- 著者
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高橋 美沙
渡邊 裕之
嘉治 一樹
津村 一美
橋本 昌美
高平 尚伸
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.48102030, 2013 (Released:2013-06-20)
【はじめに、目的】肩関節の安定性には,inner musclesである腱板とouter musclesである浅層筋群との力のバランスが重要であり,このバランスが破綻すると肩関節の不安定性を生じさせ,肩峰下インピンジメント症候群などの種々の障害を引き起こす(筒井ら,1992).特に,棘上筋は上腕骨頭を求心位に保つ機能を有しており,動揺性肩関節患者では棘上筋が正常な機能を果たしていないことが報告されている(河野,1986).したがって,棘上筋を強化すること(棘上筋トレーニング)は肩関節安定性の向上を目的とした肩関節障害予防として重要である.従来,棘上筋トレーニングの効果判定法として肩甲骨面挙上筋力測定が行われてきた.しかし,肩甲骨面挙上筋力測定は三角筋の影響を受けやすく,棘上筋単独で筋力を評価することは困難である(Reinold et al,2007).一方,超音波画像診断装置を用いた筋厚測定は技術的に簡便かつ非侵襲性であるため棘上筋トレーニングを評価する方法として着目されている(二木ら,2001).棘上筋筋厚はMRIで測定された棘上筋断面積と相関することが報告されている(Yi et al,2012).また,我々が事前に実施した実験の未報告データにおいて,棘上筋筋厚と筋活動との相関が認められ,筋厚測定によって筋活動を推定することが可能である.棘上筋トレーニングの実施効果を縦断的に検討した報告は少なく,棘上筋トレーニングの効果については不明な点が多い.本研究の目的は,超音波画像診断装置を用いて棘上筋筋厚を測定することにより,棘上筋トレーニングが棘上筋筋活動に及ぼす影響について検討することである.【方法】対象は健常成人男性9 名の18 肩とした.肩関節疾患および外傷の既往歴,肩関節に疼痛を有する者は対象から除外した.棘上筋トレーニングの方法は,イエローセラバンド(2kg負荷)を使用し,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0°〜30°までの反復運動とした.回数は20 回× 3 セットとした.棘上筋筋厚は超音波画像診断装置(ProSound,SSD-4000,ALOKA)を使用して測定された.超音波画像の撮像位置は,肩甲棘長を100%とし,肩甲棘基部から10%,50%の部位に15MHzのリニアプローブを肩甲棘に対して垂直にあてた.筋厚は,棘上筋浅層筋膜と深層筋膜との間の距離とした.試行動作は,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上30°の肢位にて,他動保持時,セラバンド2kg負荷時,最大等尺性収縮時の3 条件とした.実験手順を以下に示す.トレーニング開始前に棘上筋筋厚を測定しベースライン値とした.その後,対象者は棘上筋トレーニングを週に5 回の頻度で6 週間実施した.トレーニング終了後,再度棘上筋筋厚を測定した.統計学的解析として,各条件における棘上筋筋厚をWilcoxonの符号付順位和検定を用いてトレーニング前後で比較した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:2012-014).本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た.【結果】肩甲棘長の10%部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前0.28 ± 0.16cm,介入後0.41 ± 0.14cm)およびセラバンド2kg 負荷時(介入前0.61 ± 0.26cm,介入後0.80 ± 0.22cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).50% 部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前1.76 ± 0.19cm,介入後1.89 ± 0.12cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).【考察】肩甲棘長の10%および50%の部位における棘上筋筋厚は,6 週間の棘上筋トレーニング後の他動保持時,セラバンド2kg負荷時において増加した.Yiらは,棘上筋筋厚と筋断面積が相関することを報告している.また,我々が実施した実験の未報告のデータによると,棘上筋筋厚と筋活動との間に相関が認められたことから,筋厚の増加は筋活動の増加を反映している可能性がある.したがって,6 週間の棘上筋トレーニングは筋活動を増加させる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】6 週間の棘上筋トレーニングは棘上筋筋厚を増加させた.したがって,本研究で実施した棘上筋トレーニングは肩関節障害予防を目的とした棘上筋強化法として有用である可能性がある.また,超音波画像診断装置を用いた棘上筋筋厚測定は,棘上筋筋活動を非侵襲的に評価でき,棘上筋トレーニングの効果判定法として有用である可能性が示唆された.