著者
松田 和信
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、1990年代の初めにアフガニスタンのバーミヤン渓谷およびパキスタンのギルギットから発見され、ノルウェーのスコイエン・コレクションや米国のアダムス・コレクションをはじめとする海外の蒐集家、および我が国の平山郁夫画伯らに分割して引き取られたサンスクリット語やガンダーラ語による大量の仏教古写本類のうち、平山郁夫画伯のコレクションに含まれる写本類を中心に取り上げ、スコイエン・コレクション等の他のコレクションに含まれる仏教写本研究に従事している海外共同研究者とともに関連資料と比較しつつ解読研究を行って、その出版を目指すものであった。平山郁夫コレクションに含まれる写本類の中で最も重要な資料は、パキスタンのギルギットから発見された説一切有部教団に属する『長阿含経』のサンスクリット語樺皮写本である。これは本来、全453葉よりなる写本であったことが判明しているが、平山郁夫コレクションは、この中の53葉を入手している。4年間に亘った研究期間の間、この長阿含経写本の解読を主として行い、53葉に含まれる複数の経典の解読とテキスト校訂を終えた。また平山郁夫コレクションが入手板した他の写本類についても解読研究を行い、その全体像を明らかにすることができた。研究成果の詳細については研究成果報告書において公表する。
著者
豊田 二美枝 前川 眞見子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 精子細胞膜におけるZP3受容体の局在:マウス卵の透明帯構成糖蛋白質ZP3は同種精子の認識、付着、先体反応の誘発に重要である。ZP3受容体の精子細胞膜上の分布を調べるために、単離ZP3を金コロイド標識し、表面レプリカ法で観察した結果、ZP3受容体は精子先体部の辺縁を被う細胞膜表面に三日月状に分布することが明かになった。2. マウス精子の56kDa蛋白質sp56の局在、分子形態、精子形成中の動態。(1), sp56の精子表面における局在:sp56はZP3と特異的親和性をもち、1.のZP3受容体と同じ局在を示すことから、ZP3受容体としての条件を満たしている。(2), sp56の分子形態:sp56は8量体を形成するが、シャドウィング法により、四葉のクローバー状に観察され、2分子づつがより緊密な関係にあることが示された。(3), sp56の精子形成中の動態:免疫組織化学的にsp56はゴルジ期には点状、頭帽期にはベレー帽状、先体胞期には髷状、成熟期には三日月状に分布し、常に精子細胞に局在していた。これはsp56が精子自身の産物であることを示している。3. Aquaporin7(AQP7)の精子形成中の動態と精子の小形化への関与:精子が小形であることは受精時の透明帯通過に不可欠である。精子形成末期に起こる精子細胞の体積減少は、大部分が水の消失により説明される。これは精子細胞が高張な精細管内腔液に曝露される時期とも一致している。AQP7は26kDaの膜貫通性蛋白質で,水Channel分子とアミノ酸配列の相同性が高く、強制発現で浸透圧による水の透過性が上昇する。ラット精巣でAQP7を免疫組織化学的に調べたところ、AQP7は先体胞期に出現し、残余細胞質とそれを被う細胞膜に強く発現していた。この結果は、細胞内からの水の流出過程にAQP7が水Channelとして機能し、精子細胞の急激な体積減少に寄与することを示唆する。
著者
前田 茂 要 真理子
出版者
京都精華大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

1920年代を通じて、英国のモダニズム批評は、新しいメディアである映画を扱い始め、それにより、文学と絵画を前提とする以前の美学と批評論は、新たに練り直されねばならなかった。この練り直しは、1930年代に入りロシア由来のフォーマリズム映画批評が紹介され、以降の映画研究における主流となっていくにつれ、ほとんど無視されてきた。こうした傾向に抗して、本研究では英国の批評動向における上記の部分に光を当て、現代の批評理論へのその有効性を検討することを目指した。その結果、ヴァ-ジニア・ウルフやウィンダム・ルイスらの言説の中に「時間感覚」と呼べるものが言及されるようになった事実を明らかにした。
著者
渡辺 興亜 本山 秀明 神山 孝吉 藤井 理行 古川 晶雄 東 久美子 島田 亙
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

氷河や氷床など氷久雪氷層中には大気中からさまざまな物質がさまざまな過程を経て混入している。それらの物質は雪氷層中に初期堆積状態を保ち、あるいは続成過程の結果として保存される。このように保存された各種物質の濃度、組成、存在形態は雪氷コア中に特色ある情報系を構成し、堆積環境、気候状態の情報指標(シグナル)となる。とりわけ物質起源に関して地球環境、輸送機構に関して大気環境と大きく結びついているエアロゾル起源物質は地球環境情報の指標として重要である。本研究ではエアロゾル起源物質の雪氷層への(1)初源的堆積過程、(2)積雪の変態過程に伴う二次堆積-移動過程、(3)定着化過程を積雪の氷化過程を中心課題として研究を進め、(4)指標シグナル全体としての特性の形成機構を中心に解析をおこなった。極域にはさまざまな起源からエアロゾルが大気循環を通じて転送され、極域大気循環を通じて雪氷層に堆積する。降水の同位体組成とともに、エアロゾル物質の濃度、組成化、その他の指標特性はさまざまな時間規模の大気環境、雪氷堆積環境の状態とその変動特性を指標する。しかしその指標特性は単純ではない。エアロゾルの輸送、堆積に関る大気環境と堆積後の諸過程に関る雪氷堆積環境にはさまざまな地域特性を反映しているからである。極域における雪氷コアから抽出できる各種の指標シグナルは極めて豊富であるが、指標特性の形成の過程と形成の機構の解明に不可欠な再現実験が困難という問題が存在する。そのため、本研究ではフィールド観測対象域として極域の積雪変態過程とほぼ同様な変態、氷化の諸過程が生じる、北海道東北地方の内陸部を選び、二冬期間に観測を実施した。わが国の積雪域は現在の気候下では季節雪氷圏であり、氷久雪氷圏の極域雪氷の諸現象との相違も大きいが基礎観測としてほぼ十分な成果をあげることができた。
著者
山内 明 栗林 太 山内 三爵子 金ヶ嵜 史朗 土屋 朋子 小日置 佳代子 板谷 益美
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

炎症性疾患の発症機構を解明するために、炎症反応で重要な好中球の走化性惹起因子に対する遊走パターンを解析した。好中球のfMLPおよびIL-8への遊走の軌跡は直線状であること、LTB4およびPAFへの遊走の軌跡は蛇行することを確認した。fMLPおよびIL-8への直線状の遊走では単極性で安定的な形態が、LTB4, およびPAFへの蛇行する遊走では多極性で不安定な形態が関連していた。また、これら4種のリガンドの強さはfMLP > IL-8 >> LTB4 = PAFであることが明らかとなった。これらの知見は今後の炎症コントロールおよび抗炎症剤の開発などに役に立つものと思われる。
著者
武内 和彦 三瓶 由紀
出版者
東京市政調査会
雑誌
都市問題 (ISSN:03873382)
巻号頁・発行日
vol.97, no.11, pp.55-62, 2006-11
著者
三井 はるみ
出版者
昭和女子大学短期大学部
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、千葉県の上総・安房地方に広がる「房総アクセント」の実態把握と体系記述を目的とした。「房総アクセント」は、京浜アクセント(金田一春彦による)の一変種でありながら、北奥方言アクセントなどと同じく母音の種類(広母音か狭母音か)が音調に関与するアクセントで、地域差も大きい。またその歴史的解釈をめぐっては、異なる立場からの論争がある。本研究では歴史的解釈に先立つものとして、1.特に語音と音調の関係について従来の報告より細部にわたる詳細なデータを収集する。2.代表的な地点の体系記述を行い、地域差を把握する。の2点を目標とした。金田一の「房総アクセント」の4分類などを参考に、10地点(市原市、東金市、茂原市、一宮町、大多喜町、鴨川市、君津市、白浜町、木更津市、館山市)を選び、それぞれ60歳代から70歳代の生え抜きの話者を対象に調査を行った。調査にあたっては、主として東北大学文学部編『アクセント調査票』を用い、場合によっては類別語彙を補充した。また読み上げ式調査を補完するものとして、上記のうち2地点では談話の収録を行った。現在読み上げ式調査、収録談話ともに、結果の整理を行っている。今後これらをもとに体系の記述に進む予定である。なお、今回の調査内容は比較的簡略なものであった。研究実施計画に記した、より詳細な内容の調査は今回行うことができず、今後の課題として残されている。
著者
佐藤 由美 玄 善允 弘谷 多喜夫 佐野 通夫 李 正連 宮崎 聖子 磯田 一雄 仲村 修 鈴木 常勝 前田 均 上田 崇仁
出版者
埼玉工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

日本統治下の台湾や朝鮮では、学校教育を受けることのできる子どもたちは限られていた。その機会に恵まれた子どもたちでさえも、その期間は限定されていたが、子どもたちは学校以外でもさまざまな学びを経験したはずである。そこで私たちは学校教育以外の場で、子どもたちがどのような学びを経験したのか、その様相に焦点を当て多様性を明らかにした。例えば、社会教育(伝統教育機関、夜学や国語保育園など)、サブカルチャー(児童文学、紙芝居、ラジオ、労働、遊び)の中での彼らの学びである。資料としては、当時の政策文書や新聞雑誌、インタビュー調査の記録を用いた。
著者
山本 直彦 布野 修司
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.67, no.556, pp.265-272, 2002
被引用文献数
1 1

Primary concern of this paper is kampongverbetering (kampong improvement in Dutch East Indies), which was to have significant influence on postcolonial improvement. Major findings in this paper consist of following points. 1. Examination into the kampongverbetering implemented in Dutch East Indies reveals that postcolonial improvement known as KIP apparently owes its basic ideas to its predecessor. 2. Accomplishments of kampongverbetering supervised by the central government show close resemblance to the items prescribed by detailplan, which was the forthcoming driving force of the contemporary city-planning act. 3. Kampong Sidodadi, one of the first kampongs improved in Surabaya in 1929,turns out to be still inhabited by Madurese as it was in the colonial period despite constant change of the residents. 4. Observance of building lines in Sidodadi had been closely related to the drainage gutters installed both in colonial and post colonial period.
著者
山家 京子 佐々木 一晋
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、少子高齢化及び人口減少を背景に、神奈川県の郊外住宅地の現状把握により、郊外住宅地の持続可能性について検討することを目的とする。まず、整備された住宅地景観を空間資源として捉え、道路境界域の特徴について定量的分析を試みた。さらに、住民意識と生活関連施設利用行動に関するアンケート調査を行い、高齢化及びアクセスを障害と捉えている点、生活関連施設と移動手段との関連性、多様な生活関連施設利用行動などを明らかにした。
著者
松村 雅史 辻村 肇
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.20, pp.55-61, 2013-08-31

本研究の目的は、能動的な笑いにより、介入前・後の嚥下時間間隔を評価することである。本研究では、先行研究で開発した嚥下回数自動検出システムを用いることにより無意識・無拘束にて、嚥下音を検出し嚥下時間間隔を計測した。対象者は、介護老人保健施設の入所者28名である。その結果、能動的な笑いにより、介入前より介入後の嚥下時間間隔が減少し、有意差が認められた。笑いの介入により嚥下機能が向上したことが示唆された。また、笑いの介入の実施後の感想から、「ぜひ行いたい」、「また行いたい」と回答した対象者が全体の約90%を占め、笑いの介入をまた体験したいという人が多いことが認められた。以上より、能動的な笑いにより、嚥下機能向上に効果的であったことが示唆された。
著者
益岡 了 谷本 尚子 尾崎 洋 池田 岳史 川合 康央
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.11, 2014 (Released:2014-07-04)

フレンチトーストピクニックは、2000年金津創作の森美術館で開催された今村幸次郎氏の作品展の関連企画として開始された。車を中核としたイベントは国内各地で頻繁に実施されているが、当時福井県内では大規模な開催例が無く、他の地域の同類のイベント実績を参考にしながら、より文化政策と適合しつつ地方振興としての側面を強調した運営が決定された。 第一回開催は、創作森美術館開館以来、最大の入場者数の動員が見られた。参加者・スタッフの感想も概ね好評であり、圧倒的な来場者数や地域振興の意義が評価され、以降の毎年開催が終了直後に決定された。 僅かな予算と限られた有志の協力で15年以上に渡って数千人規模のイベントを継続できたことは、美術館・施設の有効活用だけでなく、地域全体へ波及と活性化との視点からも注目できる。 現在では、旧車の同乗走行会も実施され、これは年少から壮年まで参加者に好評であり、文化遺産の学習体験の機会とも考えられる。希少車の実走行を含めた展示は注目され、雑誌や新聞、テレビの取材も増えた。この様に北陸地域の車文化を全国に伝え、活気ある交流の場として、地域振興の舞台として、その存在が知られつつある。
出版者
日経BP社
雑誌
日経コンストラクション (ISSN:09153470)
巻号頁・発行日
no.574, pp.14-15, 2013-08-26

7月28日に山口・島根両県を襲った、同地域での観測史上最大となる大雨によって、鉄道橋が消失したほか、土砂崩れなど多数の被害が発生した。8月5日時点で死者は2人、行方不明者は2人となった。 最大24時間降雨量は、島根県津和野町で381mm、山口県萩市須佐で351m…
著者
川平 友規
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

複素力学系理論とは,複素数全体の集合(もしくはそれを拡張した空間)にある種の運動法則を与えた系を考え,その時間発展を解析する理論である.本研究では,系の運動法則が複素パラメーターに依存するとき,系が不安定に変化するようなパラメーターの集合について研究した.この集合は力学系自身のカオス部分とある種の相関性があり,互いに性質を制限し合っている.これらの間の橋渡し役として「ザルクマンの補題」を用いて,おもに2次多項式族について種々の結果を得た.