著者
湯澤 美紀 湯澤 正通 齊藤 智 河村 暁
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,学習に困難を抱える子どもの読み書きに関する能力の向上を目指し,ワーキングメモリならびに音韻認識に着目した学習支援の研究を行った。まず,個人のワーキングメモリのプロフィールを測定するために,オートメーティッド・ワーキングメモリ・アセスメント(以下AWMA)の日本語版を作成した(2009年)。次に, AWMAを用い,特別支援学級に所属する児童10名のワーキングメモリのプロフィールを測定した(2010年)。次に,英語の活動を週1回, 14カ月(2010年~2011年)の長期にわたって実施した。学習支援プログラムについては, (1)ワーキングメモリの小ささに由来するエラーの軽減(2)ワーキングメモリプロフィールに応じた支援(3)音韻認識に着目したプログラム内容を目指し,構成した。結果,子どもたちの英語の音韻認識に向上が見られ,最終的には,英語の読み能力を身につけ,主体的に学習に取り組む姿が見られた。
著者
米田 剛 後藤 晋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

乱流の数理的理解を飛躍させるために、乱流モデルを一切使わずに、非圧縮Navier-Stokes方程式そのものを使った大規模数値計算、及びその数値計算結果に対する純粋数学的洞察を進める。さらに、乱流実験も進め、そのNavier-Stokes乱流の数理的洞察そのものの妥当性を検証する。より具体的には、①3次元Navier-Stokes乱流のエネルギーカスケードのメカニズム解明②流体運動が乱流であるための重要な指標であるzeroth-lawの数理的理解③乱流実験データに基づく、①および②の数理的洞察の妥当性の検証、を進める。
著者
大和谷 厚
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

脳内ヒスタミン神経系のいくつかの生理機能は,他の神経系の神経終末上にプレシナプティックヘテロレセプターとして存在するH3-受容体を介してそれらの神経系の活動性が調節されて発現するという作業仮説を証明するため実験を開始した.まず,脳微小透析法と多種目神経化学分析装置を用い,H3-受容体リガンドの脳内神経伝達物質動態への作用を検討し,セロトニン神経系の代謝回転が影響を受けることを明らかにした.その経過にH3-受容体の遮断薬として最も一般的に用いられているチオペラミドが,H3-受容体遮断以外の作用をもつことを見い出し,まずその機構を明らかにすることにした.そして,チオペラミドはカルシウム非依存性にGABA遊離を直接促進させることから,GABAトランスポーターに対する阻害作用によるものと結論づけた.これまで、チオペラミドはヒスタミンH3受容体遮断薬の標準薬として多くの研究に用いられ、その薬理作用は脳内のヒスタミン遊離を増加した結果として説明され、脳内ヒスタミンの生理的意義を探るため用いられてきたが,この結果から,これまでの報告されているチオペラミドの中枢薬理作用がヒスタミンH3受容体遮断によるものだけでなく、GABA遊離の関与も考える必要があり,全てのデータについて再検討する必要があると考えられた。また,H3-受容体リガンドの治療薬としての可能性を深る目的で,麻酔深度におよぼす影響および動揺病の予防効果について動物実験を行った.H3-受容体遮断薬により脳内ヒスタミン遊離を増強させたときの麻酔深度への影響を調べたが,チオペラミドの場合,所期の効果が観察できなかった.これは,前述のチオペラミドのGABA遊離促進効果によりマスクされたものと結論づけ,より特異性の高い薬物で再検討することとした.動揺病予防については,H3-遮断薬の投与が有効であることが分かった.
著者
高口 倖暉
出版者
千葉大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

当研究室が所有する実験住宅を活用し、室内の総揮発性有機化合物(TVOC)の挙動と温湿度や気流、浮遊粒子を同時に多点でリアルタイム測定することで化学物質の分布に寄与する環境要因を解明する。VOCs各成分の分布を調査し、化学物質の室内挙動に起因する物理化学特性(分子量・蒸気圧・密度・分配係数など)を特定する。得られた実測データを基に、計算流体力学を用いて高精度の化学物質の室内分布の予測モデルを構築する。本研究の成果は室内空気中化学物質について基礎的な知見を得ると共に、子どもや化学物質に敏感な人を対象にした化学物質を制御し、滞留させない「シックハウス症候群・アレルギー疾患」の予防システムを提案する。
著者
池田 泰久 三村 均 佐藤 修彰 新堀 雄一 小崎 完 佐藤 努 佐々木 隆之 桐島 陽 出光 一哉 稲垣 八穂広 鈴木 達也 竹下 健二
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

福島原発事故で発生した汚染物の合理的な処理・処分システム構築に向け、従来とは異なる固体・液体汚染物の性状研究、固体・液体汚染物の処理研究、発生廃棄物の処分研究の3分野に分け、基盤データの取得を行ってきた。その結果、燃料デブリの性状、核種の溶出挙動、汚染物の除染法、汚染水の処理法、高塩濃度環境下での核種の移行挙動等、燃料デブリをはじめとした従来知見の少ない海水を含む水溶液に接する条件下で発生した放射性廃棄物の処理・処分技術の開発に資する多くのデータを取得し、福島原発事故廃棄物の処理・処分方策に貢献しうるとともに、放射性廃棄物の処理・処分分野の進展に寄与しうる成果を出している。
著者
高井 啓介
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は、研究内容を以下の3点に集中して実施した。(1)「降霊術」と「腹話術」および「魔女」が描かれた図像の分析およびその分析の論文化の作業。(2)現代的エンターテインメントとしての「腹話術」の歴史に関連する資料の収集およびその分析と論文化の作業。(3)旧約聖書テキストおよびその解釈についての文献学的研究の成果をまとめる形での最終的な論文執筆作業および学会発表での成果の発表の準備。以下が本年度の成果である。(1)については、古代末期以降西洋近代以前に至るまでの図像をほぼ網羅的に収集し、その分析を進め、テキストと図像との関係性の特徴を明らかにした。(2)については、「降霊術」と降霊術師のダイモーンに関する言説が脱神話化されることにより、現代的なエンターテインメントとしての「腹話術」および腹話術師が成立していく道筋を確認することができた。(3)については、「降霊術師」の登場する旧約聖書テキストおよびその解釈をダイモーンという観点からまとめなおす作業を行った結果、論文執筆および学会発表に向けてのおおよその見通しを得ることができた。
著者
カーン カレク 北島 道夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

私どもは,これまでおよそ10年間にわたる検討から,子宮内膜症の発生および増殖・進展に関する新たな病態のひとつとしてbacterial contamination hypothesis細菌混入仮説」を提唱し発表した.子宮内膜症では非内膜症に比較して,月経血中への大腸菌混入が強く,結果として月経血中や腹水中でのエンドトキシン濃度が亢進していることが認められた.Defensinなどの抗菌性ペプチドや分泌型白血球プロテアーゼ阻害物質(secretory leukocyte protease inhibitor, SLPI)は,動物および植物に種横断的に広く存在する宿主生得免疫のメディエーターである.
著者
吉田 邦彦 遠藤 乾 辻 康夫 丸山 博 ゲーマン・ジェフリー ジョセフ 井上 勝生 上村 英明
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-07-19

第1に補償問題に関する研究はかなり進捗した。そのうちの1つめとして主力を注いだのは、先住民族研究の中のアイヌ民族に関するもので、2016年4月発足の市民会議(代表者は、分担者丸山)を本年度も鋭意続行し(2017年3月、6月、10月)、その報告書も公表した。関連して、海外の研究者との関連も密にし、コロラド大学でのアメリカ原住民研究者との意見交換(2017年5月)、アラスカ大学でのアラスカ原住民研究会議報告及び意見交換(2017年4月)(ニューメキシコ大学には前年度訪問(2017円1月))、北欧での北極圏会議の参加,ウメオ大学での北大交流会では、特にサーミ民族との比較研究に留意して意見交換をし、講演も行った(2017年6月、2018年2月)(オーストラリアのアボリジニー問題の比較研究は、前年度末(2017年3月)にオーストラリア国立大学で講義)。近時のホットな問題である遺骨返還について、ベルリン自由大学のシーア教授とも意見交換した(2017年7月)。補償問題の2つめは、済州島の悲劇に即して,ノースキャロライナ大学でのシンポを主催し、アメリカの補償責任との関係で、連邦議員とも意見交換した(2017年5月)。済州大学との提携での学生も交えたシンポも例年通り行っている(2017年8月)。さらにこの関連では、奴隷制に関わる補償論調査のためにアラバマ大学を初訪問し(2017年10月)、さらにチュレーン大学での補償問題のシンポで報告した(2018年3月)。第2に、移民問題との関係では、北大のサマーインスティチュートの一環で、UCLAのモトムラ教授、マイアミ大学のエイブラハム教授、トルコの中近東大学のカレ教授を北大に招聘してのシンポ及び講義・討論を実施した。さらにこの問題群を深めるのは、今後の課題である。関連して、メキシコ国境の環境問題についても調査する機会も得た(2018年1月)。
著者
志摩 典明
出版者
大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

強姦等の性犯罪では睡眠薬が悪用されることが多く、このようなケースでは、被害者を対象とした睡眠薬分析が、犯罪立件への強固な物的証拠となり得る。毛髪中に取り込まれた薬物は、半年~1年以上にわたって検出可能で、根本から一定間隔毎の分画分析によって、薬物摂取歴の推定も可能である。本研究では、覚せい剤等で確立された従来の液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)を睡眠薬用に最適化し、その有用性を検証する共に、従来法では頭髪を100~200本を必要とするため、検出限界の向上を試み、被害者の負担軽減を図った。更に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)によるイメージング分析法を検討し、1本の頭髪で、数日~一週間毎の摂取歴を特定できる分析法の開発を目指したものである。その結果、LC-MS/MSを用いて睡眠薬ゾルピデム単回摂取者の頭髪からゾルピデムの検出に成功した。さらに各種条件を検討することで、摂取後1ヶ月の頭髪1本からも検出することに成功した。本法を用いて、単回摂取により頭髪1本中に取り込まれる薬物量及び局在部位を検討するため、1本毎(n=15、毛根から0-2及び2-4cm)の定量分析を実施したところ、0-2cm分画からは1試料を除く全試料からゾルピデムが検出され、その濃度は27~63(42±12)pg/2-cmhair(n=14)で、比較的ばらつきがなく安定して頭髪中に取り込まれることが示唆された。また、MALDI-MSによる分析では、摂取後48時間以内の毛根から、睡眠薬としては初めて、ゾルピデムの検出に成功した。以上の結果は、日本法中毒学会(平成25年7月)で発表する予定である。
著者
斉藤 英俊 大塚 攻 河合 幸一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

1)スジエビ類および寄生種の遺伝属性: エビノコバンは、これまで沖縄県から山形県までの15県でエビノコバンを採集し、ミトコンドリア DNAの配列情報を明らかにして中国産エビノコバンのデータ(NCBLより引用)を加えて分子系統樹作成を行った。その結果、エビノコバンの分子系統樹は、本州~九州、沖縄および中国の3つのクレードに区分された。愛媛県のエビノコバン(宿主:チュウゴクスジエビ)は中国産個体に近い遺伝的属性を示したことから、チュウゴクスジエビの輸入にともないエビノコバンも中国から侵入している可能性が示唆された。2)寄生種がスジエビ類に及ぼす生態的影響:スジエビ類に対するエビノコバンの奇生生態の地域差を比較するため、前年度に引き続き野外調査をおこなった。その結果、宿主への寄生は東京都(利根川水系水路)では2018年7月(体長2mm)から2019年5月(体長12mm)までみられた。これに対して滋賀県(琵琶湖周辺河川) では2018年8月から2019年6月までみられた。また、エビノコバンの体長が比較的小型の時期にはスジエビ類よりも体サイズの小さいカワリヌマエビ類にも寄生する事例がみられた。なお、エビノコバンの室内飼育実験を試みたが、長期的なエビノコバンのエビ類への寄生状態を維持できなかった。これについては、次年度以降、野外調査データを利用してエビノコバンの寄生の有無と宿主であるエビ類の成長や肥満度の関係を解析することで明らかにできると考えている。3)スジエビ類および寄生種の流通状況:大阪府の釣具店において、スジエビ類を調査したところ、令和元年度はすべてスジエビであり、チュウゴクスジエビは流通していなかった。また、琵琶湖産スジエビに付随するエビノコバンを確認した。
著者
勝方 恵子 LESLIE Winston
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

調査研究の効率をはかるために、京都の国際日本文化研究センターや、愛媛県の高畠華宵大正ロマン館。宮沢賢治記念館などで、西欧近代をいち早く取り入れながらも日本古来の伝統にこだわり続けた地元出身の作家たちの第一次資料や文献の調査、関係者インタヴューなどに重点を置いた。具体的には、1)両性具有的な人物描写で著名な漫画家・竹宮恵子が全作品を捧げている謎の挿絵画家「高畠華宵」について調べるために、著作権を管理している遺族のインタヴューを行い、テープを起こし、英語に翻訳した。これらの情報をもとに、華宵の年代譜を作成する予定である。華宵の来歴の最も謎の部分は、第二次大戦後、弟子の一人を連れてロサンゼルスに移住し、美術学校の設立準備にあたったが、弟子の不慮の死により計画を断念して1年で帰国した経緯である。その足跡の詳細は、ロスでの調査に託されよう。遺族との会見で得た大きな成果は、「高畠華宵」再評価の先鞭をつける使命を負わされ、今後の論文執筆に際して全作品の掲載に関する著作権を許可してもらったことである。2)古文書『病名彙解』などに記載された「フタナリ」に関する記述を解読。近世期における日本や中国の見解を知る手掛かりとなった。3)京都の京都国立博物館において、『病草紙』(12世紀の絵巻物・国宝)などに「ふたなり」に関する描写を発見し、模写版のコピーを得ることが出来た。4)宮沢賢治記念館では、『銀河鉄道の夜』のカムパネルラ解釈にかんして、「中有」「中陰」「中間生」という仏教用語が多用されることの背景を探るための資料収集をすることが出来た。5)その他、谷崎潤一郎に関する文献・資料もほとんど完了し、初期作品に「両性具有イメージ」が顕著であることに関して、傍証を得ることが出来た。以上、申請書に掲げた調査予定は完了した。予算の関係で沖縄調査は断念せざるを得なかったが、別途計画したい。
著者
白根 靖大
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、院政期の貴族藤原頼長の日記である『台記』を史料学的な視座から研究し、中世古記録研究の進展に寄与することを目指すものである。『台記』は頼長の自筆本が現存せず、史料としては写本に頼らざるを得ない。その写本は近世に作成されたものが大半で、字句や記述に異同があるにもかかわらず、写本そのものの史料学的研究はほとんどない。そこで、本研究では、現存する諸写本の継承性などを精査して類型化・系統化を行い、各写本の特徴や活用するうえで踏まえるべき史料的性格を解明する。