著者
水内 郁夫
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ロボット化した植物群により、限られた日照面積と日照時間を最大限有効活用し光合成量を大幅に増加させるような行動決定アルゴリズムを提唱し、シミュレーションによりその効果を確認した。更に実際の植物ロボット(プラントロイド)を複数設計製作し実世界において、日向に移動する実験に成功した。また、広く感覚運動系の発達の仕組みを探求する研究を行い、ロボットの好奇心の研究、他者の意向に沿う行動や動作を行うアルゴリズムの研究、人の感覚運動系の計測結果に学びロボットアルゴリズムを考察する研究などに関し成果を得た。
著者
田中 雄一 田中 聡久 京地 清介 小野 峻佑
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は主に大規模センシングデータ処理の高速化手法や次元削減手法に関する研究を行った.以下簡単に成果の概要を述べる.1) 大規模行列の特異値縮退処理の高速化大規模時空間センシングデータを数理的に表現する際には,センサ数x計測回数のサイズを持つ行列が用いられることが多い.センサ数や計測回数が増えるに連れて行列サイズは爆発的に増加するため,行列の処理にも大きな計算コストがかかるようになる.行列を特異値分解し,その特異値を操作(縮退)することは様々な信号処理アルゴリズムの一部で利用されているが,特異値分解は一般に非常に計算量が多い.本年度はチェビシェフ多項式近似と行列のスパース性を利用した特異値縮退の高速化に取り組んだ.結果として,縮退の精度を保ちつつ,最大5倍程度の高速化を達成した.本成果は信号処理分野の一流論文誌である IEEE Trans. Signal Processing へ掲載された.2) マルチモーダルデータの次元削減手法センシングの際,同一計測地点で様々な属性のデータを計測することが多い.例えば気温・気圧等の環境データが最たるものである.このマルチモーダルデータを信号のスパース性を利用して次元削減を用いて圧縮することができれば,大規模センシングデータの効率的な表現が可能となる.従来手法ではチャネルごとに次元削減を行う手法が主流であり,チャネル間の相関をうまく利用できなかった.本年度はコンピュータビジョンで利用されている画像の色モデルである Color Lines をマルチモーダルデータの次元削減に利用することで,新しい視点からのマルチモーダルデータ圧縮に取り組んだ.結果として,PCA等の従来手法と比較し,同圧縮率で最大10 dB 以上のS/N比改善を達成した.本成果は IEEE GRSS のフラッグシップ国際会議である IGARSS 2017 で発表した.
著者
永井 泰樹 板橋 隆久 嶋 達志 高久 圭二 井頭 政之 大崎 敏郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

長寿命r-過程核^<187>Reとその娘核^<187>Osとの存在比^<187>Re/^<187>Osから宇宙年齢を推定する上で、^<187>Osがs-過程でも合成されるため^<187>Reのみの崩壊による^<187>Osの量の精度よい評価が重要である。その量はσ_γ(A)×N(A)=一定=σ_γ(^<186>Os)×N(^<186>Os)=σ_γ(^<187>Os)×N(^<187>Os)の関係から評価できる。{σ_γ(A)及びN(A)は夫々質量Aの核の中性子捕獲反応断面積及び存在量}。そのためσ_γ(^<186>Os)及びσ_γ(^<187>Os)の測定が不可欠であるが、特に問題はσ_γ(^<187>Os)である。s-過程が進行する恒星内温度では^<187>Osの第一励起状態(10keV)を通して中性子保護反応が進行するため励起状態のσ_γ(^<187>Os)の値も極めて重要である。我々は、σ_γ(^<186>Os)、^<187>Osの基底状態のσ_γ(^<187>Os)に加え励起状態(3/2^-)のσ_γ(^<187>Os)を知るため類似の構造を持つ変形核^<189>Os{基底状態(3/2^-)}の中性子捕獲反応断面積σ_γ(^<189>Os)を高感度のNaI(Tl)検出器を用い即発ガンマ線法により測定しその解析を行った。その結果従来に無い高精度で断面積を決定できた。得られた値は過去の値と10-20%異なる。又ガンマ線エネルギー分布を測定できたので^<187>Osの励起状態のσ_γ(^<187>Os)を推定する上で重要な知見を得た。更に^<187>Osの基底状態及び第一励起状態への弾性散乱及び非弾性散乱断面積の測定を新たに構築したLiガラス検出器4台を用い従来に無い高精度で測定した。これらの結果Re-Os対による宇宙年齢の高精度の推定に大きな貢献ができた。
著者
伊豫谷 登士翁 平田 由美 西川 裕子 成田 龍一 坪井 秀人 美馬 達哉 イ ヨンスク 姫岡 とし子 坂元 ひろ子 足立 真理子
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

プロジェクトの目的は、ジェンダー研究の提起してきた課題をグローバリゼーション研究がどのように受け止めることができるのか、二つのG研究(ジェンダー研究とグローバリゼーション研究)の接点から現代という時代を読み解く課題をいかに発見するか、という点にあった。こうした課題への接近方法として、プロジェクトでは、移動する女性に焦点を当ててきた。それは、1)人の移動にかかわる研究領域が二つの研究領域を連接する接点に位置すること、2)二つのG研究が、国家の領域性と一体化してきた近代的な知の枠組に対する挑戦でもあり、定住あるいは居場所と対比した移動はそのことを明らかにするテーマのひとつであること、にある。プロジェクトでは、これまでの移民研究の方法的な再検討の作業から始め、民博地域企画交流センターとの共催で開催したシンポジウム「移動から場所を問う」は、その研究成果である。ここでは、人の移動にかかわる隣接領域の研究者を中心として、移動から場所を捉え返すという問題提起に対して、海外からの報告者9名を含めた11名の参加者を得た。移民研究の再検討を手がかりとして、移動のジェンダー化という課題を理論的に明らかにするとともに、人文科学と社会科学との対話を通じて、二つのG研究が提起する問題を模索することにした。<女性、移動、かたり>を掲げたワークショップは、韓国の世宗大学の朴裕河、アメリカのコーネル大学のブレット・ド・バリー両氏の参加によって、海外研究者との交流を進め、その成果の一部をオーストラリア国立大学、コーネル大学において報告した。これらワークショップを通じて、1)グローバリゼーション研究が新しい局面に入っており、2)再生産のグローバル化におけるジェンダーの課題として、ジェンダー研究の成果を踏まえた女性移民研究が要請されており、3)二つのG研究を含めた研究領域の間での対話の必要性が再認識された。
著者
内田 忠賢
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

全国各地、世界各地に増殖する「よさこい(YOSAKOI)」の文化伝播のプロセスやメカニズムについて調査した。よさこいとは、鳴子踊りの集団によるダンスとその競演イベントを指す。本研究では、文化伝播の比較軸として、国内×海外、よさこい×エイサー(沖縄の太鼓踊り)を設定した。私はこれまで国内のよさこいが作る文化や社会を研究してきた。今回、海外でのよさこいを調査できた。特に、ブラジルでのよさこいを調査でき、日系コミュニティや文化を考えた。また、エイサーは国内外ともに、沖縄文化のローカリティが強く、よさこいに比べ、増殖力が弱い。よさこいは現代の日本文化として汎用性が高く、様々なコミュニティに受容される。
著者
小片 守 林 敬人
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

小児・高齢者に対する身体的虐待に基づく多発外傷によって好中球が各臓器内に浸潤することを,好中球マーカーmyeloperoxidase,接着因子P-selectin,遊走因子interleukin-8等を指標とした免疫組織化学によって証明し,身体的虐待の法医学的証明法として有用であることを明らかにした。さらに,好中球が産生する組織障害因子がすでに発現しており,被虐待者は多臓器不全の前段階ともいうべき状態にある可能性が示唆された。
著者
小片 守 林 敬人
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

各種虐待の法医病理学的証明法の開発を目的として, まず高齢者虐待例の胸腺・副腎重量を対照例と比較したところ, 重量に有意差を認めなかった。しかしながら, 虐待期間が3ヶ月未満の虐待例の副腎重量は対照例に比して有意に増加していた。次に, 各種臓器に浸潤する白血球数を検討したところ, 特に肺・肝臓において虐待例で有意に増加しており, 高齢者に対する身体的虐待の法医病理学的証明法として有用である可能性が示唆された。
著者
内藤 健 相良 慎一 佐藤 茂
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

多重衝突パルス噴流圧縮に基づく新燃焼方式エンジンについて、サイクル理論とシミュレーション検討、及び、航空機と自動車用の2つの試作エンジンによる燃焼実験を行い、以下の2つの結果が得られ、新燃焼方式の有効性を示すことができた。(1)理論とシミュレーションでは、ガソリン自己着火で50%レベルを超える熱効率の見通しを得た。(2)自動車用小型試作エンジンの燃焼実験では比較的低騒音でガソリン自己着火することが示され、かつ、従来型エンジンと同等か、それ以上の熱効率の可能性を得た。航空用の燃焼実験では、安定な燃焼を実現する方策を見出した。
著者
大塚 英志 本多 マークアンソニー 山本 忠宏 中島 千晴 尹 性喆 泉 政文 菅野 博之 杉本 真理子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

近代を通じて雑誌など紙のメディアで発達して来たまんが表現がインターネット上に移動したとき、コマの配列やつながり方を中心とする「まんがの文法」は、いかに新しい環境下で変化すべきか、その新しい国際標準のあり方を仮説と実作の反復によって検証し、いわゆる「リミテッドアニメ」に近い形式が相応しい、と結論した。「リミテッドアニメ」とは、静止画をレイヤーとして重ねたカットをモンタージュして行く手法でまんがにおける映画的手法と一体であり、Webコミックの将来形は「リミテッドアニメ」であるという結論を得た。また、調査過程で文化間のまんが文法をふまえたまんが創作教育の教授法についても成果が出た。
著者
辻 芳之 岡村 春樹 玉置 知子 長田 久美子
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

マイコプラズマ属のUreaplasma urealyticum(Ur)感染の臨床的意義:妊婦の膣分泌物を培養し、Ur感染に関して、正期産例のUr陽性例は30.0%(30/100)、早産例のUr陽性例は51.1%(23/45)で早産症例に有意(p<0.02)に高かった。また、Urと他の菌(GBS, Gardnerella vaginalis, Candida, E.coli等)との混合感染症例は、無感染群に比べて早産のリスクが7倍高かった。抗ureaplasma urease monoclonal抗体を用いた蛍光免疫染色:Ur株からこの菌が産生するureaseに対する抗体をhybridomaによって作成した。この抗ureaplasma urease monoclonal抗体を用いてUr感染した膣分泌物は陽性に染色された。Urのlipoprotein(LP)が単球細胞に及ぼす影響:Urの菌体からLPを抽出した。TLR-2,-4の存在が知られているヒト単球系細胞株THP-1細胞に添加しTLRのリアルタイムPCRを行ったところ、TLR-2の発現増強が認められた。Ur LPで刺激したTHP-1細胞のapoptosis, necrosisの誘導をflow cytometerで確認したところ、apoptosis, necrosisともに誘導された。さらにELISA法にて、早産に関わる炎症性サイトカインIL-1β,IL-6,IL-8,TNF-αの測定を行ったところ、Ur LPで刺激されたTHP-1細胞は時間経過とともにIL-8の産生が増加したことが確認されたが,その他の炎症性サイトカイン誘導は無かった。また、IL-18は測定感度以下であった。
著者
中村 廣治郎 東長 靖 飯塚 正人 鎌田 繁
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.補助金交付の連絡を受けて6月に研究方針を話し合う会合を持ち、これまで主として国家論的見地からイスラム共同体思想を研究してきた飯塚が基調報告を行った。その上で、秋まで各自が個別研究を行い、10月以降報告と共同討議を行うこととした。2.6月の基調報告を受けて、10月からは以下のような研究発表が順次行われた。まず中村は、政府要人をイスラム共同体の外にある「不信仰者」と見なすことでテロをイスラム的に正当化しようとする現代のイスラム過激派運動に言及しつつ、「信仰者」とは誰かをめぐる神学論争史の検討を行った。ついで鎌田は、スンナ派とシーア派の権威のあり方の違い、とりわけシーア派の共同体論に特長的な隠れイマーム思想の意義を論じ、イラン革命に至る歴史の流れの中に位置づけた。東長は神秘主義者による教団設立を共同体思想のひとつの発露と見る立場から、特に18世紀以降大改革運動を繰り広げたネオ・スーフィズム教団の発生について分析した。また飯塚は現代イスラム国家論の系譜が大きくふたつの潮流に分類されることを示し、その根幹にはイスラム法の定義をめぐる中世以来の思想対立が存在することを指摘した。3.以上のように多様な観点から共同体思想が論じられたが、そこで常に意識されていたのは現代イスラムの動向を思想史的発展の中でとらえようとする共通の立場であった。イスラムが政治化する原因は何よりもその共同体思想にある。本研究を通じて、その個別局面の理解はかなり深まり、比較の作業も相当進んだと言えよう。しかし、一年間ではそれぞれの思想の相互連関および相互影響の理解が不十分でもあり、今後は私的研究会により研究を続けたい。その成果は2〜3年後をめどに公表するつもりである。
著者
野村 美明 福澤 一吉 奥村 哲史 久保山 力也 D・H Foote 蓮 行 太田 勝造 大澤 恒夫 江口 勇治 金 美善 竹内 俊隆 新田 克己 平井 啓 仁木 恒夫 森下 哲朗 加賀 有津子 小野木 尚
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

国内でも国際的にも交渉の必要性は増大しているが、一般市民にはその教育と学習の機会は少ない。本研究の課題は、交渉の非専門家や一般市民に交渉教育・学習へのアクセスを広げることである。本研究は、交渉の要素を説明する理論とこれらを解説する実例を組み合わせた要素理論表と「要素・理論・ケースサイクル」法によって、以上の課題の解決を図った。本研究によるよりよい交渉実践の普及が、秩序形成と価値創造を促進することが期待される。
著者
中村 康雄
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アーチェリーのシューティング動作における肩甲骨運動の無侵襲測定は,皮膚の動揺による誤差が大きく,その手法は未だ確立されていない.そこで,本研究は,モーションキャプチャ・システムを用いた肩甲骨運動の無侵襲測定法の開発を目的とした.反射マーカを肩甲骨周辺の体表面に100個貼付することで体表面形状を測定し,その形状変化から肩甲骨運動を推定した.結果から肩甲骨運動を推定できることを示した.また,アーチェリーのシューティング動作における肩甲骨運動を計測した結果から,アーチェリーのシューティング動作にともなう肩甲骨運動を測定できることを明らかにした.
著者
森岡 清志 中尾 啓子 玉野 和志 和田 清美 金子 勇 安河内 恵子 高木 恒一 浅川 達人 久保田 滋 伊藤 泰郎 林 拓也 江上 渉
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の課題は、パーソナルネットワークとソーシャル・キャピタルの相互関連、および都市特性・地域特性との関連を明らかにすることにある。統計的調査ではソーシャル・キャピタルを「住民力」と表現し、平成20年11月と平成21年9月に世田谷区住民を対象者として「住民力」に関する標本調査を実施した。20年調査では、45歳以上75歳未満の住民から8,000名を無作為抽出し(回収率65.3%)、21年調査では20歳以上75歳未満の住民を10,000名抽出した(回収率54.5%)。分析結果から、住民力とコミュニティ・モラール、投票行動の間に高い相関が見られること、また、居住年数、戸建率などの地域特性と関連することが明らかになった。
著者
東 淳一
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

東京大学医学部製作による音声分析システム「音声録聞見」により生成される基本周波数(以下F0)およびパワーの数値データを利用した定量的韻律分析プログラム、および分析のための前処理として、「音声録聞見」システムにより書き出されるデータファイルの整形および編集を行うプログラムを、Visual C++により開発した(Windows95対応)。韻律分析プログラムには、・F0およびパワーの平均値と分散を求めるプログラム・F0の分布状況を示す散布図をグラフィック表示するプログラム・F0対パワーの相関係数を算出するプログラム・F0の上昇・下降パタンの動態を定量的に示すプログラム・長時間のF0およびパワーの動態をグラフィック表示するプログラムなどが含まれる。さらに、上記のプログラムを利用し、小規模かつ定量的な日本語方言音声の韻律比較研究などを実施した。
著者
長野 晃三
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

蛋白質の三次構造はそのアミノ酸配列によって決められる。蛋白質の折りたたみの過程は数ミリ秒という短い時間で終了してしまうので、幾何学的に可能なあらゆる組み合わせの構造を検討して、その中から最も安定な構造を選び出すのではなくて、ある限られた数の候補の部分的構造を組み合わせることによって、それらの調和した最適な構造が一つ選び出されるものと思われる。X線構造解析によってこれまでに蓄積されて来た蛋白質の三次構造をアミノ酸配列と比較すると、相同性が低いにも拘わらず、相互に非常に良く類似した三次構造が多いことが明らかとなった。それは三次構造の全体ではなく、ドメインと呼ばれる一部であることが多いのだが、αヘリツクス、βシート、ターン等の二次構造が相互に積み重なった様式のことで超二次構造と呼ばれている。統計的な予測性に基づいて、最も単純な予測を行うと、all-の蛋白質ではβシートと予測される部分でもしばしばαヘリックスとなり、all-β蛋白質ではαヘリックスになると予測された部分でも逆平行βシートとなることが多い。α+β蛋白質でも同様なことが起るが、α/β蛋白質では比較的良く予測が実際の二次構造と一致することがわかって来た。そこで、全ての蛋白質を同一の方法に従って正しく三次構造を組立てるために、先ず最初のステップとして、その蛋白質がα/β蛋白質であると仮定して折りたたんで見ることを考えた。アルゴリズムの詳細は省略するが、フラボチトクロームb5とエノラーゼという蛋白質についてシミュレーションを行い、Protein Data Bank中にある基本型の原子座標を用いて自動的に組立てるソフトウェアを作り、グラフィック・ディスプレイによって表示することに成功した。現在、20種類のα/β蛋白質について、それ自身の統計データを用いずに、常に第一位で正しい構造を見つけられるようにアルゴリズムを改良中である。
著者
千葉 和義
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ヒトデ卵では、サイクリンBのmRNAは短いポリA末端がウリジンで修飾されており、ホルモン刺激によってそのウリジンがトリミングされると同時にポリA伸長が起こること、さらに合成したRNAをマイクロインジェクションすることでウリジル化はRNA安定には関与しないことも明らかにした。体細胞ではウリジル化はmRNA不安定化にはたらくことが報告されているが、卵ではむしろ翻訳抑制にはたらいていることが示唆された。本研究により、母性mRNAの新たな3’UTR修飾と翻訳制御機構が明らかになった。
著者
上田 健 本田 浩章
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ポリコーム複合体PRC2 (Polycomb repressive complex 2)は、ヒストンH3の27番目のリジン残基 (H3K27)をメチル化して転写抑制に寄与するとされるタンパク質複合体である。私達は、以前に骨髄異形成症候群において、PRC2の構成因子のひとつであるEEDの遺伝子変異を同定した。本研究では、疾患関連EED Ile363Met変異を有するノックインマウスを用いて変異の機能を個体レベルで解析した。その結果、変異マウスでは、H3K27トリメチル化のピークから周辺への伝播障害を伴い、造血細胞の自律的増殖と造血器腫瘍発生率の増加を呈することが明らかとなった。
著者
友田 博通 斎藤 英俊 福川 裕一 山田 幸正
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ベトナムの伝統住居は、最近の経済発展と生活近代化の影響で消滅の危機に瀕している。ベトナム文化情報省と共同し、年2省、省内全域を対象に民家を体系的に探索整理した。第一次調査では村落単位に1~2件を抽出して悉皆調査を行い、第二次調査ではこの約1割を抽出し詳細調査を実施している。また、ベトナムの民家史に不可欠の中国の概略調査を併せて実施している。平成11年度はナムディン省・ゲアン省、平成12年度はティエンザン省・カンガイ省、平成13年度はタインホア省・カンナム省を対象に調査した。ハノイ周辺の中国の影響が強い住居形式から、フエに見られるベトナム独自の住居形式がどのような形で変遷し成立したかを確認できた。さらにフエ省より南に位置するティエンザン省カンガイ省では、フエ省以北に見られない棟木を支える中柱形式が見られ、これは南部に土着的にあった形式か、中部山岳部に居住する少数民族の影響かなど、新たなベトナム民家史上の謎が議論された。また、中国南部からハノイまで概略調査を実施、広東省広州市の漢民族住居・広東省広西省の北部のトン族住居・広西省沿海部に居住するベトナム人と先祖を同じくする欽族住居、ベトナムに入ってランソン省タイ族・トゥー族住居を調査した。中国南部の伝統的住居はベトナム中部の形式に近く、バクニン省等のハノイ圏の住居との類似性は福建省の伝統住居との類似性が高かった。これらの結果から、3年間でベトナム民家史上重要と考えられる中心的省を取り上げた概ねベトナムの民家史の大筋は明確になった。また、毎年3月実施した意見交換会ではベトナム側からも熱心な議論がでて、民家研究者が広範に育ってきたと実感している。さらに、2000年にJICA開発パートナーに採用され、この調査結果を受け、年2省、各省1件の修復と5件の文化財指定を実施することになった。調査研究が実際に行政によって実施される貴重な事例にもなった。