著者
笠倉 和巳
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

2年目の29年度は、昨年度6種類(酢酸、酪酸、イソ酪酸、プロピオン酸、吉草酸、イソ吉草酸)の中からマスト細胞の活性化を抑制する短鎖脂肪酸として見出した吉草酸に焦点を当て、その作用機序の解明を目指した。吉草酸の作用経路としてGタンパク質受容体であるGPR109Aを介してマスト細胞に作用していることを昨年度明らかにした。GPR109Aはナイアシン(ビタミンB3)の受容体として同定された分子であり、免疫細胞においてナイアシンは、GPR109Aを介してエイコサノイドや抑制性のサイトカイン産生を促進し、抗炎症作用を示すことが報告されている。そこで、まず、①ナイアシンが吉草酸と同様にマスト細胞の活性化を抑制するか、また、②吉草酸のGPR109Aを介したマスト細胞の機能抑制にはエイコサノイド産生を介した間接的な作用があるかの検討をした。①吉草酸よりは効果は弱かったものの、ナイアシン添加によりマスト細胞の活性化が抑制された。また、ナイアシンの経口投与により全身性アナフィラキシーによる体温低下が緩和される傾向が見られた。②吉草酸およびナイアシンによるマスト細胞の活性化抑制にエイコサノイド産生が関与しているかをプロスタグランジンの合成に必要なシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤であるアスピリンまたはインドメタシンを用いて検証した。COX阻害剤処理により、吉草酸およびナイアシンによる抑制効果が打ち消された。さらに、全身性アナフィラキシーの系にCOX阻害剤を投与することにより吉草酸およびナイアシン投与によりみられた体温低下の抑制が解消した。以上のことから、吉草酸はプロスタグランジン産生を介してマスト細胞の活性化を抑制していることが明らかになった。
著者
渡邊 明義 津田 徹英 早川 泰弘 三浦 定俊 淺湫 毅 中村 康 佐野 千絵 斎藤 英俊
出版者
独立行政法人文化財研究所東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

彩色文化財の技法と材料について、日本とドイツの美術史研究者、伝統技術者、自然科学者が共同して研究調査を行った。研究期間中は互いの研究者が双方の国を毎年一回ずつ訪問し、あらかじめ選定しておいた現地で詳細な調査を行い、シンポジウムを開催し討議を行うなどして研究をすすめた。研究対象は、ドイツ側では主に南ドイツ(バイエルン地方)の中世彩色木造彫刻を取り上げたが、日本側では彫刻に限らず、絵画、工芸、建造物など広く関心を持って調査を行った。また彩色文化財そのものだけでなく、彩色に用いる顔料の製造工場や、金箔工房など、また各地の修復工房や作業現場でも調査研究を行い、彩色材料やその技法、修復技術への応用などについても相互の理解を深めるようにした。顔料分析については、ドイツにおいてはサンプリングによる試料の分析を積極的に行ったが、わが国の文化財については試料採取が困難なために、現場で試料を採取しないでそのまま顔料分析できるポータブル蛍光X線装置を開発した。この手法は対象作品表面からの測定になるため、彩色層に顔料を混合して用いているのか複数の顔料層か分析結果からだけでは判別できないが、実体顕微鏡を用いた観察と組み合わせることによって、確度の高い情報を得ることができた。本研究を通して、報告書に示すように多くの研究成果をあげることができた。一例としては、源氏物語絵巻物の顔料分析を初めて行い、白色顔料に従来想定されていた鉛を含む白色顔料(おそらく鉛白)だけでなく、カルシウムを含むもの(おそらく胡粉)、軽元素しか含まないもの(おそらく白土)、それにこれまで知られていなかった水銀を含む顔料の4種類を用いていることや、日本の彫刻彩色に緑色顔料として岩緑青以外に、砒素と銅を含むものや軽元素だけの顔料を用いていることを、初めて明らかにしたなどをあげることができる。
著者
棚村 政行
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究及び関連するプロジェクト研究を通じて、日本における親権・監護法における問題点を具体的に析出するとともに、欧米先進諸国及び他のアジア諸国における親権・監護法制の展開や改革動向を比較検討することにより、また、日本における家庭裁判所や弁護士実務における運用面での工夫や自治体や民間機関と行政・司法などの関係機関の連携を進めつつ、日本における親権・監護法の具体的な立法提言を行い、その一部は実際の民法等の一部改正や解釈運用の改善に結び付けることができた。
著者
金井 淑子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究はフェミニズムと倫理学を架橋する問題意識から、ジェンダー、身体、本質主義、構築主義をめぐる議論のある種の膠着状況にあるとの認識に立ち、それを突き破りうる「身体論」の位相を拓こうとするものである。身体の問題について、哲学の場面に登場しつつある臨床哲学や現象学的身体論を批判的に引き込み、その議論の土俵をつくる企てであった。フェミニズムに「フェミニニティ」を立てれば、本質主義という批判を免れがたいのだが、あえてそこに踏み込み、フェミニズムにおいて知の余白に置かれてきた身体の主題化に挑戦した。計画年度初年度は、主としてフェミニズムの側から、フェミニニティ、身体、社会構築主義/本質主義、ジェダーのキーワードに関わる課題について考察した。中間年度は、哲学・倫理学の側でキーワードとなる、身体、女性、パターナリズム、ケア、家族・家庭、親密圏についての概念的整理を通して、「弱いパターナリズムとしてのケア倫理」の提唱に及んだ。研究は、論文数編と、編著『ファミリー・トラブル近代家族/ジェンダーのゆくえ』に結実した。最終年度は、単著『異なっていられる社会を女性学/ジェンダー研究の現在』、編著『身体のアイデンティティ・トラブルセックス/ジェンダーの二元論を超えて』、共著『差異を生きるアイデンティティの境界を問い直す』『ジェンダー概念が開く視界-バックラッシュを越えて』、他、論稿数本において、本研究テーマの成果を反映した刊行につなぐことができた。なお本稿が立てた「フェミニニティと現象学的身体論批判」について、身体への現象学的アプローチの考察に十分な展開を果たせていないことを付言しておきたい。
著者
赤木 正明
出版者
徳島文理大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

(1)超酸化カリウムは1-10mMの濃度範囲で、濃度に依存して肥満細胞からのヒスタミン遊離を誘発した。その遊離は温度およびエネルギー依存的であり、細胞破壊的でない脱顆粒によるものであった。細胞内の遊離Ca^<2+>濃度の上昇を伴い、細胞膜においてlysophosphatidylcholineの生合成が促進された。細胞内cyclic AMP濃度を上昇させる薬物や細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>遊離を抑制する薬物によってはヒスタミン遊離は抑制されなかった。以上のことより、超酸化カリウムによるヒスタミン遊離には、細胞膜の透過性亢進によるCa^<2+>の流入が関与していることが明らかになった。超酸化カリウムによるヒスタミン遊離に対して、酸性抗アレルギー薬は抑制作用を示さなかったが、膜安定化効果を有している塩基性抗アレルギー薬は抑制効果を示した。(2)ラット門脈結紮一再潅流による血圧および心拍数の変動に液性因子が関与することがparabiosis実験により明らかになった。その液性因子は、血圧および心拍数の変動が抗酸化剤であるアスコルビン酸や鉄キレート剤であるdeferoxamineにより抑制されたことより、活性酸素種であることが強く示唆された。また、門脈結紮により血中ヒスタミン量が増加し、空腸粘膜のヒスタミン含量の有意な減少が明らかになった。さらに、再潅流により肝臓、心臓、空腸の組織ヒスタミン含量の有意な増加も明らかになった。以上の結果より、門脈結紮により血流低下が誘発された肝臓よりも、うっ血が生じている腸組織からヒスタミンが遊離されること、また、活性酸素種によりヒスタミン生合成系が賦活されることが示唆された。
著者
MARIANNE SIMON・O 月村 辰雄 中地 義和 野崎 歓 塚本 昌則
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、フランスにおける16世紀以降の視覚詩を研究対象として、文字の視覚性を特徴とする。視覚詩の歴史、視覚詩の視覚性、作者と読者の関係、フランスの視覚詩の国際的な位置づけといった四つの視点から、文学とイメージの関係性について考察するものであった。なかでも、近年発見された新しい資料をもとに、20世紀の詩人ピエール・アルベール=ビローとピエール・ガルニエの作品研究を進めた。
著者
鯉渕 晴美 藤井 康友
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

表皮ブドウ球菌が生成したバイオフィルムに対し超音波を照射すると、これまで報告されてきた超音波強度よりも弱い強度でも、24時間照射すればバイオフィルムは破壊されることがわかった。さらに、培養皿に表皮ブドウ球菌液と液体培地を混和し、ここに超音波を照射することによって、超音波照射はバイオフィルム生成阻害にも寄与することが判明した。また、バイオフィルム生成の初期段階に超音波を照射すれば、より短時間の照射でも(20分)バイオフィルム形成阻害効果があることが証明された。これらより、カテーテル関連バイオフィルム血流感染症の発症予防に超音波照射が有用でありさらに実現可能であることが示唆された。
著者
貞広 幸雄 奥貫 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,複数の空間オブジェクト分布間の相互関係を分析する手法を開発し,その実際の適用を通じて実用性の検証を行った.空間分割構造,ポリゴン分布,点分布の3つの空間オブジェクト分布について,位相関係,階層関係,補完関係,隣接関係という4種類の空間関係を抽出し,可視化する手法を開発した.いずれの手法も,離散構造をグラフとして取り扱い,その中で典型的なパターンを抽出するコンピュータアルゴリズムを用いている.
著者
新井 康友
出版者
中部学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

東海地区にあるすべての地域包括支援センターを対象に、高齢者の孤 立死事例の実態調査を行った。その結果、大都市に限らず、小都市でも孤立死が発現していた。 また、一人暮らし世帯に限らず、同居世帯でも孤立死した事例があった。孤立死問題の本質は、社会的孤立した果てに死亡した「社会的孤立死」が問題なのである。孤立死を予防するための 活動としては、NPO法人や生活協同組合が行う活動が高齢者の孤立の予防の役割を果たして いた。
著者
山本 剛
出版者
学校法人 福島成蹊学園 福島成蹊高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

本研究では, 生徒たちに電気伝導度を精密に測定させ, 電気伝導度の低下量とミカヅキモ(Closterium moniliferum)の細胞数との関係, 電気伝導度の低下量とストロンチウムイオン濃度の関係を明らかにする。この結果に基づき, 福島で起きた原発事故後の放射性物質の除染活動を, 生徒たちが採集し, 培養したミカヅキモを利用し, 実現できるかどうかデータ収集を試みる。また, 藻類の種類による電気伝導度の変化を調査し, より電気伝導度を低下させる藻類を発見する。実際の汚染水中には放射性セシウムのような他の金属イオンも存在するので, 他の金属イオンが共存する中でも選択的にストロンチウムイオンを吸収するかどうか, また, より効果的な吸収条件についてもデータ収集を実施する。研究方法は, メトラー社製の電気伝導度計を用いて, 一定量のミカヅキモが投入された塩化ストロンチウム水溶液の電気伝導度を投入後から15分間1分ごとに測定。塩化ストロンチウム水溶液の濃度と電気伝導度の関係を表す検量線よりストロンチウム濃度を求め, 低下前の値と比較し, ミカヅキモのストロンチウム吸収量を求めた。研究成果としては, 一定量の塩化ストロンチウム水溶液であれば, 細胞数が多いほど全体の吸収量が増えると予想していたが, 細胞数が多くても吸収量が少なく, 適正な細胞数があることが明らかとなった。また, 1細胞当たりの吸収量も同じ量になると予想していたが, かなりばらつきがあった。また, ミカヅキモの種類で比較するとClosterium moniliferumよりもClosterium lunulaの方が光学顕微鏡による顆粒の観察により, より多くのストロンチウムを吸収することができる可能性が高まった。採集したアミミドロ(HydrodictyunSp.)も電子顕微鏡観察により, ストロンチウムを吸収していることが明らかとなった。
著者
白幡 洋三郎 村井 康彦 井上 章一 小野 芳彦 山地 征典 園田 英弘 村井 康彦 飯田 経夫 山折 哲雄 イクトット スラジャヤ 長田 俊樹 白幡 洋三郎 セルチュク エセンベル
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

平成6年度は、イスラム文化圏における日本の生活文化の受容調査であり、対象国としてトルコを選び、イズミール、アンカラ、イスタンブールを中心に調査を行った。トルコはイスラム文化圏とはいえ、近代化に一定の成功をおさめた国であり、生活用品の分野においては先進国と同様の工業製品がみられるものの、日本製品はきわめて少なかった。また親日国であるといわれているにもかかわらず、教養・実用・趣味・娯楽等の分野においても日本にかかわりのあるものは意外なほどに見つからなかった。むしろ西洋、とくにドイツとの関係が著しいことが確認できた。このことにより、トルコをイスラム文化圏と見るとともに、西洋文化圏もしくは西洋文化に強く左右されている文化圏と見て、日本文化とのかかわりを考察すべきであろう。平成7年度の対象地域は南アジア・東南アジアであった。ベトナムにおいては、ベトナム戦争終結後、社会主義政権が新たな経済政策をとり、その安定的発展によって民衆の生活に新しい展開が生まれている。その新しい展開の中に日本の伝統的な文化に属す茶道・華道なども、一定の受容が見られる。しかしとりわけ日本の生活文化としては、現代の大衆文化と見てよい電化製品の普及やカラオケ・コンピュータゲームなど娯楽分野での受け容れがきわめて顕著に見られた。また、もともとは中国経由で入ってきた盆栽が、日本語のBONSAIとして広まっている。すなわち中国経由の既存文化が、外からの刺激(日本の文化)によって新しい展開を見せている点で注目される。文化の盛衰を構造的に分析する材料として重要だと考えられる。またインドにおいては、日本の生活文化の進出はきわめて低調であり、大衆文化としてほとんど受け入れられていないことがわかった。華道や俳句では、知識人を核にした富裕層にのみ愛好会や同好会の形で存在している程度である。これは国民の所得水準によって規定されているものと考えられ、日本の生活文化の普及を大衆レベルでの異文化受容と考えた場合、経済的な要因が大きな困難となる実例であろう。タイにおいては、広い分野での日本の生活文化の受容が見られる。とくに日本の食品や生活用品はすでに広く生活の中に定着している。日本食やインスタントめんなどは、日本の手を放れ自前で独自の加工を施したものも豊富に出回っている。マンガは日本のものが翻訳されて各種出版されており、タイ人の手によるタイ語ならびに中国語の漫画が出回るほどになっている。娯楽や実用・趣味の分野でも日本の生活文化は広く受容されていることがあきらかとなった。平成8年度の調査地域である旧社会主義圏では、生活必需品のレベルでの日本の生活文化受容が見られたものの、それ以外での、「教養」「精神」「趣味」「娯楽」など、経済的な余裕に左右される分野での受容は乏しいことが明らかとなった。この地域では、社会主義政権の崩壊後、生活は不安定になったが、一方で西側諸国からの物資・情報が、以前より広範に流入している。従って、旧社会主義政権下にくらべて「異文化」の受容は進んではいるものの、その範囲は狭い。テレビ、冷蔵庫、オ-ディオ機器などの電化製品では、高価な日本製はあこがれの的だが、日本製を装ったものが市場に流通しており、特異な日本の生活文化受容が見られる。社会主義政権の崩壊に急激な暴力革命が伴ったル-マニアでは、経済復興が遅れており、国民生活に余裕がなく、日本製品に限らず西側の製品全般が贅沢品とみなされ、これらの需要は低迷している。華道・茶道・盆栽・俳句などの教養分野は、わずかに一握りのインテリ層に受容され、禅や宗教など精神文化の領域は表面にはまったく現れていない。日本の生活文化を大衆レベルでの海外への進出からとらえると、受容する側の生活水準に規定されることが明らかになった。したがって、文化の通文化性に関しても、その文化項目固有の「通文化性」は、受け入れる側の経済的、文化的状況に大きく左右されるといえるであろう。
著者
桐原 隆弘 今井 敦 中島 邦雄 小長谷 大介 福山 美和子 熊谷 エミ子 増田 靖彦 西尾 宇広 稲葉 瑛司
出版者
下関市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はF・G・ユンガー『技術の完成』(1939年執筆、戦後に公刊)における技術論を哲学、ドイツ文学、エコロジー思想、科学技術史の各観点から総合的に検討することを目指した。同書の論点として、①機械論的自然観と有機的生命観/人間観/社会観との絡み合い、②技術による富/余暇の逆説的な減少過程、ならびに大衆のイデオロギーへの感染性および技術時代の戦争の全面戦争への展開、③富(存在および所有)と時間(生産および余暇)の理論を軸とするエコロジー思想の萌芽を読み取った。ユンガー自身が有するこれら複数の論点を照らし合わせる作業から、科学技術の公共哲学的意義をめぐる議論に新たな一石を投じることができよう。
著者
堀内 一穂 柴田 康行 米田 穣 大山 幹成 松崎 浩之 箕浦 幸治
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

年縞堆積物中のベリリウム10を分析し, 同一の堆積物から得られた既存の炭素14記録や, 本研究にて新たに分析されたアイスコアのベリリウム10記録と比較することで, 最終退氷期の太陽活動変動曲線を抽出することに成功した.その結果, 太陽活動は退氷期の古気候変動を支配するものではないが, 気候変動イベントのトリガーには成り得ることが分かった.また, 古木から単年分解能で効率的に炭素14 を分析する手法や, 年縞堆積物から単年分解能でベリリウム10を分析する手法が確立された
著者
原田 環
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、第二次日韓協約と通称される、大韓帝国(1897-1910)が外交権を日本に委譲した条約(Convention、1905年11月17日締結)を取り上げた研究である。これまで韓国では、この条約が日本によって強制されたものであるので、国際法上無効であると主張してきた。これに対して、報告者はこれまでの研究において、皇帝高宗が当時の大韓帝国の政府閣僚に命じてこの条約の締結を進めさせた事実を明らかにした。本研究では、さらに次のことを明らかにした。1)第二次日韓協約の締結を自ら進めた皇帝高宗が、条約の締結後は一転してこの条約に反対する運動を扇動したこと。2)他方においてこの条約に反対する運動が求める政府閣僚の罷免要求を退け、条約の締結を推進したこと。3)この結果、皇帝高宗とこの条約反対派との間に対立が生じたこと。これらの研究成果によって、大韓帝国においては第二次日韓協約に対して皇帝と国民が一致して反対したというこれまでの韓国における通説が否定された
著者
斎藤 夏来
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究課題において設定した研究対象である宇喜多能家画像について、その伝来事情を論考「宇喜多能家画像の伝来事情」にまとめ、『岡山地方史研究』に投稿した。大寺社や大名家に伝来したわけではなく、近世期には村方社会において保存されてきた本画像の伝来経緯をいおおむねあきらかにすることができた。こうした伝来事情の検討を通じ、研究対象である能家画像が、むしろ典型的な中世画像の一例と考え得ることなどを指摘した。この論考は年度内の刊行予定である。また、主な研究目的である画像賛の読解について、高精細赤外線画像を用いた読解作業と、関連史料の収集とをほぼ終了し、「(仮)室町武士の創出ー宇喜多能家画像賛の検討」と題する論考の執筆に着手した。文書や記録などの補助史料としてではなく、むしろ文書や記録などの読み直しを迫られる史料として、画像賛という史料の特性や価値を捉えようとしている。なお本研究で撮影作成した高精細赤外線画像は、求めに応じて東京大学史料編纂所に提供し、『大日本史料』9編28の346~349頁掲載の「絹本着色宇喜多能家像」の翻刻に用いられた。この翻刻の成果も、執筆中の論考において、あわせて検討を加える予定である。また、本研究課題に密接に関連する著書『五山僧がつなぐ列島史ー足利政権期の宗教と政治ー』(名古屋大学出版会)を刊行した。
著者
小林 千余子 蛭田 千鶴江 鈴木 隆仁
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

刺胞動物門ヒドロ虫綱に属するマミズクラゲは、淡水棲でありながらクラゲを放出する生物である。日本全国で夏場にマミズクラゲ成熟個体の発生が報道されるが、一つの池で一性別だけしか確認されないことが多く、その生物伝播や性決定に関して謎多き生物である。申請者は 7年前にマミズクラゲポリプを入手し、1個体から個体数を増やすことに成功し、さらに温度変化によるクラゲ芽形成の条件を確立した。そこで本研究では、実験室内で有性生殖世代を再現し(性成熟を引き起こし)、さらに核型解析による染色体情報やゲノム情報を得ることで、マミズクラゲにおける性決定が、遺伝的要因なのか環境的要因なのかの決着を付けることを目的として研究している。H28年度はワムシを餌に用いた幼クラゲからの性成熟に挑戦した。その結果、ワムシを与える頻度や飼育の水深等を工夫することで、初めてメス池から採集したポリプから分化した幼クラゲの生殖腺が発達し、卵を持つ卵巣へと成熟した。H29年度は オス池から採集したポリプから分化した幼クラゲをワムシを用いて飼育することにより、精子を持つ精巣が発生してくることを確認した。また、メス池から採集したポリプから分化した幼クラゲと、オス池から採集したポリプから分化した幼クラゲを、同じ飼育水槽で、ワムシという同一の餌の条件下で飼育しても雌雄異なる性が発達したことから、マミズクラゲの性はポリプの世代で決まっている、つまり遺伝的要因である可能性が大きく示唆された。
著者
須田 勝彦 岡野 勉 大竹 政美 大野 栄三
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、日本の公教育の成立・形成期(国定教科書成立以前)における数学(算術)、自然科学関係の教科書を検討し、その中で「基礎・基本」がどのように構想されていたのかを明らかにし、今日の教育課程・教育内容編成の問題に有効な指針として生かし得る視点を抽出することを目的とした。数学教育では分数の概念に焦点をあて、次のような知見を得た。(1)分数指導は、初期においては複数学年にわたる指導内容の分配(分断)がなく、導入から乗除まで一貫した連続指導を進める構成であり、形成期に様々な形での分散方式への移行がなされた。この過程の検討は、現行カリキュラムにおける根拠のない分散への批判的検討の素材として重要である。(2)分数の定義に関して、現行と同様の等分割と整数倍によるものばかりではなく、指導の早期にその定義と併せて、商の表現としての分数という定義も導入し、両者の同等性を説明する試みも少なくない。後者は現在の分数指導過程の構成に生かし得る。(3)演算の指導に関して、整数の乗法との連続性・同一性を懇切に説明する教科書も多い。演算の遂行方法の指導に偏りがちな指導方法への批判の視点として重要である。自然科学関係では、近年の中学校・高校における物理分野の教育内容編成の問題点を検討し、明治期中学校物理教科書から読み取れる教育内容編成のあり方と比較した。現在の中学校学習指導要領理科とほぼ同様の教育内容の編成が明治期の中学校物理教科書の一部でも採用されている。しかし、詳細に見ると音の学習の位置づけにちがいがあり、明治期教科書における系統性の方が豊かな音の学習を展開できる可能性がある。さらに読本教科書においても、科学教育の一環を担いうるテーマが多く登場しており、それを位置づけうる教科を越えた理論的カテゴリーの構築の重要性が示された。
著者
倉本 到
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は,インタラクションエージェントに個性を付与することにより,その対話経験を豊かにすることを目指した.その結果(1)人間の性格を付与したエージェントとの意思決定対話の満足度や推薦への影響が見られた,(2)外見的性質に基づきユーザの内面的性格を表出する手法として,アニメ―ションや漫画などで用いられるステレオタイプ性の強い性格表現法および「母親らしい」テキスト表現を用いることで,擬人化エージェントが提供するインタラクティブシステムの機能性や性質を明らかにしたり,ユーザへより親密な,かつより強く印象付けられるような表現を作り出すことができた.
著者
秋田 智之 田中 純子 大久 真幸 杉山 文
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

がん検診の評価において、検診発見群と外来発見群の生存率を比較して有効性を示す場合には、リードタイムバイアスによる過剰評価が問題となる。本研究では、がんサイズの倍加時間を利用し、観察期間「発見可能なサイズになってから死亡まで」と変更することにより、リードタイムバイアスの補正をしたうえで生存率を比較する方法を提案した。これを4病院の肝がんサーベイランス発見群2,822人、外来発見群1,077人の生命予後データに対して適用したところ、補正後の生存率の差は依然認められ、サーベイランス発見群の生存率のほうが高く肝がんサーベイランスは生命予後の改善において有効であると考えられた。
著者
田中 ゆかり
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

首都圏方言を中心に「気づき」の程度と言語変化というテーマから研究を進めてきた。「気づき」と「言語変化」の関係には、次の4パターンを想定し、それぞれのパターンによる特性を検討したいと考えた。(A)「気づきやすく変化しやすい」/(B)「気づきやすく変化しにくい」(C)「気づきにくく変化しやすい」/(D)「気づきにくく変化しにくい」(A)のケース・スタディとして、東京首都圏生育者の「関西弁」受容や、ケータイ・メイルなどに特徴的に現れる「母方言」「ジモ方言」「ニセ方言」などをとりあげた。また、(C)のケース・スタディとしては、従来(D)と考えられてきたアクセント事象を取り上げた。とりわけ、意識しにくいアクセント事象として形容詞活用形アクセント型を取り上げた。イントネーション事象として、形容詞活用形アクセント型変化とも一部連動する「とびはねイントネーション」をとりあげた。これは、「気づきやすく変化しやすい」側面をもつ事象である。一連の研究により、語彙は「気づきやすく変わりやすい」、流行的あるいは文末イントネーションも「気づきやすく変わりやすい」ということが確認された。アクセントについても予想したように「気づきにくく変わりやすい」という側面を持つことは確認された。これは従来アクセントが「気づきにくく変わりにくい」とされていたこととは異なる。ただし、その「変わりやすさ」はある同一の体系内において、という条件がつくようである。この点は今後の課題としたい。