著者
平石 界 池田 功毅 中西 大輔 横田 晋大
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017年度は、「評価的条件付けによる風評被害の導出」実験、「確率見積りバイアスの検討」実験を進めつつ、本研究プロジェクトの基盤となった前プロジェクトによって収集したWeb調査データに継続させる形で本プロジェクトで収集したWeb調査データを合わせた分析を行った。「評価的条件付けによる風評被害の導出」実験については、分担研究者の池田(学振/中京大学)のもと、ネガティブな評価条件づけと脳波測定を組み合わせた実験のセッティングを進めた。「確率見積りバイアスの検討」実験について、前年度に作成した実験プログラムを用いて、クラウドソーシングを用いて一般サンプルからのデータ収集の予備実験を行った。大学生を対象とした実験室実験の場合と異なり、クラウドソーシングならではの問題点が浮かび上がる一方、より優れた実験デザインでの実施が可能となることが示されたため、実験プログラムのアップデートを進めた。2013年度より継続して、福島第一原発事故に関連して、放射能リスク認知にかんするWeb調査を行ってきた。2014年3月以来、2017年2月まで。放射能を含む様々な種類のリスク認知にかんして、同一サンプルからの、福島第一原発事故の3年後、4年後、6年後の継続データを取得してきたが、6年を経てもなお放射能へのリスク認知にほとんど変化は生じていないことが示された(池田・平石・中西・横田, 2017)。この知見の頑健さを確認するために、異なるサンプルに対して同一項目のWeb調査を2018年3月に実施した。一方、放射能リスク認知への科学リテラシーの影響については、3度のWeb調査を経て、一貫してリテラシーの高さが偏ったリスク認知を低減させないという結果が得られている(中西・横田・井川, 2017)。本知見については論文を投稿中である。
著者
前田 陽一郎
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

向精神薬誘発性と考えられる鼻閉について(目的)日常診療において、鼻閉を愁訴として来院する患者さんの中に向精神薬を長期にわたり使用し、鼻閉コントロールが困難となる症例に対し、多面的な検討を行った。(方法)向精神薬を長期にわたって使用している症例につき、その前鼻鏡所見、5000倍ノルアドレナリン経鼻投与前後における鼻腔通気性の変化、CT所見、採取した鼻粘膜の病理所見およびその粘膜収縮力の評価を行った。なお、鼻腔通気性の変化はacoustic rhinometryにより測定し、粘膜収縮力の評価はin vitro bioassay法を使用し、肥厚性鼻炎症例の鼻粘膜(通常のヒト鼻粘膜)と比較した。(結果)前鼻鏡では著しい粘膜肥厚を認めた。ノルアドレナリン投与前および5分後のacoustic rhinometry所見では、C-notchの断面積や鼻腔容積に影響をほとんど与えなかった。また、CT所見では著しい下鼻甲介の腫脹を認めた。採取した鼻粘膜の病理所見では腺組織周囲に細胞浸潤を認め、粘膜固有層は著しく増生した線維化組織および浮腫を認めた。粘膜収縮力は手術的に切除された標本にノルアドレナリンを投与してそのdose-response curveを比較検討したが、向精神薬使用症例は肥厚性鼻炎症例に比較して収縮閾値の上昇と最大収縮力が低下していた。(考察)クロルプロマジンを代表とするフェノチアジン系抗精神薬は強いα1受容体遮断作用を有しており、この薬理作用がヒト鼻粘膜の収縮作用低下をおこす引き金になったと推察される。また、鼻粘膜に線維化を引き起こした症例などでは通常の鼻粘膜浮腫を改善する薬剤の効果は期待できないため、手術治療のよい適応になると考えた。
著者
黒田 基樹 清水 亮 杉山 一弥 石橋 一展 木下 聡 植田 慎平 花岡 康隆 谷口 雄太 中根 正人 石渡 洋平 駒見 敬祐
出版者
駿河台大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

関東および隣接地域に関する応永元年(1394)から享徳3年(1454)の間における文書・銘文史料の集成をすすめ、4000点を蒐集した。また鎌倉府に関する基礎的研究、鎌倉公方・関東管領・各国守護など鎌倉府関係者の発給文書の体系分析をすすめた。前者については、「関東足利氏の歴史」シリーズとして、初代足利基氏から4代足利持氏の各代ごとに、『足利基氏とその時代』などの著作を成果として刊行した。
著者
KLAUTAU Orion
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

本研究では、歴史叙述思想を含む仏教者の自他認識が、国民国家の成立期において如何に変容していったのかを検討した。すなわち近世後期から敗戦後の時期に至るまでの仏教者の国家論・道徳論・歴史論を考察し、その作業を通して「日本仏教」なる概念の本質化の総合的記述に取り組んだ。具体的には、①1853年以降の僧侶による仏教観の変遷、②明治20年代における仏教者の道徳論、③同30年代の仏教者の教育事業と修養論、③大正・昭和期の仏教史叙述とナショナリズム、④敗戦後の「日本仏教」言説の変容、といった四課題に対して学術成果を示し、近代国家における言説装置としての「日本仏教」の役割への更なる理解に貢献した。
著者
塚田 三香子
出版者
秋田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

我々は長期間食餌を制限したマウスにおいては、体温の日周変動が見られるようになり、夜間から明け方にかけて体温が37℃から室温(23℃)付近にまで下降し、次の夕方までに再び37℃付近に上昇するという、いわゆる日周性仮性冬眠(daily forpor)状態にあることを見出した。これは十分にカロリーを与えられているマウスには決して見られない事象であり、エネルギー制限という環境下で自発的に獲得された適応形質であると考えられる。この適応形態を考える上で、初めに注目されるのは、低体温における膜電位の脱分極化による細胞内へのCa^<2+>流入の毒性制御の問題である。この機序を考える一端として我々はエネルギー制限マウスと非制限マウスにおける数種の臓器中におけるCa^<2+>-ATPaseの活性を測定し、次の知見を得た。実験にはコントロールマウスとして95kcal/週、エネルギー制限マウスとして48kcal/週の食餌を与えているマウスを用いた。脳・唾液腺でのCa^<2+>-ATPase活性はコントロールマウスに比し有意に低い。一方、肝臓、脾臓、腎臓におけるCa^<2+>-ATPase活性はコントロールマウス、エネルギー制限マウス間で有意差はなかった。このことから低体温下での細胞内Ca^<2+>濃度ホスメスタシス維持のために、Ca^<2+>-ATPase活性の上昇という機序は採用されていないということが明らかにされ、Ca^<2+>の膜透過性の変化、細胞内器官へのCa^<2+>蓄積の変化に今後、着目すべきことが示唆された。
著者
有田 隆也 鈴木 麗璽
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は,協力が創発するメカニズムが生物進化・文化進化するダイナミクスを解明し,応用することを目的とした.まず,進化シミュレーションにより直接互恵と間接互恵が協働的に動作して裏切りの侵入を防ぐことが示された.次に,マルチプレイヤー型オンラインゲーム型実験環境により,ゲーム内挙動と心的特性の関係を明らかにした.また,大規模ソーシャルゲームの行動データを統計分析し,コストが大きいコミュニケーションが協力行動につながる可能性を示した.さらに,間接互恵に基づく協力行動を二重化ゲーミフィケーションによって促進するプラットフォーム概念を提唱,実装し,被験者実験によりその効果を確認した.
著者
湧川 基史
出版者
帝京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近年,いくつかのケモカインレセプターがTh1,Th2の指標になることが明らかとなり,アトピー性皮膚炎(AD)の病態にも密接に関わっていると考えられるが,ADにおいての発現と病態との関係については不明であった.筆者らは,AD末梢血CD4T細胞上におけるこれらのケモカインレセプターの発現がTh1,Th2を反映するのか,さらにADの病態,重症度や検査値異常を反映しうるか,また,ADの活性化の指標とされるCD25や皮膚へのhoming moleculeであるcutaneous lymphocyte associated antigen(CLA)などを発現しうるか否かを検討した.さらに,病変部浸潤細胞におけるこれらレセプターの発現についても検討した.結果1.CCR4陽性細胞は,ほとんどがIL-4のみ産生するいわゆるTh2細胞と,IL-4,IFN-γの両者を産生するTh0細胞である一方,IFN-γのみ産生するTh1細胞は1%以下であり,Th2優位のサイトカイン産生パターンを示した.CXCR3産生細胞は,Th1細胞が約7割を占め,逆にTh2細胞は1%以下であった.つまり,CCR4の発現はTh2細胞の数を反映し,CXCR3の発現はTh1細胞の数をほぼ反映していた.2.CD4T細胞中のCCR4の発現率はAD群は20%を超え,健常人群の約4倍と高値を示した.CXCR3の発現率は健常人群とAD群で差はなかった.3.CCR4発現率は重症群で特に高く,重症群と中等症群において,健常人群よりも有意に高い発現率を示した.CXCR3陽性率は各群とも健常人群との相関が得られなかった.CCR4陽性率は末梢好酸球数と相関する傾向を示した.血清IgE値はCXCR3陽性率と有意な逆相関を認めたが,CCR4陽性率とは相関しなかった.4.CCR4陽性率は治療により低下する傾向を認め,CXCR3陽性率は逆にやや上昇を示した.5.CCR4陽性CD4細胞は,CCR4陰性細胞に比べ,有意にCD25,CLAの発現率が高かった.6.急性病変部の真皮血管周囲のCD4T細胞の多くがCCR4を同時に発現していた.AD患者末梢血中ではCCR4陽性細胞が増加し,ADの病態に関与していることが示された.CD4T細胞におけるCCR4,CXCR3発現はTh1,Th2バランスの指標になり,ADの重症度の指標にもなりうることが示唆された.
著者
井手 聡一郎
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、痛みによる情動変化に対する側坐核内領域特異的ドパミン神経情報伝達の生理的役割を明らかにすることを目的とした検討を行った。痛み刺激負荷後の側坐核内ドパミン遊離は、側坐核Shell吻側領域で引き起こされ、痛み刺激負荷により当該領域の神経細胞が活性化することが確認された。また、条件付け場所嫌悪性試験法を用いた解析により、ドパミントランスポーター欠損マウスにおいては、痛みによる負情動生起が阻害されていることを見出した。さらに、抑うつ状態を併発していると考えられる慢性疼痛モデル動物においては、報酬刺激によるドパミン遊離亢進が抑制されていることを明らかとした。
著者
渡辺 浩司 伊達 立晶 田之頭 一知 森谷 宇一 戸高 和弘 菊池 あずさ 石黒 義昭 萩原 康一郎 吉田 俊一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

キケロ、クインティリアヌスといった古代ローマの弁論家は、弁論術の学的な根拠を追求するわけではなく、学的な根拠は古代ギリシアのアリストテレスによって作られた弁論術を継承している。18世紀になると弁論術の学的な根拠はバウムガルテンによって書きかえられた。現代におけるレトリック復興は、古代の弁論術を継承するものではなく、古代の弁論術への誤解と「認識がレトリカルだ」とする現代の考え方とによる。
著者
大場 修 村上 しほり 砂本 文彦 玉田 浩之 長田 城治 角 哲 原戸 喜代里
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

・昨年度から継続して今年度も米国国立公文書館にて、RG111(米陸軍通信隊記録)とRG80G(米海軍記録)の継続調査及び収集を行った上で、他のレコードグループにも対象を広げ、RG243(米戦略爆撃調査団記録)やRG342(米空軍記録)も閲覧し、資料概要を把握した。あわせて、これまで収集した写真資料をデータべース化する手法を検討した。米文書館では、同時に佐世保と横須賀を中心に旧日本海軍施設の写真を収集し,全国にわたる接収住宅並びに接収施設、航空写真のスキャン作業も進めた(以上、玉田・砂本・角が担当)。・2015年より米国国立公文書館にて3年間にわたり継続的に収集したRG111とRG80Gに関する写真データについて、各写真リストとして編集し印刷した(大場担当)。・日本各地における文献複写については、中国地方を中心とした関連資料の収集を進め(砂本担当)、北海道立文書館の『北海道新聞』から占領期関連記事を,札幌市立公文書館の『札幌市勢要覧』から接収土地・建物の接収と解除の年月を把握し(角担当)、外交文書や地方公文書等と米公文書から占領期の兵庫県下に置かれた神戸基地の範囲と推移を検討した(村上担当)。・さらに、昭和20年の請負金額上位10社の建設業会社史から,戦後,建設技術の占領軍関連工事の影響を整理した(角担当)。また、占領下日本で接収されたホテルを対象に、ホテル接収の形態とその動向を整理して接収ホテルの全体像を把握しつつ、日光地区を取り上げて詳細調査を実施し、古写真や行政文書等からホテルの利用実態と建物の特徴を考察した(長田担当)。・研究成果発表については、米国国立公文書館と国立国会図書館憲政資料室所蔵の米公文書を基に「占領下日本における部隊配備と占領軍家族住宅の様相」を『建築学会計画系論文集』に投稿し、採録された。
著者
松尾 洋介
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

茶葉の焙煎処理による茶葉ポリフェノール成分の化学変化の詳細を解明することを目的として、実際の茶葉の焙煎処理を模倣した、試験管内におけるモデル実験を行った。茶の主要アミノ酸のテアニンと、茶カテキンのエピガロカテキンガレートの混合物を加熱した結果、テアニンとエピガロカテキンガレートが縮合した6種の化合物が得られた。これらの生成物のうち、2種はp-キノン型構造を持つ赤色色素であった。本色素は茶葉の焙煎による色調の変化に大きく寄与していると考えられる。続いて、茶葉に含まれる遊離糖の一つであるグルコースとエピガロカテキンガレートの混合物を加熱処理したところ、エピガロカテキンガレートのA環6位または8位にグルコースが結合したものなどが生成した。さらに、EGCg、テアニン、グルコースの三種類を混合して加熱したところ、二種類を混合した場合とは生成物が大きく異なることが分かった。三種混合の場合、まずテアニンとグルコースとの間でアミノ・カルボニル反応が起こり1-エチル-5-ヒドロキシ-2-ピロリジノンが生成後、EGCgのA環8位(及び6位)と縮合して生成したと考えられた。
著者
棚瀬 康仁 吉元 千陽 重富 洋志 小林 浩
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

子宮内膜症性嚢胞と子宮内膜症関連卵巣癌において、CD44v9とDNA損傷マーカーである8-OHdGについて免疫染色を行った。卵巣癌を合併した子宮内膜症においてはCD44v9の発現は低下、8-OHdGは発現が上昇していた。また、8-OHdGとCD44v9の発現には負の相関を認めた。CD44v9と8-OHdGの発現の変化が、子宮内膜症の悪性転化と関連している可能性が示唆された。またCD44v9を発現している卵巣明細胞癌細胞株に、抗癌剤とシスチントランスポーター(xCT)阻害剤の併用実験を行ったところ、細胞増殖能は相対的に低下した。xCT阻害剤の併用は、抗癌剤感受性を高める可能性が示唆された。
著者
浦井 誠
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

田舎では地域住民によって公共施設周辺や道路の清掃活動が労働奉仕の形で行われ、住環境保全と地域環境の美化に寄与している。側溝には土砂、枯葉、一般ゴミが溜まりやすく、これらの除去は機能の維持、住環境保全の意味からも重要な作業であるが、高齢化社会となり、この清掃活動は重労働であり困難な場合が多い。そこで本研究では、住環境整備作業を行う上で、できるだけ少ない側溝蓋の着脱回数で軽作業化を図り、わずかの人数でいつでも側溝内の清掃除去作業ができる移動型の作業ロボットの開発を目指した。○研究実施内容(1)住環境整備作業を実施する現地調査・確認と写真による記録・側溝蓋の重さ、土砂やゴミの堆積状況、種類、量、除去に必要な労力を検討した。(2)側溝蓋取り外し器具のwebによる調査と設計・製作・軽量で扱い易く、安価で小型で簡単に準備・収納できることを基本に調査・考察し、押してやることで側溝内を移動できる蓋除去リフタを製作した。(3)清掃作業ロボットの仕様策定と設計・製作・重量は10kg以下、手動操縦により動き、移動速度は1~2km/hの目標で製作した。実機の重量は7kg、移動速度は1.3km/hとなり、ロボット本体上部にCCDカメラ、LEDライトを搭載し、作業者がモニタを通して確認でき、状況に応じた作業ができるようにした。○研究成果として以下のことが分かった。あわせて今後の課題も明らかとなった。・ロボットの防水と回収ゴミ・土砂をある程度溜められるようにしなければならないので、目標の10kg以下とすることは難しい。・人間が屈んで側溝内のロボットが回収したゴミ等を取り出さねばならず、また製作の蓋除去リフタも高齢者には負担が大きい。・側溝の底面だけでなく、側面も同時に清掃できるような機構にする。実用には程遠く、満足できるものではない。仕様から考え直して今後も継続して取り組んでいく予定である。
著者
石束 嘉和 碓井 章 石束 嘉和
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

月経時に出現する睡眠障害の詳細を調べた。平成8年度は主に実態調査を中心とした研究を行い、月経に関連して多くの女性が睡眠の変動を自覚していることが明らかになった。またその際に、月経に関連して、主に過眠症状が出現することが明らかになり、月経随伴睡眠障害は月経随伴「過眠」障害と言い得ることがわかった。平成9年度と10年度は、主にこの月経随伴「過眠」障害の対処法の検討を行った。この睡眠障害を呈するものは主に妊娠と関係する年齢層の女性であることから、催奇形性を懸念することが多い。そこで薬物療法以外の対処法の可能性について検討した。平成9年度は高照度光照射療法の有効性についての検討を行った。方法としては、日常的に月経時に眠気が増強する以外は問題のない成人女性を対象とし、高照度光を、就床前の2時間、あるいは起床後の1時間半に照射した。非月経時、月経時(光なし)、月経時(就床前の光)、月経時(起床後の光)の4つの時期で、諸検査の結果を比較した。測定したいずれの指標でも劇的な変化は見られなかったが、OSA睡眠調査票で途中覚醒を反映する因子が、非月経時に比較して月経(光なし)で悪化し、光照射で改善した。また、24時間中の睡眠時間が、非月経時に比較して月経(光なし)で延長し、光照射で非月経時のレベルに戻った。しかもその変化は夜間睡眠でではなく、昼間睡眠でのものだった。このようなことから、高照度光照射療法は、月経随伴睡眠障害の過眠症状に多少なりとも効果があると結論した。平成10年度は、同じく過眠症状に対する日中の仮眠の効果について検討した。方法は、先の高照度光と同様の被検者に、日中30分の仮眠をとらせた。非月経時、月経時(仮眠なし)、月経時(仮眠あり)の3つの時期で諸検査の結果を比較した。その結果、仮眠をとったあとの自覚的眠気尺度が仮眠をとらないときに比較して低下することがわかり、月経時の眠気に対しては積極的に仮眠をとることが推奨される。
著者
渡辺 和夫 矢野 眞吾 中川 昌子 山崎 幹夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

脳機能改善薬のリード化合物としてのβ-カルボリン類に注目して、薬品合成化学班は新規β-カルボリンの分子設計、天然物化学班は高次機能に作用する新たなる天然物の検索、薬理班は得られた化合物の薬効評価を行った。研究成果を次の3点にまとめた。(1)薬品合成化学班:光学活性β-カルボリン化合物の合成手段として、2種の合成法の開発に成功した。光学活性な1-フェネチル基、もしくは1-ナフチルエチル基を不斉補助基として有するトリプタミン誘導体を酸性条件下アルデヒドと反応させたところ、高収率かつ高いジアステレオ選択性にてPictet-Spengler反応が進行し光学活性1-置換-テトラヒドロ-β-カルボリンが得られた。さらに、キラルルイス酸存在下、N-ヒドロキシトリプタミンとアルデヒドから得られるニトロンを用いて世界初のエナンチオ選択的不斉Pictet-Spengler反応にも成功し、種々の光学活性1-置換-テトラヒドロ-β-カルボリンの合成を行った。(2)天然物化学班:菌類、生薬などの天然素材から、広範に向神経性成分を探索し、子嚢菌から痙攣性テトラヒドロ-β-カルボリン化合物、モノアミン酸化酵素阻害活性成分、免疫調節活性成分を、さらに、南米生薬、和漢薬、東南アジア伝承薬からマウス酢酸ライジング抑制活性β-カルボリン化合物、鎮痛活性成分、抗不安活性成分をそれぞれ単離し、分子構造と構造活性相関を解明した。(3)薬理班:タイ国民間薬Mitragynaspeciosaの作用解析を行い、その成分mitragynineがオピオイド受容体に作用して麻薬性を発現すること、さらに、類似構造を有する漢薬釣籐鈎成分hirustineがオピオイド受容体に拮抗的に作用することを見出した。脳-腸機能調節の研究において、グルタミン酸受容体、GABA受容体、オピオイド受容体に作用する薬物が胃液分泌に極めて強い作用を示すことを見出した。
著者
朝治 啓三 渡辺 節夫 加藤 玄 青谷 秀紀 西岡 健司 中村 敦子 轟木 広太郎 大谷 祥一 上田 耕造 横井川 雄介 花房 秀一 亀原 勝宏 小野 賢一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

従来の一国完結史観で捉えたイングランドやフランスの王国史を乗り越え、13世紀西欧世界の権力構造の中での、アンジュー帝国の果たした役割を検証した。イングランド在住諸侯は共同体を結成し、イングランド国王としてのプランタジネット家と共同で王国統治を担う体制を構築した。フランスでは現地領主や都市が相互に抗争して共同体を結成し得ず、カペー家の王は侯、伯と個別に封建契約を結んで自衛した。王家は北仏のごく一部しか直接統治しなかった。プランタジネット、カペー両家はフランス、ブリテン島の諸侯の帰属を取り付けるために競合した。中世の「帝国」を、諸侯や都市の核権力への帰属心をキーワードに説明し得ることを実証した。
著者
関山 牧子 村山 伸子 石田 裕美 野末 みほ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

インドネシアでは、教育省から学校給食の予算が捻出されることとなり、2016年から公立小学校において学童に対する給食提供を開始することとなった(PROGASプロジェクト)。2016年度は東ヌサ・トゥンガラ州の3県、計4万人の学童が、給食プロジェクトの対象者として選択された。2016年4月末にキックオフ会議が行われ、対象校の教員や調理者へのトレーニングが実施された。その上で、各小学校は給食提供に係る様々な準備を行い、7月から給食提供が開始された。給食は、24日間を1クールとして4クール、計96日間提供された。本研究では、各県のプロジェクト対象校7校と非対象校3校(コントロール群)を選択し、A)食費、B)健康的な食物選択に関する知識、C)学校での学習態度、D)栄養素摂取状況、E)身体計測値、F)ヘモグロビン値の面について、介入前後の変化を調査するとともに、対照群との差異を検証した。また、現地調査の際に、小学校教諭、調理者、保護者に対し聞き取り調査を実施し、給食提供の問題点等を明らかにした。今年度は、初年度に収集したデータ解析を中心に行った。また、インドネシアの学校給食の歴史に関して国際的に発表されている報告書や学術論文が限られているため、現地のカウンターパートの研究者とともに、インドネシア国内で公表されている情報をもとに、レビュー論文を執筆した(現在査読中)。インドネシアでは1991年以降、何度か国レベルでの学校給食プログラムが実施されてきたが、その人口規模と地理的広がりから統一的な政策が難しく、国際的にみても低い普及率の向上が優先課題であることが明らかになった。
著者
西澤 大輔
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

CREB1、CREB3、CREB5、ATF2(CREB2)等の遺伝子領域の遺伝子多型解析の結果、CREB1遺伝子近傍のrs2952768多型に関して、Cアレルの保有者では、非保有者と比較して、下顎形成外科手術のみならず開腹手術の症例においてもオピオイド鎮痛薬必要量が多かった他、覚醒剤依存症患者において多剤乱用者が少なく、アルコール依存症患者において薬物乱用者が少なく、また摂食障害患者においては、薬物依存症を合併している患者が少ないなど、この多型が物質依存重症度を示す指標と関連することがわかった。さらに、この多型のCアレルのホモ接合の保有者では、CREB1遺伝子のmRNA発現量が有意に多かった。
著者
安藤 浩志
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

(1) Eberhard Kirchberg氏との共同研究で、以下を示した: Aが可分単純非I型C*-環ならば、Kirchbergの中心列環F(A)で、sub-quotientがIII型因子環となるものが連続個存在する。特に自由群の被約群C*環の中心列環が非可換であるかを問うKirchbergの問を解決した(現在論文投稿中)(2) 松澤泰道氏との共同研究で、以下を示した: Hを可分無限次元Hilbert空間とするとき、H上の自己共役作用素全体の空間SA(H)は強resolvent収束に関してPolish空間(可分・完備距離付可能)となる。SA(H)上に様々な同値関係を与えることができるが、私は特にWeyl-von Neumannの同値関係(自己共役作用素A, Bはあるコンパクト作用素Kとユニタリ作用素uに対して、uAu*+K=Bを満たすとき、Weyl-von Neumann同値であると呼ぶ)について2014年にその同値関係としての複雑さの研究を開始した。今年度は次の事を証明した: 実数列全体の空間X上の上に「数列a,bはある置換πによってa_{π(n)}-b_nがc_0となるとき同値」として同値関係Eを定めると、EはWeyl-von Neumann同値関係の可換版に相当するものと解釈できる。このEがBorelである事をBecker-Kechrisの定理を用いて証明した。また自己共役作用素のSchatten属作用素による摂動して得られる同値関係はessentiallly K_σである事を証明した。これらは論文を準備中である。
著者
徳山 龍明 高橋 令二
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

化学合成独立栄養性細菌である硝化細菌は、自然界における元素循環と緊密な関わり合いをもち、特に炭素、窒素の循環において重要な役割を担っている。したがって、この細菌の生理・生化学的特性の解明は重要な意義を有している。本研究では、高温環境下に生息する硝化細菌の分離を試み、分離菌株の諸性質を明らかにすることによって、生態学的基礎研究と、その応用化を目的とした。一般に硝化細菌の生育は、30℃以上では顕著な阻害をうけることが明らかにされている。本研究による高温耐性アンモニア酸化菌の取得により、応用的には温暖地域や夏季における生物的廃水処理への利用、養鶏、養豚場における脱臭装置への適用等の可能性が考えられた。その結果、養鶏場の脱臭装置からは、従来得られなかった35℃を至適温度とする高温耐性菌(Kl株)を得ることに成功した。養鶏場脱臭装置から、新規に高濃度硫酸アンモニウム要求性のアンモニア酸化細菌(Kl株)をゲランガム平板培地を用いて単離した。Kl株は桿菌、グラム陰性、菌体内には硝化細菌特有の細胞質内膜組織が認められた。DNAのG+C含量(mol%)は48.5であり、基準株であるN.europaea ATCC 25978Tに対する16SrRNAのsimilarityは93.77%であった。これらの諸性質から、菌株KlをNitrosomonas sp.Klと命名した。亜硝酸生成能(生育)に対する至適温度は35℃であり、40℃まで耐性を有していた。培地中の硫酸アンモニウムの至適濃度は極めて高く、303mMであり、基準株(38mM)とは大きく異なっていた。炭酸固定関連酵素の活性値は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)とトリオースリン酸イソメラ一ゼ(TIM)において、ATCC25978T株と比較して高く、前者は19約倍、後者は28500倍の比活性値が認められた。さらに、硝化細菌由来のホスホグリセリン酸キナーゼの精製を行い、他の硝化細菌由来のPGKと酵素学的諸性質を比較した。また、新規に分離した海洋性アンモニア酸化菌Nitrosomonas sp.TNO632の菌学的、培養的(高温耐性)性質について明らかにした。