著者
池田 勝佳
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、①トップダウン的な手法による有機分子層のナノドメイン化と②ボトムアップ的な分子積層技術それぞれを確立し、両者を組み合わせた分子集積構造作成に関する技術開発を行うことで、単一分子では発現しない機能性が分子集積によって発現する可能性について検討を行ってきた。①については、チオール分子の単層膜における電気化学還元脱離と金ナノ粒子の単分子層表面への吸着に伴う電気2重層の空間変調を組み合わせて、ナノサイズの分子層ドメインを電極表面に構築する手法について詳細な検討を行った。その結果、分子層ナノドメインのサイズが本手法で制御可能であることが確かめられた。分子層ドメインサイズによって分子集合体に協奏的に発現する機能性の制御が期待される。また、②については、有機単分子膜上に金属錯体を配位結合によって固定する積層法に関して、様々な有機分子層を用いて系統的に検討を行い、分子集積法の基盤技術を確立した。分子集積による機能性発現については、昨年度に見出した金電極上の有機単分子膜における特異な電気化学応答について、更なる検討を加えた。金基板の面方位によって有機単分子層の分子密度を変え、電気化学電位による基板-分子間相互作用の変調によって駆動される分子膜構造の変化をラマン観測した。その結果、分子密度の高い時にだけ、特異な分子構造変化(2面角変化)が発現することが明らかになった。また、基板表面が原子・分子レベルで構造規制されていない粗表面では、このような電極電位に依存した2面角変化は全く確認されず、分子間相互作用によって発現する分子集積構造に特有の現象であることが確かめられた。以上のことから、分子間相互作用を適切に制御した分子ナノドメインにおいては、単一分子とは異なる性質を創発でき、精密な分子集積によってその機能を設計できる可能性が示された。
著者
木村 太一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

我々は滑膜肉腫細胞株におけるスフィア形成細胞群で有意に高発現しており、幹細胞性遺伝子発現と高い相関の見られる細胞表面抗原Aを同定した。表面抗原Aは滑膜肉腫細胞株から高い造腫瘍能、自己複製能、多分化能を有する細胞集団を分離・濃縮可能であり、滑膜肉腫幹細胞マーカーであることが判明した。表面抗原Aの発現の有無と悪性度との関連を検討するために、42例の滑膜肉腫症例を用いた免疫組織化学的検討では、表面抗原A陽性症例では有意に全生存期間の短縮が見られた。さらに表面抗原Aの特異的阻害剤による腫瘍増殖抑制効果の検討から、2種の滑膜肉腫細胞株で有意な増殖抑制効果を有する事が判明した。本研究において我々は初めて滑膜肉腫幹細胞の存在を明らかにし、分離・濃縮を可能とする表面抗原Aを同定した。さらに表面抗原Aの阻害剤による滑膜肉腫の増殖抑制効果、臨床検体における予後不良因子であることも解明した。このことは滑膜肉腫における新規治療標的を探索する上で極めて重要な発見であると考える。
著者
森山 徹
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

オオグソクムシの飼育水槽の底にゴルフボール約500個を敷き詰め、「穴を掘れないが、ワザを用いれば、すきまを作り巣のように使える」という状況を設定した。すると、体長の1/3ほどもある大きさのボールを頭部でゆっくりと左右へ移動させ、これを継続することで、体長と同程度から10倍程度の長さの通路を形成する個体が現れた。また、ボールをゆっくりと頭上へのせ、ボール塊内を、体長の8倍程度の長さにわたり掘り進む個体も現れた。これらの通路形成屋掘り進みは、巣穴としての通路使用の動機づけを維持し、ボール移動を自律的に制御するワザを伴って実現されたと考えられる。
著者
有村 兼彬 高橋 勝忠
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究においては形態論が統語論と意味論と接触する現象に取り組んだ。伝統的な統語論研究において、統語論は語レベルの中に入り込むことはできないとされてきたが、有村は英語におけるN-A形容詞を調査し、統語論研究で提唱された原理や原則が形態論のレベルにおいてもその効力を持つことを示した。一方、高橋は日本語におけるN+A複合語(e.g.油っぽい、男っぽい)と統語的要素を含む複合語(薬っぽい、嘘っぽい)が形態レベルにおいて違いを示すという事実(i.e.油っぽさ、*薬っぽさ)を指摘し、形態的緊密性は構造的・意味的に捉えることができることを示した。
著者
後藤 昭 村井 敏邦 三島 聡 石塚 伸一 村井 敏邦 葛野 尋之 水谷 規男 福井 厚 土井 政和 前田 朗 佐々木 光明
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

(1)全国の刑事施設および更生保護関連機関等に関する実態調査およびデータベース作成:統一的な調査を実施するため、「施設調査票」を作成し、全国的に施設参観を実施した。その他、元矯正施設職員、施設関係での訴訟を提起している当事者、弁護士等から、日本または海外の矯正施設の現状や新たな立法動向等についての聴き取りを行った。これらの調査から、刑事施設が現在抱えている最大の問題は過剰収容であり、それによって、施設運営も保安的観点が重視され、処遇面がおろそかにされるおそれがある等の状況が把握された。日本の刑罰システムに関する総合的なデータベース作成については、国内外のインターネット上で提供されている情報を利用しやすい形態にまとめた。その他、海外については、NGOの発行した年次活動報告書、欧州人権裁判所の重要判例関する資料を収集した。日本については、近代監獄改革関連事項に関する年表を2001年度分まで完成させた。(2)現行制度および運用に関する評価・分析、ならびに「対案の」提示:かつて本研究会が、拘禁二法案への対案として作成した『刑事拘禁法要綱案』(1996年)につき、改訂作業を行った(「改訂・刑事拘禁法要綱案」)。改訂に際しては、近年、日本においてもNGO活動が盛んとなりつつあることや、行政機関の情報公開に対する意識が高まっていること等、新しい社会の動向にも注目した。主な改訂のポイントは、施設内処遇に市民が協力するという形態を積極的に採用したこと、施設処遇に対する第三者機関としての市民の監視を充実させたことにある。刑事施設の抱える問題点に対する一つの回答でもあり、施設だけで処遇を担うのではなく、一般社会と連携しながら、また一般社会に対しアカウンタビリティを果たしながら施設を運営していくべきであるとの方向性を示したものである。改訂作業に加え、改訂要綱案に基づく施設運営の実現可能性についても検討を行った。そのために、数名の被収容者を想定し、入所時から出所時までのシミュレーションを作成した。(3)研究成果の公表およびシンポジウムの開催:以上の研究成果を広く公表するために、研究会のホームページを立ち挙げた。2002年3月9日には、法政大学において、「21世紀の刑事施設-グローバル・スタンダードと市民参加」と題するシンポジウムを開催した。
著者
水野 一枝
出版者
東北福祉大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

季節による睡眠温熱環境の変化が、幼児と母親の睡眠に及ぼす影響を検討するため、春、夏、秋、冬に実態調査と実験を行った。実態調査では、他の季節よりも夏の高温多湿環境が幼児と母親の睡眠を妨げていた。実験では、夏の高温多湿環境は幼児にのみ影響が見られ、他の季節よりも睡眠時間が短く、睡眠中の胸の皮膚の温度が高かった。実態調査、実験ともに高温多湿環境が幼児の睡眠に及ぼす影響が母親よりも大きい可能性が示唆された。
著者
足達 太郎 小路 晋作 高須 啓志 MIDEGA Charles A. O. KHAN Zeyaur R. MOHAMED Hassan RUTHIRI Joseph M. 中村 傑 TAMO Manuele YUSUF Sani R.
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アフリカの食用作物栽培ではかねてより、おとり作物の利用や混作といった持続的手法がもちいられてきた。本研究では、こうした手法がトウモロコシやササゲなどの食用作物を加害する害虫やその天敵の生態にどのような影響をおよぼすのかをあきらかにした。さらにこれらの手法を、昆虫病原ウイルスや導入天敵といったあらたな害虫防除資材とくみあわせることにより、合理的かつ経済的な環境保全型害虫管理体系を構築することを検討した。
著者
平田 竹男
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、プロサッカークラブが持続的に成長していくために必要な施策や成功要因を明らかにすることである。研究方法は既存の資料分析および当事者へのインタビューを用いた。その結果、プロサッカークラブが持続的に成長していくためには、対戦チームに応じたチケット料金制の検討やユース育成に注力することがチームの成長に欠かせない要因であることが明らかとなった。
著者
西渕 光昭 山崎 伸二 竹田 美文
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

腸炎ビブリオの重要な病原因子である耐熱性溶血毒(TDH)をコ-ドする遺伝子(tdh)の発現を促進する調節因子(VpーToxR)を解析した。VpーToxRをコ-ドする遺伝子(VpーtoxR)はコレラ菌の病原因子発現調節因子(ToxR)の遺伝子と52%の相同性を有しており、推定アミノ酸配列も類似し、特に発現調節に関与すると推定される領域およびtransmembrane領域と考えられる部分では非常に強い売似性が認められた。大腸菌中で、クロ-ン化したtdh遺伝子とVpーtoxR遺伝子を共存させた系で、VpーToxRがtdh遺伝子(tdh1〜tdh4の中で特にtdh2およびtdh4)の発現を促進することを確認した。またtdh2遺伝子について、コ-ドン領域上流144bp付近の塩基配列がVpーToxRによる発現促進において重要な役割を果たしていることが明らかになった。ただし、ゲルシフト法によってVpーToxRの結合能を調べたところ、VpーToxRはコ-ドン領域のすぐ上流(68bpまで)に結合することを示唆する成績が得られ、さらに上流(144bp近付)の塩基配列は、結合したVpーToxRとの間の何らかの相互作用によってtdh2遺伝子の発現促進に関与しているのではないかと考えられた。VpーtoxR遺伝子プロ-ブを作製し、これを用いたハイブリダイゼ-ション試験により、この遺伝子はほとんどの腸炎ビブリオ菌株に存在することを明らかにした。AQ3815株を用いて、VpーtoxR遺伝子を特異的に不活化したisegenic変異株を作製した。この変異株と野生株との比較によって、VpーToxRによるtdh遺伝子の発現促進は、KPブロス中で菌を発育させた場合に特に顕著で、発現促進作用は転写レベル(mRNA)でおこっていることを聖らかにした。
著者
吉野 悦雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

EU6ヵ国におけるポーランドとリトアニアからの移民の出国動機ならびにEUの対応のアンケート調査研究。調査国は,独,仏,英,アイルランド,スペイン,デンマークであった。161人の移民労働者と平均50分のインタビューをおこない,その結果を統計的に分析した。特に移民の第一動機が高収入であるとの従来の欧米での通説に対して,男女の愛と夫婦の絆が移民の第一動機であることが明らかになったことが最大の成果である。
著者
鈴木 博章
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では蚊を模倣した超低侵襲微小血糖値分析システムの実現を目的とした。このシステムは、血糖値(グルコース)測定用マイクログルコースセンサ、サンプリング機構、微小針から構成される。本研究ではサンプリング機構につき重点的に検討を行い、特に夜間などに長時間かけて徐々に吸引できるものをめざした。上記のサンプリング機構を実現するために、poly(N-isopropylacrylamide)/acrylic acid共重合ゲルに酵素(グルコースオキシダーゼ)を包括したものを作製した。酵素反応に伴うpH変化をゲルの体積変化の駆動力とした。ゲルの体積変化はシリコーンゴムダイヤフラムを介し、微小流路内の圧力変化に変換され、サンプル溶液が吸引・排出される。センサ作用極上には、妨害物質の影響を低減し、測定可能な濃度範囲を拡張するため、Nafion膜およびpolyHEMA膜を形成した。サンプリング機構は約10時間にわたり、ほぼ一定の流量で外部液を吸引することができた。Nafion膜被覆グルコースセンサの選択性を調べたところ、グルコース比で、アスコルビン酸に対し約1%、尿酸に対し約1%、アセトアミノフェンに対し約33%の応答が認められ、Nafion膜により妨害物質の影響を低減できることが示された。また、polyHEMA膜を拡散制限膜として形成することにより、微小流路中で測定した場合の検量線の直線範囲が30mM付近まで拡張された。微小針を緩衝液を充填したチューブに刺して緩衝液を吸引させ、その後さまざまなグルコース溶液の充填したチューブにシステムを刺し変え、これに対する応答を連続的に調べた。グルコース濃度の変化に対する明瞭な電流値の変化が認められ、このシステムが実際に機能していることが確認できた。
著者
川端 基夫
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、以下の3点に取り組み成果を得た。1:海外の日系フランチャイズ企業の実態解明本研究では、より現実的に国際FCの成立要件(理論の成立要件)を探るために、日本のFC企業の実態調査を行い、海外進出に際して実際にどのような問題が生じているのかを調査した。対象としたのは、ファミリーマート(韓国、台湾、タイ、中国上海)と、ミニストップ(韓国、フィリピン)、吉野家(中国上海)、味千ラーメン(中国上海)、モスフード(台湾、シンガポール)、ロッテリア(韓国、ベトナム)、ツタヤ(タイ)、すかいらーく(タイ)、ワタミ(香港)、王将(中国大連)であり、補足的に壱番屋とビアードパパのヒヤリング調査を日本で行った(括弧内はヒヤリングを行った市揚)。海外16件、日本本社8件の計22件であった。2:理論研究上の課題の抽出100以上の英語圏の文献をサーベイし、理論研究の偏りの実態と研究課題を明らかにした。3:新たなFC国際化の分析フレームの提起実態調査の結果と2の理論的課題を踏まえて、FCシステムの特性(主体特性)に基づいた基本類型.、すなわち「商品優位(統治)型進出」と「ノウハウ優位(統治)進出」を導出し、この2つの類型をベースに、個別企業の行動と戦略的方向性、可能性を捉えて行くフレームを提起した。
著者
角田 賢次
出版者
日本学生支援機構
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

○研究目的 我が国経済・社会の環境変化は、大学経営管理手法の抜本的な改革を余儀なくさせ、これまで大学経営管理の意思決定の関与度合いが低く、意思決定に必要な資質や能力が十分に担保されていなかった大学事務職員に対し、大学改革の推進力としての期待が高まっている。一方、米国の高等教育が、規模や教育・研究水準の面で圧倒的な影響力を有する現状を踏まえれば、我が国の大学は、今後も米国の大学改革の影響を受けていくと考えられる。特にAdministrative Staff(以下「AS」)の現状を見ると、組織的変革の必要性に気付かされる。こうした背景を踏まえ、我が国の大学事務職員(以下「職員」)が、大学経営管理に関していかなる役割を果たし意思決定に関わっていくべきかという観点からASの特質を考察することで、大学経営管理上の問題点を明らかにしつつ職員の職能開発のあり方を考察する。○研究方法 (1)職員に関連する研究蓄積について関連文献及びWebsiteから情報収集を行い、調査・確認事項をまとめてあらかじめ訪問調査先に情報提供した。(2)Finance and Administrative Services,Human Resources,University of California,Berkeley、及びEmployment,Staff Human Resources Service Teams and Operations,Policy and Projects,University of California,Santa Cruzを訪問し、ASの職位・肩書き、待遇、雇用形態、職務内容、職能開発等の現状について調査した。(3)不足する情報等を訪問調査先に確認した。○研究成果公立大学では各州の自治権が強く、私立大学では経営母体の独自性が強いため、米国内ですら一貫したASの現状を把握することは困難であり、ある程度の専門性が認められるASについては、独自の職務名称を用いて非専門職員との区別を図っているため、我が国の職員と厳密な同義語を見つけることは困難である。事務組織の構成も千差万別である。したがって、我が国の国立大学法人の事務局配属職員と米国州立大学のHuman Resources配属ASのような比較対象軸を限定することで考察結果を明確にできる。勿論、専門化が進むASの現状を的確に把握することは継続した研究課題となる。ASは、長期雇用を前提として採用されることは希で、The Chronicle of Higher EducationのAdministrative Positionsの求人では、職務分野毎に毎号数百件のポストの募集が行われているが、将来的にASと我が国の職員との交流の展開が期待される。
著者
北村 順生
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

地域の映像アーカイブを教育目的で活用するための方策についての知見を得た。授業実施時の方法論としては、映像と合わせたモノの併用や多様な年代の参加の有効性を確認した。地域の映像アーカイブを教育現場で活用する可能性としては、学校現場と地域社会との連携を深めていくこと、生徒たちの関心や意欲を引き出す契機となること、教育のICT化の進展にともないデジタル教材の一環として活用すること、映像メディアに関するリテラシー涵養に結びつくこと、などについて可能性が示唆された。一方で、技術的環境の整備、適応する授業デザインの精緻化、教材となる映像資料のパッケージ化、などの面で実践的な課題があることが明らかになった。
著者
竹中 正巳 土肥 直美 中橋 孝博 中野 恭子 篠田 謙一 米田 穣 高宮 広土 中村 直子 新里 貴之
出版者
鹿児島女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

種子島における縄文時代人骨の資料数を増加させる目的で、鹿児島県熊毛郡南種子町一陣長崎鼻遺跡の発掘調査を行った。今回の発掘で新たな縄文時代人骨は発見されたが、頭蓋の小破片のみであり、保存良好な古人骨資料は得られなかった。種子島の弥生~古墳時代相当期の人々の短頭・低顔・低身長という特徴、中世人の長頭・低顔・高身長という特徴、近世人の長頭・高顔・高身長という特徴を明らかにできた。身体形質が、種子島においても時代を経るごとに小進化している。特に中世の日本列島各地で起こる長頭化は種子島でも起こっている。また、種子島における形質変化の大きな画期は、弥生~古墳時代相当期と中世との間の時期に認められる。これは、南九州以北の地よりの移住者による遺伝的影響に寄るところが大きいのではないかと思われる。広田遺跡から出土した人骨2体からミトコンドリアDNAを抽出され、これら2体は母系でつながる血縁関係は持たないこと、ハプログループはD4に属すると考えられ、現代日本人にもそれほど珍しくない頻度で出現するタイプであることが明らかにされたまた、広田人骨からコラーゲンを抽出し、炭素・窒素安定同位体比から食生活を検討し、広田人は海産物を含む3種類以上のタンパク質資源を利用していたことが明らかにされた。
著者
伊藤 友彦 大伴 潔 藤野 博 福田 真二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

特異的言語発達障害(Specific Languag Impairment, SLI)とは、知的障害や聴覚障害、対人関係の障害など言語発達を遅滞させる明らかな問題が認められないにもかかわらず、言語発達に遅れや歪みがみられる障害をいう。欧米の研究者の間ではではよく知られた用語であるが、我が国ではあまり知られておらず、言語学的掘り下げた研究はほとんど行われていなかった。我々の研究の目的は日本語SLI例の特徴を明らかにするとともに、日本語SLIの評価法を提案することであった。今回の我々が行った日本語の典型的なSLI例と思われる子どもの縦断研究の結果、対象児は欧米の研究でG-SLIと呼ばれるタイプであることが明らかになった。欧米の研究ではG-SLIの子どもは時制、受動文などに困難を示すと言われているが、我々の対象児も同様な困難を示した。我々はさらに日本語SLI3例を対象として、文法格(grammatical case)に視点をあてた実験的研究を行った。その結果、SLI例は、年齢を対応させた正常発達の子どもに比して、格付与(case-assignment)の成績が悪いことが明らかになった。また、SLI群は、通常の語順と異なる、かきまぜ(scrambling)文の成績が著しく低いことが明らかになった。また、我々はアメリカ(アリゾナ州立大学)においてSLIの評価法に関する調査を行い、日本語SLIの評価法を提案する準備を行ったが、日本で行った難聴・言語障害学級を対象とした調査では、SLIの名称そのものの理解が得られないこともあり、日本語SLI例のデータ収集が十分にはできなかった。今回の我々の研究で日本語SLIの興味深い特徴がいくつか明らかになり、日本語のSLIの評価法に役立つと思われる基礎的知見が得られた。
著者
薗田 稔 茂木 栄 宇野 正人 岡田 荘司 杉山 林継
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1987

祭礼・儀礼は、それを担う地域の人々の民俗的、宗教的世界観の表出であるばかりでなく、風土・景観などの自然環境を儀礼的シンボルとして読み変え、祭礼で表現される。という前提に立って、調査研究を進めた。そのため、1、事例研究として、自然環境・風土的に際立った特徴をもつ山間地域の祭、平野部の祭、古代国府の祭、の調査研究に力を注いだ。2、日本全国の祭礼デ-タベ-ス作りが、ある程度完了。今後、民俗学・宗教学・文化人類学の祭礼研究分野に於て、個別研究から脱却した、総合的分析が、可能になるものと期待できる。3、事例研究の対象とした地域の、詳細な報告論文集は、平成2年度末までに出版する計画をもっている。と同時にその研究成果を映像化(映画とビデオ)した。これは、単なる祭礼記録映像ではなく、祭礼研究から得た成果のを分析し、映像的に表現したものである。(成果として提出)日本の祭の構成を自然環境との関係で考える場合、現在までに得た知見では、生活域の立地、古代のマチ作りなどに密接に関わっていることが分かった。特に、古代国府の祭に源を発し、現在に伝承されている各地の国府祭(総社の祭)のコスモロジ-の普遍性と特殊性の調査研究が重要である。日本の祭の普遍的な「山」の信仰の重要な部分を担っているようである。今後、デ-タベ-スを駆使して、日本の祭の普遍性と特殊性の解明、祭の何が祭たらしめているのかという要素の抽出など、今日まで、科学的には不可能であった問題への取組が可能となった。
著者
松野 将宏
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

仙台市の事例研究による、プロスポーツを通じた地域活性化メカニズムを分析、考察した。結論として、第一に、プロスポーツクラブ・球団の存続と発展は、地域における多様なステイクホルダーの支持と参加、さらには、ガバナンス構造の確立が決定的要因であることが考察された。第二に、プロスポーツが地域活性化に貢献するためには、プロスポーツクラブ・球団を支援するネットワーク組織としての実践共同体(コミュニティ・オブ・プラクティス)の生成と発展が、地域における学習活動の促進に寄与していること、特に仙台市の事例では、官民共同支援組織がその機能を果たしていることが明らかにされた。
著者
三澤 真美恵 貴志 俊彦 佐藤 卓己 孫 安石 川島 真 小林 聡明
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では東アジアの複数の地域(日本、中国、香港、台湾、シンポール、韓国、北朝鮮)および複数の視聴覚メディア(テレビ、映画、レコード、ラジオ)を対象に、地域間・メディア間の相互連関性を検討した。各年度に行われた国際ワークショップや国際シンポジウムを通じ、国内外の研究者が多様なディシプリンを持ち寄ったことで、東アジアに固有の相互連関の具体的様態についても明らかにすることができた。本研究の成果は論文集として公刊される予定である。
著者
水野 剛也
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

十分な研究成果をあげることができ、大変に満足している。当初4年間の計画だったものを3年間で打ち切切り、あらたな研究計画によって科研費に申請(採択、基盤研究C、課題番号 26370871、研究課題 「第2次大戦時ハワイ日系人新聞の検閲 アメリカ軍による戒厳令下の「敵国語」統制、2014年-2019年」)したのは、そのためである。期間を通じた主要な研究成果として、雑誌論文5本(すべて査読性、日英両言語)、学会発表6回(日米学会)、図書2冊(単著1冊)をうみだすことができた。