著者
藤田 信子 仙波 恵美子 行岡 正雄 寒 重之 柴田 政彦 高井 範子 堀 竜次 池田 耕二 高橋 紀代
出版者
大阪行岡医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、線維筋痛症患者を対象とした短期集中型運動プログラムが、身体、認知、心理に与える影響を調査するとともに、脳内ネットワークの変化との関連性を検証することにある。平成31年3月までに合計13名の患者の運動療法、評価、計測を終了し、分析を行っている。2018年の第23回日本ペインリハビリテーション学会学術学会では、2演題を報告した。発表では高齢FM患者に対する短期集中型運動プログラムが疼痛、抑うつ、QOLの改善につながり、背外側前頭前野(DLPFC)の血流量の質的、量的な脳活動変化を伴ったこと、理学療法士が患者の不安傾向を踏まえ、運動内容を漸増的に行っていたことや規則正しい生活を守らせたことが運動療法の導入と継続につながったことを報告した。慢性痛改善に対する運動療法の効果(EIH)については、慢性痛患者の広範な脳領域の機能障害の発生機序と運動介入効果の機序を解明していくことが重要である。今年度、慢性痛における脳内ネットワークとEIHの機序について、第40回日本疼痛学会(仙波)、Nep Academy、17th World Congress on Pain(仙波)、第11回痛み研究会(仙波)で講演を行った。また、EIHに関する総説を大阪行岡医療大学紀要(仙波)、ペインクリニック(仙波)、Clinical Neuroscience(仙波)、日本臨床(藤田、仙波)、モダンフィジシャン(仙波)で執筆した。本研究のMRI画像の分析結果については、本研究の研究者間で情報共有のために研修会を開き、「線筋痛症に対する運動療法の効果のrs-fMRIによる検討」(寒)で運動プログラム介入前後の機能的結合について健康成人との比較、また患者の運動プログラム介入前後の比較でみられた頭頂葉や側頭葉の機能的結合の変化などが報告された。
著者
松永 秀典 福森 亮雄 多田 敬典 田中 惠子
出版者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター(臨床研究支援センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

統合失調症や双極性障害の病因は未解明であるが、最近、神経伝達物質であるNMDAの受容体に対する自己抗体が、精神症状を伴う脳炎の原因となっていることが判明した。さらにこの自己抗体は、一部の統合失調症や睡眠障害にも見いだされており、この抗体がどのような疾患にどの程度関与しているかを幅広く調べる必要がある。しかし、現行の測定法は培養細胞を用いるため手間と時間がかかり、多検体を調べるには不向きである。本研究では、感度・特異性の高いラジオリガンドアッセイを用いて、多検体同時に抗NMDA受容体抗体を測定する方法を開発し、本抗体の病的意義の解明を目指している。
著者
花井 一夫
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.黄体化ホルモン(LH)に対するモノクローナル抗体(Spac LH RIA kit)を用いた免疫学的測定法にて、血清LHが測定不能であった5例の患者より採血し、リンパ球を分離後、ゲノムDNAを抽出した。polymerase chain reaction(PCR)法で、このゲノムDNAよりLHbeta鎖DNAの各エクソンを増幅した。アガロース電気泳動法により増幅された各エクソンの大きさを正常LH遺伝子と比較したが、明かな遺伝子の欠損は認められなかった。2.TA-cloning kitを用い、増幅されたLH-beta鎖のDNAをクローニングした。各クローンDNAに塩基配列をシークエンシングしたところ、トリプシン^8(TGG)がアルギニン(CGG)に、またイソロイシン^<15>(ATC)がセレオニン(ACC)に変異していることが明かとなった。3.これらの変異により、制限酵素の切断部位が変化することが明かとなったので、患者家族のゲノムDNAも同様に処理し、restriction-fragment-length polymorphism法により遺伝子異常の有無を調査した。その結果、患者家族内にheterozygoteの存在が明かとなり、遺伝的経路も解明された。さらに、免疫学的測定法により、heterozygoteはその血清LHの測定値が正常者の約半分であることが観察された。4.この変異LHの生物学的活性を、マウス精巣細胞を用いたin vitroにおけるテストステロン産生能により測定したが、正常LHとの間に差異は認められなかった。
著者
小西 昭
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

運動ニューロンの変性機序を解明するために、その変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)で選択的に病変を免れるオヌフ核の入力線維の特異性を標識法により検索した。1.ネコの脳室内にコルヒチンを投与後、灌流固定し、脊髄の切片を作製して各種神経ペプチドに対する免疫活性をABC法で調べた2.下部腰髄と上部仙髄前角では、オヌフ核に、エンケファリン(ENK)陽性終末の密な分布を認めた。ENK陽性ニューロンは、後角とオヌフ核レベルの中心管周辺領域(第十層)に存在した。3.電顕でオヌフ核内のENK陽性終末を観察した結果、1)、多形性シナプス小胞を含み樹状突起と対称性シナプス結合をする終末70-80%、2)、球形シナプス小胞を含み樹状突起と非対称性シナプス結合する終末20-30%、3)、扁平シナプス小胞を含む終末0%、4)、クレストシナプスを形成する終末は約1%であった。4.オヌフ核へのENK陽性終末の起始ニューロンを同定するために、上部腰髄または下部仙髄の半切、後角の破壞実験を行ないENK免疫反応を調べたが、オヌフ核のENK陽性終末は減少しなかった。5.第十層にWGA-HRPを注入し、順行性に標識された終末の仙髄前角での分布を調べると、ENK陽性終末の分布と酷似していた。上記の実験結果から、オヌフ核への主要な入力線維終末はENK免疫活性を有し、その起始ニューロンは主に第十層に存在することが判明した。第十層には陰部神経に含まれる求心性終末が終止しており、第十層のENK陽性ニューロンはオヌフ核ニューロンを密に支配する。このような脊髄内神経回路は腰・仙髄の他の運動神経核では見られなかった。したがって、オヌフ核へのENK陽性脊髄内入力線維の存在が、ALSで他の運動核の変性にもかかわらず、オヌフ核が選択的に保存される機構の一因をなす可能性が高い。
著者
大知 正直
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究ではSNSデータを用いた早期の社会課題検出のための人工知能を開発する.現状では社会課題は社会全体の大きな問題となってから認識され,解決に膨大な資源を費やし持続的成長を大きく阻害している.本研究ではSNSのデータにネットワーク分析や機械学習の技術を用い,特定の集団では課題となっているが,社会全体では認識されていないような社会課題の芽を明らかにする.そして社会課題を早期に発見し,解決のための研究,施策の検討を開始することを可能にする.本研究の成果によって社会の持続的発展を促進できるだろう.
著者
仁平 政人
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、1920年代の日本のモダニズム文学における「東洋」や「伝統」に関する言説について、他の芸術や学問領域との関係を視野に入れて調査・分析を行った。モダニズムを「都市文化」や「西洋近代への志向」と結びつける通説に反して、日本のモダニズム文学においては、「東洋」や「伝統」を価値化する言説が数多く存在する。この研究では、文芸雑誌や同人誌などの幅広い調査を通して、こうした言説の実態を把握し、個々の事例について、その論理と同時代的な意義を検討した。
著者
渋谷 和子 岩間 厚志
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

最近の研究により関節リウマチにおいて、Th1細胞とTh2細胞の不均衡が病態に密接に関与していることが明らかになってきた。Th1細胞とTh2細胞はともに同一のCD4陽性ナイーブT細胞から分化するため、Th1/Th2分化メカニズムの解明とその人為的制御法の検討は、関節リウマチの新しい治療法開発への基礎となる。CD4陽性ナイーブT細胞からTh1もしくはTh2細胞への分化の開始には、CD4陽性ナイーブT細胞が抗原提示細胞から抗原刺激を受けることが必須である。私達は、この時ナイーブT細胞と抗原提示細胞が接着することに着目し、ナイーブT細胞上に発現する接着分子からのシグナルとTh1/Th2分化との関係について検討した。その結果、私達はナイーブT細胞上に発現する接着分子LFA-1からの刺激によってTh1細胞が分化誘導されることを見いだした。これは、IL-12非依存性の新しいTh1分化誘導経路であった。以前に、私達はCD226分子がT細胞上のLFA-1と複合体を形成すること、LFA-1からの刺激でCD226の細胞内チロシンがリン酸化することを報告した。そこで、今回私達は野生型および細胞内チロシンをフェニルアラニンに置換した変異型CD226をレンチウイルスベクターにてナイーブT細胞に遺伝子導入し、LFA-1によるTh1分化誘導を検討した。その結果、変異型CD226を導入したナイーブT細胞では、LFA-1シグナルによるTh1分化誘導が著しく抑制された。このことより、LFA-1によるIL-12非依存性の新しいTh1分化誘導シグナル経路にCD226が重要な役割を担っていることが明らかになった。これらの結果をふまえて今後は、LFA-1/CD226複合体シグナルと生体内Th1/Th2バランス、関節リウマチ病態の関係を、疾患モデルマウスを用いて個体レベルで検討していく方針である。
著者
馬ノ段 梨乃
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者の増加に伴い、近年、労働者のストレス対策の必要性が高まっている。本研究では、労働者を対象とした個人向けストレス対策プログラムを開発し、プログラム実施の効果を検討することを目的とした。本年度は、研究成果の発表を中心に以下の2点を実施した。(1)個人向けストレス対策に関するシステマティックレビューの結果(60研究、昨年度実施)に最新研究(5研究)を追加して、データを再検討した。(2)ストレス対処法に関するweb学習プログラムの効果に関して、マルチレベル分析によるデータの再解析を行った。(1)システマティックレビューの結果から、ストレスマネジメント教育が労働者のストレス対策に有効であること、介入効果を維持するためにはフォローアップセッションなどの継続した学習が必要であること等が概観された。また、効果評価研究におけるデータの再解析の結果から(2)ストレス対処法に関するweb学習プログラムの実施により、受講者のストレス対処法に関する知識の改善が認められた。さらに、複数回(3回以上)に分けて学習した分散学習者においては知識の改善に加えてストレス対処法(問題解決)に関する得点に有意な改善が認められた。このことから、学習を複数回に分けて実施することの有用性が確認された。受講者の動機づけを高める工夫と継続した学習を促進するための方法論の検討が今後必要とされる。
著者
栗田 敬 市原 美恵 熊谷 一郎 久利 美和
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

・実験課題の整備:従来の課題の整備以外に、Dancing Raisin、Rootless Eruption実験、火炎実験、降伏応力流体の落球実験、ペットボトル噴火実験などの新しい実験課題を整備した.その幾つかは授業、研究会、一般公開の場で利用された.また実験内容は地球惑星科学連合大会、European Geosciecne Union年会、日本火山学会などで発表されるとともに、Web上に公開されている(http://kitchenearth.sblo.jp/ ).小冊子「キッチン地球科学 レシピー集」を作成し、配布するとともに上記Web上に公開した.・キッチン地球科学研究集会の開催:2019年9月1日、2日に東京大学地震研究所にて40名余の参加者を得て開催された.・大学、高校における実験講義の試行:東京大学教養課程・惑星地球科学実習、明星大学理工学部・プロジェクト研究実験「身の回りのものを使った考える流体実験」、都立八王子東高校・化学部特別実験、聖星高校・科学部実験講義などの機会を利用して学生の実験を指導した.実験の題材は味噌汁対流実験、綿飴実験、ベッコウ飴クラック、ペットボトル噴火実験などである.学生の興味を引き出す手法として不確定要素を含む実験課題が有効であることを確認出来た.・キッチン地球科学の広報活動:はまぎん子供宇宙館、東京大学地震研究所一般公開、次世代火山研究者育成プログラム、地球惑星科学連合大会における「キッチン地球科学」セッション、ホイスコーレ札幌生涯学習セミナーなどの場を借りて教育における実験の役割、その具体的な利用法の宣伝活動を行った.
著者
河本 真理
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、服飾デザインにおけるコラージュに着目し、①日本のパッチワークの着物(金銀襴緞子等縫合胴服[上杉神社蔵]、糞掃衣、百徳着物)、②東アジアのパッチワーク(中国敦煌の袈裟[大英博物館蔵]、韓国のチョガッポ)、③西洋のコラージュ(ソニア・ドローネーの《ベッドカバー》やローブ・シミュルタネ、ミリアム・シャピロの《キモノの解剖学》、アンリ・マティスの上祭服)を比較することによって、これらの共通点と差異、さらに日本の「継ぎ」の特性を明らかにするとともに、コラージュや服飾(手工芸)に内包されるジェンダーの構造について考察した。
著者
米原 謙 赤澤 史朗 出原 政雄 金 鳳珍 區 建英 松田 宏一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、近代日本のナショナル・アイデンティティの歴史的形成と変容を、中国や韓国と関連づけて、政治思想史の観点から明らかにしようとしたものである。この三国は、ともに「欧米の衝撃」によって国民国家形成の課題に直面したが、日本だけがいち早く欧米の政治文化を受容し、1890年には立憲政度を導入した。植民地となった韓国や、侵略と内戦によって国家統一に時間を要した中国に比べると、日本は順調に国民国家形成に成功したといえる。しかし日本の立憲主義は、「国体論」という一種の「市民宗教」(ルソー)とセットだったので、1930年代に国体論による立憲主義への逆襲が起こった。つまり政治思想や政策過程の内面まで立ち入ると、近代日本の政治は常に興亜論(アジア主義)-脱亜論、伝統-近代の間を動揺したことがわかる。こうした分裂の構造を、一方ではナショナル・アイデンティティという分析ツールを使うことで、他方では中国や韓国との構造的連関によって明らかにするのが、本共同研究の目的意識である。C・テイラーによれば、アイデンティティの形成は常に「重要な他者」を媒介にしている。近代日本にとって「重要な他者」はまず欧米だったが、中国や韓国は、日本にとって近代化のための反面教師であるとともに、ナショナル・アイデンティティの根拠となる「重要な他者」でもあった。本共同研究の参加者は、国体論・アジア主義・国粋主義・ナショナリズムなどを切り口にして、こうした問題にアプローチした。
著者
金澤 文子 半田 康 宮下 ちひろ
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

難分解性の有機塩素系(POC)農薬は内分泌撹乱作用を持つと懸念されている。POC農薬の胎児期曝露が次世代の小児アレルギーリスクに与える影響を明らかにするため、2002年から2005年の期間、札幌市の一産院で妊婦514名をリクルートし、POC農薬の母体血中濃度を320名で測定した。交絡要因を調整したロジスティック回帰分析で、母体血中POC農薬と18か月の小児アレルギー発症のリスクに有意な関連は認められなかった。曝露レベルが低いため、生後の小児アレルギーに与える影響が低い可能性が示された。免疫機能が発達し、アレルギー症状の診断が明確になる学童期まで追跡調査する必要があると考えられた。
著者
石川 真志 八田 博志 笠野 英行 小笠原 永久 山田 浩之 宇都宮 真
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は赤外線サーモグラフィを用いた大型の構造物の効率的な非破壊検査手法の開発を目標として検討を行った。実験の結果、アクティブサーモグラフィ検査時の加熱方法としてレーザー走査加熱を利用することで、10 m遠方に位置する対象物であっても内部の欠陥検出が可能であることが確認された。また、温度データへのフーリエ変換により得られる位相画像を利用することで、欠陥検出が容易となること、および高周波数の位相画像に注目して検査を行うことで検査時間の短縮が可能であることも確認された。これらの技術を組み合わせることで、高効率かつ高精度な検査の実現が期待される。
著者
興野 純 一柳 光平
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

太陽系の初期段階では,小天体同士の衝突集積現象が多く生じていたことが知られており,惑星進化を理解するには衝突による高温高圧下における諸性質が重要となる.本課題では,衝撃圧縮下での構造変化過程をその場観察し,衝撃高温高圧下での物質の変化を結晶構造レベルで解明していくことを目指している.本課題では高強度レーザーによって発生させた衝撃圧縮下での構造変化ダイナミクスを観察する実験を進めているが,該当年度は共同研究者と協力して高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PF-ARの衝撃波発生用レーザーの改善を大きく進めた.レーザーの空間プロファイルは発生する衝撃波の空間プロファイルに直接影響するため本実験を行なう上で大変重要となる.該当年度以前はレーザープロファイルが良くなく,衝撃波が分布をもってしまっていた.そのため,構造変化を平均して観察してしまう本手法では,単一現象として解析することが困難であり,衝撃下でのダイナミクスを時間軸に沿って理解することが出来なかった.しかし,上述のレーザーの空間プロファイル改善により,衝撃圧縮から解放まで連続的に現象を追いかけて観察することが出来るようになった.本レーザーを用いて衝撃下時間分解X線回折測定をアルミニウム,ジルコニアセラミックス試料に対して行なった.アルミニウム試料に対する実験からは,結晶格子面の圧縮率の変化,二次元X線回折像の同心円方向への回折強度分布の変化から見積もられる結晶方向の観察を行ない,衝撃下での多結晶体の応答例のデータを得た.ジルコニア試料に対する実験からは破壊過程におけるX線回折測定結果を得ることができ,これまで直接観察されることなく議論されてきた正方晶安定化ジルコニアの変態強化機構を初めて直接観察することに成功した.これらのデータを一つ一つの得ることで,衝撃下での構造ダイナミクスの理解を深められつつある.
著者
海老原 清 岸田 太郎
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

レジスタントスターチ・タイプ4(RS4)とは加工デンプンのことであり、各種の加工食品に利用されている。本研究では、RS4の消化性、発酵性、血糖およびインスリン応答、糖尿病発症抑制効果、消化管免疫に対する影響ついて検討した。その結果、置換基の付加により、1) RS4の消化性は低下し、発酵性血糖値およびインスリン分泌応答は改善され、その効果は置換基の種類および置換度によって影響された、2) RS4は2型糖尿病モデルマウスにおいて発症を抑制した、3) RS4はIgAの分泌を促進したことなどを明らかになった。本研究からRS4は糖代謝、消化管免疫機能に影響を与えるとともに、低エネルギー食品の開発に有用な素材であることも明確になった。
著者
宮田 幹夫 奥 英弘 福島 一哉 堀内 浩史 難波 龍人
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

スギ花粉症の増加が近年種々話題になってきている。今回実験スギ花粉症におよぼす生活環境因子の検討を試みた。その結果身近な環境汚染物質りある、有機燐殺虫剤、有機燐除草剤、トリハロメタン、パラジクロロベンゼン、タバコ煙、食品色素としてタートラジン、および赤色3号、食品酸化防止剤などがスギ花粉によるモルモットのアレルギー性結膜炎を増悪させることが判明した。しかもそれらの増悪を引き起こす濃度はppmまたはppbレベルという極めて微量な濃度であった。むしろ高濃度ではその増悪作用はやや弱い傾向があった。これらの結果は従来の古典的な中毒学の細胞の変性、死を目標とする濃度とはまったく異なり、免疫系への毒性は極めて低濃度でその毒性が発揮されているのが分かる。いまだそれらの混合負荷、すなわちtotal body burdenに関する実験は行っていないが、今後の研究課題も残ったままである。なお実験経過中に化学的環境のみでなく、物理学的環境にも眼を向ける必要性があるかと思われ、VDT作業で問題となるCRT画面曝露の影響を観察したが、機械的は角膜上皮障害のみでなく、CRT曝露によるアレルギー性結膜炎の著しい増悪作用が認められた。CRT画面からは低周波の電磁波が放射されており、各波長による電磁波の影響が今後の研究課題としてのこった。近年の花粉症の増加の原因をスギ花粉の増加に求めようとするのは余りにも非科学的な発想であり、むしろ生活環境の変化に求めるべきである、今回の実験から免疫系に及ぼす環境因子の重要性を明らかになし得た。
著者
松本 直子 桑原 牧子 工藤 雄一郎 佐藤 悦夫 石村 智 中園 聡 上野 祥史 松本 雄一
出版者
岡山大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

ヒトが生み出す物質文化には、身体機能の拡張を果たす技術と、感性や価値観にうったえてヒトの心を動かす芸術という二つの側面がある。本計画研究では、「アート」として包括されるその両面が身体を介して統合される様相に焦点を当て、日本列島、メソアメリカ、アンデス、オセアニアにおけるアートの生成と変容の特性を比較検討する。アート(技術・芸術)によるヒトの人工化/環境のヒト化という現象を、考古学的・人類学的・心理学的に分析することにより、社会固有のリアリティ(行動の基準となる主観的事実)が形成される歴史的プロセスを解明し、新たな人間観・文化観を提示することを目的とする。
著者
阿部 小涼
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、昨年度の継続として、ニューヨークにおけるコミュニティ活動に従事したプエルトリカンと、アフリカ系アメリカ人との交流・交渉から生まれるアイデンティティ構築と政治活動について分析を行った。なかでも、社会活動家であり、ジャーナリスト、詩人という多面性を持つヘスス・コロンという人物に焦点を当て、その作品を通して、1930年代以降のニューヨークというコンテクストに置かれたプエルトリカンの、人種意識と政治への関与を考察した。その際には、同時代を生き、ハーレム・ルネサンスの高揚を支えた人物としてアフリカ系アメリカ人研究では著名なA・ショーンバーグが、黒人としての人種意識に基づいて活動したことが、対照的な存在として言及されるが、それによって、ヘスス・コロンが人種問題よりも社会主義を重要視して活動したという一般的な理解では充分ではない、プエルトリカン固有の人種意識の困難さを明かにした。差別に曝されたアメリカ社会において、自らの白人性に執着したとみなされがちなプエルトリカン移民は、その政治的実践においてはむしろ黒人性への覚醒、アイデンティティ構築というコンテクストに照らすことで、その思想的状況をより豊かに析出可能となるのである。さらに、1960年代の公民権運動のなかで登場するコミュニティ自助組織「ヤング・ローズ」の、社会運動への影響力も重要であった。ブラックパンサー党への敬意から誕生したこの組織は、コミュニティにおける生活の問題を、アイデンティティの政治という表現を用いて主張してきた人々であった。その主張内容は、人種意識の特徴、人種の多様性についての認識を踏まえた、新しい社会運動への萌芽として重要であり、今後の研究の方向に指針を得ることが出来た。最終年度となる今年度は、これまでの3年間の研究をまとめる作業を行い、国際学会その他でのプレゼンテーションを実施したほか、雑誌論文として発表した。また、成果の一部は、出版準備中の本のなかの1章として、現在編集中の段階である。
著者
土田 孝之 武田 正之 宮本 達也 小林 英樹 中込 宙史 芳山 充晴
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

間質性膀胱炎に対して、ブシ末(トリカブト)中心とした漢方を処方した。3年間継続治療をして、副作用なく効果は持続している。低侵襲性で患者への貢献度は高い。また、ボツリヌス毒素の膀胱筋層内注入療法は10回以上繰り返しても、副作用、効果の減弱は認めない。また膀胱上皮細胞の伸展刺激におけるATP放出の分子メカニズムを、細胞内小胞へのATPの蓄積ならびに開口放出の視点から捉え、ボツリヌス毒素はこのATP放出を抑制する。膀胱痛症候群(PBS)の動物モデルにおいて、脊髄神経膠星状細胞(アストロサイト)の顕著な活性化が示された。マウスの実験でアストロサイトの活性化を漢方のブシによって抑制することが可能。
著者
藤澤 敦
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

日本の律令国家とは相対的に独自の文化を維持した、古代の東北北部と北海道の社会を究明する-手法として、武器と馬具を対象に、その生産と流通という観点から検討した。なかでも出土例が多い、武器では刀類と鉄鏃、馬具では轡を主要な検討対象として検討した。金属製品の検討にあたっては、残存有機質部分を含めた詳細な実物観察が必要であり、昨年度に引き続き、北海道を中心に資料調査を行った。北海道のオホーツク海沿岸地域の、オホーツク文化に伴う蕨手刀には、鍔の平面形が隅丸長方形を呈するもので占められていることが判明した。このような鍔の形態は、他に例のないものであり、日本列島の他の地域から出土した蕨手刀とは、異なった系譜を引くものである可能性も考えられる。今後、大陸の刀剣類の諸例を含めた、広範囲での比較検討が必要である。馬具では、北海道出土の例が、一部の部材だけが取り外された形で出土しており、馬具本来の用途を失っている。装飾品などに転用された結果と考えられた。この点で、東北北部と北海道では、古代における馬具の受容、馬利用のあり方に相違が認められる。これらの2ケ年間の検討を通じて、東北北部と、オホーツク文化以外の北海道出土の古代武器・馬具は、基本的に律令国家のもとで製作されたものが移入されたものと考えられた。特に、律令国家における北方との窓口となった、陸奥国の領域内で製作されたものが、多数を占めると予測された。ただし、オホーツク文化では、他地域とは異なるルートで、武器類を移入していたことが推定できる。