著者
原渕 保明
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

初めに,鼻性T細胞リンパ腫の細胞の起源を免疫遺伝子学的に解析した結果,本腫瘍の細胞起源としてはNK細胞またはNK様T細胞である可能性が示唆された.また,検索した全症例にクローナルなEBウイル遺伝子が認めたことから,EBウイルスは本疾患の発症に深く関与していることが示唆された(Cancer77:2137-2149,1996).次に鼻性T細胞リンパ腫含む頭頚部悪性リンパ腫について腫瘍組織における細胞接着分子の発現と患者血清中の可溶性細胞接着分子の測定した.その結果,鼻性T細胞リンパ腫の血管内浸潤部位(angiocentric region)ではICAM-1の極めて強い発現が認められた.鼻性T細胞リンパ腫では他の頭頸部悪性リンパ腫に比較して血清中の可溶性ICAM-1が有意に高値を示していた(Ann Otol Rhinol Laryngol 105:634-642,1996).また,ワルダイエル扁桃輪原発悪性リンパ腫について臨床的解析を行った結果,T細胞リンパ腫はB細胞リンパ腫に比較して予後が非常に不良であることが統計学的に証明された(Acta Oncologica 36:413-420,1997).頭頚部原発の上皮系悪性腫瘍については中国医科大学と共同研究を行ったところ,頭頸部悪性腫瘍におけるEBウイルスの関連性には組織型や原発部位だけでなく,人種や地域性によって異なる可能性が示唆された.また,上咽頭癌ではEBウイルス遺伝子・発癌抗原の発現形態,癌遺伝子,癌抑制遺伝子の発現形態,およ臨床像との関連性が認められた(第10回日本口腔・咽頭科学会,1997;第15回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会.,1997;第22回日本頭頸部腫瘍学会,1998).最後に,鼻副鼻腔原発の悪性リンパ腫におけるEBウイルスの検出と細胞型,病理組織型および臨床像との関連性について検討した結果,細胞型または組織型およびEBVの有無による完全緩解率や生存率の有意な変化は認めないが,著明な浸潤破壊性病変を有した例では予後が極めて不良であることが証明された(2nd Asian Research Symposium in Rhinology.Seoul,Korea,November1,1997).
著者
丹後 俊郎 山岡 和枝 緒方 裕光 池口 孝
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

「ごみ焼却施設からの距離」をダイオキシン類への曝露の主要な代替変数としたごみ焼却施設周辺の疾病の超過リスクの検出に関して、本研究では、(1)焼却施設の位置を既知としてその周辺の超過リスクを検出する方法(Focused test)と、(2)焼却施設の位置を未知として、超過リスクが生じている「場所とその周辺」を特定する方法(Global test)を検討してきた。前者については、すでにStatistics in Medicine(2002)に報告し、かつ、周辺地域のがん死亡率の経年的変化に基づく新しい健康影響評価のための方法を、施設からの方角など距離以外の要因も考慮に入れた柔軟な統計モデルを英国王立統計学会主催の国際統計学会(2002)で発表(招待講演)した。後者の方法については、Connecticut大学の生物統計学科Kulldorff助教授との共同研究により,昨年度までに提案した方法と他の方法,Kulldorffのspatial scan statisticとBonetti-Pagano's M statisticsとの検出力の総合的な比較を行い、その結果はComputational Statistics and Data Analysis(2003)に掲載された。本研究で検討した統計モデルの応用として,ごみ焼却施設周辺の乳児死亡への影響の解析に適用するとともに、ごみ焼却施設とは異なるものの単一汚染源への応用例として、原子力発電所周辺の周産期死亡データの解析例を示し、その応用可能性を検討した。
著者
島村 英紀 SELLEVOLL Ma EINARSSON Pa STEFANSSON R 末広 潔 金沢 敏彦 塩原 肇 RAGNAR Stefansson MARKVARD Sellevoll PALL Einarsson MARKVARD Sel PALL Einarss RAGNAR Stefa 岩崎 貴哉
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

大西洋中央海嶺は、いまプレ-トが生まれている場所である。アイスランドは、その海底山脈がたまたま島になったところである。海嶺については、いままで精密に地下構造が調べられたり、地震活動が詳しく調べられたことはなかった。たとえば地震活動については、何千キロメ-トルも離れた陸から中央海嶺に起きる地震を研究するのが唯一の手段だった。一方、日本の海底地震計は小型軽量で高感度に作られており、数十台という多数の海底地震計を投入する結果得られる、従来よりもはるかに精密な微小地震活動の研究と、精密な三次元地下構造の透視など、地下構造の研究についても、他国をリ-ドしている。このように中央海嶺付近は、その地球科学的な重要性にもかかわらず、いまだ、精密な観測のメスがはいっていなかった。今回の研究は中央海嶺上にあるアイスランドという希有な場を足がかりにして、世界でも初めて成功裏に行われた海底地震研究である。大量のデ-タが得られたために現在まだ解析が続いているが、画期的な成果が得られつつある。具体的には1990、1991の両年とも日本から約20台という大量の海底地震計を運び、アイスランド近海で高感度の海底地震群列観測を行った。同時にアイスランド陸上には臨時に十数点の高感度地震観測点を設置して海と陸、双方から地震を追った。1990年夏には、アイスランドから南西に伸びるレイキャヌス海嶺で長さ150キロ、幅40キロにわたる海域に18台の海底地震計を展開した。観測にはアイスランド気象庁とレイキャビック大学の全面的な協力が得られ、また海底地震計の設置と回収にはアイスランド側の全面的な協力を得て、同国の海上保安庁の船が借りられた。また設置した海底地震計の近くでは、同国のトロ-ル漁業を一カ月の観測期間中、遠慮してもらった。このため海底地震計すべてを順調に回収出来た。この観測の結果、微小地震は海嶺軸に沿ってだけ分布しており、その幅はわずか5キロメ-トル以下であることが分かった。海嶺の両側では全く地震は発生していないことも分かった。そして微小地震は海嶺軸に沿って一様に分布しているのではなく、地震活動の高いところと低いところが発見され、しかも過去の海底火山地震活動との関連が明らかになった。一方、微小地震の震源の深さは、海嶺軸から鉛直下方に伸びているのが分かり、しかもその深さは地下12キロメ-トルまで伸びていることが分かった。従行、海嶺軸下でプレ-トを生むマグマ活動がどのくらいの「根」の深さを持っているかはナゾであり、漠然と2、3キロメ-トルに違いないと考えられていたが、今回の研究によって、海嶺の「根」はずっと深いことが初めて明らかにされたことになる。また一カ月の地震観測期間中、二度にわたって群発地震が捉えられ、そのいずれもがごく細い煙突状の筒の中を震源が移動したことも確かめられた。このような海嶺の群発地震の詳細が捉えられたのも世界で初めてである。1991年にはアイスランドの反対側、北側で海底地震観測を行った。この海域は新しいプレ-トを生んでいる大西洋中央海嶺が、複雑で百キロメ-トル以上もの幅にひろがったトランスフォ-ム断層をなしているところで、世界的にも地球科学の大きなナゾを残している場所である。このアイスランド北側から北大西洋にかけての大西洋中央海嶺で21台の海底地震計と約15台の陸上地震観測点が連携した微小地震観測に成功した。全ての地震計は無事に回収された。また、地下構造を研究するための人工地震実験も行って、従来ナゾだった地下構造を調査した。デ-タは現在、解析中である。この両年度の研究で、従来の地震観測では把握することのできなかったアイスランド周辺の大西洋中央海嶺で何百個という微小地震を捉えることが出来て、地震活動がはじめて精密に分かり、また未解明だった地下構造が知られた。捉えた地震のマグニチュ-ドは1とか2とかの微小地震である。また、アイスランドの南北で明瞭に違う大西洋中央海嶺のそれぞれの活動について、世界でも初めての詳細な知見を得ることが出来た。
著者
岩井 芳夫 下山 裕介
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

超臨界二酸化炭素+エタノール系の電流-電圧特性を系統的に測定した。測定には縦4mm、横4mmの銅製電極を用い、電極間を2mmで測定した。温度308、318K、圧力8.0〜20MPa、エタノールの濃度を0〜2.63mol/Lに変え、直流電圧を0〜5000V印加して電流値を測定した。その結果、一定の印加電圧では温度が高いほど、圧力が低いほど、またエタノール濃度が高いほど電流値が高くなることがわかった。これにより、電流のキャリアはエタノール分子であり、二酸化炭素分子は電流を妨げるように働くと推察された。すなわち、温度が高く、圧力が低くなると電流を妨げる二酸化炭素の密度が減少して電流値が上がり、エタノールの濃度が増加すると電流のキャリアであるエタノール分子の密度が増加して電流値が上がると推察された。電極間に麻糸をたらし、超臨界二酸化炭素+エタノール系308K、8.0MPaにおいて5000Vの直流電圧を印加したところ、麻糸は正極のほうに傾いた。超臨界二酸化炭素のみのときは同様の実験をしても麻糸は動かなかったことより、超臨界二酸化炭素+エタノール系に直流電圧を印加すると流動が発生することが確認できた。ナフタレンをエタノールに溶解させた試料を容器の底に入れ、超臨界二酸化炭素で加圧して308K、8MPaにした。また、容器の底にはあらかじめ電極を挿入した。そして、容器上部のナフタレン濃度を紫外分光器で測定した.電圧を印加しない場合は30分経過しても容器の上部にはナフタレンは検出されなかった。次に、同じ実験条件で徐々に直流電圧を印加したところ、1000V印加した20分後から容器の上部にナフタレンが検出されるようになった。これにより、超臨界二酸化炭素+エタノール系に直流電圧を印加すると系内が撹絆されることが確認された。
著者
西川 雅史
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

市町村の意志決定は、少なくとも住民による選挙(手による投票)と住民の移動(足による投票)とによって規律付けされていると考えられる。しかし、私たちの日常的感覚からすれば、こうした理論的前提を首肯し得ないことが多い。本研究プロジェクトでは、市町村データを用いて地方財政と地方議会選挙との関係を考察し、上記の前提の妥当性を疑う事実のいくつかを明らかにした。なお、あわせて「足による投票」の基礎的考察も行った。
著者
榎本 昭二 PODYMA KATARZYNA A. 柳下 正樹
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本年度においては、昨年発表されたヘパラネース遺伝子のシークエンスをもとに、培養口腔癌細胞株および、患者から得られた口腔癌組織内におけるヘパラネースの発現について検索を行い、その転移能との相関についても調べた。さらに、研究計画どおり、培養扁平上皮癌細胞株におけるヘパラナーゼの活性とMMP2、9、MT-MMPの発現との相関も調べた。用いた培養細胞それぞれのヘパラネースmRNAの発現量は、活性レベルとほぼ相関していることがわかった。ヘパラナーゼの酵素活性を、定量PCR法を用いて、簡便に測定できることが示唆された。術前からリンパ節転移が存在した症例、原発が制御されても術後9ヶ月以内にリンパ節転移を確認した症例のなかでヘパラナーゼ陽性例数を見ると、前者には57.1%で陽性、また、後者では、100%陽性であった。また、発現レベルとともに転移率の上昇が見られた。以上より、ヘパラネースが、口腔癌において、リンパ節転移能と関連する重要なマーカーの1つになる可能性が期待できる。さらに、培養扁平上皮癌細胞株における、MMP2,MMP9,MT1-MMP,TIMP2の発現を定量し、そのヘパラネース活性とマトリジェルにおける浸潤能の相関についてしらべたところ、それぞれの細胞の浸潤能に対し、独立したMMPの発現レベルとヘパラネース活性を有しており、とくに大きな相関は見出されなかった。現在、昨年クローニングしたラットヘパラネースの抗体の精製を完了させ、また、in situハイブリダイゼーション法による、組織内のヘパラネース発現パターンを検索しており、マウス実験転移モデルと組み合わせて、がん転移機構における、ヘパラネースの機能の分析を続けていく予定である。
著者
武部 啓 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

目的:DNA修復系には紫外線損傷などに働く修復系に加えて、大腸菌のmut遺伝子と相同のミスマッチ修復遺伝子による修復系のヒトにおける存在が確認されている。ヒトで、それが大腸菌同様に自然突然変異に限って働くのか、誘発突然変異にも関与しているのかを調べる、これらの結果を腫瘍の発達(大きさ、悪性度、時間経過など)およびこれまでにわかっているp53遺伝子の突然変異と対比させて、発がんにおけるDNA修復の役割と、それが多段階発がんのどの段階に主に働くかを明らかにしたい。研究成果:1.p53遺伝子の突然変異が皮膚における多段階発がんにおいて、他のがん関連遺伝子に比べより高頻度に関与していることが示された。それらはDNA修復が正常であるか、低下しているか(色素性乾皮症患者)、太陽光にさらされている部位か、そうではないか、などによる違いはみられず、DNA修復の影響を受けない本質的な変異と考えられる。DNA修復のうち、ミスマッチ修復は一般に自然突然変異に関与していると考えられる。ヒトのがんの中で、もっとも自然発がんの可能性の高い非露光部の悪性黒色腫について、ミスマッチ修復の欠損を反映するとみられるDNAエラー(RER)を調べた。原発がん部位では18.2%のRERがみつかったのに対し、転移部位では検出できなかった。これまでの報告にくらべ特に高くはないので、非露光部の悪性黒色腫が自然突然変異によることを確認することはできなかった。
著者
新川 敏光 大嶽 秀夫 篠田 徹 阪野 智一 岡本 英男 池上 岳彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

研究成果は主に三つに分けられる。第一に、エスピング-アンダーセンの類型論を改善したモデルを構築し、そのなかで社会民主主義、保守主義、家族主義モデルがグローバル化、高齢化の圧力のもとで、一定程度「自由主義化」していることを確認した。第二に、自由主義レジームのなかで、アメリカとは異なるカナダ福祉国家の特徴と政治的ダイナミズムを明らかにした。第三に、日本型福祉レジームにおける自由主義化には脱家族化という側面がある点を明らかにした。
著者
久保田 優子
出版者
九州産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、これまで自明のこととされてきた、植民地朝鮮において「同化」の手段とされた日本語教育の論理について、実証的に解明し、以下の知見が得られた。1.第一次朝鮮教育令期(1911年〜1922年)において、朝鮮総督府は日本語教育により朝鮮人をどのように「同化」しようとしたのかを解明した。その結果、(1)日本語普及の目的は、国語の統一により国家統一を強化することであり、国語(日本語)の趣旨は、コミュニケーションの手段としてよりも、「国民精神の涵養」に重点が置かれていた。(2)総督府が意図した「同化」とは、朝鮮人に「天皇への感謝」の気持ちを持たせ、「実用的」な知識を身に付け、実業に就いて、「勤勉」に働き、役人の命令に従順に従い、「国家に尽す」人間になることであった。(3)「朝鮮教育令」策定に強く関与した、帝国教育会の朝鮮教育方針建議案の策定過程の検討により、内地人の国民統合倫理である「教育勅語」により、朝鮮人をも統合しようとする意図が「建議案」に反映されたことが解明された。2.一方、朝鮮人側の日本語教育の論理解明のため学校史及び『朝鮮日報』を取り上げた。(1)『梨花七十年史』では、日本語教育は不活発で、卒業式や祝祭日にも「君が代」は歌わず賛美歌を歌っていたこと、(2)『延世大学校史』では、総督府に大いに協力的であったこと、(3)「私立普成学校」では、日本語担当教師は朝鮮人を擁護したので朝鮮人に慕われたこと、(4)「私立延喜専門学校」では、1941年「国語常用の徹底」方針を掲げたものの、実際には日本支配に順応しなかったこと、等が解明された。以上により、朝鮮人側において、学校により対応に大きな差があったことが明らかにされた。
著者
小西 秀樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,政治経済学の分析枠組みを用いて,財政政策の決定について考察した.第一に,利益集団と投票者の行動を導入した政治経済モデルを開発し,財政再建が行われる政策決定プロセスの理論化を行った.このモデルでは,増税と支出削減を組み合わせた財政再建の構成が政治家と利益集団との癒着の程度を表すシグナルとしての役割を果たし,投票者が政治家のタイプを識別することができるようになる点を明らかにした.第二に,賃金税と消費税で社会保障支出の財源調達を行うケースを想定して,財源調達方法が政治経済的な枠組みのもとでどのように決定されるか,それぞれの財源調達方法が固有に持つ再分配効果の違いに着目して,検討した.そして,高齢化の進んでいない社会では,賃金税のみで社会保障財源が調達される均衡(正確には,構造誘導均衡)だけが存在し,消費税による財源調達が行われることはないが,高齢化が進展すると,複数の構造誘導均衡が現れ,賃金税だけで社会保障財源が調達するケースだけでなく,消費税だけで調達されるケース,両者が併用されて調達されるケースが均衡になることを明らかにした.第三に,現行の厚生年金制度の政治的な存続可能性を実証分析した.具体的には「存続」と「廃止」を二者択一の選択肢とした国民投票で過半数が「存続」を支持するか,将来人口推計や財政再計算のデータを用い,正の残存期間収益を持つ最少年齢(境界年齢)と全有権者の中位年齢を計測して比較した.計測の結果,現行制度は政治的に存続可能と判定されるものの,今後の年金改革では,2025年までに境堺年齢を迎える現在30歳および40歳代の世代の残存期間収益を引き下げないことが重要であることがわかった.
著者
加藤 三保子 本名 信行
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、アジアにおける手話言語とろう者社会をめぐる諸問題について、ベトナム、シンガポール、タイの事情を調査研究し、アジア各国のろう者が直面している言語的・社会的問題を明らかにして、その解決策を探るとともに、日本における手話言語とろう者社会のあり方を考察することにある。今回訪問した3カ国では、(1)聴覚障害者団体の組織と活動、(2)聴覚障害児(者)教育、(3)手話言語の地位と役割、(4)手話研究の動向、(5)手話通訳者の養成事業の各項目について調査をおこなった。ベトナムでは、聴覚障害者団体の組織力はまだ弱く、手話通訳もごく少数のボランティアに頼っているのが現状である。シンガポールは手話通訳養成事業やろう学校での手話使用がすすんでいるが、英語が国の公用語となっている影響で、ろう教育でも「正しく英語を表現するための手話」が前面に出ている。国土が南北に細長いために手話の地域差が大きく、手話の標準化がなかなか図れないのはベトナムとタイに共通する問題である。しかし、この両国では近年、先進国の援助団体からの出資により、手話語彙集や手話事典の編集、成人ろう者の教育などが大きく前進している。日本は聴覚障害者団体の組織や活動、手話通訳養成事業のあり方などはアジア圏で先進的な立場にあるが、ろう者の高等教育についてはベトナムやタイに大きく遅れをとっている。日本では、ベトナムやタイの事例から多くを学び、早急にろう者の高等教育のあり方を議論しなければならない。本研究の成果は、先行研究(韓国と中国での調査研究)の成果と併せて、『アジアのろう者情報事典』(仮題)を編集するための基盤となった。アジア各国のろう者社会や手話言語についての社会言語学的研究はまだほとんどなされていないので、本研究を今後も継続し、アジア諸国の手話とろう者に関する正確な情報を各国が共有して、アジアにおけるろう者の言語的・社会的自立に寄与したい。
著者
脇本 寛子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究から,新生児早発型GBS感染症を発症した事例において新生児側の要因と母側の要因を併せて解析し,予防に寄与する要因が明らかとなった.早発型GBS感染症を発症した児の母と非発症児の母との比較では,妊娠35週以降にGBSスクリーニングを実施した方が早発型GBS感染症を予防できると考えられた.新生児搬送状況の検討から,夜間に発症しながら翌朝に搬送依頼されており夜間も含めた新生児搬送システムの構築が必要と示唆された.GBS 322株を収集でき[新生児血液髄液由来14株(発症株),新生児保菌61株(非発症株),妊婦褥婦腟保菌247株)],全てのGBSにおいてpenicillin系抗菌薬に感受性を示した.以上の成果から,妊娠35週以降にGBSスクリーニングを実施し,分娩時にGBS保菌妊婦にpenicillin系抗菌薬を予防投与することは新生児GBS感染症予防に有用であると考えられた.
著者
渡辺 香織 西海 ひとみ 戸田 まどか 奥村 ゆかり 岡田 公江
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ストレスがPMSの第1要因であることを示した。さらにストレス対処、睡眠の満足感、月経の悩み、喫煙がストレスを介してPMSに間接的な影響を及ぼしていた。また、唾液による生理学的評価からPMSではストレス認知が月経周期に伴い変化し、慢性ストレス状態を示すsIgA値の低下を認めた。ストレスマネージメントによる教育プログラムの効果を認め、今後の課題としてこれらを活用したピアサポートを教育機関などで拡大する必要性を示唆した。
著者
耳塚 寛明 牧野 カツコ 酒井 朗 小玉 重夫 冨士原 紀絵 内藤 俊史 堀 有喜衣
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

青少年の学力および進路形成過程を総合的に把握するため、東北地方1都市(2004年調査、以下Cエリア)と、比較対象地域である関東地方1都市(2003年調査、以下Aエリア)における生徒、保護者、担任調査の統合データを用い細分析を行った。学力、キャリア展望、学校適応等と家庭的背景、ジェンダー、学校的背景、地域的背景などとの関連を明らかにした。また、学級による学力差に注目した分析を行った。主な知見は以下の通りである。Cエリア小学校における学力の学級差について基礎的な分析を行ったところ、小学校6年生に学力の学級差が大きいこと、学力が高く学級による差異が小さいグット・プラクティスの学校が存在することが明らかになった。このような学級差に関して、都市部、稲作地域、兼業畑作地域といった地域的な要因、学校内の生徒集団、生徒集団の引継といった複数の要因が関連している可能性があり、今後の分析課題とした。高校生の職業イメージとジェンダーの関連について、親の仕事に対する捉え方に注目し分析を行ったところ、これまでの分析Aエリアに比べ業績主義的な特徴を持つことが明らかになってきたCエリアにおいても、パート、主婦・家事という仕事に対するイメージや、距離感に男女で違いがあることが明らかになった。高校生の学校適応について、小さい頃本を読んでもらったことがある、博物館に連れて行ってもらった、食事を大切にしている、近所づきあいを大切にしているといった家族関係、家庭環境と関連していることが明らかになった。一方、両親の学歴や勉強部屋の有無といった物理的な教育環境は影響していなかった。生徒、担任、保護者調査の統合データを用いることで、職業や所得、教育環境、家族関係といったより複雑な家庭的背景について分析、教育実践をも視野に入れた学力形成の要因分析を行うことが可能となった。(766字)
著者
衛藤 幹子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、日本における女性の政治的過少代表(女性議員が少ない状態)の要因を、国際比較の文脈から分析することを目的に、文献調査、国内調査(関係者へのインタヴュー、アンケート)および海外現地調査(クオータ制度)を実施した。その結果、日本女性の過少代表の原因は、選挙制度、政党の態度、政治文化、クオータ制度の有無などから多面的に説明できるが、政治に対する女性の意識や行動が最も重要な要因であることが明らかにされた。
著者
遠藤 愛
出版者
筑波学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

テニスのストローク局面における後ろ脚技術に着目し,以下の研究課題を検討した.「研究課題1.習得方法に関する研究-自己の経験をもとにして」では,後ろ脚の使い方を重要な技術として位置づけ,後ろ脚技術の習得者と未習得者との比較から,習得者に見られる特徴および後ろ脚技術の役割について整理した.続いて,著者の経験に基づき,後ろ脚技術の習得方法および習得のコツを示し,効果的・合理的にこの技術を習得するための方法論を提示した.「研究課題2.習得方法に関する研究-トップ選手を対象とした調査」では,グランドスラム大会シングルスへの出場,およびシングルス世界ランキング100位以内の経験を有する日本女子プロテニス選手10名を対象として,ストローク局面における後ろ脚技術をどのように捉えているのか,実際にストローク局面においてどのように後ろ脚技術を活用しているのか,また,その習得方法や習得のコツについての調査を行った.調査結果から,世界レベルで活動した10名の日本女子テニス選手は,全員が後ろ脚技術の重要性を認め,自らに適した各種後ろ脚技術を習得・活用していたことが明らかになった.しかし,各選手が習得していた後ろ脚技術や習得のコツについては個人差が認められた.(体育学研究投稿中)「研究課題3.後ろ脚技術の優劣がパフォーマンスに与える影響」では,世界レベルでの活動経験を有するプロ選手2名と,学生選手3名を対象として統一条件下のヒッティングテストを行わせ,ショットの正確性,ボールスピード,スイング動作に見られる両者の相違点を比較した.その結果,ボールスピードに有意差は見られなかったが,プロ選手はショットの正確性において学生選手を上回っていた.また,スイング動作の比較を行った結果,両者には後ろ脚技術の活用に差が認められたことから,後ろ脚技術の習熟度がショットの正確性などに影響を及ぼしている可能性が示唆された.
著者
竹中 千春 白石 さや 村田 雄二郎 西崎 文子 吉村 真子 合場 敬子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

5つのキーワード(「ジェンダー」「政治」「戦争」「民主主義」「国際比較」)に基づき、国際政治学・政治学・国際関係論を中心に、アジア・太平洋地域の現代的・歴史的な事例を取り上げ、地域研究を比較・統合する努力をしつつ、学際的に研究を進めた。この共同研究の目的は、(1)国際政治学・政治学・国際関係論におけるジェンダー研究を進めること、(2)「戦争」と「民主主義」のジェンダー化を分析すること、(3)ジェンダー研究の中に国際政治学・政治学・国際関係論の視点から新しい視角や概念を提起していくこと、であった。平成17・18年度の2年間で、地域と問題別に立てたサブ・グループを基盤に、資料収集・現地調査を行い、事例分析と理論構築を試みた。平成18・19年度は、中間的な研究成果をまとめ、公表する作業に精力を注いだ。平成18年度7月には、イギリス・インド・韓国から専門家を招き、国際学術交流として世界政治学会(IPSA)研究集会で「War and Democracy from Gender Pespective(戦争と民主主義のジェンダー分析)」というセッションを開催した。同年10月の日本国際政治学会では、「グローバリゼーションの中の市民・女性・移民」をテーマに第1回ジェンダー分科会を開催し、同時に「グローバル・ガヴァナンスへの胎動:人権・環境・地雷」という部会も開催した。平成19年度も同学会にて人権侵害をテーマに第2回ジェンダー分科会を開催した。現在、総括的な単行書の準備を進めているが、学際的に編成した本科研の研究分担者は各専門領域で個別に成果を公表し、それぞれ高い評価を得ている。総括すれば、本共同研究は、共同研究と研究成果発表の過程を通して、国際政治学・政治学・国際関係論の分野でジェンダー研究の裾野を広げるという点で初期の目的を十分な程度達成したと考えている。
著者
土肥 義和 岡野 誠 片山 章雄
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

標記研究課題に対する研究成果は、次の(1)~(4)の通りである。 (1)ロシア科学アカデミー東洋学研究所サンクト・ペテルブルグ分所所蔵の胡語文献の裏面 に書かれた漢語文献の目録原稿を作成し、そのうちの非仏教文献の録文を公表した。(2)旅順 博物館所蔵の『唐律』『律疏』断片のカラー写真を学界に提供し、既発表論文のいくつかの論点 をより正確にした。また、旅順博物館所蔵吐魯番出土の唐代の田制等社会経済文書と墓葬再利用文書の文献・彩画両面資料とを実見し、それらと龍谷大学所蔵の大谷文書等との綴合を示した。さらに、綴合によって復原された唐代の官文書の史料的位置づけを行った。(3)敦煌仏教との比較資料として、開封市の繁塔に見える北宋初期の仏教石刻資料を増補し、その全体像を 提示した。(4)胡語文献の研究と関わって洛陽のソグド人「安菩夫妻」の墓と墓誌を調査し、 その成果を公表した。
著者
田中 伸哉 西原 広史
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

これまでの研究で、アダプター分子Crkの癌化における役割を解析し、癌腫、肉腫、脳腫瘍など様々なヒト癌細胞株を用いてsiRNA法にてCrk knockdown細胞株を樹立した。何れの種類のCrk knockdown細胞においても、接着能、浸潤能、足場非依存性増殖能、in vivo造腫瘍能など、癌細胞の悪性化を示す指標に、著明な減少がみられ、Crkはヒト卵巣癌、軟部肉腫、脳腫瘍において、悪性化に必須の分子であることが明かとなった(Oncogene, 25,2006 : Mol.Cancer Res., 7,2006)。また、Crkの癌化におけるシグナル伝達メカニズムを詳細に解析するために、NMRを用いた構造解析を行い(Nature Struct.Mol.Biol., 2007)、昨年度は、Crkのシグナル伝達を抑制する薬剤開発する前段階として、単一の遺伝子変化に対応する薬剤スクリーニングの系を確立した(BBRC,373,2008)。この系を用いてCrkを発現させたアストロサイトに対して、dual luciferase assayを行い96wellプレートで薬剤をスクリーニングして、Crkシグナル阻害薬を同定した。以後の研究では、真にCRKシグナルを抑制する薬剤か否かを個別に判定していき臨床応用可能か否かをin vivoの系で解析していきたい。また、今年度の研究において癌細胞の浸潤能にはシグナル伝達アダプター分子CRKが必須であることが判明しているが、CRKによるGab1のY307のチロシンリン酸化制御が重要であることが明らかとなっていたが、本年度の研究ではY307F変異体により細胞接着斑の形成異常が誘導されることが明らかとなった(Watanabe, et al.Mol.Cancer Res., 2009)。さらにCrkはDock180を介して細胞の運動を制御するが、その際にDock180結合蛋白であるElmoのりん酸化が必要であることが判明した。
著者
本多 千明
出版者
武庫川女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、『社会科地理教育における市民性の育成を目指した比較的実証的研究』と題し、市民性(シティズンシップ)の育成を目指した英米での理論や取り組み、教育実践を考察した。わが国における実践活動と比較して実証的研究を行うことによって、よりよい社会を創造し維持する市民としての責務を全うし、そのための能力を、生涯を通じて高めていく市民を育成するあり方について論証した