著者
佐藤 恵美 坂井 博之 高橋 英俊 山本 明美 橋本 喜夫 飯塚 一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.876-879, 2001-10-01

72歳,女性.57歳,64歳時に不明熱で入院歴がある.インフルエンザワクチン接種の約2週間後に40℃台の発熱,咽頭痛,多関節痛,全身の筋肉痛が出現し,好中球優位の白血球増多,脾腫,肝機能異常,血清フェリチン値の上昇を認めた.皮疹は発熱とともに消長する一過性紅斑と汗疹様の持続性丘疹で,成人Still病と診断した.発症時から約1か月後のB型インフルエンザウイルスの抗体価は4,096倍と著増しており,発症にワクチン接種の関与を推定した.抗体価は半年後も高値が持続し,本症の病因が感染症に基づく個体側の過敏反応であることを示唆する所見と思われた.
著者
山岸 俊男 山岸 みどり 高橋 伸幸 林 直保子 渡部 幹
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.23-34, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
24
被引用文献数
10 12

人間性の善良さに対する信念として定義される, 他者一般に対する信頼である一般的信頼と, コミットメント関係にある特定の相手が, その関係の中で自分に対して不利な行動を取らないだろうという期待として定義される個別的信頼との間で, 理論的区別が行われた。社会的不確実性に直面した場合, 一般的信頼が低い人々は, そこでの不確実性を低減するためにコミットメント関係を形成する傾向が強いだろうという理論に基づき, 売手と買手との関係をシミュレートした実験を行った。実験の結果, 社会的不確実性と被験者の一般的信頼の水準が (a) 特定の売手と買手との間のコミットメント形成および (b) 個別的信頼に対して持つ効果についての, 以下の仮説が支持された。第1に, 社会的不確実性はコミットメント形成を促進した。第2に, コミットメント形成はパートナー間の個別的信頼を促進した。第3に, 上の2つの結果として, 社会的不確実性は集団内での個別的信頼の全体的水準を高める効果を持った。第4に, 人間性の善良さに対する信念として定義される一般的信頼は, コミットメント形成を妨げる効果を持った。ただし, 第2と第4の結果から予測される第5の仮説は支持されなかった。すなわち, 一般的信頼は個別的信頼を押し下げる効果は持たなかった。
著者
松本 勉 大石 和臣 高橋 芳夫
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.799-809, 2008-07-15

通常はコピーできないビデオをコピーするようにプレイヤを改造することを困難にする,ICカード電子マネーを打出の小槌に変えさせないようにするといった耐タンパー技術は,システム実装に絡むセキュリティ技術であり,その内容が非公表であることが多く実態を掴みづらい.しかし,よりセキュアなシステムの構築を目指す立場からは耐タンパー技術に関して体系的な視点を持つことが重要である.本稿ではパソコン用のセキュリティチップTPMや組込みシステムに対して公表された最近の攻撃事例や研究成果を手掛かりとして,耐タンパー技術の現状と課題を探る.
著者
久保田 修 落合 巧 小川 祐子 横山 明子 長尾 住代 松下 重子 高橋 芳子 今坂 純奈 木部 美帆子 野中 佳子 村松 富子 佐藤 五夫
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.626-632, 2010 (Released:2013-07-31)
参考文献数
19
被引用文献数
2

目的:適切なBMIを維持する事が健康長寿にとって重要であるので,どのような生活習慣がBMIに関連するのかを明らかにする.方法:当院健診センターを受診した6,826人を対象とし,生活習慣に関する質問事項と計測したBMIの関連性について統計学的に比較検討した.結果:年代別BMIの分布では男性では30~50代の中年層で高く,女性では20代と30代の若年層で低い傾向がみられた.男女とも食べる速度が速い群と遅い夕食を摂る群でBMI高値であったが,運動習慣や睡眠の満足度との関連性は認めなかった.男性では夕食後に間食がある群と3合以上飲酒する群でBMIが高く,喫煙者,日常生活での身体活動がある群,歩行速度が速い群,毎日飲酒する群で低値であった.女性では朝食を抜く習慣がある群でBMIが高値であった.結論:保健指導においては,禁煙,運動,適度な飲酒などはもちろんのこと,ゆっくり食べることと遅い時間に食事を摂らないことを指導することが特に重要である.
著者
柴田 陽一 三村 昌弘 高橋 健太 中村 逸一 曽我 正和 西垣 正勝
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.1833-1844, 2004-08-15
被引用文献数
3

公開鍵基盤(PKI)における秘密鍵は通常,ユーザが所有しているデバイスに保存されることになる.よって,デバイスの耐タンパ性の確保や盗難・紛失などに対して注意を払わなければならない.そこで本論文では,秘密鍵そのものではなく,秘密鍵を生成するメカニズムのみをデバイスに実装する「メカニズムベースPKI」を提案する.本方式では,ユーザが文章に署名を付す瞬間に,ユーザがデバイスに秘密鍵の種を入力することにより,デバイス内で秘密鍵を生成する.普段はデバイス内に秘密鍵は存在せず,デバイスの盗難・紛失の際にも問題はない.秘密鍵の種には様々な候補が考えられるが,ここでは一例として指紋を使用する方法について示す.しかし,指紋はアナログデータであり,指紋からつねに一意の秘密鍵をリアルタイムで生成することは困難であった.本論文では統計学的なアプローチによりこの問題を解決する「統計的AD変換」についてもあわせて提案する.基礎実験の結果,統計的AD変換によって指紋からつねに一意なユニークコードをリアルタイムで抽出可能であることが確かめられた.This paper proposes a "mechanism-based PKI", in which only a mechanism for generating user's private keys is installed on a smart card. The private key is generated inside the smart card at the event that the legitimate user gives a "seed of private key" to his/her smart card in order to sign a document. The key exists nowhere except while users are signing a document. Thus, users no longer need to pay considerable attention to their smart cards. In addition, this paper also proposes a "statistical A/D conversion", which is an effective scheme to convert fingerprint to just one and the same ID in real-time. The statistical A/D conversion enables us to use fingerprint as a seed of private key. We construct an example system for real-time key generation form fingerprint. From some basic experiments that we carried out, the availability of the system is confirmed.
著者
南 武志 河野 摩耶 古川 登 高橋 和也 武内 章記 今津 節生
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
地球化学 (ISSN:03864073)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.237-243, 2013-12-31 (Released:2017-02-24)

Vermilion was collected from powerful people's mounds of places of Japan Sea coast depending on the period from the decline of the Yayoi to Kofun and was measured sulfur isotope ratio (δ34S value), and compared the value obtained from cinnabar ores of three Japanese mines, Niu, Yamato-suigin, and Sui, and two Chinese mines, Wanshan and Xunyang, which were selected from old records. The vermilion of the late Yayoi period, the 1st to 2nd century A.D., was from China, and the vermilion of the early Kofun period, from the late 3rd century A.D., was from Japan. During the late Yayoi and early Kofun periods, the 3rd century A.D., the vermilion showed the middle of the shift of Japanese cinnabar. It is concluded that the measurement of sulfur isotope of vermilion is an effective method for the determination of original sources of vermilion.
著者
鈴木 啓生 大浦 一雅 山原 可奈子 金 正門 田口 啓太 高橋 海 高橋 健太 岩岡 和博 前田 哲也
出版者
岩手医学会
雑誌
岩手医学雑誌 (ISSN:00213284)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.191-204, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
50

パーキンソン病における骨粗鬆症は骨折のリスクのため予防が重要である.骨代謝は性別,年齢,栄養状態や活動度に影響される.パーキンソン病は運動障害が主徴であり,これらを一致させた上で比較が必要だが,同様の検討はない.本研究は慢性期脳血管障害を疾患対照とし,骨密度と骨代謝マーカーを用いて病態を検討した.両群50例を前向きに登録した.パーキンソン病は骨密度低値,酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ高値,血清総ホモシステイン高値,活性型ビタミンD低値であった.骨粗鬆症を有する両群間比較ではパーキンソン病は活性型ビタミンD低値であった.パーキンソン病で骨粗鬆症を有する群はない群より女性が多く,body mass index低値,臨床重症度高値,1型コラーゲン架橋N-テロペプチドと酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ高値であった.パーキンソン病の骨粗鬆症の病態には一般的リスクに加え骨吸収亢進とビタミンD関連骨形成不全,パーキンソン病自体の重症度の関与が示唆された.
著者
永井 正勝 和氣 愛仁 高橋 洋成
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:21888957)
巻号頁・発行日
vol.2019-CH-119, no.14, pp.1-7, 2019-02-09

一般言語学的なスタンスで様々な時代や地域の言語を統一的に扱おうとした場合に,どのような言語学的データの整理の仕方が必要なのかという観点は,データベース構築の際のプラクティカルな問題であると同時に,その整理行為そのものが,言語のあり方を記述する記述言語学の一形態としての価値を有する.本発表では,このような問題意識のもと,文字の直線的な羅列のみを見ていても言語構造が見え難いような文字資料をも対象としつつ,文字資料が持つ情報の,何を,どのように,整理 ・ 構造化して,それらを情報処理に結びつけていくべきなのか,という点について言語学の立場から提案を行う.
著者
椿本 弥生 高橋 薫 北村 智 大辻 雄介 鈴木 久 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.255-267, 2013-11-20 (Released:2016-08-10)

日本語母語話者の高校生を対象に,日本語で産出した小論文をグループで協同推敲できるシステム「Re:(アール・イー)」を開発した.推敲の観点として内容・構成・言語使用の3つを設定した.グループの構成員が得意とする観点がそれぞれ異なる実験群と,得意とする観点が統一された統制群とで,システム使用前後の小論文の得点を比較した.その結果,全体的評定値については,実験群のシステム使用後で有意に得点が高かった.さらに分析的評定値では,論拠の質などの小論文の質に深く関わる評価項目について実験群のほうが統制群よりも有意に得点が高かった.プレとポストの得点差において,統制群よりも実験群のほうが,各グループで一定に近かった.このことから,提案するグループ編成方法がより多くの学習者に一定の学習効果を保証できる可能性が示唆された.
著者
高橋 寿光
出版者
一般社団法人 日本オリエント学会
雑誌
オリエント (ISSN:00305219)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.184-195, 2018-03-31 (Released:2021-04-01)
参考文献数
27

This paper aims to examine the pottery dating to the reign of Amenhotep III in a layer of limestone chips which had accumulated above the tomb of Userhat, Overseer of King’s Private Apartment under Amenhotep III, at al-Khokha area in the Theban necropolis, Egypt, in order to understand how the pottery was used at the tomb. The chisel marks on the limestone suggest that the layer of limestone chips above the tomb of Userhat had been deposited as debris from the tomb construction. Furthermore, the location and direction of the layers show that the limestone chips originated from surrounding tombs constructions, the most probably from the tomb of Userhat. Therefore, the pottery from this layer is assumed to be related to the tomb construction activities. The pottery vessels from the limestone chips layer are classified into two groups: the vessels associated with the actual construction of the tomb, such as plaster containers and lamps, and the vessels related to the tomb construction rituals, such as red slipped lids and dishes, white washed bowls with burned traces and a blue painted pottery jar. It has been generally recognized that the ritual pottery vessels from tombs were used in funerary rituals or in cults carried out subsequently at the tomb. However, the pottery above the tomb of Userhat is related to the tomb construction activities, hence, it seems that those pottery vessels were used in the tomb construction rituals. Little is known about tomb construction rituals at private tombs so far, and the study of pottery above the tomb of Userhat has revealed new possibilities of tomb construction rituals.
著者
植松 康祐 高橋 泰代 ウエマツ コウユウ タカハシ ヤスヨ Koyu Uematsu Takahashi Yasuyo
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.1-12, 2017-03-31

The mass media and people related to education have argued about the results of the Japanese national survey of academic performance which the Ministry of Education, Culture, Sports, Science, and Technology administered; paying attention to the low scores in Osaka prefecture. This paper, does not discuss countermeasures by prefectures, but analyzes the available quantitative data. By using multi regression analysis when letting academic performance be an objective variable, we find some effective explanatory variables. Also by factor analysis with factor loading amount, we can clarify the position of each prefecture and reveal the factors that affect the scores of students. We believe that this research can enable our compulsory education system to achieve higher scores in future.
著者
高橋 遼平 タカハシ リョウヘイ Ryohei TAKAHASHI
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2012-09-28

現在の琉球列島の食文化に家畜ブタは必要不可欠な存在だが、その起源は不明瞭である。文献史実では琉球列島への最古の家畜ブタ導入は14世紀頃とされ、それ以前は琉球列島に固有の野生イノシシであるリュウキュウイノシシが狩猟されていたと考えられてきた。しかし近年では琉球列島や周辺地域を対象とした考古学・動物考古学研究から、12世紀以前の先史時代にイノシシ・もしくは家畜ブタ(以下Sus属と省略)が外部諸地域から導入されていた可能性が指摘されている。本論文では先史時代の琉球列島へ外部地域からSus属が導入された時期や地域・経路を解明するため、琉球列島の現生及び先史時代遺跡から出土したSus属の歯や骨を用いて形態解析とancient DNA (aDNA) 解析を行った。本論文は全6章から構成される。第1章では家畜ブタや様々な家畜動物の起源や拡散に関する動物考古学研究や分子系統学研究を概観した。また本章では琉球列島の形成史や先史時代文化に関する研究も概観した。第2章には解析に使用した遺跡資料と現生資料、そして解析手法を記載した。琉球列島は地質学・考古学的に北部圏、中部圏、南部圏の3つに区分される。本論文ではこれらのうち中部圏と南部圏の先史時代遺跡から出土した資料を解析した。さらに本論文では現生リュウキュウイノシシの遺伝的変異の程度を確認するため、現生個体のmtDNA D-loop領域を解析した。第3章では沖縄本島の野国貝塚群(約7200 - 4400年前)を含む中部圏の遺跡から出土したSus属の歯や骨を用いて形態・aDNA解析を行った。野国貝塚群から出土した下顎第三臼歯 (M3) の計測値を現生リュウキュウイノシシや沖縄諸島の他の遺跡資料(約4800 - 1400年前)と比較した結果、野国貝塚群から出土したSus属のM3のサイズ分布は、現生リュウキュウイノシシや他の遺跡資料とは異なり小さい事が判明した。また野国貝塚群から出土した下顎骨から得られたmtDNA D-loop領域の塩基配列情報をデータベースから取得した世界のSus属と比較した結果、野国貝塚群から現生リュウキュウイノシシと遺伝的に異なる系統に属するSus属の配列タイプを検出した。第4章では琉球列島南部圏に属する石垣島の大田原遺跡(約4100 - 3800年前)と神田貝塚(約1600 - 900年前)、宮古島のアラフ遺跡(約2800 - 800年前)と長墓遺跡(約1900 - 1400年前)から出土したSus属の骨を用いてaDNA解析を実施した。この結果石垣島の遺跡から出土したSus属は全て現生リュウキュウイノシシと遺伝的に近縁であった。一方宮古島のアラフ遺跡と長墓遺跡からは、現生リュウキュウイノシシと遺伝的に異なる系統に属する個体が検出された。第5章では現生リュウキュウイノシシの遺伝的変異の程度を検討した。リュウキュウイノシシの生息する全7島のうち6島由来の113個体を用いたmtDNA解析の結果、これらは全て遺伝的に近縁であり、他のアジアのSus属系統と近縁な配列タイプは現生集団から検出されなかった。第6章では研究結果をまとめ、先史時代の琉球列島を舞台としたSus属の導入について考察した。琉球列島中部圏では約7200 - 4400年前、南部圏でも約2000年前に琉球列島の野生イノシシであるリュウキュウイノシシとは形態・遺伝的に異なる特徴を持つSus属が存在した事が判明した。この結果から1) 先史時代の琉球列島には遺伝的に異なる野生イノシシが複数系統存在した、2) 先史時代の琉球列島へ人類が近隣地域からSus属を導入していた、という2仮説が考えられた。しかし仮説1で示すように先史時代の琉球列島に複数の野生イノシシ系統が混在していた場合、a) 現在は生息地域ごとに異なるイノシシ系統が生き残っている可能性が高いが、113個体の現生リュウキュウイノシシを解析しても遺伝的に異なる系統は確認されなかった。b) また複数のイノシシ系統は、アジア大陸と琉球列島が地続きであった可能性のある約8万年前より古い時期に渡来し、遺跡が形成された時期まで多型を維持していた事になる。しかしシミュレーションによる推定の結果、複数のイノシシ系統がどちらか1系統に固定する事なく約7万5000年間維持される確率は低い(1%以下)。従って本研究では琉球列島にかつて複数系統の野生イノシシがいたという仮説1は支持されなかった。以上の結果から本研究では、先史時代の琉球列島やその周辺地域でSus属を伴う人類の移動が生じていたという仮説2が支持された。野国貝塚群が属する琉球列島中部圏とアラフ遺跡や長墓遺跡が属する南部圏の間では物質文化交流が12世紀頃まで生じていなかったとされるため、中部圏と南部圏では異なるSus属の導入経路があったと考えられる。先史時代の琉球列島中部圏は考古学的に九州との交流が指摘されている。しかし野国貝塚群から出土したSus属は、九州等のニホンイノシシやアジア大陸の野生イノシシよりも小さいM3を持つうえ、リュウキュウイノシシよりもさらに小型であるため、これらの地域の野生イノシシが直接導入されたとは考えにくい。野国貝塚群のSus属は、家畜化の影響を受けて M3が矮小化していた可能性も考えられる。アラフ遺跡や長墓遺跡が属する琉球列島南部圏の先史時代文化は、フィリピンやミクロネシア等を含む海外諸地域に影響されていた可能性がある。島嶼部東南アジアやオセアニアでは、約3300年前以降に人類が家畜ブタを伴って移動や交流をしていた事が知られているため、琉球列島南部圏のSus属の導入はこれらの先史時代人類の移動や交流による可能性も考えられる。 本論文では先史時代の琉球列島に複数のSus属の導入経路が存在した可能性を示した。また本研究成果は先史時代の東アジアや東南アジア、オセアニアにおけるSus属を伴う人類の移動や交流に琉球列島が含まれていた可能性をも示している。 Although domestic pigs play an important role in traditional food resources in the Ryukyu Islands, southern Japan, the origin of domestic pigs in the Ryukyu Islands is not clear yet. From historical evidence, the oldest date for the introduction of domestic pigs to the Ryukyu Islands was in the 14th century AD. It has been believed that there were no domestic pigs in Ryukyu before this introduction (earlier than 14th century AD), rather people hunted Ryukyu wild boar, one of the subspecies of wild boar that inhabits the Ryukyu Islands. Recent archaeological and zooarchaeological studies in the Ryukyu Islands and surrounding areas, however, suggest that there is a possibility that wild boar or domestic pigs (Sus) may have been introduced to the Ryukyu Islands in the prehistoric times, which is earlier than the 12th century AD according to archaeological chronology. In this thesis, I analyzed tooth samples and ancient DNA (aDNA) derived from bone of Sus excavated from prehistoric sites in the Ryukyu Islands as well as the modern Ryukyu wild boar samples, and investigated morphologically and molecular phylogenetically whether external introduction of Sus into the Ryukyu Islands took place during prehistoric times.This thesis consists of six chapters.Chapter one describes previous archaeological and molecular phylogenetic studies concerning the origin and dispersal over the world of various domestic animals including domestic pigs. In this chapter, I also reviewed previous studies on the formation of the Ryukyu Islands as well as prehistoric culture of the Ryukyu.Chapter two describes archaeological and modern samples, and methods of analyses used in this thesis. Based on geological and archaeological knowledge, the Ryukyu Islands can be divided into three cultural regions, North, Central, and South regions. Of these three cultural regions, for the following analyses, I used archaeological samples from prehistoric sites in Central and South cultural regions. Furthermore, nucleotide sequences of mtDNA D-loop region of modern Ryukyu wild boar were determined to investigate the extent of genetic variation among present population of Ryukyu wild boar.In Chapter three, I analyzed morphological and molecular phylogenetic characteristics of Sus tooth samples and aDNA from bones excavated from the sites in Central region, including Noguni shell middens (ca.7200 - 4400 years ago) on Okinawa main Island. Measurements of lower third molars from Noguni shell middens were compared with those of Sus remains from later sites in the Okinawa Islands (ca.4800 - 1400 years ago) as well as modern Ryukyu wild boar. Based on measurements of lower third molars, Sus samples from the Noguni shell middens were distinctly smaller than those from modern Ryukyu wild boar and other ancient sites in the Okinawa Islands. In addition to morphological analysis, nucleotide sequences of ancient mtDNA D-loop region from mandibles of the Noguni shell middens were compared with those of Sus in other parts of the world collected from a database. Phylogenetic analysis using aDNA sequence types showed that some sequence types from the Noguni shell middens made a different cluster from modern Ryukyu wild boar, suggesting a presence of the different genetic Sus lineage from modern Ryukyu wild boar at that time.In Chapter four, aDNA analysis was carried out by using Sus bone samples excavated from Ohtabaru site (ca.4100 - 3800 years ago) and Kanda shell midden (ca.1600 - 900 years ago) in Ishigaki Island, Arafu site (ca.2800 - 800 years ago) and Nagabaka site (ca.1900 - 1400 years ago) in Miyako Island, which belonged to South cultural region. All aDNA sequence types from prehistoric sites in Ishigaki Island were genetically close or identical to those of modern Ryukyu wild boar. However, sequence types from Arafu site and Nagabaka site were in different lineages from modern Ryukyu wild boar but had rather close relationship to other Asian Sus lineages: the similar situation was observed as in Noguni samples.In Chapter five, I investigated the extent of genetic variation among present population of Ryukyu wild boar to find out whether the different lineage detected from ancient samples still exist among the present populations. Ryukyu wild boar inhabits seven islands in the Ryukyu Islands. Phylogenetic studies based on the mtDNA analysis of 113 Individuals from six of the seven islands show all individuals are genetically close to each other, and no sequence type is either identical or similar to other Asian Sus lineages. Chapter six discusses the possibility of the external introduction of Sus into the prehistoric Ryukyu Islands. In the present study, some Sus samples from prehistoric sites in the Central (ca.7200 - 800 years ago) and South cultural regions (ca.2000 years ago) had different morphological / genetic characteristics from modern Ryukyu wild boar. Concerning the origin of these Sus population from the prehistoric sites in Ryukyu, I propose two possible hypotheses: first, there were at least two genetic lineages of wild boar inhabited the prehistoric Ryukyu Islands; second, introduction of Sus to the Ryukyu Islands by human took place during prehistoric times. I distinguish these hypotheses as follows.In the case of former hypothesis, a) It is very likely that some surviving population has different genetic characteristic from those of other habitats (islands). However, multiple lineages of wild boar were not found in 113 individuals from present populations. b) Furthermore, if multiple lineages of wild boar really existed in the prehistoric Ryukyu Islands, they must have migrated from Asian Continent to Ryukyu at the time when land bridge connected these regions, which is earlier than 80,000 years ago. Based on estimation using simulation, probability for coexistence of multiple Sus lineages for the period of 75,000 years was calculated and it reveals to be lower than 1%. These results indicate that it is unlikely that multiple lineages of wild boar coexisted in the prehistoric Ryukyu Islands. Thus, the latter hypothesis that prehistoric introduction of Sus into the Ryukyu Islands by human was supported by my study. It has been suggested that the South cultural region had no archaeological links with North and Central regions until historic time, ca. 12th century AD. This archaeological evidence infers a possibility of more than one introduction pathways of Sus from outside of the Ryukyu directly to the Central or South Cultural regions during prehistoric times. In the case of Noguni shell middens, some cultural factors of prehistoric Central regions were considered to be related to Jomon culture in Kyushu. This archaeological evidence suggests that Sus population was introduced from main land Japan or from the Asian Continent via Kyushu region. In this case the transported Sus cannot be hunted wild boar because the size of wild boar in both mainland Japan and Asian Continent is much larger than those of Noguni shell middens. There is a possibility that lower third molars of Sus from Noguni shell middens were reduced in size as the consequence of domestication. In contrast, prehistoric culture of South cultural region including Arafu and Nagabaka sites were considered to be related to those of Island Southeast Asia such as the Philippines as well as Micronesia. Since it is revealed that prehistoric human dispersal and peopling in Island Southeast Asia and Oceania was accompanied by domestic pigs and other animals, introduction of Sus population to South cultural region of Ryukyu might be involved in such prehistoric interaction of humans. In this thesis I conclude multiple pathways of Sus introduction to the Ryukyu Islands existed during prehistoric times. Furthermore, present study indicates the possibility that cultural interaction and movement of prehistoric human took place between the Ryukyu Islands and surrounding areas, accompanied by Sus.

3 0 0 0 標本調査法

著者
鈴木達三 高橋宏一著
出版者
朝倉書店
巻号頁・発行日
1998
著者
小池 拓矢 鈴木 祥平 高橋 環太郎 倉田 陽平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>1.</b><b> </b><b>はじめに<br></b> スマートフォンの普及にともない、携帯端末で利用する、実空間と連動したさまざまなサービスが登場している。観光分野においては、位置情報を活用したサービスが観光客の行動に影響を与えるだけでなく、観光振興のツールとしても活用されている。そのなかでも本研究では、世界規模で行われている位置情報を利用したゲーム(以下、位置ゲーム)に着目した。 世界規模で行われている位置ゲームの例として、現実空間で宝探しを行う「ジオキャッシング」がある。ある参加者が設置した宝箱を他の参加者がスマートフォンやGPS受信機を片手に探し回るものであり、2016年7月現在、世界には約290万個の宝箱が存在している。また、Niantic Labsが開発・運営する「Ingress」は全世界規模で行われる陣取りゲームであり、この位置ゲームを介して企業のプロモーションや自治体の観光振興が行われている例もある。そして2016年7月、位置ゲームにAR(Augmented Reality: 拡張現実)と人気キャラクター「ポケモン」の要素を加えたアプリゲームである「Pokemon GO」が全世界で順次配信された。このゲームの最大の特徴はスマートフォンのカメラ越しの風景に、ポケモンがあたかも現実空間に存在するかのように出現することである。配信直後からPokemon GOで遊んでいる写真などがSNSに数多くアップされ、メディアでは社会現象として連日このゲームの話題が取り扱われた。 倉田(2012)はジオキャッシングやスタンプラリーのようなフィールドゲームを観光地が実施する意義について、以下の5点を挙げている。 地域の有する観光資源を認知してもらう機会が増える観光資源に付加価値を与えることができる観光客の再訪が期待できる滞在時間の増加が期待できる旅行者が地元の人と言葉を交わすきっかけを生み出せるかもしれない つまり、本来は目を向けられることもないスポットに人々を誘引する可能性を位置ゲームは含んでいる。本研究の目的は、Twitterの位置情報付きツイートをもとに、Pokemon GOの観光利用の可能性について基礎的な知見を得ることである。 <br><br><b>2.</b><b> </b><b>研究方法</b> <br> Pok&eacute;mon GOの配信がアメリカなどで始まった2016年7月6日以降、Twitterの投稿内容に「Pokemon GO」の文字列が含まれる位置情報付きツイートを、TwitterAPIを用いて収集した。そして、ツイートが行われた位置やその内容について整理し、分析を行った。日本では7月22日に配信が始まっており、「ポケモンGO」の文字列を含むツイートについても分析の対象とした。 <b>&nbsp;<br><br></b><b>3.</b><b> </b><b>研究結果<br></b><b></b> 日本でPokemon GOの配信が開始された7月22日(金)から24日(日)までに日本国内で投稿された位置情報付きツイートのうち、上記の条件を満たすものの分布に関する図を作成した。これによると、Pokemon GOに関するツイートの投稿地点は全国に広がって分布していることがわかった。
著者
秋田 幸彦 高橋 里美 西山 桂
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.53-58, 2018 (Released:2018-04-07)
参考文献数
6

平成20年の学習指導要領改訂により、中学校第1学年理科「身の回りの物質」の単元で、全く新しい単元として代表的なプラスチックの学習が導入された。教科書でもプラスチックの取り扱いは様々であり、性質を調べるための実験方法にも違いが見られた。そこで本研究では、プラスチックの性質と用途を結びつけることのできる実験方法として、曲げやすさ、割れやすさ、薬品耐性、熱耐性に注目した実験を提案した。また、実験を取り入れた指導計画を作成し、授業実践を行ったところ、教科書をもとにした実験方法に比べ、生徒の理解度が高くなった。
著者
榎原 雅治 本郷 恵子 末柄 豊 伴瀬 明美 前川 祐一郎 高橋 典幸 井上 聡 須田 牧子 遠藤 珠紀 小川 剛生 高橋 一樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

室町時代は日本の伝統文化の形成された時代であるといわれている。本研究では、さまざまな理由によってこれまで全体像が把握されていなかったこの時代の公家や僧侶の日記を解読し、出版やデータベースの作成によって、その全文紹介を進めた。また日記に登場する人物について研究し、室町文化の形成を考える上で不可欠な人物データベースを作成した。