著者
工藤 尚子 三浦 耕資 周東 千緒 村上 敏史 齊藤 理 的場 元弘
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.13-0014, (Released:2013-09-30)
参考文献数
9

オピオイドの全身投与で十分な鎮痛が得られなかった2 例のがん性痛患者に対して,くも膜下モルヒネに高用量のブピバカインを併用し良好な鎮痛を得たので報告する.症例1:72 歳の男性で,肺がんの腸腰筋・大腿筋群転移による下肢の痛みに対し,くも膜下鎮痛法を施行した.モルヒネ単独で十分な鎮痛が得られずブピバカインを最大94 mg/日で併用し,痛みはverbal rating scale で4 から1~2 へ軽減した.症例2:64 歳の女性で,直腸がんの皮膚転移による陰部,大腿の痛みに対し,くも膜下鎮痛法を施行した.モルヒネ単独で十分な鎮痛が得られずブピバカインを最大66 mg/日で併用した.レスキュードーズ使用時に下肢のしびれ,低血圧を認めたが,レスキュードーズの調整で軽減し,痛みはnumerical rating scale で10 から2~5 へ軽減した.くも膜下モルヒネの効果が不十分ながん性痛の患者において,ブピバカインを加え,副作用や合併症に注意しながら高用量まで漸増することで,患者満足度の高い優れた鎮痛が得られた.
著者
松居 和寛 井上 達郎 戸口田 武史 村上 まゆ 土田 和可子 波之平 晃一郎 河原 裕美 藤村 昌彦 弓削 類
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0014-A0014, 2008

【目的】<BR>近年,笑いが身体に与える影響についての報告がみられる.その多くは,免疫などにおける身体的影響,感情プロフィール検査(Profile of Mood States,以下POMS)などの気分尺度を用いて精神的影響について検討されている.しかし,笑いを定量化した論文は極めて少ない.そこで,筋電図(以下EMG),リアルタイム笑顔測定ソフト(OMRON,以下ソフトウェア)を用いて笑いを定量化し,分泌型免疫グロブリン量(SIgA),POMSによる気分尺度を比較した.さらに,EMGとソフトウェア間の相関についても検討を行った.<BR>【方法】<BR>本研究に同意の得られた男女20名(男性10名,女性10名,平均年齢22.4±0.5)を対象とした.EMGによる定量群10名(男性5名,女性5名),ソフトウェアによる定量群(男性5名,女性5名)の二群に分けた.1施行につきEMG群2名,ソフトウェア群2名の計4名で実験を行った.コントロール群として,風景スライド視聴による安静の後、ドキュメンタリービデオを視聴させた.ドキュメンタリービデオの前後で,唾液採取,POMSの記入を行ってもらった.ビデオ視聴後は,ビデオに対する反応をVASを用いて評価した.介入群として,ドキュメンタリービデオを笑いのビデオに替えて視聴させた.以上の施行に関しては,コントロール,介入の順番をランダムとした.ビデオは,すべて8分19秒で統一した.筋電図の電極の貼付位置は,頬骨突起と口角を結ぶ線の中央とした.唾液の採取は,サリベットを用いてサンプリングし,-70°C~-80°Cで冷凍保存した後,ELISA法にて計測した.筋電図による定量は、ビデオ視聴後の積分筋電図をビデオ視聴前のもので除し求めた。さらに、介入群で求めた値を,コントロール群の値で除すことで笑いの増加量とした.ソフトウェアによる定量化は,安静時の値からの増加量を笑いの量とした.<BR>【結果】<BR>EMG増加量の平均値は1.7±0.8であった.ソフトウェアの増加量の平均値は38(%)であった.笑いのビデオの面白さに関するVASの平均値は6.3±2.1であった.POMSにおいて,「活気」の値は,笑いのビデオ視聴後に増加傾向を,それ以外の項目に関しては減少傾向を示した.<BR>【考察】<BR>これまでに筋電図を用いて笑いを測定する報告はみられる.本研究では,ソフトウェアと筋電図におけるデータを比較検討することで,笑いの定量化が出来る可能性が示唆された.
著者
村上 幸史
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.30-41, 2009-08-31 (Released:2017-02-20)

After obtaining positive results from uncertain events, individuals tend to feel confident in their skills (Langer, 1975). However, according to popular usage like lay theory, the word "lucky" carries relatively negative connotations for some people. This reflects the idea of "Luck Resource Belief," whereby luck supposedly decreases if it is consumed. In this study, we developed and administered a scale to survey this personal belief. We compared attitudes toward forthcoming uncertain events in the aftermath of a lucky or unlucky lotto outcome from the perspective of the "Luck Resource Belief." Results showed that when individuals adhering to the Luck Resource Belief obtained "lucky" lotto results, confidence and risky choices with regard to subsequent uncertain events were reduced. Such results have been discussed with regard to the Gambler's fallacy, anticipated regret, and mental simulation (Kahneman & Tversky, 1982).
著者
遠又 靖丈 辻 一郎 杉山 賢明 橋本 修二 川戸 美由紀 山田 宏哉 世古 留美 村上 義孝 早川 岳人 林 正幸 加藤 昌弘 野田 龍也 尾島 俊之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.679-685, 2014 (Released:2014-12-11)
参考文献数
10

目的 介護保険の統計資料を用いた研究において,健康日本21(第二次)の目標である「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」は,2011年から要介護 2 以上の認定者数が 1 年ごとに 1%ずつ徐々に低下した場合(健康寿命延伸シナリオ)に2020年に達成されうることが報告されている。本研究は,この健康寿命延伸シナリオを達成した場合の介護費・医療費の節減額を推定した。方法 要介護認定区分別の介護費・医療費(人口一人あたりの平均)の基礎資料として,介護給付費実態調査と宮城県大崎市の調査データを用いた。2011~2020年の自然経過(現状シナリオ)の要介護認定者数は,将来の人口構成が「日本の将来推計人口」のとおりで,年齢階級別の要介護認定者(要介護 2 以上で区分別)の出現割合が2010年と同じである場合とし推定した。次に,健康寿命延伸シナリオ達成による要介護認定者の減少人数を算出した上で,介護費・医療費の推定節減額を算出した。結果 各年次の要介護 2 以上の減少分がすべて「認定なし」に移行すると仮定した場合,2011~2020年の累計で 5 兆2,914億円が節減されると推定された。さらに要介護 2 以上の減少分がすべて「要介護 1」に移行すると仮定した場合,同期間の累計で 2 兆4,914億円が節減されると推定された。結論 健康日本21(第二次)の達成によって約 2 兆 5 千億円~5 兆 3 千億円の介護費・医療費の節減という,健康づくり政策の投資効果の目安が明らかとなった。
著者
鈴木 宏幸 石井 賢二 飯塚 あい 小川 将 村上 深
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、認知機能の低下のない高齢者を対象とする囲碁を活用した認知機能低下抑制プログラムを開発し、その効果を多面的に評価した。対象者を、集団でコミュニケーションをとりながら囲碁を学習するグループ(集団群)、タブレットPCを用いて個人で学習するグループ(個人群)、囲碁を学習しない対照群に振り分けた。認知機能検査の結果、集団群と個人群では視覚情報処理に関する記憶機能が向上し、その効果は個人群よりも集団群で大きかった。また、プログラム受講により脳活動の増加が示され、1年後のフォローアップ調査の結果では囲碁の学習を継続している者は精神的健康が向上することが示された。
著者
木村 謙仁 柴田 智文 松尾 雄司 村上 朋子
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-26, 2022 (Released:2022-02-15)
参考文献数
20

In this study, we perform model analyses assuming the Japanese power supply portfolio in 2050 to evaluate the economic efficiency of nuclear power generation under mass introduction of variable renewable energy (VRE) ― such as solar PV and wind ― and of hydrogen power generation in 2050. As a result, this study shows that even if the unit cost of VRE falls significantly by 2050, not only existing nuclear power plants, but also new construction, will have economic efficiency. Its benefit would become much larger when 100% carbon-free generation is mandated, but in that case, the role of nuclear energy as the base load power generation would be changed. On the other hand, in the case where hydrogen power generation will be deployed, the nuclear energy would be smaller than those in other 100% carbon-free cases, but its base load operation would be maintained.
著者
村上 千鶴子
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.69-79, 2011

目的:統合失調症者の世界観について、正常対照群と比較して評価した。方法:統合失調症の診断がついている入院患者41 名と正常対照群50 名について、1996 年に世界観調査が実施された。結果:統合失調症者では、対象群と比較して具体性、感情的反応、二極化、分散、断定、自惚れ、被害妄想(女性)、宗教的傾向(女性)、関係性重視(女性)がより頻回にみられた。考察:統合失調症者の回答にみられた傾向は、ほとんどがPiaget の認知発達理論でいう「前操作期」あるいは「具体的操作期」と同様の認知段階を示した。慢性統合失調症患者では、情緒の退行と情緒の不安定性と同様に認知段階の退行が起こり、これが、自閉思考や原始的思考にみられる奇異な論理を惹起し、同時に心の平衡を保とうとすると考えられた。また、統合失調症者は、批判的に体験を受け入れる代わりに、生起した主観的、特殊な体験を無批判に受け入れる傾向があり、また断定的に物事を否定することで自身の意識の明瞭性を印象付ける傾向があることが示唆された。このことは、疾病それ自体だけではなく、環境要因への配慮も必要であることが示唆されており、その意味では、統合失調症者においても環境制限的であり、所与の環境における心理学的影響が注意深く考慮されなければならない。
著者
岡崎 桂一 村上 欣治
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.405-411, 1992 (Released:2008-05-15)
参考文献数
15
被引用文献数
3 7

チューリップの自家不和合性を打破する目的で, 促成時期のちがいと自家不和合性の強弱の関係を調査したほか, 柱頭を花柱から切り放し, その切断面に自家花粉を受粉する柱頭切除受粉法および柱頭を40°~50°Cの温湯に浸漬する高温処理を検討した.1.チューリップ5品種を2月から4月にかけて促成栽培と露地栽培を行い自殖したところ, 露地栽培の自然開花時では全品種とも完全な自家不和合性であったが, 促成栽培では5品種中4品種は自殖によって多数の種子が得られた. 促成栽培を行うことによって,自家不和合性が弱まることが示された.2.柱頭切除後の受粉によって, 供試した5品種すべての自家不和合性が部分的に解消され, 1子房当たり8~81個の自殖種子が得られた. 柱頭切除法によって, 極めて効率よくチューリップの自家不和合性が打破されることが明らかになった.3.柱頭を温湯に浸潰する高温処理法により自殖したところ, 供試した3品種のうち1品種で, 50°C, 1分間処理により24花交配中2花, 3分間処理により24花交配中4花結実し, 低率ではあるが自殖種子が得られた.これらの方法は, チューリップの自殖系統育成法として実用的な技術であると推察された.
著者
高橋 一正 宇田川 毅 草葉 義夫 村松 岳彦 天野 壮泰 谷岡 慎一 市野 富雄 中野 清志 村上 一方 畔 和夫 奈良部 幸夫 今井 昭生 小西 優介 天田 巌
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.9, pp.1571-1575, 1989-09-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

波長可変レーザー装置を用いてcis-ビタミンK2(cis-VK2)→trans-ビタミンK2(trans-VK2)の光異性化反応を試みた。cis-VK2またはtrans-VK2の溶液に紫外から可視領域のレーザー光を照射し,それぞれの異性化量を測定した。その結果,cis-5-VK2→trans-VK2の異性化に有効な波長は280~460nmであり,とくに435と355nmが高い異性化率を示した。trans-VK2→cis-VK2の異性化反亦も同時に進行するがその速度は遅く,光平衡組成はtrans-VK2/cis-VK27/3となった。また異性化反応は溶媒の影響を受け極性溶媒よりも無極性溶媒が有効であった。cis-VK2→trans-VK2の異性化はテトラプレニル側鎖中のナフトキノン骨格にもっとも近い二重結合で起こり,他の二重結合部では起こらず選択的反応である。窒素雰囲気下でのおもな副生成物はメナクロメノロ一ルであった。これらの結果から異性化反応過程を推定した。
著者
村上 興匡
出版者
東京大学文学部宗教学研究室
雑誌
東京大学宗教学年報 (ISSN:2896400)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.99-113, 1990-03-20

Drawing on the results of a survey of Jizo worship which was conducted in the Umeda district of Osaka from 1986 to 1988, this article considers the relationship of the urbanization after World War II with a transition in the custom of worshipping Stone-Buddhas. Especially after the International Exposition at Osaka in 1970, the development of residential areas in the surburbs of Osaka added to the Umeda district the character of an urban-terminal area, and weakened the character of the living space. Consequently, the character of Jizos in the Umeda district has also changed, from that of gods which guard the inhabitants of the area they occupy, to that of gods which confer a benefit on the believers visiting their shrines.
著者
山根 逸郎 鎌田 晶子 杉浦 勝明 濱岡 隆文 村上 洋介 白井 淳資 難波 功一
出版者
日本獸医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 = Journal of the Japan Veterinary Medical Association (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.583-588, 1997-10-20
参考文献数
11
被引用文献数
1

1997年3月台湾で発生した口蹄疫に関連して, わが国における防疫上の留意点を検討するため, 台湾での口蹄疫の拡散状況を地理情報システムを利用して分析した.有病率, 農家有病率の増加は直線的で, 5月8日にはそれぞれ60%および20%を越え, 台湾本島の全県に侵入し, 発生全期の致死率は約20%であった. 今回の発生は, 北部と南部の2ヵ所でほぼ同時に報告され, その後中部, 東部へと拡大したが, 豚の密度が伝播に重要な役割を果たしており, 密度の高い地域において有病率および新規発症率が高かった. 初期に殺処分率が高かった県ではその後の新規発症率および有病率が低く, 早期の殺処分, 速やかな情報伝達と感染動物の移動制限などが蔓延防止に重要な役割を果たすと考えられる.
著者
村上 和保
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.881-883, 1995-09-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
5

一般家庭から持ち込まれたケフィールおよびケフィール粒の汚染細菌の検出ならびに検査依頼主へのアンケート調査を行い, 以下の結果を得た.(1) 全検査検体 (90例) のうち11例 (12.2%) から大腸菌群が検出され, 菌種としてはKlebsiella aerogenes I (II例), Klebsiella aerogenes II (2例), Citrobacter freundii I (3例), Escherichia coli III (1例) であった.(2) 検出された大腸菌群の菌数は最少のものが60個/g, 最多が520,000個/gであった.(3) ケフィールからの大腸菌群の検出状況と季節との間には明確な相関は認められなかった.(4) 大腸菌群の検出された検体 (11例) および一部の検体 (3例), 合計14例からはサルモネラは検出されなかった.(5) アンケート結果からみて, ケフィールを作る際に使う器具や容器の消毒は, 一般家庭では必ずしも十分に行われているとは言い難い.
著者
吉尾 雅春 村上 弦 西村 由香 佐藤 香織里 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0826, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位で骨盤の傾斜角度を変えて,屍体の大腰筋腱を他動的に牽引して股関節を屈曲する際の張力を調べることによって,座位における大腰筋の機能について検討した。【方法】ホルマリン固定した屍体10体で,明らかな骨変性のない17股関節,男性10股関節,女性7股関節を対象とした。第11,12胸椎間で体幹を切断し,脊椎,骨盤を半切,膝関節で離断,大腰筋腱,股関節の関節包,各靱帯のみを残し,骨格から他の組織を除去して実験標本を作製した。背臥位で両側の上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ面が実験台と水平になるように,実験台に骨盤をクランプで固定した。実験台は股関節部分で角度を任意に調節できるようにし,床面と水平になるように設置した。骨盤側の台を座位方向に起こして,骨盤長軸と大腿骨とで成す股関節屈曲角度を0度,15度,30度,45度,60度,75度,90度に設定した。それぞれの角度で大腰筋腱を起始部の方向から徒手的に牽引して,股関節が屈曲し始めたときの張力を測定した。張力の測定にはロードセル(共和電業,LU-20-KSB34D)を用い,センサーインターフェイスボード(共和電業, PCD-100A-1A)を通してパーソナルコンピュータで解析して求めた。大腿骨の重量や長さなどの個体因子を排除するために,股関節屈曲角度0度での張力を1として,張力の相対値を求めて検討した。牽引時の主観的抵抗感も検討因子に加えた。統計学的検討はt検定により,有意水準を5%未満とした。【結果】各角度での張力の相対値は0度:1.00,15度:1.05±0.08,30度:1.04±0.11,45度:1.07±0.12,60度:1.25±0.11,75度:1.44±0.15,90度:1.82±0.29であった。15度と30度との間で差が認められなかった以外は,0度から45度まで有意に張力は微増,60度,75度で著明に増加,90度で張力は激増し,60度以上での張力はすべての角度との間で有意差がみられた。牽引時の主観的抵抗感は60度以上で強く,75度でかなり強さを増し,90度では股関節屈曲が困難なほど極めて強い抵抗があった。【考察】第40回大会で骨盤を固定した健常成人の他動的股関節屈曲角度が約70度であることを報告した。主観的抵抗感も加味すると,通常の生体座位における自動的股関節屈曲に75度,90度で得られた張力を求めるとは考えにくい。座位で大腰筋を用いて股関節を自動屈曲するためには骨盤後傾位が効率的で,骨盤前傾位では股関節を屈曲することが困難になる。逆の視点で考えれば,骨盤後傾位で体幹を伸展した座位姿勢を保持するためには下肢が挙上しないようにハムストリングなどの作用が求められるが,前傾位では下肢は挙上しにくいために大腰筋の作用によって体幹伸展保持が保障されるという,60度を境にした役割の切り替えがなされる筋機能を有していると考えられた。