著者
林 正裕
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

深海生物を供試材料として深海環境を模した装置を用いて、高CO_2環境が深海生物に及ぼす影響を室内実験で把握する手法を開発し、その手法を用いて生物影響を調査することを主目的として実験を行い、今年度は以下の成果を得ることができた。1、深海魚のCO_2耐性を把握するために、底生性深海魚ザラビクニンCareproctus trachysomaを用いて、数段階のCO_2レベルでの曝露実験(水温2℃)を実施した。ザラビクニンの急性(72時間)致死CO_2レベルは、2%CO_2(CO_2分圧≒2kPa)であることが分かった。そして、ザラビクニンのCO_2耐性は浅海魚(ヒラメ・イシガレイ)に比べて弱い可能性があった。2、深海魚の生理機能に対するCO_2影響を調査するために、高CO_2環境下でのザラビクニンの呼吸頻度の変化を調べた。2%CO_2曝露によって、ザラビクニンの呼吸頻度は、曝露開始後3時間で曝露前の値31.6±5.2(N=3)回/minから18.7±5.0回/min(3時間)まで低下し、その後試験終了時まで上昇し続けた(72時間;27.0回/min(N=2))。これまでの知見において、ザラビクニン以外の全ての魚類で、環境水のCO_2増加に伴い呼吸頻度は上昇しており、高CO_2環境下において、魚類の呼吸頻度が低下した前例はない。3、魚類において呼吸や酸排泄を担う鰓の形態計測をザラビクニンで実施した。ザラビクニンの一次鰓弁長は5.1±0.6mm(N=4)、一次鰓密度は17.5±1.3本/cm、二次鰓弁表面積は0.090mm^2、二次鰓弁密度は13.9±0.8枚/mm及び鰓表面積94±24mm^2/gであった。4、ザラビクニンを高圧実験装置に収容し、高水圧下における心拍数の変化を調査した。ザラビクニンの心拍数は、常圧時の22.2回/minから20atmで26回/minに増加した。さらに40atmで27回/minになり、最終的に100atmで25回/minとなった。
著者
庄司 隆行
出版者
東海大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

深海域に棲息する動物のうち、無顎類、板鰓類、硬骨魚類、甲殻類からそれぞれ1種ずつを選び、各嗅覚系の形態比較と行動実験を行った。試魚として、静岡市興津沖水深300-600mにおいて捕獲したヌタウナギEptatretus burgeri、ホラアナゴSynaphobranchus affinisおよび熊野灘(水深300-400m)にて捕獲したホソフジクジラEtmopterus brachyurus、オオグソクムシBathynomus doederleiniを用いた。形態観察として嗅板表面を走査型電子顕微鏡により観察し、摘出した脳、鼻腔組織の嗅神経および嗅索に脂溶性蛍光色素(DiI)を浸透させ嗅房、嗅球、終脳における嗅神経の走行を蛍光顕微鏡にて観察した。ホラアナゴ嗅神経束は他魚種よりも太く、嗅球に入力する前の段階で2本以上の分枝を形成していた。これは、嗅細胞数の多さと嗅球でのニオイ情報の処理能力の高さを示している。ホソフジクジラも同様にきわめて大きな嗅房、発達した嗅球を持っており、ニオイ情報の収集、処理能力は高いと推測された。ヌタウナギの鼻腔は7枚の大きな嗅板からなる嗅房を通り食道に連絡していた。嗅球は終脳と比較して大きく、一方延髄の味覚中枢は未発達であった。また、ヌタウナギとオオグソクムシを用いてニオイ刺激に対する行動観察を行った。特にオオグソクムシの実験では、動きのトラッキングを暗黒下において容易にしかも精密に行なうため、体の位置と向きを示す赤外線ダイオードフラッシャーおよび記録・解析用ソフトウェア(Windowsベース)を開発した。これにより、様々なニオイに対する深海生物の嗅覚行動の観察が容易にできるようになった。ヌタウナギ、オオグソクムシともにきわめて鋭敏な嗅覚感度を持つことも明らかとなった。
著者
長ヶ原 誠 石澤 伸弘
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

国内外のマスターズスポーツ振興事業に関する調査の結果、マスターズスポーツ大会の開催や熟年者を対象としたスポーツ推進キャンペーン事業が、開催地への社会経済的効果だけでなく、その結果、マスターズイベントの開催や参加者のスポーツ活動がもたらす身体的健康、心理的健康、教育、コミュニティ、社会文化面での便益に代表される個人的・社会的便益の側面が明らかとなった。またマスターズスポーツ大会の開催によるアクションリーサーチを通じたインパクト評価とアウトカム評価の結果、仮説として掲げていた、個人のライフスタイル活性化、地域の活性化、社会活性化、次世代教育の活性化が認識され、生涯スポーツを振興させる有効な事業であることが実証された。
著者
小林 麻己人
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

突然変異ゼブラフィッシュ系統の解析により、小胞体ストレスが肝細胞のリソソーム残渣を蓄積させることを見出した。リソソーム残渣の蓄積は、老化や神経変性症との関連が指摘されており、酸化ストレスとの関わりも注目される。そこで、小胞体ストレスと酸化ストレスとの関連性を探るために、酸化ストレス応答に重要な因子Nrf2の突然変異系統を作出し、小胞体ストレスを自然発症する突然変異ゼブラフィッシュ系統との二重変異系統を作製・解析した。
著者
山縣 文
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

平成21年度は、当初の予定通り4月~9月の間に、主な備品である52チャンネルNIRS装置(Hitachi ETG-4000)の整備・調整を行い、解析用のパソコン、必要な解析ソフト、図書の整備などを行った。10月より患者登録を開始した。昭和大学病院附属東病院精神神経科を受診したDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed (DSM-IV)にて大うつ病と診断された未治療の患者のなかで、本研究の参加へ同意を得られたのは9名だった(当初の本年度の目標は10名である)。そのうちの4名が12週間後の2回目の検査も現段階で終えている(残りの5名は当外来へ通院を継続している)。外来に患者の基礎情報を聴取し、かつNIRS測定を採血を実施した。血清BDNFの測定は(株)エスアールエルに外注してる。各被験者の基礎情報や、検査結果は持ち出し禁止のオフラインのノートパソコンと、バックアップ用に外付けハードデイスクに匿名でナンバー化して保存している。また、平成21年11月には米国スタンフォード大学医学部精神科を訪問し、脳科学研究センターにて精神疾患に対するNIRSの臨床応用についてのミーティングに参加し、本研究の概要を説明し、意見交換を行った。
著者
小武内 清貴
出版者
岡山県立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は曲げ損傷を受けた炭素繊維強化熱可塑複合材料(以下CFRTP)の修繕性を明らかにすることである.強化材を平織炭素繊維布,母材を PA6 とするCFRTP を作製し, 4 点曲げを行うことによって曲げ負荷に伴う CFRTP の損傷形態を調査した.その結果,作製した CFRTP では 2.0%程度の曲げひずみを与えた時に圧縮側で初期層間はく離が発生した. また 2.5%程度の曲げひずみを与えた時,試験片の圧縮側に局所的な座屈の発生が確認できた.本研究では 2.0%の曲げひずみ負荷を与えた試験片を軽損傷材,2.5%の曲げひずみ負荷を与えた試験片を重損傷材とし,これらの損傷材のパッチ貼付に伴う曲げ特性回復様相を調査した.その結果,圧縮側に適切な枚数のパッチを貼付することにより,軽損傷材,重損傷材共に処女材の曲げ特性と同程度まで回復させることが可能であった.次に,ニードルパンチ処理が CFRTP の曲げ特性に与える影響を調査した.その結果,ニードルパンチ処理によって層間強度が向上し,曲げ負荷初期に発生する層間はく離を抑制できることがわかった.そこで損傷材の修繕にパッチ貼付とニードルパンチ処理を併用したところ,修繕材の曲げ特性はパッチ貼付のみによって修繕したもののそれよりも向上した.
著者
佐藤 アヤ子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Identity Politicsが声高に叫ばれていた90年代、マイノリティ作家と呼ばれていたカナダ先住民作家及びアジア系カナダ人作家の文学をグローバルとローカルを融合させた「グローカル」性という新しい概念で分析した。白人優勢の社会で、従来の支配者、被支配者という二元的な構図で創作するのではなく、彼らの作品が、グローバルに普遍なるものへの同化と同時に、自らの出自である母語や伝統的なローカル文化を作品の中に取り入れ、個別と普遍を融合させた「グローカル」性という新しい文学理念に向かっていることに注目した。この分析法は、内外においても本研究が初めてであり、新しい文学分析として今後活用されよう。
著者
久保田 雅久
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

初めに、洋海数値モデルとして北太平洋順圧モデルを開発した。また、海上風データとして、海上観測データ・人工衛星データ・大気大循環モデルの解析データを収集し、解析を行った。その結果、2種類の人工衛星データ(Geosat海面高度計・DMSPマイクロ波放射計)の間には大きな相違は無いが、海上観測データはそれに比較して風速が大きく、また、解析データは小さい事がわかった。さらに、これらの海上風データによって前述の順圧モデルを駆動した結果、海上風データの種類によって黒潮の流量が大きく変わることがわかった。次に、複数の熱赤外画像から海面流速場を算出する2種類の方法、最大相互相関法とインバース法について検討を行った。その結果、インバース法は等温線に直交する流速成分を非常によく再現する事がわかった。また、非発散の条件を付加してインバージョンを行うと、擾乱場に対する、等温線に平行な流速成分は、比較的よく再現できる事がわかった。両者の方法を用いて得られた流速場を、同じ期間の漂流ブイの軌跡と比較検討した結果、よい一致をみた。最後に、Geosat海面高度計による風速データを初期推定場、DMSPマイクロ波放射計による風速データを観測値として客観解析(修正法)を適用し、最適な風速データセットを作成することを試みた。得られた風速値を海上ブイ風速と比較した結果、両者は非常によく一致した。
著者
佐藤 夏雄 山岸 久雄 門倉 昭 小川 泰信 行松 彰 小野 高幸 細川 敬祐 田口 真 岡野 章一
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

南極昭和基地と北極域アイスランドは1本の磁力線で結ばれた共役点ペアの位置関係にある。この利点を最大限に活用し、オーロラの形状や動きを同時観測し、南北半球間の対称性・非対称性の特性を研究した。オーロラは南北両半球でその形が似ている場合や全く異なる場合など様々であった。特に、オーロラ爆発の直前に出現するビーズ状オーロラ、オーロラ爆発、点滅する脈動オーロラ、渦状オーロラ、などに注目して南北半球の比較研究を行った。そして、それらオーロラの発生源と発生機構に関する貴重な手がかりを得ることができた。また、観測から得られた実際の共役点位置の時間・空間変動と惑星間空間磁場との関係を明らかにすることもできた。
著者
ランジェム M・A 中野 政身
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

離散渦法及びPowell・Howe 渦音論(theory of vortex sound)を基づいた三次元の数値解析法を開発した。そのほか、数学的に厳密な軸対称のあるモデルも開発した。
著者
福島 崇志
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,湾曲するキャベツ苗の要因を明らかにするため,育苗期のキャベツセル成型苗を対象に耐倒伏性に関して材料力学理論を基に検討した.キャベツ苗では,自重による倒伏が育苗中期で生じやすいこと,また,育苗後期になるほど自重による苗倒伏の可能性が低くなることが明らかにされた.さらに,移植時期の苗形状が収穫時期の茎形状に概ね引き継がれる傾向が明らかになった.
著者
富田 眞治 富田 真治 (1987) 吉田 紀彦 谷口 倫一郎 村上 和彰 福田 晃 末吉 敏則
出版者
九州大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本研究の主な成果を以下に示す。1.QA-2の総合的性能評価とアーキテクチャの再設計:研究代表者らが以前開発した超長形式機械命令型計算機QA-2のアーキテクチャを評価した結果、機械命令処理の高度パイプライン化、演算器個数に依存しない汎用の機械命令形式などの必要性が明らかになった。この結果、超長形式機械命令型計算機の発展形である単一命令流/多重命令パイプライン(SIMP)方式を考案した。この方式は、短形式機械命令を実装した演算器個数分づつまとめて同時にパイプライン処理することにより、命令処理の時間的かつ空間的な並列度を更に高めようとするものである。2.超長形式機械命令型計算機の試作機開発:SIMP方式に基づく試作機を開発した。開発した試作機は、浮動小数点演算器および固定小数点演算器それぞれ1個を1本の命令パイプラインの核として、4本の多量命令パイプラインを有するものである。命令実行の障害となるデータ依存関係および制御依存関係を実行時に解決するための動的コード・スケジュールリング・アルゴリズムを開発し、試作機に実装している。その結果、命令実行順序がオブジェクト・コード上の命令出現順序と異なるアウト・オブ・オーダー実行となる。本アルゴリズムは他のアルゴリズムと比べて、分岐命令実行の際の選択的な命令無効化、複数のデータ依存関係の検出・表現、分岐命令を跨いだアウト・オブ・オーダー実行および先行実行などが特徴的である。3.超長形式機械命令型計算機用の最適化コンパイラの開発:SIMP方式のための最適化コンパイラに採用する静的コード・スケジューリング・アルゴリズムとして、トレース・スケジューリング法、ソフトウェア・パイプライニング法,ポリサイクリック・スケジューリング法などの試作機への適用を検討した。
著者
奥野 和彦 松本 淳 城丸 春夫 阿知波 洋次
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

(1) SUS1/4"管の内部に8本の0.5φSUS線を張ったビームガイドを真空隔壁を貫通させた3段の差動排気システムにより、大気圧あるいは大気圧に近い圧力領域のイオン化室から生成イオンをガス流の電荷輸送特性とビームガイドのイオントラップ効果を活用して効率よく高真空領域に導いて質量分析ができる大気圧質量分析技術を開発した。(2) AP-LDIにおいてレーザーを回転させた試料塗布ディスク上に点収光させて超低速で走査する螺旋軌道照射させることにより低出力のレーザー光で脱離イオンを長時間安定に連続供給することに成功した。(3) AP-LDIにより生成したC_<60>-イオンのレーザー照射による電子脱離実験(C_<60>-+hn R C_<60>+e-)から、大気圧に近いAP-LDIイオン源で生成されビームガイド中をガス流とともに下流に搬送されてトラップされた分子イオンは運動エネルギーのみならず内部エネルギーも基底状態あるいはその近傍にまで十分冷却されていることが確認された
著者
小森 悟 黒瀬 良一 高垣 直尚 伊藤 靖仁 鈴木 直弥 鈴木 直弥 伊藤 靖仁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

上部に降雨装置を取り付けた風波水槽を用いた実験により,風波気液界面を通しての物質移動が降雨により促進されること,また,降雨およびウインドシアーが共存する場合の物質移動量がそれぞれ単独の物質移動量の足し合わせにより概ね予測可能であることを明らかにした.さらに,単一液滴の気液界面衝突現象に着目した実験と数値計算により,液滴の界面衝突が液側の表面更新渦を生成し,気液界面を通しての物質移動を促進することを明らかにした.
著者
古木 圭子
出版者
京都学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14〜16年度にわたり、主にニューヨークとロサンゼルス、およびミネソタ州ミネアポリスにおけるアジア系アメリカ演劇集団の調査を行い、合衆国におけるアジア系アメリカ演劇の受容と今後の発展性について考察を試みた。それぞれの地域において、アジア系アメリカ演劇集団は一定のコミュニティを築き、アジア系アメリカ文化を流布する芸術媒体として注目されている。しかし、地域コミュニティとの連携性にも関わらず、観客の多くはアジア系であり、非アジア系の観客が極めて少ない。また、今後もアジア系以外の観客に、アジア系演劇が広く受容される可能性が薄いこと、ブロードウェイを含むメジャーなアメリカ演劇界でのアジア系アメリカ演劇作品の上演はきわめて困難な状態にあることが、実際の劇場調査と演劇関係者との対談から明らかになった。ニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコを主な拠点とする西海岸では、アジア系アメリカ演劇は、アジア系のコミュニティによってサポートされているが、その恵まれた状況が、逆説的に、これらの集団がアジア系コミュニティの外に出ることを阻んでいると言える。しかし、アジア系の層が比較的薄いミネアポリスのTheater Muは、その幅広い活動によって、アジア系コミュニティの外側と交流を持つことに少なからず成功しているようである。新たな課題は、日系アメリカ演劇と日本国内の劇団および演劇関係者との交流を基盤としたアメリカ演劇の拡大である。ここ数年、日本国内ではWakako Yamauchi、Philip Kan Gotanda、Rick Shiomiを初めとする日系アメリカ/カナダ人劇作家の作品が次々と上演され、彼らの講演を中心とした意欲的なシンポジウムも東京、大阪で開催され、日本国内におけるアジア系(日系)アメリカ演劇の発展の可能性をうかがわせた。今後この分野における研究を進める予定である。
著者
筆保 弘徳
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

台風発生メカニズムの全容解明を目的とし、2種類の数値モデルを用いて、複数の台風発生事例の解析と感度実験を蓄積することで、研究代表者が提案する「段階式台風発生プロセス」仮説の検証を行った。まず、全球雲解像モデルで再現された複数の台風発生事例を解析し、仮説と同様の発生メカニズムを確認した。さらに、理想台風モデルで再現された台風に収支解析と診断を行い、システムスケール発達プロセスの定量的な理解を得た。
著者
石光 泰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、舞台芸術のなかでも最も研究の遅れている舞踊というジャンルを採りあげ、基本作業としてまず舞踊を身体表現として包括的に解明できるような身体論の構築を図り、その上で、この理論でもって、実際に舞台に現前する舞踊の身体を統一的かつ多角的に捉えなおす試みをし、この試みをつうじて、それぞれのパフォーマンスの個性を浮かびあがらせるとともに、その現代的意義ならびに歴史的意義を明らかにしようとするものであった。そのために本研究は、1初年度から一貫して、舞踊する身体の理解に適用できるような身体論を、とくに精神分析に基礎をおいて確立することをめざし、その方面での研究成果を順次発表していった。2精神分析学を基にした身体論によって、新たな視点から近代西欧の舞踊の歴史を洗い直し、その現代舞踊における展開を必然たらしめるような、一貫したパースペクティヴを呈示できるような論文を発表した。特に近代西欧の舞踊の起源ともいうべきバレエがヒステリー的身体であることを明示する論文には力点をおいて作成するようにした。3現代日本において、パフォーミング・アーツを西欧とは異なる位相で独創的に実践するためには、日本の伝統的な舞踊との交錯が不可欠である。したがって1で得られた身体論が日本の古典芸能にどこまで適用できるかを慎重に考量し、日本の伝統的な身体表現を西欧起源のものと接続できるような座標軸を作るための論文を発表した。4洋の東西を問わず、理論的な成果を実際の舞踊公演等にフィードバックできるような試みをいくつか行った。そのさいに、コンピュータやデジタル機器による身体表現の構成を様々に実験して、きわめて有効な成果をあげることができた。
著者
青崎 敏彦
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2009

常同行動に関連する神経回路の一部である線条体ストリオソームの投射ニューロンはμオピオイド受容体を持つが、このμオピオイド受容体はムスカリン受容体と拮抗していた。行動パターン形成時のアセチルコリンの放出低下はprotein kinase Cの低下を来たし、μオピオイド受容体活性化による線条体ニューロンに対する抑制性シナプス後電流の抑制を更に増強することによってストリオソームの活動を脱抑制する。
著者
金田 章宏 松本 泰丈 HOLDA M・A
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

当該の研究期間における研究成果の概要は以下のとおりである。1.八丈方言の文法書を作成した。これはまだ草稿段階のものであり、こんごこれをもとに、練習問題や発展問題などを充実させて学校教育における副読本として利用できるレベルのテキストにまで完成度を上げることで、消滅の危機に瀕した方言再生の手がかりとなる可能性がある。2.過去に録音された八丈島の談話資料をローマ字とカナで文字化し、対訳を付した。これまでに代表者がかかわってきた八丈方言民話・談話資料作成の一環であり、研究期間終了後も継続して進められる予定である。3.八丈方言とのかかわりを念頭に、奄美方言の文法を記述した。分担者である松本がこれまでに行なってきた八丈・琉球方言比較研究の一部となるものであり、代表者が現在個人で行なっている八丈・八重山方言比較研究とも深く関連するものである。4.研究成果の一部を国際会議で発表した。関連する内容についてはこれ以前にも国際会議で発表を行なっているが、今回の研究期間にかかわるものだけを報告書に掲載する。さらに、分担者であるホウダは他言語との対照研究に重点を置いた別稿を準備中である。5.国語研究所に保存されていた八丈方言資料(カードで保存)を電子化し、検索可能なものとした。これにより、文法研究の深化に比べて方言辞典作成の面で遅れていた部分を多少なりとも補うという可能性がでてきた。これについては報告書にも掲載するが、代表者のホームページでの公開も予定している。6.代表者のHPを開設し、過去の関連する科研の成果とあわせて、研究成果の公開を開始した。こんごさらに充実させていく予定である。http://student2.international.chiba-u.ac.jp/kaneda/index-htmlのなかの八丈方言資料
著者
工藤 哲夫
出版者
東京学芸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

1. 「話し合いの図解(ファシリテーショングラフィック)」の方法企業において合意形成活動のために開発された「ファシリテーション」では、自由度を高めることで、さまざまな可能性を探るのであるが、学校の授業現場においては、学習指導と生活指導において制約されることがある。「(1)一定の時間内に仕上げること。(2)全員が参加すること。(3)模造紙には関係のあることのみ書かせること。」などである。そのために、ファシリテーションにより話し合いの過程を模造紙に書く際に、ある程度細かい指示を与える必要があることが分かった。以下のように集約される(1) 学習活動(話し合いの手順)○ 個人で意見をまとめる1.今の自分の考えを書く。○ 話合い(話合いの過程を「見える化」する。原則として模造紙一枚使用。最初から最後までの全員の考えが見えるのであれば、一枚を超えても構わない。)2.司会者と記録者を決める。一人が兼ねてもよい。3.左側に全員の考えを書く。未完成の場合でも、そのまま書く。(個人の意見は尊重する。)4.話合いで班の結論をつくるために、話合いの様子を書く。5.時間短縮のため、余計なこと・絵はかかない。氏名は姓名またはイニシャルを使う。○ 発表(模造紙を黒板に貼って、発表する。発表者は原則的に一名。)6.班の話合いの過程と結論をはぐっきりと「見える化」するように発表する。7.質問を受ける。(発表班の誰もが答えて良い。)○ 聞き手(模造紙は、話し合いのためのものであり、聞き手に見せるためのものではないので、聞き手メモをとる。)8.ルーズリーフに書いた自分のものの周りにメモを書く。(2) 指導上の留意事項・ 自分の意見を必ずまとめる。わからない場合は、はっきりわからないとする。・ 話し合い中では、ひらめいたことなどが読みを発展させることがあるので、遠慮なく発言し、記録する。・ 通常の場合、相違点・類似点などから話し合いを発展させる。また、つぶやきも重視する。・ 考えを常に整理するために、全体の考えが把握できるように、模造紙は広げ、発言者の氏名も書く。2. 「話し合いの図解(ファシリテーショングラフィック)」の有効性この手法はおおむね好評である。生徒同士が最初の発言を確認し合うことは多く見られた。以下に生徒の感想の一つを示す。「最初は「何に気付いた」のか全くわからなかったけど、班で話し合っているうちに、「子供たちに押しつけて現実逃避している」ということに作者は気づいたということにたどりつくことができた。」3. 保存手段としてのハイビジョンビデオカメラの有効性生徒の発言の記録の方法として、ファシリテーションを援用し、模造紙に話し合いの過程を書かせたが、模造紙も大量に使用することになる。これを解決するために、模造紙に書かれた小さい字も読むことができるハイビジョンビデオカメラでの記録が大変有効である。