著者
中丸 禎子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

2010年度は、これまでの研究を発表し、今後の研究の方向性をより具体的に定める準備を行った。前半は、主に、これまでの研究成果の発表に努めた。「セルマ・ラーゲルレーヴ『エルサレム』の「周縁」性」では、これまでの研究の軸となる概念「周縁性」を総括すると同時に、新たな分析対象『キリスト伝説集』におけるユダの身体的特徴を分析し、「ユダヤ人」の表象研究の開始点とした。後半は、ラーゲルレーヴ『ボルトガリエンの皇帝』を軸に、「狂人」に関する口頭発表および依頼原稿の執筆を行った。この研究では、「狂人」を「脚部障碍」と関連付けて論じることはできなかったものの、北欧文化の重要な背景であるキリスト教と太陽信仰の混在したあり方を、一般読者に理解できる形で、かつ批判的に論じることができた。本研究計画の課題は、「脚部障碍」と関連付けた各テーマがそれぞれ広がりを持つため、必要な情報・資料が膨大で、論が煩雑になる恐れがあることであった。2011年2月・3月は、ドイツおよびスウェーデンに渡航し、研究計画書のドイツ語訳・スウェーデン語訳をもとに、外国人研究者らとディスカッションを行い、今後の研究に関する具体的な助言や、資料の情報提供を受けた。また、非公式ではあるが、論文のスウェーデンでの出版に関する可能性を提示された。更に、これまでの研究成果「日本における北欧受容」に関して、スウェーデン語で口頭発表を行った。この発表では、日本人研究者として、スウェーデン人研究者に対して、ラーゲルレーヴや北欧文学の新しい見方を示すことができたのみならず、日本近代史に対する興味を喚起することにも成功した。
著者
渡邊 陽子
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は、前年度に選定した北海道内のエアロゾル濃度の異なると思われる地域(都市中心部、都市郊外および冷温帯林)における樹木に対するエアロゾルの影響を明らかにするために、エアロゾル濃度の測定および測定地域に生育する樹木の葉に対する影響について分析を行なった。エアロゾル濃度測定はフィルターパック法を用いて分析を行なった。その結果、都市中心部よりも冷温帯林ではエアロゾル濃度が低いことが明らかとなった。さらに、越境大気汚染物質の1つであるブラックカーボンについても葉面沈着量の分析を行ない、その結果、都市部で最も高く、冷温帯林で最も低かった。都市域におけるエアロゾルやブラックカーボンは都市内部に発生源が存在するが、冷温帯林については近くに発生源がないため、越境大気汚染物質由来であると考えられる。エアロゾルによる樹木への影響を明らかにするために、エアロゾル測定地域に生育するカバノキ属(シラカンバおよびダケカンバ)を選定し、着葉期間中に葉を定期的に採取し、SEM-EDXにより葉の表面に付着している粒子の顕微鏡観察および元素分析を行なった。その結果、都市中心部では葉に影響を及ぼすことが報告されているエアロゾル粒子が付着していることが明らかとなった。また、都市郊外では燃焼起源と考えられる粒子も観察された。これらの粒子は都市内部から発生したエアロゾルが付着したと考えられる。一方、冷温帯林の試料では土壌粒子が多く付着していたが、植物に影響を及ぼすと考えられる粒子は観察されなかった。また、各地域の供試木の葉のクロロフィル濃度を測定したが、地域による違いはみられなかった。本研究の結果から、北海道内では越境大気汚染物質由来のエアロゾル粒子が樹木の葉に付着していることが確認されたが、現時点では樹木への影響はみられないことが明らかとなった。
著者
一ノ瀬 俊明 白 迎玖 泉 岳樹 三上 岳彦
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2006年まで4年間の8月中旬に、復元河道近傍および河道より100m以内の5地点で、集中的な移動・定点観測による体感温熱指標SET^*の観測(温・湿度、風速、天空放射、地物表面温度)を行った。また、サーモカメラによる地物表面温度の観測、シンチロメーターによる上向き顕熱フラックスの観測、ソウル市政府が観測している大気汚染物質濃度の時系列解析などを行ってきた。CFDモデルによる数値シミュレーションからは、復元河道上を吹走する冷気が渦を巻きながら、河道に直交する街路へ南北同時に侵入する様子が計算された。2006年夏季に超音波風向・風速計などによる集中気象観測を行った結果では、河道上および河道南側80m付近で清渓川に沿った西風(海風)の強・弱に対応して、気温の下降・上昇が見られ、河川から周辺地域への冷却効果のプロセスが実証された。そこで2007年夏季の集中気象観測では、冷気の川面から周辺市街地へ輸送されるプロセスに関して、その発生源である河道内の気象学的なメカニズムを検証することを目的として、河川真中と南北川岸において、ポールを立て、鉛直(高さ別)に気温や湿度の測定を行った。清渓川の河川水による冷却効果については、川面に近い高度ほど気温が低く、水蒸気密度(絶対湿度)が大きい傾向が見られた。また、南側の鉛直分布に関しては、北側より相対的に気温が低い傾向が見られた。また地表面に近いほど気温が低くなっている傾向が見られた。一方、北側では日中地表面に近いほど気温が高くなっているのがしばしば観測されている。それらの要因としては南側沿道の地表面には植物が繁茂しているのに対し、北側の地表面はコンクリート面がむき出しになっていることが考えられる。以上の結果から南側河岸の方に冷気層が形成されている可能性が示唆された。
著者
宿谷 昌則
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、通風によって得られる「涼しさ」や昼光照明によって得られる「ほどよい明るさ」は、環境の物理要素がどのような変動をするときに得られるのかを被験者実験によって明らかにするとともに、人体エクセルギー収支と温冷感との対応関係を明らかにして、自然共生建築を計画するための基礎的な知見を得ることができた。以下に明らかになった内容を要約して示す。●設定温度25℃の冷房室では、空気温の変動が大きいにもかかわらず、温冷感申告の経時変化がほとんどなく、冷房室における温冷感の特徴は定常的で画一的であるのに対して、通風室では「汗をふく」などの行動が見られ、被験者の暑さへの対処方法は多様である。●「涼しさ」が得られるときの気流の振幅は、「涼しさ」が得られないときの2倍以上あり、気流の波形は、急激な上昇に引き続くゆっくりとした下降である。●ふだん昼光照明を行なうほとんどの被験者は、昼光照明を行なっている部屋で「ほどよく明るい」を申告し、窓から入ってくる光や屋外の様子から時間を把握していて、昼光照明のみの部屋では、申告した時間と実際の経過時間との差は最も小さい。●事務作業程度を行なっている人体が暑くも寒くもないような中立的な環境に置かれている場合、人体エクセルギー消費速度が最小になる。
著者
長谷川 雅康 渡辺 芳郎 田辺 征一 門 久義 池森 寛 土田 充義
出版者
鹿児島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

(1)反射炉;反射炉の発掘調査結果を種々検討した。重要な結果は、反射炉の基礎部分の寸法が、ヒューゲニンの技術書の寸法にほぼ一致する。2炉・2煙突をもつ基本的な反射炉で、2号炉である。水気防止や強度向上のための工夫と苦労が薩魔人独自の石組の緻密さに見られ、薩摩焼の陶工による耐火煉瓦の焼成が典型である。反射炉建造は壮大な集成館事業の種々採用された諸技術の中核をなし、日本の近代化の先駆的事業であったことが確認される。(2)建築,集成館事業の第一期斉彬時代に、外観は日本の伝統的木造建築で、柱間寸法と小屋組が特徴、機械設備を入れる広い内部空間確保のための試みがみられる。第二期忠義時代(薩英戦争後)は、石造機械工場や鹿児島紡績所の建築など大規模な洋風工場建築の時期。後者の建築には外国人と直接関わり、近代建築技術を摂取した。「薩州見取絵図」や写真・現地測量・地下探査調査結果を踏まえ、コンピュータ解析し、第二期の工場群配置図と模型を完成した。(3)水車動力,川上取水口での流量測定の結果及び磯地域で発見された当時の水路溝の落差・断面積から熔鉱炉や鑚開台で使用の在来型木製縦型上掛け水車の動力を見積った。国内外の水車の歴史を総括し、薩摩藩の鉱山や集成館の水車の技術史上の位置を考察した。(4)工作機械,尚古集成館所蔵のオランダ製形削り盤(重文)の各部の寸法を測定して、図面化した。また、その運動解析を行い、バイトの運動状態とストロークとの関連などを解明した。(5)紡績技術,2種類の「薩州見取絵図」にある綿繰機、広幅織機の絵図を詳察し、復元可能な製作図面を作成し、綿繰機復元に着手した。薩摩藩の綿繰機のわが国繊維技術史における位置付けを検討した。英国プラット社が鹿児島紡績所に輸出した機械類のリストを同国で見出し、従来の定説と比較検討した。
著者
倉渕 隆 長井 達夫 遠藤 智行 遠藤 智行
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

通風を効果的に利用できる窓の配置が設計段階で把握できることを目的として、住宅地を想定した実験とシミュレーションを行った結果、周りに建物が建っている場合でも、天窓を使うことで、涼しい外気を家の中により多く取り込めるようになることが明らかとなった。また、開ける窓の位置で室内の風の流れ方が変わり、特に天窓を風の出口に使用すると、室内に入った風が部屋全体で渦を巻き、より広い範囲で風が流れることで平均的な風速が高まることが明らかとなった。
著者
加藤 常員 小澤 一雅
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、日本考古学において重要な位置づけにある弥生時代の高地性集落遺跡および拠点集落遺跡のデータを地勢情報のデータベースと連携させ、実践の考古学研究に有効な支援を行う情報システムの開発・構築をめざした。具体的な研究支援システムでは、考古学および歴史学等で共通的な作業、あるいは研究過程を支援する汎用的なものと、特定研究課題に特化したものとが考えられる。汎用的な研究支援システムとして遺跡位置計測システムを構築した。これは、2万5千分1の数値地図を用い、地図上の位置をマウスクリックすることにより緯度・経度を取得するシステムである。このシステムは、考古学、人文科学に限らず位置情報を取得するシステムとして汎用的研究支援システムの好例である。特化した研究支援システムとしては、弥生社会の社会構成を考究するための弥生集落遺跡分布分析システムを構築した。このシステムは特定の課題に特化はしているが拡張性を有している点が重要であり、研究支援システムとして不可欠な要素と言え、構築したシステムは、実践的雛形と位置づけることが出来る。前者のシステムは、従前の作業を軽減し、データの信頼性、再現性を向上させる一般的な支援である。一方、後者のシステムは、考古学者等が頭の中で思い描いていたイメージを具現化し、より深化した思考へのヒントを提示する思考実験の装置と捉えることが出来る。すなわち、過去を探る、あるいは再現する道具であり、一種のシミュレーション装置であると言える。この視点は、考古学をはじめとする人文科学分へのコンピュータ応用にとって重要であり、研究活動支援のシステムの基底をなす考えであると思われる。構築したシステムは実践的研究支援の意義に符合するシステムであり、具体的な事例と位置づけられる。
著者
杉橋 陽一 長木 誠司 川中子 義勝 石光 泰夫 一條 麻美子 田中 純 中村 健之介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究からは芸術のメディア的戦略をめぐり、次のような成果が得られた。1.中世から近世への歴史的展開のなかで、文学や神学が印刷術などによるコミュニケーション上の組織化を通じて社会層や価値共同体の形成に寄与した実態が、実証的に究明された。2.身体表現を中心に複数の芸術が総合されて実現されたマルチ・メディア的な芸術の新しい情報伝達手法が、オペラやバレエ作品の実例に即し、歴史的に分析された。3.文学や文字メディアにおける俗語革命や出版の資本主義とその他のメディアによる情報流通のシステムの相互作用が、市民社会的共同体形成途上にあった近代のドイツにおける事例、および明治以降の近代日本における事例を相互比較しながら分析された。4.建築や音楽の言語性と象徴性が20世紀にかけて生じた機能性の増大と形態の抽象化等々の変動のなかで獲得した新たな意味論を、シェーンベルク以降の音楽および現代建築を対象として考究した。5.近代的な「イメージ」の成立機制を、19世紀に発明された写真というメディアをめぐる言説分析を通じて考察し、写真的<メディア戦略>のパラダイムの所在を追跡した。6.マクルーハン以降、現在のドゥブレによるメディオロジーやキットラーのメディア理論の批判的検討を行い、その理論的可能性を現代の舞踊・音楽などの芸術的実践の分析を通じて探究した。7.メディア・アートの領域において、芸術家同士、あるいは技術メディア自体のインタラクティヴな活動がはらむ新たな芸術形態の可能性を、現在の多様な創作状況に即して検証した。
著者
東畑 郁生 風間 基樹 柳沢 栄司 杉戸 真太 片田 敏行 岩下 和義 大川 出 石川 裕
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

既住の地盤の地震応答解析法が,軟弱地盤において振動を過小評価することを最大の問題としてきた。前年度までの活動で、軟弱地盤は硬い地盤よりゆれやすいと考えなければ被害の実態、あるいは過去の地震記録にあわないことも判明していた。そこで今年度は2とおりの解析方法を開発、あるいは提案した。第1の方法は、既住の等価線形化手法に周波数依存性の考えを取り込んだ。不規則な地震時加速度には低周波かから高周波まで、多くの成分が含まれている。低周波成分は変位やひずみを大きくし、高周波成分は最大加速度を発生する。また土の剛性や減衰比はひずみ振幅に依存する。大ひずみほど剛性は小さく減衰は激しい。従来の等価線形化解析では、算出された最大ひずみにもとづいて剛性と減衰比を調節してきた。そのためひずみの大きい低周波成分も歪の小さい高周波成分も、一律に同じ剛性と減衰比を与えられていた。最大加速度を与える高周波成分が、歪は小さいにもかかわらず、低周波成分の大きな歪に影響されて過大な減衰を与えられてきた。その結果、最大加速度は過小評価された。新しい手法では、周波数成分ごとに歪を評価し、それに応じて剛性と,減衰比とを独立に決定している。高周波成分の減衰比は小さくなり、最大加速度をより妥当に評価できるようになった。第二の方法では、地層の連続性という概念を導入した。沖積地盤は過去1万年あまりの連続した堆積作用の結果できた。堆積した土質は、一時時な洪水堆積物を除くと、連続である。土の年齢も連続であり、有効応力も深さ方向に連続である。したがって、土の動的性質は深さ方向に変化はしても連続である。この連続性が当てはまらないのは、地質学でいう不整合部分である。既住の解析では地盤を層や要素に分割し、層間では物性が連続していない。そのため余分な波動反射が起こり、振動エネルギーが地表まで到達しにくくなっている。そしてその度合は高周波ほど著しい。新しい解析では剛性が深さ方向に連続するものとしている。剛性を深さのべき関数としてあたえ、地盤振動の微分方程式を解析的に解いた。それによると地表付近に軟弱層が厚く存在しているときほど、連続性を考慮したことによる増幅特性の増加が著しい。現在までに減衰比も考慮した解析理論ができており、今後不規則振動と土の非線形性を考慮に入れていきたい。以上の成果は今後の事例研究を通じ、有効性の確立に努めていく。
著者
金子 昌子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

研究1.〔目的〕震度5以上の地震発生時のICUにおける体験内容を明らかにする。〔方法〕震度5以上の地震を経験したICU看護師を対象に地震発生時の対応等について面接調査を行った。調査内容は、地震発生時の医療機器の動き,対処等をフリートーキングにより行った。〔結果及び考察〕震度5以上の地震をICU勤務中に経験した17名の看護師に協力を得た。勤務帯はいずれも深夜勤務帯であった。看護師1人当たり2〜3名の患者を受け持っていた。フリートーキングにより抽出された経験内容は、「1メートル以上の高さのある医療機器(透析機器・輸液スタンドなど)は揺れが大きく、転倒の危険を感じた」「輸液ボトルの落下の危険を感じた」「医療機器類のアラームは鳴らなかったがきしみや摩擦音など異常音を感じた」など12項目のカテゴリが抽出された。また対処行動は「患者の側に行った」「揺れの大きい医療機器を押さえた」など7項目が抽出された。以上の結果から、地震発生時ICU環境下において高さ1メートル以上の医療機器は不安定となり患者・看護師の安全性を脅かす危険性が高いことが明らかになった。研究2.〔目的〕揺れによる輸液スタンド転倒予防に向けた改善策を検討する。〔方法〕5脚輸液スタンドと輸液ポンプ装着位置による重心点と揺れによる動線を測定した。〔結果及び考察〕大型振動台上に(1)3脚輸液スタンド,(2)4脚輸液スタンド,(3)5脚輸液スタンド,(4)5脚輸液スタンドに輸液ポンプ設置の4種類の輸液スタンドを設置し、阪神淡路大震災時の揺れを(1)100%としてそれを基準に(2)50%,(3)125%,(4)150%,(5)200%で揺れを発生させ(1)一方向横,(2)一方向縦,(3)2方向,(4)垂直方向の4方向の加振を行い、動作解析を用いてそれぞれの動線を分析した結果、3脚輸液スタンドが転倒しやすく、5脚輸液スタンドが揺れによる影響が大きい。さらに輸液ポンプを装着している場合、装着側を軸として回転することが明らかになった。さらに安定性を確保するために重心計を用いて測定をした結果、輸液ポンプ位置は低位であるほど安定性は高くなるが、作業効率が低下する。そのため重心・動線と作業性の視点から検討した結果、輸液ポンプは輸液スタンドの中心点に設置することが望ましいと考えられた。
著者
岩井 儀雄
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,草木などの揺れにより背景領域を物体として検出してしまう問題と,背景色と同じ物体は抽出することが出来ない問題に対して,人物領域を安定に抽出する方法を開発する.しかしながら,この2つの問題はトレードオフの関係にあり,草木の揺れなどに対応しようとして,安易に背景の範囲を広げてしまうと,背景色が多くなり,物体の検出率が落ちてしまう.そのため,事例データベースに基づく手法により,安定的に人物領域を抽出できる手法を開発し,数値的には遜色のない抽出性能を得られた.
著者
水波 誠
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1)嗅覚学習訓練法の開発:コオロギおよびゴキブリにおいて、それぞれ4種類の異なる嗅覚学習訓練法の開発に成功し、研究の目的に応じて使い分けることが可能となった。2)ゴキブリとコオロギの嗅覚学習能力の解析:ゴキブリとコオロギがヒトに優るとも劣らない嗅覚学習の能力を持ち、匂い学習の中枢機構の研究材料として適していることが明らかになった。特にコオロギでは、幼虫期に一旦成立した記憶は生涯保持されること、同時に7組の匂いを記憶できること、明暗の状況に応じて異なる匂いを報酬と連合させる状況依存的嗅覚学習の能力があること、が明らかになった。これらは昆虫の嗅覚学習能力について新知見をもたらすものであった。3)キノコ体のNO(一酸化窒素)シグナル伝達系の嗅覚記憶形成への関与:コオロギを材料とした行動薬理学的な研究により、NOシグナル伝達系が匂いの長期記憶の形成に関与することが示唆された。また、NO含有細胞の組織化学的染色により、キノコ体にシグナル伝達系が存在することが示唆され、これが長期記憶の形成を担うものと推察された。4)ゴキブリの脳の基本配線についての研究:ゴキブリの頚部縦連合からの逆行性染色により脳の下降性ニューロンを網羅的に同定した。下降性ニューロンは235対あり、その細胞体は23のクラスターを形成していた。それらの樹状突起の脳内分布の詳細が明らかになり、その結果、脳の感覚中枢から胸部の運動中枢に到る脳内の信号の流れの全体像の推定が初めて可能となった。これらの成果をもとに、昆虫の脳の基本設計についての仮説を提案した。
著者
赤井 周司
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

加水分解酵素とバナジウム化合物を同時に用いることで,入手容易なラセミ体アリルアルコールを1つの鏡像体に変換する方法を開発した。この研究成果は医薬品開発などに不可欠な不斉合成技術に革新的な概念を提示するものである。また,酵素と金属バナジウムという共に高活性で異質な触媒が1つのフラスコ内で共存し,且つ機能を十分に発揮できるよう,メソポーラスシリカの細孔を利用して両触媒の作業空間を区分したことが特筆される。
著者
坂本 理郎 西尾 久美子
出版者
大手前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、キャリア初期にある若手社員の成長に対して、どのような態様の関係性が有効であるか、どのようにしてその関係性は形成されるかを探った。ある製造企業の大卒若手社員35名とその上司11名に対して、アンケートおよびインタビュー調査を実施した結果、相対的に高い成長を示す若手社員は、特定の上司や先輩との垂直的で濃密な人間関係を持つ者よりも、対象が比較的多様で緊密さが緩やかな人間関係を構築していることを確認することができた。
著者
矢部 京之助 鶴池 政明
出版者
大阪体育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、日常的にスポーツ活動を行っている脊髄損傷者(15名)の上肢と下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造について調査した。被験者の中、7名に対して8週間(5種目、10RM・3セット、週3日)の上肢筋力トレーニングを実施させ、トレーニング前後の変化を測定した。結果は以下のようにまとめられる。1.スポーツ活動を行っている脊髄損傷者の上肢・下肢の安静時血流量は、健常者とほぼ同じ値であった。麻痺部の下肢が健常者と同等であった理由は、日常のスポーツ活動の効果と推察された。2.血管拡張能力は、健常者に比べ、上肢は優れていたが、下肢は劣り、拡張時間も延長する傾向が見られた。これは、脊髄損傷による自律神経機能の欠如が関連していることと示唆された。3.8週間の上肢筋力トレーニングは、上肢と下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造に大きな変化を及ぼさなかった。これは、被験者の循環系機能が日常のスポーツ活動ですでに十分向上していたためと推察された。4.4週間の筋力トレーニング後、血圧の上昇が見られた。4週間でトレーニングを中止した被験者は、その後4週間でトレーニング実施前の血圧値に戻った。8週間トレーニングを継続した被験者は、さらに血圧が上昇する傾向にあった。しかし、全被験者のトレーニング後の血圧値は正常範囲内であった。以上の結果より、脊髄損傷者の日常的なスポーツ活動は、上肢の血管拡張能力を高め、下肢の安静時血流量を維持することが明らかになった。また、8週間の上肢筋力トレーニングは、上肢・下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造に効果を及ぼすには至らなかった。これは、今回の被験者が現在継続しているスポーツ活動で上肢と下肢の筋系および末梢循環系の機能と構造が十分に発達していたためではないかと推察された。さらに脊髄損傷者が筋力トレーニングを行う際には血圧の管理が必要であることが示唆された。
著者
竹下 香寿美
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は,様々な周期で運動を行わせたときの筋線維と腱組織の長さ変化及び関節角度との関連について異なる負荷条件下において検討した.被検者は,健康な成人男性7名(平均23.1、±2.4歳,身長170.8±6.6cm,体重64.9±9.2kg)であった.踵を上げた状態から踵を下げ,その後すばやく元の位置に戻すという足関節底屈〜背屈〜底屈という一連の動作を連続して行わせた.運動はすべて角度を変化させることができるスレッジ台上で行い,運動時の負荷条件を変化させるために床面とスレッジ装置の角度は30°または60°となるように設定した.被検者が足を載せる部分に床反力を測定するためのフォースプレートを設置した.運動周波数は,1Hz,2Hz,3Hzとし,運動の頻度を規定するためにメトロノームの電子音に運動を合わせるように指示した.床反力と同時に足関節及び膝関節角度変化を測定するために被検者の右側方よりハイスピードカメラで撮影した.また,超音波診断装置を用いて運動中の腓腹筋内側頭の超音波縦断画像を取得し,筋束長,羽状角を計測した.腓腹筋内側頭,腓腹筋外側頭,ヒラメ筋,前脛骨節より表面筋電図を導出し記録した.本研究の結果,運動時の筋-腱複合体の長さ変化に対する筋束長の長さ変化の割合は,スレッジ台30°試行では,1Hzに対して2Hz,3Hzともに長さ変化の割合が低くなり(p<0.05),一方,スレッジ台60°試行においては運動頻度が高くなるにつれて長さ変化の割合が有意に小さくなった(1Hz vs 2Hz:P<0.05,2Hz vs 3Hz:P<0.01)ことから,周期的な運動を様々な頻度で実施する場合,筋-腱複合体の働き,すなわち,筋の力発揮及び腱組織の弾性体としての働きの兼ね合いは,運動時の負荷条件が異なることにより至適に働く周波数が異なることが示唆された.
著者
梅本 優子
出版者
和歌山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

少人数教育が,従来のシステムよりもどのような優れたカリキュラムや教育方法を生み出せるのか,その可能性とカリキュラム開発の内実を,平成20年4月から平成21年3月まで,定数30名の第1学年3学級と第2学年3学級及び,定数16名の1.2年複式学級の生活科の実践を中心に明らかにしてきた。カリキュラム開発ならびに教材開発の実際は,以下のとおりである。生活科における『附属っ子ミュニケーション"和み"大作戦!』プログラムの設定○ 構内に咲く花を活けたり,煎茶や基礎的な茶道,和菓子や箸袋作り体験等,現代生活の中で消えつつある日本のよき自然・季節感,伝統文化,生活習慣などを取り入れたプログラムを作成し,授業実践した。○ 学習活動の中で,『和歌山城内の茶室での茶会』や子どもたち主催の『夏祭り茶会』等も行った。地域活動参画の一環として,青年会議所主催『秋季茶会』,ならびに『和歌浦万葉薪能』等にも参加した。○ 図工科・食育等,他教科・領域等との関連を図った。菓子皿作りの陶芸カリキュラムの実践も試みた。○ 保護者による"和み"ボランティアを結成し,保護者参画授業のモデルを示すことができた。本研究実践の経過途中(平成20年12月)と事後(平成21年3月)に,児童ならびに保護者に質問紙調査を実施した。その結果,少人数で上記カリキュラムのもと学習してきた児童に,以下のことが明らかになった。○ 『日本のよき生活(衣食住)習慣』とともに『初歩的な礼儀・作法』を身につけ,『好ましい人間関係』を構築することができるようになった。○ 落ち着いた学級集団のなか,他教科の学習にも意欲的に取り組める児童が増えてきた。○ 初めて経験する初歩的な『活け花』や『茶道』が徐々に出来るようになり,成就感・達成感を生み,自己肯定感へと繋がった。また,30人という規模も,互いを認め合える学級集団として適切である。人間関係が希薄になりつつある社会の中で,今後さらに児童のよりよい人間関係の構築していくための学校教育の在り方を探っていく必要がある。また,中・高学年の児童にも教育効果がもたされると思われる。
著者
山下 巖 淺間 正道 前野 博
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の成果として、1)ブレンディドラーニングにおけるe-ラーニングと教室内対面授業の連携をより密にしたプレ・コア連動型モデルの開発に着手したこと、2)ウェブ上に形成した学習コミュニティが予備教育の場として機能したこと、3)ムードルが成績不振者の学習活性化や学習支援に大きな役割を果たす可能性があることなどが揚げられる。特に第1点目に関しては、単なるe-ラーニングと対面学習とを組み合わせただけに留まらず、ウェブ・コミュニティを活用した知識探求型学習と教室内における発表を主体とした知識活用型学習との組み合わせにより、大きな学習効果が期待できる。また、ムードルを活用した成績不振者の学習サポートも、スマートフォンの本格的普及により大きな学習効果へとつながった。
著者
石川 義孝 宮澤 仁 竹ノ下 弘久 中谷 友樹 西原 純 千葉 立也 神谷 浩夫 杜 国慶 山本 健兒 高畑 幸 竹下 修子 片岡 博美 花岡 和聖 是川 夕
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

わが国在住の外国人による人口減少国日本への具体的貢献の方法や程度は、彼らの国籍、在留資格などに応じて多様であるうえ、国内での地域差も大きい。しかも、外国人は多岐にわたる職業に従事しており、現代日本に対する彼らの貢献は必ずしも顕著とは言えない。また、外国人女性や国際結婚カップル女性による出生率は、日本人女性の出生率と同程度か、より低い水準にある。一部の地方自治体による地道な支援施策が注目される一方、国による社会統合策は不十分であり前進が望まれる。
著者
萩原 芳幸
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

直径3.75mm,長さ13.10mm のインプラントを超硬質石膏に埋入し,ConicalおよびUCLAアバットメントを介して金合金製の下顎小臼歯形態のクラウンを5,10,20,32Ncmの条件にて固定した.ペリオテストによる衝撃振動をFFTアナライザーにてフーリエ変換し振動波形と周波数スペクトラムとして求めた.ConicalおよびUCLAともに締結トルクが強くなるに従い振動持続時間は短くなる傾向を示した。また,両アバットメントともにトルクが強くなるに従いピーク周波数も高くなる傾向を示し,特にConicalにおいては10Ncm以上のトルクで固定してもピーク周波数に影響がなく,10Ncmと20Ncm間,20Ncmと32Ncm間を除く全ての条件間で有意差が認められた.また,UCLAでは32Ncmで最も高い値を示した.上部構造体は審美性を考慮した材質が種々用いられるが,その違いが振動特性に与える影響についての報告は少ない.上部構造体は陶材焼付鋳造冠(PFM),エステニア(ES)および即時重合レジン(Ull)にて同一外形を有する下顎小臼歯形態の単冠を作製し,20Ncmで固定した.Conicalにおける振動持続時間はPFM, ES, Ullともに6.5msec前後であり有意差はなかった.またピーク周波数もPFM, ES, Ullともに2.65KHz前後で有意差はなかった.UCLAにおける平均振動持続時間(msec)は,PFM(3.56),ES(3.44),Ull(4.18)で,PFMとUllおよびESとUll間に有意差があった.また平均ピーク周波数(KHz)は,PFM(3.85),ES(3.84),Ull(2.98)で,PFMとUllおよびESとUll間に有意差があった.Conicalを使用した場合は,アバットメント自体およびネジ止め機構が衝撃を吸収し,上部構造体材質の影響が顕著に現れなかった.一方UCLAでは,インプラント体に上部構造が直接ネジ止めされるため,上部構造体材質の影響が振動時間およびピーク周波数に直接反映したものと思われる.臨床的には、緊密咬合・パラファンクション・グループファンクションなどの症例において,UCLAを使用する際には上部構造体材質の慎重な選択が要求される.