著者
吉村 昇 長谷川 誠一 鈴木 雅史
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

有機系絶縁材料は,電気的・機械的特性が優れているため、無機系材料に代わって配電機器材として広く使用されている.しかし有機絶縁材料は,トラッキング劣化やトリ-イング劣化などの有機系材料特有の絶縁劣化と絶縁破壊現象を起こすことが知られている.特にトラッキング劣化は,有機絶縁材料の信頼性と寿命特性を検討する上で非常に重要である.一方で,環境問題として公害の悪化,汚染物質の長距離越境輸送などによる酸性雨問題が注目され,これが屋外で使用される有機絶縁材料に及ぼす影響が懸念されている.本研究では以上の点を考慮し,有機絶縁材料の耐トラッキング性に及ぼす酸性雨の影響,劣化過程を総合的に検討し,その劣化機構を解明することを目的とした.その結果,酸性雨は有機絶縁材料の耐トラッキング性を大きく低下させることを示し,酸性雨が汚染物質としての外的要因で作用する場合と,荷電時の電解液として作用する場合の双方の影響とその劣化過程を明らかにした.また,それぞれのパラメータの経時変化を実験的見地から検討し,それぞれの劣化機構を明らかにした.
著者
山中 玲子 西野 春雄 伊海 孝充 宮本 圭造 橋本 朝生 表 きよし 小秋元 段 小秋元 段 橋本 朝生 表 きよし 竹本 幹夫
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

4年間の全国的な調査により、従来知られていなかった資料を含む多くの能楽関係資料の伝存を確認し得た。これらの資料から収集した能楽関係記事を比較分析することで、諸藩の能楽が従来知られていた以上に多様な担い手によって支えられていたこと、お抱え役者に対する藩の全面的な管理とサポートの様態、藩の所有する能面・能装束の管理の実態など、江戸時代の能楽の具体的な姿を明らかにし、今後の能楽史研究を大きく進める基盤を築くことができた。
著者
安田 一郎 日比谷 紀之 大島 慶一郎 川崎 康寛 渡辺 豊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

H19年度においては、昨年度に引き続きロシア船を傭船し、約1週間(2007年8月下旬から9月上旬)にわたり千島列島海域の乱流計を用いた乱流直接観測を行うことができた。本年度観測では、昨年度機器の故障により十分な深さまで観測ができなかったブッソル海況西水道において1日連続観測を行うことができた。また、深い混合が予想されたブッソル海況東水道の1点、昨年度オホーツク海側で実施したウルップ海況太平洋側の3点、及び、ムシル海況4点で1日連続観測を行ったほか、重要な観測点で乱流・CTD観測を行うことができた。これらの観測により、千島列島海域には、一般的な中深層での乱流強度の約1万倍にも及ぶ1000cm2/secを越える鉛直拡散が起きていることが実証された。一方、1日の中でも潮汐流に応じて乱流強度は大きく変化すること、また、場所ごとに大きく変化することが明らかとなった。今後、さらに観測を行うとともに、長期観測データやモデルなどを用いてこの海域全体の寄与を明らかにしてゆく必要があることもわかった。また、これら乱流の直接観測データとCTDで取得された密度の鉛直方向の逆転から得られた間接的に乱流強度を比較した結果、乱流強度1桁の誤差範囲で間接的に乱流強度を見積もることができる手法を開発することができた。さらに、木の年輪から得られた長期気候指標北太平洋10年振動指数PDOに有意な18.6年潮汐振動周期を見出し、潮汐振動と気候との位相関係を明らかにした。これにより、日周潮汐の強い時期に、赤道域ではラニーニャ傾向、日本東方海域では高温、アリューシャン低気圧は弱い傾向になることがあきらかとなった。また、千島列島付近の日周潮汐が強い時期に表層の層厚が薄くなり、それが日本南岸まで伝搬することに関連して、本州南岸沿岸海域の栄養塩が上昇する傾向があることが明らかとなった。このように、千島列島付近および亜寒帯海域の潮汐混合は、広く北太平洋に大きな影響を与えていることが示唆された。
著者
黒瀬 大介
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

日本各地のイタドリ群落において病原菌の探索を行った結果,さび病菌2種,及び斑点病菌1種が優先的に分布していることが明らかとなった.しかしながら,さび病菌2種については,異種寄生性あるいは英国産自生植物に対して病原性を示すことが判明した.一方,斑点病については年間を通した経時的な定点調査に基づき,病斑が初春から群落全体にわたり急速に形成され,梅雨時には激しい病徴を呈し,晩秋には全ての罹病葉が落葉することが確認された.本病原菌の系統分類学的な位置づけを詳細に解析し,新たにイタドリ斑点病菌Mycosphaerella polygoni-cuspidatiとして再記載するとともに,本属関連糸状菌1種を新種(M.shimabarensis)として提案した.さらに斑点病菌の生活環は不完全世代をもたず偽子嚢殻及び精子器のみを有し,群落内で完結することを解明した.子嚢胞子の形成はin vivoで認められず,菌糸体が感染能を示すことから種源としての利用の可能性が想定された.そのため斑点病菌菌糸体のイタドリに対する最適発病条件を提示するとともに,イタドリに特異的に病原性を示すことを実証した.これらの結果について取り纏め,論文発表を行った.また国内学会では、4月に平成20年度目本植物病理学会大会(松江),7月に日本微生物資源学会第15回大会(千葉),3月に平成21年度日本植物病理学会大会(山形)に参加した.また8月には9th International Congress of Plant Pathology(Torino,Italy)国際学会にも参加した。
著者
白井 汪芳 宮田 清蔵 東原 秀和 八森 章 鳥海 浩一郎 梶原 莞爾 清水 義雄 白井 汪芳 中沢 賢
出版者
信州大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1998

平成10年度から5年間の先進繊維技術科学に関する研究拠点形成について、研究業績、拠点形成、国際ネットワーク形成等についてまとめ、21世紀COE先進ファイバー工学研究教育拠点への移行を進めた。研究業績面では、8班による研究により、多くの研究論文、特許、事業化を行い、このような基礎研究がナノファイバーテクノロジーの開発、ハイパフォーマンス繊維の開発、新バイオファイバーの開発、オプトエレクトロニクス繊維およびデバイス化技術、環境・ヘルスケア機能繊維開発、特殊機能系、不織布およびそれらの生産システム開発、繊維生産ロボティクス、感性産業要素技術開発など新しい繊維総合科学技術に向けての実績を得た。本COE研究では、萌芽・基礎研究、応用研究から事業化・起業化へ向けての産学連携プロジェクト研究までを行ってきたが、開発研究を行う産学連携拠点としては研究交流促進法の全国で2例目になる、アサマ・リサーチエクステンションセンター(AREC)をキャンパス内に設置し、平成13年2月より稼動させ、5テーマの開発研究に着手した。さらに、国際ネットワークの形成としては、平成14年度は11月に第2回先端繊維上田会議、第2回アジア若手繊維科学技術会議、第1回日米欧3極会議を上田市内のホテルおよび信州大学繊維学部内で開催した。8月にはアジア繊維学会発会式を韓国大邱市嶺南大学で開催し、本拠点が事務局となることを決定した。
著者
竹村 和久
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、過程追跡技法などの心理学的方法論や数理計量的方法論を用いて、社会経済環境における判断と意思決定現象を解明し、社会経済現象を意思決定過程分析より明らかにすることであった。意思決定過程は、我々の社会生活や社会経済環境において容易に見出される現象であり、人々は、このような社会経済環境の中で意思決定を行っているのである。それ故、社会経済環境での意思決定過程に関する研究は、社会経済現象の理解にとって有用であると考えることができる。意思決定現象を説明する上では、効用理論が代表的な理論である。効用理論は、多くの意思決定現象を説明することに成功しているが、意思決定の記述の仕方や意思決定手順やその他の外的課題状況の影響による状況依存的意思決定を説明することには成功していない。例えば、トゥベルスキーとカーネマンが示したように、客観的には同じ意思決定問題であっても、その意思決定問題の記述が異なることによって、その心的構成が変化して、異なる意思決定の結果になるような現象が存在するのである。本研究では、まず第一に、なぜ効用理論の体系が状況依存的意思決定を説明できないのかを明らかにした。この効用理論には、ランク依存効用理論のような非線形効用理論でさえ含まれることを指摘した。第二には、社会経済環境における状況依存的意思決定を説明する新しい意思決定の定性的モデルを提案した。第三には、社会調査や面接技法や理論的分析を通じて、判断と意思決定に関する社会状況の基本的なタイプを明らかにした。第四には、いくつかの心理実験を通じて、社会経済現象における状況依存的判断と意思決定の定性的特徴と定量的特徴を明らかにした。第五には、過程追跡技法などを用いてリスク判断や意思決定の認知過程の定性的特徴を明らかにした。第六には、心理実験や社会調査の知見をもとに、ファジィ集合論を用いた心理計量モデルや社会経済環境における判断と意思決定を説明する数理モデルを作成した。これらの知見は、国際学会や国内学会で発表された。また、いくつかの知見は、学術誌において公刊されている。
著者
野口 博史 黒沢 浩
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

プレアンコール期碑文出土報告地点の約70%を踏査し、これに基づいて土器・陶磁器の分布と変遷・レンガ中モミガラ約50件の実測と解析・寺院建築実測十数件が行われた。これらの関連から、カンボジア南部と北部では、境界は必ずしも明確ではないものの、モミガラ形態分布・土器・陶磁器の分布に相違が見られること、これらには時期的な連続性がある程度確認できることが明らかになり、碑文学的に指摘された国家形成における地域的な重点の相違と歴史的連続性が示唆された。
著者
木下 修一 吉岡 伸也
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

構造色は、自然界の巧みなナノ構造と光との複雑な相互作用の結果生じる発色現象である。これまで、モルフォチョウをはじめとした多くの生物の構造色が調べられてきたが、この現象を物理学的な見地から検討することは稀であった。今回は、電子顕微鏡を用いた構造決定、光学特性の測定、物理モデルの構築、電磁場シミュレーションの方法を行い、光とナノ構造間のフォトニクス相互作用、発色と視覚・認知との関係の一端を明らかにすることができた。
著者
熊 進
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.過去の言語資料を整理したことによって、歴史的言語データから、文法事項を網羅的に拾い上げ、言語変化の新しい事実を発掘した。2.フィールドワークを通じて、現在の方言のデータを収集した。現地に行って、フィールドワークを行い、現時点の成都方言を詳しく記録した。そのデータで、コーパスを作り、成都方言の全体像を明らかにした。3.認知言語学、語用論、類型論など一般言語学の理論を使って、方言データに対して分析を行い、成都方言の文法形式が生まれるメカニズムの解釈を試みた。また、それを論文の形でまとめ、学会で発表した。具体的に、以下の学会発表をした。a."形容詞+了"所表示的主観性變化 2006年04月 首届新時期漢語語言學理論建設與應用研究國際學術研討會 国際会議 中国・紹興b.從是非問句的語用効果看部分疑問詞的産生機制 2006年05月 第7回漢語詞彙・語意研討会 国際会議(台湾・新竹)c.成都方言における"説" 2007年01月 東京大学駒場中国語研究会 東京大学4.インフォーマントの協力を得て、四川方言の会話テキストを作り、四川方言の特徴を音韻・語彙・文法から浮き彫りにし、これからの研究者に貴重な資料を残している。5.研究成果を博士論文「成都方言の文法研究--文法化のアプローチ」にまとめた。
著者
小野 靖 河森 栄一郎 小野 靖
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

最終年度である本年度は、レーザー誘起蛍光(LIF)に用いる高速波長掃引(RAFS)色素レーザーの実用可能性の検証を行った。また、高速光強度計測系及びモノクロメーター系を構築し、東京大学球状トカマク装置UTSTにおいてプラズマ流速計測を試みた。レーザーパルス1ショットで流速ベクトル計測を行う場合、波長掃引の時間が必要なこと、プラズマイオンの蛍光の寿命等の理由により、RAFS色素レーザーのパルス幅は長いことが望ましい。そこで、色素レーザーを励起するNd-YAGレーザーの長パルス化を、Qスイッチのオフアライメントにより行った。また、レーザーエネルギーとパルス幅の計測を行い、計算から見積もった、LIFに必要なエネルギーと比較した。その結果、長パルス化は、目標値100nsに対し20-30nsが限界であることがわかった。そのため今回は、レーザーパルス幅は長くせず、色素レーザー内蔵の回折格子の角度制御をレーザーのショットパイショットで行うことによる波長掃引とした。UTSTにおいて、ポロイダル流速計測用高速光計測系及びトロイダル流速計測系を構築し、ワッシャーガン生成プラズモイド、オーミック生成トカマクに対して流速計測を試みた。トロイダル流速計測精度は、音速の1/2~1/3程度であった。結論として、LIFに用いる波長掃引レーザーでは、時間分解能は落ちるが、ショットバイショット計測(現状で〜数十Hz)で行う方がよいこと、色素レーザーの代わりにダイオードレーザーを用いる選択もありうることがいえる。RAFSレーザーで、シングルショットでの波長スキャンも可能だが(PZT駆動エタロンで波長掃引速度は達成可能)、波長モニタ、メンテナンス等に問題が多い空間二次元トロイダル流速分布の導出は本手法で十分可能である。ただし、レーザーの迷光の除去が完了せず、ポロイダル流速の導出に対する評価までには至らなかった。
著者
松尾 光一 山口 徹 高田 康成 戸山 芳昭
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、発生過程と骨折治癒過程における内軟骨性骨化の起動メカニズムを解明した。発生過程の軟骨形成は正常で、骨折時の炎症性メディエーターの産生が低下しているトランスジェニックマウスを解析したところ、骨折線の融合不全を起こしていた。徐放性のPGE2ペレットを骨折線近傍に投与したところ、軟骨形成が回復し、骨折融合が促進された。すなわち、骨形成プログラムの起動メカニズムが発生過程と修復過程とで異なることが明らかになった。
著者
川平 友規
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.1990年代,リュービッチとミンスキーはクライン群に付随する3次元双曲多様体のアナロジーとして,複素力学系に付随する3次元双曲ラミネーションを定義した.特に,クライン群におけるモストウ剛性のアナロジーにより,ある種の複素力学系の剛性定理を証明している.一方で,3次元双曲多様体に比べ,3次元双曲ラミネーションの構造の詳細は未だ限られた例を除きほとんど知られていない.今年度は昨年度から引き続き,無限回くりこみ可能な2次多項式に付随するリーマン面ラミネーションの構造について研究(カブレラとの共同研究)し,以下の結果について論文を発表した:(1) 無限回くりこみ可能な2次多項式は,チューニング不変量と呼ばれる組み合わせ的な不変量(超吸引的な周期点をもつ2次多項式の列によって記述される)をもつ.一般に,無限回くりこみ可能な2次多項式が特異軌道が持続的回帰性をもつとき,その2次多項式に付随するリーマン面ラミネーションほチューニング不変量に2次多項式に付随するリーマン面ラミネーションと同相な「ブロック」を可算無限個つなぎ合わせることで「ほぼ」得られる.(2) 上記の性質を満たし,かつアプリオリ・バヴンドと呼ばれる幾何的な条件を満たす無限回くりこみ可能な2次多項式について,そのリーマン面ラミネーションと別の2次多項式のリーマン面ラミネーションが向きをこめて同相でれば,ふたつの2次多項式はおなじチューニング不変量をもつ.特に,マンデルブロー集合(2次多項式のパラメーター空間)が前者に対応する点において局所連結であれば,前者と後者は同じ2次多項式である.特に(2)は,力学系から得られる幾何学的な対象が逆に力学系を決定する,という意味で,モストウ剛性に近い剛性定理といえる.2. その他,放物的分岐におけるハウスドルフ次元の微分の評価,ゴールドバーグ・ミルナー予想の研究などを行った.
著者
平山 謙二 奈良 武司 グェン フイティエン 菊池 三穂子 柳 哲雄 三浦 左千夫 前村 浩二
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ボリビア国保健省のシャーガス病制圧プログラムと協力し、15 歳以下の小児の慢性感染患者に対するベンズニダゾールによる治療成績に影響を与える原虫および宿主側の因子を明らかにすることを目的として研究を行った。現地での拠点となった保健省熱帯病研究センター、シラニ病院、日本病院の研究協力者として本研究を企画し、サンタクルースの病院を基盤とした治療プログラムと本プロジェクト研究を開始することができた。治療効果とそれに伴うサイトカイン産生、さらに血中薬剤濃度などを測定を完了し薬剤反応性の多様性、原虫血症の推移、薬剤代謝の影響、免疫応答性の特徴などが明らかになり、遺伝的な背景との関連も示唆することができた。
著者
鈴木 絢女
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年、競争的な選挙を実施する一方で、政治的・市民的自由に相当な制限を加える「半権威主義体制」の存在が指摘され、典型例として、エジプト、シンガポール、ヨルダン、マレーシアなどがしばしばあげられる。このような政治体制において、政策や法律は、どのように作られ、運用されるのか。これまでの研究は、「半権威主義体制」が、政府や与党、多数派民族の意思によって成立するもので、社会アクターや野党、少数派民族は抑圧され、政策過程に十分なアクセスを持たないと論じてきた。しかし、これらの研究は、「半権威主義体制」が自由民主主義の「欠如態」にすぎないという前提から出発しているため、政策過程について十分な実証過程を行っていない。そこで、本研究は、「半権威主義体制」の骨格をなす政治的権利を制限する法の立法過程と、そのような法の下での経済政策策定過程を、議会議事録と新聞、雑誌等報道、インタビューから明らかにし、マレーシアの「半権威主義体制」について、新たな見方を提示することを目指した。結論として、(1)主要な立法が、実際には政府、与党、多数派民族のみならず、社会アクター、野党、少数派民族も含めた包括的過程を経て成立していること、(2)(1)の帰結として、主要な立法は、様々なアクターの要求を反映した内容を持ち、立場の異なるアクター同士で、互いの行為を縛り合う「箍のはめ合い」としての性格を持ち、政府でさえも、法律を濫用して社会アクターや野党を抑圧することはできないこと(3)(2)のような「拘束性」の故に、少数派民族や野党の政策過程への参加が保障され続け、長期経済政策等に影響を与える余地があることを示した。その上で、このような特徴を持つ体制が、持続性を持ちうることを示した。以上の知見は、単著『<民主政治>の自由と秩序:マレーシア政治体制論の再構築』としてまとめ、2010年3月に京都大学学術出版会から公刊した。
著者
水谷 修 米田 正人 甲斐 睦朗 賀集 寛 平野 健一郎 江川 清
出版者
国立国語研究所
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
1994

総括班:国際シンポジウム(「国際社会の日本語」,1998年12月16,17日於国連大学と総括班会議(3月18日)を実施した。研究班1(センサス):「日本語観国際センサス」の第3次調査を実施した(日本)。また,調査デー夕の整理,分析を行い,一部集計結果を国際シンポジウムおよび学会等で発表した。また,事例調査として「北米日系人社会と日本語新聞」,「海外マスメディア広告における日本語研究」に関して調査および研究会を継続して行い報告書を刊行した。「災害時言語対・策に関する研究」について調査,研究会を継続した。研究班2(文化摩擦):1. 理論研究 「多言語状況と日本語:」研究会の例会で,日本語の歴史的更新と多言語状況のなかでの変容について共同考察を進めてきた。日本語についてグループ特有の理解を得,「駒場『日本語』宣言」としてまとめた。2. 社会言語学研究社会言語語学・対照言語学的観点から行ってきた,日本語母語話者と日本語非母語話者の言語行動的接触の実態,及び国内における日本人の言語行動の特徴について,補充調査を行うとともに,得られたデータの分析に報告書の執筆にあたった。研究班3(実験言語):1. 文字言語研究 「朝日新聞」記事約11万件(延べ字数5500万)と,そのCD-ROMを対象に,電子メディアにおける漢字実態を明らかにする計量言語学的な資料が得られ,新聞社の著作権使用許可を得て本邦初公開した。2. 音声言語研究 99年3月19日に東京外国語大学において研究成果発表会・ワークショップを開催した。日本語韻律習得を支援するためのパソコンソフトのCD-ROMを参加者に配布した。3. 計算機実験研究 分類語彙表の増補用語数を訳9万語までに増補した。第二言語作文・翻訳にみられる第一言語の影響という視点で作文を調査分析し,研究報告書を作成し,データを公開した。研究班4(情報発信):1. 同時通訳技法の体系化 放送通訳・2か国語放送の場面で,日本語の「組み立て]がどのように影響するのか,外国人の理解を妨げているのは何か,などを探るにあたっての前提となる基礎的研究としてグループインタビュー(対象者14人)と在日外国人に対する質問紙調査(有効回答数218件)を実施し,考察を行った。2. コーパスの作成 雑誌『太陽』の15冊文を入力した。これで目標の4分の3に達したことになる。漢字の包摂基準について,報告書をまとめた。さらに1冊分だけ,ふりがなについて調べ,字音表記の傾向をつかんだ。3. 漢字コードの考察 漢字符号に設定する機能を構造の要素と構造及び構造間の関係を使い表現する方法の妥当性を核にするため,中国:語(簡体字・繁体字),日本語,韓国語の三カ国語を処理する漢字入力プログラムを作成し,実験結果を最終報告にまとめた。4. 言語教育方法の確立 第3次段階調査研究のまとめとして以下の事項を行った。(1)新学習指導要領策定に資する基礎資料作成(2)国語教育・日本語教育に関する質問紙調査(3)学校教科書に関する分析(4)基本語彙研究に関する分析(5)公開研究会の開催(6)ホームページで資料公開(http://www.kokken.go.jp/jsl)(7)報告書作成
著者
西田 佐知子 西田 隆義 内貴 章世 市岡 孝朗 西田 隆義 内貴 章世 市岡 孝朗
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

他生物との共進化を類推させながらも、その多様化の原因や経緯が明らかではない器官に「ダニ室」がある。本研究ではガマズミ属植物を用い、ダニ室の形態・生態的多様性の実態を明らかにするため、形態学、分子系統樹との比較、生態学の調査を行った。その結果、45の調査種で、ダニ室の有無は地域・系統などでは分かれなかった。ダニ室の多くは毛束型だった。同地域の形態が異なるダニ室、同じ形態でも違う地域のダニ室、同地域で同形態だが違う季節のダニ室では、それぞれダニの種類や数が、一部重複はするものの異なった。これらの結果から、ガマズミ属のダニ室は環境に応じて並行的に進化し、特定のダニとの強い共生関係より、緩やかで多様な関係を保つ共生器官として機能している可能性が示唆された。
著者
櫻井 治男 牟禮 仁 本澤 雅史 河野 訓 塚本 明 藤本 頼生 石原 佳樹 八幡 崇経
出版者
皇學館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、(1)神仏分離時期の行政文書(廃仏毀釈・神葬祭関係が中心)のデジタル画像化と公開、(2)寺院を中心とした廃仏毀釈状況の検証、(3)新たな葬儀形式である神葬祭の受容期における寺院と人々との関係などについて研究を進展させることを主な目的とした。それぞれの成果の概要は次の通りである。(1)については、三重県庁所蔵の関係行政文書、約5000枚のデジタル画像化を行ない、三重県史編纂室、皇學館大学、三重大学の3か所においてパーソナル・コンピューターによって閲覧することを可能とした。また、三重県神社庁所蔵の関係文書および神宮文庫において研究上重要な史料の存在を確認することができた。但し、これらの史料は膨大な量に及び、研究の推進上はその一部を活用するにとどまっており、今後の研究課題として残された。(2)寺院を中心とした廃仏毀釈状況の検証は、なお時間をかけて明らかにすべき課題である。本研究では、関係史資料(文書・絵図)の確認と一部資料の収集を試みたが、内容的な検討は必ずしもできず今後の研究展開に委ねることとなった。しかしながら、関係資料の一部を研究報告書に収録し、研究基盤の一端を公開する役割を担うことができた。(3)の神葬祭化の問題は、本研究グループが主体となり行なったシンポジウムを通して、研究の方向性や観点などを明らかにすることができたが、実生活における状況の解明や、更なる史料の収集および内容検討は今後の課題となった。
著者
太田 至 内海 成治 佐藤 俊 北村 光二 作道 信介 河合 香吏 内海 成治 佐藤 俊 北村 光二 作道 信介 河合 香吏 曽我 亨 湖中 真哉 内藤 直樹 孫 暁剛 中村 香子 波佐間 逸博 佐川 徹 白石 壮一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、第一に、アフリカの乾燥地域に分布する牧畜社会の人々が歴史的に培ってきた知識や技術、社会関係や文化など(「ローカル・プラクティス(LP)」)を再評価すること、第二には、この社会の開発=発展のためにLP を活用する道を探究することである。東アフリカの4カ国、12民族について現地調査を実施し、人々がLPに基づきながら激動する生態・社会環境に対処している様態を解明し、LPが開発=発展に対してもつ潜在力を総合的に再評価し、それを援用する道に関する考察を深めた。
著者
清水 唯一朗
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では戦前日本の二大政党制下における政官関係の研究をベースに、現代日本で現出しつつある戦前日本の二大政党制下における政官関係との比較分析を行った。特に2009年の政権交代以降進行しつつある政治主導と公務員制度改革について、政権交代と政界再編、官僚の政治任用と党派化の問題から現代に有効な知見を得ることができた。それらの成果については『法学研究』などの学会誌をはじめ『朝日新聞』『WEDGE』など一般紙に発表し、現在、書籍としてまとめるべく作業を進めている。
著者
佐藤 哲也 坂野 達郎 山口 浩 石川 博
出版者
静岡大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は政策関心空間と呼ぶ変化の早い世論の計測手法の確立と、その活用による政治的な意思決定、特に選挙における有権者の意思決定を支援する優れたシステムの構築である。中でも、予測市場と呼ばれる世論計測手法の有効性を確認することに一つの主眼を置いてる。それに加え、本年度は年度途中から急遽総選挙が想定される事態となった事もあり、それを対象とした新しい投票行動支援支援システムの設計、構築を目指した。本年度の研究成果の概要としては、昨年から継続して実施している予測市場実験に加えて、政策文書の自動分類技術分類といった、世論計測に用いられる要素技術の開発を行った。総選挙に向けた意思決定支援システムの開発を行った。具体的作業としては、選挙に関する世論計測を目的としたshuugi. in実験の実施、継続性や参加コストといった既存の予測市場の問題を解決する新しい市場設計とその検証のためのこうなる実験の実施、マニフェスト文書の自動分類技術の開発および新たな分類方法の提案、マニフェスト検索システムを利用した新型投票支援システムの開発と実験環境構築を挙げることができる。上記の作業の結果として以下の成果を挙げる。選挙をテーマにした予測市場を実施することにより、世論を計測する手法としての有効性及び課題を明確にした。また、その課題を解決するための新しい予測市場システムの開発を行い、実証実験を行った。次に、マニフェスト文書のソフトウェアによる分類技術を開発し、期間や作業といった点での低コスト化を実現した。その上でマニフェスト検索システムを活用し、既存のベクトル空間モデルの問題を解消した問題を解消する新しい意思決定支援システムの開発を行った。