著者
北村 紗衣
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

当特別研究員の研究課題は、シェイクスピアを中心としたイギリス・ルネサンスの悲劇における女性表象である。2009年度は前年度に引き続き、このテーマに関する考察を深めるべく研究を進めた。本年度は昨年度に引き続き修士論文の一部を発展させ、シェイクスピアの恋愛悲劇『アントニーとクレオパトラ』におけるクレオパトラ像のあり方をそれ以前のクレオパトラを扱った悲劇群と比較し、シェイクスピアの作品は古代からルネサンスまでの「クレオパトラ文学」とも言えるような伝統の中にどのように位置づけることができるかを分析した論文「イギリス・ルネサンスにおける『クレオパトラ文学』--シェイクスピアのクレオパトラとその姉妹たち」を執筆し、『超域文化科学紀要』に投稿した。投稿後、その内容を5月31日の日本英文学会にて発表した。また、シェイクスピア劇がアメリカ映画においていかに受容されているかについての予備的な研究を開始し、5月23日の大澤コロキアムにて"Shakespeare in High School : The Taming of the Shrew and 10 Things I Hate About You"というタイトルで発表を行った。この他、シェイクスピアにおける共感覚(synesthesia)的な比喩に関する予備的な研究を開始し、7月5日に京都造形大学で行われた表象文化論学会第4回大会にて「共感覚の地平-共感覚は『共有』できるか?」という研究パネルを組織し、「感覚のマイノリティ-共感覚と共感覚者をめぐるフィクション」と題して文学における共感覚の一般的表現に関する発表を行った。
著者
奥中 康人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

19世紀後半の日本に流入した西洋楽器のラッパ(Bugle)が、静岡県(浜松市)と長野県では祭礼行事として結びつき、現在ではもはや民俗楽器であるかのように定着している実態について、資料調査およびフィールドワークをおこない、今に至る歴史的・社会的背景を明らかにした。さらに、従来の音楽研究が、そうした動態的な新しい民俗芸能の発展を間接的に阻害していることについて考察をした。
著者
野田 岳志
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

インフルエンザは主としてA型およびB型インフルエンザウイルスを起因とする呼吸器疾患である。飛沫を介してヒトからヒトへと効率よく伝播することが最大の特徴であり、毎年、人口の5-10%がインフルエンザに罹患する。ヒトインフルエンザの研究においては様々な動物モデルが使用されているが、小型で効率の良い飛沫伝播を再現する動物モデルは存在しない。本研究ではインフルエンザの新たな飛沫伝播動物モデルを確立するため、ハムスターを用いた実験を行った。その結果、ウイルス株によって、飛沫伝播を起こすものと起こさないものが存在することが明らかになった。2009年に出現したH1N1ウイルスは、効率よく個体間を伝播した。
著者
二宮 祐 小島 佐恵子 濱嶋 幸司 小山 治 児島 功和
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

「新しい専門職」は大学改革が推進されるなかで、主として米国の高等教育機関における新興専門職が参考とするべきモデルとされたうえで、日本への導入が図られた。ファカルティ・ディベロッパー、キャリア支援・教育担当者、インスティテューショナル・リサーチ担当者、リサーチ・アドミニストレーション担当者、産官学連携コーディネート担当者を対象とした聞き取り調査、質問紙調査の結果から、必ずしも十分には目標を達成することができず、職能形成にも課題があることが判明した。
著者
奥野 博庸
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究者はこれまでにインプリンティング疾患として有名なプラダー・ウィリー症候群患者よりiPS細胞を樹立し、欠失型PWSでは健常者由来細胞に比べて、iPS細胞化にともない、インプリンティングが部分的に解除されやすいことを見出した。PWS-iPS細胞を用いた患者モデルをin vitroで作成するためにはメチル化が維持される必要がある。またPWSが視床下部に関連する症状を主に呈しており、iPS細胞由来視床下部がin vitroモデルのターゲットになると考える。MeCP2結合領域をゲノム編集技術で皮膚線維芽細胞において欠失させてiPS細胞樹立を試みたが、iPS細胞の維持培養が困難であった。本年度は、すでに作出した健常者iPS細胞においてMeCP2結合領域を欠失させた細胞株の創出を試みた。また、iPS細胞から視床下部前駆体ニューロンへの安定して分化誘導する系を検討した。
著者
中根 俊成 樋口 理
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

自己免疫性自律神経節障害(AAG)では自律神経節におけるアセチルコリン受容体( gAChR)に対する自己抗体が陽性になることが知られている.自律神経節に存在するAChRはα3サブユニットとβ4サブユニットから構成され,交感神経・副交感神経いずれにおける節前後線維のシナプス伝達を仲介する.われわれはルシフェラーゼ免疫沈降システム(LIPS)による新規の抗gAChR抗体測定系を確立した.臨床像解析では起立性低血圧を初発症状とするものが多く,自律神経障害として頻度の高いものは消化管障害,起立性低血圧・起立不耐,排尿障害である.自律神経系外症状として内分泌障害や精神症状などに注意する必要がある.
著者
堅田 香緒里 佐々木 宏 山内 太郎 大岡 華子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、1940年代後半以降、長年、貧困/生活困窮当事者による社会保障運動として全国各地で活動を続けている「生活と健康を守る会」(以下、守る会)に光を当て、貧困当事者の<声>の政治の一端を明らかにしようとするものである。そのために、守る会による発行物の分析、そして「守る会」運動に深くコミットしてきた関係者への聞き取り・語りの分析を行う。これらの作業を通して、戦後日本において、とりわけ貧困/生活困窮当事者の手になる運動が、①どのように当事者の組織化を行い、②ボトムアップ型の社会保障政策形成を促し、③貧困当事者中心のソーシャルワーク実践に影響を与えたのかの三点を実証的に明らかにしたい。
著者
木浦 勝行 瀧川 奈義夫 市原 英基 中村 栄三 吉野 正 高田 穣
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

健常雄性 Slc: Wistar ラット 10 匹に鉄およびキレート剤を腹腔内へ反復投与し,5 匹で悪性腹膜中皮腫を認めたが,コントロール群,キレート剤投与群では認めなった。免疫染色(Calretinin, CEA 染色),電子顕微鏡による観察を行い,いずれも上皮型中皮腫であることを確認した。また,DNA 酸化損傷マーカーである 8-hydroxy-2-deoxyguanosine による免疫染色は陽性であり,従来の学説は確認された。ラジウムを含む微量元素を最終解析中である。
著者
平 敬
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度に引き続き実験装置の製作を引き続き行った。本計画の実験装置はSEA-TADPOLE部+光マスク部+最適化・位相復元計算部の3つに分かれており、SEA-TADPOLE部には干渉計部とSHG-FROG部がある。光マスク部の主要部品としてデジタルミラーデバイスを用いたアクティブマスクを購入した。これにより多数のマスクを製作する手間を省くことができた。SEA-TADPOLE部のうち干渉計部に必要な点光源として新たに偏波面保持ファイバーを2本束ねた系の構築を試みた。SHG-FROG部の組み立て・アライメントを行うための顕微観察系を構築した。SHG-FROG部は未だ完成しておらず、引き続き作業が必要である。SEA-TADPOLE部の完成が特に遅れている。最適化・位相復元計算部として、テスト波形を勾配降下法により復元できるシミュレーションを行った。これにより光マスクを取り入れた位相復元計算への道筋が見えた。各部位の未完成部分を仕上げて全体を統合する必要があり、実験装置完成にはあと数か月を要すると予想される。当初計画と異なり、既に改良された要素部品が導入されているため当初計画の2~3年目に行うはずだった改良はすでに終えていることになる。その代わりに全体の完成が遅れている。成果発表に関しては、実験装置が完成していないため行えていない。シミュレーション部分だけでも論文として発表できるかどうか検討中である。
著者
河盛 隆造 筧 佐織 田村 好史
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

骨格筋細胞内は肥満状態になっているのにも関わらずインスリン感受性が高い、いわゆる「アスリートパラドックス」の全容を解明し、メタボリックシンドローム予防の一助とするため検討を行ったところ、PGC1Aプロモーター領域のメチル化率に差が見られ、血中、骨格筋中の脂質組成が運動強度によって異なる組成となったことより、アスリートパラドクスの一因としてエピジェネティクスによる遺伝子制御の影響が存在する可能性が示唆され、メタボリックシンドローム予防のためには特に運動強度の設定が重要になることが示唆された。
著者
宝達 勉 高野 友美
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

猫伝染性腹膜炎(FIP)はネコ科動物の致死性ウイルス感染症である。臨床応用が可能な治療薬およびワクチンは未だ存在しない。我々は、FIPの治療薬およびワクチンの開発を試みた。我々は、FIPVの構造蛋白質に由来するペプチドの中からTh1活性を強く誘導するものを選抜した。これらのうちN蛋白質に由来するペプチドを接種した猫にFIPVを攻撃したところ、FIP発症が抑制される傾向を示した。我々は猫TNF-αを中和する抗体(MAb2-4)を作製した。MAb2-4を投与した3頭のFIP発症猫のうち2頭において症状が改善された。これらの結果は、FIPに対する治療薬およびワクチンの開発に有用となり得る。
著者
松浦 稔
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

食事は炎症性腸疾患(IBD)における有力な環境因子の1つである。腸内細菌は腸炎の発症および慢性化に重要な役割を果たし、鉄は細菌の増殖・生存および毒性維持に必須である。IL-10KOマウスに鉄含有量の異なる食餌を与えた結果、鉄制限食群で組織学的腸炎の軽減と炎症性サイトカインの発現低下を認めた。また盲腸内の腸内細菌数は両群間で有意差を認めず、腸内細菌叢の組成に差を認めた。in vitroの検討にて、鉄負荷を受けたE.coliはJ774細胞内におけるsurvivalが延長し、炎症性サイトカイン産生も有意に高かった。以上より、鉄は腸内細菌叢の組成と毒性変化を介してIBDの病態に関与することが示された。
著者
臼井 洋輔 馬場 俊介 三好 教夫
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

わが国では山城から平城への移行という中世末期の社会的要請の中で、新しい大型矢穴による石切技法が劇的に全国に普及した。この大型矢穴技法の導入時期とルート解明を目指したのが本研究である。
著者
橋本 敦史 井上 中順 牛久 祥孝 濱屋 政志 松原 崇充 森 信介 VON・DRIGALSKI FELIX
出版者
オムロンサイニックエックス株式会社
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

生産年齢人口が減少する中,ロボットの産業活用は喫緊の課題である.ロボットによる作業代替を低コストで実現する方法として言語指示の活用が注目されている.しかし,「言語指示→ロボット制御」の従来型演算モデルは特定の作業に特化したものとなってしまっている.本研究では,多様な作業を対象とした汎用的な演算モデルを提案・検証する.言語・映像資源が豊富な調理を対象とし,サラダなどの比較的簡単な料理を言語指示に従って調理するロボットを最終年度までに実現することでコンセプト実証を目指す.
著者
近藤 一博
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生理的疲労は容易に回復するが、病的な精神疲労は、生活の質を大きく低下させ、治療的介入を必要とする。 このため、これら2つを区別することは重要であるが、有用な鑑別法はなかった。 我々は、ヒトヘルペスウイルス(HHV-)6およびHHV-7が、生理的疲労を定量化するためのバイオマーカーとして有用であり、生理的疲労と、病的精神疲労を引き起こすと考えられる閉塞性睡眠時無呼吸症候群、慢性疲労症候群、および大うつ病を区別できることを見出した。この方法は、疲労を評価し、疲労関連疾患を予防するための根本的に新しいアプローチを示唆している。
著者
坂井 千春
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

セシル・シャミナード(1857-1944、仏)は、自作の出版と演奏だけで経済的に自立した最初の女性職業作曲家である。ベル・エポックに大人気を博したが、死後長い間忘れられていた。しかし近年、再び演奏され始めているにもかかわらず、先行研究が非常に少ない。研究方法としては、まず散逸している彼女の全ピアノ曲を収集し、同時代の作曲家と比較検討する。次に彼女の自作自演録音など19世紀女性ヴィルトゥオーゾの演奏法を、研究者のピアニストとしての視点から詳細に分析する。そしてピアノ学習者たちの指針となるような解釈を提示した世界初の解説付シャミナードピアノ曲全集出版を目指し、録音や演奏会を通じて再評価を試みる。
著者
仲本 康一郎 岡本 雅史 加藤 祥
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、日常的な営為によって生み出される語りと、語りが生成する世界に一貫性を求める私たちの心の習慣をナラティブ・リアリティとしてとらえ、人が語ることでいかにしてリアリティを構築しているかを認知的観点から考察した。具体的には、(1)語りが物語標識によって構造化され、一貫性が生み出されていくこと、(2)単一の物語が複数の話者によって共話的に語られうること、(3)同一の物語が反復的に語られることで変容を受け、かつ同一性を保持することに着目し、語りの展開可能性と反復可能性、さらに複数の話者による共話可能性を架橋する潜在的な物語構造の多相的な分析を行った。
著者
岩田 奈織子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

重症急性呼吸器症候群 (SARS) コロナウイルス(SARS-CoV)は重症呼吸器疾患を引き起こす新興ウイルスである。ワクチンや治療薬はまだ開発されていない。UV不活化SARS-CoV全粒子(UV-V)は多くのエピトープやタンパクを含んでおり、SARSのワクチン候補とされている。しかしながら、ヌクレオカプシドタンパクを含む不活化SARSワクチンはウイルス感染後マウスの肺に好酸球浸潤を示すことが報告されている。今回、Toll-like receptor (TLR) アゴニストがUV-Vワクチンの副反応を軽減するか半年齢のBALB/cマウスで調べた。UV-V、水酸化アルミニウム(Alum)添加UV-Vで免疫した半年齢マウスは、マウス馴化SARS-CoVの感染に対して一部防御を示し、組織学的に肺で肺胞傷害像は見られなかったが、血管周囲に広汎な好酸球浸潤が見られた。一方、リポポリサッカライド、Poly(I:C)、PolyUを含むTLRアゴニストを添加したUV-V(UV-V+TLR)で免疫したマウスでは、肺での好酸球浸潤が著しく減少した。そして肺のサイトカイン量の測定で好酸球誘導に関わるIL-4およびIL-13の値がUV-V免疫マウスよりも低いことが示された。加えて、マイクロアレイ解析でUV-V免疫マウスでは好酸球誘導に関わる遺伝子の発現が高くなっていたのに対し、UV-V+TLR免疫マウスではそれらは低く、むしろTLR3および4の下流に位置する遺伝子の発現が高くなっていることが分かった。これらの結果から、SARS-CoV感染により引き起こされる肺のワクチン誘発性好酸球浸潤はTLRアゴニストをアジュバントにすることにより、回避できると示唆された。
著者
武井 浩樹 藤田 智史 山本 清文 中谷 有香
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

小児期では味蕾は成熟しているが,味覚情報を脳内に伝える脳神経線維や中継核はまだ発達途上である。したがって味覚を生み出す大脳皮質味覚野においても同様に発達が完了していないと考えられる。神経回路の発達が完了する「臨界期」の存在が大脳皮質視覚野で報告されているが,味覚野では未解明のまままである。そこで,脳内のニューロン活動を経過観察できるレンズをマウスに埋入し,種々の味覚物質を摂取させた際のニューロン群の発達に伴う発動パターンを数週間にわたり覚醒下にて計測する。また、視覚野の「臨界期」に重要な役割を果たすとされるBDNFの拮抗薬を投与するなどして,味覚野の「臨界期」を推定する。
著者
坂部 裕美子
出版者
公益財団法人統計情報研究開発センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

歌舞伎および落語定席の戦後の興行データベースを集計し、上演演目や配役の構成を時系列的に比較した。歌舞伎は平成以降、上演演目に偏りが大きくなってきたこと、落語定席については、一部の落語家が何十年も恒常的に出演し続ける傍ら、年数回しか出演のない落語家が増加していることが確認された。しかし、これらの不均衡はどちらも近年解消される方向に進んでいる。これは、演者の世代交代の影響によるものが大きいと考えられる。