著者
前田 耕作 中村 忠男 松枝 到
出版者
和光大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

北部を含むジャラーワーン地区では州都クエッタ、カラート周辺域、フズダール周辺域が主たる調査域である。この地域にはイスラーム教以前、ゾロアスター教、仏教、ヒンドゥー教が存在していたと考えられてきた。ゾロアスター教の祠堂があるのはクエッタであるが、イランにおけるように古来からの残存を裏づけるものはなにもない。カラチにある祠堂とともに英領インド時代、商人のパルシー教徒の移住とのつながりで考えられるべきものと思われる。ジャラーワーン地区へのヒンドゥー教の流伝はイスラーム教をともなったアラブの侵入より早いが、それを裏づけるものは、その根強い信仰の存続とイスラーム教聖者伝説と交錯するヒンドゥー教の伝説のほかにはない。しかし、ジャラーワーン地域とラス・ベーラ地域の古道沿いには、ヒンドゥー寺院が点在し、それらは互いに繋がりをもっており孤立していない。クエッタ、カラート、フズダール、ベーラ、カラチと残存するヒンドゥー教の細い糸をたぐっていったとき、それらを繋ぐ一つの結び目にヒンゴール河畔に存在するヒンドゥー教の巡礼聖地ヒングラージに行きあたり、この聖地の具体的な調査をおこなうことができたことが、二年にわたる調査の最大の成果であった。ヒングラージの聖域の実測および女神の聖像等の詳細は、平成11年度に予定される補足調査の後、本報告で公表される。ラス・ベーラ地域の西端、マクラーン地域の東端に位置するヒングラージ聖跡の踏査によって調査域をマクラーン地域にまで広げる必要が生じ、平成9年度の調査では、トゥルバットおよびグワーダルを訪れ、ついにヒンドゥー教流伝の西限を突きとめることができた。
著者
堀内 茂木 入倉 孝次郎 中村 洋光 青井 真 山田 真澄 干場 充之 正木 和明 香川 敬生 正木 和明 倉橋 奨 香川 敬生 大堀 道広 福島 美光 山本 俊六 赤澤 隆士 松崎 伸一 呉 長江 ZHAO Jhon
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東南海、南海、東海等の巨大地震発生時に、面的震源をリアルタイムで推定するための開発を行なった。P波部分の震度の距離減衰式を調べ、P波部分も震源域で飽和することが示された。震度の観測データやシミュレーションデータを使い、震源域の広がりをリアルタイムで推定する手法を開発した。また、速度や加速度の最大値から、断層近傍であるかを判定し、震源域を推定する方法も開発し、リアルタイムでの巨大地震情報配信の目処がたった。
著者
清野 純史 宮島 昌克 堀 宗朗 能島 暢呂 五十嵐 晃 小野 祐輔 豊岡 亮洋 古川 愛子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

鉄道ネットワークを対象として,センシング技術を利用した災害発生時の迅速な機器制御により,被害を最小限に留めるような理論的な枠組みの構築と技術開発を行った.小型マイコンに加速度センサとワイヤレス伝送技術を実装し,これをセンサネットワークとして利用するためのハードおよびソフトの環境整備を行い,プロトタイプを作成した.さらにセンシングデータの大容量送受信が可能であるか等の検証を行うとともに,損傷判断や被害検知手法の開発を行った.
著者
佐野 浩孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、大きさ数μm程度の、いわゆるメゾスコピック超伝導体における渦糸状態について調べるものである。特に本年度は微小な正方形試料において発生が予想されている反渦糸の観測に焦点を絞って実験をおこなった。反渦糸の観測のためには局所的な磁場分布の測定が不可欠である。そのための手法として、本研究ではHall magnetometryを採用した。これは、半導体2次元電子系基板より作製したHall cross上に微小超伝導体試料を作製し、試料直下での磁場の変化をHall crossのHall抵抗の変化として観測するというものである。特に本研究では、磁場測定の空間分解能を高めるため、Hall crossの端子を細分化した多端子Hall crossを用いた。また、個々の渦糸をより判別しやすくするため、正方形の四隅に微細孔をあけた試料を用いた。正方形試料直下での磁場分布の変化から試料内部での渦糸分布について調べた。その結果、試料に渦糸が出入りする様子を、その位置まで含めて観測することができた。その結果から試料内部における渦糸分布の同定に成功した。しかし、当初の目的であった反渦糸の観測には成功しなかった。これはおそらく反渦糸が生成していなかったためと考えられる。以上の成果について、海外での学会で2件、国内の学会で1件の発表をおこなった。そして、今年度中にさらにもう1件国内の学会で発表をおこなう。海外での学会での発表のうちの1件については会議録の形で論文として公表されることが決定している。また、昨年度までおこなっていた超伝導ネットワークに関する論文が本年度初めに出版された。現在は新たに論文を執筆中であり、完成し次第投稿予定である。本年度は大学院博士課程の最終年度にあたるため、上記の研究成果も含めて博士論文を作成した。審査の結果、3月23日付で東京大学より博士(理学)の学位が授与されることとなった。
著者
神原 文子 本村 めぐみ 奥田 都子 冬木 春子
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

第1に、ひとり親家族に育つ50人ほどの子どもを対象にしてインタビュー調査を行い、ひとり親家族の生活状況を捉えた。そのなかで、ほとんどの子どもたちがひとり親家族で育っていることを受容していることを明らかにした。第2に、ひとり親家族で育っている高校生と、ふたり親家族で育っている高校生を対象に「高校生の生活と意識調査」を実施した。その結果、ひとり親家族で育つ生徒とふたり親家族で育つ生徒の比較によると、親子関係の良好さには違いはないが、ひとり親家族に育つ高校生のほうが、小遣いが少ないこと、アルバイトをよくしていること、学習時間が少ないこと、大学進学希望が低いことなどが明らかになった。
著者
菅野 学
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

アキラル芳香族分子に円偏光レーザーパルスを照射してπ電子の芳香環に沿った回転を誘起できる。このときのπ電子の回転方向は円偏光レーザーの角運動量(偏光軸の回転方向)で一意に決定される。これに対し、採用第1,2年度目において、角運動量を持たない直線偏光レーザーパルスによってキラル芳香族分子のπ電子回転を実現できることを示した。このときのπ電子の回転方向は分子の空間的配置に対する直線偏光レーザーの偏光方向に依存して分子内座標系で決定される。π電子回転が分子の振動周期と同程度の数10fsほど持続すると、π電子回転と分子振動が互いに影響を及ぼし合う可能性がある。そこで、採用第3年度目において、直線偏光レーザーパルスと相互作用するキラル芳香族分子のモデル2,5-dichloropyrazine(DCP)を用いた非断熱核波束動力学シミュレーションを行った。DCPは厳密にはキラルでないが、π電子の感じるポテンシャルが環に沿った回転方向に依存するために直線偏光レーザーパルスによるπ電子回転制御が可能である。DCPは最適構造において点群C_<2h>に属し、光学許容擬縮退^1Bu励起状態を持つ。この^1Bu状態の線形結合がπ電子回転の近似的角運動量固有状態|+>と|->を与える。|+>または|->の一方を支配的に生成すればπ電子は芳香環を回転する。^1Bu状態を結合させる既約表現A_gの基準振動モードである環呼吸振動と環変形振動のモードを自由度とした2次元ポテンシャル曲面上の非断熱核波束動力学シミュレーションにより、分子振動の振幅がπ電子の回転方向に著しく依存することを明らかにした。また、この振幅の違いが断熱ポテンシャル曲面の間の非断熱遷移過程における核波束の干渉効果に起因することを示した。この結果から、フェムト秒スケールの分子振動を分光学的に観測することでアト秒スケールのπ電子の回転方向を特定できると期待される。
著者
富永 英義 MUSMANN H. JUDICE C. KUNT M. CHIARIGLIONE エル 小舘 亮之 児玉 明 安田 浩 小松 尚久 相沢 清晴 田崎 三郎 酒井 善則 安田 靖彦 JOZAWA Hirohisa YABUSAKI Masami MIKI Toshio SAKURAI Yasuhisa FUKUDA Toshio ALGAZI V. SHAFER R. KOMIYA Kazumi ALGAZI V PROF.H. Musm SHAFER R. 羽鳥 光俊 原島 博 辻井 重男 花村 剛
出版者
早稲田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

前年度の活動の成果として得られた、シンタックス、ツール、アルゴリズム、プロファイルという4つの異なる要素から構成するフレームワークを基本構造とし、今年度は,主に,具体的要素技術の比較および評価,確認実験モデルの作成,動画像ドキュメントアーキテクチャの概念に基づく符号化方式の具体化作業を行なった。まず、具体的要素技術の比較評価テストについて。Functionality、テスト画像クラス、ビットレートによって評価対象を分類し、比較評価テストを行なった。ただし、テストの際、基準となる比較対象(アンカー)として、CIFフォーマットを用いたMPEG1およびCIFあるいはQCIFを用いたH.263を使用した。比較評価の結果、10kbpsを中心とした低ビットレート範囲ではビットレートが高くなるほどアンカーおよびブロックベース手法の結果が良好であること、低ビットレートにおいてはフレームレートの設定がその画質評価結果を大きく左右する要因であること、Content based functionaliesを有する方式はアルゴリズムの種類が増大し要素としての評価が難しい傾向を示すこと、が主に明らかとなった。良好な性能を示す要素技術の候補としては、long term memory, short term memoryを併用する手法、イントラフレームにウェーブレットを適用する手法、グローバル動き補償とローカルアフィン動き補償の組合わせ、ブロック分割手法、matching pursuits手法等が挙げられた。次に、確認実験モデルの作成について。長期に渡る議論の結果、確認実験モデルとしてはビテオオブジェクト平面という概念で表される複数のビテオコンテントを入力情報源として適用可能なモデルが選択された。この確認モデルは、H.263の拡張動きベクトルおよびアドバンスト予測方式を採用すること、2値形状は4分木符号化、多値形状は4分木符号化+VQを使用すること、コンテント境界はpaddingを行って符号化することを主な条件として作成されることとなった。最後に、動画像ドキュメントアーキテクチャの概念に基づく符号化方式の具体化について。メディアの統合的扱いが可能なフォーマットおよび既存データの再利用機能が将来のマルチメディア情報環境において特に重要であるという観点から、文書の編集加工処理を構造的に行なうデータアーキテクチャであるODAの概念をビデオ・ドキュメントアーキテクチャ(VDA)として動画像符号化への適用を試みた。まず、ビデオコンテントをカメラの光軸に垂直な単一の静止平面(背景のみ)と仮定しこれを入力としてカメラパラメータを分離符号化する方式を検討した。続いて、αマップと原画像情報を入力として、VDAの概念に基づいたプロセッサブル符号化方式を検討した(H.263を基本とし、任意形状に対応した直交変換、αマップ符号化、コンテント・時間単位データ多重化を主に加えた構成)。実験の結果、前者の方式は正確なカメラパラメータが計測できる場合約50[dB]の平均SNRで複号化できる能力をもち、検出するパラメータ誤差が蓄積するに従ってこの値が急激に減少する傾向を子示すことが分かった。また、攻守の方式については、カメラ操作およびビデオコンテントの移動・消去・表示優先度・追加等の編集シミュレーションを行ない、意図した動画像の編集加工機能・データ再利用機能がVDAモデルにより効果的に実現されていることを確認した。また、簡単な加工用データ操作記述言語を試作することにより、編集処理の迅速性、内容の可読性が大きく向上されることを示した。今後は、画像合成を行なう際のMapping処理の高速化、ビテオコンテントのデータのバッファリング処理、透明度を考慮したαマップ符号化、ランダムアクセス機能の実現手法・ドキュメントアーキテクチャの概念で扱えるメディア範囲の拡張などが課題として挙げられた。
著者
黒田 英一
出版者
宇都宮大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では、集団就職世代の工場経営者・商店主を対象に聞き取り調査を行った。聞き取り調査結果をまとめると、次のようになる。1 集団就職により大都会に出てきた中卒者のうちわずかしか工場経営者・商店主になることができなかった。それ以外の者は、大都会で転職を重ねて雇われ職人や単純労働者になり、あるいは帰郷卸した者、消息不明などである。2 努力してそれなりに工場経営者・商店主になれたのは、勤務した先の経営者に恵まれたことである。良き「社長」「おやじ」に恵まれて、そこで技能を徹底的に修得させられただけでなく、仕事以外の面でも厳しく躾けられた。3 集団就職世代が厳しい就業環境のなかで習得した技能は、職種や産業によって違いがみられた。小売業のように2,3年で習得できる接客・サービスの技能もあれば、10年近くたってようやく身につく大工や旋盤の技能もあった。4 就職先は住み込みであり、経営者と同じ屋根の下で暮らしたことから、集団就職世代にとって、就職先はもうひとつの家庭となった。生まれ故郷に次ぐ「第2の家庭」であった。5 「一国一城の主」になることができなかったものの、集団就職は中学卒業者にとっては大都会に入ることができる最初の一歩であり、その後の人生の入り口ともなった。こうした研究成果をふまえると、集団就職はよきにつけ悪しきにつけその後の人生のひとつの契機となっており、たまたま艮き経営者に恵まれた者だけが、工場経営者・商店主となって「サクセス・ストーリー」を演じることができたといえる。厳しい競争であっても、大都会は技能を磨けば社会階層を移動できる機会を若年労働者に与えていた公正な社会であった。
著者
名取 理嗣
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

これまでの研究により,極低炭素ラスマルテンサイト鋼は,焼戻し時に不均一回復が生じて,隣接する二つの結晶粒を挟む粒界が,両粒の転位密度の差に駆動されて張り出しを生じることで再結晶粒が生成される,いわゆる粒界バルジング型の再結晶が生じることを見出した.また,張り出す粒界が易動度の大きい旧オーステナイト粒界の一部に限られるため,得られる再結晶粒は粗大になることを明らかにした.そこで,本年度では,出発組織をフェライト組織とラスマルテンサイト組織に調整した極低炭素鋼に冷間圧延-焼鈍を施し,冷間圧延組織および焼鈍時の再結晶挙動に及ぼす出発組織の違いの影響を調査した.冷間圧延した極低炭素ラスマルテンサイト鋼の再結晶機構は,焼入れまま無加工材で生じた粒界バルジング型再結晶とは異なり,冷間圧延したフェライト鋼と同様に転位セル組織から再結晶組織が生成される機構が主体となることを明らかにした.また,圧下率が小さい場合はラスマルテンサイト鋼の方がフェライト鋼に比べて再結晶粒が微細となり,出発組織をラスマルテンサイトにすることの有効性を見出した.これは,ラスマルテンサイト組織がパケットやブロック組織からなる微細組織であることのほかに,焼入れ時に可動転位が多量に導入されているため,わずかな圧延でも容易に転位セル組織を形成するためであることを明らかにした.さらに炭素量を0.1%含んだ低炭素鋼を用いて,焼入れままのラスマルテンサイト鋼および加工性を向上させるために前焼戻しを施したラスマルテンサイト鋼を用いて冷間圧延およびその後の焼鈍に伴う再結晶挙動を調査し,冷間圧延前の焼戻しの影響について考察した.そして,焼戻しラスマルテンサイト鋼は焼入れラスマルテンサイト鋼に比べて再結晶が抑制され,再結晶粒は粗大になることを明らかにした.これは冷間圧延前の焼戻しにより基地中の固溶炭素が減少することで蓄積ひずみエネルギーが減少すること,冷間圧延時の変形帯の形成が抑制されたことが原因であることが示唆された.
著者
嶋田 貴子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

子宮頸がんの腫瘍マーカーとしてSCCがあるが、慢性腎不全患者などの患者では偽陽性を示すことがある。そこで血漿中のHPVDNAを定量し、それが子宮頸がん発症の診断や再発のマーカーとなるか否かについて検討した。2007年4月から2008年9月までに当院を受診し、HPV16陽性の子宮頸部異形成または子宮頸癌(扁平上皮癌)と診断された43名を対象とした。DNA定量はSYBR Greenを用いたリアルタイムPCRで行った。子宮頸管内HPVDNAの有無はインフォームドコンセントを得た女性に対しHybrid Capture法を用いて検査した。本研究は当院倫理員会の承認を得て行った。HPV16陽性子宮頸癌患者20例中6例(30.0%)の治療前血漿中からHPV16DNAを検出することが出来た。臨床進行期分類(FIGO分類)のI期よりII期やIV期の症例の方が血漿1mlあたりのHPV16 E6E7 DNAコピー数が多い傾向が認められた。また腫瘍マーカーであるSCCAが正常範囲であっても血漿中にHPV16 DNAが検出された例があった。子宮頸癌が浸潤または壊死をおこすときにDNAが切断されて断片化し、血漿中のHPV DNAの断片として認められるのではないかと考える。術前のSCC値が陰性の子宮頸癌患者に対して、血漿中のHPVDNA定量が低侵襲なマーカーとして利用できることが期待できる。
著者
原田 一孝
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

昇圧形スイッチトキャパシタ(SC)電源の場合,半導体スイッチをON/OFFするのに,各スイッチのソース電位は電源電圧より高いことが要求されます.一般には,この種のスイッチにはPチャネル形MOSFET似下,P-MOSFETと略記)を用い,駆動回路の簡略化を図りますが,P-MOSFETの特性として,ON抵抗が大きく,特に最終段では,パワーロスの増加が無視できなくなります.そこで,ON抵抗が小さく,飽和電圧も小さなN-MOSFETを用い,リング形SC電源の特性を活かした駆動回路(最終出力電圧より大きな電圧を得る)を提案することによって,高効率の電源が得られました.3段のSC電源の実験結果では,92%の高効率と30%以上の出力電圧の改善が得られました.また,電源負荷が無くなった時,直ちに動作を止め,節電状態に入ることで,特にモバイル機器では電池の消耗を最小限にすることが出来ます.リング形電源についての節電回路も提案し,それらの実験結果やシミュレーション結果を次の国際会議で発表しました(ITC-CSCC 2002,The 2002 International Technical Conference on Circuits/Systems, Computers and Communications,タイ国).モバイル機器の表示器のバックライトとして,エレクトロルミネセンス(EL)は有望視されています.そのような目的に使用するためのSC電源チップを構成しベアチップを試作しました.出力を補強するための0.1・Fキャパシタ4個を外付けした状態でも,6.8mm角,厚さ3mmと非常に薄く小さな電源回路が得られることが分かりました.MOSFETのチャンネル構造から応用範囲はかなり限定されますが,低ノイズ極小容積を持つ電源が得られることが分かったことは,大きな成果と考えます.
著者
井村 哲郎 芳井 研一 原 暉之 SAVELIEV IGOR 古厩 忠夫
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,これまで未公開であったロシア国立歴史文書館(RGIA,在サンクトペテルブルグ)が所蔵する中東鉄道文書中の近現代中国東北をめぐるロシア、中国,日本の関わりを記す文書をいかに利用するかを明らかにするために行なったものである。中東鉄道は,帝政ロシアのアジア進出のために19世紀末に中国東北を横断して建設された。日露戦争後、大連-長春間は日本に割譲されたが,1935年に満州国が買収するまで存続した。中東鉄道は,ロシアおよび革命後のソ連の対中国・対中国東北政策に重要な役割を果たした。中東鉄道文書には,鉄道経営に関わる文書だけではなく,19世紀末から1930年代までの中国および中国東北の政治・経済情勢,日本情報などが豊富に含まれている。中国東北近現代史研究および中国東北をめぐる日中関係史研究ではこれまで,ロシア語資料はほとんど利用されていない。これは,主に史資料がこれまで未公開であり,どこに所蔵されているかも明らかではなかったためであるが,こうした史資料状況の欠落を埋めるために,ロシア国立歴史文書館が所蔵する中東鉄道文書について書誌調査を行ない,とくに中国東北をめぐる日本,中国,ロシア3国に関わる文書群から,重要なジェーラを選択しロシア語の抄録とその日本語訳を行ない最終報告書として資料目録を編纂した。また,本プロジェクトの一環として、2004年度には中間報告書「ロシア国立歴史文書館所蔵『中東鉄道文書』にみる19世紀末-20世紀初頭中国東北の国際関係」を刊行した。また同年度には、サンクトペテル大学東洋学部において東洋学部と共催して国際ワークショップ「サンクトペテルブルグ所在史料に見るアジア」を開催し,その報告書を刊行した。本ワークショップによって研究代表者井村はプーチン・ロシア大統領から記念メダルを授与された。今回作成した報告書に含まれる中東鉄道文書のジェーラ数は、総ジェーラ数20,784のうちわずか236にすぎないが,それでも義和団事件に際しての中東鉄道警備,満鉄など日本側との関係など、貴重な内容を記す文書が発見される。今後の中東鉄道研究および中国東北研究に有用なツールとなろう。
著者
高久 洋暁
出版者
新潟薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

酵母Candida maltosaは蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(CYH)に対し、生育の一時停止後に再び生育が回復する誘導的耐性を示す。これは、CYH添加後、転写活性化因子C-Gcn4pが、CYH耐性L41リボソーム蛋白質遺伝子(L41-Q)の転写を誘導し、CYH耐性型リボソームが合成されることに起因する。CYH添加後及びヒスチジン飢餓を誘導する3-AT添加後の転写活性化因子C-Gcn4pの制御をmRNA、蛋白質レベルにおいて解析するため、GFP又はHAタグと融合したC-Gcn4pの検出を試みたが、十分に解析できるレベルのものは構築できなかった。そこでFLAGタグ融合型C-Gcn4pを用いたところ、機能も相補、検出感度も解析に十分であった。FLAGタグ融合型C-GCN4をC-GCN4破壊株に導入し、3-AT或いはCYH添加後のC-GCN4mRNA、蛋白質レベルの解析を行った。3-AT添加後、C-GCN4mRNA量の上昇率以上にC-Gcn4p量の上昇率が大きかったので、転写、翻訳段階における制御、特に翻訳制御が大きく寄与していることが示唆された。CYH添加1時間後、C-GCN4 mRNA量は一時的に大きく上昇するが、逆にC-Gcn4p量は減少した。その後、C-GCN4mRNA量は減少するが、逆にC-Gcn4p量は増加し、CYH添加前の約1.5倍まで上昇し、一定となった。すなわち、CYHによるmRNAの安定化で一時的にRNA量は上昇するが、CYH添加直後の蛋白質合成は厳しく抑制されるためにC-Gcn4p量は減少したと考えられた。その後、C-Gcn4pの上昇ともにL41-Q転写誘導が促進されたが、C-Gcn4p量が一定量になったにもかかわらず、転写誘導効率がその後数時間上昇し続けたことから、C-Cpc2pなどのC-Gcn4p活性調節因子の関与の可能性が考えられた。
著者
岩瀬 正則 長谷川 将克
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

木質系バイオマスあるいは廃プラスチックと酸化鉄を混合・圧縮し、これを流量1000cc/minのアルゴン気流下、高周波誘導加熱炉内にてモリプデンサセプターを用いて1400〜1800℃の高温に加熱したマグネシアるつぼ内へ投入して、急熱した。なお[Pt-20Rh]-[Pt-40Rh]熱電対により温度を測定した。発生するガスは、これを捕集してガスクロマトグラフィーによりCO,CO2,CH4,H2を定量し、水蒸気発生量は重量測定によって求めた。いっぽう凝縮相は炭素、酸素、鉄をLECO炭素、酸素分析装置あるいは化学分析により定量した。以上より反応生成物の化学種、存在比、分圧比等を求めた。その結果、上記の条件下では、気相中の主成分は水素と一酸化炭素であり、炭酸ガスならびにメタンはほとんど生成しないこと、および凝縮相には金属鉄が生成することを明らかにした。以上の実験結果を不均一系熱力学を用いて解析し、気相と金属鉄については、ほぼ熱力学平衡が成立すること、および金属鉄中の炭素に関しては、生成する固体炭素の結晶性に依存し平衡には到達する場合と相でない場合があることを見出した。すなわち、木質系バイオマスでは、鉄中への浸炭が非常に迅速に進行するが、プラスチックでは、浸炭が遅れることを見出した。これらの結果を総合し、炭酸ガスおよびメタンを生成させず、一酸化炭素と水素を副産物として得ることのできる製鉄法の基礎学理を確立することができた。上記の目的を達成するための具体的条件をまとめれば以下のようである。1.混合圧縮体を急熱することが必要。2.温度は高温ほど望ましい。3.圧縮体中のC/Oモル比を1.1以上にする。
著者
小泉 洋一
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

特定宗教が社会において圧倒的な支配力を持つフランスおよびトルコでは、公的領域から宗教を排除することによって政教分離を憲法原則とした。両国ともその際国家による宗教統制を伴いながらそれが行われた。フランスでは宗教の自由が尊重されるとともに社会における宗教的多様性が進むとともに国家の宗教的中立性が重視されたが、トルコでは国家による宗教統制を伴う国家の非宗教性に重点が置かれ、今日でも国家の宗教的中立性は軽視されている。わが国の神道指令と日本国憲法における政教分離を分析する際には、国家の非宗教性および宗教的中立性に注目することが有益である。
著者
福田 治久
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

医療界では安全水準を測定することが極めて困難であるために,安全活動の効果の検証もまた至難な状況下にある.本研究は,航空業界・化学業界・製造業界を対象にヒューマンエラーの未然防止の上で高い効果が期待できる安全活動についてヒアリングし,その活動を医療界に応用することを目的に調査を行った.その結果,インシデント報告に対する非懲罰化,報告の簡素化を進めることで報告件数が増加する傾向にあることが確認された.しかしながら,調査対象企業においては,安全活動の効果を検証可能な余地を認めたものの,定量的な実証には未だ至っておらず,今後さらなる研究を進めることの必要性が見出された.一方で,病院感染領域では,病院感染の発生を不安全な状態と捉え,感染による追加的治療コストの測定が可能である.また,当該コスト推計値は,感染対策の重要性を訴求する根拠として,さらに,感染防止方策の経済評価研究の参照値として活用可能なデータにもなりうる.しかしながら,当該コストの推計値は推計方法に大きく依存するという問題がある.そのため,第三者が活用する際には,報告された推計値の自施設・自国における外挿可能性を考慮する必要性が生じ,その検証には推計方法の正確性や推計結果の透明性の視点が不可欠となる.本研究は,2000年〜2006年に報告された英語原著論文を対象に,病院感染による治療コストを推計した論文を抽出し,平成19年度に開発したフレームワークに基づいて推計値の質を評価した.その結果,病院感染による追加的治療コストを推計した研究は50論文が確認され,そのうちわずか7報のみが,透明性・正確性を共に備えた推計値を報告していた.当該コスト研究は,感染対策に向けた資源配分の意思決定を大きく左右するために,第三者が転用可能な結果を報告することが極めて重要になる.本研究は,経済評価研究の新たな視点を呈示するものである.
著者
万代 道子 秋元 正行 高橋 政代 小杉 眞司
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

網膜色素変性の病態理解を深めるために、遺伝学的、免疫学的、各種臨床検査の結果などのデータを蓄積することにより、多面的な病態解析を試みた。まず、変性HPLCに基づくスクリーニング及び直接シークエンスによる確認を行うことにより、労力、経費を効率化して30に及ぶ原因候補遺伝子を網羅的に調べる遺伝子診断システムを確立した。この方法を用いて、典型的な色素変性患者250名を対象に遺伝子診断を行い、これまでに30症例において、疾患原因候補の遺伝子変異を検出した。これは、遺伝形式には無関係に遺伝子診断を行ったが、原因遺伝子の検出頻度が最も高いとさえる優性遺伝に限定した報告とほぼ同頻度の良好な検出率であった。また、検出された遺伝子のプロファイルもこれまでのわが国における報告と相同性が高く、スクリーニングとしての機能は十分果たしていると思われた。また、免疫学的アプローチとして網膜色素変性類縁疾患である自己免疫網膜症の原因の一つともされるリカバリン血清抗体価を加齢黄斑変患者を対照群として調べたところ、網膜色素変性患者において抗体価の上昇がみられた。特に抗体価の高い症例においては眼底所見に比べ強度の視野狭窄の進行や一時的に急激な悪化時期の存在など、二次的な自己免疫機序が網膜色素変性の進行をさらに修飾している可能性が示唆された。さらに臨床画像診断の多面的解析において、色素変性患者では、健常な色素上皮細胞の存在を示唆する自発蛍光を有する領域が、高解像度網膜光干渉断層像(OCT)で観察される健常な視細胞領域と一致するものと一致しないものとが観察され、前者では色素上皮と視細胞の変性がほぼ同時進行していると考えられるのに対し、後者においては視細胞の変性が先行し、変性の激しい領域で色素上皮からの自発蛍光が高輝度となっている可能性が考えられた。これらは色素変性において相互依存的である「視細胞-色素上皮」コンプレックスとしての変性過程が一様でないことを示唆していると思われた。
著者
半澤 直人 玉手 英利 中内 祐二
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ウケクチウグイは、分布が南東北の日本海に流入河川に局限され、生息密度が低いために生態や行動などが不明の絶滅危惧種である。本研究では、ウケクチウグイと比較対象のウグイが生息する山形県最上川水系と28年前に同種を調べた福島県阿賀野川水系を調査地として、ウケクチウグイの生息調査、飼育実験、およびDNA多型に基づく集団解析により、生態や集団構造を推定して絶滅の危険性を判定し、保全の方策を検討した。漁協、国交省河川事務所などの協力によりウケクチウグイの調査を進めた結果、最上川下流、阿賀野川上流ではかなりの個体数を確認したが、最上川上流ではほとんど確認できなかった。特に、唯一ウケクチウグイの産卵が確認されている最上川上流の産卵場では、平成18、19年春は前の冬が異常な暖冬だったせいか、産卵が確認できなかった。野外や飼育下での観察により、ウケクチウグイは魚食性が強いことが確認され、生息密度が低いのはこの食性に起因していると推察された。ミトコンドリアDNA解析では、最上川水系と阿賀野川水系のウケクチウグイ集団は明らかに遺伝的に分化し、全てのウケクチウグイ集団でウグイ集団より遺伝的多様性が著しく低かった。マイクロサテライト解析でもウケクチウグイ集団の遺伝的多様性は著しく低かった。2つの異なるDNAマーカーにより、最上川下流で始めてウケクチウグイとウグイの交雑個体が発見された。以上より、両水系のウケクチウグイ集団の個体数は激減して近親交配が進み、一部では種間交雑も生じて個体の適応度が低下し、絶滅の危険性がより高まっていると推察された。今後は、両水系のウケクチウグイ集団をそれぞれ別な保全単位として、産卵場や生息場所の保全対策を緊急に進めるべきである。
著者
冨田 隆史 葛西 真治
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

一般に昆虫の雌成虫体内では,卵巣発育のためにエクジステロイドが分泌される。エクジステロイド合成系と性ホルモン合成系に関与するチトクロムP450の特定を目的として,マイクロアレイ法により86個のキイロショウジョウバエ全P450遺伝子の発現量を雌雄間で比較した。発現量に性差があった15種類のP450遺伝子につき,定量PCR法による検証を行った。エクダイソン合成系への関与が既知のCyp302a1とCyp315a1や機能不明なCYP6A19の遺伝子が雌成虫体内で約20倍多く発現していることを明らかにした。逆に,Cyp312a1は,雄成虫で数十倍多く発現していることが明らかになった。Cyp312a1遺伝子の多くは腹部で発現し,蛹期より徐々に増大し成虫5日目でピークに達していることから,この酵素は雄生殖器管内で働いている可能性が高い。フェノバルビタール(PB)はほ乳類,昆虫類,菌類などさまざまな生物種でP450の一般的な誘導剤として知られている。P450遺伝子の転写機構を解明する目的で,PBの誘導を受けるP450遺伝子をマイクロアレイ法により特定した。PB処理により10数種のP450が成虫体内で誘導されることを明らかにした。これらの中には殺虫剤抵抗性バエでDDT解毒作用を示すことが知られているCYP6G1の遺伝子も含まれていた。
著者
高宮 信三郎 進藤 典子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.回虫成虫体壁および自活性線虫C.elegansのミトコンドリア蛋白のプロテオーム解析(1)大気圧下の好気的環境に生息する自活性線虫C.elegansと、宿主の腸腔という酸素分圧の低い環境に生息するブタ回虫の体壁から、高純度のミトコンドリアを単離する方法を確立した。(2)C.elegansとブタ回虫体壁からのミトコンドリア蛋白を二次元電気泳動で展開し、そのパターンを比較したところミトコンドリア蛋白の組成が両者間で著しく異なっていた。特に分子量45および31kDa付近において顕著な相違がみられた。C.elegansの蛋白の主要スポット18を切り出し、In-gel digestion後、質量分析計により解析した。C.elegans由来と確定された14スポットのうち11が、ミトコンドリアに局在する蛋白として同定された。そのうちわけをみると、ATP合成酵素のサブユニット(atp-2)、ヒートショックプロテイン(hsp-60)、プロピオニルCoAカルボキシラーゼのα、βサブユニット、TCA回路の構成酵素であるリンゴ酸脱水素酵素およびアコニターゼ、グルタミン酸脱水素酵素であった。また、ミトコンドリア外膜に局在するポーリン様の蛋白も見いだされている。2.回虫呼吸鎖複合体および酸化還元蛋白の分子特性解析(1)回虫成虫体壁のシトクロムb5前駆体を大腸菌で発現させたところ、native蛋白と同一な性質を有した蛋白がペリプラズムに輸送された。本蛋白はワンステップのイオン交換クロマトで精製され,大量調製に適した発現系である。(2)回虫L3複合体II CybSサブユニットの分子クローニングを行ったところ、成虫のものとは異なったものであることが明らかとなった。3.今後の展望:計画した項目は一部未達成であるが、上述のように、比較的少量の材料から高純度のミトコンドリアを調製する方法を確立し、ミトコンドリア蛋白を一部マッピングできたことの意義は大きく、今後,回虫成虫と幼虫の解析を飛躍的に進めたい。