著者
寺沢 英理子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.16, pp.71-84, 2022-03

20代後半に「生きづらさ」を自覚してサイコセラピーを求めるクライエントの中には,幼少期から安心感のない養育環境に置かれて,親の精神安定に多大なエネルギーを注いできた人々がいる。彼らは広義のヤングケアラーということができ,そのサイコセラピーから得られた知見は,狭義のヤングケアラーのケアを考える上でも重要な示唆を与える。そのひとつは,スクールカウンセラーの役割の再認識である。広義のヤングケアラーは虐待や経済的困窮の渦中にはいないので,福祉のアプローチでは発見される可能性が極めて低い。しかし,学校で彼らに接する機会が多いスクールカウンセラーなら,「離人」を手がかりに広義のヤングケアラーを発見できる可能性がある。その際,非言語的表現の中に現れた持続的空想を察知することが助けになると考えられる。また,発見したヤングケアラーの母親をスクールカウンセラーがサポートできれば,養育環境の安定化も期待できる。狭義のヤングケアラーでも,社会的支援に次いで精神的ケアが必須であるが,非言語的表現方法を使いこなすスクールカウンセラーが,この部分を担うことができれば,セーフティネットの強化につながるであろう。
著者
林 輝明 上田 昌宏 中澤 公揮 橋本 佳奈 桂木 聡子 天野 学 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2021-039, 2022 (Released:2022-05-13)
参考文献数
10

基礎実習や臨床事前実習の学習効果を向上させるためには,受講生が既に学習済の内容が実習内容と繋がっているかを予習し,関連する部分の知識を整理した上で実習に取り組むことが望ましい.我々は,臨床事前実習コースの化学的な知識を踏まえた配合変化の学習において,チーム基盤型学習(TBL)を導入し,応用演習の部分に実習を位置づけた方略を構築した.授業終了後に行ったアンケートの因子分析およびクラスター分析の結果から,臨床に関連する化学的な知識に自信がなくてもTBLを経験することによって,実習内容が理解できたと実感している可能性が示された.TBLと実習を組み合わせた本授業方略が,化学的な知識と臨床を繋ぐ実習内容の理解度を高める可能性のあるプログラムであることが示唆された.
著者
青江 麻衣 上田 昌宏 江﨑 誠治 清水 忠
出版者
Japan Society for Pharmaceutical Education
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2021-040, 2022 (Released:2022-05-13)
参考文献数
23

本研究では,臨床事前実習を終えた4年生と臨床実習を終えた5年生を主な対象としたTBL法を用いたEBMワークショップの効果を測定した.学習成果は,ワークショップ開催時および2ヶ月後に実施した知識習得テストと,ワークショップ後のアンケートで評価した.参加者の文献評価能力は,ワークショップの2ヶ月後にも変化がなかった.臨床実習後の5年生は,臨床実習前の4年生に比べて,ワークショップ開催時および2ヶ月後のいずれにおいてもテストの平均点が高かった.アンケートの結果,5年生は4年生に比べてグループワークへの参加やEBMの必要性の認識を高く評価していた.この結果は,EBMに関するスキルの向上と,臨床実習中のEBMの必要性に対する意識の向上によるものと考えられる.臨床実習後にEBM講習会を実施することで,より強固なEBMスキルを身につけることができ,EBMの必要性に対する意識もさらに向上すると考えられた.
著者
宇野 亨
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J104-B, no.11, pp.821-829, 2021-11-01

電磁波は異なる媒質の境界で反射・透過をするだけではなく表面波となって境界面を伝搬する.身近にある媒質に対する表面波は古くから研究されてその性質はよく知られているが,誘電率も透磁率も任意の値を取り得るメタマテリアルの登場によって改めて見直す必要がでてきた.一方,測定装置の感度とダイナミックレンジが格段に向上したことや高速・高性能信号処理法が開発されたことなどによって従来は無視できるほど小さいとされてきた現象も十分観測可能になってきた.このため思いもよらぬ観測信号に悩まされることもあるが,これは新たな観測システムを構築できる可能性があることもまた示唆している.本論では,著者とそのグループが行ってきたアンテナと表面波に関する幾つかの研究成果とそれに関連する話題をオムニバス形式に紹介して読者の参考に供したい.
著者
渡邊 真治
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2014年春季全国研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.169-172, 2014 (Released:2014-08-06)

本研究では2013年度に実施した地方公務員へのアンケート調査を用いて公務員組織の情報化と組織構造の関係を分析する。前回報告した渡邊(2013)では組織コミットメントを用いて組織における心理要因の分析を行った。今回の調査では、Apple社などが用いている従業員に対するNPS(Net Promoter Score)と情報化の関係を分析している。NPSは、ユーザー(従業員、消費者)経験を計測、改善を可能とする組織ツールである。NPの決定理由をテキストマイニングの手法を用いて分析する。分析の結果、NPSを通した情報化の効果に影響を与える要因の整理を行うことができた。
著者
Youhei Tomio Hideki Nagatsuka
出版者
The Japanese Society for Quality Control
雑誌
Total Quality Science (ISSN:21893195)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.137-148, 2022-05-11 (Released:2022-05-12)
参考文献数
19

Conway and Maxwell derived the Conway-Maxwell (COM)-Poisson distribution as generalization of the Poisson distribution. This distribution has been used in survival analysis. The probability mass function (pmf) of this distribution contains a normalizing constant expressed as sum of infinite series and therefore, not only the computation of the distribution but also the parameter estimation for the COM-Poisson is difficult. To remedy this problem, several methods have been appeared in the literature such as the methods based on Laplace approximation and linear regression. However, it is pointed out that the approximation accuracy of the Laplace approximation is poor, and the regression method cannot be applied if there are no covariates.In this paper, we propose a new method of parameter estimation for the COM-Poisson using the conditional likelihood functions in the COM-Poisson distribution. The key idea of the proposed method is to use the conditional likelihood functions, which does not have the complicated normalizing constant. We further prove that the estimates of all two parameters always exist uniquely and a conditional likelihood function of the shape parameter is a log-concave function. Through Monte Carlo simulations, we further show that the proposed method performs better than the existing method in terms of bias and root mean squared error (RMSE). In an illustrative example, we fit the COM-Poisson model to the real data set of carton by our proposed method.
著者
水田 拓 鳥飼 久裕 石田 健
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.91-97, 2009-05-01 (Released:2009-05-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

奄美大島の龍郷町市里原地区においてアマミヤマシギの夜間センサスを一年間行い,道路に出現する個体の数に影響を与える要因を調査した.本種の出現個体数は,繁殖期(2~8月)に多く,非繁殖期(9~1月)には少なかった.それぞれの時期において,月の明るさ,雲量,風速,気温,調査時間帯のうち,どの要因が出現個体数に影響を与えているかについて一般化線形モデルとモデル選択を用いて解析した.その結果,繁殖期,非繁殖期とも,月の明るい(月齢が15に近い)夜に本種が多く道路上に出現しているということがわかった.これは,本種が道路上で視覚を用いた活動をしているためではないかと推察される.本研究により,夜の道路に出現するアマミヤマシギの個体数から好適生息環境や個体数の推移などを調べる場合は,月齢や天候を考慮する必要があることが示唆された.
著者
星野 聖 斎藤 正男
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会技術報告 (ISSN:03864227)
巻号頁・発行日
vol.16, no.20, pp.7-12, 1992-03-10 (Released:2017-10-06)

The purpose of this study is to non-restrictively and objectively estimate visual fatigue caused by VDT tasks. The dynamics of pupillary responses to the square-wave light stimuli were analyzed with a closed-loop videopupillograph: the changes in the latency, amplitude, velocity and retentivity of miosis and mydriasis were investigated before and after the VDT task. The changes in critical flicker frequency (CFF) were also measured. It was found that the velocities of miosis and mydriasis were highly correlated with the degree of visual fatigue, which suggests a disorganization of the autonomic nervous system due to VDT work.
著者
橋本 邦衛
出版者
社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.5, no.9, pp.563-578, 1963-09-20 (Released:2008-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
9 7

flicker値(FF)の生理学的意味を明らかにするにはチラツキの融合が,どの部位でおこるかを知ることである。Sherrington, Hecht, Granit以来,融合部位は網膜だと信ぜられてきたが,Walkerや小木の電気生理学的実験によって,視覚系に誘発される電位変動は,網膜でも融合するが,視覚皮質野では,その約1/2の低頻度で融合をおこすことが明らかにされ,また感覚的な融合頻度は,新皮質の興奮性を示す脳波のpatternとほぼ平行して変化することが,Gellhornや筆者によって確かめられた。また緊張や注意の集中によってFFが高進するのは,視覚中枢における生理的融合頻度の上昇とともに,視覚連合皮質の自発的興奮により,時間識別力が増大するためであって,おそらく中枢で生理的融合がおこる前に,これを感覚的に融合と判断する機能が,FFの基礎であると考えられる。 要するにFFは,視覚系をふくむ知覚連合皮質の興奮性の一つの表現であって,もし網膜の興奮性がほぼ一定に保たれ,またチラツキの出現点の判別に大きな誤差がなければ,FFは知覚皮質領域の興奮水準,あるいは意識の機能水準を示す生理学的指標とみることができ,また労働生理学や精神生理学の重要な研究手段として利用することができると考える。 FFは,疲労時に測定しても低下しないことがある。もし作業終了時のような,興奮が一時的に高まる時期に測定するとか,あるいはtestが被検者に興奮刺激を与えるようなことがあれば,FFの低下は陰蔽されて測定値に現われぬことも当然である。FFの測定が他の生理学的測定と最も異なる点は,testが被検者の意識状態を刺激し,それがFFを変化させること,つまり測定が不確定だということである。測定の物理的条件を一定にするだけではこの不確定性は解決されない。ここにflicker testの難かしさと意味が存在することを指摘し,測定の具体的な進め方について筆者の見解を述べた。
著者
間中 光
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.19-32, 2016 (Released:2020-01-13)

近年、日本社会及び国際社会にとって重要な課題となっている災害復興では、その優良事例や復興支援に関わるノウハウの蓄積が大きな課題となっている。この課題性は観光にとっても無縁ではなく、2015年4月に発生したネパール地震など、「観光を通じた災害復興」に関する知見が強く求められる事例も多い。そこで本稿では、被災地で行われる観光の現状について2004年のインド洋大津波、2011年の東日本大震災の事例を中心に整理し、災害復興における観光の可能性と課題について考察する。そして、明らかになった可能性と課題を分析する枠組みとして、ダークツーリズム論を中心に既存研究を批判的に検討し、その限界性を指摘する。その上で、「騒乱・擾乱などのショックに対し、システムが同一の機能・構成・フィードバック機能を維持するために変化し、騒乱・擾乱を吸収して再構築するシステムの能力」と定義されるレジリエンス(Resilience)概念を援用した新たな分析枠組みを提示する。
著者
西村 武 森本 一成
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.203-210, 1986-08-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
32
被引用文献数
10 6

CFFの測定方法と条件をCFFの測定値の変動率の大きさと測定の精度から検討した. CFFの測定方法としては調整法, 極限法および恒常法について, 測定条件としては検査光光源の輝度, 大きさ (視角), 色および単眼・両眼CFFについて比較検討した. その結果, CFFの測定方法としては極限法がいちばん精度が高いこと, 検査光光源の輝度は120cd/m2よりも500cd/m2付近のほうが変動率が大きいこと, 光源の大きさは視角1°のほうが視角2.5°より精度が高く, 視角0.5°より変動率が大きいこと, 光源の色は緑, 赤, 黄のいずれでも, また, 単眼CFFと両眼CFFのどちらでも変動率の大きさや精度に顕著な差はないことなどが明らかとなった.
著者
藤田 祐一 栗栖 源嗣
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.066-071, 2011 (Released:2011-03-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Protochlorophyllide (Pchlide) reduction is the final step to make up the spectroscopic properties of chlorophyll a in biosynthesis of chlorophyll. During evolution, photosynthetic organisms have invented two structurally unrelated Pchlide reductases; light-dependent Pchlide reductase (LPOR) and light-independent (dark-operative) Pchlide reductase (DPOR). LPOR is an NADPH-dependent enzyme operating as a key enzyme for the light-dependent greening in angiosperms, and DPOR is a nitrogenase-like enzyme that allows gymnosperms, algae, cyanobacteria and photosynthetic bacteria to produce (bacterio)chlorophylls even in the dark. We will review recent major research progresses on Pchlide reductases, especially, crystallographic structure and proposed reaction mechanism of DPOR. Differential operation and evolutionary implications of these enzymes are also discussed.
著者
荻野 徹
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.120-132, 2010-01-31 (Released:2019-06-08)
参考文献数
19

本稿は,国家公安委員会による警察庁の管理の実態を記述し,分析するものである。戦後改革の結果生まれた現行警察制度は,警察の民主的な管理と政治的な中立性の確保を2大目標とし,これを実現するため公安委員会による警察の管理を制度の根幹に据えている。すなわち,警察や検察の職歴のない者により構成された合議制機関が警察官僚機構を「管理」することにより,官僚の独善を防ぎ,政治の影響力を排除するという仕組みである。それでは,「管理」の名のもとに,公安委員会は何ができる,何をなすべきか。この点について,わかりにくさがあることは否めない。本稿では,戦後警察改革の経緯と現行制度の基本構造を概観し,公安委員会(警察行政の非専門家)による警察(専門官僚機構)の「管理」が,「大鋼方針による監督」として定式化されていることを示したうえで,国家公安委員会に焦点を当て,国家公安委員会の警察庁に対する「大綱方針による監督」なるものがどのように行われているかについて,国家公安委員会の議事録を読み解いていく。そして,大綱方針なるものは,国家公安委員会規則の制定や国家公安委員会決定などの文書の発出によるほか,委員会としての日常的な活動,すなわち警察庁幹部を交えた定例会議における議論を通じて,警察運営の基本的な方向または方針を示すことにより行われていることを明らかにする。