著者
森 也寸志 金子 信博 松本 真悟
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

人工マクロポアという疑似間隙構造を土壌内に作るとき,充填物に縦方向に長い繊維を使い,充填率30%であったときに最も効果的に下方浸透を促すことができた.土壌カラム実験では,土壌水分と有機物量に逆相関がみられ,栄養塩をよりも水分が有機物分解に影響すること,また,土壌下方にある有機物は酸素が遮断され,かつ水分が減ると上方移動が不能になるため分解を免れる傾向にあり,根や浸透有機物の分解が逆に促進されることはなかった.亜熱帯土壌では畑圃場で地表流の発生が抑制され,結果的に農地土壌の流亡が抑制されることがわかった.このため,分解が優勢な高温化でも有機物については保全傾向が見られた.
著者
岡田 信弘 新井 誠 徳永 貴志 木下 和朗 只野 雅人 赤坂 幸一
出版者
北海学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

(1)本共同研究の目的・課題:本共同研究は、密接な関わりを有する「議会と時間」をめぐる諸問題を国際的な視野で検討することにより、日本の国会が直面している議会審議と運営に関わる問題点を明らかにするとともに、それを解消するための方策を探究しようとするものである。平成30年度は、主に、外国(特にフランス)の研究者と日本の実務家との意見交換を通じて問題点とそれを解決するための処方箋の明確化に努めた。また、フランスでのワークショップの合同開催により、国際的な学術交流も試みた。(2)研究会の開催:平成30年7月に、フランス・サンテチエンヌ大学のDisant教授を本科研費で招聘し、北海道大学、慶應大学、同志社大学で「議会・時間・憲法院」の三者関係に関わる問題点についての報告をしてもらった。また12月には東京で、国会図書館と議院法制局の職員を招いて研究会を開催し、「議会運営における時間」をめぐる諸問題についての意見交換を行った。会期不継続の原則を廃止した場合の問題点など、研究者がなかなか気がつかない論点を知ることができ有益であった。(3)国際ワークショップの合同開催:平成31年3月に研究代表者と分担者が渡仏し、リール大学(テーマ:「議会と時間」ーフランスと日本の視点の交錯)とINALCO(テーマ:日本における民主主義、憲法及び議会)で研究成果の一部を公表するためのワークショップを合同で開催し、フランスの研究者や学生と意見交換を行った。フランスに限定されるが、日本の憲法や議会に関する国際的な情報発信を行うことができたように思う。
著者
小林 泰男 小池 聡 永西 修 竹中 昭雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

新規メタン低減物質候補であるカシューナッツ殻油の反芻家畜への給与効果と作用機序について検討した。殻油はルーメン内の細菌の増殖を選択的に抑制することで菌叢が変化し、低メタン・高プロピオン酸生成型の発酵が導かれた。その結果、飼料消化や健康をがい阻害することなく、20%以上のメタン低減が可能となった。このように効果的な天然物質は初めてのもので今後の実用化が期待される。
著者
長束 勇 小林 範之 石井 将幸 上野 和広 長谷川 雄基 佐藤 周之 佐藤 嘉展
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

初年度(2017年度)の成果を踏まえ,本年度は日本国内で実施する実験・解析の課題について取り組むこととした。一方,ブータン王国側のカウンターパートである農林省農業局(DOA)との共同研究の推進(とくにVisa取得,計測機器や資材のブータン王国内への搬入)に,日本の大学との関係の明文化が求められたことに加え,ブータン王国の国政選挙から政権交代(2018年12月)があり,現地調査等の進行を止めざるを得なかった。その中で,佐藤が2018年6月に単独で渡航し,DOAのチーフエンジニアと面談をし,現地実証実験のフィールドの確認と今後の工程を確認している。本研究課題のゴールは,開発途上国で容易に応用可能で経済性に優れ,耐震を含めた安定性を有する小規模ため池の工法開発である。本年度は,各研究分担者によって,実験室内レベルで設定した研究課題をそれぞれ進めた。根幹となるため池築造技術に関する研究としては,ベントナイトを利用する研究を進めた。ベントナイト混合土によるため池堤体内の遮水層構築は,理論的には可能である。しかし,ベントナイトの膨潤特性の管理や強度特性など,安定した貯水施設の利用には課題が残っている。本年度は,ベントナイトの種類,ベントナイト混合土を室内試験にて一定の条件で確認するための母材,ベントナイト添加率と物理的・力学的特性の評価を行った。本実験で確認した条件下でのベントナイト混合土に対して,透水性の評価までを行い,十分に実用に耐える配合条件を確保できることを確認した。今後,最終年度には,耐震性および浸透特性の解析を国内で進めながら,ブータン王国内における現地実証試験の具体化を進める予定である。具体的には,現地で確保できるベントナイトならびに母材を用いたベントナイト混合土の特性評価,ならびにため池堤体の建造技術への応用を進める予定である。
著者
神武 直彦 中島 円 小高 暁
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

発展途上国の農村地域では低所得者層である小規模農家が公式の金融サービスにアクセスできない金融廃除が深刻な問題となっている。借用履歴など記入期間が貸付判断をする際に必要な小規模農家の信用情報の欠如が主な要因だが、これまでに構築された金融機関からの貸付を促進するための小規模農家の信用評価モデルは限定的である。そこで本研究では衛星データやモバイルデータ等の地上データを駆使し、情報の信頼性検証方法等を明らかにすることで、借用履歴に代わるデータ駆動型の信用評価モデル構築を目指す。また、小規模農家の金融廃除経験に貢献するため、モデル構築のみならずアプリケーションとしての信用評価モデルの運用方法を構築する。
著者
細井 裕司 添田 喜治 西村 忠己 下倉 良太 松井 淑恵 中川 誠司 高木 悠哉
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

我々人間の聴覚では 20 kHz 以上の超音波領域の音は聞こえないが、超音波振動として骨導に与えると音知覚が得られる(骨導超音波)。さらにこの骨導超音波は、音が全く聞こえない最重度難聴者でも聴取可能である。この現象を利用し、我々は最重度難聴者に音知覚を与える骨導超音波補聴器の開発を行っている。本研究では(1)未だ知られていない超音波聴覚メカニズムの解明、(2)骨導超音波補聴器の実用化研究という二つの課題に取り組んできた。そしてその研究成果から、骨導超音波の末梢の知覚器官は蝸牛の基底回転に存在すること、またそれは変調された可聴音ではなく超音波自体を聴取していること、その際外有毛細胞が関与している可能性は低いことなど、聴覚路上の末梢・中枢での超音波聴覚メカニズムが明らかになってきた。また語音で変調した骨導超音波のプロソディ(抑揚)が弁別可能であること、リハビリテーションによって言葉の聞き取りが改善されることなどの実用化研究も大きく進展した。
著者
渡会 勝義 新村 聡 小峯 敦 石井 穣 江里口 拓
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

経済学の歴史において、人口は国民の貧困や福祉に重大な影響を与える要因として、常に注目されていた。本研究ではこの視点を各国比較の参照枠として捉え、フランス、イタリア、インドなどを具体的に取りあげた。その結果、現在の経済学では所与と捉えがちな人口という条件が、人々の生活(つまり貧困や福祉)にいかに影響を与え続けてきたか、という歴史的な教訓を再確認することができた。科研費メンバーはそれぞれ、リヨン(フランス)、サレント(イタリア)など各地に赴き、現地の研究者と交流することで、今後、この論題を発展する手がかりをつかむこともできた。
著者
鳴海 一成 黒木 良太 由良 敬
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランス由来のDNA修復促進タンパク質PprAについて、1.35Åの分解能での結晶構造解析に成功し、DNA結合に重要なアミノ酸残基の空間配置を明らかにした。また、PprAタンパク質の放射線誘導に関わる新規制御タンパク質PprMを同定し、その作用機序を明らかにした。さらに、デイノコッカス属細菌で使用できる新規プラスミドベクターを開発した。
著者
八木 淳子 桝屋 二郎 福地 成 松浦 直己
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

東日本大震災から8年余りが経過するが、現在でも、特に激甚被災地において、さまざまな被災の影響が残存する。我々は震災後の1年間に岩手・宮城・福島の沿岸被災地で誕生した子どもたちを対象に、子どもの発達やメンタルヘルス、社会適応について包括的に把握し、ハイリスクな状態にある子どもたちに多層的かつ専門的な支援を実施してきた。 調査開始初年度には、子どもの認知発達と母親のメンタルヘルスに関する深刻な状況が窺知されたが、ベースライン調査から3年が経過し、特に子ども達の発達・行動面で良好な改善が認められる。本研究チームは、これまでの基盤の上に今後9年間、追跡調査と多面的支援を実施していく予定である。
著者
土井 健史 井上 豪 橘 敬祐
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヒストンH3K9を特異的にメチル化するSETDB1について、その酵素機能を制御する分子機構を解析した。(1)SETDB1のモノユビキチン化修飾がH3K9me3活性を介して、遺伝子発現を制御していることを明らかにした。また、その制御機構に関わる因子として、クロマチン制御因子であるTRIM28を同定した。(2)核内のSETDB1がプロテアソーム阻害剤と核外排出阻害剤によって増加し、それに関わる候補因子を見出した。(3)SETDB1-MCAF1のX線結晶構造解析を行うため、蛋白質の精製および結晶化を試みた。本研究で明らかとなった知見は、SETDB1を標的とした新たながんの治療薬の開発につながる。
著者
今居 譲 井下 強 柴 佳保里 柴 佳保里 井下 強 服部 信孝 孟 紅蕊 荒野 拓 石濱 泰
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

若年性パーキンソン病原因遺伝子PINK1とParkinは、協働してミトコンドリアの品質管理に関与することが示唆されていた。一方、新規に同定された晩発性パーキンソン病原因遺伝子CHCHD2は、機能未知のミトコンドリアタンパク質であった。本研究では、ショウジョウバエモデル、iPS細胞、哺乳類培養細胞を組み合わせ、PINK1-Parkinシグナル分子機構の解明と、CHCHD2の機能解析、PINK1-ParkinシグナルとCHCHD2との分子関係の解明を進めた。
著者
鷲巣 力 加國 尚志 小関 素明 中川 成美 樋口 陽一 三浦 信孝 桜井 均 湯浅 俊彦 渡辺 公三
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の課題は戦後日本を代表する国際的知識人加藤周一の思想を戦後思想史のなかに位置づけることである。本研究の基礎作業が加藤の「手稿ノート」の研究とその成果としてデジタルアーカイブ化して公表することである。本年度は《Journal Intime 1948-1949》《Journal Intime 1950-1951》の二冊について、デジタルアーカイブ化して公開した。昨年公開した8冊の「青春ノート」の抄録を刊行するべく、編集校閲作業を進めた。さらに『加藤周一 その青春と戦争』(共著)の編集執筆も進めた。加藤と丸山眞男との比較研究は、東京女子大学の丸山眞男記念比較思想研究センターと本研究を支える加藤周一現代思想研究センターとの間で研究提携の協定書を締結した。丸山研究センターの川口雄一氏は加藤研究センターの客員協力研究員についてもらい、研究会にて丸山眞男研究の推移について報告した。また『丸山記念研究センター報告』(第13号)に「加藤周一文庫と加藤周一の方法」を寄稿した。さらに山口昌男文庫をもつ札幌大学の公開講座に、本研究の研究者代表である鷲巣と川口雄一氏が参加して、研究報告を行なった。加藤と林達夫との比較研究では、鷲巣が中心となり林達夫研究を進め、成果として『イタリア図書』に「林達夫への精神史的逍遥」の連載を続けた。加藤は生涯を通して反戦を貫き、反戦小説も著わしたが、研究分担者の中川成美は他の戦争文学との比較のために『戦争を読む』(岩波新書)を刊行した。加藤周一記念講演会には、フランス哲学の浅田彰氏を招聘して「普遍的知識人の時代は終わったのか」と題した講演を行なって、加藤がもつ現代的意義について論じてもらった。研究会では、上記の川口氏の報告のほか、猪原透協力研究員の「科学し研究と加藤周一」と題した報告、石塚純一協力研究員の「網野善彦、山口昌男、加藤周一」と題した報告を受けた。
著者
岡本 晃充
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

励起子相互作用による蛍光消光を効果的に使用した新しい発想のオン-オフ蛍光核酸プローブ(近赤外)を設計・作成した。このプローブは、プローブだけのときには色素の二量化によってほとんど蛍光を示さないが、標的配列(DNA・RNA)とハイブリダイゼーションしたとき二量体構造が崩れ、強い蛍光発光を与えた。
著者
伊東 乾 青木 直史 添田 喜治 岩城 達也 石原 茂和
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日欧の木造・石造建築物の比較測定に基づき、西欧教会、オペラ劇場の動的音楽音響特性を、そこで行われる演奏・儀礼との関係に基づいて明らかにした。上下方向に移動変化する音楽音響に既存の評価法がなかったため、相関解析を用いてこれを定式化し数理を準備した。これを用い、作曲家リヒャルト・ヴァーグナーが設計に直接関与したバイロイト祝祭劇場の音楽音響ダイナミクスを、ヴァーグナー楽劇の上演を伴って収録解析した。その成果に基づいて空間演奏の要素を伴う指揮の技法を初めて体系化、国際公刊した。この過程で創出した新しい非線形音楽音響解析手法群を適用し、古代ギリシャ・ハルモニアのヘテロダイン共鳴などの機構も明らかにした。
著者
金井 陸行 木下 浩一
出版者
(財)田附興風会
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は臨床における創傷治癒機転と治癒不全病態を分子生物学的の解析することにより、日常の臨床現場で遭遇する消化管再建後の治癒不全、即ち縫合不全の発生を減じることを目的として研究を行ってきた。創傷治癒遅延、縫合不全発生の主たる原因である低酸素環境下での腸管上皮細胞の動態に着目し、種々の腸管上皮由来細胞株の低酸素条件下での培養条件を確立、低酸素条件下では消化管粘膜の修復機転の第一相であるrestitution(創傷面に隣接する上皮細胞の遊走)は著しく遅延していたが、当初注目していた消化管上皮細胞に比較的特異的に発現されている線維芽細胞増殖因子受容体タイプ3(FGFR3 III-b)の遺伝子発現に大きな差は認められず、この受容体のrestitutionへの貢献は少ないと考えられた。そこでFGFR3に関しては消化器癌との関連で研究を継続し、以下の研究成果を得た。膜貫通型FGFR3の発現上昇消化器系癌患者より、癌組織及びその周辺の正常組織を収集し、癌の悪性化過程におけるFGFR3-IIIb、FGFR3-IIIcの発現を解析した。その結果、FGFR3-IIIcが食道癌、大腸癌で上昇することを明らかにした。FGFR3c誘導発現細胞のFGF2に対する応答能の獲得in vitroの病態モデルとして扁平上皮癌細胞株DJM1を用いて、FGFR3-IIIcの発現上皮細胞はFGF2と協調することで癌悪性化を獲得できるか検討した。FGFR3-IIIcを発現誘導ベクターに組み換えてDJM1細胞に遺伝子導入し、FGFR3-IIIcの発現を誘導した結果、FGFR3-IIIcの発現を誘導しない細胞はFGF2刺激での足場非依存性増殖は促進されなかったが、FGFR3-IIIcの発現を誘導すると、FGF2刺激により足場非依存性増殖が著しく促進した。また、FGFR3-IIIc誘導発現過剰細胞はFGF2刺激によって高い遊走能を獲得した。以上の結果よりFGFR3-IIIc過剰発現細胞はFGF2と協調して癌悪性化を獲得することが明らかになった。可溶性FGFR3の発現上昇本研究の過程で、消化器系上皮細胞に可溶型FGFR3が発現していることを明らかにした。可溶型FGFR3は、FGFR3遺伝子から膜貫通部位を欠損したmRNAが選択的スプライシングにより生じて発現するが、この受容体が正常のヒト食道粘膜組織において発現されていることを確認した。胃および大腸においては正常組織における可溶型FGFR3の発現率は非常に低いが、癌部においてその発現が高まることを見いだした。以上の結果から、大腸と胃では可溶型FGFR3の発現と癌悪性化には何らかの関連性があることが示唆された。
著者
富岡 憲治
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究ではキイロショウジョウバエ概日活動リズムを制御する時計機構に関して、(1)温度感受性時計がどのような機構で振動するのか、また、(2)温度感受性時計が光感受性時計とどのように協調して概日リズムを制御するのかの2点について解析を行い、以下の成果を得た。恒明温度周期下から恒明恒温条件への移行でリズムが数サイクル継続すること、恒明下で20℃への単一温度変化でリズムが誘発されることがわかった。温度ステップ変化後、PER、TIMともに周期変動が誘発されることから、温度のステップ変化が、PER、TIMなど時計分子の量的変動を介して概日時計の振動を誘発することが示唆された。無周期突然変異系統での実験結果から、温度による振動にはCYC、CLKが必要であることも示唆された。PERの発現を指標として温度周期下で駆動する時計細胞を探索し、脳側方部ニューロン群(LNs)でPERが低温期に発現することが示された。LNを欠失したdisco系統では、温度周期下でも内因的な活動リズムは発現しないことから、上記の結果とあわせて、LNが温度周期下でのリズム発現に主要な役割を担うことが示唆された。クリプトクロームの機能欠損をもつcry^b系統では恒明条件下で長周期(LPC)と短周期(SPC)の2つのリズムを発現する。抗PER抗体を用いた免疫組織化学の結果は、SPCはLNと一部の脳背側部ニューロン群(DN)が、LPCは残りのDNによって制御される可能性を示唆した。光周期と温度周期への同調実験の結果、SPCはより温度同調性が強く、LPCは光同調性の振動体により制御される可能性が示唆された。この結果は、温度周期下でのリズム発現にLNが主要な役割を担うことともよく一致する。cry^b系統の行動リズムの解析から、SPCとLPCは相互作用により通常同調するが、SPCがLPCに対してより強力な同調作用を持つことがわかった。
著者
相馬 直子 山下 順子 陳 國康 王 永慈 栄 多永
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、晩産化・超少子化・高齢化が同時進行する東アジア社会において、介護と育児のダブルケア分担という新たな社会的リスクにいかに対応しているのか、あるいは対応できずにいるのか、その対応の仕方の共通点と差異は何かを、ミクロな家族の実態分析と制度分析を通じて、日本・韓国・中国・台湾・香港とのケアレジーム比較研究から明らかにした。晩産化、超少子化、高齢化の同時進行は、現存の介護サービス、育児サービスを使いこなしながら親の介護と子育てという「ダブルケア負担」に対応しなければならない世帯が増加することが推察され、包摂的なケア政策の構想が東アジア全体で求められる。
著者
久恒 辰博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

タウリンは、哺乳類動物の脳に最も豊富に存在する遊離アミノ酸の一つであり、脳の正常な機能の多くに不可欠である。特に発達期には、大脳新皮質にもタウリンが豊富に存在することが知られているが、その脳生理作用機構については未だ詳細に解明されていない。本研究では、タウリンに対する受容体を特定することを目的とし、解析を進めた。発達期大脳新皮質において、各種の阻害剤を用いた実験により、タウリンはグリシン受容体だけでなく、GABA_A受容体にも作用していることが明らかになった。さらに、タウリンによる反応は、発達初期(生後4〜6日目;P4-6)にはグリシン受容体阻害剤によって大きく阻害されるのに対し、発達後期(P29-P33)では、GABA_A受容体阻害剤によって大きく阻害された。タウリンの作用は、発達初期(P2)には細胞膜の脱分極を起こし興奮性に働くのに対し、発達後期(P31)には過分極を起こし抑制性に働くことが示された。これは、発達初期には細胞内Cl^-イオン濃度が高く、発達と共に減少していくため、受容体チャネルの活性化でCl^-イオンの動態は流出(膜電位の上昇)から流入(膜電位の下降)へと変化するためである。免疫染色によって発達初期にはグリシン受容体がCl^-イオンを細胞内に取り込むトランスポーターであるNKCC-1と共発現しているが、発達後期にはNKCC-1の発現が見られないことからも細胞内Cl^-イオン濃度の減少が支持された。大脳新皮質のグリシン受容体は発達と共に急激に減少すると思われていたが、免疫染色法およびパッチクランプ法により発達後期の神経細胞においてもその存在が確認された。本研究により、タウリンの脳細胞に対する作用を分子レベルで明らかにすることができた。本研究では、さらに脳回路の障害に対する予防・再生機構に関する基礎的な知見も得られた。
著者
戸田山 和久 久木田 水生 間瀬 健二 唐沢 かおり 鈴木 泰博 秋庭 史典
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、人類よりも知的な人工システムが技術的に可能になる日であるとされるシンギュラリティを巡り、その技術予測としての妥当性、そこで用いられる「人類よりも知的」の意味を明らかにし、その基礎作業の上で、なんらかの意味でのシンギュラリティが起こりうるという仮定にもとづき、予防的にシンギュラリティに人類はどのように対処すべきかを検討し、提言することを目指す。平成29年度は、シンギュラリティの「哲学的問題」として(1)知能爆発の可能性(必然性?)を論証する回帰的議論は果たして妥当か。(2)知性・知能とは何か。そもそも機械はどのような心的能力をもちうるか。(3)知能爆発の結果、倫理や価値(真・善・美)はどうなるのか。(4)シンギュラリティ後の世界において、われわれ人間はどんな役割を果たせるのかという問題群を取り出した。また、これまでに「シンギュラリティ」について書かれた言説について包括的なサーベイを行い、技術予測、シンギュラリティ概念、知性の概念、コンピュータ観、人間観等にかかわる基礎的概念について、著者によって大きく異なることを見出し、それを整理し、「シンギュラリティ」についてどのように論じるべきかというメタ的・方法論的なことがらについて結論を得た。それは、研究代表者により『人工知能学大事典』の「シンギュラリティ」の項目執筆というかたちで発表された。その他、シンギュラリティについて考察するのに関わりをもつ副次的概念や問題(とりわけ機械が犯した失敗についての責任の所在、機械は責任主体になりうるかという問題)について、研究成果を得て、さまざまな媒体で発表した。
著者
石原 孝二 信原 幸弘 河野 哲也 鈴木 晃仁 北中 淳子 熊谷 晋一郎 糸川 昌成 石垣 琢麿 笠井 清登 向谷地 生良
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は4 つの研究領域①生物学的精神医学および認知行動療法の展開による疾患観の変化、②精神疾患症状の現象論的・行為論的・認知哲学的把握、③診断の歴史と科学論、④当事者、家族、支援者の視点:地域社会論と障害学からの検討を設定し、各領域の研究を通じて精神疾患概念の再検討と「精神医学の科学哲学」の展開をはかった。研究の成果は15本の論文と59回の学会等の発表・講演、国際会議Tokyo Conference on Philosophy of Psychiatryの実施などを通じて発表されている。また、本研究の集大成として、全3巻のシリーズ書籍「精神医学の哲学」(仮題)を刊行する予定である。