著者
小粥 淳史 八柳 哲 神戸 崇 井上 頌子 荒木 仁志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2216, (Released:2023-09-01)
参考文献数
37

日本に生息する汽水・淡水魚のうち、約4割が環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されており、なかでもタナゴ類の減少は顕著である。その一要因として外来種の影響が挙げられ、国内の溜池に広く見られるオオクチバスやカムルチーによる捕食、タイリクバラタナゴによる競合のほか、産卵母貝の生活史に必須なハゼ類の減少による間接的影響が懸念されている。既存生態系保全のためにはこれら外来種による生物群集への影響を正しく評価し、優先順位に基づく管理を行う必要がある。しかし、外来種の影響を総合的に評価するのは技術的に難しく、研究事例は限られている。そこで本研究では、上記三種の外来魚と在来タナゴ類が生息している秋田県雄物川流域の溜池に注目し、35地点から採集した水サンプルおよび魚類ユニバーサルプライマー MiFishを用いて環境DNAメタバーコーディング解析を行い、外来種が在来タナゴ類、ハゼ類をはじめとする溜池の魚類群集に与える影響を複合的に評価した。その結果、非計量多次元尺度法を用いた群集解析においてはオオクチバスの強い影響が示され、本種のDNAが検出された溜池では平均検出在来種数・Shannon-Wienerの多様度指数が共に約4割も減少するなど、在来群集構造を大きく改変している可能性が示された。またタイリクバラタナゴは在来タナゴ類と同所的に生息し、タイリクバラタナゴDNAの検出地点では在来タナゴ類の平均DNA濃度がタイリクバラタナゴDNA非検出地点平均のわずか2.4%と有意に低い傾向が確認された(p =0.0070)。一方、オオクチバスは在来タナゴとは共存しない傾向があり、オオクチバスとカムルチーのDNA検出地点では有意差はないものの共に在来タナゴ類の平均DNA濃度が低い傾向がみられた(外来種DNA非検出地点平均のそれぞれ6.6%、8.0%)。これらの結果から、オオクチバスは高い捕食圧によって溜池の魚種群集構造全体に大きな影響を与える一方、タイリクバラタナゴは在来タナゴ類と競合することで後者の生物量に強い負の影響を与えている可能性が示唆された。北日本における溜池の既存生態系保全のためにはオオクチバスの迅速な駆除と拡散防止が最優先となる一方、在来タナゴ類が生息する場所ではタイリクバラタナゴやカムルチーの個体数管理も併せて重要となるものと考えられる。
著者
池上 将永 荒木 章子 増山 裕太郎 空間 美智子 佐伯 大輔 奥村 香澄 高橋 雅治
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.223-231, 2020 (Released:2020-10-01)
参考文献数
32

遅延時間に伴う報酬価値の割引を遅延割引と呼ぶ.遅延割引は即時小報酬への選好を予測することから,衝動性の指標とされている.本研究では,ADHD児およびASD児の衝動性を評価するために,児童用遅延割引質問紙を用いてADHD児とASD児の遅延割引率を測定した.また,得られた割引率の妥当性を確認するために,日常場面における自己制御質問紙と割引率の関連性を検討した.自己制御質問紙において即時小報酬を選択した参加児は遅延大報酬を選択した参加児よりも有意に高い割引率を示し,割引率の妥当性が確認された.ADHD群とASD群の割引率に有意な差はみられなかったが,定型発達児で報告されている値よりも大きいことから,ADHD児とASD児は衝動性が高い傾向があると考えられた.ADHD群において割引率は年齢と負の相関を示し,加齢とともに割引率が低下する可能性が示唆された.本研究の結果,ADHD児やASD児の衝動性を評価する際に,割引率が有用な指標となることが示唆された.
著者
谷津 元樹 荒木 健治
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.875-886, 2016-10-15 (Released:2016-11-12)
参考文献数
25
被引用文献数
2

近年,対話システムの普及に伴い,機械が言語的ユーモアを理解する必要性が高まっている.これまでの研究において,駄洒落などの韻文のユーモアを対象に大規模な自然文の集合から検出を試みた例は確認されていない.駄洒落を含む文をブログテキストよりSVMを用いて分類する手法を提案し,有効な素性を調べるため,駄洒落全般の類型別の構成比の標本調査を行った.その結果,文内に音韻的に類似した1形態素およびそれに対応する音素列を有する駄洒落の類型が支配的であることが判明した.このため本論文では,語彙素性に加え,音韻類似度に基づく音韻類似区間の検出ルールを素性としたSupport Vector Machineを用いた分類による検出手法を提案する.検出性能評価実験の結果,提案手法におけるルールベース素性の付加の有効性が確認された.
著者
荒木 裕子 山本 直子 上浦 沙友里 江本 彩乃 丸井 正樹
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.197, 2015 (Released:2015-07-15)

【目的】ネームはタイ北部で生産される伝統的な発酵ソーセージである。その製法は、新鮮な豚肉に食塩、にんにく、唐辛子、糯米飯を入れ常温で数日間発酵させて製造する。ネームは乳酸発酵により、pHが低下し、微生物の増殖が抑制され、完成したネームは適度に酸味があり、生食する人もいる。近年、日本でも製造され、市販品も見られるが、我が国ではネームに関する研究が少なく、安全性の検討もされていない。本研究ではネームを作製し、細菌叢の変化やpHの変化を経時的に調査した。【方法】試験試料として1)ネームパウダー添加区2)ネームパウダー無添加区 3)ネームパウダー、にんにく、唐辛子無添加区の3種のネームを調製した。調製開始から完成までの4日間、24時間毎に採取して実験試料とした。細菌の測定では、一般生菌数、大腸菌群の測定、乳酸菌の測定をおこない、pHの測定も実施した。【結果】ネームパウダー添加区では、ネームパウダーの主成分である無水グルコン酸により、調製後即時にpHの低下が見られ、細菌の増殖も抑制されていた。2)、3)の製法では、発酵1日目では大腸菌群が確認された。しかし、発酵の進行に伴い乳酸菌数が増加し、pHも低下した。それに伴い大腸菌群数が極めて減少した。ネームは製造手法により、発酵中の細菌叢や細菌数に差が見られたが、発酵完了時では全試料でpH低下がみられた。発酵により、ネーム本来の酸味と旨みが生じ、安全性も付加されることが示唆された。
著者
小口 雅史 熊谷 公男 天野 哲也 小嶋 芳孝 小野 裕子 荒木 志伸 鈴木 琢也 笹田 朋孝
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、律令国家最北の支配拠点である秋田城の性格をまず明らかにし、その秋田城による北方支配や北方世界との交流が、具体的にどのようなもので、どこまで及んだのか、またその一方で北方世界内部のみの、秋田城支配と関わらない交流がどのようなものであったかを検討した。それによれば、秋田城の北方支配は意外に限定的で、北の領域では北の論理に基づく主体的な流通が優勢であったことが明らかになった。一方秋田城の性格については、文献史料の解釈からは非国府説、出土文字資料の解釈からは国府説が有利であることを確認した。最終的結論は今後の課題としてなお検討を続けたい。
著者
増田 隆昌 松原 明子 石川 大仁 瀧本 陽介 積 志保子 堀田 拓哉 大滝 尋美 荒木 雄介 渡辺 陽介 大澤 俊彦
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養協会
雑誌
ニュー・ダイエット・セラピー (ISSN:09107258)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.3-11, 2021 (Released:2021-07-01)
参考文献数
18

Pineapple, one of the most popular fruits consumed throughout the world, contains various nutrients and has been reported to have various health effects. Since most of research on the health effects of pineapple has been conducted on Westerners, the effects on Japanese with different intestinal flora and skin type from Westerners are not clear. To exploratively evaluate the health benefits of pineapple intake for the Japanese, a randomized, untreated-controlled, parallel-group clinical trial was conducted. Japanese women tending to get constipate were given 100 g of pineapple per day for 4 weeks, and the intestinal flora, defecation status, skin questionnaire, and blood components were measured before and after ingestion. As a result, effects on changing the intestinal flora, defecation status, and skin condition were observed in the pineapple intake group. These results may lead next study investigating the respective interaction between pineapple intake, intestinal condition and skin condition.
著者
寺口 進 小野 浄治 清沢 功 福渡 康夫 荒木 一晴 小此木 成夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.157-164, 1984-04-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
47
被引用文献数
3 7

ヒト由来のBifidobacterium 5菌種, すなわちB. in-fantis, B. breve, B. bifidum, B. longumおよびB. adolescentisを用い菌体内と菌体外のビタミン産生量を測定した1) 供試したBifidobacteriumのすべての菌株は菌体内にビタミンB1, B2, B6, B12, C, ニコチン酸, 葉酸およびビオチンを蓄積し, 菌体外にはビタミンB6, B12および葉酸を産生した。2) 菌種別ではB. longum, B. breveおよびB. in-fantisが比較的高いビタミン産生能を有していた。とくにB. longumはビタミンB2およびB6, B. breveはニコチン酸, B. infantisはビオチンにおいて高い産生能を示した。3) これらBifidobacteriumの産生するビタミン量は宿主としてのヒトのビタミン所要量と比較しても無視できない量であると考えられる。
著者
小谷 明 荒起 清 荒木 清
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

フィチン酸金属錯体の構造-特性の基本的性質を明らかにし,これまでに全く未解明なフィチン酸金属錯体の持つ特性が生体系でどのように利用されているかを解明した。1.フィチン酸と金属イオンとの相互作用これまでに得た金属錯体の存在種,その安定度定数,さらにその配位構造を説明できる統一的見解を得た。すなわち,生理的条件下では,リン酸間距離の大きなリン酸部位に金属が配位し,残る未配位のリン酸はプロトンがついてリン酸間水素結合により錯体全体が安定化する。2.フィチン酸加水分解酵素フィターゼ酵素活性の金属イオン依存性生理活性発現の源である受容体結合のモデルとして,近年解明されたフィチン酸加水分解酵素フィターゼを用い,各種金属イオン共存下でフィチン酸の加水分解反応速度を調べ,基質認識,反応活性について各種金属イオンの及ぼす役割について統一的見解を見出すことができた。結果的には金属錯体を基質とする酵素反応であることが明らかになり,金属酵素以外の金属基質という新しい世界を切り開くことができた。3.フィチン酸-金属錯体の生理活性フィチン酸ナトリウムを用いた研究から報告されている抗ガン活性について,各種金属錯体について抗ガン活性を調べ,生体内で金属錯体として生理活性が発現されていることを明らかにし,これまでに報告されているフィチン酸ナトリウムの抗ガン活性がカルシウム錯体の可能性が高いことを示した。安定度定数を用いたシミュレーションから生理活性種がCa2(フィチン酸)H3と示唆された。生理活性機構として,細胞内液の銅濃度ESR測定から,フィチン酸金属錯体の膜通過の容易性が示された。本研究で得られたフィチン酸金属錯体の知見は,フィチン酸の医薬品への応用のみならず,環境に無害な特性を有するフィターゼの農業,工業的応用など各種応用への基礎的知見を提供することがと期待される。
著者
荒木田 美香子 豊増 佳子 仲野 宏子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20220411159, (Released:2022-07-12)
参考文献数
11

目的:本論文はコンピュータ支援質的データ分析ソフトウエア(CAQDAS)の使用状況と,使用経験のある研究者の経験を読者に提供することを目的とした。方法:CAQDASを使用した質的研究を医中誌WebとJ-STAGEから抽出し,発行年や研究分野を分析した。さらに,CAQDASの使用年数が異なる2名の研究者が体験談を報告した。結果:2010〜2021年に発行された質的研究からCAQDASを使用した論文を95件抽出した。医学・保健学,教育学,看護学の各15の研究論文がCAQDASを使用しており,「Nvivo」が最も多く使用されていた。2名の研究者は,分析プロセスを記録して保存する機能により解析作業が向上すること,効率的な再分析が可能になり結果の信頼性が向上したと報告した。結論:CAQDASは様々な研究分野で使用されており,質的研究の分析作業の効率と信頼性の向上が期待される。
著者
出淵 巽 藤嶋 範平 荒木 勤 出淵 巽 山本 武藏 菅 四郎 湊 一磨 平賀 譲
出版者
公益社団法人日本船舶海洋工学会
雑誌
造船協會會報 (ISSN:05148499)
巻号頁・発行日
no.55, pp.57-100, 1935-03-25

The effect of fouling upon the resistance of ships was examined by the towing experiments with the ex-destroyer Yudachi at various stages of fouled surface after 4,75,140,225 and 375 days out of dock ; the speeds experimented with were up to 20 knots at each fouled condition. After these experiments the author studied the effect of fouling on the propulsive efficiency applying the above-mentioned results of towing experiments to the trial results of a first-class destroyer. The chief conclusions drawn from these investigations are : (1) Frictional resistance of ships having fouled bottoms can be expressed by the following formula : -R_f=f S V^<2-1>, where R_f=frictional resistance in kg., S=wetted surface area in m^2., V=speed of ship in knots, f=coefficient of frictional resistance which varies with the weight of fouled substances per unit area as shown in Fig.6. (2) Propulsive efficiency is affected scarcely by the bottom fouling.
著者
荒木 萌里 高山 真由美 本村 浩之
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ:日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.56-61, 2020-08-31 (Released:2020-09-03)
参考文献数
19

Two specimens (201.6–205.9 mm standard length) of Hippocampus spinosissimus Weber, 1913 (Gasterosteiformes: Syngnathidae), previously recorded from the Indo-West Pacific from India east to the Philippines, north to Taiwan, and south to northern Australia, were collected at a depth of 20 m off Tanega-shima Island, Osumi Islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan. These specimens, described here in detail, represent the first records from Japan and the northernmost record for the species. A new standard Japanese name “Tamayori-tatsu” is proposed for the species.
著者
池添 冬芽 小林 拓也 中村 雅俊 西下 智 荒木 浩二郎 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,低強度の筋力トレーニングであっても疲労困憊までの最大反復回数で行うと,高強度と同程度の筋力増強・筋肥大効果が得られることが報告されている。しかし,疲労困憊までさせずに最大下の反復回数で低強度トレーニングを実施した場合,高強度と同等の筋力増強・筋肥大効果が得られるかどうか,また筋の質的要因に対しても改善効果が得られるかどうかについては明らかではない。本研究の目的は,健常若年男性を対象に低強度・高反復および高強度・低反復の膝関節伸展筋力トレーニングを8週間実施し,1)低強度・高反復トレーニングは高強度と同程度の筋力増強や筋肥大・筋の質改善効果が得られるのか,2)各項目の経時変化に両トレーニングで違いはみられるのかについて明らかにすることである。【方法】対象は下肢に神経学的・整形外科的疾患の既往のない健常若年男性15名とした。対象者を無作為に低強度・高反復トレーニング群(低強度群)と高強度・低反復トレーニング群(高強度群)に分類した。膝関節伸展筋力トレーニングは筋機能運動評価装置(BIODEX社製System4)を用いて,低強度群では30%1RM,高強度群では80%1RMの強度で週3回,8週間実施した。8回の反復運動を1セットとし,低強度群では12セット,高強度群では3セット実施した。介入前および介入2週ごとに1RM・最大等尺性筋力,超音波測定を行った。1RM・最大等尺性筋力測定には筋機能運動評価装置を用い,膝伸展1RMおよび膝関節70°屈曲位での最大等尺性膝伸展筋力を測定した。超音波診断装置(GEメディカルシステム社製LOGIQ e)を用いて,大腿直筋の筋量の指標として筋厚,筋の質の指標として筋輝度を測定した。なお,筋輝度の増加は筋内の脂肪や結合組織といった非収縮組織の増加を反映している。トレーニングの介入効果を検討するために,各項目について分割プロット分散分析(群×時期)を行い,事後検定にはBonferroni法による多重比較を行った。【結果】分割プロット分散分析の結果,1RM・最大等尺性筋力,筋厚および筋輝度のいずれも時期にのみ主効果がみられ,交互作用はみられなかったことから,いずれの項目も2群間で効果の違いはないことが示された。事後検定の結果,両群ともに1RMおよび最大等尺性筋力はPREと比較して2週目以降で有意な増加がみられた。また両群ともに筋厚はPREと比較して4週目以降で有意に増加し,筋輝度は8週目のみ有意に減少した。【結論】本研究の結果,両トレーニング群ともに筋力増強,筋肥大,筋の質の改善がみられ,その変化の程度や経時変化に違いはみられなかったことから,低強度であっても12セットと反復回数を増やすことによって,高強度3セットのトレーニングと同様の筋力,筋量,筋の質の改善効果が得られることが明らかとなった。
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

&nbsp;戦前の日本の米が国内で自給されていたわけではない。少なからぬ量の米が植民地であった台湾や朝鮮半島から供給され,国内の需要を賄ってきた。その一方で,少なからぬ穀物(米,小麦,粟など)がこれらの地域に輸移入されていた。本発表では朝鮮半島の主要港湾のデータに基づき,これらの主要食用の輸移出入の動向を把握する。これを通じて,戦前期の日本(内地)の食料(米)需要を支えた植民地からの移入米を巡る動向と,1939~1940年にそのような仕組みが破綻したことの背景を明らかにしたい。 <br>&nbsp;第一次大戦と1918年の米騒動を期に,日本は東南アジアに対する米依存を減らし,それにかわって朝鮮半島と台湾に対する依存を高める。円ブロック内での安定的な米自給体系を確立しようとするもので,1920年代から30年代にかけて,朝鮮半島と台湾からの安定した米の供給が実現していた。しかし,1939年の朝鮮半島の干ばつを期にこの食料供給体系は破綻し,再び東南アジアへの依存を高め,戦争に突入していく。以下では朝鮮半島の干ばつまでの時期を取り上げ,朝鮮半島の主要港の食料貿易の状況を把握する。 この時期の貿易総額は1914(大正3)年の97.6百万円から1924(大正13)年には639百万円,1934(昭和9)年には985百万円,1939年(昭和14)年には2,395百万円と大きく拡大する。貿易額の最も多いのが釜山港で期間を通じて全体の15~20%を占める。これに次ぐのが仁川港で,新南浦や群山港,新義州港がそれに続く。また,清津,雄基,羅津の北鮮三港も一定の貿易額を持っている。 <br>&nbsp;釜山:最大の貿易港であるが,1939年の動向の貿易総額734百万円のうち外国貿易額は35百万円,内国貿易が697百万円となり,内地との貿易が中心である。釜山港の移出額260万円のうち米及び籾が46百万円,水産物が14百万円を占め,食料貿易の多くの部分を占める。なお,1926年では輸移出額計124万円のうち玄米と精米で50百万円と,時代をさかのぼると米の比率は大きくなる。1939年の釜山港の移入額では,菓子(4百万円)や生果(8百万円)が大きく,米及び籾と裸麦がそれぞれ3百万円程度となる。1926年(輸移入額104百万円)においても輸移入される食料のうち最大のものは米(主に台湾米)で,5百万円程度にのぼる。これに次ぐのが小麦粉の2百万円,菓子の百万円などである。 <br>仁川:釜山港同様に1939年の総額367百万円のうち外国貿易は67百万円と内地との貿易が主となる。1920年代から1930年代にかけて,米が移出の中心で,1925年の輸移出額64百万円のうち,玄米と精米で47百万円を占め,1933年では同様に43百万円中の28百万円,1939年では106百万円のうち32百万円を占める。なお仕向け先は東京,大阪,名古屋,神戸が中心である。輸移入食料では米及び籾,小麦粉が中心となる。 <br>鎮南浦:平壌の外港となる同港も総額213百万円(1939)のうち,外国貿易は29百万円にとどまる。同年の移出額89百万円のうち玄米と精米で15百万円を占め,主に吉浦(呉)や東京,大阪に仕向けられる。移入では内地からの菓子や小麦,台湾からの切干藷が認められる。 <br>新義州:総額135百万円のうち外国貿易が120百万円を占め,朝鮮半島では外国貿易に特化した港湾である。1926年の主要輸出品は久留米産の綿糸,新義州周辺でとれた木材,朝鮮半島各地からの魚類などで,1939年には金属等,薬剤等,木材が中心となる。いずれも対岸の安東や営口,撫順,大連などに仕向けられる。輸入品は粟が中心で,1926年の輸入総額52百万円中17百万円,1930年には35百万円中,15百万円,1939年には46百万円中12百万円を占める。移出は他と比べて大きくはないが,米及び籾を東京や大阪に仕向けている。 <br>清津:日本海経由で満州と連結する北鮮三港のひとつで,1939年の総額158百万円中35百万円が外国貿易である。1932年の主要移出品は大豆で,移出額7百万円中3百万円を占める。ほかに魚肥や魚油がある。移入品では工業製品のほか小麦粉,米及び籾,輸入品では大豆と粟が中心である。&nbsp;
著者
荒木 哲郎 池原 悟 土橋 潤也 笹島 伸一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.1116-1125, 1997-06-15
被引用文献数
4

べた書きかな文のかな漢字変換精度を向上させるためには,変換の過程で正解を漏らさないように,辞書から,かな文字列に含まれる単語候補をすべて抽出して組み合わせて評価することが必要であるが,文の長さが長くなるにつれて単語候補の組合せの数が増大し解析が困難となる問題がある.従来,べた書きの漢字かな混じり文の場合は,字種の変化点に着目して仮文節境界を決定する方法が提案されているが,この方法は字種が,かな文字に限定されるべた書きかな文には適用できない.かな文の場合も,何らかの方法で仮文節境界を見つけることができれば,解析の困難さの問題は解決できると期待される.本論文では,かな文字列の連鎖確率の変化点に着目した仮文節界の推定法を提案する.具体的には,マルコフ連鎖確率モデルによる仮文節境界の推定法を,(1)文節境界の学習の有無,(2)連鎖確率の変化点の再評価の有無,および(3)マルコフ連鎖確率の適用法の違いの3点に着目して,8通りに分けて評価した.その結果,文節境界を学習したデータを用いて連鎖確率の落ち込む点を抽出し,その点に文節境界の存在を仮定して再評価する方法が最も優れていること,また,その際,マルコフ連鎖確率は前方向,後方向を組み合わせて使用するのが良いことが分かった.この方法によって推定された仮文節境界の精度は,適合率94.0%,再現率76.8%で,従来,漢字かな混じり文の解析で使用されている仮文節境界推定法(字種の変化点に着目する方法)の精度よりも良ことから,提案したマルコフ連鎖確率モデルの方法はべた書きかな文の解析に有効と判断できる.In order to improve the precision to translate from the non-segmented "Kana" sentences into "Kanji-Kana" sentences,it is necessary to examine all of the word candidates extracted from the dictionary for the sentence.However,the amount of computer memories required for the translating processing explodes in many times,because the number of the combinations of candidated for "Kanji-Kana" words grows rapidly in propotion to the length of the sentence.The memory explosion can be prevented if a sentence is separated into "bunsetsu".Therefore,a method to correctly find the boundaries of bunsetsu are considered to be a key technique to improve the precision of "Kana"-"Kanji" translation.However,the useful method to find them are not known yet.This paper proposes a new method of finding provisional boundaries of "bunsetsu" for non-segmented "Kana" sentences using 2nd-order Markov model."Precision factor" and "Recall factor" for provisional boundaries of "bunsetsu" determined by this method,were experimentally evaluated using the statistical data for 70 issues of a daily Japanese newspaper.
著者
増田 隆昌 泉 仁美 石川 大仁 瀧本 陽介 積 志保子 堀田 拓哉 大滝 尋美 荒木 雄介 渡辺 陽介 大澤 俊彦
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養協会
雑誌
ニュー・ダイエット・セラピー (ISSN:09107258)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.3-10, 2021 (Released:2022-01-01)
参考文献数
15

To prevent hypertension, which can cause various diseases, it is important to improve lifestyle habits such as eating habits. Bananas are rich in GABA, which has been reported to have hypotensive and stress-relieving effects. To evaluate the effects of long-term banana intake on blood pressure, defecation, and mental state, a randomized, parallel-group clinical trial was conducted. 78 Japanese with high blood pressure took either of the two bananas with different GABA contents for 4 weeks or did not take bananas. As a result, systolic blood pressure was significantly lower in both banana intake groups after ingestion compared with before ingestion. In addition, the number of bowel movements, the number of days of bowel movements, and the amount of bowel movements significantly increased. Significant improvements in the subjective questionnaires "fatigue" and "tension" were also observed. These results suggest that banana intake may have the effect of lowering blood pressure, promoting defecation, and improving mental state.