著者
山本 信人 大石 裕 烏谷 昌幸
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

21世紀の東南アジアは原子力ルネサンスといわれ、エネルギー確保と省エネ、気候変動対策の切り札としての原発が脚光を浴びた。インドネシア(05年)とフィリピン(09年)は原発(再)建設を政策課題としたが、反対の市民運動がわき上がった。主たる論争点は原発の安全性と政策過程の透明性であった。安全性については推進・反対派ともに科学者を要して論争を展開した。結果的には原発建設計画は中止に追い込まれた。その主要因は、政策過程の不透明性と政策不信、そして「援助」国と関連多国籍企業の資本の論理、つまり安全への不安であった。
著者
小池 健一 上松 一永 上條 岳彦 蓑手 悟一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

小児がんの発症率、原発部位、病理組織像、転移などの臨床所見に関する調査を行い、チェルノブイリ原発事故後に発症した小児がんの生物学的特性を明らかにするため、本研究を行った。1989年から2004年までに238名の小児の骨腫瘍患者が発生した。男児113名、女児125名(男女比1:1.1)であった。年代別発生数をみると、甲状腺がんのような明らかな増加傾向はみられなかった。ベラルーシ共和国の中で、ゴメリ州、モギリョフ州、ブレスト州を汚染州、ミンスク州、グロズヌイ州、ビテフスク州を非汚染州とし、骨腫瘍の臨床所見を比較した。汚染州における男女比は1:1.1で、非汚染州は1:1.57であり、有意差はみられなかった。次に発症年齢を比較した。9歳以下の小児の比率は汚染州では、102例中34例(33.3%)であったのに対して、非汚染州では、136例中29例(21.3%)であり、汚染州において有意に年少児の割合が高かった(p=0.0377)。骨腫瘍の種類は、両群とも骨肉腫とユーイング肉腫が80%以上を占めた。TNM分類で腫瘍の進展度を比較した。両群ともほとんどの例は隣接臓器に浸潤していた。遠隔転移のみられた例は、汚染州では22.5%で、非汚染州では26.5%と同等であった。11例の骨腫瘍内の^<90>Srを液体シンチレーションカウンターを用いて測定したところ、陰性コントロールに比べ、5例が高値を示した。以前の調査で、ゴメリ州立病院に入院した小児の急性リンパ性白血病患児の臨床的特徴として、ビテフスク州立病院に入院した対照患者に比べ、2歳以下の幼若児の比率が高いこと、LDHが500IU/L以上を示す患者の頻度が高いことが明らかとなった。小児期、特に2歳くらいまでの白血病発症は胎児期に始まることが報告されていること、ゴメリ州での放射能被曝は胎児期から始まる低線量の長期間にわたる体内被曝様式をとっていることから、幼若発症例が多い要因として、出生前からの母体内被曝が重要な因子となっている可能性が考えられた。今回の骨腫瘍の調査結果でも白血病と同様な傾向を示したことは注目に値する。現在、がん抑制遺伝子などの遺伝子解析を行っている。
著者
西谷 修 中山 智香子 大川 正彦 林 みどり 安村 直己 阿部 賢一 米谷 匡史 蕭 幸君 上村 忠男
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、グローバル化として語られる世界変容を、ネオ・リベラリズムと戦争の変容という二つの軸を立てて解明することだったが、この3年間で、西洋の世界化という歴史的パースペクティヴを背景に、一方で「帝国」概念をニューディールとの隠れた関係から見直して現代の世界秩序の再解釈を図るとともに、9・11以後の「テロとの戦争」の分析から、現代世界における国家・権力・法秩序・暴力等の再編成のありようを追究し、現代の政治思想の諸課題を解明するなどの作業を行った。また、これらを原理的考察として、国家間システムからグローバル秩序への移行にともなう特徴的諸問題が端的に表れる諸地域(ラテン・アメリカ、東欧、東アジア等)に焦点をあて、それらの地域研究をもとにしてテーマを具体化し、ナショナルな歴史の語り、内戦と人間(個の枠の崩壊)、亡命から難民へ(民のステイタスの崩壊)などの問題を掘り下げて、国家秩序の形成と崩壊が社会形成や個人の存立に触れる地点を描き出した。これらの研究成果は本研究課題を標題とする論集として近々出版する予定である。また当初予定した映像資料等の収集は、研究遂行の過程でグローバル世界のメディアの問題と結びつき、資料を公共化すると同時にそれを軸にした討論をシンポジウムで行うという企画に発展し、H16年度に1度、H17年度に2度の国際シンポジウム(視角の地政学、<人間>の戦場から、グローバル化と奈落の夢)を実施した。その記録の一部は企画を共催した別途資金ですでに刊行され、残りの編集準備も進んでいる。共同研究の内実と、実施による新たな研究への発展、実践と成果のアクチュアルな公共化(社会還元)等、多くの面で実のある研究が遂行できたと自負している。
著者
深尾 隆則
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

1. 屋外型飛行船システムの構築初年度購入した全長12mの屋外型飛行船にGPS,IMU,風速・風向センサを装着し、組み込み型の小型計算機などにより自律飛行船ロボットに必要なシステムの構築を行っているが、今年度は送受信機系の信頼性を高める改修を行った。2. 実地試験8月初旬から4週間を北海道大樹町の多目的航空公園で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力の下、実機実験を行った。今年度は特に、高度維持制御に関する実験を集中的に行い、旋回時や風が強い時に見られたピッチングの変動が抑えられ、また支持した高度への移動も可能になった。3. データ解析、シミュレータ構築空力特性に関する理論モデルの構築を行った。これは風洞試験なしで飛行船モデルを構築するためであり、将来の飛行船開発に役立つものである。また、JAXAの協力下で、実機実験により得たデータを用い、比較検討を行った。さらに、この理論モデルや風の理論モデルを導入した飛行船シミュレータの作成を行った。4. 情報収集システムの開発画像情報収集システムに関しては、ステレオカメラを回転させる回転型ステレオカメラを考案し、建造物などを高解像度に撮影できるシステムを開発した。収集された情報の多さなど、通常のステレオシステムよりも非常に有効な情報収集手段であることが明らかとなった。
著者
福永 伸哉 北條 芳隆 高橋 照彦 都出 比呂志 杉井 健 松木 武彦 清家 章
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては、西日本の前方後円墳消滅過程について、九州、中四国、畿内の地域事例を比較検討し、以下のような事実を明らかにした。(1)前方後円墳消滅過程は地域ごとに著しく異なること(2)そのなかで中期前葉(5世紀前葉)、中期後葉(5世紀後葉)、後期中葉〜後葉(6世紀中葉〜後葉)に前方後円墳消滅の大きな波が認められること(3)後期前葉(6世紀前葉)には長らく途絶えていた前方後円墳築造が復活する地域があることこうした前方後円墳消滅過程の背景としては、中央政権と地方勢力との政治関係の変化、薄葬化へ向かう東アジア共通の傾向、横穴式石室導入に伴う葬送儀礼の変化といった複数の要因が存在したと考えられる。とりわけ、6世紀前葉の前方後円墳の「復活」は、支持基盤の拡大をねらった継体政権による地域首長優遇策の反映であり、その後まもなくして各地の前方後円墳が消滅する現象については、安定的な政権を築いた6世紀後葉の欽明政権が大王墓クラスの前方後円墳を巨大化させる一方で地域首長からは前方後円墳を奪うという戦略にでた結果であると推測した。そして、大王墓も含めた6世紀末における前方後円墳の完全な消滅は、もはや前方後円墳を必要としない社会秩序が生まれたことを示し、それは推古天皇の時代の「政治改革」と関連する可能性が高いが、円墳や方墳はなお多数築造されており、葬送儀礼による社会秩序の維持がなお必要であったことを指摘した。また、研究のもう一つの柱であるフィールド調査としては、兵庫県勝福寺古墳の発掘調査を行い、畿内北部地域における最後の前方後円墳の築造背景について多くの知見を得た。
著者
下山 憲治
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、雲仙普賢岳噴火災害・北海道南西沖地震災害における被災者救済措置の一部を実態調査し、分析を行った。今年度は、前記災害の際の義援金配分をめぐる法的関係および被災者にたいする救援・生活再建対策について分析した。その結果、義援金をめぐる法律関係は公私にわたる多数の団体がかかわるためその法関係が複雑であるとともに、紛争を解決するための手続が非常に未整備であること、また、被災者の救援・生活再建については、ごく一部の分析にととめざるをえなかったが、被災者の権利保障の観点から今後の検討が必要であり、それに伴う法整備が不可欠になっていることが明確となった。カリフォルニア州の被災者救援・支援法制について資料の収集を実施したが、同州および米国においても法的観点からの分析・検討がきわめて少なく、議会資料や裁判例および各種報告書等を収集せざるをえず、いまだ中途の段階であり、さらに今後も収集・分析を要する。
著者
横山 明彦 ATTAVIRIYANUPAP Pathom
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

欧米を中心とする世界各国において、電力自由化が進められており、その一環として競争的電力市場が創設されている。代表的な例としては、米国のPJM ISOやNY ISOのエネルギー市場。日本では2005年4月より電力自由化の一層の進展が始まり、日本卸電力取引所等が開設された。電力自由化においては、全国各地で新規参入が増えて地域間の電力取引が活発になると、これまでの電気の流れ(電力潮流)が大きく変化し、予測が難しくなる。地域によっては送電能力が不足して送電系統が混雑し、意図した電力取引ができなくなってしまう。電気料金が高くなる原因の一つと考えられる。現在NY ISO等がこのような問題で苦しんでいる。また、電力系統における設備に事故が起こった場合も停電が起こり易くなる。電力供給信頼性に影響を与えるものと懸念されている。「価格高騰」及び「供給信頼度」問題を解法するために、送電系統を拡充することが方法の一つと考えられる。しかしながら、送電線新設には多額のコストと時間がかかるため、投資者にはリスクがある。また場所がかかるため、重要な環境問題でもある。本研究では、「価格引き下げ」と「安定供給」を目指して、電力自由化における様々な送電系統拡充方法を分析し、最適な送電系統拡充方法を選択する。送電系統拡充方法としては、「送電線の新設」、「FACTS機器の投入」、「現在系統のまま」3つの方法がある。各方法においては様々な不確実性(需給計画、発電計画・運用、設備の事故等)の影響も考慮する。以上を検証するために、計算機シミュレーションのための数式モデルを作成し、シミュレーションを行い、結果分析を行った。
著者
中川 恵
出版者
羽衣国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大衆への普及が過去10年以内という点で新しいメディアと位置づけられるインターネットと衛星放送の普及が、中東地域の生活空間、政治的意思の形成、政治的意思形成の場となる公共空間にいかなる変容をもたらしているのか、とりわけ女性たちの政治的意思決定のプロセスを調査・分析した。その結果、モロッコの場合、衛星放送の普及と国家が進める社会・経済開発の両方がほぼ同時に進んだことが、女性の政治参加を促進したと結論づけることができた。
著者
吉田 正章 佐々木 武 三町 勝久 松本 圭司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

絵有方程式の又曲黒写像の離散的類似を得ることに成功した。この結果、離散正則関数及び離散曲面の特異点研究に或方向を与えた。(3,6)型超幾何微分方程式の測多価群が四型領域の離散部分群になる場合と、有限群になる場合に数論的関係があることを示した。空間内の平面配置特に6枚の場合に切り取られる図形を記述した。一般次元の舌寝超平面配置で切り取られる図形を組み合わせ的に調べた。FA型超幾何微分方程式の測多価群の生成元を求めた。
著者
鈴木 建治
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、サハリン島で内耳土鍋(器体内部に環状の取っ手をもつ土器)が出現する時期について検討した。内耳土鍋研究は、北海道・サハリン島・千島列島におけるアイヌ文化の成立過程を考える上で、非常に重要な研究分野である。研究の結果、サハリン島で内耳土鍋が出現した時期は11世紀中頃から13世紀前半であることが判明した。
著者
天野 勝文 阪倉 良孝 高谷 智裕 水澤 寛太
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

トラフグがフグ毒テトロドトキシン(TTX)を脳内に保有することを示した申請者らの研究成果を基に「フグでは脳に存在するTTXが脳ホルモンを介して内分泌系を制御する」という仮説を立て,その検証に挑戦する.まず,トラフグをモデルとして,TTX投与毒化魚と対照無毒魚における主要な脳ホルモンの遺伝子発現量をリアルタイム定量PCRで網羅的に比較して,TTXが脳ホルモンを介して内分泌系に及ぼす影響を調べる.次に,フグ科魚類の脳にTTXが広く存在するかを,液体クロマトグラフィー質量分析と免疫組織化学を併用して精査する.最後に得られた結果を総合して,フグがTTXを脳内に保有する生理学的意義について考察する.
著者
福島 知己
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

『レヴォルト・ロジック』は、1975年から81年までパリ第8大学のジャック・ランシエールとジャン・ボレーユを中心に形成された研究グループが刊行していた、労働運動史などに関する研究誌である。本研究ではグループに参加していた何人かの研究者へのインタビューを通じて、研究グループがもっていた非権威主義的な性格や共同研究者たちが共通して抱いていた越境への意志のようなものが、この共同研究を嚮導していたことを理解した。あわせて『プロレタリアの夜』や『歴史の名前』などランシエールが『レヴォルト・ロジック』の前後に構想した著作の分析をおこない、両者が一貫した関心のもとで執筆されていたことを明らかにした。
著者
伊籐 央奈
出版者
田村市立滝根中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

糖尿病の発症には、糖質のみならず、脂質など様々な栄養素の摂取量やその代謝が影響している。我が国の糖尿病患者増加の背景として、必ずしも"飽食"のみが原因ではないと考える。近年、糖尿病患者にナイアシン(ニコチン酸及びニコチンアミド)を投与すると、ナイアシンの生体内代謝産物であるメチルニコチンアミドの血中濃度が上昇し、血中のH_2O_2レベルの上昇とともにインスリン抵抗性を引き起こすことが報告されている。一方、脂肪細胞によって作り出される、エネルギーの取り込みと消費の制御に重要な役割を果たすレプチンというペプチドホルモンがある。レプチンは食事後20~30分後に分泌され、脳に摂食抑制信号が送る役割を果たす。また、脂肪組織自体にも働きかけ、エネルギー代謝の増大の指示を出す。逆に、脂肪が増えるとレプチンも増え、レプチンが脳の容量に対して飽和状態に陥ることでレプチン抵抗性という状態を引き起こす。これが肥満原因の一つになるとも言われている。我々は、脂肪細胞にニコチンアミド(NA)を添加して培養を行い、レプチンの産生にどのような影響を及ぼすのか検討を行った。NAの濃度をそれぞれ変えて1週間および2週間培養を行い、細胞あたりのレプチン産生量を測定した。1週間培養を行った場合は、1mMの濃度まではレプチン産生が約3倍に増加した。2週間培養を行った場合は、0.1mM以上のNA濃度ではレプチン産生が約3分の1に低下していた。これらの実験結果より、NAは短期的には脂肪細胞のレプチン産生を増加させ、レプチン抵抗性を起こす可能性がある。長期的にはレプチンの産生を低下させ、肥満を引き起こす可能性が示された。ナイアシン投与で糖尿病患者にインスリン抵抗性を起こすという報告と今回の実験結果を考え合わせれば、糖尿病患者にナイアシンを投与する治療は慎重に検討されるべきである。
著者
竹田 修三 渡辺 和人 山本 郁男 山折 大
出版者
北陸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国において、大麻主成分のテトラヒドロカンナビノール(THC)はがん患者などでモルヒネが効かない重篤な痛み緩和の目的で投与される。本研究は、がん患者、特に乳がんに注目し、THCの臨床適正使用に向けた基礎研究である。THCは分子中に、女性ホルモンと類似した部分を有していた。女性ホルモンは乳がん増殖を促進したが、THCの共存下でその効果が消失した。低女性ホルモン条件下(閉経後乳がんモデル)でTHCを添加した場合、逆に増殖の促進が見られた。本研究により、THCは女性ホルモンと相互作用し、乳がん増殖に影響を与える可能性が示唆された。
著者
和佐野 喜久生 湯 陵崋 劉 軍 王 象坤 陳 文華 何 介均 蘇 哲 厳 文明 寺沢 薫 菅谷 文則 高倉 洋彰 白木原 和美 樋口 隆康 藤原 宏志 佐藤 洋一郎 森島 啓子 楊 陸建 湯 聖祥 湯 陵華 おろ 江石 中村 郁朗
出版者
佐賀大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本学術調査は農学及び考古学の異なる専門分野から、東アジアの栽培稲の起源に関する遺伝・育種学的研究および中国の古代稲作農耕文化の発祥・変遷・伝播についての中国での現地調査、考古遺物・文献・資料の収集とその研究解析、現地専門家との討論を行うことであった。これまでの3回の海外調査によって、多くの研究成果を得ることができた。研究代表者の和佐野がこれまでに行った古代稲に関する調査は、中国の長江のほぼ全流域、黄河の中下流域、山東半島、遼東半島および海南島の中国全土にわたるものとなった。また、調査・測定した古代稲の実時代は、新石器時代の紀元前5,000年から前漢時代までの約5,000年の長期間に及び、その遺跡数も18カ所になった。稲粒の粒大測定は、大量にあるものからは約100粒を任意抽出し、それ以下のものは全粒を接写写真撮影によって行った。また、中国古代稲の特性を比較・検討するために、韓国の2カ所および日本の14カ所の古代遺跡の炭化米の調査も並行して行った。以上の調査結果に基づいて、次のような結論を得ることができた。(1)紀元前5,000年ころの気温は現在より2度は高かったこと、および北緯30度周辺に位置する城背渓および彭頭山遺跡文化(紀元前6,000-7,000年)の陶器片および焼土中に多くの籾・籾殻・稲わらの混入が発見されたことから、紀元前6,000-7,000年頃には北緯30度付近に稲(野生か栽培されたものかは分からない)が多く生育していたと考えられる。彭頭山遺跡の籾粒は6ミリ前後のやや短粒であった。(2)古代稲粒の大きさ・形の変異の状況および稲作遺跡の時代的新旧の分布状態から、東アジアの稲作は、長江の下流域・杭州湾に面した河姆渡および羅家角両遺跡を中心とした江南地方に、紀元前5,000年以上溯る新石器時代に始まったと考えられる。(3)長江の中流域には、紀元前6,000-7,000年の城背渓および彭頭山遺跡から稲粒が発見されているが、稲作農耕の存在を証拠づけるものがまだ発見されていないこと、河姆渡および羅家角両遺跡と同時代の紀元前5,000年頃の稲作遺跡が存在しないこと、中流域に分布する多くの遺跡が紀元前3,000-4,000年のものであること、などから、稲作は下流域から伝播したものと考えられる。(4)長江の最上流域の雲南省の稲作遺跡は紀元前1,000-2,000年の新しいものであり、稲粒も粒が揃った極端な短円粒であること、さらには、雲南省の最古の稲作遺跡である白羊村遺跡の紀元前2,000年頃には、黄河流域からの民族移動の歴史があること、などから、稲作のアッサム・雲南起源説は考えられない。アッサム・雲南地域は、周辺地域から民族移動に伴って生じた稲品種の吹きだまり(遺伝変異の集積地)の可能性が強いことを提唱した。(5)黄河の中下流域の前漢時代の古代稲は、長大粒で日本の現在の栽培稲とは明らかに異なるものであったが、淮河流域の西周時代の焦荘遺跡の炭化米は、九州の弥生中期の筑後川流域のものによく類似した。(6)山東半島の楊家圏遺跡(紀元前2,300年)の焼土中の籾粒は日本の在来の稲品種によく類似したが、遼東半島の大嘴子遺跡の炭化米は短狭粒で、韓国の松菊里遺跡(紀元前500年)、あるいは日本の北部九州の古代稲粒のいずれとも異なるものであった。このことから、稲作が朝鮮半島の北から内陸を南下したとは考えられない。(7)山東半島の楊家圏遺跡、松菊里遺跡(紀元前500年)、および日本の北部九州最古の稲作遺跡・菜畑遺跡のやや小粒の古代稲粒は、浙江省呉興県の銭山漾遺跡の炭化米粒の中に類似するものがかなり見られた。このことは、日本への最初の稲作渡来が江南地方から中国大陸の黄海沿岸に沿って北上し、山東半島から韓国の西海岸を南下しながら北部九州に上陸した可能性を示すものである。森島、湯および王は、雲南省と海南島の野生稲の現地調査を行い、中国の野生稲の実態を明らかにした。佐藤は河姆渡遺跡の古代稲の電子顕微鏡写真撮影によって、同遺跡の稲が野生稲の特徴である芒の突起を有すること、さらに小穂の小枝梗の離層が発達していることを確認した。藤原と湯は、江蘇省青浦県の草鞋山遺跡(紀元前3,400年)周辺を発掘し、当時の水田遺構の確認および稲のプラントオパール分析を行い、当時の稲作の実態を明らかにした。樋口、白木原、高倉、菅谷および寺沢は、それぞれの専門から研究を行い、現在報告書の成作を完了した。厳、蘇、陳、何および劉は、新石器時代の稲作文化および古代民族移動に関する報告書を作成した。
著者
堀口 兵剛 中嶋 克行 姫野 誠一郎 松川 岳久 小松田 敦 千葉 百子
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

鉱山由来の秋田県のカドミウム(Cd)汚染地域において、集落単位の住民健康診断と、腎機能低下患者を対象とする医療機関におけるCd腎症スクリーニングを実施した。多くの集落において農家中心の地元住民は自家産米摂取により現在でも高い体内Cd蓄積量を示した。Cdによる腎尿細管機能への影響は全体的には明確ではなかったが、Cd腎症と考えられる高齢患者が認められた。スクリーニングによりイタイイタイ病(イ病)患者を疑う人も見つかった。以上より、秋田県のCd汚染地域では現在でもCd腎症やイ病の患者が潜在するため、今後も住民のCdによる健康影響についての経過観察を継続する必要があると考えられた。
著者
今村 信隆
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ミュージアム(特に美術館)における声という問題を扱う本研究では、博物館学はもとより、美学・美術史や美術批評史といった幅広い分野にまたがる資料にあたる必要がある。本年度は、そのなかでも議論の出発点になると考えられる一七世紀フランスの絵画論を中心に精読を行い、問題点の整理を試みた。その結果、次の二点が明らかになってきた。第一に、当時の代表的な絵画理論家であるロジェ・ド・ピールとアンドレ・フェリビアンの対話編のなかで、話者たちの声、話しぶり、会話における洗練度などが、議論の運びそのものにも影響を与えるような重要な要素になっているということである。このうち、ド・ピールについてはすでにある程度の指摘をしたことがあるが、フェリビアンについても同様の指摘が可能であることが判明した。第二に、しかしその一方で、王立絵画彫刻アカデミーにおいて口頭で行われていたはずの「会議」においては、話者の声色や話しぶりといった要素は削減され、あくまでも文書として刊行することが目指されていくというプロセスが、明らかになった。アカデミーにおいては、口頭でのやり取りのなかにあった多様な意見の存在が整理され、批判とそれに対する反証というかたちで、統一の見解がもたらされようとしているのである。このことは、制度としてのアカデミーにも大いに関わる問題であり、同時に、美術作品をみるという制度としても、以後の鑑賞経験の土台になっていく出来事であると考えられる。上記の二点の関係については、現在、まとまった論考を準備しているところである。また、本研究の終着点にあたると思われる20世紀の美術批評史についても、本年度はクレメント・グリーンバーグを中心に再整理を試みた。特に、比喩としての「詩」が議論される個所において、朗読や声が本質的でないものの例示として語られていることが見いだされ、今後の研究の指針が得られたところである。
著者
加藤 朗
出版者
桜美林大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

人造硝石作りの第一工程である硝酸塩の製造は堆肥作りと全く同じであり、世界中で硝酸塩の存在は長い農業の経験の中から培われた知識で皆が知っていたと思われる。第二工程である灰汁煮によって硝酸塩から硝酸カリウムを抽出するのは予想以上に難しいことが分かった。硝酸カリウムを精製するにはカリウムを含んだ大量の木灰が必要だということが明らかになった。人造硝石は農業と密接な関係があるとの結論を得た。
著者
石原 敦 中原 真也
出版者
埼玉工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ペットボトル、ポリエチレン、アルミニウム、鉄、ニクロム線の身近な材料と酸化剤として酸素を用いた教材用小型ハイブリッド・ロケットを開発した。本小型ハイブリッド・ロケットを用いて、埼玉県熊谷市の公立中学校の通常理科授業時間と愛媛県松山市で行われた理科おもしろ教室で、ロケットに関する連携授業を行った。本教材用ハイブリッド・ロケットを用いた中学校と大学との連携授業は、理科授業と理科おもしろ教室の授業目的を達成したばかりではなく、中学生徒の工学や理科への興味を喚起させるために極めて有効であった。
著者
堀田 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

シェーグレン症候群(SS)は乾燥症状を主症状とする自己免疫疾患であり、関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)など他の自己免疫疾患を合併することも多い。本研究ではSS患者よりゲノムDNAを抽出し、SLEなどの自己免疫疾患との遺伝的背景をおもに一塩基多型(SNP)解析を行い比較検討した。STAT-4、IRF-5などSLEで関連が認められた遺伝子多型はSSでも関連があることがわかり、自己免疫疾患共通の遺伝的背景の存在が示唆された。