著者
佐藤 寛子 羽山 伸一 高橋 公正
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.81-86, 2007 (Released:2018-05-04)
参考文献数
22

ダイオキシン類は,実験動物あるいは野生生物が暴露した場合,甲状腺の機能や形態に影響を及ぼす。今回我々は野生ニホンザル(Macaca fuscata)の甲状腺におけるダイオキシン類の影響について報告する。野生サルはヒトの居住地の周辺で生活しており,生物分類学的にヒトに最も近い動物種である。野生サルの脂肪組織,肝臓,骨格筋からダイオキシン類(PCDDs,PCDFs,Co-PCBs)の残留濃度を分析した。また,甲状腺については病理組織学的に検索し,画像解析を用いて濾胞上皮細胞の肥大を定量的に評価した。PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの残留濃度はいずれも0.2〜26pgTEQ/g-fatの範囲だった。病理組織学的検索において,TEQに関連した甲状腺の変化は認められなかった。さらに,濾胞の数や濾胞上皮細胞の大きさにもTEQに関連した変化は認められなかった。このように,野生ニホンザルは自然環境からダイオキシン類に暴露されてはいたが,検出されたレベルでは甲状腺の機能や形態に影響を及ぼさなかったと考えられた。
著者
佐久間 絢 上田 朝美 池田 敏明 玉井 謙次 高橋 宏行 佐藤 智行
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.323-327, 2022-07-15 (Released:2022-08-27)
参考文献数
12

心臓外科手術の術中・術後に急性硬膜下血腫を発症した3症例を経験した.発症要因として,既報で論じられているヘパリン化や凝固能異常,マンニトールによる脳容積減少に加えて,術中の手技も発症の一要因としてなり得たのではないかと考察した.今回経験した1症例では,術中のBIS値の急激な低下が早期診断の一助となったが,心臓外科手術後の脳神経障害は,術中や術後の鎮静薬,鎮痛薬の影響で早期発見が困難である場合が多い.人工心肺を用いた心臓外科手術では特に高齢者において急性硬膜下血腫が発症し得ることを念頭に置き,術中に頭部に加わる外力を最小限にすることや,術後に定期的な中枢神経評価を行うことが重要である.
著者
高橋 阿貴
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.147-162, 2012 (Released:2013-01-28)
参考文献数
68

This review is an introduction to a recently developed technology “optogenetics” that allows researchers to directly manipulate the activity of aimed neurons with millisecond (ms) order in a behaving animal. Two types of microbial opsin, channel rhodopsin 2 (ChR2) and halorhodopsin (NpHR), are commonly used as the tools for optogenetics. ChR2 responds to blue light to induce neuronal firing via cation influx, whereas NpHR responds to yellow light to inhibit neuronal activity via Cl- influx. This review first introduces these and other opsins that have been used for optogenetics. Next, three methods to introduce these foreign genes into mouse nervous system are going to be explained: 1) viral infection, 2) in utero electrophoresis, and 3) transgenic mouse. Then, this review illustrates how neuron-type specific expression of the opsin gene can be achieved, and also how the optic stimulation of opsins that expresses in the deep brain structure can be accomplished. Finally, how the optogenetic technique has been used for behavioral neuroscience will be discussed by focusing on the studies about amygdala microcircuit that mediates conditioned fear.
著者
西條 文人 武藤 満完 栗原 誠 山田 佳緒里 安倍 淑子 高橋 賢一 澤田 健太郎 徳村 弘実
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.107-113, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

【背景と目的】末梢挿入型中心静脈カテーテルは,穿刺時に伴う致命的合併症およびカテーテル感染が少ないとされるが,血栓症閉塞,事故抜去,静脈炎などの留置後合併症を認める.一方,無縫合固定具はこれらカテーテル留置後の合併症を軽減できる報告がある.無縫合で固定可能なSorbaView® SHIELD によるカテーテル留置後の合併症について,本邦における検討報告はない.【対象と方法】2011 年1 月から2013 年3 月に留置されたPICC 症例421 例を対象とした.縫合固定した2011 年1 月から9 月の94 例(縫合群)とSorbaView® SHIELD で固定した2011 年10 月から2013 年3 月の327 例(Sorba群)をカテーテル留置後の合併症について比較検討した.【結果】カテーテル閉塞までの留置期間において,Sorba 群は有意に長かった.その他の合併症に関しては統計的有意差を認めなかった.【結語】SorbaView® SHIELD はカテーテル閉塞までの留置期間を延長させた.
著者
高橋 元彦 丹 美香 木村 知史 池野 宏
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.22-29, 2008-03-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
12

現代社会では, 多くの人が身体的, 精神的ストレスを感じている。ストレスの増加は交感神経の過剰な亢進をもたらすことから, 自律神経機能のバランスを崩しやすい状態にあると考えられる。このような状態は, 白血球分画の顆粒球の増加など生体防御機能にも影響を及ぼし, 生体においてさまざまな悪影響を生じせしめる可能性が高まることが安保らによって報告されている。一方, ニキビ病態においては, Propionibacterium acnesは炎症性誘発物質である好中球走化性因子を産生し, 毛胞に集積した好中球が活性酸素を放出し炎症反応が惹起されることなど好中球のニキビ病態への関与が報告されている。そこで, われわれはストレスによる好中球の増加あるいはリンパ球の減少によって, ニキビの発症しやすい状態あるいは悪化しやすい状態となるのではないかと考え, ニキビ患者群と健常者群における「ニキビができやすい状況」「生活習慣」「ストレス度」といったニキビとストレスとの関連性にかかわる意識調査および顆粒球の大部分を占める好中球, およびリンパ球の白血球中における割合を比較し, ストレスとニキビとの関連性について検討した。さらに, 好中球の増加は好中球由来の活性酸素の増加を招き, 血液の酸化度を上昇させるのではないかと考え検討を加え, フリーラジカル測定システムFRAS4を用いて, 酸化指標として抗酸化力 (BAP) および酸化ストレス度 (d-ROM) を測定した。意識調査からニキビ患者群は心身に負荷を感じたときに, ニキビを発症しやすいと感じていること, 生活習慣においても「不良」に分類される割合が健常者群より高いことが明らかとなった。また, 白血球分析からは, ニキビ患者群は健常者群に比べて好中球の割合が高くリンパ球が低かった。さらにニキビ患者群では, ストレスが多くないと感じている被験者に比べ, 多いと感じている被験者の方が好中球の割合が有意に高いことがわかった。血液酸化指標についても, ニキビ患者群で有意に抗酸化力が低下していることが見出された。以上の結果より, ニキビ患者はさまざまな負荷に対して多くのストレスを感じやすく, ストレスが炎症性の反応にかかわる好中球の増加を招き, 好中球由来の活性酸素を増加させることにより生体内の酸化を促進し, ニキビを悪化させている可能性が示唆された。
著者
河田 祥吾 岡田 唯男 高橋 亮太 鵜飼 万実子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.116-127, 2021-09-20 (Released:2021-09-22)
参考文献数
42
被引用文献数
2

メンタルヘルスをプライマリ・ケアへ統合することは,適切なケア,アウトカム改善,資源の適正利用などへ貢献し,世界的な潮流である.諸外国においては,プライマリ・ケアでのメンタルヘルス教育の開発がされてきたが,日本において家庭医への体系的な教育は十分でない.本稿では,家庭医養成で求められるメンタルヘルスのcompetencyを明らかとすることを目的にscoping reviewを行い,諸外国の教育カリキュラムなどをthematic analysisを用いて分析した.抽出されたcompetencyは,「プライマリ・ケアの一般的能力」「プライマリ・ケアにおけるメンタルヘルスの一般的能力」「プライマリ・ケアにおけるメンタルヘルスの特異的能力」に大別される包括的なものであった.本稿のデータを基に,日本の現状を踏まえたcompetency list作成やモデルカリキュラムの策定などが求められる.
著者
高橋 秀実
出版者
日本医科大学医学会
雑誌
Journal of Nippon Medical School (ISSN:13454676)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.410-414, 2002 (Released:2002-10-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
高橋 優基 前田 剛伸 嘉戸 直樹
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-66, 2022 (Released:2022-12-23)
参考文献数
17

In clinical practice, muscle weakness is often considered a functional disability similar to limitation of range of motion. We physical therapists use manual muscle testing (MMT) described by Daniels et al. for the general assessment of muscle weakness. This test quantitatively assesses muscle strength by the amount of joint movement, muscle contraction, and the effect of gravity and resistance. However, it is not possible to evaluate the strength of individual muscles involved in a single joint movement, or to separate a single muscle into fibers with different actions. In other words, it is difficult to narrow down the individual muscles and muscle fibers that are weak using MMT results. In this paper, we examine the possibility of evaluating muscle weakness using MMT for knee extension, and hip abduction by changing some of the test positions and the direction of manual resistance based on kinematics. Each of these proposed test positions is presented based on electromyogram data.
著者
河野 俊彦 高橋 正人 立木 幸敏
出版者
国際武道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

先行研究や我々の調査では、蛋白同化ステロイドホルモン(以下AAS)を利用するスポーツマンか存在していると予想される。しかしながら、その副作用についての詳しい報告、特に血液生化学的、内分泌学的、病理組織学的検索を総合的に行われたものはあまり見あたらない。我々はアンチドーピングの精神に基づき、動物実験系を用いて、現在Dopingとして行われている使用方伝(スタッキング、ステロイドサイクル)を取り入れ実験を行った。その結果、血液生化学的検索では薬物投与群に赤血球数などが高値を示した。また内分泌学的検査では薬物投与群でテストステロン、ジヒドロテストステロン、エストラジオールか高値を示した。病理学的検索では心臓、精巣および副腎に変性が観察された。さらにAAS投与ラットにジャンプトレーニングなどの運動を行わせた実験では、AAS投与による副作用は同様に起こることが確認され、さらに赤血球の増加、心臓の肥大、GOT、LDHの上昇などの副作用が運動によって助長され、より強く現れることが確認された。ステロイドサイクル1サイクルのピーク時と比較して、休薬時にも薬物投与群の内分泌学的変化は継続しているものと考えられる。AASの注射薬としての半減期に依存するものであるが生体への影響は長期間続くものと考えられる。また心臓をはじめとした臓器にみられた変性がこれを裏付けているものと考えられる。よってスポーツの現場で競技力向上を目的に安易にAASを使用することは不公正の点ばかりではなく副作用の点でも避けるべきであるといえよう。
著者
高橋 茂
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1_32-1_35, 2009 (Released:2012-03-27)
参考文献数
9
被引用文献数
3 1
著者
高橋 淳
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.127-132, 2015-03-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
18

主要茶産地の中で北に位置する埼玉県の茶は狭山茶と呼ばれ,経済的な北限とされている.埼玉県は茶樹にとって寒さが厳しいため,耐寒性を有した品種育成を行っている.最近,桜葉のような香気(桜葉様香気)を有している「おくはるか」を育成した.この桜葉様香気は,茶に携わる者だけでなく,消費者も感じることができる香気である.この他に,モクセイ様の甘い香気を有した「ゆめわかば」や品種特有のふくよかな香気がある「ふくみどり」,すっきりとした爽やかな香気が特徴である「むさしかおり」など香気に特徴ある品種がある.
著者
高橋 力也
出版者
早稲田大学アジア太平洋研究センター
雑誌
アジア太平洋討究 (ISSN:1347149X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.193-215, 2021-10-30 (Released:2022-03-08)

This article aims at investigating the significance of the draft provisions on piracy, commonly known as “Matsuda Draft,” submitted by Michikazu Matsuda, a Japanese lawyer-diplomat, to the League of Nations Committee of Experts in 1927, by examining the historic and legal background of the draft and Matsuda’s views on international law.The Committee of Experts was established by the League in 1924 and consisted of international lawyers from various countries to select topics of international law to be codified. Matsuda Draft, together with the so-called Harvard Draft, is widely known among current scholars as an important precedent of the formulation of the concept of piracy in international law. However, it is still unclear how the draft was drawn up and what kind of historical significance it has for the relationship between Japan and international law in the interwar period. This study compares the original text, which was initially submitted by Matsuda to the Committee, with the final draft, and then clarifies the background to the drafting of this document and its historical significance.Matsuda Draft was the first official attempt to formulate a definition of piracy. What is more important from the perspective of the history of Japan’s relationship with international law is that a Japanese international lawyer prepared a report on piracy, consolidated the various opinions expressed on it by the experts in the Committee, and reflected them into a draft treaty. This fact provides a basis to reconsider the conventional view that prewar Japan was reluctant or negative about the development of international law.
著者
高井 範子 藤田 信子 池田 耕二 金子 基史 丸山 伸廣 中原 理 三木 健司 高橋 紀代 仙波 恵美子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.45-58, 2022 (Released:2022-02-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

〔目的〕新たに考案した3週間入院運動プログラムによる介入前後の線維筋痛症(FM)患者の心身の変化を調査し,理学療法士(PT)の適切な対応を明らかにすることである.〔対象と方法〕FM女性患者12名を対象とし,医療や心理学などの専門家による共同チームが考案した3週間入院運動プログラムによる介入を行い,その前後において質問票(日本語版線維筋痛症質問票(JFIQ),日本版ベック抑うつ質問票(BDI-Ⅱ),The 8-item Short-Form Health Survey (SF-8))による評価と心理面談による聴き取りを行った.〔結果〕本プログラムによりFM患者のJFIQでは11名,BDI-Ⅱでは10名,SF-8では9名(身体面),8名(精神面)が改善を示した.患者の語りからは,患者の痛みや辛さに寄り添う姿勢など,PTの対応が患者にとり重要であることが示唆された.〔結語〕本プログラムはFM患者の心身に変化を及ぼす効果があり,その遂行において患者の痛みや辛さに寄り添うPTの姿勢が重要である.