著者
樋脇 治
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

体内時計に関連する脳機能に対して電磁界が及ぼす影響について研究を行った。主に、パルス磁界を大脳皮質に照射したときの脳機能の特性について実験および理論的な検討を行った。神経細胞がパルス磁界により膜電位が変化するモデルを用いたシミュレーション解析結果に基づき、大脳皮質がパルス磁界に反応する特性について検討を行なった。大脳皮質には、主に信号の入出力の役割を担っている錐体細胞が大脳皮質表面に垂直に走行しているが、この錐体細胞のパルス磁界に対する反応特性について検討した。その結果、パルス磁界により二次的に誘導される電界の大脳皮質に垂直な成分が錐体細胞の膜電位変化に大きく関与しており、誘導電界の大脳皮質に垂直な成分の大きさの分布を算出することにより大脳皮質がパルス磁界により影響を受ける部位を検出できることを明らかにした。この結果に基づき、一次運動野を対象としてパルス磁界による刺激実験を行い、腕および手の誘発筋電図を指標としてパルス磁気が脳活動に与える影響を評価した。被験者の頭部右側にパルス磁気を8字型コイルにより照射し、左の腕および手から誘発筋電図を表面電極により計測した。その結果、一次運動野内において対象の筋を支配すると推定された部位における誘導電界の脳表面に対する垂直成分が最大となるようにパルス磁気の照射を行ったときに対象の筋に大きな振幅の筋電図が計測されることを確認した。これらの結果より、パルス磁気を脳に照射したとき、大脳皮質のそれぞれの部位における誘導電界の脳表面に対する垂直成分が大脳皮質の機能に影響を与える主な要因であることを見出した。今後、この知見を基にして視交叉上核を含む体内時計システムへのパルス磁界の影響について研究を継続して行なう予定である。
著者
田中 佐代子 小林 麻己人 三輪 佳宏
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究者によるビジュアルデザインの質を高めるための基礎的要件を明らかにし、研究者によるビジュアル資料作成のための指針を構築するために、以下を行った。1)指針案を反映させた「科学者のためのビジュアルデザインハンドブック」(田中、2013)の有用性と問題点を検証するために、アンケート調査を実施した。そしてその回答を分析し考察した。2)PowerPointにおけるデフォルトの問題点を調査した。また指針案を、文献資料をもとに再確認した。さらに指針案の実際的効果も検証した。
著者
庵 功雄 イ ヨンスク 松下 達彦 森 篤嗣 川村 よし子 山本 和英 志村 ゆかり 早川 杏子 志賀 玲子 建石 始 中石 ゆうこ 宇佐美 洋 金田 智子 柳田 直美 三上 喜貴 湯川 高志 岩田 一成 松田 真希子 岡 典栄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の成果は次の3点に要約される。第1点は公的文書の〈やさしい日本語〉への書き換えに関わる諸課題の解決、第2点は外国にルーツを持つ生徒に対する日本語教育に関する実証的な取り組みであり、第3点は各種メディアを通じた〈やさしい日本語〉の理念の普及活動である。第1点に関しては、横浜市との協働のもと、行政専門用語562語についての「定訳」を作成し、書き換えに際し有用な各種ツールとともにインターネット上で公開した。第2点に関しては、新しい文法シラバスを公刊する一方、JSL生徒向け総合日本語教科書の試行版を完成した。第3点に関しては、書籍、講演等を通して〈やさしい日本語〉に関する理念の普及に努めた。
著者
神戸 悠輝
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

うつ病患者の3分の1は現行の抗うつ薬に耐性であり, 新規のターゲットの創出は急務である. 研究代表者は, うつ病におけるミトコンドリアの障害仮説に焦点を当て, うつ病への関与を検討した. マウスに対し慢性的にストレスを与えることで, うつ病モデルマウスを作成すると, このマウスの脳ミトコンドリアに障害がある可能性が推察された. さらに, ミトコンドリアの障害に関わる5種類の遺伝子の発現は全てうつ病モデルマウスで上昇し, これらの遺伝子発現とうつ病の指標は全て正に相関した. このことから, ミトコンドリアの障害はうつ病に強く関連し, 創薬ターゲットとなる可能性が示された.
著者
西山 ゆかり 小山 敦代 岡田 朱民 糀谷 康子 新田 利子 岩郷 しのぶ
出版者
四條畷学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

2014年の全国調査において、「看護におけるCAM/CAT 」とは、目の前で苦しむ対象者の痛みを緩和し・癒し・心とからだの安らぎを生み出し、その人らしさを維持し、人生を豊かなものにするために、対象者自らが意思決定し、自らの力でよりよく生きることを支えることが看護におけるCAM/CATの機能であることが明らかになった。この全国調査を元に、次の段階である、より具体な実践内容・現象から補完代替医療/療法を概念化するために、質的研究に取り組んでいる。本年度は、インタビューを2名行った。この2名から芋ずる式サンプリング法にて次の研究対象者をリクルートしている。現在7名の方が本研究に賛同し、同意を得て、日程調整中である。これら研究対象者の内訳は、臨床で補完代替医療/療法を実践者している看護職者3名、看護教育の場で、補完代替医療/療法を教育に取り入れている、研究している、大学教員7名である。データの偏りがないように、臨床での看護実践者と教育者が同数になるように現在リクルートしている段階である。その他の研究活動としては、日本看護科学学会学術集会で「自然の回復過程を調える看護の探究ー統合医療における看護の位置づけを求めて」の交流集会において、今まで明らかにしてきた、補完代替医療/療法の認知度や実践状況、補完代替医療/療法についての看護職者の考えを報告し、会場の方と「統合医療(補完代替医療/療法を含む)において看護が果たすべき中心課題である「自然の回復過程」を調える視点から、看護師の身体ツールと全人格的なアプローチの可能性に関して、討論した。
著者
小林 照義
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

『名目.G.DPターゲティングと為替レートの変動』では、従来閉鎖経済モデルのもとで分析されていた名目GDPターゲティングのパフォーマンスを開放経済に拡張した。この論文では、開放経済のもとで発生する交易条件ショックの安定化についても、名目GDPターゲティングの設定によって適切に対処されることが明らかになった。この結果はGDPターゲティングの望ましさを開放経済のもとでも確認するものである。『Hybrid inflation-price-level targeting in an Economy with output persistena』では、従来から頻繁に議論されてきたインフレ・ターゲットや物価水準ターゲットだけでなく、その中間的な物価目標を提案している。この分析によると、生産量の持続性が比較的強い場合には"ハイブリッド型ターゲット"が最も望ましくなることを示している。その上で、最適なターゲット水準を明確に求めることに成功した。また、この論文はいわゆる"new classical model"で分析しているが、その後同様の研究を"New Keynesian model"で行ったところ、やはりハイブリッド型の物価目標を導入することで社会的厚生が高まることが明らかになった。
著者
水上 知行
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本で初めての天然ダイヤモンドの実態を理解するため、産地の地殻やマントル由来の捕獲岩を用いて、起源マグマと熱・物質構造の観点から岩石学的な研究を行った。その結果、(1)多量のマグマ生成によるマントルの枯渇と上方へのマグマ供給、(2)シリカに富む流体もしくはメルトによるマントルメタソマティズム、(3)深部由来のアルカリ火山岩マグマとマントルの反応を通じた斑れいノーライトの形成、という複数のマグマ活動が認識でき、西南日本のリソスフェアの構成が大きく変化してきた事実が明らかとなった。(3)は、西南日本全域のアルカリ玄武岩活動と関連づけられる。このマグマの起源深度の解明が日本の天然ダイヤモンドの成因への制約となるだろう。
著者
淺輪 貴史 小林 秀樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は、研究手法に関する定式化を理論的・実験的に行った。具体的には、気温分布の逆推定手法の数学的定式化と熱赤外域分光センサの利用可能性の理論的・実験的検討に関する課題に取り組んだ。まず、衛星リモートセンシング分野で用いられている気温分布や大気濃度分布の逆推定手法を調査し、都市大気の水平気温分布推定に適用する方法を理論的に検討した。特に、パスの終点が既知の温度(放射率)の物体である場合と大気の無限遠である場合とで、定式化がどのように異なるのかを示した。これらは、建築空間でパスが短く、且つパスの終点が壁面等である場合と、都市大気を対象として比較的遠距離のパスに適用する場合との違いに相当する。次に、熱赤外域分光センサを利用して、上記で定式化した逆推定手法を都市大気の気温分布逆推定に適用した場合に、どの程度の精度が得られるのか、また課題点は何かを実験的に検討した。実験は7月に東京都多摩市で実施した。4階建物の最上階から、500m遠方と2.7km遠方の森林までの区間を対象に熱赤外域分光センサによる観測を実施した。同時に、パスの終点が大気の無限遠である場合についても観測を実施した。パス間を4層に分割して気温分布の逆推定を行った結果、いずれのパスにおいても第1層目から誤差が大きく気温の過小推定が起こっていた。第2層目以降では、MAP法による事前分布に近い結果が得られており、実際の大気からの温度情報の寄与が小さい結果となった。上記の点について放射伝達モデルを用いて数値実験的に検討を行った。放射伝達モデルでは、実験のような誤差は生じなかったこと、また実験においてはいずれのパスにおいても同様の誤差傾向を示していることから、今回の実験に含まれるバイアスの原因であると考察した。これらは、実験と数値解析の両方を用いて、今後要因の感度分析を行って行く必要がある。
著者
野田 岳人
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究はチェチェン紛争における人権侵害を事例として、冷戦後のロシアをめぐるヨーロッパの国際人権レジームの変化を考察するものである。人権分野では、冷戦時代にソ連に影響を与えた欧州安保協力機構から冷戦後には欧州評議会と欧州人権裁判所へと担い手が交替した。それに伴い、人権保護の射程はより個人的なもの、より人道的なものへと移りつつある。これは国際政治の司法化(judicialization)の現象の一つである。本研究では、第一にヨーロッパ人権レジームの変化と国際政治の司法化の現象を検討する。第二にチェチェン紛争における人権侵害の実態を把握し、その人権侵害の事例が国際政治化する過程を考察する。第三に他の地域紛争における人権侵害の事例と国際人権レジームの関わり方について整理する。初年度の目標は、本研究のアウトラインを可能な限り正確にスケッチすることであった。まず、国際人権レジームの変化については、アクターを欧州評議会・欧州人権裁判所とロシア政府に限定し、学術的動向を把握した。チェチェン紛争の被害者に関し、欧州人権裁判所の裁判記録やNGO団体による人権侵害の資料などをもとに事実関係をまとめた。また、国連や欧米各国が関与して設置された旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)の成果などについても整理した。しかしながら、第二の点と第三の点は予定通り進んでいない。第二のロシアにおけるチェチェン紛争の動向調査は受入先との関係で、来年度以降に実施することになった。第三の他地域における人権侵害状況を理解し、冷戦後の地域紛争における人権侵害に関する共通点を探るための地域研究者との意見交換も来年度に予定を変更した。
著者
小久保 康之
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

スイス国民党(SVP)が主導する大量移民規制を定める憲法改正案が2014年2月9日の国民投票で可決されたことに伴い、人の自由移動について合意した1999年のスイス・EU双務協定に祖語が生じ、スイスは対EU関係の悪化が懸念される事態に陥っていた。移民規制について新たに導入された憲法121a条とその関連条文では、3年以内に移民規制に関する法律を定めることや、121a条に抵触する国際条約を再交渉することが規定されていた。スイス政府は、EUとの双務条約の再交渉の余地を探るが、EU側は「人の自由移動」はEU市場の根幹を構成する要素であり、再交渉には応じられないとし、更に、英国が2016年6月の国民投票でEU離脱派が勝利を収めたことにより、非EU加盟国であるスイスとの再交渉が英国のEU離脱交渉に影響を与える事を恐れ、スイスとの正式な再交渉には一切応じないとの姿勢を崩さなかった。スイス政府は、2016年3月に移民規制に関する法案を提出するが、連邦議会はそれを否決し、同年12月16日に急進民主党と社会党が中心となって提出した「外国人に関する連邦法」が連邦議会で可決された。同法は、明確な形で移民規制を行うことを避け、スイス人の就労機会を優先させることに限定するものであり、憲法121a条は骨抜きにされた。同法に関する政令が2017年12月に発令され、2018年7月1日より、失業率が8%を超える業種について、スイス人失業者に優先的に雇用案内が提示されること、2020年1月からは失業率が5%を超える業種に適用されることなどが定められた。EU側は、スイスのこれらの一方的な措置がスイス・EU間の人の自由移動を妨げるものではないとして歓迎し、スイス・EU関係の悪化は回避された。この一連の動きから、非EU加盟国であるスイスがEUの基本原則に従わざるを得ない状況にある実態を明らかにすることができた。
著者
神江 沙蘭
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度の春から夏にかけて、欧州の通貨・金融分野において、金融市場での欧州単一パスポートの導入や共同通貨ユーロの導入等の市場創出的統合が加速したのに対して、監督規制改革等の市場修正的な統合がなぜ遅れたかという点を、1990年代のグローバルな国際金融規制(バーゼル委員会での議論等)の流れを踏まえて分析した。そこでは特に米国等の域外の経済大国との競争的関係が、域内で必要とされた金融ガバナンスの構築にどう影響したかを検証している。その成果の一部は、6月に香港で開催された国際問題研究学会(International Studies Association:ISA)で報告し("Germany and Japan: Great or Middle Powers in Global Banking Regulation?")、共著本(『Middle Powers in Europe and Asia』eds. Giacomello and Verbeek)の執筆担当章の草稿に取り入れた。当該年度の秋からはユーロ導入によってインフレ調整や経済政策の調整がより困難になった点をECBの設立が市場での期待形成に与えた影響という観点から分析し、これが分権的な金融監督体制の下にあった欧州金融市場でのリスク膨張に繋がった可能性について検討した。また、ユーロ危機を経て、ECBが金融安定化や市場回復に積極的な役割を担う等、ユーロ圏においてサプライサイド政策を重視する従来の傾向に一定の変化が生じた点に着目し、その背景/影響としてドイツ国内政治に生じた変化や摩擦について検討した。2月19日~3月7日にケルンのマックス・プランク研究所(社会科学)において客員研究員として現地調査を行い、セミナー報告、関連機関へのヒアリング調査を行い、その成果を単著原稿『統合の政治学』の草稿の執筆に取り入れた。
著者
臼井 陽一郎 市川 顕 小山 晶子 小林 正英 小松崎 利明 武田 健 東野 篤子 福海 さやか 松尾 秀哉 吉沢 晃
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

(1)先行研究のレビューを進めるとともに、海外学会(英国EU学会など)に参加、さらにブリュッセルなどヨーロッパ諸国で実務者および海外研究者にアクセス、インタビューを実施するなかで、本研究課題に関わる研究状況をサーベイし、<EUの規範パワーの持続性>という研究テーマの意義およびアクチュアリティについて再確認できた。規範パワー論はEU政治研究においていまだ<終わった>研究課題ではなかった。(2)研究会を3回実施(関学大・東海大・新潟国際情報大)、理論枠組と役割分担の微調整を行った。また4名の研究協力者に参加してもらい、理論枠組と実証事例の整合性について批判的視点を加えてもらった。この一連の研究会の結果、規範パワーたろうとする加盟国首脳の政治意思と、EUの対外関係にみられる4つの制度的特徴(マルチアクターシップ・シンクロナイゼーション・リーガライゼーション・メインストリーミング)の関係性をどう理論的に突き詰めていくかについて、メンバー間に意見の不一致があることが分かり、今後の理論的討究の課題が浮き彫りとなった。それは大きくは、合理主義アプローチに依拠した因果関係として仮説化していくべきか、それとも構成主義アプローチに依拠した構造化プロセスの把握を目指していくべきなのか、という二つのアプローチの対抗関係であり、次年度の研究会で詰めていくべき課題となった。なお4年後の研究成果発表のため、メンバーそれぞれの研究課題を仮題として章立てを作り、出版社を決め、出版へ向けた交渉に入った。
著者
金子 芳樹 浅野 亮 井上 浩子 工藤 年博 稲田 十一 小笠原 高雪 山田 満 平川 幸子 吉野 文雄 福田 保
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究のASEANを①拡大と深化の過程、②地域横断的イシューの展開 、③域内各国の政治社会変動分析という観点から「国際・地域・国内」の3次元で捉え直すという目的に沿って、第1年目の平成29年度においては、各担当者が現地調査や文献調査を中心に国別、イシュー別の調査を進めた。また、本研究のもう一つの特徴である「ASEANとEUとの比較」という観点については、その第1歩としてEU研究者を報告者に招聘して研究会を複数回開催し、EUの組織や地域統合のあり方などについて研究分担者・協力者の理解を深める活動を行った。その際、ASEANとEUの両研究分野の相互交流や共同研究を今後進めていくことについても、その体制造りなどを含めて意見交換を行い、具体的な段階へと歩を進める準備を行った。さらに、本研究の研究成果を逐次社会に公表していくという目的と、研究の新たな展開と蓄積のために他国や他分野の研究者との情報・意見交換を進めるという目的に沿って、国内の公開シンポジウムや学会ならびに他国開催の国際研究集会に研究分担者・協力者を派遣もしくは参加支援を行った。また、各研究分担者・協力者は、本研究のテーマもしくは関連テーマに関する論文および書籍の発表・刊行を積極的に行った。これらを通して、研究成果の公表とフィードバック、新たな研究知見の獲得、国内外での研究人脈の形成といった面でそれぞれに成果を得ることができた。上記のような諸活動を通して、1年目の目標であった本研究の基盤作りを着実に進めることができ、2年目以降のステップアップに向けた準備を整えることができた。
著者
Day Stephen
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

In June 2017, I was able to make an initial presentation to the EUSA-AP Conference (Tokyo) which provided invaluable feedback for the start of my project. Two months later, I was invited to give a lecture at the United Nations University (Tokyo) on the issue of Brexit. Indeed, much of this year has been taken-up following the on-going machinations of the UK's withdrawal process and the corresponding impact on the European Union. This has resulted in public lectures for the EUIJ-Kyushu and the Saga EU Association. In terms of party-politics above the level of the nation-state, I was asked to write a contributing chapter for the International Institute for Democracy and Electoral Assistance (co-ordinated by Steven Van Hecke, Leuven University). In December 2017, I attended the Congress of the European Liberals (Amsterdam) where I observed preparations for the 2019 European elections and the process for selecting a leading candidate (spitzenkandidat); undertook numerous on-the-spot interviews; and engaged in some debates.While in Amsterdam, I also had the opportunity to undertake some archival research on the start of the European integration process post-1945. In addition, I visited Ireland where I undertook numerous interviews with national parties, across the political spectrum, about their views on Brexit and their relations with their corresponding Europarty. The information I collected is presently feeding into a paper I will present in Taiwan (EUSA-AP) in June 2018.
著者
力久 昌幸
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,イギリスのEU国民投票を主な事例として取り上げて,イングランド・ナショナリズムの政治化によってEU離脱派のキャンペーンにどのような特色がもたらされたのか,そして,EU離脱決定後のイギリスの政党政治において主要政党の戦略的行動にどのような変化がもたらされたのか,という点について明らかにすることを目的としている。平成29年度の研究においては,本研究にとって重要な位置を占める概念であるナショナリズム,ナショナル・アイデンティティ,欧州統合,権限移譲改革に関する理論・事例研究を取り扱った文献・論文を収集したうえで,その内容に関する分類・整理を行った。上記のような本研究に関連する文献の収集・整理に加えて,本年度はイギリスのロンドンとカーディフを訪問し,上院議員,下院議員,ウェールズ議会議員,そして,EU離脱問題に関わる運動団体に対して聞き取り調査を行った。こうした聞き取り調査を通じて,EU国民投票およびその後のEU離脱をめぐる政治過程とイングランド・ナショナリズムの政治化との関係について,一定程度理解を深めることができた。また,カーディフ訪問を通じて,イングランド・ナショナリズムの比較対象として,ウェールズ・ナショナリズムについて一定の知見を得たことは,本研究にとって重要な,多民族国家イギリスを構成する各ネイションの間の相互関係を理解するうえで意味があったものと思われる。なお,平成30年度にはスコットランドを訪問することを考えているが,それにより,イングランド・ナショナリズムとスコットランド・ナショナリズム,そして,平成29年度に聞き取り調査を行ったウェールズ・ナショナリズムの異同について,さらに理解を深めることができるものと期待される。
著者
中村 英俊 BACON Paul.M. 吉沢 晃
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題をめぐり、早稲田大学とブリュッセル自由大学(ULB)との間の国際共同研究を着実に拡充することができた。3月12日にULBで開催した日EUフォーラムでは、研究代表者と研究分担者の全てが研究報告をすることが叶った。理論研究、人権外交、競争政策などの観点から有意義な中間報告の場が得られた。また、オックスフォード大学やキングスカレッジ・ロンドンの研究協力者との共同研究も一定の進展を見ることができた。このような国際共同研究の成果の一つとして、アメリカや中国という大国の背後で日EU関係が有する意義を探る共編著の中で執筆した共同論文は、EUとの比較から日本の国際アクターとしての特質を描いたもので2018年夏に公刊予定である。この論文は、リベラル国際秩序の中でEUとともに日本がどのように振る舞ってきたかを論じようとしたものである。本年度は、イギリスのEU離脱(Brexit)をめぐる公式交渉の1年目とほぼ一致しており、同交渉に関する情報収集も重要な研究調査の対象となった。日本とEUとの二者間関係はEPAとSPAの公式交渉が終わり署名へ向かおうとしている。日本とイギリスの二国間関係も首脳会議によって深まったと言われる。本研究の文脈で、このような現状の考察も試みることができた。政治外交および経済貿易の両分野でリベラル秩序が流動化する状況下で、「安全保障アクター」概念を独自に定義し、EUと日本という国際アクターの行動を正確に描写し、両者の政治関係が持つ意義を深く考察している。
著者
渡邉 智明
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は、主に、EU のグリーン公共調達や環境認証制度など、本研究の基礎となる部分について確認するため、文献収集の作業を行った。また、海外における大会の参加による関係者とのネットワークの構築、さらには一部関係へのインタビューを行うことができた。このうち、海外調査に関しては、6月にスイス・ジュネーブで開催されたISEAL(国際社会環境表示連合)の年次総会に参加して、参加した欧州のNGO関係者と意見交換を行い、今後の研究への示唆を得ることができた。また、9月には、マレーシア・マラッカで開催された、アジア太平洋持続可能な消費と生産ラウンドテーブル(APRSCP)」の年次大会に参加し、欧州のSwitch-Asiaの政策コーディーネーターと意見交換を行った。この中では、欧州レベルの環境ラベルの多元化状況、それを踏まえてSwitch-Asiaプログラムを展開している現状を確認することができた。また、合わせて、日本の協力機関であるIGESの関係者との知遇を得て研究の方向性について有益な意見を伺うことができた。また、11月の末には、ベルギー・ブリュッセルを訪問し、EUの当局者に対して聴き取りを行うことができた。この中で明らかになった限りでは、標準化部門や環境総局は、Switch-Asiaプログラムには関係していないことが明らかになり、むしろ開発部門が主導していることが伺われた。これを踏まえて、次年度以降は、EUの開発部門や開発NGOなどに焦点をあてた調査を行っていきたいと考えている。なお、これまでの一連の考察は、11月東アジア国連システム・セミナー(於北九州市)において一部を発表し、参加者から有益なコメントを得ることができた。
著者
堀井 里子
出版者
国際教養大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、国境なき医師団と移民オフショア支援基地(MOAS)という二つの非政府組織(NGO)が欧州難民危機という文脈において開始したボートピープルの捜索救援活動を事例に、NGOがEU国境管理政策において果たす役割を明らかにすることが目的である。初年度にあたる平成29年度は、年度前半にイギリス・バッキンガム大学に客員研究員として滞在していた立地上の優位性を背景に、先行文献と関連資料の収集、専門家との意見交換および現地調査を行った。まず、イギリス・オックスフォード大学難民研究所主催のセミナーに参加し、移民をめぐる政策においてNGOと国家の関係性を研究するMollie Gerver氏(ニューカッスル大学)を初めとする専門家と意見交換を行った。また、イギリス・ケンブリッジ大学において犯罪学の専門家であるパオロ・カンパーナ氏と面会し、同氏より地中海域での移民の密入国と国際犯罪ネットワークについて知見を得た。さらに、イタリア・シチリア島での現地調査では、カタニア大学で地中海域を中心としたEU国境管理やNGOの活動を研究するDaniela Irrera氏およびRosa Rossi氏との意見交換を行い、またOxfamとDiaconia Valdeseという二つのNGOが設立した移民・難民サポートセンターにおいて職員およびシリア難民に会い聴き取り調査を行った。また、バッキンガム大学をプラットフォームとして、資料の収集を精力的に行った。これらの活動は以下の点で有益であった。まず、NGOによるボートピープルの捜索救助活動をめぐる論点が明らかになった。第二に、NGOによる捜索救助活動に関する事実的また時系列的な情報を入手することができた。第三に、現地コミュニティでの難民の受入態勢、姿勢を学ぶことができた。次年度はこれらの知見を活かし研究をさらに進める予定である。
著者
坂本 邦暢
出版者
東洋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究計画にそって、16世紀から17世紀にかけての、プロテスタント圏での形而上学・神学の展開を、幾人かの著述家の著作の分析を通して追跡した。まず年度前半には、プロテスタント圏での哲学・神学教育をおおきく決定づけたフィリップ・メランヒトンの著作を分析し、彼が哲学を、神の存在を証明するための重要な集団として位置づけていたことを確認した。次世代のルター派哲学者のヤーコプ・シェキウスも、哲学が神学に寄与できると考えていたが、寄与の内実については、メランヒトンと異なる想定をしていた。シェキウスにとって対処せねばならなかったのは、三位一体論を否定する「異端」の存在であった。この異端を論駁するためには、哲学が不可欠だとシェキウスは説いたのだった。以上の成果は、「聖と俗のあいだのアリストテレス スコラ学、文芸復興、宗教改革」(『Nyx』第4号)として発表した。年度後半は、シェキウスがターゲットとした反三位一体論側の著作を検討した。ファウスト・ソッツィーニは、聖書解釈上の権威を教会がもつことを否定し、理性と文献学にのっとって聖書を読む必要を唱えた。その結果、三位一体と自然神学を否定する学説に到達したのだった。調査の結果、彼の神学は、やがてアルミニウス派の教説の一部と合流し、デカルトの新哲学が現れるにあたっての背景を形成するにいたったことが、明らかとなった。以上の成果は、「デカルトに知られざる神 新哲学とアレオパゴス説教」(『白山哲学』第52号)として発表した。
著者
三浦 綾希子
出版者
中京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フィリピン系ニューカマー第2世代とその母親たちに対するインタビュー調査を行った。対象者たちには2010年より断続的にインタビュー調査を行っており、今回の調査もその延長上にある。青年期へ突入した対象者たちのインタビューからは、フィリピン人母との関係性が成長するにつれて変化していることが分かった。特に、男女交際等について母親から干渉されることが多くなっており、それに対して反発する者もいれば、うまく交渉しつつやり過ごしている者もおり、その対応の仕方にはバリエーションが見られた。しかし、いずれの場合も母親と娘たちは親密な親子関係を築いており、フィリピン社会の特徴とされる「家族中心主義」が維持されている様相が見て取れた。また、コミュニティ内の人間関係が母親たちの娘への干渉を強める動機にもなっていることも明らかとなった。母親たちはコミュニティ内で早期に妊娠した者たちのことを念頭におき、娘たちが同様のことをしないよう、厳しく管理する。一方で娘たちは、コミュニティ内のメンバーと自らをうまく差異化することによって母親からの干渉にうまく対応しようとしていた。思春期以降、特に女性たちは親から性行動に対する干渉を受けることが海外の先行研究でも明らかにされているが、類似の傾向が日本でも見て取れた。ただし、日本の場合、両親というよりも母親からの干渉が強いことが特徴的であり、国際結婚家庭が多い日本の状況を反映したものであるといえそうである。