著者
杉本 直己 川上 純司 中野 修一 三好 大輔
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

分子クラウディングのモデル実験系を構築することで、細胞で行われる相互作用や化学反応の橋渡しとなる定量データを取得し、核酸の構造と機能に対する分子環境効果を化学的に解明する試みを行った。こうして得られたデータに基づいて、分子環境効果を利用した機能性核酸の開発とその機能解析を行い、細胞反応を理解するための新規実験系や、細胞内部のような特殊環境で機能する種々の核酸マテリアルを開発することに成功した。
著者
尾崎 行生 大久保 敬 増田 順一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

食用ハス(レンコン)肥大の日長反応感受部位を調査したところ,いずれかの葉で短日を感受すれば,根茎の肥大が起こることが分かった.低(赤色光/遠赤色光)比率のフィルムで被覆した栽培を行うと,長日条件下であっても根茎の肥大が促進された.短日処理開始2週間後には根茎の肥大反応が起こり始め,この反応にはジベレリンが関与している可能性が高いことが分かった.食用ハスの根茎は「休眠」を持ち,その「休眠」は低温によって打破されると考えられた.
著者
浜本 隆志 R.F Wittkamp 熊野 建 大島 薫 森 貴史 浜本 隆志
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

最終年度にあたる本年は、ジュヴァルツヴァルト地方の冬至祭礼調査、宮崎県高千穂町での仮面を用いる冬至祭の儀礼調査、秋田県男鹿地方での新年の祭礼であるナマハゲおよびその周辺地域の祭礼調査といった、これまでの複数年度の調査をもとに、分析・考察をおこなった。ドイツ語圏を中心としたヨーロッパの通過儀礼と、日本を中心としたアジアの通過儀礼は意外と類似する部分が多いという認識に到達することになったが、そうした場合は、たいていがキリスト教文化の浸透以前、あるいはあまり浸透していない西欧の地域や地方のものであることが多いようである。あらためて、現在の世界各地で発生している文化摩擦や紛争の主な要因のひとつが、結局のところ、多神教と一神教の対立に起因しているのではないかという推測に蓋然性をみいだすこととなった。したがって、多神教的思考と一神教的思考というこの二項対立、たとえば、それは中沢新一が主張するところの対象性思考と非対象性思考の対立といえるのだが、これを乗り越えるために必要な思想や考え方を、世界の別の地域や住民たちのものにみいだすにしろ、まったく新たに創造していくにしろ、それともこれらのことが可能ではないときにはやはり、このふたつの対立を統合していくべき方法論を将来、模索していかなければならないだろう。本研究に従事した研究者の個別の研究成果によってなされている主張が、現時点における考察の結果の一部ではあるが、これらの成果によって、萌芽研究という本研究の役割は果たされたと思われる。
著者
野嶋 栄一郎 浅田 匡 齋藤 美穂 向後 千春 魚崎 祐子 岸 俊行 西村 昭治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

授業中に発現する能動的学習行動が学習促進に及ぼす効果に関する実証的研究をテーマとして、本研究は進められた。この研究は、1)教室授業場面における児童の挙手行動と2)ノートテイキィング、3)テキストへのアンダーライニングおよび4)eラーニングを併用した講義型授業におけるeラーニングの利用の様態についての研究がまとめられている。それらの結果は、以下のようにまとめることができる。1)実際の教室授業場面の観察を通し、児童の挙手行動のメカニズムの検討を行った。その結果、挙手は児童個人の信念だけではなく、児童の授業認知などの学級環境要因によって規定されていることが示された。2)講義におけるノートテイキング行動と事後テスト得点との関連について検討した。講義の情報をキーセンテンスごとに分類し、ノートテイキングされた項目とその量について調べ、授業ごと2週間後に課したテストの得点との関係について分析した。その結果、直後テスト、2週間後のテスト、どちらにおいてもノートテイキング量とテスト得点の間に強い相関が認められた。3)テキストを読みながら学習者が自発的に下線をひく行為が、文章理解に及ぼす影響について章の難易度と読解時間という2要因に着目し、テキストにあらかじめつけておいた下線強調の比較という観点から、実践的に検討した。その結果、テキストの下線強調は、文章の難易度や読解時間の長さにかかわらず、強調部分の再生を高める効果をもつことが示された。4)講義型授業をアーカイブ化したeラーニング教材を、講義型授業に付加する形で用意した。講義型授業を受講した後、アーカイブ化したeラーニング教材がどのように利用されるか検討した。その結果、学習者は学習中の自己評価から授業を再受講する必要性を感じた場合に、授業をeラーニングで再受講することが確認された。
著者
渡部 宗助
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

1.戦後改革期の児童観と児童文化概念の検討は、戦前・戦中のそれを抜きには考えられない。戦前・戦中の支配的児童観・児童文化概念は日本少国民文化協会(昭和16年12月創立)とその機関紙『少国民文化』に集約される。それは、資本主義的俗悪「児童読物」に対する官民一体の「改善・浄化」運動(昭和13年)と「大東亜戦争」遂行のための児童政策の結合体として形成された。それは明らかに「大人が子どものために与える文化財諸領域の総和」と表現すべきものであり、且つ暗黙裡に「学校文化」を含めないものとするところに特徴があった。2.戦後改革期の児童観と児童文化概念も基本的には、政策的にも、運動の面でもそれを継受するものであった。そこに見られる新しい「変化」は、スローガンが「大東亜戦争」遂行から「文化国家・平和国家」建設へとかわったこと・もう一つは子どもを人格・人権の主体として把える自覚的方法意識が社会化したことであった。それは、新憲法を基底として教育基本法や児童福祉法等で法的表現を与えられた。子どもを主体として見る児童観から、「児童文化」に子ども自身の創造・制作を含める考えが一般化した。3.戦後における「児童憲章」の制定は画期的なことであったが、児童観や児童文化概念の変革はその後の国民的実践に委ねられたものと解すべきであった。新旧の児童観・児童文化概念の相克をよ具体的に示したのは、「こどもの日」の制定であった。それは厚生省児童局設置(昭和21年3月)に見られる「児童保護」の系譜と「こどもの人格」の社会的認知の折衷であった。「こどもの日」制定を主導した国会の衆参両院文化委員会にける「国民の祝日に関する法律」審議に反映された。4.本研究では、戦前・戦中と戦後の児童文化関係雑誌5種(『少国民文化』『新児童文化』、同復刊版、『児童文化』『児童』)を用いた。
著者
小熊 誠 田名 真之 上原 靜 周 星 藩 宏立 何 彬 萩原 左人 周 星 何 彬 潘 宏立 蔡 文高 萩原 左人
出版者
沖縄国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

沖縄と福建の民俗文化の諸相について、多角的な比較研究が行われた。両地域の民俗文化は、その歴史的背景と地理的状況を考慮すると、沖縄における中国あるいは福建文化の受容と変容が一つの重要な視点となる。文化移動の歴史的背景を明確にしつつ、両地域の社会構造や信仰体系と対比して、家譜と族譜、門中と宗族、洗骨改葬、祖先祭祀儀礼、建築儀礼と風水、樹木信仰、琉球瓦と中国瓦などについて比較研究が行われた。
著者
又吉 里美
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は大山方言の文法を記述することを目的とした大山方言の総合的研究である。主な成果は以下の3点である。(1)音韻体系および音韻変化の過程を考察し、大山方言における緩やかな口蓋化を指摘した。(2)はだか格を含めて16個の格形式を整理し、その機能を明らかにした。(3)動詞の形態について、動詞活用のタイプ、文末形式、連体形、テンス・アスペクトについて整理した。
著者
橘 誠
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、アメリカのインディアナ大学・中央ユーラシア学部において在外研究を行い、主にこれまでの研究成果を国外に発信することに努めた。在外研究中、The Association for Asian Studies、The Mongolia Society、Annual Central Eurasian Studies Conferenceなどのアメリカの学会において、それぞれ"Mongolian Independence and International Law","Bogd Khaan Government and Qinghai Mongols","The Birth of the National History of Mongolia : On 'gangmu bicig ba nebterkei toli'"と題する報告を行い、またインディアナ大学内の東アジア研究センター、中央ユーラシア学部のコロキアムにおいても報告の機会を得、"Translationsin Early 20th century Mongolia"、"The Forgotten History of Mongolia : Bogd Khaan Govemment 1911-1921"という報告を行った。また、モンゴル国では、第10回世界モンゴル学者会議、第4回ウランバートル国際シンポジウム「20世紀におけるモンゴルの歴史と文化」、国際会議「モンゴルの主権とモンゴル人」において、それぞれ「モンゴル国の政治的地位-宗主権をめぐって」、「ボグド・ハーン政権の歴史的重要性-モンゴルにおける2つ『革命』」「20世紀初頭の『モンゴル史』における内モンゴル-帰順した旗について」という報告を行った。日本では、辛亥革命百周年記念東京会議において、「辛亥革命と『モンゴル』-独立か、立憲君主制か、共和制か」と題する報告を行った。その他、昨年上梓した『ボグド・ハーン政権の研究-モンゴル建国史序説1911-1921』のモンゴル語版〓〓〓〓〓〓〓〓1911-1921(『忘れ去られたモンゴル史-ボグド・ハーン政権1911-1921』)をモンゴル国において出版した。
著者
北川 慶子 新井 康平 韓 昌完 高山 忠雄 永家 忠司
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

災害時要援護者を災害の被害からどのように守るかということは、減災の基本的命題である。本件急は、これを重視しつつ、災害時要援護者の生活が、心身、社会的な健康型もたれなければ、災害からの復帰・復興葉が困難であるということを解明するために、避難所・仮設住宅で、被災者に対する調査を行い、生活実態をとらえるた。被災後の生活は、適度な運動(リハビリ、パワーリハビリ)と定期的な健康診査、人間関係の健康が3要素となり基本である。人との対話や交際をするための医療・保健・福祉サービスをつなぐツールとして、防災かるたとマナーかるたを作った。これにより体と心と人との交流を行う生活リハビリプログラムが出来上がった。
著者
飯塚 正人 黒木 英充 近藤 信彰 中田 考 山岸 智子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1998年2月に「ユダヤ人と十字軍に対するジハードのための国際イスラーム戦線」が結成されて以来、いわゆる「イスラム原理主義過激派」のジハード(聖戦)は新たな段階に入った。そこでは、これまでイスラーム諸国の政府を最大の敵と見て、これに対する武装闘争を展開してきたこれら過激派が、反政府武装闘争を否定するウサーマ・ビンラーディンのもとに結集し、彼の指揮するアルカーイダとともに、反イスラエル・反米武装闘争を優先する組織へと移行する現象が見られたのである。本研究の主な目的は、結果として「9,11」米国同時多発テロを引き起こすことになるこうした変化がなぜ起こったのか、また対外武装闘争を実践しようとする諸組織の実態はいかなるものか、を地域横断的に分析することにあった。このため、各年度の重点地域を中央アジア、中東、東南アジア、南アジアに設定し、それぞれの地域におけるジハード理論の変容と実践を現地調査するとともに、必要に応じて毎年各地で継続的な定点観測も行っている。その結果、当初設定した課題には、(1)諸国政府による苛酷な弾圧の結果、「イスラム原理主義過激派」にとって反政府武装闘争の継続が著しく困難になったこと、(2)パレスチナやイラクに代表されるムスリム同胞へのイスラエルや米国の攻撃・殺戮が看過できないレベルに達したと判断されたこと、という回答が得られた。またこの調査では、特に「9.11」以降欧米や中東のムスリムの間で論じられ、強く意識もされてきた"ISLAMOPHOBIA"(地球規模でのムスリムに対する差別・迫害)現象がアフガニスタン戦争、イラク戦争を経て東南アジアや南アジアのムスリムにもまた深刻な問題として意識されるようになっており、こうした差別・迫害に対する抵抗手段として、ウサーマ・ビンラーディン型のジハードを支持、参入する傾向がますます強くなりつつある事実も明らかになっている。
著者
井上 さつき 松本 彰
出版者
愛知県立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

毎年、私たちは研究の方向性を検討するために、数回の打ち合わせを行った。また、ヨーロッパと日本で数回現地調査を行った。 2010年にはドイツ南西部、2011年には中部 (旧東ドイツ)を共同で調査し、さまざまな資料を収集することができた。私たちはいくつかのシンポジウムや学会で研究発表し、また研究誌や書籍の形で成果を発表した。ヨーロッパと日本の合唱運動のいくつかの事例研究を通じて、この分野の基礎研究を行った。
著者
吉田 文久
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

現在英国の17箇所の町、村に残存する民俗フットボールのうち、14箇所のゲームの実態をできる限り正確に記録し、それらのゲームを類似性、多様性の視点から整理した。また、それらが近代化せず、存続した意味について考察した。ゲームが残存する根底には、それを近代スポーツの発展史上に位置づけるのではない、固有の意味、つまり強い伝統維持の意識、地域のアイデンティティー形成のための有効的手段という意味があった。特に儀式化されているゲームは地元の名士や長老、かつての勝者をメンバーとする独自の委員会によって組織的に運営されている。民俗フットボールは、近代スポーツからそぎ落とされていったスポーツ本来の楽しみ方を教えてくれる。
著者
城下 荘平 熊本 博光 永平 幸雄 西原 修
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

明治になって欧米の先進諸国から近代機械技術が導入される以前の江戸時代に、我が国に存在したからくりは複雑な動きを、機械的な機構だけで行っている。それらの動きを実現している機械機構は、近代機械技術で用いられているものも含まれている。江戸時代の機械書、『機巧図彙』や『き訓蒙鑑草』にはそれらのからくりの機械機構が図解されているが、しかしながら、描かれている図が部分的過ぎて直感的に理解し難い。本研究では、からくりの中でも特に多様な機械機構を含んでいる"茶運人形"について、人形の各動作、すなわち、発進と停止の機構、足を前後に動かす機構、お辞儀をする機構、方向転換をする機構、逃し止め(エスケープメント)機構の理解し易い機構図を作成し、アニメーションを作成した。作成したアニメーションは京都大学総合博物館のウェブサイトに掲載した。そして、それらと近代機械機構を表しているルロー教育模型とを比較することで、江戸時代の機械技術を検証した。また、からくりやルロー模型に含まれている機械要素についても比較検討した。段返り人形についてもアニメーションを作成し、同様の検討を行った。これらの検討から、木や糸や鯨のヒゲで作られた江戸時代からくりの機械機構は高度ではあったが、金属を精密に切削加工する技術がなかったため、我が国においてからくりの機械技術が広く産業に応用されることはなかった、などのことが明らかとなった。
著者
阿部 美哉 キサラ ロバート スワンソン ポール ハイジック ジェームズ 石井 研士 林 淳
出版者
国学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本調査の研究目的は、宗教現象を研究対象とする研究者によって、日本人の宗教行動と宗教意識に関する全国規模の世論調査を行うことであった。また調査に際しては、海外で行われる同様の調査との比較が可能となるように留意する必要があった。こうした条件のもとで調査を実施したが、完全な国際比較調査とはならなかった。その主たる理由は、海外の調査の問題数の多さにあった。海外での調査は政治、経済、社会生活全般の問題を含んで宗教の問題が設定されており、こうした大規模な調査は費用の点で困難であった。宗教に関する質問だけを取り出すことは有意味ではない、そこで海外の調査で意識されている宗教団体に主眼を置くこととした。日本においても新聞社をはじめ一般的な宗教意識に関する世論調査はあっても、宗教団体を主とした調査は行われていない。また、オウム真理教事件の後、宗教団体に関する世論調査の重要性は増していると判断した。質問には当然ながら、一般的な日本人の宗教意識と宗教行動に関するものも含めた。さらには調査期間中に収集してきた、戦後に実施された宗教に関する世論調査の結果と比較、もしくは総合的に読み解くことによって、従来指摘されてきたこととは異なった事実を明らかにすることが可能となった。こうした分析の結果、近年日本人は宗教団体に対する批判的な態度を強めているにも関わらず、実際にはほとんど接触の機会を持っていないことが明らかになった。神社や寺院に初詣やお盆の時に行く機会はあっても、それらは濃密な接触として意識されてはいない。人生における重大な問題に関しても、神職、僧侶、神父や牧師、新しい宗教の教祖や信者に相談している日本人は数パーセントに過ぎない。宗教団体としての活動には、伝統宗教だけでなく、キリスト教や新しい宗教にも関与している形跡は見られなかった。それにもかかわらず、新しい宗教団体に対するイメージは極めて悪く、日常生活における具体的な接触の欠如とは裏腹に、メディアによるオウム真理教や法の華三法行をはじめとした事件報道が、日本人の宗教団体に対する評価に大きな役割を果たしていることが分かった。
著者
坂部 晶子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

日本が「満洲国」というかたちで植民地侵略を行った中国東北地区をとりあげ、地域に残された植民地の記憶が、新中国成立以降の地域社会のなかでどのように再編成されてきたのかを、歴史資料館、記念館の展示形式や、聞きとり記録、また当事者からライフヒストリーの聞き取りといった作業をとおして実証的に解明するという本研究の目的にむけて、本年度においては、中国東北地区においてこれまで収集してきたデータや資料の整理、また日本国内における補足調査を中心に研究が進められた。中国関係資料としては第一に、黒竜江省東寧県で昨年収集された「満洲国」期の労働者(「労工」)への聞きとりデータの整理、分析を行った。第二に、中国では解放後以降長期にわたって、各省、市、県などのそれぞれのレベルで、植民地占領期の回想録や聞きとり調査の資料が「文史資料」というかたちで収集、編集されている。これらの資料は、日本での「満洲国」研究のなかではさほど重視されていないが、当事者の語りや記憶に注目する本研究にとっては重要な一次資料である。そのため「文史資料」のエクステンシブな収集と整理を行い、中国東北社会における「満洲経験」のティピカルな表現を抽出し、地域に残る植民地記憶の枠組みをとりだし分析した。さらに、日本国内における補足調査として、長野県上山田町および泰阜村、飯田市等で「満洲開拓団」の出身母村での聞きとり調査を行った。「満洲国」奥地に入植させられた日本人開拓民は、「満洲国」期と戦後とをつうじて、他の日本人植民者に比べて、一般の中国東北社会と比較的かかわりが深かったといえる。彼らの体験談や視点をとおして、植民地社会における植民者-被植民者の関係性や植民地経験のその後の記念化のあり方を分析している。今年度の調査資料およびこれまでの研究データを総合して、植民地経験の記憶化の錯綜した諸相について、後述の論考のなかで総合的に分析を行った。
著者
谷井 康子 飯村 富子 堀 みゆき 平賀 睦 徳川 麻衣子 安楽 和子 岩切 桂子
出版者
日本赤十字広島看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究目的は、日米の独居する女性後期高齢者がどのように自律した生きかたをしているか、それらの支えとなっている要因を明らかにし、日米での相違の比較により、日本の高齢者の看護支援のための示唆を得ることであった。成果:日米の独居する女性後期高齢者のサクセスフル・エイジング(高齢者が老いの変化に上手く適応し、生きる意味や独自の生き方を見出していくこと)について、1.日米とも高齢者は自律した独居生活の継続を強く希望し、そのために独自のライフスタイルを自由に選択し維持していた。2.独居生活に重要なのは健康と考え、健康管理のために規則的な生活や定期的検診・受診を積極的に行っていたが、米国では、予防的行動が多く、日本では受診回数が多く、受診行動が頻回であった。3.活動面では、日本は公民館など地域の活動に参加しており、米国では教会を中心にボランティア活動への参加が活発で、また多くが車の運転をしており、行動範囲も広かった。4.福祉サービスの利用は、日本では多くのものが体力に合わせ利用していたが、米国では親族や友人など相互支援が積極的に行われており、福祉サービスの利用は少なかった。5.過去の出来事からの影響について、日本では被爆、敗戦体験があり、これらは壊滅状態から自らの力で乗り越えたという自信や誇りとなり、人生の苦難に立ち向かう原動力となっていた。米国ではキリスト教文化を基盤としたボランティア精神や自らの手で開拓したチャレンジ精神が活動の原動力となっていた。6.老いや死について、日米とも自然なこと、人生の一部と捉えていた。米国ではキリスト教的信仰により、来世への希望が霊的な安寧をもたらしていた。日本では仏壇や墓参りに見られるように先祖との繋がりが強く「お迎え」への期待があった。今後、日本の高齢者の予防的行動に重点をおいた指導的支援、個人の人生体験や価値観を尊重した支援のあり方の検討が必要である。
著者
岡部 悦子
出版者
長崎外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成18年度の研究では、前年度までに行った「外国人交換留学高校生の日本留学に対する印象」(岡部2005)での分析結果をもとに、外国人交換留学生に対するアンケート調査と、インタビュー調査を実施した。アンケートの質問項目は、岡部(2005)で得た、日本留学に対する4つの印象項目(I.異文化を知り、様々な体験をした)、「II.異文化の中で、苦労しながら人間関係を築いた」、「III.留学プログラムの制度・行事を通じての体験」、「IV.留学に対する肯定的な評価」から34問を作成した。インタビューでは、アンケート調査の内容をフォローアップすると同時に、日本語の口頭表現能力も調査をした。その結果、すべての留学生が「留学してよかった」「学校に行ってよかった」「ホームステイをしてよかった」と留学体験とプログラムを肯定的に評価していた。差が見られたのは、「日本の習慣に驚きましたが、だんだん慣れました」、「日本にすんで、日本の社会は悪いと思いました」(「II.異文化の中で、苦労しながら人間関係を築いた」に関する質問項目)、「ことばがわからなくて大変でした」(「III.留学プログラムの制度・行事を通じての体験」に関する項目)であった。インタビュー調査で人間関係・言語面で苦労した点について尋ねると、「日本ではいつも集団行動をしなければならない」「みんな同じ意見や行動をしている」といった集団性、同一性に対する違和感、「自分の日本語の意図が誤解されてしまう」「同じ高校生なのに、先輩・後輩で言葉を使い分けなければならない」という、意図の解釈の違いや敬語に対する違和感が聞かれた。これらの原因は、日本語能力というよりは、社会や言語行動に対する価値観に起因する面が大きいと思われる。交換留学高校生の受け入れにあたっては、日本社会における「前提」を丁寧に説明し、価値観の<摺り合せ>をしていくことが必要だと考える。
著者
石井 昇 松田 均 中山 伸一 鎌江 伊三夫 中村 雅彦
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

【研究目的】日常診療、研究等に多忙な医療従事者や医学生等に対して、その職種やレベル別に応じた適切な教育効果が期待されるコンピューターシミュレーションを用いた災害医学、災害医療の教育システムの開発を目指したもので、特に自己学習が可能なゲーム感覚で学習が継続できるプログラムを作成する。【研究実施計画】平成12年度は地震時の災害医療における国内外の関連資料の収集・分析と、コンピューターへのデータ収録、さらに地震災害の初動期災害医療対応のシナリオ作成に必要な画像の収録・編集等を行った。平成13年度は、災害発生初期における医療対応での問題点等の抽出を行い、災害医療の実際等に基づいたシナリオ作成と災害発生後の状況を疑似体験できる災害現場を仮想空間にてシミュレーションできる3次元モデルプログラムの開発をコンピューターシミュレーションソフト開発会社等との協力のもとに着手した。平成14年度は、コンピューターソフト関連の技術者等の協力を得てコンピューターグラフィック化を含めたシナリオ作成と災害発生現場を擬似体験できる災害現場の3次元仮想空間でのシミュレーションモデル作成を行った。【本研究によって得られた新たな研究等の成果】地震災害想定モデル作成の複雑さと困難さに直面し、本研究期間内において地震災害想定シミュレーションシナリオ作成の完成に到達することは出来なかったが、コンピューターシミュレーションソフト開発会社の協力が得て、災害想定モデルのシナリオ作成の第一段階として、工場爆発想定の3次元の災害現場の仮想空間モデルを作成し、この仮想空間モデルを活用した災害現場でのトリアージ訓練シミュレーション教育システムのプロトタイプを作成中で、本年4月に完成した。今後地震災害想定モデルの作成に向けての研究を継続する予定である。
著者
猿田 佳那子
出版者
広島女学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の主たる調査対象は、日本占領時に収集された瀬川幸吉コレクションと、台湾総督府が中心となって残した記録類である。台湾では、17世紀以来支配勢力の興亡がくりかえされたが、1895年にはじまる日本占領期間中は、山岳地域や離島に住む先住民をも統治下においた。現時点では本研究の概要をまとめるには至っていないが、外界との接触による影響のうち、特筆すべきものをつぎにあげる。1.素材の移入:交易が開放的である民族ほど、織技の衰退が著しい。首狩の風習を残していたタイヤル族や離島に住むヤミ族では、自生の繊維を用いた剛直な織物がもちいられた。パイワン族やアミ族では交易によって木綿、モスリンなどがもたらされたことがわかる。これは肌触りがなめらかで発色もよいという理由から、日本でも同様な経過をたどったことと対比できる。また、独自の染色技術の発達がみられず、一枚の布のうち、赤は毛、青は綿、白は麻を交織している物が少なくない。これらは、毛布、藍木綿を交易によって入手し、解して自生の麻に混ぜて織った物とみられる。2.衣服の受容:家族や地域住民の集合写真をみると、子供は日本のキモノらしいものを着用している例が散見する。浴衣が支給されたり、日本から派遣された公務員の妻たちが、手縫いやミシン縫いを教えたという記録もある。男性は立襟の軍服風のものや帽子を着用している。当時の彼らが持っていた日本服観、漢満族服観、洋服観はどのようなものであったろうか。3.身体変工:満族の習慣であるところの弁髪を採用している肖像写真が目を引く。入れ墨の習慣もあったが、入れ墨が一時的な加工であるのに対して、頭髪は自然にまかせれば弁髪状態を保ち得ないのであるから、継続的にこうした理髪を続けていたことになる。
著者
布川 日佐史
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ドイツにおける最低生活保障制度は、「活性化」をキーワードに、2005年1月に大きく改革された。すなわち、就労可能な人の「活性化」のための「求職者に対する基礎保障(社会法典II)」が新設され、就労不能な人への「社会扶助(社会法典XII)」との二本立てに再編されたのである。これまで失業保険受給期間を過ぎた要扶助失業者の生活保障をしてきた「失業扶助」は廃止された。また、最後のセーフティネットである「社会扶助」から、就労可能な受給者及びその世帯員が切り出された。本研究は、ドイツ各地の関連機関や研究者へのヒアリングをもとに、2003年度は「求職者に対する基礎保障法案」が準備され、2003年12月に連邦議会で採択される過程を明らかにした。2004年度においては新制度制度導入を目前に控えた準備状況を、また、2005年度には新制度の実施状況を明らかにした。とりわけドイツにおける制度改革においてポイントとなった、就労可能な要扶助者に対する最低生活保障の給付要件、自立支援プログラムの内容、実施体制、自治体財源保障、ケースマネジメント、就労インセンティブと忌避者への制裁など、受給者の活性化に関わる点に焦点を当て、検討を深めた。これらの点は、日本の生活保護における自立支援プログラムの実施に伴う課題と共通する論点である。ドイツにおける政策展開と比較対照することによって、日本の生活保護制度における自立支援施策に関わる論点を豊富にでき、生活保護に関する政策提言の内容を充実させることができた。