著者
加藤 敏英 遠藤 洋 酒井 淳一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.852-858, 2013-12-20 (Released:2014-01-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1 3

2004~2012年度にかけて,山形県内の臨床的に健康な1~11カ月齢の肥育牛合計1,098頭の鼻汁を採取し,牛肺炎起因菌の分離同定を実施するとともに分離菌株の薬剤感受性を調べた.その結果,Mannheimia haemolytica(Mh)が225頭(20.5%)225株,Pasteurella multocida(Pm)が835頭(76.0%)835株,Mycoplasma bovis(Mb)が412頭(37.5%)412株及びUreaplasma diversum(Ud)が270頭(24.6%)270株,それぞれ分離された.これらの菌種がまったく分離されなかったのは108頭(9.8%)であった.全調査期間を通じ,MhとPmはエンロフロキサシン(ERFX)とフロルフェニコールに高感受性(MIC50; ≦0.031-0.5mg/l,MIC90; ≦0.031-2mg/l)を示した.また,MbとUdはERFXに高感受性(MIC50; 0.2-0.78mg/l,MIC90;0.25-3.13mg/l)を示したが,一部のMbはマクロライド系に対し著しい低感受性(MICレンジ; TS 1-100mg/l≦,TMS 2-128mg/l≦)を示した.
著者
加藤 克
出版者
札幌博物場研究
雑誌
札幌博物場研究会誌
巻号頁・発行日
no.2020, pp.1-23, 2020-03-26

この資料はサイト「札幌博物場研究」http://www.fsc.hokudai.ac.jp/mk_hunhm/index.htmlからもダウンロード可能です。
著者
加藤 雅康 林 克彦 前田 雅人 安藤 健一 菅 啓治 今井 努 白子 隆志
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.229-235, 2011-05-15
参考文献数
15

近年,クマの目撃件数が増加しており,クマが生息する山間部付近の病院ではクマ外傷を診察する機会が増加することが予想される。当院で過去2年間に経験したクマ外傷の4例を報告し,初期治療での注意点について考察する。クマ外傷は頭部顔面領域に多く,顔面軟部組織損傷の治療にあたっては,眼球,鼻涙管,耳下腺管や顔面神経などの損傷を確認し,損傷の部位や程度に応じてそれぞれの専門科と共同で治療を行うことが必要となる。また,細菌感染や破傷風の予防が必要である。当院で経験した4例と文献報告でも,創部の十分な洗浄と抗菌薬治療,破傷風トキソイドと抗破傷風人免疫グロブリンの投与により重篤な感染を生じることはなかった。しかし,頭部顔面の創部と比較して四肢の創部は治癒に時間がかかった。クマ外傷の診療にあたっては,顔面軟部組織損傷と感染症予防に対する知識が重要と考えられた。
著者
加藤 欣也
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-3, 2015 (Released:2015-07-14)
参考文献数
3

単レンズは両凸(凹),平凸(凹),凸(凹)メニスカスの6種類に分類される。レンズで最も重要な仕様は焦点距離である。薄肉レンズの焦点距離はレンズから焦点までの距離であるが,凸レンズの焦点距離は正,凹レンズの焦点距離は負となる。レンズには前側焦点と後側焦点があり,空気中の焦点距離は等しくなる。厚肉レンズや組み合わせレンズの焦点距離は,主点から焦点までの距離となる。
著者
加藤 喬 坂田 敏治 小野 真介 筒井 嘉範
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.25-28, 2013

従来のバーチャルシステムを中継現場で構築する際、機材の調達費、現場での準備時間、作業環境等、本社内での運用に比べ様々な課題がある。そこで今回これらの課題解決にあたって、テレビ朝日では中継先から本社に送られてくる映像に、バーチャルCG用の位置情報(=カメラデータ)等をHD-SDIのアンシラリー領域に重畳し、それらの情報を元に本社のバーチャル設備をリアルタイムで連動させる「VANCシステム(Vertical ANCillary inserter)」を開発及び生中継で実用化した。結果、先の課題はほぼ解決し大幅な制作費節減と、本番直前まで臨機応変に修正及び調整可能な中継バーチャル演出を実現した。
著者
鷲田 和夫 加藤 有希子 川又 純 高橋 良輔
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.147-149, 2009 (Released:2012-08-02)
参考文献数
7

症例は58歳,男性.パーキンソン病発症14年目に寡動が増悪したため,非麦角系ドーパミンアゴニストであるプラミペキソールの投与を開始したところ深刻な病的賭博症状が出現した.薬剤変更により病的賭博行為は可逆的かつ速やかに消失したが,社会経済的に不可逆的な損害が生じた.病的賭博の発症理由として大脳辺縁系に位置するドーパミンD3受容体へのドーパミンアゴニストによる特異的刺激が関与していると考えられている.
著者
早田 義博 加藤 治文 周 明智 立花 正徳 林 永信 田原 真 河内 堯 瀬尾 泰樹 雨宮 隆太
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.15, no.11, pp.759-768, 1977-11-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
20

In order to examine the carcinogenetic process of squamous cell carcinoma of the lung, the authors observed chronologically the changes of the bronchial epithelium throughout the duration of the experiment which produced squamous cell carcinoma in dogs. The changes were observed cytologically, histologically and bronchofiber-scopically.At the bifurcation of the apical and cardiac bronchi of two adult beagles and four adult mongrels a single dose of 50mg 20-methylcholanthrene (20-MC) was injected by means of a special needle which we developed for both therapeutic and experimental use through a bronchifiberscope at seven day intervals. Proliferation of basal cells accompanied by atypical nuclei or nuclear fission appeared immediately after injection of 20-MC, and were replaced by metaplastic cells after one week. Mildly atypical squamous cell metaplasia occured after 1-4 weeks, and moderately atypical squamous cell metaplasia after 2-8 weeks in all dogs. Five to nine weeks after the commencement of the experiment severely atypical squamous cell metaplasia appeared in 4 dogs, and in 3 dogs carcinoma in situ between 8 and 14 weeks. Invasive carcinoma developed after 18-22 weeks in 3 dogs (2 beagles, 1 mongrel). Squamous cell metaplasia was thus recognized to be an important precursor of squamous cell carcinoma, and further research on DNA analysis performed throughout the experiment may provide further elucidation of the carcinogenetic process.
著者
井口 洋夫 MUNRO I.H. UNDERHILL A. PHILLIPS D. SARRE P.J. ROBB M.A. DAY P. 丸山 有成 宇理須 恒雄 吉原 經太郎 斎藤 修二 中村 宏樹 伊藤 光男 DAY Peter R J.Donovan J P.Simons 平谷 篤也 阿波賀 邦夫 川嶋 良章 十倉 好紀 馬場 正昭 宮島 清一 長嶋 雲兵 M H.Palmer 藤平 正道 入江 正浩 P B.Davies A Carrington B J.Howard J M.Brown R N.Dixon 吉野 勝美 川口 健太郎 遠藤 泰樹 小尾 欣一 高見 道生 廣田 榮治 福井 一俊 MUNRO I. MEECH S.R. STACE A.J. SIMONS J.P. DONOVAN R.J. 岡田 正 川崎 昌博 加藤 肇 西 信之
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

分子計算化学に関する5+5ミーティング、放射光利用化学に関する5+5ミーティング及び分子科学5分野合同のミーティングをそれぞれ、岡崎の分子科学研究所、英国ダ-ズベリ-研究所及び英国アビントンのSERC会議所において下記の通り開催した。学術研究上の情報交換・討議が大変有意義な中に実施され、将来計画についても忌憚のない意見交換が行われた。詳細は別途冊子にまとめられる。(1)分子計算化学5+5ミーティング平成5年7月15日-17日に分子科学研究所に於て日英5+5ミーティングが行れた。イギリス側の参加者はDr.B.Sutcliffe(Univ.York),Prof.M.Robb(Kings Colledge),Dr.H.Rzepa(Imperial Colledge),Dr.D.Wales(Cambridge Univ.)とProf.J.Connor(Univ of Manchester)の5名であり、日本側は中村宏樹、大峰巌(分子研)、平尾公彦(名大、東大)、岩田末廣(慶応)、加藤重樹(京大)、山下晃一(基礎化研)の6名であった。英国における計算分子科学の現状、非断熱遷移と多次元トンネル、光異性化反応、水素結合多様性、クラスターの光解離、クラスターの構造、光解離反応、量子波束動力学、溶液のダイナミックス、反応における共鳴現象等々広範囲に亘る有益な討論が行われた。最後に、共同研究実施の問題点、将来への改良点を検討した。若手研究者の交流を深める事、出来れば1996年英国で会合を開く事で合意した。(2)放射光利用化学5+5ミーティング平成5年10月21-22日英国ダ-ズベリ-研において同分野のミーティングを開催した。出席者は日本側から伊藤光男分子研所長、井口洋夫岡崎機構機構長、宇理須恒雄、小杉信博、鎌田雅夫、見附孝一朗、西尾光弘(分子研)及び岩田末廣(慶大)の8名、英国側はA.J.Leadbetterダ-ズベリ-研所長、Munro、West、Hasnain、Jones、Eastham(ダ-ズベリ-)、Comer(マンチェスター)及びWeightman(リバプール大)の8名であった。会議はダ-ズベリ-研の研究プログラムの紹介、分子研SORにおける日英交流の成果報告にはじまり、13件の学術報告がなされた。原子分子の高励起状態、タンパク質分子、固体電子状態、反応素過程、固体表面反応、電励起電子状態理論及び有機材料の光電子分光などについて有益な討議が行われた。最後に、原子分子、固体表面、光表面反応等に関する将来の共同研究の可能性及び1995年に次回ミーティングを開催する可能性について議論した。(3)5分野合同ミーティング平成5年10月17日-20日、英国アビントンのSERC会議所において、5分野合同のミーティングを開催し、学問的議論を行うと共に、今後の日英協力のあり方について討議を行った。学問的討議内容及びその他の詳細については別途に作成される冊子にまとめられる。将来計画等についての議論の概要は次の通りである。(1)英国側科学行政一般についての説明(2)日英協力事業の日本側での運用方法についての説明(3)他機関・財団等に関する情報交換(4)本事業の将来計画について今迄の本協力事業の実績をお互いに振り返り、将来計画を討議した。少ない予算の中でも、大変有意義に進められてきた事を確認しあった。特に、5+5ミーティングは両国間の研究活動情報の交換と共同研究育成の為に大変有益に作用している。今後は、若手研究者の相互長期滞在による共同研究の奨励を一層推進していくべきであるという点で合意した。これには上記(3)の活用が不可欠となろう。来年度以後の具体的計画についても話し合い、その大筋を認めあった。各分野のキーパーソン同志の連絡を一層緊密にする事とした。因みに、平成6年度には、高分解能分光のミーティングを英国で、電子構造のミーティングを日本で開催し、予算の許す範囲で日本人若手研究者を3〜4名派遣する事とした。
著者
高橋 優太 今泉 洋 狩野 直樹 斎藤 正明 加藤 徳雄 石井 吉之 斎藤 圭一
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.375-383, 2008 (Released:2008-06-28)
参考文献数
13
被引用文献数
7 5

2003年12月から2006年11月にかけて,日本海に面した立地である新潟市にて降水中に含まれるトリチウムと各種陽イオン濃度の測定を行った。これにより本研究では,これらの関連性を明らかにすることで,気団移動の解析への有効性について検討した。サンプルとなる月間降水は擬似浸透水型の採水装置を用いて集められた。この結果,以下のことが明らかとなった。(1)降水中のトリチウム濃度とカルシウムイオン濃度との間に相関性がある。(2)季節によって,降水起源気団の持つトリチウム濃度が異なる。(3)この傾向は大陸性気団において顕著に現れる。(4)降水中のトリチウム濃度は大陸性気団の降水と海洋性気団の降水との混合比によって決まると推定できる。
著者
奈良 信雄 加藤 拓馬 大西 宏典 田極 春美
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.135-142, 2017-06-25 (Released:2018-07-05)
参考文献数
11

昨今, ハンガリーの医学部で教育を受け, 卒業後に日本の医師国家試験を受験して日本で医師になることを希望する日本人学生が増えている傾向にある. 彼らがわが国で国民の信頼に応えることのできる医学教育を受けているかどうかは重大な関心事である. そこで, ハンガリーにあるセンメルワイス大学医学部, デブレツェン大学医学部を訪問し, ハンガリーの医学教育システムを調査した. ハンガリーには4大学医学部があり, すべてが国立で, 4大学ともにハンガリー人を対象としたハンガリー語コース, 外国人向けに英語で教育するインターナショナルコース, さらに3大学ではドイツ語コースもある. 医学教育はほぼ他のEU諸国に共通するが, インターナショナルコースでは完全に英語による教育でグローバル化に対応している, 少人数グループでのチュートリアル教育が充実している, 口頭試験での評価がある, 卒業試験だけでなく卒業論文も課せられる, 等の特徴があり, わが国の医学教育に参考になる点も少なからず認められた.
著者
中島 尚登 星 順隆 浅井 治 山本 純子 竹内 直子 神谷 昌弓 加藤 敦子 長谷川 智子 山崎 恵美 中山 一
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血学会雑誌 (ISSN:05461448)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.795-802, 1991-12-25 (Released:2010-03-12)
参考文献数
18

A new red cell preservation solution is described in which the red cells may be stored for 42 and 49 days. An in vivo and vitro study of 42 and 49 days stored red cells with saline, adenine, glucose, mannitol (SAGM) preservation solution (OPTISOL, Terumo Corporation) was conducted using 20 healthy volunteers to document in vivo efficacy and analyze the validity of the 51Cr technique. Standard in vitro parameters of OPTISOL red cell concentrates were well preserved with low levels of hemolysis and high levels of red cell ATP which is compatible with their survival after 42 and 49 days storage. Osmotic pressure at hemolysis ending point of 42 and 49 days stored red cells did not change, while osmotic pressure at hemolysis starting point increased on 49 days. The red cell viscosity increased and scanning electron-microscopic studies showed that the majority of them became echinocyte and spherocyte on 49 days. In vivo autologous post-transfusion recovery was measured by using a 51Cr-labeled red cells. After 42 days of storage, post-transfusion 24-hour recovery averaged 82.3±8.4% and 48-hour recovery was 79.1±9.1%, and after 49 days, 24-hour recovery was 75.9±3.6%, but 48-hour recovery, which averaged 69.9±5.2%, was significantly lower.The present study reports in vivo and in vitro evaluation of a new red cell storage medium which allows high levels of post-transfusion recovery and permits without significant hemolysis. The results suggested that 42 days if a more suitable shelf life than 49 days.
著者
加藤 承彦 青木 康太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.426-438, 2019-08-15 (Released:2019-09-21)
参考文献数
28

目的 本研究は,小学校児童と中学校生徒を対象に,家庭の状況と子どものインターネットの長時間使用との関連を分析することを目的とした。方法 国立青少年教育振興機構が2017年に20の都道府県の小・中学校で実施した「インターネット社会の親子関係に関する意識調査」のデータを用いて分析を行った。分析の対象者は,インターネットを使用していない210人を除いた小学5年生から中学2年生の2,062人だった。説明変数として,インターネットに接続できる機器の所有,家庭での親の携帯電話やスマートフォンの使用のあり方,親子関係などを用いた。平日における1日3時間以上のインターネット使用または休日における1日5時間以上のインターネット使用を長時間使用と定義し,アウトカム変数として用いた。また,睡眠不足の経験もアウトカムとして用いた。多変量ロジスティック回帰分析を行い,長時間使用および睡眠不足の経験の調整オッズ比と95%信頼区間(95%CI)を算出した。結果 子どものスマートフォンやタブレットの所有と平日と休日の長時間使用および睡眠不足に関連が見られた。スマートフォンを所有していない群と比較して,所有している群の平日の長時間使用の調整オッズ比は,2.55[95%CI:1.92-3.38],睡眠不足は,1.66[1.17-2.34]だった。親子の会話中に親が携帯電話やスマートフォンを操作することが良くある家庭では,子どものインターネットの長時間使用の可能性が高かった(休日の長時間使用の調整オッズ比は,1.59[1.03-2.44])。家族と一緒にいて楽しくないと子どもが答えた場合,休日の長時間使用の調整オッズ比は,2.05[1.00-4.18]だった。追加分析の結果,会話中に親が携帯電話などを操作することがよくある家庭,家族が一緒にいても各々が携帯電話などを操作することがよくある家庭,親子関係が良好でない家庭では,家での携帯電話やパソコンの使い方などに関してルールを決めていない傾向が見られた。結論 親の携帯電話やスマートフォンの使用のあり方など家庭の状況と子どものインターネットの長時間利用が関連していた。今後,子どもが適切にインターネットを使用する環境づくりを考える上で,親自身の使用のあり方への注意や家庭におけるルール作りおよび家族全員の遵守の重要性が示唆された。
著者
加藤 佑一
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
pp.1-30, 2019-03-25

久慈川流域と阿武隈川流域はお互いの上流部である福島県の棚倉付近において接しており,この地域において,久慈川水系による阿武隈川水系の争奪を示唆する地形が存在している.このような指摘はこれまでも行われてきたが,争奪の年代について詳しく明らかにされてはいなかった.この河川争奪部およびその周辺には河成段丘が広がっており,段丘編年の確立により,争奪の年代を知ることができると考えらえる.そこで,本研究では棚倉付近の河成段丘を編年し,河川争奪の年代を求めることを目的とする.まず段丘区分図および縦断面図を作成し,その上で野外調査を行った.現地では,露頭探査を行い,露頭が不十分な場合には打ち込み式オーガーによる簡易的なボーリング調査も行った.野外調査の結果を基に各々の段丘面毎に被覆テフラや構成層を検討し,各段丘面を編年した.本研究で取り上げる久慈川水系による阿武隈川水系の河川争奪は主に3つある.これらは,2つの期間に分けて争奪されたとされており,本研究では,先の期間に争奪されたものについて古上台川,後の期間に争奪されたものについて古向原川,古下羽原川と名付けた.対象地域の河成段丘は,阿武隈川水系に形成時の侵食基準面を持つ,社川高位面(YH),社川中位1面(YM1),社川中位2面(YM2)と,久慈川水系側に形成時の侵食基準面を持つと考えられる,久慈川高位0面(KH0),久慈川高位1面(KH1),久慈川高位2面(KH2),久慈川中位0面(KM0),久慈川中位1面(KM1),久慈川中位2面(KM2),久慈川低位0面(KM0),久慈川低位1面(KM1),久慈川低位2面(KM2)に区分した.KM1面は構成層層厚2m,被覆層層厚3m程度の段丘で姶良丹沢テフラ(AT:30ka)に覆われている.被覆層はAT直下よりフラッドロームとなる.したがって離水年代は30kaより少し前である.KM2面は構成層層厚が4m前後で顕著なロームによる被覆は認められない段丘である.この面は山地の谷筋の出口付近に多く,礫径も大きく淘汰も良くないので,氷期に形成され,その後侵食されてできたできた段丘であると考えられる.ATより新しい氷期の段丘となると,その離水年代は20~15kaであると考えられる.KL1面は,被覆層は載らず,構成層は亜円礫で層厚が1~2mである.詳しい年代を推定する試料はないが,段丘面上に縄文晩期の遺跡を載せ,KM面群より低い段丘であるからその離水は15kaから2kaよりは新しいと考えられる.YH面は古上台川が形成しその後争奪された.被覆層層厚約8m,構成層層厚約4mの段丘であり,被覆層と構成層境界の1~2m上に那須白河テフラ6~12(Ns-Sr6~12:150~200ka)のいずれかの2枚が観察された.よって離水年代は200~150kaである.YM2面は古向原川,古下羽原川が形成し,その後争奪された.構成層層厚が2~3mであり,被覆層は多くとも1m以下である段丘である.KM2面と地形的・地質的特徴が似ていることから,KM2面と同時代の段丘であり,久慈川水系による争奪後に段丘化したと考えると離水年代は20~15kaごろかそのやや後である.以上から,各々の争奪の年代を推定する.古上台川が形成したYH面はその離水年代がMIS6末期である.一方,古上台川が形成したYH面は温暖期に形成されるであろう明瞭な開析谷を持たない.よって,MIS5eまでに上流部を久慈川水系に奪取されたものと考えられ,その争奪は200~125ka頃と推定される.古向原川,古下羽原川は,YM2面形成以降,KL1面形成までに争奪されたと考えらえる.すなわち争奪の年代は,20ka~2ka頃と推定される.これらの争奪の要因に,久慈川水系の侵食基準面が低いこと,また,いずれも氷期ないし氷期から温暖期にかけての期間に発生していることから気候変動が挙げられる.争奪の年代より,争奪前の地形から現地形までの侵食速度を求めることができる.ここでは,試算的に古上台川の争奪後からの侵食量を求めた.結果は,42.0~102.0m/10万年となり,これは先行研究でまとめられている段丘面からみた各河川の浸食速度とおおよそ似た値を示し,求めた争奪の年代が大きく間違ったものではないことを示す.久慈川の中・下流域の段丘と本研究を比較すると,本研究におけるKM面群は,中・下流域における低位面に対比される可能性が高く,KH面群は中・下流域の中位段丘に対比される可能性が高い.この点は今後の課題である.