著者
川又 華代 金森 悟 甲斐 裕子 楠本 真理 佐藤 さとみ 陣内 裕成
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2022-017-E, (Released:2023-03-19)

目的:身体活動の効果のエビデンスは集積されているが,事業場では身体活動促進事業は十分に行われておらず,「エビデンス・プラクティス ギャップ」が存在する.このギャップを埋めるために,本研究では,わが国の事業場における身体活動促進事業に関連する組織要因を明らかにすることを目的とした.対象と方法:全国の上場企業(従業員数50人以上)3,266社を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を行った.調査項目は,身体活動促進事業の有無,組織要因29項目とした.組織要因は,事業場の健康管理担当者へのインタビューから抽出し,実装研究のためのフレームワークCFIR(the Consolidated Framework For Implementation Research)に沿って概念整理を行った.目的変数を身体活動促進事業の有無,説明変数を組織要因該当総数の各四分位群(Q1~Q4),共変量を事業場の基本属性とした多重ロジスティック回帰分析を行った.最後に,各組織要因の該当率と身体活動促進事業の有無との関連について多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:解析対象となった事業所は301社であり,98社(32.6%)が身体活動促進事業を行っていた.Q1を基準とした各群の身体活動促進事業の調整オッズ比は,Q2で1.88(0.62–5.70),Q3で3.38(1.21–9.43),Q4で29.69(9.95–88.59)であった(傾向p値 < .001).各組織要因と身体活動促進事業との関連については,CFIRの構成概念のうち「内的セッティング」に高オッズ比の項目が多く,上位から「身体活動促進事業の前例がある」12.50(6.42–24.34),「健康管理部門の予算がある」10.36(5.24–20.47),「健康管理部門責任者の理解」8.41(4.43–15.99)「職場管理者の理解」7.63(4.16–14.02),「従業員からの要望」7.31(3.42–15.64)であった.考察と結論:組織要因該当数と身体活動促進事業の有無に量反応関連が認められ,組織要因の拡充が身体活動促進事業につながる可能性が示唆された.特に,社内の風土づくりや関係者の理解の促進が有用であると推察された.
著者
野際 大介 佐藤 栄作
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.3-13, 2022 (Released:2022-11-10)
参考文献数
29

In recent years, more and more consumers who cancelled their newspaper subscription have signed up for online-flyer portal sites. However, their site access logs are not necessarily linked with their purchase records stored in ID-POS data, which is a marketing problem from the sellers' point of view. As a solution to this problem, we propose a practical framework of a hidden Markov model which allows for the assessment of the flyer advertisement. We also present a hierarchical Bayesian model which sheds light on the information search and shopping behavior of consumers, given individual heterogeneity. Our results demonstrate that the subscribers of online flyers are more likely to visit stores as they have more flyer accesses, email advertisements from portal sites and the announcements of time-limited sales.
著者
水野 友香子 上林 翔大 安田 美樹 増田 望穂 安堂 有希子 佐藤 浩 田口 奈緒 廣瀬 雅哉
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.176-180, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
8

死戦期帝王切開術(PMCD)は心肺停止(CPA)妊婦の蘇生を助ける手段であり,CPA後速やかなPMCDの施行が母体予後を改善すると考えられている.計画的硬膜外麻酔下無痛分娩中にCPAとなり当院へ搬送されPMCDを施行し,母児とも救命し得たので報告する.症例は34歳の初産婦,妊娠経過は順調であった.既往歴,アレルギー歴に特記すべき事項はなかった.妊娠39週2日に計画無痛分娩のため硬膜外麻酔下で分娩中にCPAとなり,心拍再開と心停止を繰り返しながら当院へ搬送されPMCDを施行した.子宮筋層縫合後も創部からの出血が持続したためガーゼパッキングとVacuum packing closure法を行い集中治療室に入室したが出血が持続し子宮腟上部切断術を行った.母体は分娩後22カ月の時点で,高次脳機能障害として短期記憶障害を残すが,その他の知的運動機能は正常である.児は,重症新生児仮死で出生し低体温療法を施行されたが,重度低酸素性虚血性脳症による重症心身障害のため人工換気継続中である.今回の経験を今後に生かせるよう,診療チーム間で検討を繰り返し,プロトコールの作成を行ったので紹介する.
著者
佐藤 一子
出版者
法政大学キャリアデザイン学部
雑誌
法政大学キャリアデザイン学部紀要 (ISSN:13493043)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.157-180, 2008-03

In this paper, I intend to clarify the historical process in which the profile of a new lifelong learning facilitator has been formed within the integrated system of lifelong learning in Italy since the l990s. Facilitators or trainers of lifelong learning were divided by various fields, but now they have come to be considered according to common functions and jobs. In this paper, their profiles are understood based on four groups, which were historically formed separately, namely: staff, operators, facilitators and trainers. The first group consists of staff working in the private or nonprofit sector in the field of adult education and socio-cultural activities. The second group consists of operators from public sector education and cultural facilities, and personnel involved in adult education administration. The third group consists of trainers of private sector vocational training entrepreneurs. The fourth group is personnel and trainers of public vocational training centers. There are people who have various other roles supporting the leaning process, not only lecturers but also such jobs as managers, tutors, programmers, and counselors. These roles and jobs as lifelong learning facilitators are being established with special occupational descriptions. This paper considers the role and function of such lifelong leaning facilitators from the viewpoint of the "competence of competencies," that is to say, their competence in developing learning competencies.
著者
佐藤 英介 磯辺 智範 山本 哲哉 松村 明
出版者
公益社団法人 日本医学物理学会
雑誌
医学物理 (ISSN:13455354)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.97-102, 2016-08-31 (Released:2017-02-02)
参考文献数
11

The magnetic resonance imaging (MRI) is established as the imaging technique that is essential to the imaging of the central nervous system disease. Above all, the diffusion weighted image (DWI) is known as the tool which can diagnose acute ischemic stroke with high accuracy in a short time. DTI, an applied form of DWI, was devised as a technique to image the structure of the brain white matter. In clinical sites, this technique is used for pathologic elucidation such as the intracerebral tissue injury or mental disorder. Additionally, diffusion tensor tractography (DTT), which is a technique to build three-dimensional structure of the neural fiber tracts, is used for grasping the relations between a brain tumor and the fibers tract. Therefore, these techniques may be useful imaging tools in the central nerve region.
著者
藤 正督 ラザヴィ ホソロシャヒ ハディ 高井 千加 佐藤 知広 尾畑 成造 立石 賢司
出版者
一般社団法人 粉体粉末冶金協会
雑誌
粉体および粉末冶金 (ISSN:05328799)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.609-615, 2018-10-15 (Released:2018-11-08)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

Sintering of most ceramic and composite materials are only possible at temperatures over 1000°C due to their high melting point. Sintering is acknowledged as an expensive process, which takes several hours to several days. In addition, high temperature sintering affects the final product by causing undesired grain coarsening or changing the initial chemical stoichiometry. Our research group has proposed a “non-firing sintering”, where no firing process is required for achieving high densities. The underlying idea of this method involves the chemical activation of powder surface via ball milling, where the surface of particles is rubbed against balls. In this review, we will introduce the mechanism of the method as well as some process know-how, with some examples of preparing solidified bodies of silicon carbide, composite of carbon nanotube (CNT) and silica, and organic/inorganic composite materials.
著者
武部 匡也 岸田 広平 佐藤 美幸 高橋 史 佐藤 寛
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.169-179, 2017-09-30 (Released:2017-10-31)
参考文献数
28

本研究の目的は、児童青年期の感情としての怒りの測定に特化した子ども用怒り感情尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生~中学3年生を対象に予備調査(n=101)および本調査(n=1,088)を実施した。その結果,1因子7項目の子ども用怒り感情尺度が作成され、「COSMIN」に基づいて検討したところ,十分な信頼性と部分的な妥当性が確認された。また,性別と発達段階で得点に差が認められ,男女ともに発達段階が上がるにつれて怒りを強く抱く傾向があること,そして,男子は女子に比べてその傾向が顕著であることが示唆された。さらに,項目反応理論による項目特性の分析では,子ども用怒り感情尺度は怒りを母平均よりも強く抱いている子どもに対して十分な測定精度を有していた。最後に,子ども用怒り感情尺度が怒りの認知行動療法に関する研究と実践の発展に貢献する可能性と本研究の限界,そして今後の課題が議論された。
著者
江原 義弘 前田 雄 須田 裕紀 佐藤 未希 郷 貴博
出版者
新潟医療福祉学会
雑誌
新潟医療福祉学会誌 (ISSN:13468774)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.61-66, 2021-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
13

医療系大学ではほとんどの学生が国家資格を取得することを目標に入学しているので国家資格試験の合格率は最大の関心事である。各学生の国家試験合格確率と学科全体の合格率が1年前から推定できる方法を提案した。これによって昨年と同じ対策で良いのか、それとも対策を変更する必要があるのかを、具体的なデータに基づいて検討することを可能とするためである。定員40名のある学科の1年間の模擬試験の成績と実際の合格・不合格のデータから、ある時期の模擬試験である点数を取った学生のうち何人の学生が合格していたかの合格確率を点数ごとに計算した。この確率と経時変化を折れ線グラフでモデル化した。このモデルを他の年度のデータに適用した。これによって各回の模擬試験の点数から各学生が昨年度と同じ努力をした場合の本番の試験の合格確率が推定できた。合格確率を合算することで学科全体で何人が合格可能かを推定できた。4年間の結果は、予測された合格率を実際の合格率で除した値を的中率とすると、各年度における2か月前の時点での的中率は0.86、1.00、0.99、1.13となった。当初の予想が悪い結果であれば対策を変更し、試験直前の予測が合格率100%となり、試験当日100%合格を実現できるのが理想的なシナリオである。
著者
岡村 かおり 前田 翔平 飯田 則利 佐藤 昌司 米本 大貴 飯田 浩一 和田 純平 卜部 省悟
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.278-285, 2019-04-20 (Released:2019-04-12)
参考文献数
72

胎児内胎児は多胎の発生過程で一児が他児に取り込まれた稀な奇形で,奇形腫とは異なる病態であるが,予後に大きく関わるため両者の鑑別は重要である.大半は新生児期から乳児期に発見され,液体で満たされた囊胞内に骨構造を有する充実成分と,充実成分へ流入する血管を認めるといった超音波所見を呈し,診断の参考となり得る.今回,我々は比較的高度な身体器官の形成を認め,また特徴的な画像所見から,出生前診断された1例を経験した.腫瘤は出生後も増大し哺乳障害を認めるようになったため,新生児期に手術を行った.MRIやCTは脊椎構造の有無,栄養血管や周辺臓器との位置関係を把握でき,手術時期やアプローチ法の決定に有用である.
著者
佐藤 洋美 島田 万里江 佐藤 友美 シディグ サーナ 関根 祐子 山浦 克典 上野 光一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.150526, 2013 (Released:2013-08-14)

【目的】医薬品の中には、対象疾病の受療率に男女差があり、男女のどちらかに偏って使用されるものが少なからず存在する。また、薬物動態や薬効・副作用の発現に性差の存在する薬物も多々存在することが報告されている。そこで、安全な医薬品の開発及び個々人に対する医薬品の適正使用に還元されることを目的として、本検討においては、申請資料概要が提出済みの既承認医薬品の中で、女性が組み込まれている臨床試験を実施したものがどの程度存在するかを調査し、解析を行った。【方法】独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency: PMDA)のホームページから検索を行った。2001年4月から2011年12月に承認審査された医薬品のうち、申請資料概要が入手可能な医薬品を対象に調査し、臨床試験における各相の女性の組み込み等について解析を行った。【結果】承認審査された医薬品のうち、国内または海外における第Ⅰ相~Ⅲ相試験及び臨床薬理試験のいずれかには女性は非常に高い割合で組み込まれていた。しかし、第Ⅰ相試験や臨床薬理試験に関しては、女性の組み込み率が低かった。女性を組み込んでいても男女別のデータを区別している医薬品はさらに少なかった。一方、女性が組み込まれ、データを区別している医薬品の添付文書において、性差に関する記述が記載されている医薬品は極めて少なかった。【考察】第Ⅰ相試験や臨床薬理試験の女性の組み込み率が低いことより、薬物動態や薬力学的作用における性差の概念が浸透していないことが考えられた。また、男女のデータを区別している医薬品において、性差に臨床的意義がない場合は添付文書にその旨を記載していないことが多いが、臨床効果に性差がなかったことを記載することは医療現場における安全な医薬品適正使用に貢献すると思われる。
著者
櫻本 秀明 卯野木 健 白坂 雅子 田本 光拡 佐藤 智夫 大内 玲 佐土根 岳 藤谷 茂樹
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.429-432, 2020-09-01 (Released:2020-09-01)
参考文献数
3

鎮静・鎮痛・せん妄・睡眠管理およびICU diaryに関する実践を明らかにすることを目的に,Webアンケートによる実態調査を実施した。ICU/high care unit(HCU)看護師からの227件の回答を分析し,鎮静目標が明確な施設は66.1%,目標鎮静設定を毎日見直すは22.9%であった。ほぼ全ての施設で定期的に鎮静評価が行われていた。客観的疼痛評価はbehavioral pain scale(BPS)37.4%,critical-care pain observation tool(CPOT)38.3%で行われていた。せん妄評価ツールを全く使用していない施設は13.7%にとどまった。睡眠促進は,明るさの調整(84.6%),モニター音の調整(48.5%)であった。ICU diaryを全く使用していない施設は77.5%に上った。重症患者に対する鎮静・鎮痛・せん妄評価,睡眠の促進は広く普及しつつあるが,ICU diaryも含めるといまだ十分とはいえず,今後も適切な普及に組織的に取り組む必要性が示唆された。
著者
高橋 徹 佐藤 工 大谷 勝記 佐藤 澄人 市瀬 広太 江渡 修司 佐藤 啓 米坂 勧
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.663-668, 2002-08-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
16

細胞表面マーカーの1つであるCD36は血小板,単球,脂肪組織,骨格筋など全身に広く分布し,多彩な機能を有している.特に長鎖脂肪酸輸送蛋白として心筋脂肪酸代謝に関与することや酸化LDL受容体として脂質代謝に関与することから,心筋症や動脈硬化との関連が注目されている.今回,川崎病冠動脈障害例において,123I-BMIPPの心筋への無集積を契機に発見されたCD36欠損症の1例を経験した.症例は9歳男児.3歳11カ月時に川崎病発症.冠動脈障害(右冠動脈瘤と左冠動脈拡張.閉塞性病変はなし)を合併し,フルルビプロフェン内服を継続中.現在までに心筋虚血を示唆する症状や検査所見は認めず,血糖,血清脂質および分画は正常.201T1/123I-BMIPP 2核種同時収集心筋シンチグラフィーで201T1の心筋への集積は正常であったが,123I-BMIPPは全く集積を認めず.フローサイトメトリー法による血小板および単球のCD36の発現を両者ともに認めず,I型CD36欠損症と診断した.近年,成人領域で動脈硬化や心筋症の原因としてCD36の関与が注目され,CD36欠損症に関する報告が散見されるが,小児例での報告はまれである.本症例は心筋障害や動脈硬化のない段階で偶発的に発見された貴重な症例と考えられた.将来,心筋症様病態への進展や川崎病冠動脈障害を基盤とした動脈硬化,虚血性心疾患への早期進展が危惧され,今後も慎重な経過観察が必要と考えられた.
著者
佐藤 昌利
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.297-306, 2014-05-05 (Released:2019-08-22)

1937年,Majorana(マヨラナ)によって,電気的に中性な素粒子を記述する新しいフェルミオンが導入された.のちにマヨラナフェルミオンと命名されたそのフェルミオンは,複素数の場で表される通常のディラックフェルミオンと異なり,実数の場で表すことができ,そのため自分自身が反粒子であるという特徴をもつ.ニュートリノがマヨラナフェルミオンであると期待されているが現時点では直接的な実験的証拠は見つかっていない.ところが,最近,超伝導体の励起状態としてマヨラナフェルミオンが実現される可能性が議論され,実際に実験によってその証拠が報告されはじめている.この記事では,素粒子の世界でなく,超伝導体という通常の電子の世界で何故マヨラナフェルミオンが実現されるのかということを解説する.まず,最初にマヨラナフェルミオンが実現される舞台であるトポロジカル超伝導体について説明する.トポロジカル超伝導体とは,基底状態の波動関数から計算されるトポロジカル数がゼロでない値をとるトポロジカル相の一種である.トポロジカル相には,バルク・エッジ対応と呼ばれる数学的構造よりその表面に質量ゼロのディラックフェルミオンに類似の集団励起が存在する.更に,超伝導体では,クーパー対の存在によって,電子とその反粒子である正孔とが同一視され,そのため,超伝導体中のフェルミオン励起は自分自身が反粒子となる.この2つの条件が重なることで,自分自身が反粒子であるディラックフェルミオン,すなわちマヨラナフェルミオンがトポロジカル超伝導体表面で実現されることになる.マヨラナフェルミオンがトポロジカル超伝導体で実現されることは,2000年にReadとGreenによって分数量子ホール状態とスピン三重項超伝導体の類似性を用いて初めて示された.トポロジカル超伝導体内の超伝導渦にマヨラナゼロモードが存在すると,渦自体の統計性がボーズ統計から非可換統計(粒子の交換によって新しい状態が作れる統計)へと変化することが示され,量子コンピュータなど新しいデバイスへの応用の期待から,注目を集めることとなった.しかしながら,スピン三重項超伝導を実現する物質が非常に少ないこともあり,実際にマヨラナフェルミオンが実現されたという報告はなかった.ところが,2003年の筆者の研究に続いて,2008年にFuとKaneがディラックフェルミオンのs波超伝導状態でマヨラナゼロモードを実現する可能性を示したことを発端とし,非可換エニオンを実験室で実現する機運が高まってきた.更に,2009年に筆者と藤本氏によって,通常の電子のs波超伝導状態もスピン軌道相互作用とゼーマン磁場によって,トポロジカル超伝導体へ相転移することが示され,冷却原子系からナノワイヤー系まで様々な系でマヨラナフェルミオンが実現可能であることが明らかになった.
著者
佐藤 恵実子 今山 修平 佐藤 裕
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.613-621, 1985-08-01 (Released:2012-03-15)
参考文献数
24

71才男子。多彩な皮膚症状を呈し, 心不全で急死した原発性全身性アミロイドーシスの1例を報告した。剖検により, 全身の諸臓器にアミロイドの沈着が認められた。皮疹部の光顕所見では, ダイロン, コンゴ·レツド染色で, アミロイドの沈着を真皮に認め, 血管周囲にもアミロイドの沈着が認められた。電顕所見では, 表皮基底膜直下から, 真皮にかけてアミロイド塊が認められ, その間を線維芽細胞が突起を伸ばしていた。一部, 線維芽細胞の突起の間に, 正常なコラーゲン線維が残存しているのが観察された。また, 血管内皮細胞の基底膜の間質側に密接して, アミロイド細線維が認められており, これら光顕·電顕所見から, 血管内皮細胞を透過したアミロイドの前駆蛋白が, 何らかの機序でアミロイド細線維となり, 組織間液の流れにのつて拡散し, 線維芽細胞, 最終的には表皮基底膜にさえぎられて蓄積していつたものと考えた。
著者
西間木 彩子 三輪 陽介 鈴木 亮 桑原 彩子 横山 健一 佐藤 範英 高山 信之 坂田 好美 池田 隆徳 佐藤 徹 吉野 秀朗
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.1550-1554, 2011 (Released:2013-02-21)
参考文献数
15

特発性好酸球増多症候群(idiopathic hypereosinophilic syndrome; IHES)は, 全身臓器に好酸球浸潤を伴う疾患であり, レフレル心内膜炎合併は心不全の増悪や心筋症様変化を伴い予後不良である. われわれは, 心臓MRIで治療効果を評価し得たレフレル心内膜炎合併HESの1例を経験した. 症例は33歳, 男性. 紅斑, 下痢, 末梢神経障害を主訴に来院した. 来院時, 好酸球の増加が認められた. 入院時の心電図で前胸部誘導のR波が減高していた. 心臓MRIで左室壁運動障害と心筋中層から内膜側にかけて, 遅延造影像が認められ, 心筋生検で好酸球の浸潤が確認されたため, レフレル心内膜炎と診断された. 各種検査でIHESに起因して発症したと判断され, プレドニゾロン(predonisolone; PSL)の投与が開始された. 心臓MRIで遅延造影効果が強くみられた心室中隔基部で壁運動の低下が残存し, 淡く認められた部位や造影効果のない部位は壁運動低下が改善傾向であった. レフレル心内膜炎の心臓MRIに関する報告は散見されるが, 遅延造影効果についての報告はほとんどなく, 心臓MRIの遅延造影が心機能予後予測や治療効果判定に有用である可能性が示唆された, 興味ある症例と考えられたので報告する.
著者
佐藤 知条
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.29-39, 2009-09-30 (Released:2017-07-18)

本稿では映画が教育的に利用可能なメディアとして学校教育の枠組みの中に位置づけられる過程を,他に先駆けて授業での映画利用を行った小学校訓導関猛の理論と実践を分析することで考察した。映画がまだ「活動写真」と呼ばれていた1910年代から20年代において教育関係者は活動写真の娯楽性や大衆性を批判し,悪影響を与えるという理由で児童や学校から遠ざけるべきものとして扱った。こうした状況下で映画教育を開始した関猛は,当時一般的ではなかった「映画」の語を使うことで,娯楽性や大衆性といった面を切り捨てて映像メディアとしての機能や教育的効果といった側面を焦点化させた。そして映画の利用が学校教育における目標達成に資することを示した。その結果,「映画」は学校教育の枠組みにおいて了解可能かつ利用可能な教材として位置づけられた。「映画」の語の出現とその意図的な使用は,授業での利用と研究を正当化させたという点において,映画教育という文化を生み出す上で重要な要素であった。