著者
木島 孝之
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

益富城塞群の遺構調査は外郭部を完了し、「縄張り図」(1/1000)を作製した。具体的成果として、外郭部の長城型防塁遺構の全容をほぼ掌握した。そして、幾つかピーク地形ごとに独立性の強い曲輪群が林立し、その間の尾根・谷地形に畝状竪堀群・土塁ラインを設けて曲輪群相互を連結させた「城郭群」の形態を成すことを確認した。この形態は、自律性の強い各部隊(複数の領主)が相対的に緩やかに大同団結した姿を窺わせる。確認した事項、すなわち、ごく短期間内に一挙に構築されたと考えられること、畝状竪堀群を横堀・土塁とセットで使用する点で北部九州の在地系城郭の中で最高の技術水準にあることを考え合わせると、研究当初の予見どおり、当遺構が天正14年の九州平定軍の来襲を前に、秋月氏を盟主とする北部九州国人一揆によって構築された可能性が極めて濃厚となった。ここに、城塞群の規模と仕様から、従来、文献史料の面からのみ構築されてきた結果論としての九州平定戦のイメージを大きく見直す必要が指摘できた。すなわち、豊臣軍の来襲を目前に控えた北部九州では秋月氏の下に、結束力などの質の問題は兎も角も、動員力の面では極めて巨大な国衆一揆が結成されており、初戦の戦況次第では九州平定戦は結果論にみるほど円滑に推移する状況になかったことが明らかとなった。加えて、この視点に立って改めて『九州御動座記』などの幾つかの文献史料を見直したところ、豊臣側でも秋月氏の存在を九州屈指の巨大勢力として強く意識していた様子が窺える記述も確認できた。以上の成果の概略は『益富城跡II』調査報告書(嘉穂町教育委員会、今年度末発行予定)に掲載予定である。次に、黒田氏時代に大改修された主郭部に関しては、発掘調査で出土した瓦の整理・分類を行い、鷹取城(益富城と同時期に織豊系縄張り技術で大改修され、黒田領の「境目の城」に取立てられた)の瓦との比較研究を行った。結果、両城は類似した性格を持つにも拘らず、益富城には当時の最新の瓦工集団が、鷹取城には相対的に古式な集団が動員された可能性がみえてきた。しかも縄張りの洗練度の面では、むしろ鷹取城の方が"垢抜け"した最新鋭のプランである。これらの要因について、前者は、支城普請における城持ち大身家臣の自律性の強さが投影されたものであり、後者は、慶長期の築城における縄張り(設計)と普請(施工)がまだ一体の行為として整理・統合されていない状況を示唆するものではないかと考えた。この成果は『城館資料学』3号に掲載した。
著者
脇谷 晶一
出版者
宮崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

マウスの妊娠確認後、EGFR阻害剤を持続投与し、妊娠5日目に着床数を計測したところ、EGFR阻害剤の有無により着床数に有意な変化は認められなかった。人工脱落膜化モデルマウスにEGFR阻害剤を投与したところ、ごま油投与2日後の子宮重量に変化は認められなかった。子宮内におけるEGFリガンド群の代償的発現上昇が認められたが、脱落膜マーカーであるBMP2の発現量は依然上昇した。これらの研究より子宮に存在するEGFRは必ずしも胚着床に必要ではない可能性が示唆される。人工脱落膜化モデルマウスの子宮管腔内にごま油を投与したところ、2時間後にはHB-EGFの発現上昇が認められた。HB-EGFと同じく着床部特異的局所発現性を有するEregの発現も上昇傾向を示したが、同じEGFファミリーに属するEGF、Aregの発現変動は認められなかった。このことから、ゴマ油投与による人工脱落膜化モデルは、正常子宮全体を用いた遺伝子発現解析では検出できなかった子宮上皮の局所反応を解析できるモデルである可能性が示唆された。このモデルマウスを用いて子宮組織における遺伝子発現プロファイルをDNAマイクロアレイ法を用いて検査したところ、ゴマ油投与子宮角特異的に発現変動する遺伝子が多数新たに見つかった。これらから29遺伝子を絞り込み、より精度の高いRT-PCR法により再検証したところ、12遺伝子がゴマ油投与子宮角特異的に発現変動する遺伝子として確定した。これら12遺伝子は着床部特異的局所発現性を有し、胚盤胞由来シグナルを子宮へ伝達する際に重要な役割を担う可能性がある。
著者
丸井 英二 JOHNSTON Wil 李 誠國 SOMーARCH Won YAP Sue Pin 田口 喜雄 田畑 佳則 関 道子 遠藤 誉 米山 道男 大東 祥孝 WILLIAM Johnston SUNGKUK Lee SOMARCH Wongkhonton 山中 玲子
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本研究は留学生にかかわる問題のなかで、長期的な波及効果としての留学生の帰国後に焦点をあてて行われた。その背景として、「留学生10万人政策」に由来する近年の留学生数の著しい増加がある。もちろん、現在わが国に滞在する留学生についての各種支援が必要とされていることは言うまでもない。しかし、こうした現状の延長上にある今後の問題点を考慮すると、帰国後の留学生の生活について研究を行っておくことが必要な時期となっている。その場合、帰国してからの国内的、国際的役割を継続的に把握していくことが必要である。留学生の帰国後に描くことのできる明るい展望がなければ、国内における留学生指導も実効性をもつことがなく、留学生も日本への期待をもつことができなくなり、将来的にわが国への留学そのものを希望しなくなるであろう。今後の健全な留学生政策のためにも帰国後の留学生についての研究が必要とされてきている。本研究では国立大学の留学生センターの留学生指導担当教官が中心となり、留学生の帰国後の社会的活動の動向の量的、質的に把握するための調査を行った。わが国への留学の意義を現地の視点でとらえなおし、さらに今後のわが国との関係をいかに維持していくかについて現時点で研究した。対象国はタイ、マレーシア、インドネシア、韓国であったが、初年度のみ台湾を加えた。研究の実施過程は1)現地での調査研究、2)国内での修了留学生の名簿作成のためのデータベース構築、3)研究ワークショップの開催とに分けることができる。初年度は主として現地での調査研究に焦点を絞った。研究分担者6名が共同研究者のいる対象国における実状を把握するために、アジア地域を中心に担当国を複数ずつ訪問し予備的調査を行った。現地では研究協力者との個別会議を開催し、必要に応じて帰国留学生との面接を行い、現状把握を行った。こうした一連のプロセスにより日本側研究者の現地事情に関する認識を極めて高いものとなった。また、現在では過去に多くの留学生が卒業あるいは修了しているにもかかわらず、なお多くの卒業生の現状が大学で把握できていないことが判明してきた。そのために第2年度には、国内での作業として卒業・修了留学生のデータベース構築のための研究会を開催した。個々の大学の事情に応じて若干の差はあるものの、共通のデータ形式を統一し、入力作業を開始した。すでにいくつかの国では帰国留学生会が設立されているが、そのメンバーは帰国したのちに自らの日本留学を是認し評価している人々が中心となって形成されている。こうした組織に日本留学に批判的な人々が加わっている可能性は小さい。したがって、本来的な母集団としての日本の卒業・修了留学生から出発して追跡することが評価のためのもっとも公平な方法である。現在のところ、データベースの構築は留学生センターの設置されている国立大学の一部から開始されているに過ぎないが、今後はその範囲を拡大していくことにより、留学生が大学から離れた後の動向を把握することが可能となる。今回の3年間の研究では主として帰国後の留学生を対象としたが、われわれのこうしたデータベースを利用することによって、母国に帰国しない人々についても追跡していくことができるという大きな意義が生まれることになる。さらに、第3年度である平成7年9月には、タイのマヒドン大学においてタイ、マレーシア、韓国からかつての日本留学生で現在は本国で活躍している人々を招待し、日本側研究者と合同でのセミナーを開催した。ここでは過去の留学生が日本でどのような経験をしたか、現在何をしているか、現在の日本との関係、さらに現地から日本をどのように見ているかなどについて一日半にわたって討議を続けることができた。3年間の研究期間に参加した留学生センターの日本側研究者ならびに現地の分担研究者にとっては相互理解の基盤を確立し、その上で帰国留学生に関する研究を行うことができたという点で充実した期間であった。また、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国で研究協力者として多くの帰国留学生が参加することができた点も高く評価したい。本研究は単に限定された学術的研究にとどまらず、留学生を媒介とした共同研究の萌芽を各研究者レベルで作り出してきた。今後、この留学生問題に関する分野での多くの研究者によるさらなる研究に期待したい。
著者
上運天 ウェスリー
出版者
法政大学
雑誌
沖縄文化研究
巻号頁・発行日
vol.17, pp.339-423, 1991-03-25

本稿の原文は1989年に社会学修士論文としてハワイ大学大学院に提出されたものだが、ここではその短縮されたものを紹介する。この論文は筆者がハワイの〈Okinawan Ethnic Community〉とよんでいる現象を吟味したものである。ここで〈Okinawan Ethnic Community>というのは沖縄人としての意識を持ち、しかもなんらかの意味で、沖縄人としての活動に積極的にたずさわっている人々からなるコミュニティーのことを指す。ハワイの"Okinawans"(沖縄からの移民達とかれらの子孫達のことで以下「沖縄人」と呼ぶ)はハワイ社会に、その一員としてとけこんでいるにもかかわらず、近年この〈Okinawan Ethnic Community〉としての働きが活発になってきた。この現象は、エシニシティ(etnic groups)のアイデンティティーというものは時間の経過とともに周囲の社会に完全に同化していくと主張する「同化理論」には反するものと思われる。又、経済的にも社会的にも多様性を持っている沖縄人は一つの階級とは言えないのだから、エスニシティ集団としてのアイデンティティー(ethnic identity)は階級的アイデンティティーが変装されたものだという理論もすくなくともハワイの沖縄人にはあてはめることができない。ハワイの沖縄人たちは多様な文化をもったハワイ社会の中で、しかもさまざまな状況に適応する形で生きている。したがって部分的には、アイデンティティーは状況によって異なると主張するアプローチを使えると思われる。ただし沖縄人としてのアイデンティティーは状況の単なる関係ではなく、むしろ、ある程度まで、アメリカ的な思想もしくはハワイ的な思想と沖縄的な文化シンボルとが融合してつくりだされたものということができる。ここでアメリカ/ハワイ的な思想というのはたとえば、「自分のルーツをみつけだす」("finding one's 'roots'")「自分の文化を保存する」("preserving one's culture")、「自分の文化を学ぶ」("learning one's culture")等、といった発想のことである。こうした発想は〈Okinawan Ethnic Community〉の大多数をしめるハワイで生まれ育った二世三世の人たちの間に強く見られるものである。
著者
湯川 高志 川野 光太郎 福村 好美
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.61-64, 2008
参考文献数
4

e-Learningにおいて受講者のモチベーションを維持させるためには,受講者相互のつながりが必要であると考えられる.これに関し,実際のeラーニング受講者を対象としてアンケート調査を行い,受講者が互いの学習状況やリアルタイムで多人数のコミュニケーションを望んでいることを明らかにした.これらを受講中に常時伝達し合うことができれば,受講者同士のつながりを醸成し,モチベーションを維持させることが期待できる.そこで,受講者が互いの学習状況をリアルタイムに把握できるフラクタル表現による学習進度表示機能と,会話に関する情報を速覧できるチャット機能とを提案した.さらに,それぞれの機能を設計・実装し,実際のe-Learning環境に組み込んで使用感やモチベーション維持の度合いの評価した.
著者
皆川 純 SWINGLEY Wesley SWINGLEY Wesley Douglas
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

外国人特別研究員の帰国前倒しに伴い,実質研究機関は4-6月の3ヶ月となったため,主に前年度の成果のまとめが行われた.前年度プラシノ藻Ostreococcus tauriより初めて単離に成功した光化学系I超複合体のタンパク質組成は,光化学系I反応中心サブユニットに加え,緑色植物で光化学系I専用の集光アンテナとして機能するLHCIが確認された.さらに,高等植物で光化学系II専用の集光アンテナとして知られるモノマーLHCIIであるCP26/CP29も確認された.これらCP26/CP29は緑藻ではステート遷移機構により光条件により,光化学系I,光化学系IIの間を行き来することがわかっていたが,さらに祖先型のプラシノ藻では光化学系I専用のアンテナとして機能していることが明らかとなった.モノマーLHCIIはもともと光化学系I固有の集光アンテナであったが,植物の進化に伴い陸上での生育を支えるため,まずは光化学系IとIIの間を行き交い,やがて高等植物では,光化学系II固有に集光アンテナとなったと考えられる.また,プラシノ藻の光化学系の特徴として,陸上植物では普遍的に見られる赤外域での蛍光(レッドクロロフィル)が存在しないこともわかった.レッドクロロフィルの役割についてはまだ確立されていないが,植物が陸上で生存していくために励起エネルギーを保持しているものと考えられているが,プラシノ藻は,その必要がない光合成の型式を現在でも保存しているものと考えられる.
著者
鈴木 章夫 小野田 武 北村 幸久
出版者
筑波大学大学研究センター
雑誌
大学研究 (ISSN:09160264)
巻号頁・発行日
no.23, pp.63-94, 2002-03

[司会]どうもありがとうございました。それでは、総括討論に先立って、第1発言者の鈴木先生から質問なり感想なり追加なりございましたら、おっしゃっていただけませんか。[鈴木]今の黒羽先生のコメントに私は尽きると思うんですが、私が初めに申し上げましたけれども、要するに大学改革という ...
著者
稲場 進
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究を遂行するにあたり用いたベロトキシン受容体に対する抗体は、CD77に対するモノクローナル抗体であり、これは静岡県立大学生化学鈴木先生より供与された。1.ヒト腎組織におけるglobotriosylceramide(Gb3)の局在に関する検討対象は溶血性尿毒症性症候群3例、IgA腎症14例、紫斑病性腎炎14例、頻回再発ネフローゼ症候群5例とした。溶血性尿毒症性症候群では3例とも糸球体内並びに尿細管上皮細胞に強く染色された。IgA腎症では学校検尿などの無症候性に発見された症例は陰性であり、感冒時の肉眼的血尿発見例やネフローゼ症候群合併例では尿細管上皮細胞や糸球体内に陽性であった。紫斑病性腎炎は全例尿細管上皮細胞並びに糸球体内に陽性であった。頻回再発ネフローゼ症候群では感染合併例で陽性であった。染色部位は尿細管上皮細胞ではほとんどが細胞質であったが、一部核内に強く染色されていた。一方糸球体内では毛細管係蹄壁もしくはメサンギウム領域に染色された。2.培養尿細管上皮細胞におけるGb3の発現の検討ヒト尿細管上皮細胞Cell Line(HK2)を培養し各種サイトカインにて刺激し、Gb3の発現をフローサイトメーターにて観察した。刺激には、IL-1α,IL-6,IL-8,TNF-α,LPSの5種類のサイトカインを用いた。コントロールと比較すると、刺激48時間後にはいずれのサイトカインの刺激でもGb3の発現の増強がみられた。特にTNF-αの刺激で著しく増強した。以上の結果はヒト腎組織においてGb3は、血管内皮細胞のみならず尿細管上皮細胞においても発現しており、その多くは感染を契機として分泌される各種サイトカインが関与していることが強く示唆された。
著者
宮沢賢治 著
出版者
百華苑
巻号頁・発行日
1948
著者
高橋 昌一 高谷 俊一 一関 一行 畠山 正治 大徳 和之 久我 俊彦 棟方 護 福井 康三 福田 幾夫
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.224-229, 2003-07-15
参考文献数
18
被引用文献数
5

1996年から2002年3月までの約5年間(前期:1998年6月まで,後期:1998年7月以降),39例の腹部大動脈瘤に対してステントグラフト(SG)挿入による治療を行ってきた.そのうち80歳以上の症例は前期3人,後期8人で,感染性動脈瘤を2人認め,また併存症として後期に虚血性心疾患5例,COPD1例,胸部大動脈瘤合併4例などhigh risk症例が含まれていた.前期の3例が外科手術に移行したが,残り36例(92%)がSG留置に成功した.36例中6例にendoleakを認め,5例に腸骨動脈解離(全例ステント留置)を認めた.SG留置に成功しendoleakを認めない症例は,前期50%,後期89%であった.経過観察中に追加治療や手術を受けたのはそれぞれ3例と4例であった.在院死は前期に4例認め,遠隔死亡は3例認めた.全体の生存率は術後3年で82%であった.腹部大動脈瘤に対するSG治療は,high riskな症例に対して有効と考えられ,今後さらに治療成績は向上すると考えられた.
著者
油井 大三郎 藤永 康政 梅崎 透 内田 綾子 藤本 博 小塩 和人 豊田 真穂 井関 正久 八十田 博人 土屋 和代 栗原 涼子 中村 督 ディビット ファーバー ベス ベイリー ケビン ゲインズ ヨアヒム シャルロート
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

1)1960年代の米国における社会運動に関する1次史料の系統的な収集がほぼ予定通り実現した。また、収集した史料の解題付き目録を作成し、史料自体も近く公開されるので、日本においても1960年代米国の社会運動に関する実証研究が大いに進展することが期待される。2)米国の社会運動グループ毎の比較を通じて諸グループ間の思想的・組織的連関の解明が進んだ。3)西欧や日本の1960年代社会運動研究と米国のそれとの国際的な比較研究によって、ニューレフトなど重要な概念における相違と相関が明らかになった。
著者
佐藤 可織
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は観測船「みらい」搭載雲レーダ・ライダデータより導出したレーダ反射因子と雲氷量の関係式を用いCloudSat衛星観測データを解析し、得た氷晶雲微物理特性の検証を以下の解析を行い推進した。CloudSat衛星と同期する航空機観測データによる光学的に厚い雲内部の微物理量抽出精度の検証に加え、パラメタリゼーションを用いずに雲微物理量を抽出する事のできるレーダとライダの信号強度を組み合わせた手法により光学的に薄い雲や雲上層部における抽出量の検証を行った。その結果、両手法で得られた氷晶雲粒径の高度-緯度断面には良く似た傾向が見られる事の他、パラメタリゼーションより得た雲氷量の統計値がレーダ/ライダ法で得られるものと比してより光学的に厚い雲の解析結果をより反映しているという特徴がある事がわかった。これらの成果はProceedings of the International Radiation Symposium(IRS2008)に"Sensitivity study for the interpretation of Doppler signal of space-borne 95-GHz cloud radar"という題名で報告した。衛星データに基づいた気象場分類法に従って氷晶雲-放射フィードバック効果をモデルで予測する際に重要であると思われる氷晶雲特性が大気大循環モデル(AGCM)で正しく再現されているかの評価を行った。その結果、観測ではlarge scaleの周囲の場の対流活発・不活発の分類と雲量に非常に良い対応関係があったが、モデルでは気象場と雲量の関係が良く再現されていない事がわかった。また、過去の研究からモデルでは上層雲の雲量が過大評価になっている事が指摘されていたが、常に過大評価であるわけではなく気象場による事がわかった。モデルの氷晶雲微物理特性の再現性に関してはグリッド平均の雲氷量特に11km以上の対流圏上層で対流活動活発時に1桁程度過小評価し、粒径を平均的に20μm程度過大評価する事がわかった。今後、より長期のデータを使用しこれらの成果を発展させ、モデルと観測の不一致のメカニズムを理解する事によりモデルでの雲再現性を改善する事が可能となると期待される。
著者
東条 衛 岡村 太成 石橋 憲一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.357-364, 1975-06-10

生あんを球状に成形して寒冷外気により凍結させ,次の実験結果を得た。1)直径30mmと45mmの球状生あんを,風温-6.0〜-25.0℃,風速0〜13.0m/sの条件下で凍結させた結果,-1℃から-5℃までの凍結所要時間は10〜60minであった。2)凍結所要時間から求めた平均熱伝達率h_mは近似計算により次の式で示される。(h_mD)/λ=2+0.89R_e^<1/2>P_r^<1/3>但し1.4×10^3<R_e<4.4×10^4
著者
貝塚 隆史 作田 祥司 鈴木 雅人 坂本 俊彦 鈴木 栄 荻原 勲
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.269-275, 2008-04-15
参考文献数
19
被引用文献数
1

フィルム包装して給水処理を行ったコマツナを低温・弱光下に保存したときの新鮮重,葉色などの品質および葉内の硝酸態窒素濃度の変化を検討した.フィルム包装して給水処理をおこなったコマツナは,フィルム包装による蒸散の抑制と,主根からの継続的な吸水が行われるため萎れが観察されず,保存後に新鮮重が増加した.弱光照射によって葉緑体の形成などが行われたため葉の緑色は退色しなかった.光合成,呼吸,葉緑体形成などで窒素が代謝されるので,各葉位および各部位(葉身と葉柄)ともに硝酸態窒素濃度が低下し,特に,14℃の条件で保存4日後に約36%の減少が認められた.以上のことから,コマツナを収穫後にフィルム包装,給水処理,弱光照射および低温条件を組み合わせて保存すると,品質の低下が少なく,硝酸態窒素濃度の低い植物体の生産ができることがわかった.
著者
小嶌 正稔 河野 昭三 村山 貴俊 星野 広和 河野 昭三 村山 貴俊 星野 広和
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

フランチャイジングのシステム的発展を経営革新機能の側面から研究すると共に、システムとしての発展と創業機能変化についてまとめた。フランチャイジングの創業機能の変化については、独立型の起業家とフランチャイジング起業家の比較等から, フランチャイジングの創業機能と創業者が持つ特徴を明らかにすると共に, フランチャイジング起業を活発にするためには, 積極的な情報開示を通してフランチャイジングの透明化を促進することが必要であることを明らかにした。
著者
本多 典広 寺田 隆哉 南條 卓也 石井 克典 粟津 邦男
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.115-121, 2010-07-30 (Released:2010-11-14)
参考文献数
21

光線力学療法(PDT)の治療計画において,生体組織内の光の侵達度や照射線量分布を定量的に把握することは,治療成績を向上させるために重要である.生体組織内の光の侵達度は,生体組織の光学特性である吸収係数 [mm-1],換算散乱係数 [mm-1]等により理解できる.一般的に,レーザー照射により生体組織の光学特性は変化する.そこで,我々は,PDT前後の腫瘍組織の光学特性を算出することを目的として基礎的検討を行った.Talaporfin Sodiumを用いたPDTをマウス皮下腫瘍モデルに対して行い,双積分球光学系とInverse Monte Carlo法を用いて波長350~1000nmにおける腫瘍組織の光学特性を算出した.PDT実施7日後,Talaporfin Sodiumの吸収極大波長664nmにおいて,換算散乱係数はPDT前に比べて0.64mm-1から1.24mm-1に増加し,結果,腫瘍組織への光の侵達度はPDT前に比べおよそ44%減少することが見積もられた.以上より,追加のレーザー照射によるPDTの際,PDT後の光の侵達度の減少を考慮し,レーザー照射条件を調整することが必要であることが示唆された.
著者
大場 正昭 倉渕 隆 飯野 秋成 後藤 伴延 飯野 由香利
出版者
東京工芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、ウインド・クオリティに基づいて適度な室内温熱環境を形成実現するために、平成18年度と19年度に風洞実験、実測及びマクロモデル解析を行い、以下の研究成果を得た。1.通風局所相似モデルと換気マクロモデルの連成プログラムの開発:換気回路網計算の換気マクロモデルにおいて、流入開口及び流出開口に通風局所相似モデルを適用した連成プログラムを開発した。流量係数を一定としたオリフィスモデルに比べて通風量の予測精度が向上した。2.自然通風の気流特性の解析:通風は不規則に変動し風速も比較的速く、0.1Hz以下の低周波成分や低波数の割合が多い気流であった。一方、空調風は通風と比較して規則的で低風速であり、0.1Hz以上の周波数領域におけるパワースペクトルの割合が多いことから比較的小さい渦が多い気流である。風向が変動すると、規則性が顕著になりエアコンのスイングの周期に相当する0.01〜0.1Hzの周波数領域のパワースペクトルの割合が卓越して多くなった。3.通風時の温熱環境評価の特性:風速0.5m/s未満の通風時における温冷感や快適感は、空調時よりやや暑い側や不快側に評価され、気流感も空調時より感じない側の評価になっており、空調時の乾湿感には多少乾燥側の評価が見られた。風速0.5m/s以上の通風時では空調時よりも快適側に評価された。4.熱赤外動画像処理による通風時の人体表面熱収支の可視化:通風環境下および空調環境下におけるサーマルマネキンと被験者の部位別の表面温度変動の特徴を熱赤外動画像解析により示した。特に赤外線放射カメラによる30Hz熱赤外動画像と超音波風速計による20Hzの気流変動との関係を解析する方法を提示した。