解析した。さらに対象者は形態および体力測定を半年に1回実施し、最高競技成績に基づいて競技力を決定した。その結果、ACTN3及びACE遺伝子多型と柔道の競技力の関連性は認められなかったが、IGF2遺伝子多型は競技力との関連性が認められた。またACTN3及びIGF2遺伝子多型は一部の筋力関連項目との関連性が認められた。
著者
濱井 潤也 平野 淳一 高橋 祥吾 小川 清次 佐伯 徳哉 鹿毛 敏夫 手代木 陽 芥川 祐征
出版者
新居浜工業高等専門学校
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度における本科研の成果は、2本の論文を平成30年1月発行の『新居浜高専紀要』第54号に投稿したことである。第一の論文「戦後カリキュラム政策史における主権者育成理念の変容過程―社会的状況と教科課程における単元構成の対応関係を中心に―」においては、本科研の研究テーマである「主権者教育」が近代日本においてどのように捉えられ、実施されてきたかを歴史的にまとめたものであり、今後のカリキュラム開発のための基盤を築き上げたと言えるだろう。また第二の論文「高等専門学校の社会科カリキュラム編成類型と主権者教育の課題」では、本科研が平成28年度に実施した全国の工業高等専門学校の社会科カリキュラムの実施状況を調査した結果のまとめと分析報告である。これによって主権者教育を実施する際の高専の社会科教育が抱えている問題点、すなわち第一に人件費削減による人的条件の厳しさ、第二に学習内容が教員の裁量に委ねられているため、統一的な質保証の基準を確立するのが困難である点、第三に学習内容が教員の専門分野に依存していることが多く、他教科との連携やカリキュラム上の位置づけが曖昧であること等が明らかになった。今後本科研では、この点を踏まえ主権者教育カリキュラムの先行的開発を進める計画である。加えて平成29年度の本科研の活動として、研究分担者全員で各高専と大学とに分かれて、「主権者意識に関するアンケート」を実施した。学生が18歳選挙権や現在の国内・国外の政治情勢、民主主義のシステムそのものに対して何を考え、どのような疑問を持っているのかを全18問のアンケートで調査した。平成30年度にはこれらのアンケート結果を分析し、学生たちの主権者意識についての報告まとめる予定である。最後に、平成30年2月に本科研の例会を開催し、各研究分担者の主権者教育の実践例の報告・意見交換を行うことで、教員スキルの向上を図った。
著者
加賀美 英雄 徳山 英一 小玉 一人 満塩 博美
出版者
高知大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

南千島海溝と南海トラフの付加体を調べ、海洋地殼が破壊される深度に相違があることが分かった。それは10ー15kmの深度を境として、それより浅い脆性的変形領域とそれより深い準延性的変形領域に区別された。10ー15kmより浅いところで海洋地殼が破壊される南海型の付加体では、破断面に多数の微小クラックが非定向に集中して破壊されることから余震域の拡大率が大きな値を示す。また、海洋地殼がこのように浅いところで付加体に下付けされると、組み込まれた付加体の密度は比躍的に増加することになり、このことが南海マイクロプレート(前弧スリバー)が九州にむかって沈み込んでおり、豊後水道が形成されている一つの原因となっていると考えた。室戸岬西方の安芸海底谷断層は土佐沈降帯と室戸隆起帯を分ける構造線であることが明らかとなった。これより西側では更新世中期以降の竜王層群が堆積しているが、東側では基盤岩類が北東ー南西の高角逆断層によって変位している。室戸隆起帯の東側の野根海底谷断層から安芸海底谷断層までの35kmの間は一連の構造単位であり、繰り返し発生した歴史地震の境界が室戸隆起帯を形成したのだと考えると、西南日本にみられる波曲構造は地震断層の境界が原因であるとして理解できる。興津隆起帯も土佐湾を分割する地震断層の境界であることが明らかになった。この東の土佐沈降帯にある竜王層群の堆積盆の位置は下位の土佐湾層群のに比べて約10°も反時計回りに移動していた。興津隆起帯の隆起軸も時間変化に伴う移動がみられた。これは、更新世中期後にフィリピン海プレートの沈み込みが、北西へ転移したために南海トラフに対して斜め沈み込み運動をしたことに伴う諸々の変動;南海マイクロプレートの形成、西国山脈の隆起、モラッセ性堆積物の広範な分布、そして土佐湾では竜王層群の新しい堆積盆形成などの一つと考えられる。
著者
石川 巧
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

これまでの研究成果の一部をまとめたものとして単著『幻の雑誌が語る戦争』(青土社、2017年12月)を刊行した。同書は本研究のメインテーマである戦後占領期のカストリ雑誌を研究するなかで新たに発見した雑誌資料をもとに、戦争末期から戦後占領期にかけての言論統制とそれに抵抗するようにして書き継がれた文学テキストを分析したものであり、出版文化研究の領域においても意義のある成果だったと考えている。また、この間、戦後の雑誌文化研究として『月刊「さきがけ」復刻版』(2917年~2018年、三人社)、『「国際女性」復刻版』(金沢文圃閣、2017年~2018年)、カストリ系探偵小説雑誌『「妖奇」復刻版』(三人社、2016年~2017年)の復刻版編集と解題執筆を担当しており、これまでほとんど顧みられることのなかった戦後占領期の大衆通俗雑誌、地方の総合文芸雑誌に焦点をあてる取り組みをしている。さらに、共著としては戦後ヤミ市の風俗・文化を探究した『〈ヤミ市〉文化論』(井川光雄・石川巧・中村秀之編、2017年、ひつじ書房)、福岡市史特別篇『近代福岡の印刷と出版』(2017年、福岡市史編纂室)などを刊行をした。メインテーマのカストリ雑誌に関しては、2019年3月の刊行をめざして、現在『カストリ雑誌総攬』(勉誠出版)の編集作業を進めている。同総攬は1945年~1949年にかけて日本国内で発行された大衆通俗雑誌(いわゆるカストリ雑誌)の図版、目次・奥付情報などを網羅的に蒐集した図録であり、完成すればこれまでの諸研究では類を見ない体系的な出版文化研究となるはずである。具体的には、(1)歴史に埋もれていた文学テキストの発見、(2)カストリ雑誌ブームとその衰頽に関する実態研究、(3)戦後占領期におけるGHQの検閲とそれに対抗する作家たちの文学的営為に関する研究、などの進展が期待できる。
著者
MARK H・B・Radford 中根 允文
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の第一段階として文化と価値および行動の関係を明らかにした。SMGC及び従来の測定法により測定された文化と,自己の文化への同一化,および個人の価値システムとの関係を明らかにするための研究を行った。この目的のため,平成3年度に開発されたSMGC及び従来の文化測定法を札幌と長崎の学生に適用すると同時に,価値の普遍的心理構造を測定するため価値尺度を用いて,調査対象者の価値システムを測定した。また同時に,文化と価値が行動に及ぼす影響を調べるため,意志決定行動のいくつかの側面を測定するための尺度を実施した。本研究の第二段階として意志決定様式の文化差を説明する原理を主観的測定法を用いて測定された文化内容から引き出せるかどうか検討を行った。このため上の調査で明らかにされた正常人の文化概念とうつ病患者の持つ文化概念を比較検討し分析の手がかりを得ることをめざした。具体的には長崎大学医学部付属病院の入院および外来の精神病患者とその家族を対象として,彼らの価値体系及び精神病に対する知覚を測定した。この研究にあたっては,伝統的コミュニティーの間で異なった価値体系が存在しており,かつ精神病患者の症状に特徴の多く見られる五島列島の患者が中心となった。同時に,それぞれのコミュニティーの文化の特徴の測定を行い,文化と精神障害の関係を明らかにした。
著者
河村 哲也 林 農 佐藤 浩史
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では砂丘移動現象の解明と植生利用による制御を目的として数値シミュレーションによる研究を行い以下のような成果を得た。はじめに以下に示すような3段階の計算法を提案し実際にプログラム開発を行った。(1)砂丘など複雑な地形上を吹く風による風速場の計算,(2)風速場による砂面上の表面摩擦と砂の輸送量の推定,(3)砂の輸送による砂面形状の変化の計算そして、断面が二等辺三角形の砂丘に稜線に垂直に風があたっている場合を想定し、そのひとつの断面内での2次元計算を上述の手法で計算した。この研究により砂丘の移動が計算できることが確かめられ、また砂丘の風下側の傾斜が安息角になることがわかった。次に、二等辺三角形の底辺の長さを共通にして、高さをいろいろ変化させて計算を行い、砂丘の高さが移動速度に及ぼす影響を調べた。そして高さが低いほど移動速度が大きいことが明らかになった。さらに植生がある場合の影響も調べた。計算結果から、植生がある場合には、ない場合に比べ砂丘の移動速度が小さくなることも確かめられた。また植生の広さや配置場所を変化させその影響も調べた。また乱流の効果を入れるため、もっとも単純なモデルとして混合距離モデルを用いた計算も行った。以上の結果、基本的には計算法の妥当性が確認されたため、計算法を3次元に拡張した。そして、実際の砂丘地帯に多くみられるバルハン砂丘の成因をシミュレーションにより調べた。また砂の輸送と構造物との相互作用の計算も行った。具体的には、砂面上に鉛直または傾斜して立てられた円柱まわりの流れの計算を砂の移動を考慮して行った。この研究と平行して、現実の砂丘地形に対応させるため、鳥取砂丘まわりの流れのシミュレーションを植生を考慮して行い、実際の観測結果と比較して定性的によい結果を得た。
著者
内藤 靖彦 ROPERT?COUDERT Yan ROPERT-COUDERT Y. M.
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

西オーストラリアにおいてリトルペンギン(Eudyptula minor)の採餌生態に関する研究を行った。これまでこの鳥の海での行動に関することはほとんどわかっていなかった。この研究には2つの目的があり、1つは基礎的な生態研究で、もう1つは個体群の保護、管理に役立つ情報を得ることであった。野外調査は2001年9月と2002年8月にオーストラリア、パース近郊の動物園およびペンギン島のリトルペンギン繁殖地で、共同研究者のDr.B.C.Cannell(マードック大学)とともに実施した。Dr.Cannellはこの研究における個体群の保護、管理に関わる部分を担当した。現地ではデータロガーの装着回収、ヒナの計測、餌生物の採集を行った。得られたデータは日本で解析し、この種において初めて潜水採餌戦略に大きな個体差があることを発見した。これはすでに論文としてまとめられ、現在Waterbirds(国際学術誌)で印刷中である。他に2つの論文を準備中であり、1つはB.C.Cannell et al.によるリトルペンギンの潜水行動の特徴を記載したもので、本種の保護と管理には海中における施策が不可欠であることを示している。もう1本は加速度データロガーを用いたリトルペンギンの詳細な行動時間配分に関するものである。潜水採餌戦略の個体差に関しては2001年12月に国立極地研究所で開催された極域生物シンポジウムにおいても発表した。
著者
川端 良子 片山 幸士 長井 正博 山本 政儀 山田 祐彰 五味 高志
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中央アジア・ウズベキスタン共和国内のヌクスを中心としたアムダリア流域にて,大規模灌漑農業による環境汚染と生態系への影響について以下の調査を行った. 1)飲料水である地下水の調査を行った. 2)潅漑用水,潅漑排水,および河川水を採取し,灌漑農業による河川水への影響を調査した. 3)ヌクス近郊の農村で,人体への影響に関しての聞き取り調査を行った. 4)河川水と地下水を毎月試料採取し,月変動を調査したその結果、地下水の元素濃度の方が、河川水より高い濃度であった。さらに、冬場に、特に、地下水の硝酸イオン濃度が高くなっていることが明らかとなった。また、ヌクスの郊外の農村で,縞状の歯を持つ子供たちが多くみられ過去に何らかのエナメル質を溶かすような有毒な物質が,井戸水に含まれていた可能性が高いことがわかった.そこで,月変動を明らかにすることと,一時的な汚染であれば,どのような時期に汚染されているかを調べるために,毎月この村で地下水の試料を採取することにした.その結果、地下水の元素濃度の方が、河川水より高い濃度であった。さらに、冬場に、特に、地下水の硝酸イオン濃度が高くなっていることが明らかとなったしかし、濃度変化は、年度によって差があり、さらに詳しく調べる必要があることが明らかとなった
著者
寺沢 なお子 村田 容常 本間 清一
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

土壌中よりメラノイジン脱色能を有する放線菌Streptomyces werraensis TT 14を、また開封したインスタントコーヒー中よりコーヒーを脱色する糸状菌Paecilomyces canadensis NC-1を得た。これらの微生物と、高いメラノイジン脱色活性を有する担子菌Coriolus versicolor IFO 30340の3株を用い、褐色色素の脱色率を調べた。その結果、モデル褐色色素においてはS.werraensis TT 14はXylとGly、またGlcとLysより調整したメラノイジンをよく脱色した。またフェノールの重合色素は脱色せず、逆に着色した。C.versicolor IFO 30340はすべてのモデルメラノイジンをよく脱色したが、フェノール系の色素は脱色せず、着色した。P.canadensis NC-1はXylとGly、GlcとTrpから調整したメラノイジンを50%以上脱色し、またフェノール系の色素も脱色した。各種食品の褐色色素の脱色率をみると、S.werraensis TT 14は市販のカラメルA、コーラ、ココアを、C.versicolor IFO 30340は糖蜜、醤油、味噌、カラメルA、黒ビール、麦茶、ウスターソースA,B,C、ココア、チョコレートなど、アミノカルボニル反応が主体と考えられる食品を50%以上脱色した。一方P.canadensis NC-1は、インスタントコーヒー、紅茶、ウスターソースC、ココア、チョコレートなど、フェノールの重合反応が関わっていると考えられる食品も50%以上脱色した。これはモデル褐色色素の脱色の結果とよく一致している。このことより、カラメルAはGlyやLysが着色促進剤として加えられ、Xyl-Gly、Glc-Lysメラノイジンのような反応が起こっているのではないか、またコーラにはカラメルAのようなカラメルが添加されているのではないか、ウスターソースCはウスターソースAやBよりもフェノールの関与が強そうであるなど、これらの微生物を用いることにより、食品の褐色色素の識別が可能であることが示唆された。
著者
松田 泰斗
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

学習・記憶に重要な役割を果たす成体海馬ニューロンは、海馬神経幹/前駆細胞から恒常的に生涯に渡り新しく産生され続けることがわかっている。しかし、うつ、老化、虚血、てんかん発作など様々な病態下においては、この恒常的なニューロン新生が破綻し、脳高次脳機能に悪影響を及ぼすことが知られる1)。例えば、てんかん発作後の海馬では、神経幹/前駆細胞の増殖が亢進するとともに、異所性かつ形態・機能が異常なニューロンの新生が誘発される(図1A)2)。産生された異所性ニューロンは正常なニューロンの機能をも阻害してしまうことで、空間認識記憶の低下を招くことやてんかん再発作に関与することがわかっている。しかし、これまで、生体がこのようなニューロン新生恒常性の破綻をどのように防ごうとしているのかは詳しく分かっていない。今回われわれは、ミクログリアに発現する自然免疫受容体TLR9を解析し、内因性リガンドによって活性化されたTLR9シグナルがてんかん発作依存的な異常ニューロン産生を抑制することを突き止めた。また、このような生体が有する異常ニューロン産生抑制機構は、てんかん発作による学習・記憶能力の低下や再発作の程度を緩和することに貢献していることがわかった。
著者
野村 幸弘
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、前年度に引き続き、東北・北海道に残る円空作品について、平成29年8月22日から8月30日までの9日間にわたり調査を行った。作品の所蔵者・所有者の許諾を得て、撮影ができた作品は以下の13点である。秋田(龍泉寺の十一面観音像)、青森(延寿院の観音菩薩像、福昌寺の観音菩薩像、正法院の観音菩薩像、普門院の十一面観音像)、北海道(上ノ国観音堂の十一面観音像、旧笹浪家の観音菩薩像、江差観音寺の観音菩薩像、福島町役場の観音菩薩像、広尾町禅林寺の観音菩薩像、根崎神社の聖観音立像、長万部平和祈念館の観音菩薩像、上磯神社の観音菩薩像)。昨年度、調査できなかった秋田、龍泉寺と北海道、上ノ国観音堂の十一面観音像、さらに根崎神社の聖観音立像の詳細な細部写真(眉・目・鼻・口・手・指・足・衣襞)を今回、撮影することが出来、その様式分析の結果、従来の説とはまったく逆に、秋田→津軽半島→北海道→下北半島というように、円空の東北・北海道で辿った足取りの新しい仮説を得ることができた。ただし、この仮説を確証するためには、下北半島むつ市恐山の菩提寺にある十一面観音像の調査を行う必要がある。また、今年度から、北関東に残る円空作品の調査を開始した。調査した場所は以下の通り。日光清滝寺(平成29年4月14-15日)、春日部市小淵観音院(5月3日)、芝山古墳はにわ博物館(9月17日)、埼玉県立歴史と民俗の博物館(10月15日)、中井出世不動尊(10月28日)、蓮田市文化財展示館(12月9日)、甘楽町歴史民俗資料(平成30年2月11日)、茨城県立歴史館(3月10日)。実物を調査することで、円空の北関東における新たな特徴をもった様式展開を確認することができた。
著者
中牧 弘允 SANTOS Anton MONTEIRO Clo COUTO Fernan ARRUDA Luiz 古谷 嘉章 原 毅彦 武井 秀夫 木村 秀雄 SANTOS A.M.de Souza COUTO F.de la Roque ARRUDA Luiz・
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

アマゾン河流域の開発は、ブラジル西部以西の西アマゾンにおいて、急速に進展しつつあり、本研究は環境問題と社会問題の鍵をにぎる人物として、シャーマン、呪医、民間祈祷師、宣教師などに焦点をあて、実証的な調査をおこなってきた。研究対象とした民族のいくつかは僻遠の地に居住し、そこへの到達は困難を究めたが、短期間ながらも調査ができ、実証的なデータを集めることができた。1.先住民(インディオ)社会(1)サテレマウエ族 日本側とブラジル側とで最初に共同調査をおこない、国立インディオ基金(FUNAI)やカトリック宣教団体の医療活動の概要を把握し、さらにアフ-ダが保護区内で薬草と保健衛生について調べ、中牧も近接する都市部においてシャーマニズムならびに先住民運動に関する聞き取り調査を実施した。(2)クリナ族(マディハ族) 中牧はジュルア保護区のクリナ族(マディハ族)のすべての集落(6カ村)を訪問し、家族・親族、村と家屋の空間的配置、国立インディオ基金(FUNAI)とブラジル・カトリック宣教協議会(CIMI)の活動などについて調査をおこなった。シャーマニズムに関しては治病儀礼、トゥクリメ儀礼、ひとりのシャーマンの事故死をめぐる言説と関係者の対応などについて、データを収集した。自然観については、子供や青年たちに絵を自由に描かせ、かれらの認識や関心のありようをさぐった。また、うわさ話やデマがもとで女たちの間に集団的喧嘩が発生したが、その推移と背景についても調査した。(3)パノ語系インディオ 木村はボリビア、ペル-と国境を接する地域に住むカシナワ族を中心にシャーマニスティックな儀礼の観察をおこない、儀礼歌を収録した。また、非パノ語系クリナ族や「白人」などとの婚姻をとおして進行する複雑な民族融合の実態についても基礎データを収集した。(4)東トゥカノ系インディオ 武井はサンガブリエル・ダ・カショエイラにおいて東トゥカノ系インディオの神話と民間治療師たちの呪文の収録をおこない、ポルトガル語への翻訳の作業をすすめた。その呪文のなかでは、熱の原因としてプラスチック製ないしビニール製の袋に魂がとじこめられることが言及され、近代的な要素も取り込まれていることが判明した。また、呪文自体も昔とくらべ短くなっているいことがわかったが、今では文字を通して暗唱できることがそうした変化の一要因となっていた。(5)カトゥキ-ナ族 古谷はジュタイ川の支流のビア川流域に住むトゥキ-ナ族の集落を調査した。ここではOPAN(カトリック系インディオ支援団体)が教育・医療活動に従事している。カトゥキ-ナ族にはシャーマニズムそれ自体はほとんど見られないが、クリナ族に呪いの除去を依存していることなどが判明した。また、OPANの活動を通じて、FUNAIとは異なる接触・支援のしかたについても、情報が入手できた。(6)マティス族、カナマリ族、マヨルナ族、クルボ族 アフ-ダはジャヴァリ川流域の諸民族について民族薬学的調査を実施し、マティス族においてはシャーマンがほとんど死亡したという情報を得た。(7)カンパ族 コウトはペル-国境のカンパ族の幻覚性飲料の使用実態、ならびにシャーマンとの聞き取り調査をおこなった。2.非先住民社会(先住民およびその子孫を一部含む)(1)アマゾン河本流域 原はタバチンガ、レティシアにおいて複雑な民族構成とをる社会の民間呪術師を調査対象とし、ジャガ-やアナコンダ(大蛇)のような先住民的表象と、イルカのようにカボクロ(混血住民)のこのむ表象との混合形態をあきらかにした。さらに上流のイキトスにおいても予備的調査をおこなった。(2)ネグロ川流域 サントスはネグロ川流域の住民が利用する薬用植物、とくにサラクラミラについての研究をすすめた。(3)ジュルア川上流域、プルス川上流域 モンテイロはクルゼイロ・ド・スルを中心に幻覚性飲料の摂取をともなうシャーマニスティックな民間習俗について調査し、コウトも幻覚性飲料(サントダイミ)をつかう宗教共同体において、その生活文化ならびに環境保護運動について調査を実施した。日本側研究者も幻覚性飲料を儀礼的に使用するいくつかの集団を訪問し、最新の動向についての情報を入手した。以上の調査をふまえ、サントスを日本に招聘し、ブラジルのCNPq(国立研究評議会)への報告書作成、ならびにポルトガル語による研究成果報告書の作成にむけての打ち合わせをおこなった。
著者
加納 圭 城 綾実 秋谷 直矩 高梨 克也 水町 衣里 森 幹彦 元木 環 森村 吉貴
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

科学者と国民との対話を評価する指標の構築を目的とし、ルーブリックの作成を試みた。また、対話力トレーニングプログラムにおける「事前学習」で用いることのできるリフレクションツールを開発した。最終的に、完成させたルーブリックとリフレクションツールを用いた実践を行った。日本分子生物学会年会で対話力トレーニングプログラムのデモを行うなど精力的に普及展開に努めた。
著者
上野 健爾 杉江 徹 森脇 淳 河野 明 神保 道夫 丸山 正樹
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

代数多様体,複素多様体は近年理論物理学との密接な関係が見出され、従来の数学研究とは違った観点からの興味ある現象が見出され、数学そのものの再編成が行われつつある。本研究もこうした新しい観点から研究を行ったものである。以下得られた主要な成果を記す。1.Z上の共形場理論と複素コボルディズム環桂利行,清水勇二との共同研究において,自由フェルミオンの共形場理論が整数環Z上定義できること,ボゾン化によってZ上の無限変数の多項式環が生じることを示したが,本年度さらに共同研究によって,理論は複素コボルディズム理論と密接な関係を持つことが明らかになった。特に,複素コボルディズム環でチャ-ン類を取る操作とシュ-ア多項式の関係を明らかにし,複素多様体の特性類とKP方程式系のτ函数との関係も明らかにした。2.非ア-ベル的共形場理論の算術化土屋昭博,山田泰彦との共同研究によって得られた単純リ-環をゲ-ジ対称性に持つ共形場理論が,有理数体上定義され代数曲線のモジュライ空間上の数論的代数幾何学として展開できることを示した。さらに種数Oの代数曲線上の共形場理論に限ると,さらに理論は整数環Z上定義されることを示した。3.ベクトル束および連接層のモジュライ空間の研究丸山正樹は射影的代数多様体上の放物的安定層の概念を導入しモジュライ空間を構成することに成功した。また森脇淳は準安定偏曲ファイバ-空間の概念を導入し,ボゴモロフ・ギ-ゼカ-不等式を一般化することに成功した。これはモジュライ空間の研究に応用が見込まれている。