著者
藤縄 明彦 伴 雅雄
出版者
茨城大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

平成18年度は,データ収集に関しては蔵王火山1895年噴火堆積物の調査を中心に行った.これと昨年までに行った安達太良1900年噴火および磐梯1888年噴火堆積物のデータとを比較することにより,10^<11>ないし10^<15>J規模の水蒸気爆発に伴う低温火砕サージ堆積物の特徴が判明してきた.3噴火間の共通性や各種パラメータの相関,ならびにセントヘレンズ1980年噴火堆積物と,発生した火砕サージ現象との比較から,低温火砕サージの実体が明らかになってきた.研究期間を通しての成果規模の異なる水蒸気爆発由来の低温火砕サージ堆積物を対象に,現地調査,層相解析,流度特性分析を行い,その地質学的特徴を記載し,データの定量化を図った.一方で,噴火現象を記述した資料の解読や,類似の噴火現象-堆積物対比研究例を参考に,従来行われてこなかった,個々の堆積物層と噴火事象との高解像度対比を試みた.安達太良に関するその成果は藤縄・他(2006)にまとめられた.さらに,蔵王1895年噴火データを味することで,低温火砕サージの,一般則につながる系統性が判明してきた.検討3噴火に見いだされた共通性は,以下のようなものである.1)低温火砕サージは持続性の低い,希薄な火砕物流である.2)低温火砕サージを生じた爆発では,まず側方にベースサージ的高速希薄サージが拡がり,その後,噴煙柱(崩壊)由来の,より高密度なサージ(火砕物重力流)が続く.3)水蒸気爆発由来のサージは,湿度が高く,雰囲気中にはしばしば凝結した水滴が含まれている.この成果はAGU2006 Fall Meetingで発表され,世界の専門家にも興味を持たれ,有意義なコメントもいただいた.これをもとに成果を執筆中である.
著者
田畑 哲之 磯部 祥子 青木 考
出版者
(財)かずさDNA研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高オレイン酸含有量の落花生育種を促進するため、オレイン酸含有量を制御する候補遺伝子情報を用いて選抜マーカーを開発し、マーカー選抜育種を開始した。同時に落花生のゲノムワイドな多型DNAマーカー(マイクロサテライトおよびトランスポゾン挿入マーカー)を開発し、連鎖地図の作成を行った。ゲノムワイドなDNAマーカーも選抜マーカーとして利用したところ、5年の選抜工程を3年に短縮することができた。
著者
唐澤 真弓
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、従来の幸福感尺度が欧米の人間観にもとづく、最大化の幸福であるのに対し、日本での幸福はより関係志向的なミニマリストであると仮定し、ミニマリスト幸福感尺度を作成した。この尺度を用いた日米比較研究により、従来報告されてきた日本人の幸福感の低さは尺度のバイアスによることがわかった。さらに文化内比較を行い、異なる地域、異なる年齢段階においても、この幸福感尺度が妥当であることが確認された。
著者
足立 守 吉田 英一 山口 靖 鈴木 和博 志知 龍一 山本 明彦 竹内 誠 束田 和弘
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

数多くの断層により"破砕帯列島"となっている日本列島において、人口密集地の都市部は、家屋、道路、田畑等で覆われているため、地下構造を推定することは容易ではなく、地下構造に応じた地震動対策を立てることは難しい。こうした問題をクリアするために、稠密な重力探査結果に地表地質データ、ボーリングデータ、および地質リモートセンシングデータを組み合わせて地下構造解析を行い、断層のずれの量や破砕帯の規模を推定する研究を行った。主要な成果は以下の通りである。・従来の西南日本重力データベースに新たな重力データを加えて、国土基礎情報としての「日本列島重力アトラス-西南日本および中央日本」(山本明彦・志知龍一編、2004、東京大学出版会)を出版した。・人口密集地の名古屋市とその周辺地域において、1328の地点において新たな重力測定を行い、既存の温泉ボーリングデータ等と組み合わせて、詳細な地下構造解析を行った。その結果、北北西-南南東の枇杷島-熱田断層および東西の熱田-日進断層による基盤岩の垂直変位量が、それぞれ、約550mおよび約350mであることを明らかにした。・岐阜県高山南方の宮盆地において稠密な重力測定、地質調査、リニアメント解析を行った結果、宮盆地には北東-南西方向に延びる著しい負の重力異常域が存在し、2本の横ずれ断層に挟まれたプルアパート・ベイスンとして形成されたことを明らかにした。・阿寺断層地域の花崗岩中に発達する破砕帯の詳細な調査を行い、破砕帯の生成環境と形成プロセスについて明らかにした。
著者
Fujioka Kantaro Kinoshita Masataka Choi Jai-Ho Fuse Keisuke Gamo Toshitaka Hasumoto Kouji Ishibashi Jun-ichiro Koga Kazuhide Miyata Hiroki Nishiyama Ei-ichiro Sayanagi Keizo Shimamura Kiyoshi Shitashima Kiminori Suzu
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.61-132, 1987-10-23

The Mikura Basin and Hachijo Basin lie just beyond the volcanic front of the Izu-Ogasawara arc-trench system and the existence of submarine hydrothermal activity is expected. This area was surveyed during the cruise of KT 86-10 by the R/V Tansei-Maru, Ocean Research Institute, University of Tokyo from the 12th to the 21st of July, 1986. A small topographic high west of the Inanbajima which occupies the central part of the basin was found by a 12 kHz echo sounder as well as a seismic profiler. The small topographic high consists mostly of the boulder of volcanic rocks which were recognized later as two pyroxene andesites by the submersible "Shinkai 2000" of JAMSTEC. The other parts of the basins are covered by thick volcanogenic and biogenic materials having bioturbation structures on the surface by the bottom dwelling organisms. The geologic developments of the basins viewed from the present observations are as follows: Basement of the region was cut by the normal faults relating to the initiation of rifting the northern Izu-Ogasawara backarc area and followed to subside. Thick volcanic materials covered the basement. Compressional stress field after the end of the rifting may take place to form folding and fissure eruption of andesitic lava to make small knoll. CTD (Conductivity, Temperature, Depth) measurements across the knoll were carried out and temperature anomalies were found near the knoll. The temperature and salinity relationship observed along the knoll gives negative possibility to support the existence of presentday hydrothermal activity. Multichannel seismic profiler data show the existence of a low velocity part, which may possibly be a magma chamber, about 1.5 km beneath the Mikura Basin. All the other data support the existence of hydrothermal activity in the basins. However, it will be necessary to have more elaborate surveys of this area in future studies.御蔵海盆と八丈海盆は伊豆.小笠原島弧-海溝系の火山フロントのすぐ背後に位置している.これらの海盆には海底熱水活動の存在が期待されている.東京大学海洋研究所の淡青丸によるKT86-10次航海が1986年7月12日から21日の間行われ,この地域の地質学,地球物理学,及び地球化学的な調査がなされた.御蔵海盆の中央にある藺灘波島の西部からPDRと音波探査によって小さな地形的高まりが発見された.この高まりは北北西-南南東の伸長方向を持ちその幅数100メートル,高さ数10メートルで2マイル程度連続する.これは,火山岩の巨礫の積み重なった小丘で,その深部には断層が発達している.この火山岩の大部分は両輝石安山岩であることが後の「しんかい2000」の潜水調査で確かめられた.周辺の海盆底は厚い火山源及び生物源物質によって埋立てられており,堆積物が底生生物によって著しく乱されている.これらの海盆の発達史は音波探査の記録から以下の通りまとめられる.まず伊豆・小笠原背弧のリフティングに関連した正断層群によって,この地域の基盤が切られ沈降した.ひきつづきこの基盤を厚い火山物質が覆った.次に,北北西-南南東方向のσhmaxに平行な安山岩質溶岩の広域割れ目噴火を起こし,活断層と伴に小丘が形成され,この小丘を横切ってCTDの観測が行われ小丘の近くで0.05℃程の温度異常が見つかった.小丘に沿って観測された温度と塩分濃度の関係は現在の熱水活動の存在に否定的である.しかし,マルチチャソネル音波探査の結果は御蔵海盆の深さ約1.5kmのところにマグマ溜りの存在を示している.島弧を横切る方向の地殻熱流量の値の分布が火山フロントで高く,背にでもやや高いこと,断層による陥没及び活断層の存在,深海カメラや潜水艇で熱水性堆積物らしいものが撮影されていること,潜水艇のマニピュレータで得られた安山岩にFe-Mnに富む堆積物が付着していたことなどは海盆に熱水活動の存在することを支持しているが,この海域のもっと丹精なる調査が将来必要である.
著者
大見 美智人 林 泰弘 北園 芳人 小池 克明
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では電気探査とMT法とを併用して地下浅部・深部の比抵抗分布を明らかにし,それから3次元的な温度分布構造を推定するための手法について検討した。この目的のために九州中部の阿蘇山を研究対象に選んだ。本研究の成果は以下のようにまとめられる。1.ラドンの移動の数値シミュレーションとラドン原子数算定理論により,ラドン濃度の空間的分布から,幅・傾斜方位・傾斜角度に関する断層の形状を推定することが可能になった。また,熱水の通路となる断層上のラドン濃度は,火山性地震などに起因して大きな時間的変動を示すことが明らかとなった。2.衛星画像と数値地形モデルとの組み合わせにより,熱水流動に影響を及ぼす断裂系の分布形態(走向・傾斜,分布密度)が推定できるようになった。3.一般に坑井データは分布密度が低く,深度も限られており,直接データを補間しても温度分布の特徴が得られない。これを改善するためにニューラルネットワークと地球統計学とを組み合わせたところ,地表面から標高2kmの深度までの温度分布が3次元的に推定できるようになった。この分布モデルから断層の存在が温度分布に及ぼす影響や熱水の流動形態が把握できる。4.活断層のように最近動いた履歴のある断層であれば地表面近くで比抵抗が低下する。断層の深部での比抵抗は一様でなく,特に破砕度が大きいと推察される部分の比抵抗は低い。阿蘇山火口西側の断層の推定分布域では比抵抗の異方性が顕著で,TEモードとTMモードとでは分布傾向が大きく異なる。5.阿蘇山火口西側においてMT法によって推定された比抵抗と数値シミュレーションに基づく推定温度との関係を検討し,概ね温度が高いほど比抵抗が高くなるという傾向を明らかにした。また,同じ温度でも熱水の上昇域で比抵抗が低下する現象も見出された。
著者
脇野 定則 船木 實 野木 義史
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.43-49, 2001-03

第35次南極地域観測において, 東南極, リュツォ・ホルム湾, オングル海峡で地磁気全磁力測定を行った。オングル海峡では, 南北および北北西-南南東走行の地磁気異常が観測された。オングル海峡の南西部以外では, 負の地磁気異常が卓越する。また, 地磁気異常は, 約-100nTから80nTの間で変化している。
著者
徳山 英一 西村 清和 末広 潔 平 朝彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度に実施された調査により、極めて高解像のイザナギ海底音響画像記録とディープトウ・サイスミックス・プロファイルを取得することが出来た。イザナギ海底音響画像記録からは東京海底谷の河床で活断層と解釈される構造が発見された。また、この活断層を横切るディープトウ・サイスミックス・プロファイルから明瞭な″とう曲構造″が併せて発見された。この変動地形は1923年の関東地震の震源位置とほぼ一致することから、関東地震により引き起こしたものと推測される。平成7年度はディープトウ・サイスミックス探査、さらにピストンコアによる採泥を実施した。ピストンコアの採泥は9地点で行われた。その内4点が東京海底谷を横断する活断層を狭む地点で実施された。採取されたコアは即座に処理され、以下の測定が採取日に行われた。1)MST(間隙率、P波速度、磁気強度をコアを非破壊で計測する機器)計測。2)コアの記載。3)間隙水の化学分析。4)水銀注入式の間隙率の測定。5)帯磁率異方性の測定。その結果、東京海底谷から採取されたコアからはイベント堆積物が2つ確認された。上位のものは海底から35-40cm下の地点、下位のそれは150cmから下に存在する。この2つのイベント堆積物は巨大地震により誘発された可能性があり、上位のイベント堆積物が1923年の関東地震に関連するものであれば、堆積速度から判断して、下位のイベント堆積物は1923年から250年程度さかのぼるものと推定される。平成8年度はイザナギ画像と水深値を統合して3次元海底音響画像を作成した。この結果から、活構造の分布を3次元的に捉えることが可能になった。またコアサンプルに関しては、ソフトX線写真撮影、化学分析を実施した。断層近傍から採取された堆積物の主成分、さらに微量元素の測定結果からは、断層運動に伴う湧水現象を示す特徴的シグナルを今回は見いだすことが出来なかった。
著者
香西 克俊 境田 太樹 福士 恵一 石田 廣史 東上床 智彦
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

TOPEX/POSEIDON衛星高度計データをもとに日本海南部におけるナホトカ号船首部漂流期間を含む1993年1月から1997年12月までの海面高度場を推定した.船首部漂流期間中,漂流期間前と比較して,隠岐諸島北部海域の海面高度は能登半島北部海域より海面高度が約80mm上昇し,その結果,プイ南側に位置する沈没地点付近の等高線間隔が密になり,等高線の向きも南北方向に傾く様子が見られる.この海域の海面勾配は等高線に対して直角方向110kmに対して海面高度差が約140mmあり,これは地衡流速に換算して南南東向き約0.24ノットの流速である.船首部漂流期間終了後,隠岐諸島北部海域の海面高度は能登半島北部海域の海面高度に比較して大きく下降し,その結果,沈没地点付近の等高線間隔は漂流期間中に比べて広がり,等高線の向きも東西方向に傾く様子が見られる.TOPEX/POSEIDON衛星高度計データによる時空間平均海面高度場では捉えきれない空間スケール100km以下の小規模低気圧性渦の存在を地衡流向流速場により明らかにした.そして風速が10m/s以下の期間の漂流軌跡はこの低気圧性渦による南東流の影響を強く受けている可能性を示唆した.ERS-2搭載高度計データをもとにナホトカ号沈没船体からの漂流重油を追跡した結果、軌道に沿った推定表層地衡流量は沈没船体からの漂流重油の海面における湧出点位置に大きな影響を与えていることが確認された。特に推定表層流向は沈没位置に関する湧出点位置の方位角とほぼ一致し、また推定表層流量が大きくなればなるほど重油湧出点位置は沈没位置から離れることが明らかになった。
著者
渡邊 浩文
出版者
東北科学技術短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

大規模宅地造成等により環境破壊が進む仙台市において、自然と調和した都市づくりの指針を明らかにするための、面的・基礎的な資料を整備した。1.人工衛星データを活用した土地被覆分布図、地表面温度分布図の作成1995年10月および1985年6月の2時期の、アメリカの人工衛星ランドサット5号のTMデータのうちband3及び4を用いた。土地被覆分布図の作成は特に「緑地」に着目し、正規化植生指標と呼ばれる植生の活性度を算定し分布図に表した。2時期のデータ比較による経年変化の考察を通じて、市街地郊外部の山林を大規模に宅地造成している現状を確認した。地表面温度分布図の作成はband6データを用い、CCT値から輝度温度に変換し、図化を行った。観測時刻が午前10時前のため、市街地部分はさほど昇温していなかったが、特に臨海工業地区、空港(滑走路)が高温域として着目された。また試行的に国土数値情報の土地利用データを用いた人工排熱分布図の作成を行った。2.仙台各地の風速・風向の調査と図化仙台市内に立地する既存の気象観測所11地点における風速風向資料を入手し、夏季(7&8月)時刻別の解析・図化を行った。海陸風により日中と夜間で風向風速とも状況は大きく異なり、日中は主として南南東風が、夜間は主として北風がどの観測所においても観測されていた。主風向は比較的安定した状況であった。3.既存地図情報により大気汚染源の特定と図化供給処理施設、大規模製造工場などを主たる対象とし、大気汚染物質発生源の位置の特定・図化を行った。工場の分布は、市街地の東側郊外にある工業地区および臨海部(仙台港周辺)に集中しているが、このほかにも比較的市街地中心部に混在する形で工場が点在している様子が見受けられた。風向風速の解析結果と合わせてこの状況を考察すると、少なからず都市の大気汚染に影響を及ぼしていることが推量された。
著者
浦野 慎一 高橋 英紀 町村 尚 平野 高司 山梨 光訓 上田 宏 堀口 郁夫
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

陸地水体と生物生産の相互関係を明らかにするため、北海道の洞爺湖とその周辺を対象に水温、気温、風向風速等を観測し、貯熱量と湖効果を検討した。またアフリカのザンベジ河氾濫原で水文気象観測を実施し、氾濫原の特性と水田開発の関係を検討した。さらに基礎的研究として、様々な植生における蒸発散量を観測し、比較した。以上のことを13編の論文にまとめ、報告書(158ページ)にまとめた。得られた結果の概要は以下のとおりである。洞爺湖では、水体の貯熱量が大きいため、陸地と湖水面における有効エネルギーの季節変化に約半年の位相のズレが確認され、この位相のズレが湖効果の原因になっていることがわかった。また洞爺湖の湖効果は相対的に冬期より夏期に強く出現すること、地域的には夏期の一般風の主風向が南よりであるため北側の湖岸で強く出現することがわかった。以上のことから、夏期の生物生産最盛期に湖効果が出現する地域では、気温を考慮してその地域に適切な作目を選ぶ必要があると考えられた。ザンベジ河氾濫原では、蒸発散量は雨季終了後および冷涼乾期に大きな減少が見られなかった。これは周辺台地から供給される地下水の流れによるものと推察され、水田開発を行うにはこのような地下水流を考慮に入れる必要があると考えられた。また、基礎的研究として森林、トーモロコシ畑、牧草地の蒸発散量を比較した結果、牧草地ではデカップリングファクターが最も大きく、相対的に空気力学的作用よりも熱収支的作用の方が蒸発散量に大きく影響していることがわかった。
著者
井上 薫
出版者
奈良大学文学部文化財学科
雑誌
文化財学報
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-11, 1982-03

慈恩寺の大雁塔(七層、博造、唐代)は鐘楼(三層、木造、清代)とともに西安(古都長安)の看板とされており、西安に旅行すると、旅行社の係はツァーの客を先ず鐘楼と大雁塔に案内する。西安を紹介するパンフレットにも、鐘楼が表紙に、大雁塔が裏表紙に美しいカラーで印刷されている。鐘楼は西安の中心部にあり、ここから東西南北に街路(東大街・西大街・南大街・北大街)が走っており、大雁塔は鍾楼から南南東の方角に建てられていて、西安駅からならば解放路をまっすぐに南進し、平和門を過ぎ、雁塔路を南に約四キロ進んで突きあたるところが慈恩寺である。鐘楼や大雁塔にのぼって西安の市街や郊外をながめると、その景色はすばらしい。鐘楼と大雁塔は西安の史跡・名所であるほか、ここの頂上からほかの史跡や名所を遠望することができる。慈恩寺は唐の第三代の天子高宗(六四九ー六八四、在位)がまだ皇太子であったとき、母の文徳皇后の冥福を祈りその恩にむくいるため、貞観二f二年(六四八、日本の大化四年)に階代の廃寺を復興して建てた寺であり、建立の趣旨によって慈恩寺と名づけられた。
著者
安藤 雅孝 田部井 隆雄 渋谷 拓郎 大倉 敬宏 平原 和朗 鎌田 浩毅 石川 尚人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

[GPS観測]1.フィリピン諸島の南方の海域(モルッカ海)におけるプレート沈み込み様式を推定するために、インドネシア・スラウェシ島北東端のManadoとミンダナオ島中央のDavaoなど10カ所でGPS観測を行ない、これらの地域の変動速度を(傾斜角30度,固着域下限の深さ60km),南部では東傾斜モデル(傾斜角50度,固着域下限の深さ40km)が得られた。2.マコロード回廊周辺およびフィリピン断層沿いの14カ所でGPS観測を今年度も継続して行った。ユーラシアプレートに相対的な速度場を求めたところ、すべての観測点で西ないし北北西向きに5-9cm/yearの値が得られた。しかし、マコロード回廊の北側と南側ではユーラシアプレートに対する速度が系統的に異なり、マコロード回廊内および回廊の南側が、北側の地域に対して年間2cmの大きさで東ないし北東方向に変位していることが明らかになった。また、マコロード回廊内で2〜4×10E-7の南北ないし北北西-南南東方向の伸長成分が検出された。[地球年代学]フィリピン海溝での沈み込みの開始時期に制約を与えることを目的として,ルソン島ビコール半島の13の火山から37試料を採取し,そのK-Ar年代と化学組成の測定を行った.その結果,ビコール半島のフィリピン火山弧の活動は約7Maにまでさかのぼることが分かった.本研究のデータとSajona et al.(1993,1994)のデータをあわせてみると,沈み込みが北から南へ伝播したというモデルと調和的である.また,パラワンブロックの衝突時期が8-9Maと推定されていることと今回のデータは矛盾しない.[火山地質]1991年ピナツボ山噴火時に形成された火砕流堆積物に対して残留磁化の段階熱消磁実験を行った。結果、ある地点の試料は320-440℃まで温度領域で方向が類似する安定な磁化成分が検出された。これは、火砕流中央部が定着時に最大その温度まで上昇したこと示唆する。また、別の地点の試料のほとんどはマグネタイトのキュリー温度(580℃)までの温度領域で認められる類似した方向をもつ安定な一つの磁化成分を示した。このことは、その温度以上に最下部が上昇していた可能性を示す。
著者
大倉 敬宏
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

マコロード回廊周辺およびフィリピン断層沿いの14カ所で1996年4月から2000年9月までに行われた10回のGPSキャンペーン観測に関して、そのデータ収集および整理を行なった。これらのデータおよびフィリピン内外のIGS観測点のGPSデータをBernese Ver. 4を用いて解析し、ユーラシアプレートに相対的な速度場を求めた。その結果、すべての観測点で西ないし北北西向きに5-9cm/yearの値が得られた。しかし、マコロード回廊の北側と南側ではユーラシアプレートに対する速度が系統的に異なり、マコロード回廊内および回廊の南側が、北側の地域に対して年間2cmの大きさで東ないし北東方向に変位していることが明らかになった。また、マコロード回廊内で2〜4×10E-7の南北ないし北北西-南南東方向の伸長成分が検出された。また、マコロード回廊内の回転成分は反時計回りに0.2-0.4マイクロラジアン/yearであり、この値も周辺より若干大きめであった。この0.2-0.4マイクロラジアン/yearという値は古地磁気学的手法により得られた、過去200万年のブロック回転運動(最大40度)の平均回転速度とほぼ等しい。求められた伸長成分や回転成分がマコロード回廊の生成時から連続するものであるとすると、マコロード回廊の生成には、約2Maにフィリピン海プレートの沈み込み様式がかわったことでパラワンブロックとフィリピン島弧の再衝突がおこったことが密接に関係していると考えられる。
著者
市原 寛 榊原 正幸 大野 一郎
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.110, no.12, pp.746-757, 2004-12-15
被引用文献数
1 1

四国北西部に存在する南北系の地形構造の一つ,松山平野"堀江低地"について,重力異常探査および既存のボーリング資料により検討を行った.ボーリング資料より,低地下に東落ちの基盤深度の不連続帯およびこれに向かって急傾斜する堆積層の地層境界面の存在が明らかになった.また,重力探査によると,明瞭な負のブーゲー異常帯が低地とほぼ平行に存在することが明らかになり,その西端部の急変帯は上記の基盤深度の不連続帯によることが解明された.これらのデータより,走向が北北西-南南東で,東落ちの堀江断層が低地下に伏在すると推定される.堀江断層は正断層成分を持ち,堀江低地下に堆積盆を形成しており,南方の中央構造線活断層系の分布域まで延長されると考えられる.堀江断層は,少なくとも更新世には活動していたと推定される.
著者
加藤 照之 CATAPANG Her KOSHIBA Frit PARK PilーHo FEIR Remato GERASIMENKO ミハエル BEAVAN John 小竹 美子 平原 和郎 中尾 茂 笠原 稔 GERASIMENKO Michael D HERBERT Cata FRITZ Koshib PILーHO Park RENATO.B. Fe MICHAEL Gera JOHN Beavam FEIR B. Ren
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

西太平洋地域は収束するプレート境界が複雑に入り組み、多くの海盆やトラフがあって地震や火山噴火の活動の盛んな地域である。この地域のプレート運動とその境界の非剛体的変形を検出して監視することにより各種の地殻活動の予測に役立てられると同時にプレート運動の機構がより詳しく明らかにされると期待される。最近のGPSによる基線解析では1000kmを1cmの精度で計測することが可能である。そこで本研究では、これまでの日米科学協力事業等による基礎調査をふまえて西太平洋地域にGPS連続観測網を構築した短期間の観測研究により当該地域の変位場を明らかにすることを目的とした。本研究では、IGS(国際GPSサービス機構)のグローバル観測網の手薄な地域に観測点を建設して資料を蓄積すると同時にIGSによるデータを取り込みながら得られたデータを解析して観測点の速度ベクトルを算出するという観測と解析を並行して実施するという方式をとった。平成7年度には気象研究所と共同で南鳥島に連続観測点を建設したのを手始めに、トラック島、マニラ、大田、ウラジオストックに観測点を建設しいずれも現地収録方式により観測を開始した。また、平成8年度にはポートモレスビ-に観測点を建設した。これにより、別途設置した石垣島とパラオとを合わせ8点のGPS連続観測点を建設し、IGSの他の観測点と合わせ西太平洋に1000kmスケールのGPS連続観測網を建設することができた。この観測網から取得できた1995年7月からのデータを用いて基線解析を実施しつつある。ここでは最高精度による基線解析を実施するため新たにfiducial freeによる解析方法を考案した。この方法ではIGSグローバルサイトの観測点を取り込み、観測網全体がバイアスを持たないようにしたうえ、どの観測点も固定しないで解くという方法を用いる。ソフトウェアはBernese software Ver.4.0を用い、IGS精密暦を使って解析を実施した。こようにすると、座標の絶対値は正確には求められないが、基線は正確に求められる。このようにして基線を求めた上でHeki(1996)によるつくば(TSKB)の速度を与えて固定し、全観測点の位置座標を決定する。このような解析を毎日のデータについて実施し、各観測点の時系列を得た上で直線近似によって速度ベクトルを求める。求めた速度ベクトルをマップにまとめたところいくつかの新しい事実が判明しつつある。1)マニラの観測点は北西に約4cm/yrの速度で移動しつつあり、フィリピン海プレートによる圧縮の影響が顕著である。2)石垣の観測点は南南東へ約6cm/yrで移動しつつあり、フィリピン海プレートが押している影響は見られない。このプレート境界はむしろカップリングは弱く、背孤である沖縄トラフが拡大しつつあるのを見ているものと考えられる。3)グアムはフィリピン海プレートないにあるにも関わらず、その変位速度は剛体的変位から考えると速度が小さすぎる。マリアナトラフの拡大の影響を受けているものと考えられる。4)大田、上海、イルク-ツク等の東アジアの観測点はすべてヨーロッパに対して東向きの変位を持ち、インドプレートの北方への衝突による大陸地殻の東への押し出しの影響を見ているものと考えられる。以上を要するに、本研究によって西太平洋地域にはじめてGPSの連続観測網が構築され、テクトニクス研究の基礎を築くことができたと同時に、日本の南西諸島,フィリピン,マリアナ諸島などにおいて従来の剛体的プレートモデルでは説明できないようなプレート境界部における非剛体的変位が明らかになりつつある。このことをふまえ、今後もこの地域にGPS観測点を増強すると共にその観測領域を東アジアに拡げ,当該地域のテクトニクスを明らかにすべく観測研究を強化する予定である。また、本観測網は「海半球ネットワークプロジェクト」(新プログラム:研究代表者 深尾良夫)に引き継がれ、引き続き観測を続行する予定である。
著者
坂井 卓 岡田 博有
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.48, pp.7-28, 1997-06-30
被引用文献数
2

九州の中軸帯および黒瀬川構造帯には白亜紀堆積盆が広く発達する。その層序学的・堆積学的ならびに構造地質学的諸特徴には東アジアの活動的縁辺域で生じた白亜紀のテクトニクス変化が記録されている。黒瀬川構造帯の下部白亜紀系は断層規制を受けた堆積盆に形成され, 非海成〜浅海相ならびにタービダイト相からなる二つの異なるタイプのシークェンスが識別できる。これらは, 多くの不整合を伴って顕著な岩相変化を示す。このような堆積盆は, 分断された黒瀬川古陸上に形成された横ずれ構造盆にあたり, 白亜紀前期にカリフォルニア型のトランスフォーム縁辺が推定される。このことは黒瀬川構造帯の堆積盆が北北西-南南東の左横ずれ断層を伴うタンル-断層システムに属していたことを示唆する。一方, 中軸帯の後期白亜紀堆積盆は非海成〜浅海性相(御所浦・御船層群)と浅海〜タービダイト相(大野川・姫浦層群)の二つの異なるシークェンスからなる。前者は先白亜紀の構造に対し, オーバーラップの層序関係を示し, ベンチ状あるいは陸棚性前弧海盆に比較できる。後者は軸流運搬のタービダイト相が卓越し, 伸長性堆積盆を示す。堆積作用と変形スタイルの特徴から, 大野川, 姫浦層群はそれぞれ横ずれ構造盆, 断層規制を受けた陸棚盆に相当する。黒瀬川構造帯堆積盆の北方への顕著な堆積盆の移動は, 縫合性島弧地塊と前期白亜紀に隣接していたイザナギ・プレートの間のトランスフォーム過程に関連したと推定される。引き続く中軸帯の堆積盆のタイプの時空的変化は, 後期白亜紀のクラ, 太平洋プレートの収れん運動の変化に対応するだろう。
著者
藤田 茂夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.833-843, 1993-08-25
被引用文献数
3

次世代の半導体レーザダイオードとして,現在,し烈な研究開発競争がくりひろげられている.ZnSe系II-VI族半導体による,量子井戸構造青色半導体レーザの研究現況と,将来展望について解説する.光情報処理関連分野への応用上のインパクトが大きい青色半導体レーザは,現在では室温パルス発振が実現している.実用上の必要条件である室温連続発振に向けての研究が,精力的に行われているが,なお技術上,物性上,特性上解決・解明すべき課題も多い.しかしながら,これらの課題を乗り越え,青色半導体レーザが実現される時期も,そう遠くない物と思われる.
著者
山内 靖喜
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

2000鳥取県西部地震の震央を中心に東西11km×南北10kmの地域の断裂系を解析した.本地域には花崗岩類が分布し,局部的に鮮新世末〜前期更新世の玄武岩溶岩が不整合に覆う.花崗岩地域では大きな節理,節理密集帯,破砕帯を用いて断裂系を解析した.断裂の「切った切られた」の関係と走行・傾斜から,この地域の主要な断裂はA〜Lの12に区分した.1〜2kmの狭い範囲内では,2〜3の系統のみが発達する.特に,本地域西部においてはA(N70-90E,60N-85S),震央がある中央部から東部ではB系統(N10-40W,60E-85W)とC系統(N40-70W,60W〜85E),西部から北縁部にかけてB系統がそれぞれ卓越する.各系統間の新旧関係から,5系統は複数回活動し,最新に活動したのはA, B, Cの3系統と判断された.玄武岩溶岩分布域内では,その噴出源が示す深部断裂系と溶岩を切る断層を走向・傾斜で区分すると,A〜D系統に属し,前期更新世にはすでに存在していたと判断された.震央から北東約10kmの越敷原玄武岩岩体内で新たにみつかったC系統に属する活断層は,2000鳥取県西部地震の震源断層と平行し、同じ変位様式をしめす.さらに、両者の間には玄武岩類の噴出源の配列によって示される深部断裂が両者に平行に発達する.これらの類似から、この3つの断裂は同じ応力場で、おそらく前期更新世に形成されたと考えられる.2000鳥取県西部地震の震央周辺では,以前から地震活動が活発であるが,これらの余震域の方向はB系統に一致する.しかし、本地震のそれは本地震発生直後にはB系統方向を示したが,すぐにC系統の方向に成長した.このことは発震機構の応力場が変化したためと考えるよりは,既存の2系統の断裂が再活動したと判断される.すなわち,地震発生時に震央付近で優勢なB系統の断裂系が再活動したが、近くに存在したより規模が大きなC系統の断裂が,B系統の活動に誘発されて再活動したと考えられる.
著者
金嶋 聰 川勝 均
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

阿蘇火山広帯域地震計ネットワーク観測(ASO94)の実施中の阿蘇火山は、表面活動サイクル(数年程度の周期を持つとされている)中の『湯溜り』と『土砂噴出』のステージにあった。観測期間中においては、15秒に及ぶ長周期の微動の発生と爆発的な土砂噴出が顕著な現象であった。これまでに短周期の微動の起こり方や土砂噴出などに対応して、数種類の長周期微動が観測されている。これら長周期微動は、継続時間20〜30秒を持つ1〜2サイクルの孤立したイベントとして観測されることが多い。また周期15秒を基本モードとし、7.5秒や5秒程度の高次モードを持ち(川勝ほか、1994)、震源は中岳第一火口の南西深さ1から1.5kmである点(松林ほか、1995)で共通している。さらに、基本モードの波形を用いてモーメント・テンソル解を推定すると、等方震源成分と火口列に平行(北北西-南南東)な鉛直クラック成分の混合と解釈できる解を持つ。以下にこれまでに分類できている2種類の長周期微動についてその特徴をまとめる。(1)連続的な短周期微動発生が無い“静穏"期(1994年4、11月):引きで始まり、最初に短周期(2Hz程度)の振動を伴う。基本モードが卓越する場合や高次モードが優勢な場合がある。(2)土砂噴出が頻発している時期(1994年9月):押しパルスが卓越するが、小さい引きで始まる事が多い。短周期振動は伴わない。高次モードに対応する周期(5-7秒)が卓越する。爆発的な土砂の噴出の100秒程前に、超長周期の押し(膨張)の変位が生じる。この変位に伴い、長周期微動と同じ震源位置を示すパルスも発生する(松林ほか、1995)。このパルスは長周期微動(2)に類似した特徴を備えているが、多くの場合卓越する周期はより長く、長周期微動の基本モードの周期(15秒)程度である。噴出の直前には長周期微動(1)と酷似したシグナルが現れ、小さな短周期振動がはじまる。この短周期振動が30〜40秒継続した後、大きな引きの長周期パルスに伴い短周期振動の振幅が急増する。この時刻が概ね火口湖からの土砂噴出に対応する(川勝ほか、1995)。噴出開始後、超長周期変位は収縮に転じ、長周期パルスの振幅は小さくなる。収縮が止まると短周期振動も終了する。長周期微動(1)は、始まりが引きであること、および土砂噴出直前の波形に似ていることから、震源での減圧による収縮とそれに続く振動と考えるのが自然である。最初の短周期微動は水蒸気の移動など圧力解放のきっかけに対応している可能性が考えられる。長周期微動(2)は、押しが卓越すること、土砂噴出直前の膨張に伴うパルスに類似すること、から高温ガスとの接触による地下水の突発的蒸発がもたらす震源での圧力の増加に対応する可能性が考えられる。