著者
山本 英弘
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

日本ではなぜ社会運動への参加が低調なのかという課題を設定した。そして、日本、韓国、ドイツにおける質問紙調査に基づき、一般の人々の社会運動に対する態度と運動への参加許容度との関連について国際比較分析を行った。一連の研究から、日本では韓国やドイツと比べて抗議活動に対して肯定的な態度を持つ人々が少なく、そのことが参加を許容する人々の少なさにつながっていること、日本では運動が世論を代表するほど参加が許容されないというパラドキシカルな関係がみられることなどが明らかとなった。
著者
石井 晴之 中田 光 田澤 立之 似鳥 俊明 後藤 元 横山 健一 平岡 祥幸
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は高分解能CTのdensitometryを用いて、肺胞蛋白症(PAP)病変のCT値を分析することである。5症例のPAPを対象とし、重症度別に肺全体のCT値や肺volumeを客観的に評価することができた。また継時的変化も含めてPAP病巣を反映するCT値は-850HU~-750HU領域のすりガラス影であること、そしてこの領域でのvolumeは血清KL-6およびCEA値と有意に強い正の相関(0.867, 0.616)をみとめていた。稀少疾患であるPAPの早期診断は困難な場合が多いが、本研究成果はPAP診断アプローチに役立つ情報になると思われる。
著者
瀬田 範行 桑名 正隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

関節リウマチ(RA)の末梢血中では既にCD146^+単球が活性化されていたが、関節修復に関わる可能性のあるCD14^+CXCR4^<high>単球は健常人より少なく、疾患活動性が高いRA患者ほど更に少なかった。一方、RAの腸骨骨髄中と末梢血中には関節破壊に関わる可能性のあるCD14^+CD15^+単球が多数存在したが、CD14^+CD15^+単球は健常人の末梢血中にも存在したため、CD14^+CXCR4^<high>単球とCD14^+CD15^+単球のバランスがRAの病態において重要である可能性が示唆された。
著者
桑名 正隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

全身性硬化症(強皮症)患者ではトポイソメラーゼI(トポI)やRNAポリメラーゼI/IIIなど生命活動に必須な酵素に対する自己抗体が産生される。これら自己抗体は強皮症の発症を誘導しないことから、その産生は強皮症の病態に関連する付随的な現象と理解されている。これまでの研究成果から、抗トポI抗体産生は正常のT細胞レパトワに存在するトポIを認識する自己反応性CD4^+T細胞の活性化により誘導されることが明らかにされている。これらトポI反応性CD4^+T細胞は生理的な環境では発現されない抗原ペプチド(crypticペプチド)を認識することから、強皮症患者のいずれかの部位でトポIのcrypticペプチドが発現されている可能性が高い。そこで、申請者はトポI由来のcrypticペプチドの発現部位として、強皮症の病態の中心である線維芽細胞を想定した。その点を検証するため、強皮症患者の病変/健常皮膚または健常人皮膚より採取した線維芽細胞におけるトポIの過剰発現や分子修飾の可能性について検討し、以下の結果が得られた。1.強皮症病変部位の線維芽細胞におけるトポIのmRNA発現量は、強皮症患者の健常皮膚や健常人皮膚の線維芽細胞に比べて2-8倍上昇していた。2.免疫ブロット法による検討では、強皮症、健常人線維芽細胞でトポIの蛋白分子量に差はなかった。3.免疫沈降法による解析の結果、強皮症病変部位の線維芽細胞ではトポI分子が複数の蛋白と複合体を形成していることが明らかとなった。これらのトポI結合蛋白のうち少なくとも2つは強皮症患者健常皮膚や健常人皮膚の線維芽細胞ではトポIとともに免疫沈降されなかった。以上の成績より、強皮症病変部位の線維芽細胞ではトポIの発現が亢進し、他の蛋白(転写因子など)と結合することで過剰な細胞間マトリックスの産生や自己抗体産生にかかわっている可能性が示された。
著者
鈴木 石根
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

藻類は、効率的にバイオマスを生産でき、かつ食糧生産と競合しないバイオマス源として近年注目を集めている。しかしながら、藻類は細胞内にオイル成分を蓄積するため、培地から希薄な細胞を濃縮・回収し、抽出を行う必要がある。また、細胞の培養には窒素・リン酸・金属イオンなどの培養液成分が必要である。本研究は、藻類による有用物質の大量生産の問題点を解決するため、ラン藻細胞に導入した複数の代謝系をファージに倣って時系列的に誘導制御することにより、有用バイオマスであるアルカン/アルケンの高生産系を構築、藻類ファージのように細胞内の高分子を分解し、最終的に可溶化させることで、培地中に生産したオイル類やアミノ酸・ヌクレオチド類を放出させることで、オイル成分の回収を容易にするとともに、培地を再利用する方策を開発することを目的とする。ラン藻細胞の代謝改変のシグナルとして、植物ホルモンのエチレンとエチレンのセンサーをラン藻の内在性のヒスチジンキナーゼと連結して、エチレンセンサーとして働くキメラセンサーの作製を試みた。ラン藻細胞内でのキメラセンサーのア構築はこれまでに複数の成功例があり、機能未同定のHik2の機能解析については今年度公表した1)。シロイヌナズナの5種のエチレンセンサーから、キメラ型のヒスチジンキナーゼを作製し、ラン藻内で発現させた結果、3種は常に活性型で2種は常に不活性型であったが、いずれもエチレンの刺激に応答しなかった。植物のエチレンセンサーは、3回の膜貫通ヘリックスとGAFドメインをシグナルインプットドメインに持ち、膜貫通ドメインにエチレンの結合部位が存在する。5つのセンサーは互いに相同性が高く、アミノ酸配列の比較だけからは、活性の有無を評価できなかったため、様々なドメイン交換体を作製した。その結果、活性型の膜貫通ドメインを有することが、活性の発現に必須であることがわかった。
著者
有賀 健高
出版者
石川県立大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島県での生産量が多い農林水産物及び水の計10品目に関して、日本全国の約8700人の消費者を対象にアンケートを実施し、福島第一原子力発電所事故後の風評被害の実態について探った。アンケートデータを分析した結果、放射線に関する知識がなく、原発から遠方に住むため普段原発近辺の食品をあまり目にしない消費者ほど原発近辺の食品を買うのを避ける傾向があり、こういった消費者は風評に影響されやすい可能性が示唆された。一方、放射線の危険性についての知識があり、風評ではなく自分の判断に基づいて購買を回避している消費者の場合は、風評ではなく実害もあるという考えから購買を回避している面もあることが明らかとなった。
著者
竹原 幸生 江藤 剛治 鈴木 直弥 高野 保英 森 信人 水谷 夏樹 THORODDSEN Sigurdur T.
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

大気-海洋間の気体輸送現象に対するホワイトキャップの影響を明らかにするため,3台の高速ビデオカメラを用いた画像計測法により,風波界面近傍の流れ場計測技術を開発し,ホワイトキャップが生じている近傍の流れ場を明らかにした.さらに,気流と風波発達の関係も画像計測により明らかにした.また,砕波により生じた気泡の特性を画像計測により明らかにした.さらに,全球規模での大気-海洋間の気体輸送に対する砕波の影響も現地計測データや衛星データを用いて評価した.
著者
多木 浩二 田中 日佐夫 川端 香男里 長谷 正人 佐藤 和夫 若桑 みどり 大室 幹雄
出版者
千葉大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

20世紀の政治的歴史のなかで最も特筆すべき経験は、それが人類にもたらしたはかり知れない災いから言っても、「全体主義」であると言えよう。全体主義は、近代化の進展による共同体的統合の喪失のなかでクリティカルな問題として現れた、政治的形態(国家)と社会形態(大衆の生活意識)の不一致を解決しようとする企てであった。つまり全体主義は「国家と社会の完全な同一性」と定義される。われわれは、この全体主義をこれまでの研究のように政治体制として扱うのではなく、政治文化として扱うことを試みた。言わばそれは、全体主義を支配体制(国家)の側からではなく、その支配体制に組み込まれた大衆の意識、無意識の側から究明することである。われわれはそれを、思弁的に探究するというより、個々の状況(ナチズム、ファシズム、スターリニズム、天皇制)における個々の芸術やイメージ文化(建築、大衆雑誌、映画等)の分析を通じて検討する方法を選んだ。つまり全体主義のなかで、いかなる芸術形式が可能であったか、いかなる排除や、強制、いかなる迎合や利用が行われたかを細部に渡って眺めてみたのである。その結果は、個々に多様であるので、全体としての結論をここに書くことはできないが、しかし次のような共通の認識を得ることができた。つまり、全体主義文化の問題は、両大戦間期に発生したいくつかの政治体制にのみ当てはまる問題ではなく、近代の政治体制と文化との間につねに横たわっている問題だということである。例えば、ニューディール体制下の芸術家救済政策(WPA/FAP)を見ればわかるように、民主主義国家においてもある状況のなかでは芸術に社会性が要求され、おのずとイデオロギーを共有することが起きたのである。こうしてわれわれの研究は、近代社会の歴史をイメージ文化の側から探究するような、裾野の広い政治文化史の問題へと展開していくことを予感させることになった。
著者
岩下 剛
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日本スポーツ振興センターの事故データと、事故発生時の気象データをマッチングさせ研究を行った。冷房普及率の高い東京都区部および冷房普及率の低い東京都市部の学校を調査したところ、夏期、中間期において区部小中学校教室における事故率の経年減少が市部小中学校教室に比べ著しかった。学校における熱中症発生と環境温度との関係を考察したところ、外気温熱指標の上昇に対応する熱中症発生リスクの増大が顕著であった。高温下の体育館における環境温度の熱中症発生への影響は校庭と同等であることを確認した。東京都のある区の学校空気検査結果行政データを入手し考察したところ、中学校教室で平均CO2濃度が基準を超過していた。
著者
河中 正彦
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

カフカ研究に欲動論と第二局所論を導入するという最初の意図は、完成稿として発表した3編の論文において実現できた。『判決』論での理論的成果は以下の3点に纏められる。(1)『判決』研究を自伝的、精神分析的、宗教的な解釈に分けると、自伝的方法は主人公ゲオルクを市民としてのカフカ、ロシアの友人を作家としてのカフカ、ゲオルクの父をヘルマン・カフカと解釈する。精神分析方法は、自我、エス、超自我と読み解く。宗教的解釈は西方ユダヤ人、東方ユダヤ人、神と解釈する。しかし市民としてのカフカと「自我」という規定は同じことだし、西方ユダヤ人というのも近代化された自我と解すれば、別物ではない。またフロイトによれば、超自我とは父をモデルにしているから、超自我という規定と矛盾しない。また超自我こそ神のモデルだというのがフロイト理論であってみれば、そこには矛盾はない。また作家としてのカフカとエス当規定は矛盾しない。なぜなら沈黙したエスは、語る声として超自我を通じて自らを語るからである。それはまた近代化されない自我、自我の「東方ユダヤ人」的な部分だからである。(2)『判決』において、ゲオルクの父がほとんど理由もなくゲオルクに残酷になりうるのは、メランコリーに特有の「欲動の解離」(フロイト「自我とエス」)によって、エスにおいて不可分に融合していたエロス(生への欲動)と死の欲動が分離し、死の欲動がエスから超自我(ゲオルクの父)に流入する結果、罪もない息子に死刑を宣告する。しかしゲオルクを自我、父を超自我と読み替えれば、これはそのまま、メランコリーに特有の「自虐」に他ならず、カフカおいてはそれはパラノイア(迫害妄想)からの自己防衛でもあった。ここまで深層におよぶ分析はかつてなかったし、カフカ研究に新しい次元を開拓できたと総括できる。(3)またその副産物として、1912年から14年にかけての作品群に登場する人物類型を、フロイトの第二局所論を援用して、整理することに成功した。それは『判決』、『火夫』、『変身』、『流刑地にて』の主要人物たちを、「エス、自我、保護者的(優しい)超自我、審判者的(厳しい)超自我」の4類型に分けて、共時的に構造化できたことである。その他論文として公刊するには至らなかったが、3回の独文学会の発表を通じて、『兄弟殺し』の分析で中期のカフカを、『巣穴』の分析で後期のカフカを考察した。
著者
平野 千枝子
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ゴードン・マッタ=クラークは都市のなかに放置された建物に入り込み、かつて住人をとり囲んでいた床や壁を切り取って新しい空間に変える行為を行った。こうした行為は、既存の建物から思いがけない新しい構造を生み出すとともに、人々がどのような空間に生きていたのか、それはなぜ廃墟となったのかを考えさせるものだった。マッタ=クラークはこのような活動を始める前に、樹木を用いた作品を制作し、合わせて植物を大量に描いていたが、これらの建築に関する作品との関係は不明だった。本研究では、マッタ=クラークが、環境によって変化し、環境を変化させる樹木を、我々を取り囲む建築を考え直すときのモデルとした可能性を提起した。
著者
辛 賢
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度(平成十九年度)では、六朝玄学において盛んに論争された、いわば「言不尽意」論につき、とりわけ王弼の「言-象-意」の論理階梯における「象」の意味と機能について考察を行った。王弼は著述『周易略例』のなかで、「意を尽くすは象に若く莫く、象を尽くすは言に若く莫し」(「明象」)といい、「言」より「意」の獲得の論理階梯(言→象→意)として「象」の介入を認めている。ここの「象」とはほかならぬ『易』の卦象と解釈することができるが、そもそも「象」または「卦象」とは、認識論においてどのような意味をもち、機能しているものなのか、という問題がある。そこで、易伝が成立するに至るまでの、先秦から前漢における関連資料を調査し、「象」の宗教的(呪術的)、または哲学的意味について考察を行った。考察の結果、「象」は神霊の働きをもたらすために用いる模型(たとえば雨乞いの土龍など)の呪術的機能に近く、易の「卦」も、自然万物の法則性を象った一種の「模型」的性質をもっており、「象」の本来的意味はこうした呪術的意味から展開したものであることを明らかにした。さらに「象」は戦国末頃になると、とりわけ道家系思想の存在論的変化(「道」の形而下化)につれ、根源者を認識・把握する媒介(兆象)として用いられることになる、ということも併せて指摘した。これらの考察内容については、論文として執筆した(下記の研究発表参照)。
著者
高野 美千代 パリー グレアム サウスコム ジョージ ワイルドガスト パトリック
出版者
山梨県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、書物史の観点から17世紀英文学にアプローチする研究方法を取った。日本国内では今後さらに踏み込まれるべき領域であるため、先駆的な研究となることを意図して海外の研究者の協力を得ながら17世紀イギリス書物と社会の関係について考察を進めることができた。具体的には17世紀後半のイギリスにおける出版事情を研究するためにロンドン書籍商の出版物を分析し、さらには学術書・歴史書等の出版を促進することとなった予約出版制度を多角的に考察した。そのほか、パラテクストとしての挿絵の効果について、17世紀に出版された好古学書を中心に検証した。また、17世紀英国の書物の受容に関して調査を進めるため、ケンブリッジ大学ピープスライブラリーおよびダラム大学カズンライブラリーにおける現地調査を行ない、新たな研究の可能性を確信するに至った。
著者
出口 康夫 藤川 直也 大森 仁 大西 琢朗
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

分析アジア哲学の国際的な共同研究を推進した。具体的には2017年6月に「Dialetheism and Related Issues in Analytic Asian Philosophy」を開催し、アジア思想における「矛盾」の哲学的・論理学的意義に関する討議を行なった。同会議には Graham Priest, Jay Garfield, Mark Siderits, Ricki Bliss, Filippo Casati ら本研究プロジェクトの海外協力研究者が多数参加したのに加え、Wen-Fang Wang, Chih-chiang Hu, Chi-Yen Liu, Chun-Ping Yen (以上、台湾), Kanit Mitnunwong (タイ)といったアジアの研究者も参加した。その後は、この会議を踏まえ、英文論文集発刊のための研究・編集作業を進めた。発表を審査した上で、一定の基準を満たした発表者に対して原稿執筆依頼を行なう一方、外部の執筆者にも寄稿を依頼し、2017年12月から2018年3月にかけて提出された論文について、現在、査読作業を進めている。一方、Jay Garfield, Graham Priest, Robert Sharf ら海外研究協力者と進めている共著 What Can't Be Said の共同執筆の作業も進めた。具体的には2017年6月に四者による集中WSを開催し、その後も、各自が、適宜、メールやスカイプ等を駆使して議論を継続しつつ担当章の執筆を進めた。その結果、2017年年末までには、全章の原稿がほぼ完成し、その後、細部の調整を経て、2018年3月には原稿をOxfold University Press (New York)に送付し出版を依頼したところ、ただちに編集会議で認められ、現在、外部審査員による査読が行なわれている。
著者
大倉 和博 保田 俊行
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

近年,スワームロボティクス(SR)と呼ばれる群ロボットの行動制御に関する研究が大きな注目を浴びるようになってきている.しかし,SR の自己組織化原理に基づく行動制御方式では,「定点に集合する」「互いに離れる」などの非常に限定的な単純タスクしか達成できないのが現状である.本研究では,これを打破すべく,研究代表者が提案している構造進化型人工神経回路網 MBEANN にベースとして可塑的群知能システムを構築するための新理論を開発し,従来法では不可能であった高難易度タスクを達成することに挑戦して SR の新段階を切り開く.
著者
根岸 一美 渡辺 裕 武石 みどり 桑原 和美 井手口 彰典 坂本 秀子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

1921年(大正10年)に宝塚少女歌劇において上演された新舞踊『春から秋へ』について、楳茂都陸平による舞踊譜の解読と原田潤による楽譜の演奏解釈を行い、この作品の復元上演を実現した。この活動を通じて、1)『春から秋へ』が舞踊的にも音楽的にも西洋の前衛性を備えた斬新な作品であったことを明らかにし、2)舞踊学、演劇学、音楽学、文化史学といった多様な視点からの宝塚歌劇研究の一つのモデルを提示することに成功した。
著者
喜田 宏 河岡 義裕 岡崎 克則 伊藤 寿啓 小野 悦郎 清水 悠紀臣
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

我々は鳥類,動物および人のインフルエンザウイルスの生態を研究し,得られた成績に基づいて,1968年に人の間に出現した新型インフルエンザウイルスA/HongKong/68(H3N2)株のヘマグルチニン(HA)遺伝子の導入経路を推定し,提案した。すなわち,渡り鴨の間で継持されているH3インフルエンザウイルスが中国南部で家鴨に伝播し,さらにこれが豚に感染した。豚の呼吸器にはそれまでの人の流行株でうるアジア型(H2N2)ウイルスも同時に感染し,両ウイルスの間で遺伝子再集合が起こって,A/HongKong/68株が誕生したものと結論した。今後もこのような機序による新型ウイルスの出現が予想されるので,渡り鴨と豚のインフルエンザの疫学調査と感染実験を継続することによって,新型ウイルスを予測する研究を計画した。インフルエンザウイルスの供給源として,北方から飛来する渡り水禽および中国南部の家禽集団が考えられて来た。毎年,秋に飛来する渡り鴨からウイルスが高率に分離され,春に北方に帰る鴨からはほとんど運離されないことから,北方圏の鴨の営巣地が一次のウイルス遺伝子の貯蔵庫であると推定した。そこで,本学術調査では1991年および1992年の夏に,米国アラスカ州内の異なる地域で水禽の糞便を収集し,これからウイルスの分離を試みた。マガモとオナガガモ計1913,カナダガン1646,白鳥6,シギクおよびカモメ7合計2579の糞便材料から75株のインフルエンザウイルスおよび82株のパラミクンウイルスを分離した。インフルエンザウイルスはほとんどがアラスカ中央部ユコン平原の湖に営巣する鴨の糞便材料から分離されたが,南部のアンカレジ周辺や北部の材料からの分離率は極めて低かった。分離されたインフルエンザウイルスの抗原亜型はH3N8が14,H4N6が47,H8N2が1,H10N2が1,H10N7が11およびH10N9が1株であった。抗原亜型およびウイルスの分離率は,糞便材料を収集した鴨の営巣地点によって異なっていた。1992年には湖沼水からのウイルス分離をも試み,鴨の糞便から得られたものと同じH4N6ウイルスがそれぞれ2つの異なる湖の水から分離された。鴨の営巣地でその糞便から分離された14株のH3インフルエンザウイルスのHAの抗原性をモノクローナル抗体パネルを用いて詳細に解析した結果,A/HongKong/68ならびにアジアで鴨,家鴨および豚から分離されたH3ウイルスのHAと極く近縁であることが判明した。この成績は水禽の間で継持されているインフルエンザウイルスの抗原性が長年にわたって保存されているとの先の我々の見解を支持する。以上のように,鴨が夏にアラスカの営巣地でインフルエンザウイルスを高率に保有しており,湖水中にも活性ウイルスが存在することが明らかとなった。従って,北方の鴨の営巣地が一次のインフルエンザウイルス遺伝子の貯蔵庫であるとの推定が支持された。秋に鴨が渡りに飛び発つ前に,糞便と共に湖沼中に排泄されたウイルスは冬期間,凍結した湖水中に保存され,春に帰巣する鴨がこれを経口摂取して感染し増殖することを繰り返して存続して来たのであろう。秋,冬および春に一定の鴨の営巣地点で水,氷および凍土を検索することによって,自然界におけるウイルスの存続のメカニズムならびに遺伝子進化を知ることができるであろう。水禽の糞便から分離されたパラミクンウイルス82株のうち81株はニユーカッスル病ウイルス(NDV)であった。これらNDVのHNおよびF糖蛋白の抗原性をモノクローナル抗体パネルを用いて詳細に解析した結果,ワクチン株と異なるものが優勢であった。水禽の間に高率に分布しているNDVが家禽に導入される可能性が考えられるので,渡り鴨の糞便から分離されるNDVの抗原性ならびに鴨に対する病原性を継続して調査する必要があろう。
著者
藤原 聖子 奥山 史亮 江川 純一 久保田 浩 木村 敏明 宮嶋 俊一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、(a)1990年代までの宗教現象学の成果とその突然の消滅の原因、さらに(b)日本を含む各国で宗教現象学がどのように受容されたかを解明することを全体の目的とする。初年度である28年度は、国内の宗教現象学世代に対して聞き取り調査を行うとともに、関連文献を収集、整理した。また、海外の研究者と現地で行う調査計画を具体的に詰めることができた。聞き取りを行うことができたのは、華園聰麿氏(東北大学)、澤井義次氏(東北大学・天理大学)、土屋博氏(北海道大学)、小田淑子氏(京都大学・東京大学・シカゴ大学)、金井新二氏(東京大学)、永見勇氏(シカゴ大学・立教大学)、棚次正和氏(京都大学・筑波大学)、長谷正當氏(京都大学)、氣多雅子氏(京都大学)に対してである。宗教現象学の国内での受容の状況、自身の宗教現象学観が聞き取りの内容の中心となった。また、2017年に刊行100年を迎える『聖なるもの』の著者、ルドルフ・オットー(宗教現象学者の草分けとされる)の研究が国内でどう受容されたかについても聞くことができた。後者の情報は、日本でのオットー受容に関する英文論文を執筆する際に用いた。聞き取り調査と同時に、どのようなデータベースが役立つかについて検討を重ねた上で、博士課程の院生の協力を得て、国内の関連文献のデータベースを作成し、必要なものを収集した。海外に関しては、宗教現象学者の詳細な一覧を作成した。海外については、ヨーロッパ宗教学会のヘルシンキ大会に合わせて、フィンランド宗教学者による宗教現象学の受容について、Veikko Anttonen氏とTeuvo Laitila氏から聞き取りを行った。さらに、スウェーデン宗教学会会長のDavid Thurfjell氏と現地調査方法、論文集の刊行について計画を進めた。