著者
石原 望 纐纈 良 山本 剛史 渡辺 侑一郎 安藤 易輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】現在,スポーツ場面や学校,職場などで障害予防を目的に様々なストレッチが行われている。身体の総合的な柔軟性を評価する検査としては,立位にて膝関節を完全伸展させたまま体幹を前屈させ指先と床面との距離を測定する指床間距離(以下,FFD),ハムストリングスの伸張性に着目した検査では背臥位にて膝・股関節を90°屈曲させた状態から他動的に膝関節を伸展させる膝窩角(popliteal angle以下,PA)などがある。近年,柔軟性が低下した者に対する新たなストレッチ法としてジャックナイフストレッチが提案されている。現時点で健常成人を対象にその効果を検証する研究がいくつか行われているが,従来から行われてきた立位にて体幹を前屈させるストレッチとジャックナイフストレッチの効果を比較した報告はない。本研究の目的は,全身的な柔軟性の指標としてFFD,ハムストリングスの伸張性の指標としてPAを用い,ジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果を明らかにすることである。【方法】健常成人22名(男性15名,女性7名,年齢25.3±3.5歳,身長167.5±8.1cm,体重60.1±9.9kg)を対象とした。課題はジャックナイフストレッチを行った群(以下,JS群)と体幹前屈ストレッチを行った群(Trunk Forward Bending以下,TFB群)の2つとし,無作為に割り付けた。課題はそれぞれストレッチ時間10秒×5回とし,JS群はしゃがんだ姿勢から足首を把持し大腿部と胸部を離さないように膝関節を伸展させていくように指示した。TFB群は立位にて膝関節完全伸展位を保持したまま,ハムストリングスの伸張痛が出現する直前まで体幹前屈を行うよう指示した。各ストレッチは朝・夕の1日2回,4週間毎日実施した。FFD,PAの測定は介入開始前,介入終了後の計2回測定した。FFDの測定は被験者は30cmの台上に立位となり,膝関節伸展位で体幹を前屈し上肢を下垂させ,中指と床面との距離をメジャーで計測した。PAの測定は,股・膝関節90°屈曲位からの膝関節伸展の他動運動とし,挙上側の股関節内・外転,内・外旋は中間位,足関節は中間位とした。測定時は,Tilt Table上背臥位にて対側大腿部・骨盤をベルトで固定し代償動作を極力除き,対側股関節・膝関節は伸展位とした。測定により疼痛が出現する直前の角度をPAとし,測定はゴニオメーターを用いて行った。統計解析は介入前の測定値と身体的特性(年齢,身長,体重)において,2群間で統計的に有意差がないことを確認した後,介入の効果判定としてFFD,PAを指標とし,1要因に対応がある二元配置分散分析を用いて比較した。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】介入前後での比較では,JS群はFFD 30.2±8.7cmから21.1±6.1cm,PA 155.9±11.3°から165.4±10.3°,TFB群はFFD 35.1±12.0cmから28.1±10.8cm,PA 152.7±11.6°から160.0±14.4°となり,両群においてFFD,PAともに有意差が認められた。ストレッチ間での比較では,FFDではJS群21.1±6.1cmに対し,TFB群28.1±10.8cm,PAではJS群165.4±10.3°に対し,TFB群160.0±14.4°とFFDのみ有意差が認められ,PAでは有意差は認められなかった。【考察】結果より,ジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果として,ハムストリングス以外の要因に対してより大きなストレッチ効果を及ぼす可能性が示唆された。JS群でよりFFDの改善が得られた要因として,ジャックナイフストレッチは自己の股・膝関節伸展筋力によって筋を伸張させるのに対し,体幹前屈ストレッチは自己の体幹重量のみで筋を伸張させる。よって,ジャックナイフストレッチでは筋により高強度な伸張を加えることができると考える。また,ジャックナイフストレッチはその実施方法から,肩峰と足首の距離が規定されるため常に腰椎屈曲位を強制されることになる。一方,体幹前屈ストレッチは,膝関節完全伸展位を規定し体幹前屈を行うためハムストリングスに対してはストレッチが強制されるが,腰椎の屈曲は強制力が働きにくい。そのため,柔軟性低下の原因が腰椎の屈曲制限による被験者ではストレッチの効果が得られにくかった可能性がある。今後の課題として,今回は柔軟性の要素の一つとしてハムストリングスを指標として検討したが,その他にも骨盤や腰椎の可動性などについても検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】ジャックナイフストレッチがFFD,PAに及ぼす効果が確認できた。また,ジャックナイフストレッチはハムストリングス以外の関節,筋肉などにより大きな効果を及ぼす可能性が考えられた。本研究が柔軟性向上を目的としたストレッチを行う上での一助になると考えられる。
著者
深林 太計志 柴田 廣光 杉浦 聡 渡辺 淳二
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.675-682, 1997-09-01 (Released:2017-06-02)

本論文では極零型分析による零点パラメータから求まる零点ケプストラム係数を用いる基本特徴ベクトルの四つの構成法について, 有声子音認識におけるその有効性を検討した。その結果, 極零点ケプストラム係数と零点ケプストラム係数から構成される基本特徴ベクトルのような, 零点ケプストラム係数をそれ独自で特徴ベクトルの成分とする方法がよい結果をもたらすことを示した。このような特徴ベクトルを用いると, 従来のLPCケプストラム係数を成分とする基本特徴ベクトルを用いる場合に比べ, 有声子音認識において, どの音素に対してもよい認識結果となること, ほとんどの話者に対しても, 認識結果がよくなることを示した。
著者
渡辺 尚 坂本 裕二 友永 淑美 犬山 正仁 笹山 初代 原 耕平 今村 由起夫 浅井 貞宏
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.1523-1528, 1990
被引用文献数
6

エビを原因とする食餌依存性運動誘発アナフィラキシーの1例を経験した.症例は15歳の男性で, 昼食にエビフライを食べ, 4時間後にランニングをしたところ2000mの地点で全身の掻痒感を伴う発赤疹と呼吸困難が出現した.病歴上, 過去にもエビ摂取後の運動で同様のエピソードを経験していた.検査ではエビに対する特異IgE抗体が証明され, さらにエビ摂取後の運動負荷試験で血中ヒスタミンの上昇も認められ, 本症と診断した.本邦には本症例を含め25症例の報告があるが, 13症例は小麦製品, 10例がエビを原因としていた.また14例は過去にも運動後, 蕁麻疹やアナフィラキシー様症状を経験していた.現在運動中の突然死が問題となっているが, 本症もその原因の一つと考えられ, 医療従事者のみならず, スポーツの指導や教育に携わる人も本性の正しい認識を持つ必要がある.
著者
渡辺 慶一 高橋 文次郎 白戸 一士
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.835-840, 1990 (Released:2007-07-05)
参考文献数
19
被引用文献数
9 26

キウイフルーツ (A. deliciosa) の雄性品種‘マチュア’, 雌性品種‘アボット’, ‘ブルーノ’及びマタタビ(A. polygama), サルナシ(A. arguta) を用いて体細胞染色体, 減数分裂について観察調査を行った. キウイフルーツの3品種の体細胞染色体数は2n=174であり, マタタビの2種では2n=58, サルナシの4種では2n=58, 2n=116, 2n=ca. 174と算定された.これらの染色体数から, Actinidia においてはx=29が基本数であることが認められた.サルナシにおいては, 2仁を有する2n=58, 4仁を有する2n=116と仁数は不明確であったが2n=ca. 174の2x, 4x, 6xの倍数関係が示された. 本報のマタタビは2n=58の2倍性であったが, これまでに報告された2n=116の存在を考えると両者の間には, 2xと4xの同質倍数性関係があるのかもしれない. 本研究の2n=174のキウイフルーツの3品種‘マチュア’, ‘アボット’, 及び‘ブルーノ’は体細胞核に6仁または小胞子核で3仁を有し, いずれも基本数x=29の6倍性を示している.
著者
水野 紀子 河上 正二 早川 眞一郎 渡辺 達徳 小粥 太郎 久保野 恵美子 米村 滋人 中原 太郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、先端的医療・医学研究の実施に際して、患者・被験者等の利益を保護し、生命倫理の観点から逸脱した行動を規制しつつ、適正な範囲での先端的医療・医学研究の発展を可能にすべく、その法的規律を明確化することを目指した。アドホックな個別の利益衡量ではなく、民法の一般法理論との関連において、生殖補助医療やヒト生体試料の法的地位などの具体的問題について分析・検討して,解決に向けた具体的指針を提供した。
著者
渡辺 勝久 北出 利勝 廖 登稔 佐々木 和郎 北小路 博司 石丸 圭荘 大山 良樹 木下 緑 岩 昌宏 山際 賢 大藪 秀昭
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.154-159, 1993-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

顎関節症は開口障害, 顎関節の疼痛, 関節雑音を主症状とする疾患で, 近年, 若年者を中心に増加の傾向にある。顎関節症は髄伴症状として, 鍼灸治療の適応である頭痛, 頸肩部の凝りなどの不定愁訴を有している場合が多い。そこで, 顎関節症に対する認識をより深め, 具体的な鍼灸治療の方法について, ビデオ教材を作成した。ビデオ教材の内容は, 前半は顎関節の解剖, 顎関節症の病態と分類などを解説し, さらに, 顎関節のMRI画像を紹介した。後半は診察の手順と治療を解説した。鍼灸治療は, 局所的常用穴を述べ手技の実際を紹介した。

2 0 0 0 OA 蜂蜜薬効論 (2)

著者
渡辺 武
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學會誌 (ISSN:1884202X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.26-34, 1955-03-31 (Released:2010-10-21)
参考文献数
40
著者
松崎 政代 春名 めぐみ 大田 えりか 渡辺 悦子 村山 陵子 塚本 浩子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.2_40-2_49, 2006 (Released:2008-06-30)
参考文献数
42
被引用文献数
7 5

目 的 妊娠期の健康度や生活習慣を評価する客観的評価指標は少ない。そこで,妊娠期において酸化ストレスマーカーの一つである尿中バイオピリンを測定し,妊娠期での値の特徴とその関連要因を明らかにし,その利用可能性を検討する。方 法 2004年7月2日から8月31日までの調査期間中にNクリニックに来院した妊婦のうち594名を対象妊婦群とし,妊娠初期・中期・末期に分類した。また,妊婦群の年齢にマッチングさせた,現病歴のない,非妊娠女性35名をコントロール群とした。妊婦群とコントロール群に対し,調査票および診療記録から基本情報,生活習慣,精神的ストレスとして精神的健康度(general health questionnaire: GHQ)の情報を得た。また午前中に採尿・採血を行い,尿中バイオピリン,血清中脂質代謝マーカー(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸・トリグリセリド・総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・遊離脂肪酸)と糖代謝マーカー(グルコース・グリコアルブミン)の測定を行った。結 果 妊娠初期・中期・末期における妊婦の尿中バイオピリン値は非妊娠女性に比して有意に高値(p<0.001)であった。妊娠末期の尿中バイオピリン値は,妊娠初期,中期の値に比して有意に高値(p<0.001)であった。 尿中バイオピリン値に関連する要因として,現病歴があること,高血圧や蛋白尿といった妊娠高血圧症症状があること,グルコースおよび精神的健康度GHQ得点と正の関連,HDLコレステロールと遊離脂肪酸と負の関連が明らかになった。尚,妊娠高血圧症症状は,3-ヒドロキシ酪酸などの脂質代謝と関連があった。結 論 妊婦の尿中バイオピリン値は,妊娠末期に最も高値を示し,非妊娠女性よりも高値を示すという特徴が明らかになった。また,脂質代謝と関連のある妊娠高血圧症症状や現病歴,糖代謝,精神的健康度との関連が見出され,尿中バイオピリン値の妊娠中の酸化ストレスマーカーとしての利用可能性が示唆された。
著者
渡辺 達三
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
造園雑誌 (ISSN:03877248)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.193-208, 1992-12-25 (Released:2011-07-19)
参考文献数
13

松平定信は致仕後, 自らを楽翁と号し浴恩園の整備を進め, そこにハスの品種を多数集め, それを観賞し, 蓮譜『清香譜』を完成させている。それまでは, ハスの品種観念も曖昧で, 品種数も数種とり上げられているたすぎなかったが, 『清香譜』では九十余種記載されていたといわれ。蓮譜史上, 画期的な意義を有する。しかし, その『清香譜』は戦後, 散逸し, その実像は明らかでない。また, 翁のハスの観賞についても, その実態についてはほとんど知られていない。そこで, 本稿では, 楽翁のハスの観賞の態度・あり様について, また, その大きな事績である『清香譜』について考察するものである。
著者
渡辺 伊三郎
出版者
一般社団法人 日本エネルギー学会
雑誌
燃料協会誌 (ISSN:03693775)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.918-925, 1961-12-20 (Released:2010-06-28)

初期のバッチスチル蒸留より終戦時に至る間の, わが国における揮発油製造法の進歩を, 当時の揮発油事情の変遷と共に概説し, さらに戦時中, 各国で使用した航空揮発油とその製造法を略述する。また, 戦後に開発もしくは改善された現行の揮発油製造の諸法について説明する。
著者
伊藤 謙 宇都宮 聡 小原 正顕 塚腰 実 渡辺 克典 福田 舞子 廣川 和花 髙橋 京子 上田 貴洋 橋爪 節也 江口 太郎
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = Nihon Kenkyū (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.157-167, 2015-03-31

日本では江戸時代、「奇石」趣味が、本草学者だけでなく民間にも広く浸透した。これは、特徴的な形態や性質を有する石についての興味の総称といえ、地質・鉱物・古生物学的な側面だけでなく、医薬・芸術の側面をも含む、多岐にわたる分野が融合したものであった。また木内石亭、木村蒹葭堂および平賀源内に代表される民間の蒐集家を中心に、奇石について活発に研究が行われた。しかし、明治期の西洋地質学導入以降、和田維四郎に代表される職業研究者たちによって奇石趣味は前近代的なものとして否定され、石の有する地質・古生物・鉱物学的な側面のみが、研究対象にされるようになった。職業研究者としての古生物学者たちにより、国内で産出する化石の研究が開始されて以降、現在にいたるまで、日本の地質学・古生物学史については、比較的多くの資料が編纂されているが、一般市民への地質学や古生物学的知識の普及度合いや民間研究者の活動についての史学的考察はほぼ皆無であり、検討の余地は大きい。さらに、地質学・古生物学的資料は、耐久性が他の歴史資料と比べてきわめて高く、蒐集当時の標本を現在においても直接再検討することができる貴重な手がかりとなり得る。本研究では、適塾の卒業生をも輩出した医家の家系であり、医業の傍ら、在野の知識人としても活躍した梅谷亨が青年期に蒐集した地質標本に着目した。これらの標本は、化石および岩石で構成されているが、今回は化石について検討を行った。古生物学の専門家による詳細な鑑定の結果、各化石標本が同定され、産地が推定された。その中には古生物学史上重要な産地として知られる地域由来のものが見出された。特に、pravitoceras sigmoidale Yabe, 1902(プラビトセラス)は、矢部長克によって記載された、本邦のみから産出する異常巻きアンモナイトであり、本種である可能性が高い化石標本が梅谷亨標本群に含まれていること、また記録されていた採集年が、本種の記載年の僅か3年後であることは注目に値する。これは、当時の日本の民間人に近代古生物学の知識が普及していた可能性を強く示唆するものといえよう。
著者
渡辺 満久 鈴木 康弘 熊原 康博 後藤 秀昭 中田 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

2016.04.14に熊本地震の前震(M6.5)が、04.16には本震(M7.3)が発生した。これらの地震を引き起こした活断層への評価(地震本部、2013)には、指摘すべき大きな問題がある。また、地震断層近傍では、「震災の帯」と呼ぶべき被害の集中域が認められる。このような現象は1995年兵庫県南部地震後にも指摘されていたが、その教訓が生かされたとは思えない。 本震発生時、既知の布田川・日奈久断層に沿って総延長31kmの地表地震断層が現れた。ところが、前震は日奈久断層帯が、本震は(主に)布田川断層帯が起こしたものである(前震と本震は別々の活断層によって引き起こされた)との見解がある。それは、地震本部が布田川・日奈久断層という1つの活断層を、布田川断層帯と日奈久断層帯という別々の活断層として評価しているためである。 明瞭な地震断層が全域で現れたのは本震の時であり、前震の震源域は本震のそれに包括されている。また、都市圏活断層図に示されているように、布田川・日奈久断層は完全に連続した活断層である。これらのことから、別々の断層が連動したという理解は誤っている。かつて地震本部は、連続した布田川・日奈久断層として正しく評価されており、今回の震源域ではM7.2の地震が発生すると予測されていた。ところがその後、変動地形学的な証拠が軽視され、1つの活断層が2つの活断層(帯)に分割されてしまった。それによって想定地震が過小評価され、M7クラスの本震発生への警鐘に結びつかなかった可能性がある。 益城町の市街地では震度7を2度記録したが、本震時の建物被害が著しかった。被害激甚な地域は、南北幅が数100km以内、東西に数km連続する「震災の帯」をなしている。ここでは、新耐震基準に適合している建物までもが壊滅的な被害を被っている。「震災の帯」の中には、益城町堂園付近から連続する(布田川断層から分岐する)地震断層が見出されるため、その活動が地震被害集中に寄与している可能性が高い。ただし、地震断層直上でなくても、近傍における建物物の被害も著しい。 南阿蘇村においては、複数の地震断層が併走して現われた。地震断層直上およびその近傍では、ほとんどの建物が倒壊した。この地域においては、少なくとも5台の自動車が北~北西方向へ横倒しとなっていることも確認した。強いS波が自動車を転倒させ、南阿蘇村における大規模な斜面災害の引き金にもなったと考えられる。 このように、地震断層近傍では、土地のずれに加えて、強震動による被害が集中したと考えられる。堂園付近では、布田川断層の存在は知っていたという声が少なくなかった。しかし、そこに被害が集中する可能性があるとは理解されていなかった可能性が高い。活断層情報の活用の仕方について、再検討すべきであろう。 熊本地震によって、活断層の位置情報が地震防災上極めて重要な情報であることが再確認された。変動地形学的な物的証拠を重視していない地震本部による活断層評価には、非常に大きな問題がある。また、兵庫県南部地震時の教訓を十分に生かすことができなかったのは、活断層情報の活かし方に問題があったと考えられる。防災・減災に向けて、地形学からさらに積極的な提言を続けることが必要であろう。なお、熊本地震の地震断層は既知の活断層の範囲以外にも出現している。「見逃された」理由を検証し、今後の活断層調査に関して解決すべき問題を見極めなければならない。全国の都市圏活断層図の改訂など、熊本地震を貴重な事例として、明確となった問題を解決してゆく必要がある。
著者
小橋 有里 井口 真理子 大久保 剛揮 藤井 崇 熊谷 武久 渡辺 紀之
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 = The Japanese journal of swine science (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.46-50, 2013-06-25
参考文献数
19

欧州食品安全機関(EFSA)は2012年6月4日,ヒト及び動物に重要な抗菌剤への細菌の感受性の評価に関する手引書を公表した(EFSA,2012)。薬剤耐性の問題から,抗菌剤の使用の際には,感受性の評価が欠かせなくなっているのが現状である。動物用飼料に使用する抗菌性飼料添加物及び抗菌剤については,1997年のEUでのアボパルシンの使用中止以来,様々な議論がなされてきている。デンマークでの抗菌性飼料添加物の使用を中止したことによる家畜の疾病増加や生産性低下,また治療用抗菌剤の使用量の増加といったマイナス面等を踏まえ(小林,2004),我が国でも,内閣府食品安全委員会が2004年に「家畜等への抗菌性物質の使用により選択される薬剤耐性菌の食品健康影響に関する評価指針」を作成(内閣府食品安全委員会,2004),2006年に「食品を介してヒトの健康に影響を及ぼす細菌に対する抗菌物質の重要度のランク付けについて」を決定(内閣府食品安全委員会,2006),その後も個別の薬剤についてワーキンググループによる調査を続けている。その一方で,抗菌性飼料添加物に依存しない減投薬飼養管理システムの構築を目指した研究も行われている(農林水産省農林水産技術会議事務局編集,2009)。離乳子豚に乳酸菌を添加した発酵リキッド飼料を給与すると,抗体応答を賦活化すること(MIZUMACHIら,2009),薬剤耐性菌を減少させること(KOBASHIら,2008),腸内細菌の多様度が高まること(TAJIMAら,2010)などが報告されており,抗菌性飼料添加物の代替効果が注目されている。また,近年,乳酸菌の生菌剤だけでなく,殺菌菌体による腸管免疫活性化作用も注目されており,子豚にEnterococcus faecalis殺菌菌体を摂取させると,志賀毒素産生性大腸菌(STEC)によって引き起こされる浮腫病の改善が見られたとの報告もある(TSUKAHARAら,2007)。このような殺菌菌体成分による作用はバイオジェニックスのひとつで,バイオジェニックスとは「腸内フローラを介さず直接,免疫刺激,抗変異原作用,抗腫瘍作用,抗酸化作用,コレステロール低下作用あるいは腸内腐敗抑制作用などによって,生体に有利に働く成分」であり,乳酸菌発酵生産物,免疫強化物質を含む生理活性ペプチド,植物フラボノイドなどの成分が該当すると言われている(光岡,2002)。現在,多くのバイオジェニックス製剤が市販されており,様々な効果が報告されているが,実際の動物を用いた効果は様々であり,適用の範囲は不明である。本研究では,既にヒトやマウスでアレルギー症状の緩和等の免疫活性効果が確認され,市販されている殺菌乳酸菌Lactobacillus paracasei K71(以下K71,MOROIら,2011;KUMAGAIら,2013)粉末を用い,抗菌性飼料添加物を排除した条件で,知見のない離乳子豚に対する発育,下痢,小腸組織および病原因子に及ぼすK71の効果を検証した。