著者
平川 佳世 岩岡 浩二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、銅板上に油絵具を用いて絵画を描く「銅板油彩画」の誕生と黎明期の展開について、現存する画像作品および文字資料に基づいて、詳細かつ包括的な考察を行った。その結果、「銅板油彩画」は1530年代のイタリアにおいて「諸芸術の優劣論」および「北方絵画愛好」という二つの異なる文化的文脈において個別的に誕生し、「銅」という素材のもつ永遠性に着目した政治的寓意画の制作などの新奇な試みを経て、やがて、16世紀末には、ジャンルを問わず細密描写を得意とする画家が名声を得るための一つの手段として定着していったことが明らかとなった。
著者
平川 陽
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.188, 2016

<p>【はじめに】</p><p>複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)患者は一般的に運動障害もきたすが、その運動に関連する領域の障害による各種感覚情報統合の不一致が痛みの一因として考えられている。今回、CRPS患者の痛みに感覚情報再構築・不一致改善に向け介入を試みたので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>80歳代女性。自動車と衝突し転倒し右大腿骨顆上骨折受傷し骨接合術施行。その後自宅退院となるが大腿部を中心とした受傷時からの強い疼痛は持続していた。7ヶ月後、疼痛の増悪認めスクリューの折損による偽関節にて再手術施行。3ヶ月の入院の後、自宅退院し外来にて演者が週2回2ヶ月間リハビリ実施した。</p><p>【評価】</p><p>安静時より大腿遠位部を中心に疼痛を訴え、Visual Analog Scale(以下VAS)にて58mm。熱感や膝関節の腫脹も残存し常に股関節屈曲・内転・内旋、膝関節屈曲させ防御性収縮を認めていた。その位置を正中と認識し下肢の動きを足部で判断していた。また常に痛みが意識され、接触や運動時にはVAS78mmまで増悪した。股・膝関節の運動覚の変質を認め、特に距離の認識が困難で「こんなずれるの?関節が動くイメージがわかない」と視覚確認や左右比較にて大きく誤差を生じていた。関節可動域は膝屈曲80°伸展-30°、筋力も痛みの影響もありMMT3レベルであった。歩行時には膝関節の柔軟性が乏しく外転方向へ振り出し、十分に荷重できず立脚時間が短縮し杖に強く依存していた。常に視線も足元を見ており「下見てないと安定しない、怖い」と足底接地の不安定さと共に触圧覚の変質を認めた。</p><p>【病態解釈】</p><p>受傷時より常に疼痛が持続し疼痛部位の不活動や防御性収縮によりさらに疼痛を生み出すという悪循環に陥っていたものと考える。末梢機構の変質だけでなく中枢機構においても股・膝関節を中心に荷重時には足底も含め適切な身体知覚が困難な状態となり、身体のイメージと実際の知覚や視覚との不一致につながり疼痛が強く持続し慢性化していると考えた。</p><p>【治療仮説及びアプローチ】</p><p>Moseleyらの慢性疼痛が持続する原因として感覚情報間の知覚能力の低下が関係し、知覚能力の改善は疼痛を軽減させることや、Finkらの感覚情報間の不一致が疼痛の慢性化の原因となると述べていることから、適切な身体知覚が可能になることに加え、視覚との整合性の獲得が必要になると考えた。疼痛に注意が向きやすい状態に視覚イメージや健側運動イメージを利用し、身体への注意を促し①股・膝関節の運動方向・距離識別および筋感覚識別②視覚と体性感覚の整合性③下肢運動と足圧の関係性構築に向けた課題を実施した。</p><p>【結果】</p><p>股・膝関節に注意が向きにくかったが運動イメージを利用する事で適切な知覚が出来始め、股・膝関節の関節運動の認識とともに距離認識の改善を認めた。合わせて視覚との一致が図られ、疼痛も軽減し安静時・接触・運動時ともに痛みはVAS12mmまで改善。臥位での姿勢偏位の修正、防御性収縮も消失。関節可動域は膝屈曲100°伸展-5°となり筋力もMMT4まで改善した。歩行時の股・膝関節の柔軟性が改善され、荷重も十分に行え「足がしっかり支える。足元見なくて大丈夫」と記述も変化した。しかし、骨癒合が不十分で荷重時痛もVAS34mmと未だ疼痛や筋力低下も残存している。</p><p>【まとめ】</p><p>CRPSに対する治療として単に感覚情報の再構築や情報間の不一致の解消のみならず患者が知覚できる情報の構築に向けた運動イメージの導入の必要性を感じた。また疼痛の要因には様々な知見が挙げられ、多面的な評価や病態解釈の重要性も認識できた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本発表はヘルシンキ宣言に則り、患者本人に趣旨を説明し同意を得たものである。</p>
著者
平川 久美子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-22, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
38

本研究では,情動表出の制御における主張的側面,とりわけ幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発達について検討を行った。調査は年中児,年長児,1年生の計110名を対象として行われ,仮想場面を用いた課題が個別に実施された。まず,主人公が友だちから被害を受ける状況で,主人公が友だちに加害行為をやめてほしいと伝えたいという意図伝達動機をもっているという仮想場面を提示し,そのときの主人公の表情を怒りの表出の程度の異なる3つの表情から選択し,理由づけを行うよう求めた。課題は,怒りを表出する際に言語的主張をせず表情のみで表出する表情課題(2課題),表情表出と併せて言語的主張を行う表情・言語課題(2課題)の計4課題であった。その結果,言語的主張をしない場面では年中児よりも年長児・1年生のほうが表情で怒りをより強く表出すること,1年生では言語的主張をする場合よりもしない場合のほうが表情で怒りをより強く表出することが示された。本研究から,仮想場面における怒りの主張的表出は年中児から年長児にかけて顕著に発達すること,また1年生頃になると表情と言語という情動表出の2つのモードの相補的な関係を理解し,情動表出を行うようになることが示唆された。
著者
問田 純一 内藤 卓也 平賀 勇貴 平川 善之
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.325-331, 2018 (Released:2018-10-20)
参考文献数
29

【目的】義肢が身体の一部であるように感じる身体化が生じると,義肢操作性が向上する可能性が示されている。今回,幻肢を義手に投射することで,身体化に成功した事例を報告する。【対象と方法】対象は短縮した幻肢を有する上腕切断症例である。介入の第1 段階では実大型の幻肢・幻肢の随意運動の獲得,断端の感覚機能の向上を図った。第2 段階にて幻肢を義手に投射し,第3 段階で幻肢をfeedback 機構として利用する介入を実施した。【結果】実大型の幻肢・幻肢の随意運動を獲得し,幻肢を義手に投射することで幻肢をfeedback 機構として利用できるようになり,義手操作性・日常生活動作(Activities of Daily Living;以下,ADL),生活の質(Quality of Life;以下,QOL)の向上を認めた。【結語】幻肢を義手に投射することで義手操作性・ADL が向上し,QOL の向上を認めた可能性が考えられた。
著者
岡本 義信 藪田 英雄 近藤 寿志 平田 公靖 中田 和宏 松野 知宏 平川 義宏 河内 庸彦
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.41-44, 2003
参考文献数
1

RCC中国放送は、当社の基幹放送局である廿日市送信所(1350KHz、20KW)の老朽化に伴い、移転,更新工事を行った。本稿では、移転に至る経緯、国際調整、狭い土地でのアンテナ能率の改善、雷対策など、大規棋局移転のさまざまな問題点について報告する。

2 0 0 0 OA 禅と戒律

著者
平川 彰
出版者
愛知学院大学
雑誌
禅研究所紀要 (ISSN:02859068)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.363-378, 1976-12-28
著者
成瀬 敏郎 小野 有五 平川 一臣 岡下 松生 池谷 元伺
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.15-27, 1997
参考文献数
30
被引用文献数
14

MIS 2における東アジアの風成塵供給源と卓越風を復元する目的で,中国,韓国,日本の計26地域から黄土,土壌,古土壌,泥炭を採取し,これらの堆積層中の微細石英 (〓20μm) の酸素空格子信号強度を測定した.タクラマカンの砂漠レスやツアイダムのワジ堆積物は6.2~8.2, 黄土は5.8~8.3, 韓国の土壌は6.0~7.7であり,黄土や韓国土壌が中国の乾燥地域やチベット高原起源の風成塵の影響を強く受けたことを示している.日本各地の土壌・泥炭の微細石英はMIS 2で4.5~12.7であり,そのうち5.8~12,7の値を示す微細石英が遠隔地から飛来した広域風成塵起源,数値の低いものは大陸棚などから吹き上げられた風成塵と推測された.日本列島のうち北部日本地域は>10で東アジア北部から北西季節風によって,中央-西南日本地域は黄土と同じ5.8~8.7で中国の乾燥地域やチベット高原から偏西風によって,与那国島は9.7で中国南部などからそれぞれ飛来した可能性が指摘された.
著者
戸祭 由美夫 平井 松午 平川 一臣 木村 圭司 増井 正哉 土平 博 澤柿 教伸 小野寺 淳 財城 真寿美 澤柿 教伸 宮崎 良美
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

幕末の蝦夷地には、ロシア帝国をはじめとする列強の進出に備えるため、幕府の箱館奉行所をはじめ、東北諸藩による陣屋・囲郭が軍事施設として沿岸各地に建設された。本研究は、そのような軍事施設を研究対象として、歴史地理学・地図学・地形学・気候学・建築学の研究者が共同研究チームを組んで、古地図・空中写真・数値地図・気象観測資料といった多様な資料や現地調査によって、とりわけ蝦夷地南西部に主たる焦点を当てて、それら軍事施設と周辺部の景観を3次元画像の形で復原した。
著者
石川 日出志 七海 雅人 中野 泰 佐藤 信 平川 新 平川 南 千田 嘉博 川島 秀一 浅野 久枝 竹井 英文 八木 光則 安達 訓仁 宇部 則保 菅野 智則 斉藤 慶吏 佐藤 剛 菅原 弘樹 高橋 憲太郎 千葉 剛史 福井 淳一 室野 秀文 小谷 竜介 辻本 侑生 藤野 哲寛
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

気仙地域は、海・陸域の複合生態系が豊富な資源を生み出し、縄文時代から現代までそれらを活用した人類営為が展開した。本研究は、当地域の歴史文化を歴史・考古・民俗学の手法で研究し、地域の方々と行政に提供する。これは甚大な東日本大震災被害から復興する当地域の方々を支援する取組でもある。調査は多岐に亙る。考古学では、古代・中世の漁撈関係遺物・集落遺跡データの集成、被災地域石碑の所在調査、中世塚・板碑群調査、中世城館群の縄張図作成等。歴史学では、中世遺跡群と文献史料との比較、熊谷家近世文書群の調査、大島正隆論文の公開等。民俗学では横田・小友地区で民俗慣行の調査と実施。3か年市民向け報告会を開催した。
著者
平川 民郎
出版者
The Japan Institute of Light Metals
雑誌
軽金属 (ISSN:04515994)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.493-494, 1976

2 0 0 0 IR 五月祭雑感

著者
平川 浩正
出版者
東京大学理学部
雑誌
東京大学理学部廣報
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.4-5, 1984-07
著者
平川 浩文 長坂 有
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2013 (Released:2014-02-14)

コテングコウモリは春,残雪上のくぼみや穴でときおり発見されている.2010年の哺乳類学会にて,詳細を把握できた 13例の分析に基いて,冬眠の可能性が高いことを報告した.その後も情報収集を進め,2013年春までの 3年間に新たに 15の発見例が加わり,全部で 28例となった.この内,最新の 10例はすべて,発表者の二人が 2013年春に探して見つけたものである.今回の 10例より前には,1例を除いてすべて偶然の発見で,発見時に例外なくコウモリを手にとるなどの干渉が行われ,コウモリを元の場に戻した場合でもその後の経過観察が行われた例はなかった.探して見つけた 2007年の1例についてはコウモリに触れることなくしばらく観察が行われたものの,その後の経過観察は行われなかった.今回,研究目的で探索して 10例の発見に成功し,撹乱を避けた経過観察が初めて行われた.10例の内,1例はすでに死亡していたことが最終的に判明した.残り9例の内 1例を除いては発見時,体の動きがみられず休眠状態にあったと考えられた.発見後,撹乱を避けて観察を続けた結果,日没後 46分から 94分の間にその場を離れるのが確認された.その前には,顔を上げ,周囲を見回す仕草が確認できた.それまでの間,時々姿勢変化があった例も,まったくなかった例もあった.8例については穴から飛び去る瞬間も確認され,1例では飛び立ち時の写真撮影にも成功した.4例については,赤外線サーモグラフィ装置によって,その場を離れるまでの間,体温が上昇する過程を観察できた.5例については,翌朝,同じ穴に戻っていないことが確認された.さらに,1例は発見時の穴の形状から,穴が積雪下で形成され,コウモリが雪の中にいたことが強く示唆された.4例では,発見時,雨で体毛が濡れていたものの飛び立ちが確認されたことから,休眠中の雨濡れは生存の決定的な障害とはならないことがわかった.
著者
平川 善之 原 道也 藤原 明 花田 弘文 森岡 周
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.23-32, 2013-03-10 (Released:2013-04-04)
参考文献数
29
被引用文献数
2

Total knee arthroplasty (TKA) is a surgical treatment for conditions such as knee osteoarthritis; the treatment aims to relieve knee pain and improve quality of life. Treatment outcomes are stable; however, it has been reported that postoperative pain becomes chronic in 15 - 20% of cases. The aim of this study was to examine the factors involved in the chronicity of postoperative pain by investigating the effects of cognitive and psychological factors on postoperative pain at 3 weeks, 5 weeks, and 4 months post-operation. Subjects were 50 patients who underwent TKA (8 men and 42 women, mean age: 74.8 ± 6.5 years). Cognitive factors in this study comprised an assessment of neglect-like symptoms; such symptoms included decreased “cognitive function regarding the existence of one's own limbs" or “cognitive function regarding the motion perception of one's own limbs." The severity of these symptoms was assessed using the method described by Galar et al. Psychological factors comprised assessments of anxiety and catastrophic thinking about pain. Anxiety was assessed using the state-trait anxiety inventory, while catastrophic thinking about pain was assessed using the pain catastrophizing scale (comprises categories of helplessness, magnification, and rumination). Postoperative pain was assessed using a visual analog scale (VAS). Multiple regression analysis by using VAS as the dependent variable and all other factors as independent variables showed the following factors to be significantly correlated with VAS: neglect-like symptoms at 3 weeks, 5 weeks, and 4 months post-operation and rumination at 3 weeks and 4 months post-operation. Sensory integration becomes difficult because of decreased sensory function in neglect-like symptoms; this is thought to be caused by body image becoming inaccurate. On the basis of these findings, it is considered necessary to approach for the improvement of sensory function in postoperative rehabilitation. In addition, rumination is persistent in pain, which is believed to result in a prognosis of a psychological state of severe anxiety. Therefore, methods for dealing with postoperative pain and giving patients a prognosis that is as precise as possible are thought to be necessary. These measures are thought to be factors in relieving postoperative pain and preventing it from becoming chronic.
著者
松井 哲哉 飯田 滋生 河原 孝行 並川 寛司 平川 浩文
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.162-166, 2010
被引用文献数
1 1 1

ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。