著者
加藤 勉 田中 淳夫
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.147, pp.33-41, 72, 1968-05-30
被引用文献数
2

引張接合部には一般にファスナーの種類に関係なく被接合部の変形に起因する所謂テコ作用が働く。この論文はSplit Tee形式高力ボルト引張接合部に生じるテコ作用の実体を純引張試験によって実験的に調べたものである。ここではボルトがTeeウェブの両側に各一列ずつ配された場合のみを取扱う。テコ作用の大きさを支配する因子としてTeeフランジの板厚, Teeウェブ(外力作用位置)とボルトとの距離, ボルト位置からTeeフランジ外端までの距離, の三つに着目した。実験結果の解析によりテコ作用を予知するための実験式が提案される。
著者
高橋 雅興 田中 克史
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

高度通信情報化にともない、放射電磁波の増大や利用周波数領域の多様化が起こり、電磁干渉による電子機器の誤作動が大きな問題となっている。本研究の目的はGHz帯域における吸収性能に優れた電磁波吸収体を創製することである。高分子ブレンドの相分離構造や架橋網目の網目サイズを利用して、ナノカーボン粒子のネットワーク構造を作り、導電性と電磁波吸収性能を飛躍的に高めた。ナノカーボンとして鎖状構造をとりやすいアセチレンブラック(AB:直径20nm)とカーボンナノファイバー(VGCF:直径150nm,長さ10-20μm)を用いた。ナノカーボンの分散と導電性・誘電性の相関、総合的な結果としての電磁波吸収性能の関連がほぼ明らかになった。主な研究結果は次のようにまとめられる。1.ABは凝集クラスターが種々の形をとり、自己相似のフラクタル構造になりにくいが、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)中では、長時間アニールで導電性のパーレーションしきい値を2.2vol%と驚異的に低くできる。シリコンゴムでは、網目サイズをABの一次粒子の直径程度にすることでABの分散制御が可能となる。いずれの系においても導電性のしきい値を少し越えた充填量で、コンポジットは95%以上の高い電磁波吸収性能を示す。2.高密度ポリエチレン(HDPE)/ポリプロピレンブレンドの共連続構造中で、VGCFはHDPE中に局在して、単体中よりしきい値が低下し導電性が増大する。PMMAにごく少量のHDPEを加えると、粗いVGCF末端へのHDPEの吸着がVGCFの連結に寄与し、PMMA単体中よりも導電性が飛躍的に高くなり95%以上の電磁波吸収率を示す。3.反応性シリコン/VGCF分散複合系に電場を印加し、光学顕微鏡観察を行い誘電性の時間変化を測定した。VGCFの電場方向への配列傾向とともに、貯蔵誘電率・損失誘電率が増加する結果が得られた。
著者
田中 誠
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.86-90, 1991-12-20

和本や和紙などが虫害を受けやすいことは昔からよく知られている。その対策には古くから頭を痛めていたようで,さまざまな防除法が工夫されている。古来の防除法の主要なものには,紙を防虫効果のある染料で染色する方法と,防虫効果のある植物などを本に挟んだり書箱に入れたりする方法とがあった。ほかに環境的な対策として曝書(ばくしょ)(虫干し)や香料の利用がある。また,本を保存する箱や帙(ちつ)を防虫効果のある木(クスなど)で作ったり,紙そのものをクララなどの毒草で漉くようなエ夫もなされていた。ここでは,江戸時代以前に行なわれていた主要な防除法のうち,植物(植物質)を利用した例について,そのあれこれを紹介してみたい。
著者
熊本 忠彦 河合 由起子 田中 克己
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.3, pp.540-548, 2011-03-01

筆者らは,コンテンツを見たり聞いたりしたときに人々が感じる印象をコンテンツそのものから抽出する手法の研究開発を行っている.本論文では,新聞記事を例として取り上げ,記事を読んだ人々が感じる印象を記事そのものから抽出するテキスト印象マイニング手法を提案する.具体的には,新聞記事データベースを解析し,記事に現れる各単語が記事の印象に及ぼす影響を数値化した印象辞書を構築するとともに,この印象辞書を用いて記事の印象値を算出する手法(算出法)を開発する.更に,この算出法が記事から算出する印象値と人々がその記事を読んだときに感じる印象値との対応関係を回帰分析により調べ,その結果得られる回帰式を用いて算出した印象値を補正するという方法で高精度なテキスト印象マイニングを実現する.ただし,提案手法により抽出される印象は,「楽しい悲しい」,「うれしい怒り」,「のどか緊迫」の3種類であり,それぞれの印象に対し7段階の評価尺度(印象尺度)を設定している.提案手法の有効性を検証するために行った被験者実験では,それぞれの印象尺度における平均誤差が0.69,0.49,0.64となり,特に「うれしい怒り」に対しては高い精度を得ている.
著者
田中 秀穂 青野 友親
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究技術計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.255-266, 2009-02-23
被引用文献数
1

近年,大学の特許出願が増加しその管理費用が増加する一方,実施許諾収入の伸びは緩やかで両者はバランスしていない。大学の研究成果の活用促進には,特許の権利範囲を広く確保し企業が実施許諾を受けるのに十分な排他性を持たせることが必須であるが,大学が出願した特許の排他性を定量的に検討した報告例はない。本研究では,国立大学法人と医薬品企業から出願された医薬関連特許の排他性を出願のタイプ別,および明細書の記載事項の観点から分析し,両者に差があるかを検証した。その結果,大学から出願された特許は排他性の強い物質特許の比率が企業に比べて低いこと,各出願の明細書に記載された実施例においても,大学からの出願では権利範囲を確保するための記載が企業の出願に比べて十分ではないこと等が示され,企業が実施許諾を受けるだけの価値を見出しにくいことが示唆された。大学は発明者,知的財産担当者の協力のもとに,特許出願において排他性を強める努力を行う必要がある。
著者
乾 健太郎 徳永 健伸 田中 穂積
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.124-125, 1991-02-25

文章を生成するには,語乗選択や語順などさまざまな要素に関する決定が必要である.これらの決定は,文章中で述べる話題を選択・構成するwhat-to-sayレベルとwhat-tqsayの内容を表層化するhow-to-sayレベルに分けて考えることができる.2つのレベルの決定は相互に依存するため,その緊密な関係を実現するアーキテクチャの必要性が指摘されている.たとえば,1文の中にどれだけの話題を含めるかという問題は,話題間の意味的なつながりから制約(what-to-sayの制約)を受けると同時に,それを表層化したときに適切な長さの文になるかという制約(how-to-sayの制約)も受ける.また,how-to-sayレベルのみについて考えても,種々の決定が相互に依存し,それらをどの順序で決定すればよいかが必ずしも明らかではない.たとえば,後置詞句の語順は,後置詞句の長さに依存するため,語彙選択を先におこなわなければ適切に決めることができない.語彙選択には照応表現の選択も含まれるが,照応表現は,先行洞と照応詞の距離などに依存するため,適切な照応表現を決定するためには語順の情報が必要である.このように,生成に必要な種々の決定の間には相互依存関係がある.この問題に対する代表的なアプローチの1つに種類の異なる決定を交互におこなう手法があるAppeltやHovyでは,how-to-say決定部が決定の過程で必要に応じてwhat-to-say決定部を呼び出すことにより両者の相互作用を実現しているまた,Hovyは,how-to-say決定過程に対し,決定の種類ごとに異なるモジュールを用意し,モジュールの適用順序を動的に変えることによって,決定の順序に柔軟性を持たせる手法を提案している.しかしながら,これらの手法では,一度決定した要素については変更しないため,将来の影響を十分に予測した上で個々の決定をおこなう必要がある.Appelt,Hovyの手法では,統語的要因を考慮しながらwhat-to-sayを決定するため,what-to-say決定部は複雑なメカニズムを必要とする.また,what-to-say決定部を呼び出すタイミングの管理も困難である文章生成では,論旨展開や照応表現などの文脈的な問題も考慮しなければならないため,メカニズムはさらに複雑になる.本稿では,この問題へのアプローチとして,一度表層化した文章を繰り返し改良し,最終的に質の高い文章を生成するモデルを提案する.一般に,文章を繰り返し改良することを推敲と呼ぶが,生成過程全体を推敲過程としてとらえることによって,生成に必要な種々の決定を相互に依存する形で実現できる.本稿では,推敲に基づく生成モデルの概要と一部の実現について述べる.
著者
鈴木 雅之 田中 瑛津子 村山 航 市川 伸一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-43, 2010

本稿は,自発的な計算の工夫を促進させるために,「式全体をよく見て計算する」という抽象的方略のもとに,いくつかの具体的な工夫方法を教授し,その転移効果について検証するものである.研究1では工夫速算問題にはどのようなものがあるのかを検討するために,工夫速算問題の工夫方法の類似度評定から,多次元尺度法とクラスター分析を用いて工夫速算問題の構造を示し,工夫速算問題を8つの群に分類した.研究2では,研究1の分類結果をもとに,どのような問題に効果がみられたのかを検討した.その結果,小学5年生は教えられた問題と同型構造の問題に対しては工夫を加えることが可能であるのに対し,小学2年生は指導された方略をある程度自発的に応用させることが可能であるということが示された.特に,もともと基本計算能力が備わっている生徒ほど,工夫して計算ができるようになるということが示唆された.
著者
谷村 勇輔 的野 晃整 小島 功 田中 良夫 関口 智嗣
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.74, pp.223-228, 2008-07-29

ユビキタスコンピューティングの世界で用いられる"ucode"を管理するシステムに RDF-DB (RDF database) を利用するには,スケーラブルな RDF-DB を構築する技術の確立が必要である.そこで,我々は RDF-DB のバックエンドに分散ストレージと MapReduce フレームワークを用いた並列データ処理を利用することで,膨大なデータに対する多数の問合せに対応したシステムの構築を試みている.本稿では,まず MapReduce を実装する Hadoop において,データベースの結合演算を行うプログラムの性能を評価した.次に, Hadoop と RDF-DB のそれぞれの特徴に基づき,データベースの基本的なデータ格納手法である Vertical Partitioning,Horizontal Partitioning,Sorting をもとに, MapReduce フレームワークにおける RDF-DB に適したデータの分散格納方法を提案する.そして,約 274 万のトリプルに対して, 2 または 3 組の predicate を選択条件とし, subject に対する結合演算を行う問合せを用いて評価実験を行った.これらを通じて,最終的に構築しようとしているシステムの設計を行う上での基本的な知見を得た.Research for scalable RDF-DB (RDF database) is highly expected today, in order to construct the "ucode" management system in the ubiquitous world. Our approach is to use parallel data processing technology with distributed storage and MapReduce framework, as a backend of RDF-DB. In this report, performance of the JOIN operation in the database domain was evaluated on the Hadoop cluster, in which MapReduce framework is provided by Hadoop. Then data storing/distributing methods based on conventional Vertical Partitioning, Horizontal Partitioning and Sorting, are proposed so that they take advantages of the Hadoop behaviors and the RDF-DB features. The proposed methods were evaluated by the experiment with the query which selects the RDF triples by 2 or 3 predicates and joins the triples on the subject from 2.4 millions' triples. Through the examinations, the design principle of our developing scalable RDF-DB system was confirmed.
著者
松本 知弥子 馬 強 田中 克己
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DE, データ工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.192, pp.105-112, 2001-07-11

WWWの急激な進歩と普及によって, 多くの一般のユーザが多種多様な情報を受信・発信できるようになり, 情報資源の量は, 日々増加し続けている.ユーザが大量の情報の中から, 情報を検索することは非常に困難な作業である.特に, 地域密着情報のようなローカル的な情報を獲得するには, 従来の検索やフィルタリング手法は不十分である.本稿では, Webページのローカル度という新しい尺度を定義し, それに基づくフィルタリング手法を提案する.ローカル度の定義方法として, 1文書内のローカルさを特徴付ける地理用語や組織名の頻度・詳細度・位置情報と, 他のページとの関係からリンク構造解析や類似しているページの数を用いる.また, ローカル度の定義を評価するための予備実験の結果を示す.
著者
澤井 秀次郎 福田 盛介 坂井 真一郎 櫛木 賢一 荒川 哲人 佐藤 英一 冨木 淳史 道上 啓亮 河野 太郎 岡崎 峻 久木田 明夫 宮澤 優 植田 聡史 戸部 裕史 丸 祐介 下地 治彦 清水 康弘 芝崎 裕介 島田 貞則 横井 貴弘 藪下 剛 佐藤 賢一郎 中村 和行 久原 隆博 高見 剛史 田中 伸彦 古川 克己
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
航空宇宙技術 (ISSN:18840477)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.35-43, 2018 (Released:2018-03-02)
参考文献数
35
被引用文献数
8 7

SLIM (Smart Lander for Investigating Moon) is the Lunar Landing Demonstrator which is under development at ISAS/JAXA. SLIM demonstrates not only so-called Pin-Point Landing Technique to the lunar surface, but also demonstrates the design to make the explorer small and lightweight. Realizing the compact explorer is one of the key points to achieve the frequent lunar and planetary explorations. This paper summarizes the preliminary system design of SLIM, especially the way to reduce the size.
著者
田中 篤 高橋 宏樹 根津 佐江子 上野 義之 菊池 健太郎 渋谷 明隆 大平 弘正 銭谷 幹男 Lorenzo Montali Pietro Invernizzi 滝川 一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.51-59, 2009 (Released:2009-03-02)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

疲労は原発性胆汁性肝硬変(PBC)患者の主要症状の一つとされており,近年欧米では臨床上の重要な問題としてPBC患者の疲労に関する報告が相次いでいるが,日本人PBC患者における疲労症状の実態は不明である.われわれは疲労症状の評価尺度として頻用されるFisk Fatigue Severity Score(FFSS)の日本語版をback translation法によって作成し,日本人PBC患者166名を対象としてその妥当性を統計学的に検証した.クロンバックのα係数は0.900を超えており,評価尺度の内的整合性は良好であった.SF-36との間にも高い相関が存在し,ことに疲労と関係の深い「活力」「日常役割機能(身体)」との間に最も強い相関がみられた.主因子法による探索的因子分析ではphysical, cognitive, socio-relational, socio-emotionalと推定される4因子が抽出され,これらによって結果全体の66%が説明可能であった.以上より今回作成した日本語版FFSSの妥当性が検証された.今後これを用いて日本人PBC患者の疲労症状について詳細に検討する予定である.
著者
高橋 麻衣子 田中 章浩
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.595-603, 2011 (Released:2013-04-09)
参考文献数
38
被引用文献数
3

This study investigated cognitive processing during silent and oral reading. We focused on the allocation of cognitive resources required for reading comprehension and phonological representation. We examined the utilization of cognitive resources by observing the effect of concurrent tapping on the comprehension of visually presented sentences. We also analyzed the impact of the presentation of irrelevant speech on reading comprehension. Thirty-two participants read sentences both silently and orally. Each reading task was performed under four multiple-task conditions: no-tap⁄no-speech, no-tap⁄speech, tap⁄no-speech, and tap⁄speech. The results indicated that for silent reading, tapping interfered with reading comprehension. Irrelevant speech also interfered with reading comprehension when the readers did not perform the tapping. However, when the readers performed the tapping during the silent reading task, there was no additional disruptive effect of the irrelevant speech. In contrast, for oral reading, neither tapping nor irrelevant speech interfered with reading comprehension. Moreover, there was no interaction between the effects of tapping and irrelevant speech when the participants read the sentences orally. These findings suggest that more cognitive resources are used for silent reading comprehension than for oral reading comprehension. Also, more cognitive resources during silent reading are required to use the phonological representations constructed internally and to support reading comprehension.
著者
田中 清 桒原 晶子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.219-228, 2022-08-01 (Released:2022-09-17)
参考文献数
42

骨粗鬆症性骨折は,多額の医療費・介護費用を要する疾患である。近年,骨折予防のエビデンスを持った治療薬が多数開発されており,高リスク者に対する使用はおおむね正当化される。しかし医療費は有限の資源であり,それを適正に配分するという観点からは,低~中リスク者に対する高額な薬剤使用には問題がある。 ビタミンD欠乏により,くる病・骨軟化症が起こるが,より軽症の不足であっても,骨折リスクとなる。一方でビタミンD不足者の割合は極めて高い状況にある。ビタミンD不足が骨折リスクであるとの観察研究,ビタミンDにより骨折が抑制されるとの海外からの介入研究は多数報告され,ビタミンD介入による骨折発生数減少は,介入費用を大きく上回る骨折関連費用の削減となることが示されている。またビタミンDには,筋力維持による転倒防止,感染症や一部のがんのリスク減少などの効果も報告されており,ビタミンDの栄養的介入による疾患予防効果の社会的インパクトは,さらに大きい可能性がある。 栄養的介入の疾患に対する絶対的効果は薬物療法より小さくとも,広い対象に適応できるため費用対効果では上回ることもある。しかし,従来わが国においては,栄養的介入の社会的意義はほとんど研究されていない。そこで,本稿ではビタミンDによる骨折予防の社会的意義について述べ,種々の栄養的介入につき,このような視点からの検討が必要であることを示唆した。
著者
田中 隆 河野 功
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

タンニンの不溶化が植物の生理現象に深く関わっていることは以前から指摘されており,渋柿の渋味が消失する現象もタンニンが不溶化するためと言われている。この現象に果実の嫌気的呼吸により生成するアセトアルデヒドが関与することが推測されていた。しかし,不溶化したタンニンを化学的に扱った研究は全く無く,化学的証拠は得られていなかった。我々は緩和な条件下で高分子量の縮合型タンニンをメルカプトエタノールで効率よくフラグメントに分解する方法を開発し,カキタンニンの構造を明らかにすると共に,エタノールや温湯で渋抜きした柿,干し柿,熟柿ではタンニンは無くなるのではなく,溶けなくなっているにすぎないことを確認した。また,不溶性タンニンから得られるフラグメントにはアセトアルデヒド由来の置換基を有するユニットが存在することを初めて明らかにし,重エタノールの取込み実験などによってそれがアセトアルデヒド由来であることを確認した。これによりタンニン不溶化へのアセトアルデヒドの直接関与を初めて化学的に証明することが出来た。さらに,モデル実験によりタンニン分子はアセトアルデヒドにより緩やかに架橋されてゲル状になり不溶性となっていることを証明した。同様の機構によりタンニンの不溶化はバナナやブドウでも起こっている可能性が示唆された。一方,甘柿では不溶化は重要ではなく,タンニン細胞の生長が早い時期に停止し,果実の肥大によりタンニンが希釈されて渋味が消えることを確認した。本研究については投稿中である。木材でもタンニン不溶化が起こっていると推測されており,ノグルミ樹皮及び栗の材部のタンニンについて研究を展開し,栗については心材特有のタンニン成分を単離した。その一部については構造をすでに明らかにしており投稿準備中である。
著者
田中 雅子
出版者
経営哲学学会
雑誌
経営哲学 (ISSN:18843476)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.19-36, 2022-01-31 (Released:2022-04-08)
参考文献数
31

経営理念と経営者の関係は論じられて久しい。その大半は経営者が哲学を持ち、それを表明することの意義や、浸透に果たす役割について考察されている。反面、経営者が理念を自分のものにするプロセスを検討したものは皆無に近く、数少ない研究も回顧的である。この問題意識を背景に、経営者として「プロセス真っただ中」にいるオーナー企業の後継者である三代目を対象に、彼の現在進行形で進んでいる理念を理解するプロセスを検討したいと考えた。理論的基礎に据えたのは、Lave and Wenger(1991)の「正統的周辺参加」である。この理論は5つの伝統的徒弟制にヒントを得た学習理論であり、周辺から十全へと移行する際にアイデンティティの増大が不可欠であるとされている。そこでその形成がより詳細に説明されている「断酒中のアルコール依存症者の徒弟制」の事例に重きをおいた。そしてこれらに基づき分析を行うことで、三代目の理念の理解を明らかにすると同時に、当該理論に新解釈を提供することを目的とした。結果、理論枠と同様に、組織における人・人工物といった「構造化された実践共同体」の存在や「アイデンティティ」が、三代目の理念の理解にとり重要であることが明らかになったが、追加点も導出できた。それはアイデンティティを増幅させるものは、行動以上に状況であることや、仕事や業務につく以前から周辺参加は始まっているという点であり、これらは本稿の新解釈でもある。また、理念浸透のレベルが異なる発言が出たことは、大変興味深い発見事実であった。本稿はそれを、経営者としての意識の高さと経験の間に乖離があるためと捉え、三代目の理念の理解は道半ばであると結論づけた。今後も継続して調査を実施し、レベルの差異が何に起因し、どのようなプロセスを経て十全の域に達するのかを明らかにすることが求められる。
著者
田中 洋 安藤 元博 髙宮 治 江森 正文 石田 実 三浦 ふみ
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.24-42, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
42

本論文はCMO(チーフマーケティングオフィサー)が日本企業において企業業績にどのような貢献をしているかを実証的に分析するとともに,CMOの地位が現在どのように変化しているかを文献調査で明らかにすることを目的としている。CMOが企業業績に正の影響を与えていることが近年米国で報告されているが,日本ではまだ研究がほとんどなされていない。実証分析の結果,日本企業において,CMOを設置している企業の割合は約8–11%であり,設置率は業種によってばらつきがあった。またCMO設置企業と非設置企業とでは,前者がより規模において大きいことがわかった。また,CMO設置あり・なしは,企業の2年間売上伸張率に正の影響があり,CMO設置は4.7%の売上増収効果をもっていた。また,企業規模が小さな企業ほど,CMO設置あり条件が売上変化率により大きな影響を与えている。文献調査では米国消費財企業においてCMOに代わりCGO(チーフグロースオフィサー)が設置される傾向が2010年代に目立つようになった。CMOへの詳細インタビューを通じて,これらの結果を仮説モデルとしてまとめ,CMO/CGOの設置がどのように企業業績に影響を与えるかを考察した。
著者
安井 由香 大塚 佳代子 田中 順子 覺道 昌樹 田中 昌博
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.52-59, 2021-04-30 (Released:2021-08-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

【目的】ミキサー食のような外形の悪い食形態は,嗜好に影響を及ぼし,食欲減退の原因となることが危惧されている.認知症患者において,食品の嗜好の客観的な判定に視線計測が有効である.本研究では,認知症患者におけるアイトラッキングシステムを用いた無意識下の食品の嗜好と視線との関係を検討した.【対象と方法】対象者は,75歳男性,要介護度2,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)9点であった.原疾患は小脳出血であり,認知症を合併していた.被験食品はぶりの照焼き78 g(あいーと®,イーエヌ大塚製薬株式会社)とした.食形態はやわらか普通食およびミキサー食とした.視線計測には,アイトラッカー(Tobii pro/glasses 2,Tobii 製)を用いてアイトラッキングを行った.アイトラッカー装着後,食品を10 秒間自由に見るよう指示した.各10 秒間計3 回測定を行った.測定終了後,最大10 分として自由に食事をするよう指示した.視線測定は,食事提供時から食べ始める前の10 秒間を測定した.記録ユニットに保存された視線データの解析には,解析ソフトウェア(Tobii Studio Version 4.9,Tobii 製)を用いた.食事終了後,摂取量を測定した.食事摂取量が多いほうを嗜好レベル「高」,食事摂取量が少ないほうを嗜好レベル「低」と設定した.【結果】視線計測の結果,患者はより多く摂取した食品に対して注視点の停留回数が多く,注視点の停留時間も長くなった.そして,やわらか普通食がより多く摂取された.これは,健常成人と同様の傾向であった.【結論】本研究から,認知症高齢者において,嗜好レベルが高い食品に視線が停留していたことが示唆された.