著者
熊谷 貴史
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.63-85, 2011-03-25

仏教には高僧らが神秘的な宗教体験によって仏・菩薩などの形姿を観じ、〈感得〉するという概念がある。またその感得により得た視覚的イメージを、彫刻や絵画で表したものを〈感得像〉という。宗教概念である〈感得〉と造形化された〈感得像〉が不可分の関係にあろうことは言を俟たないが、そこに内在する宗教的意義の解釈と、像に対する仏教美術としての芸術的評価は多くの場合別個に論じられ、宗教性と芸術性が結び付けられることは概して少ない。本稿の目的は〈感得〉の概念を大局的に捉え直すことにより、具現化された〈感得像〉の意義を再考することにある。すなわち〈感得〉とは規範を前提としない尊容の獲得であり、初発的性質が評価される事象と考えられる。その初発的なイメージを反映する〈感得像〉は、図像的要素のみでは解釈し得ない、神仏顕現の奇跡を具現化しようとする全体観における異相(威相)の表現によって、本来の意義が見出される可能性を指摘する。
著者
種村 雅子
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

物理を苦手とする教員志望の学生でも興味を持てるように科学史的方法を活用し, 低価格で作れる実験や科学館での教育実践を取り入れた小学校理科の教員養成カリキュラムおよび教育プログラムを検討し, 教育実践した。
著者
吉村 徹 栗原 達夫 江崎 信芳
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

近年、D-セリンが哺乳動物脳内のNMDAレセプターのアゴニストとして作用することが明らかとなり、動物におけるD-アミノ酸の機能が注目され始めている。また、アメリカザリガニを塩水に馴化させた場合D-アラニンが蓄積することや、D-チロシンなどのD-アミノ酸を高濃度含む培地中では出芽酵母の生育が阻害されることなどが報告され、D-アミノ酸と種々の生物の関わりに興味がもたれている。本研究では、海産性のエビの一種であるブラックタイガーにアラニンラセマーゼを見いだすとともに、同酵素によって生合成されるD-アラニンが、外界の塩濃度上昇に対する浸透圧調整剤として機能する可能性を明らかにした。本研究ではまた、カイコの幼虫、蛹にセリンラセマーゼが存在することを明らかにした。カイコ体内には遊離のD-セリンが存在し、その濃度は変態の時期に高まることから、D-セリンとカイコのdevelopmentの間に何らかの関係があることを示唆した。さらに本研究では、これまでほとんど知られていない分裂酵母でのD-アミノ酸代謝について明らかにし、D-アミノ酸の毒性とその除去の機構について考察した。本研究ではまたスペイン、コンプルテンセ大学のAlvaro M.del pozo博士の協力のもとに、イソギンチャクのアミノ酸ラセマーゼについても検討した。さらにD-アミノ酸と微生物の環境応答の関連を明らかにするため、アメリカ合衆国、オーストラリアの中北部の河川・湖沼において汽水域に生息する微生物のスクリーニングを行った。
著者
平松 晃一
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.3, pp.1-8, 2011-05-14

地図や空中写真をはじめとした空間情報を含む資料は、"どこ" という空間的属性からの検索が困難であることや、資料の作成・保存・公開組織が多岐に亘ることなど、幅広い選択肢から目的とする資料を発見するにあたって大きな課題がある。本発表では、国際的な図書館目録の標準 MARC21 と地理情報分野における地理データのメタデータ標準 ISO19115 とをクロスウォークする AEI Map Metadata Schema の設計を通して、メタデータ記述の側面から課題解決を試みる。また、メタデータ上の空間的属性情報をより有効に機能させる方法として、Place Identifier(PI) に準拠した地名辞典による、地名典拠コントロールの可能性に触れる。The aim of this presentation is to propose a way to solve such issues of the access to the materials which include spatial information, for example maps or aerial photos, as the difficulty in retrieving materials by spatial attributes or as the scattered materials in various organizations. Firstly, I propose AEI Map Metadata which can crosswalk between MARC21, which is an international standard of library catalog, and ISO19115, which is a standard of metadata in the domain of geographic information, as a solution from the aspect of metadata. Additionally, I mention the possibility of place name authority control by Place Identifier (PI) gazetteer.
著者
古米 弘明 片山 浩之 栗栖 太 春日 郁朗 鯉渕 幸生 高田 秀重 二瓶 泰雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

合流式下水道雨天時越流水(CSO)由来の汚濁負荷が、都市沿岸域における雨天後の水質に及ぼす影響を定量評価し、お台場のような親水空間における健康リスク因子の動態評価手法の開発を試みた。多数の分布型雨水流出解析結果に基づき、降雨パターンの類型化によってCSO発生を大まかに特徴づけることができた。また、ポンプ場や下水処理場からの汚濁負荷を降雨パターンごとに表現できるモデルを構築し、干満の影響を考慮した3次元流動・水質モデルによる大腸菌の挙動予測が可能となった。
著者
三神 弘子 KO J.-O.M. KO J.-OM
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度の主要な研究目的はジェンダーと〈クイア〉および異形の身体表象という視点で映画を体系的に考察することであった。研究代表者、三神は、マーティン・マクドナー作のアイルランド映画『In Bruges』(2008)を考察し、道徳的タブーを覆すために、小人症などに代表される〈フリークス=異形の者〉を登用するケースを論じるとともに、映画に登場するヒエロニムス・ボッシュの絵画「最後の審判」の中の〈異形の者たち〉との関連性を考察することによって主人公の内面の楝獄/地獄が観光都市ブルージュと結び付けられていることを議論した。外国人特別研究員、高は〈クイア〉という視点では松本俊夫による『薔薇の葬列』(1967)を分析し、ゲイボーイの身体表象を映画のリアリズムと関連付けて考究し、「ジェンダーとエスニシティ」のテーマにおいては、大島渚による『日本春歌考』(1967)を考察し、映画内という枠組みを超えて、より広範な社会・文化的文脈との関連性をからみあわせて考察を試みた。さらに『日本春歌考』の中で歌われる『満鉄小唄』に想起される、従軍慰安婦の問題を1950年代の戦争アクション映画における表象の考察に発展させを論じた。三神による研究はこれまでのアイルランド映画研究の主要テーマであったナショナルアイデンティティや〈アイリッシュネス〉の表象を踏まえながらも身体表象、絵画、またマクドナーの演劇作品との隣接性に焦点を当てることで従来のアイルランド映画研究に新しい視点とメソドロジーを提供し多大な学術的貢献をしたといえる。高の研究も、従来の日本映画研究ではほとんど論じられることのなかったリアリズムと身体表象、エスニシティとジェンダーという錯綜するテーマを取り上げることにより、既存のジェンダー・セクシュアリティ、クイア表象研究の枠組みを発展させる重要な役割をもつといえる。
著者
高橋すみれ
出版者
国際基督教大学
雑誌
Gender and sexuality : journal of Center for Gender Studies, ICU (ISSN:18804764)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.17-38, 2009-03-31

"Women's language" in fiction has been discussed in terms of its role in constructing or representing gender norms in society and culture. Research in recent years has included a re-examination of this relationship between gender norms and women's language in fiction. However, there has been little focus on the relationship between the fact that certain characters speak in "women's language" and the context surrounding their speech in the narrative structure. This paper examines the meaning and function of one female character's use of women's language in the narrative structure of a Japanese girl's comic called Raifu (Life). From a certain point in the series, the character starts to make extensive use of female-specific sentence endings that are not used in modern-day speech. If we consider the intention behind her speech in context, the use of women's language can be linked to her artful strategy of attacking the heroine. On the other hand, given her marginalized position in the story, her use of women's language identifies an important role that she has come to play in the narrative structure. With regard to the role of women's language here, it could be argued that this is a story that not only depicts solidarity among girls, but also female conflict.
著者
関口 智寛
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.141-147, 2011 (Released:2011-07-07)
参考文献数
22
被引用文献数
3 1 1

ウェーブリップルは,与えられた振動流条件と堆積物特性の下で,安定的に持続する特定の形状,サイズ,波峰線オリエンテーションを有する.振動流条件が変わるとウェーブリップルはその条件下での定常状態の獲得をめざして遷移する.新たな振動流方向が初期リップルの波峰線と直交する場合,遷移過程は(1)初期リップルと定常リップルの波長の大小関係,(2)振動流の非対称性,(3)堆積物粒径に依存する.とくに,初期リップルの波長が定常リップルのそれよりも大きいと,初期リップルの形状の一部をとどめる遷移リップルが一時的に現れる.地層に見られる遷移リップルは,地層形成時の振動流条件を推測する重要な手がかりとなりうる.
著者
木村 昌弘 斉藤 和己 上田 修功
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. ICS, [知能と複雑系] (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.85, pp.155-162, 2004-08-04
参考文献数
12

Web上で日々流通する大量の情報に基づいて,米国同時多発テロのようなある種の例外的な社会現象を検出する問題を考察する.本稿では特に,あるカテゴリーに属する文書群の時系列データに基づいて,その中でアウトブレークしたトピック(ホットトピック)と,その存在期間を抽出する手法を提案する.社会ニュースの実データおよび,国際ニュースの実データを用いた実験により,提案法の有効性を検証する.
著者
稲葉 奈々子
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

パリで住宅への権利運動を中心とした争議に参加する都市底辺労働に従事する移住労働者に対して聞き取り調査を行った。福祉国家型の社会統合機能が弱体化するなかで、貧困層の社会権行使は、当事者の当該社会での社会的地位を決定する重要な要素となる。フランスでは、労働運動など、かつて争議を担った主要な社会運動が衰退しており、労働者コミュニティも機能せず、貧困問題への対応が個人化する傾向にある。こうしたなかで1990年代以降活性化してきた社会的排除を争点とした新しい争議は、社会的排除社会といわれる現代社会における社会統合のあり方を考察する上で重要である。本調査では、争議への参加は、移民出身者の場合に出身コミュニティによる規定の度合いが大きいことが明らかになった。当事者のアイデンティティの準拠先が出身コミュニティにある場合には、フランスにおいて経験する社会的排除が、個人的責任として自己認識されない傾向にあることは、前年度までの調査で明らかになったことだが、今回の聞き取り調査では、職業や家族構成が与える影響についても聞き取りを行った。非正規滞在移民については、フランスでの争議の経験が、出身国に帰還したのちに及ぼす影響についても調査を行った。とくに争議の中心を担うマリ人について、バマコにおいて聞き取り調査を行った結果、フランスの出身コミュニティとのつながりを保ち続けているソニンケの場合は帰国後も社会統合が比較的容易であるのに対して、出身コミュニティと切り離されている者の場合、争議をへて獲得したフランスからの資源がまったく得られなくなり、マリにおいても社会的排除を経験していることが分かった。
著者
一ノ瀬 友美 松元 奈保 金 泰煥 佐土原 聡 村上 處直
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.403-410, 1995-11

【はじめに】 大地震などの災害時、都市において、特に木造住宅の密集地や商・住・工の混在地域では、市街地大火の危険性が非常に高い。市街地大火のために避難を強いられた人々に、防災拠点がどのような役割を果たせるかは、大きな課題であるというのは、今回の兵庫県南部地震でも浮き彫りとされた。そこで、本報では、防災拠点が、どれだけ災害時に対応できるかを事例として白鬚鬚東防災拠点のハードの面およびソフトの面から評価し考察した。 【研究目的と方法】 墨田区の白鬚東地区は、隅田川と荒川放水路に囲まれて、地盤が軟弱なうえ、商・住\・工の混在地域の木造密集地である。白鬚東防災拠点は大地震発生時に予想される市街地火災に対する防火壁として機能させるため、高さ40m連続住棟(18棟)を約1.2kmにわたって配置させ、その内側に約10万人の区民を収容する避難広場を設けている。また、防火壁となっている防災団地の防災設備(放水銃、防災シャッターなど)は24時間体制で管理されている。白鬚東防災拠点は建設されてから20年。機材は老朽化が進むばかり、一度として使用されていない。現場からは防災設備のあり方を問い直す声が上がった。そこでもう一度、防災拠点の有用性を確認する。本報では、拠点内の各施設を詳しく調べ、避難生活場所としての機能を評価すると同時に、防災拠点となっている団地の住民を中心にソフトの面で拠点がどれだけ対応できるかを住民の防災意識・防災対策を踏まえ、平常時・災害時における拠点の位置付け、および避難生活時に被災者への対応を防災拠点団地住民のボランティア意識を基に、今後の防災拠点の指標とする。 【結論と考察】 阪神大震災で家を失った市民は公共施設へ逃げ込んだ。この事実を見ても、広域避難場所である白鬚東防災拠点に公共施設を置いたことは理にかなっている。また、防災壁として設けた防災団地の存在が被災者の絶対数を減らし、避難生活者に十分な面積を用意している。このように広域避難場所に普段から利用できる施設を置いたことが、災害発生後に思わぬ利を生みそうである。一方、防災拠点内に住む団地住民は防災意識が高められる環境にあるという結果が明かとなり、防災訓練の参加にも積極的であった。災害時における団地住民の協力意識もかなり高い結果であり、防災拠点は即対応が可能でソフトの面で協力体制が組めそうである。
著者
板倉 理一
出版者
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 基盤科学研究系 先端エネルギー工学専攻
巻号頁・発行日
2010-03-24

報告番号: ; 学位授与年月日: 2010-03-24 ; 学位の種別: 修士 ; 学位の種類: 修士(科学) ; 学位記番号: 修創域第3227号 ; 研究科・専攻: 新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻
著者
岡 明也 橋本 学
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.21, pp.1-6, 2011-07-20

ピアノ運指の認識は,ピアノ初心者の演奏スキル向上や,熟練アーティストの技の記録のために重要な技術である.本稿では,レンジセンサを用いて演奏者の手指の動きを連続的に撮影することにより,特別なマーカを用いることなく運指認識する手法を提案する.まず学習時には,あらかじめ辞書データベースとして正しい運指情報が付与された大量の手指の距離画像特徴ベクトルを登録しておく.次に認識時には,入力された距離画像を辞書内のデータと照合することで運指を判定する.このとき,ピアノから得られた音名信号を利用して探索範囲を限定し,速度向上と信頼性向上を図る.解の探索には ANN を用いる.実験の結果,音名を利用して打鍵指のみを認識した場合には 100%,音名と打鍵指両方を同時に認識させた場合でも約 85% の認識率,さらに実際の楽曲による実験では約 80% の認識率となり,本手法の有効性が示された.Automatic recognition of the piano fingering is an important technique for skill up of beginners or recording and archiving of performance by skillful artists. In this paper, we propose a method for recognizing piano fingering without any markers by utilizing sequential range images. In the phase of learning, a lot of range feature vectors are enrolled with correct fingering information as the dictionary data. Next, in the phase of recognition, an acquired unkown range image is compared to all data in the dictionary, and fingering pattern will be decided. Here, the note name from a electronic piano keyboard is utilized for efficient search of the best-match data in high-dimensional feature space. The ANN(Approximated Nearest Neighbor) searching algorithm is used. As for experimental results, we have proved that the recognition success rate was 100% when the note name signal was used. In another experiment using actual easy and short piano music for beginners, 80% recognition success rate has been achieved.
著者
京 俊輔
出版者
大阪府立大学
雑誌
社會問題研究 (ISSN:09124640)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.103-121, 2006-03

土井洋一教授退職記念号(The Commemoration Number for The Retirement of Professor Youichi Doi)
著者
松田 光弘
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:中学女子生徒に対して行った柔道についての事前調査では,未経験の動きに対する不安な部分があることが分かった。そこで初心者でも,「よく分かる」「できると感じる」などの柔道における運動有能感を高めるような授業を展開していく必要があると考えた。○研究方法:柔道の立ち技は,一瞬で動きが完結するため,簡単に撮影・再生ができるタブレットPCが便利である。その再生動画をもとに相互に意見を出し合いながら動きを修正し,それをパートナーで繰り返しながら技能習得を目指す授業を展開した。○研究成果:運動に対する自信度における中位群・下位群では,有意な差が顕著に見られた。このことから運動に対する自信が低い生徒において,本研究が有効な手立てであることが示唆された。また,授業後の自由記述によるノートからは,「動きを再生して見ることでアドバイスがしやすかった」「上手な人から教えてもらったポイントは,なるほどと実感できた」など,動画を通じて授業意欲やコミュニケーション活動を活性化させる成果があったことが明らかになった。しかし,身体的有能さの認知という点において,上位群および下位群に有意な差が見られなかった。このことは,挑戦を必要とする難易度の高い技や攻防など勝敗を決するようなプログラムを組み込まなかったことが考えられ,今後の課題である
著者
原 恵美子
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.61-69, 2010-02
被引用文献数
1

知的障害児への学校での性教育は,継続的な取り組みや教材等の開発も困難な状態が今日まで続いている。その根拠として学習指導要領の中での位置づけがいまだ決まっていないことに加えて,教員や保護者等関係者らの「寝た子を起こすな」という消極的な姿勢があげられることが少なくないが,これを確認するため,おおむね1990年代以降発表の性教育に関する文献を調べ,特別支援学校教員による記述に見られる性教育に対するイメージの整理,関係者へのインタビューを実施した。今回特に女子知的障害児の保護者の意識を中心に調べたが,子の状態によって保護者の要望も個人差が大きいことがわかった。しかし,女子の場合は性的問題行動や性被害が問題になりやすいのは学校教育終了後で,卒業後の性教育の担当者や場所の確保が必要であることが示唆された。
著者
鄭 佳月
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、多民族化する社会における世論の代表と世論の多元性との接点を探るべく、世論の代表形態の変遷について歴史的考察を行った。本年度は、昨年度に引き続き3つの軸に分けて研究を遂行した。第1の軸は、戦後日本における世論の代表形態の変遷を歴史的に分析するものである。特に、世論を調査する側の論理を明らかにするため世論調査に焦点を当て、政府・新聞社・民間機関等の各取り組みを実証的に明らかにするとともに、民主主義と世論調査の関係を再考した。成果は、「世論調査の効用と調査主体の視点に関する一考察」として、日本社会学会年次大会で報告された。第2の軸は、世論の多元性をめぐる市民の側の試みを考察するものである。近年の住民投票やDeliberative Pollingといった市民の実践を歴史的に捉えるため、1950~60年代の日本社会に遡り、世論の代表をめぐる議論を整理することで、世論の代表形態と市民の関係を検討した。第3の軸は、世論の代表と市民概念についての理論的考察である。研究全体を枠づける理論構築に取り組みつつ、世論の代表をめぐる日本社会の認識を、国際的動向の中に位置づけ検討するために海外の文献資料を収集し分析した。その成果の一部は、The Association for Asian Studies Conference 2011において"Social Research as a 'Technology of Governance' in Asian Networks from the 1910's to the 1920's"という題目のもと報告されることが決定している。一連の作業から、本研究では、世論の代表をめぐる日本社会独自の文脈を浮かび上がらせ、今日に通じる問題として、世論の代表形態と世論の多元性の可能性と限界を明確にした。