著者
黒崎 直 岩本 正二
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.宮殿・宮衛遺跡や寺院跡の発掘調査で確認できる「造営尺」には、高麗尺(1尺=約35.6cm)と唐尺(1尺=約29.8cm)がある。前者は飛鳥寺や法隆寺の造営に使われ、後者は7世紀中ごろの前期難波宮の造営に使われている。高麗尺は後に「大尺」、唐尺は「小尺」と整理され、「大尺」は主として「測地尺」として使われている。藤原・平城京の条坊は、この「大尺」による。ただし7世紀前半に、再び「尺」の整理が行なわれ、地割り・建築遺構とも、1尺=約29.8cmが基準となっていく。2.出土品としての「物差」は、平城宮跡出土のそれは1寸が2.95cm、平安京跡では5寸が15.3cmで、1尺に換算するとそれぞれ29.5と30.6cmとなる。時代が下がるほど、基準尺が伸びる傾向がここでも裏ずけられる。3.木製容器(主として曲げ物)や土器から当時の基準の容量を復原しようとした。曲げ物の場合、直径15cm前後、高さ6cmのものが主流であることが判明したが、これをもって、基準容量とすることはできない。「令制」にみえる銅製升の実物が発掘調査で発見されることを期待したい。4.鉄製釘の寸法と重量を計測して、「鉄」についての実際の重量を考察し、あわせて鉄釘の名称を復原した。この作業に関連して、『延喜木工寮式』にみえる「打合釘・平釘」の鉄使用料の記載に齟齬を認めた。5.なお、重量復原の手がかりとして、「分銅」や「おもり」が出土しているが、最近平城京跡で発掘された「分銅型銅製品」は重さ329gで、ほぼ8両=半両に相当する。貴重な考古資料として注目できる。
著者
大野 泰之 渡邊 陽子 松木 佐和子 滝谷 美香
出版者
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

食葉性昆虫の大発生した広葉樹二次林において,健全なウダイカンバが衰退(枝枯れ)・死亡に至る過程を明らかにした。観察した二次林では2006-2008年の3年間に食葉性昆虫の大発生が確認された。顕著な衰退は2009年に認められ,観察木の15%は樹冠部の枝の50%以上が枯損した重度の衰退木であった。解析の結果,食葉性昆虫が大発生する以前の20年間(1986-2005年)の年輪幅が狭く,食害の程度が大きかった個体ほど,重度の衰退木となりやすかった。これらの衰退木の約80%がその後の2年間に死亡した。これらの結果から,長期間の低成長は食害に対する感受性を増加させ,その後の衰退に影響する可能性が高い。
著者
高橋 一広 倉智 博久 山谷 日鶴
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

閉経後の内臓脂肪で11beta-HSD1の発現が増加することが明らかになり、ヒトでもエストロゲンは11beta-HSD1の発現を抑制すると考えられた。BMIの増加に伴い脂肪組織内のaromatase発現は増加するが、生理活性の低いE1が優位になるため、局所内のグルココルチコイド活性化を抑制できない可能性が想定された。皮下脂肪では閉経前後で脂肪酸の代謝に差は認められなかったが、閉経群の内臓脂肪で、脂肪酸の代謝産物が有経群に比較して高濃度に存在することが、メタボローム解析で初めて明らかとなった。閉経後の内臓脂肪では、脂肪酸代謝に変化がおきていることが示唆された。
著者
井岡 邦仁
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ガンマ線バースト(以後GRB)はブラックホールの形成と関係する宇宙最大の爆発現象である。本研究では宇宙一明るいGRBがどのように光っているのか、という基本的な問いを理論的に考察した。その結果、(1)GRBが90%以上という異常に高い効率で光っていることが分かった。(2)高効率を実現するモデル(衝撃波加速効率の時間変化モデルや電子陽電子モデル)をいくつか提唱し、(3)高エネルギーガンマ線や宇宙線による検証法を提案した。(4)新たに発見された暗いGRBに対しても理論モデル(中性子星からのジェットモデル)を立て、高エネルギーニュートリノ、宇宙線の量を評価した。(5)衝撃波による粒子加速効率を測定する新しい方法(偏光を用いた方法)を提案した。
著者
福島 真人 尾崎 勇
出版者
青森県立保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

痛覚,脳または自律神経の反応における呼吸の影響を検討するために,脳波,交感神経皮膚反応(SSR),指尖容積脈波(DPG),主観的痛みスケールを記録した。左手に呼気と吸気時にそれぞれ電気刺激を与えた。刺激強度は痛覚閾値とした。刺激強度は同一であったにも関わらず,被験者の主観的痛みスケールでは,吸気の電気刺激に比較して呼気刺激で痛みが弱いと感じていた。痛み関連脳電位の後期成分の振幅は吸気よりも呼気で小さかった。痛みの情報処理は呼吸によって動揺し,痛みは呼気時に中枢神経システムによって制御されていることが示唆された。
著者
笠 一生
出版者
福岡県教育庁北筑後教育事務所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

筆者は、数学における対話の典型を数学の発展の過程の様相(Imre Lakatos 1980)の根源にあるヘーゲルの発見の論理学(テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ)である弁証法(礒田,1999)に学び、「ずれ」に始まる対話型問題解決の指導モデルと典型的な指導事例開発を行った(笠,2005)。「ずれ」を促す発問は発展的に数学を使う契機であり、対話を促す契機である。その「ずれ」を問題解決の指導に位置づけることで、生徒自ら表現し、数学を対話的に再構成しようとする姿勢が育つことも検証した(笠,2006)。他方で、ともすれば個人研究は、特定の学校の特定の先生であればできる職人技とみなされがちである。本研究では、それを誰もが取り組める事例づくりのマニュアルとして、実践研究者の立場から共同開発研究に取り組み、次のような成果をあげるに至った。研究実績1:事例の共同開発〔数学教育2007/4〜2008/3(連載「対話型問題解決の授業づくり」)〕〔数学教育2008/3(特集「対話を生かした発展的な問題解決授業」)〕研究実績2:対話を生かした発展的な問題解決授業づくりのポイント→『4つの学び直し』の場の設定(1)『既知の確認による学び直し』の場では、本時の学習内容につながる既知の知識の確認を行う。(2)『他と比較して自己の考えを知る学び直し』の場では、既知を活用した着想に疑問を持つ子どもへの発問を重視する。(3)『新しい立場をつくる学び直し』の場では、子どもが自らの思考過程や推論の根拠・意図を表現しえる発問を重視する。(4)『新しい理解を深める学び直し』の場では、学んだことを使う場を設定する。〔思考・判断・表現による『学び直し』を求める数学の授業改善〕出版予定
著者
松下 光範
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ユーザが多量のデータから有益な情報を見出すために行う探索的な分析行為を支援する技術の実現を目的としている。このような分析行為の支援の枠組みとして、ユーザが自然言語でシステムに質問し、システムが可視化表現(統計グラフ)でユーザに応答するインタラクションモデルを提案している。本年度は、(1)昨年度に試作したシステムを用い、被験者実験を行ってユーザの自己内省行為がシステムの操作にどのように現れるかにっいての分析、(2)テキスト情報と数値情報を併用した探索支援システムのモデル化と実装、を行った。(1)では、5人の被験者を対象として、10年分の売上高データの分析結果から今後の販売指針を立案するタスクを課し、その様子を観察した。その結果、被験者らは、探索過程で生じた疑問や得られた知見を振り返る際の手掛かりとして、付箋機能を用いてテキスト形式で外在化した表現だけでなく、オブジェクトの位置やサイズ変更といった操作で生じた視覚情報を用いられている様子が観察された。この結果から、外在化表現と内的資源(記憶)とを適切に対応させる枠組みが、探索的データ分析支援にとって重要であることが示唆される。また(2)に関しては、動向情報を対象とし、それに対するユーザの関心(e.g.,最近数ヶ月のガソリン価格の変化、ここ数年の携帯電話加入者数の推移)に応じて時系列数値情報を統計グラフ(折線グラフ)として描画し、その上に関連する言語情報をその内容に応じたアイコンの形式で協調的に提示する方法を提案した。このアイコンは言語情報へのポインタの役割も兼ねる。これにより、ユーザは描画されたグラフ自体を自分の知りたい情報の概観(要約)として利用できるだけでなく、興味を持った箇所についてどのようなことが述べられているかを背景となっている文書群にアクセスすることで参照できるようになっている。
著者
袴田 優子
出版者
北里大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011-08-24

本年度は,研究費採択が決定した秋期~年末にかけて,本研究実施にあたり必要不可欠な研究環境のセットアップを済ませ,年明け~研究をスタートさせた.具体的に行った内容は下記の通りである.現在までに,12名の参加者から基礎データを得ており,うち4名が年度末~介入プログラムの実施を開始している.1)本研究課題について北里大学C倫理審査委員会に倫理審査申請を行い,2011年11月16日付で承認を受けた(C倫11-690).2)北里大学病院本院放射線科・教授とミーティングを重ね,核磁気共鳴画像(MRI)装置を機能画像(fMRI)実験について連携体制を整えた.また本学の診療放射線技師2名に撮像時のデータ収集協力を得た.3)大学本院MRI検査室に,fMRI実験課題中の脳活動を測定するために必用な反応記録装置(レスポンスパッド),そのケーブルを通過させる為の導波管の設置工事を行った(2011年12月).4)fMRI中に提示を行う実験課題を作成した(E-primeという心理学実験ソフトウェアを用いてDot Probe TaskおよびDual Task Designのプログラミングを行った).5)内分泌反応に詳しい独立労働安全研究所・研究員とミーティングを重ね,唾液コルチゾル検体キットの提供,および取得検体の解析について委託を依頼し,連携体制を整えた.6)その他,測定に必要な質問紙や認知機能検査を手配した.7)年明けより各学部の掲示板にチラシを掲示し,研究参加者募集を開始した.
著者
山下 英明 石塚 陽
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ブロック生産方式のコンセプトを取り入れた生産システムをモデル化し,取り組むべき問題を明確にし,その問題の解析方法を構築した.具体的な成果は以下の通り.1.工場見学 ブロック生産方式を採用しているいくつかの工場を見学することによって,システムのスループット,平均仕掛品在庫,単位時間あたりに要する作業員のためのコストが重要な要因であることが判明した.2.ブロック生産方式のモデル化 少人数の多能工が複数の工程からなるブロックを担当するブロック生産方式と,各作業員が仕掛品を持ってすべての工程を順番に訪れて一人で完成まで仕上げる一人一品生産方式は,効率的に多品種少量生産を行う方式として注目を浴びている.本研究では,これら両方の方式を特殊な場合として含む,より一般的なシステムを待ち行列モデルによってモデル化した。このモデルを解析することによって,ブロック生産方式や一人一品生産方式の設計時における構成要素の設定に関する定性的な方式を得ることができる.3.最適化問題の定式化 (1)一定値以上のスループットの制約のもとで,平均仕掛品在庫を最小にするように,作業員数一定のもとでブロックの構成と作業員の割り当てを決定する問題,および(2)一定値以上のスループットの制約のもとで,単位時間あたりの作業員と仕掛品在庫のコストを最小にするように,ブロックの構成と作業員の総数およびその割り当てを決定する問題を定式化した.4.解析方法の研究 上述の問題を解析するためには,従来の待ち行列モデルの解析手法では問題の解析が難しいと考えられる.これに対して,我々は最近提案されたサンプルパス最適化の研究を進め,この方法が幅広いモデルに対して有効であることを明らかにした.5.最適化問題の解析結果 本研究によって,スループットと平均仕掛品在庫の間にトレード・オフの関係があるだけでなく,加工時間の変動係数の値によってシステムの最適な構成が大きく影響を受けることが判明した.
著者
高田 秀志
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では,情報の発信元を判断可能とする情報として,情報の公共性および状況の公共性に基づいて,個人に関わるどのような情報を開示すれば良いかの枠組みを構築した。また,情報自体の配信と,配信情報に付与された情報に対する評価を,リング型P2Pネットワークで構築した場合の実現可能性についてシミュレーションにより検証した。さらに,どのような個人であるかを認識できるように,SNS上への投稿から特徴的なものを抽出する手法およびユーザをランキングする手法について検討し,アンケート調査により評価を行った。
著者
高橋 優
出版者
福島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、従来啓蒙主義へのアンチテーゼとみなされていたドイツ・ロマン主義を啓蒙主義的諸学問との関係で捉え直し、ドイツ・ロマン主義が啓蒙主義的学問を踏まえ、それを乗り越えて行く運動であることを明らかにする試みである。当該研究では主に、ノヴァーリス『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』、フリードリヒ・シュレーゲル『ルツィンデ』、クレメンス・ブレンターノ『ゴドヴィ』、およびハインリヒ・フォン・クライストの短編を分析し、ロマン主義的「新しい神話」運動の変遷の過程を啓蒙主義的感覚論、歴史哲学、自然科学の文脈から捉え直した。
著者
坪内 暁子 奈良 武司 丸井 英二 内藤 俊夫 大槻 公一 重松 美加 山崎 浩
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、当初、世界レベルでの甚大な被害が予想される重篤な新興感染症等、特に新型インフルエンザ(H5N1)をターゲットとした、国民や社会全体への被害を抑える対策の一つ、感染症教育の有効的な手法に関する研究であったが、東日本大震災以降、二次災害としての感染症の対策の意味合いも加え、知識の浸透と自主性の育成を念頭に、研究モデル校において、教育機器を用いた講義と自ら考える演習(避難所シミュレーション等)を併せたプログラムを実施、介入前後のアンケート調査の結果等から有効性が認められた。
著者
可知 直毅 平舘 俊太郎 川上 和人 吉田 勝彦 加藤 英寿 畑 憲治 郡 麻里 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

外来哺乳動物の攪乱の結果、生態系機能が消失した海洋島において、外来哺乳動物の駆除が生態系機能に及ぼす影響を評価し、駆除後の生態系の変化を予測するために、小笠原諸島をモデルとして、野外における実測データの解析と生態系モデルによる将来予測シミュレーションを実施した。シミュレーションの結果、ヤギとネズミを同時に駆除した方が植生や動物のバイオマスの回復効果が大きいことが明らかとなった。また、予測の精度を上げるために、環境の空間的不均質性を考慮する必要があることが示唆された。
著者
杉山 文子 安井 位夫 野島 武敏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

児童・生徒の理系離れが深刻化している。特に幾何学を苦手とする児童・生徒が多くなっている。科学技術にブレイクスルーをもたらす3次元幾何学に関する思考能力を習得する必要があることは明らかであることから、本研究では初等・中等教育過程において幾何学を楽しみながら習得できる教材として折り紙を基に開発を行った。児童・生徒は興味を示し、それらを教材化することが望ましいことがわかった。
著者
浦川 順治 照沼 信浩 本田 洋介 坂上 和之 山本 樹 柏木 茂 楊 金峰 鷲尾 方一 栗木 雅夫 福田 将史 高富 俊和 Liu Shenggnuang Deshpande Abhay Potylitsyn Alexander Tishchenko Alexey A. Konoplex Ivan. V. Ghosh Subhendu
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

フェムト秒パルスレーザー3倍高調波出力の高強度化(1.0mJから2.7mJへ)及び高安定化(pointing and energy stability <1.0%)を進め、光カソードからの90フェムト秒電子単バンチ及び4ミクロバンチビーム生成・加速(8MeV)後、遷移放射、スミスパーセル放射によるブロードバンド及び準単色化THz(0.3~10THz)特性測定を行った。2から4ミクロバンチ生成によるTHz超放射確認実験は、30cm-5周期小型ウィグラー磁石を使って行った。ウィグラー磁石Gap調整によりFEL共鳴放射条件を満足させた結果、Sub-THz超放射測定に成功した。THz応用実験も行った。
著者
萬代 忠勝 忍足 鉄太
出版者
倉敷芸術科学大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

タキソ-ルは水への溶解度が極めて低いため、点滴として使うためには可溶化剤の使用が不可欠であること、またその可溶化剤の副作用が問題であることなど、克服すべき課題は多い。タキソ-ルの水溶性を上げる手法として、水酸基に糖を連結する方法が考えられる。しかし、一般的な配糖化法では糖の1位の水酸基を他の官能基に変換して活性化しなければならないうえに、各種のルイス酸を使用する必要がある。ルイス酸を使うことによって、酸に不安定なオキセタン骨格が開裂したり、バッカチン骨格の転位等が起こる恐れがあることから直接的な配糖化法を回避し、タキソ-ルの水酸基をエステル化することによって糖を連結する新規配糖化法を採用することとした。糖を有するグリコール酸(アシル化剤)は短工程で収率良く調製できる。グルコースの他に、ガラクトース、マンノース、キシロースからも同様のアシル化剤を調製した。つぎにエステル化でパクリタクセルの7位に連結することによって7-GLG-PT,7-GAG-PT,7-MAG-PT、7-XYG-PTを合成した。また、側鎖の2′位にグルコース由来のアシル化剤を連結した2′-GLG-PT,2′,7-GLG-PTも合成した。いずれのタキソ-ル誘導体の水溶性は、タキソ-ルを上回る結果を示した。特に、7-MAG-PTはタキソ-ルに比べて260倍の水溶性を示すことが判った。
著者
千場 梅子 山本 哲郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

結核菌(死菌)を血漿に曝すと、血液凝固反応に伴い、血漿中のリボソームタンパク質S19(RP S19)が結核菌膜上の負荷電領域を足場にして血漿トランスグルタミナーゼ(FXIIIa)により架橋二量体化され、単球のC5aリセプターを介して単球/マクロファージを動員することが明らかになった。 このことから、 結核菌が局所に侵入したとき、 血管外へ透過したRP S19が上記の機序で架橋されて単球/マクロファージを動員し、 菌を貪食処理すると考えられた。この単球走化には、補体活性化産物C5aも関与していた。結核菌感染に対する自然免疫反応に、補体系とともにRP S19も関わっていることが示された。
著者
喜多 藍
出版者
法政大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度の最大の成果は、これまでの研究をまとめた博士論文が受理されたことである。本稿では、中国古典文学に描かれる厠と井戸の描写を分析し、古代中国の人々が厠や井戸をどのような場所と認識していたかを考察した。中国の厠については、主に六朝から唐代まで、どのような場所と考えられていたかを論じ、中国には多種多様な厠神に関する記述があり、出会っただけで人間に死をもたらす恐ろしい神と、富貴を与える神との二種類に大別されることが判明した。これは、日本の厠神が、不敬な行為を行わない限り禍をもたらすことのない、穏やかな神であるのとは大きく異なっている。また井戸については、文言小説に描かれる井戸がこの世と異界を繋ぐ境界であることが指摘されている以外、ほとんど研究が行われていない現状を踏まえ、従来取り上げられたことのない多くの文献を対象として、中国における「井戸観」を探求し、以下の三点について指摘した。1. 文言小説に加えて中国古典詩歌を検討し、詩歌では「境界としての井戸」は描かれず、詩歌と小説では井戸の何処に注目するかが異なっているとする新たな見解を提示した。2. 井戸で使われる釣瓶や轆轤に注目し、釣瓶は人間の魂の入れ物であり、釣瓶を上下させる轆轤は人の運命をもてあそぶものという象徴的意味があることを明らかにした。3. 唐・元稹「夢井」に「遶井(井戸をめぐる)」いう語が二度現れることを端緒とし、ものの周囲をめぐるという行為の民俗学的意義を考察し、中国では先秦時代から現在まで、死者を安置した棺や墳墓の周りをめぐるという死者を弔う習俗が途切れることなく行われてきたことを指摘した。以上を踏まえ、元稹「夢井」および李賀「後園鑿井」の新たな解釈を提示しつつ、李白「長干行二首」では井戸に関する習俗や婚姻儀礼における旋回の意義に基づいて、従来提起されていた多くの議論の中からひとつの結論を導いた。
著者
東條 安匡
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

建設混合廃棄物の選別残渣を中心に,硫酸イオンや石膏を含む材料を対象に一般環境中での利用を想定した硫化水素生成について検討した.選別残渣からの硫酸イオンの溶出傾向は,対象とした他材料と大きく変わらなかったが,有機物の溶出量は多く,長期間継続する傾向にあった.残渣からの溶出する有機炭素は,固体中の有機炭素の約1%であり,固相有機物の多くは難溶出性であった.選別残渣からの硫化水素生成はpHが高く維持されれば阻害され,再生砕石との混合が有効であった.
著者
舘 卓司 中村 達
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

1)DNAデータと比較形態による双翅類の高次系統解析をおこない,DNAデータでは,ヤドリバエの単系統性およびクロバエとの姉妹群関係を示した.形態研究では,ハエ類成虫の後胸部の比較形態学をおこない,その側板の相同性を再定義した.環縫群とアタマアブ科では腹部との関節構造を持ち,それが共有派生形質であることを示した.2)ブランコヤドリバエ属の寄主利用の変遷は,これまでに記録された寄主情報を分子系統樹上で最適化することによって解明された.3)アワヨトウを使ってヤドリバエ2種の累代飼育実験のベースを構築された.これは将来的にヤドリバエの一齢幼虫の寄主適応能力を調べるためである.