著者
山内 啓之 鶴岡 謙一 小倉 拓郎 田村 裕彦 早川 裕弌 飯塚 浩太郎 小口 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.169-179, 2022 (Released:2022-06-14)
参考文献数
25

近年,バーチャルリアリティ(VR)の技術が様々な分野の教育実践において注目されている.地理教育においてもVRを活用することで,対象者の地理的事象への関心や理解を向上できる可能性がある.そこで本研究では,仮想空間に再現した現実性の高い環境を観察したり,散策したりするVRのアプリケーションを構築した.対象は横浜市にある人工の横穴洞窟の「田谷の洞窟(田谷山瑜伽洞)」とした.アプリケーションは,田谷の洞窟保存実行委員会と研究者が連携して取得した洞窟内の三次元点群データと,筆者らが現地で撮影した全天球パノラマ画像,洞窟の小型模型,環境音を用いて構築した.アプリケーションの使用感と効果を評価するために,市民の交流イベントにおいてVRの体験会とアンケート調査を実施した.その結果,VRアプリケーションは,幅広い年代の利用者に体験の満足感や地理的事象に対する関心や理解を与えることが判明した.
著者
田中 義久 上山 健太 山上 佳男
出版者
公益社団法人 日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.2-10, 2021-01-01 (Released:2022-01-01)
参考文献数
16

本研究の目的は,「17段目のなぞ」を原題とし,高等学校の数列単元における発展的な探究課題を開発することである.このために,「17段目のなぞ」の特徴である周期性や,この教材に内在する条件を考察した.その結果,隣接三項間漸化式の係数を一般化し,隣接三項間漸化式の係数変化による周期性の違いを探究する課題として「17段目のなぞの発展」が開発された. 開発された探究課題「17段目のなぞの発展」は隣接三項間漸化式の係数を変化させることで,漸化式毎に周期の長さや「型」が異なることや,そこに現れる規則性を考察できるものである.この探究課題には,漸化式や整数の性質といった高等学校で新たに習得した数学を活用して理解できるよさや,原題である「17段目のなぞ」を周期の観点からより深く理解できるよさがある.加えて,原題を発展的に探究する過程を通じて「集合による統合」や「拡張による統合」という統合の考えを学ぶことができる特徴をもつ.
著者
叶 少瑜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.111-124, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
28

人は誰もが自分を他人と比べる(社会的比較)心理があり,これは現実世界のみならず,オンラインコンミュニティにおいてもよく行われる。本研究は大学生のTwitter使用,それにおける社会的比較と友人関係満足度との間にどのような関係が存在するのか,またユーザの個人特性(自尊心と自己効力感)とどう関係するのかを明らかにすることを目的としたものである。そのために,関東地域の国立大学に在籍する学部生を対象に質問紙調査を実施し,177名の有効回答者を対象に分析した結果,以下のことを明らかにした。(1)自尊心と自己効力感の高い人は自分の友人関係により満足していたが,個人特性からTwitter使用への効果は見られなかった。(2)Twitter上で他人の投稿をよく閲覧したり,リツイートしたり,「いいね」を押したりする人が他者と多くの社会的比較を行い,その結果友人関係満足度が下がった。(3)フォローしている相手が「大学入学後の友人・知人」の場合のみ社会的比較をする傾向は見られたが,同様の結果は相手が「大学入学前の友人・知人」,「実際に会う大学の友人・知人」と「大学の中の親友」の場合には見られなかった。本研究の結果から,Twitterを頻用する大学生にとっては,Twitter上の投稿者特に大学入学後に知り合った友人・知人のうちそれほど親しくない人との社会的比較を控えることが円滑な友人関係を保つには有効である可能性が示された。
著者
下光 利明 柳本 卓 岡本 誠
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.20-039, (Released:2021-02-26)
参考文献数
29

A single yellowtail specimen (514.0 mm standard length), collected in the open ocean of the central North Pacific (31˚38.3'N, 163˚24.5'W), was identified as Seriola aureovittata Temminck and Schlegel, 1845, following morphological observations and genetic analysis. Commonly believed to be distributed in coastal areas off East Asia, the species may occupy a wide range of habitat in the western and central North Pacific (supported also by previous fisheries records). Seriola dorsalis (Gill, 1863), a very similar congener, is distributed in the eastern North Pacific, the two species being considered separated by the East Pacific Barrier.
著者
岡野 由利
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.91-97, 2016-06-20 (Released:2017-03-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1

スキンケア化粧品の基本的な機能は皮膚の保湿である。皮膚の乾燥が肌荒れだけではなく,皮膚の老化の一因となっていることは,われわれは経験的に知っている。角層には水分を保つ機構が存在するが,その詳細が解明され始めたのは,20世紀の半ばになってからであった。市場の化粧品のコンセプトはこの皮膚科学の発展を商品に応用したものが多い。そのため,過去においては,天然保湿因子(NMF)と皮脂を模して,水分と保湿剤,油脂を含有する製剤がスキンケア商品として用いられてきた。皮膚科学の発展に伴い,セラミド,NMFを配合した製品,顆粒層に存在するタイトジャンクションに注目した素材を配合した製品,角層細胞の成熟に注目した製品が開発され,上市されてきた。さらに,過去には死んで剥がれ落ちると考えられていた角層が,スキンケア行為によって濡れてゆっくりと乾くことにより,バリア機能が向上し,皮膚の状態が健全に保たれることも報告された。本稿では,保湿にかかわる皮膚科学の進歩と関連したスキンケアコンセプトの変化について歴史的な変化も含めて述べる。
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.353-374, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
46
被引用文献数
8 3

本研究の目的は,東京の上野動物園と多摩動物公園を調査地として,来園者の空間利用を比較し,それぞれの空間利用の特性を明らかにすることである.来園者に対してアンケート調査とGPS調査を行った結果,空間利用に影響を与える要素として,経験と目的,主体年齢,利用形態という三つの来園者属性と,敷地形態,土地起伏,動物展示,休憩施設,水辺・緑地という五つの空間構成要素が抽出された.市街地型動物園である上野動物園では,休憩施設が来園者全体の空間利用に最も影響を与えていた.つまり,上野動物園は動物の観覧以外にも休憩の場所としての多様な用途を担っていた.一方,郊外型動物園の多摩動物公園では,動物展示が来園者全体の空間利用に最も影響していた.したがって,多摩動物公園は,動物を観覧する場所としての重要性を強く備えていた.
著者
山住 勝広
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.50-60, 2014 (Released:2015-04-25)
参考文献数
49
被引用文献数
3

今日,人間の活動は,文化的に多様な組織の間でのネットワークや協働など,新しい形態に向けて,急速にパラダイム転換している.本論文では,活動理論と拡張的学習の理論にもとづき,時や場所,あるいは階層レベルを横断するような,仕事の現場における新しい学習の形態について検討した.そのさい,ノットワーキングと呼ぶことのできる新しい協働のパターンに注目し,その中での学習と主体性の形成に焦点化した事例の分析を行った.
著者
柏木 雄太 田中 美佐子 新田 泰生 カシワギ ユウタ タナカ ミサコ ニッタ ヤスオ
出版者
神奈川大学心理相談センター
雑誌
心理相談研究 : 神奈川大学心理相談センター紀要 (ISSN:21855536)
巻号頁・発行日
no.11, pp.11-32, 2020-12-20

本研究では,臨床心理士を目指す大学院生の,学びに関する場面での傷つきにまつわる体験に焦点を当て,大学院を修了するまでの内的な変容プロセスについてのモデルを生成することを目的とした。5つの臨床心理系大学院(第一種指定)を修了した10名を対象に半構造化面接を実施してデータを収集し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的に分析した。その結果,臨床心理士を目指す大学院生は初期に,《臨床心理学文化の入り口に立つ》ことを経験する。ケースの開始と共に《ケースに出る未熟さ》と直面する。中期では〈限界を許せずに抱いてしまう怒り〉などからなる《未熟さから起こる学びの滞り》や,〈構造が守られないことから生まれる傷つき〉が起こる。終期では,《時間経過による不安と焦り》を経験する。また,〈自己変容へのストレス〉などからなる《深化する自己内省に伴う痛み》を経験し,大学院を修了する過程が示唆された。
著者
松井 直人
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.1-26, 2022 (Released:2023-04-20)

室町幕府にとって、都市京都、及び京都を包含する山城一国の支配を実現することは、政権の存立基盤を維持してゆくうえで重要な意味を持った。そのため、当該地域の支配の様相を探ることは室町幕府論に不可欠な課題といえる。しかし、京都支配に比して山城国支配に関する研究は停滞著しく、基礎的な点を含め、改めて総合的な検討を行う必要がある。そこで本稿では、領域支配の担い手であった山城守護を通じた幕府の山城国支配の展開を論じるとともに、同国を拠点とした室町幕府の特質に迫ることを目指した。 本論では、幕府開創期から応仁・文明の乱前後を主な検討期間として山城守護の機構や支配方式の展開を跡づけた。14世紀中葉以降、山城国では幕府の軍事統括者であった侍所が所領問題の対処にあたっていたが、14世紀末に幕府による隣国大和国に対する統制の実現を契機に、侍所権限の分割と山城守護の新設が行われ、国内支配機構の充実が図られた。また、足利義満の権勢が確立すると、義満は将軍直臣(結城満藤・高師英)を山城守護に任じ、彼らを手足として諸勢力との取次や諸役の徴収を担わせた。その後、15世紀前半には在京大名が守護職を巡役で担当する仕組みが定着する。しかし、15世紀中葉を境に、畠山氏が独自に守護権を行使して国内支配を進めたことで、幕府による国内支配の体制は衰退へと転じた。 以上からは、①将軍の直臣か、あるいは大名かという守護就任者の属性の違いが、幕府による山城国支配の方式に大きな影響を及ぼしたこと、②幕府の山城国支配は国内寺社本所領の保護を基調とし、守護自身による恣意的な国内支配は、15世紀中葉以降に本格的に進展したことなどが明らかとなる。このような幕府の山城国支配の様態からは、公家・武家・寺社勢力が並立する同国を拠点としたことで、彼らの間の複雑な利害関係を丸抱えする形で政権を成り立たせることとなった幕府権力の特質が見て取れる。
著者
家入 章 対馬 栄輝 加藤 浩 葉 清規 久保 佑介
出版者
The Society of Japanese Manual Physical Therapy
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.67-74, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
23

〔目的〕変形性股関節症(股OA)に対する徒手療法の効果について再調査することである。〔デザイン〕PRISMA声明を参考に作成したシステマティックレビュー。〔方法〕検索は,2022年3月31日まで実施し,MEDLINE/PubMed,Cochrane Library,Physiotherapy Evidence Database(PEDro)を使用した。対象は,40歳以上の股OA患者とした。〔結果〕4,630編の論文が特定され,適格基準を満たした13編の論文が選択された。本邦からの報告は無かった。12編はPEDroスケールで8点以上と高い研究の質を示した。徒手療法は,一般的治療や徒手療法を含まない治療と比べると股OAの痛み,身体機能,QOLの改善,質調整生存率(QALYs)の増加に有効であるとの報告が多かったが,効果を疑問視する報告も3編みられた。〔結論〕股OAに対する徒手療法の効果は他の治療と比べて明らかに効果があるとはいえない。本邦からの報告は皆無であるため独自の調査も望まれる。
著者
小森 政嗣 長岡 千賀
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-9, 2010
被引用文献数
1 4

本研究では,初回の心理臨床面接におけるクライエントとカウンセラーの対話の映像を解析し,2者の身体動作の関係を分析した.心理面接として高く評価された二つの事例(高評価群)と,高い評価が得られなかった二つの事例(低評価群)を含む,50分間のカウンセリング対話4事例の映像を分析した.加えて,高校教諭と高評価群のクライエントの間の,50分間の日常的な悩み相談2事例を分析した.すべての対話はロールプレイであった.各実験参加者の身体動作の大きさの時系列的変化を映像解析によって測定し,クライエントとカウンセラー/教諭の身体動作の時間的関係を移動相互相関分析により検討した.結果から,(1)カウンセラーの身体動作はクライエントの身体動作の約0.5秒後に起こる傾向があり,かつその傾向は50分間一貫していること,(2)この傾向は高評価群において特に顕著であること,(3)この傾向は悩み相談の2事例では確認されず,高校教師による悩み相談2事例の間で共通した傾向は認められないことが示された.
著者
柳澤 渓甫
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.76-86, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
98

近年の薬剤開発コストの増大に対し、計算機を用いて化合物群から薬剤候補化合物を選抜しようとするバーチャルスクリーニングは、化合物選抜のための化合物の合成やin vitro実験を必要としないことからコストの大幅削減につながることが期待されている。特に、タンパク質立体構造情報を用いたバーチャルスクリーニングでは、タンパク質と化合物との物理化学的な相互作用を評価し、化合物を選抜する。このため、既知の活性化合物の情報を必要とせず、新規構造を持つ薬剤候補化合物の選抜が可能である。本稿では、薬剤開発におけるタンパク質立体構造を用いたバーチャルスクリーニング手法について一連の流れを示し、近年の動向および研究事例について紹介する。

12 0 0 0 OA 講談太閤記

著者
神田伯竜 講演
出版者
柏原奎文堂
巻号頁・発行日
vol.姉川大合戦, 1903
著者
三島 利江子 Rieko MISHIMA
出版者
甲南大学
巻号頁・発行日
2023-03-31

本論文の目的は,眼球運動による脱感作と再処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing;以下, EMDR)の効果メカニズムを明らかにすることを長期的な目標にすえ,EMDRの特異的な特徴でありながらその効果について不明な点が多い両側性刺激(bilateral stimulation; 以下,BLS)に焦点を当て,その効果の検証を試みることであった。まず,EMDRのBLSにまつわる論争を概観し,手続きが曖昧なままになっている肯定的な記憶を扱うエクササイズ中のBLSを本研究のテーマとして扱うことを示した。また,BLSには3種類(眼球運動,触覚刺激,聴覚刺激)があり,どれを用いてもEMDRセラピーは成立するのであるが,実践の中で臨床家らが,触覚刺激(中でもタッピング)の利便性や強みを感じていることが推定される事例が増えており,本研究では触覚刺激に焦点を当てることとした。そして,触覚BLSに関する文献レヴューを行い,先行研究を整理した。その結果,EMDR研究の中では触覚刺激を扱った実証研究が非常に少ないこと,さらに触覚刺激の速度の違いを独立変数として検討したものがないことが判明した。現時点では,肯定的な記憶を扱うEMDRエクササイズ中は,BLSを用いても用いなくても構わないが,用いる場合は遅い速度で使用するという指針が出されているが,触覚BLSに関してその妥当性を裏付ける実証研究は存在していなかった。つまり,現時点の指針が,臨床上の印象が主な根拠となっており,神経生理学的な裏付けを伴ったものではないことが判明した。本研究では客観的な生理指標を判断材料として,方法の妥当性の検証を行いたいと考え,自律神経に着目した。実証研究では,肯定的な記憶を扱うエクササイズを,タッピングの有無の2条件で行い,主観評価と自律神経評価について調べた。その結果,主観と生理指標の結果に相違が見られたため,自律神経評価の方法論を検証する必要性が考えられた。そこで,次は複数ある心拍変動解析について調べ,事例を通してローレンツプロット解析の有用性を見出し,自律神経評価の信頼性を高めた。その上で,肯定的なイメージにひたる最中,タッピング刺激の速度だけを変えて実証研究を行った。探索的に用意した3種類のタッピング速度の中では,1回/1秒のときが自律神経系のパフォーマンスが良い結果であった。当該速度は3速度の中で心拍リズムに最も近い速度であったことから,今後は心拍数を考慮した速度の検証が必要と考えられた。最後に,本研究で明らかになったことと残されている課題を論じた。