著者
近藤 滋
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本申請研究では、動物の皮膚模様ができる原理をゼブラフィッシュを使って解明することを目的とした。研究開始時点では、ゼブラフィッシュの模様がチューリングの反応拡散波としての性質を持つことは解っていたが、その詳しい原理については未解明だった。理論から予測された細胞間の相互作用と作用分子を、細胞生物学、分子生物学的な手法を使って同定して行き、最終的には、チューリング波を作るために必要な相互作用ネットワークの同定に成功した。インビトロ系での模様形成や、ギャップジャンクションが関与する原理など、興味深い研究の種はまだ多くあるが、模様形成原理という点に関しては、ほぼ目的を完遂することができたと考える。
著者
三保 忠夫
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

古代の日本律令国家の時代から近世末期(近代の一部)までの文字資料を調査し、日本語の助数詞について検討してきた。7、8世紀の古文書・木簡等を中心とする資料、9〜19世紀の間の古文書類・古記録類・古辞書類等を中心とする資料を調査・研究した結果、ひとくちに「日本語の助数詞」と称されるものは、時代的な経緯により、性格上、「三層」構造となっていることが判明した。その第1は、「奈良時代の助数詞」であり、その第2は、「中古〜中世の助数詞」である。前者は、大陸渡来の文書行政の一環として導入され、「文書語」のひとつとして位置付けられる助数詞の体系である。後者は、それが日本社会に融け込み、日本的変容を遂げながらも、いわば「伝統的助数詞」として安定的な地位を獲得していった体系である。中世後半から近世にかけて、特に書記言語の世界において、その「伝統的助数詞」は、"典拠・故実"を有する「文書の作法・礼法」ともされた。だが、中世後半から近世にかけて、「第3の助数詞」が登場する。これは、禅宗文化や日明交易にともない、明国から(正確には元国から)入ってきた新しい助数詞の体系である。文房四宝の"筆・墨"の数量表現は、旧来の伝統的助数詞では「一管」「一挺」というが、これは「一枝」「一笏」という。江戸時代には、新時代的な言語(明国語)の体系と共に、こうした新しい助数詞が、文人・禅僧を中心とする文化人社会に行われていたのである。この「第3の助数詞」体系につき、従来、言及されることはなかった。この度、初めて明確になった知見であり、重要な研究成果であった。以上のような研究経過にともない、本研究では、個別的、具体的な種々相についての研究も行った。以後は、研究成果を速やかに公表し、各位の批判を得るよう努力する。末尾ながら、日本学術振興会より科学研究費補助金の交付を賜ったことにつき深く感謝申し上げたい。
著者
植田 弘師 塚原 完 金子 周司 崔 翼龍 酒井 佑宜 藤田 和歌子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では慢性疼痛における「痛みメモリー」のフィードフォワード機構がCentralized Pain(可塑的上位脳性疼痛)を形成するという新しい概念を提唱し、その検証研究を行うことが目的である。しかも最も重要な視点は、研究代表者が2004年に発見したリゾホスファチジン酸(LPA)とその受容体シグナルが全てに共通しているという事実にある。本研究ではこの目的を遂行するために、より多くの異なる種類の慢性疼痛動物モデルを開発・利用することから始めている。2017年度では独創的慢性疼痛病態としてEmpathy誘発型の線維筋痛症モデルと安定した脳卒中後性慢性疼痛モデルの作成に成功し、前者は論文報告とし、後者は投稿中である。LPAシグナルがこうした多くの慢性疼痛モデルの形成に関与する事は遺伝子改変マウスを用いて明らかにできているが、これに加えていったん形成した慢性疼痛に対して受容体拮抗薬などが「痛みメモリー」を消去できることも見出し、慢性疼痛の維持期にも鍵としての役割を有することが解明された。こうした「痛みメモリー」は脳のみならず末梢免疫系ともリンクしていることが次第に明らかとなりつつある。脳における責任領域と各種脳組織や末梢組織における責任細胞や責任分子の同定にはRNA解析を基礎とした遺伝子解析から上流と下流シグナルを同定する研究準備を行っている。特に脳における責任領域の同定のために、Imaging-MS解析とPET解析、光遺伝学を用いた分子レベルでの機能検証研究を実施している。
著者
三好 康之 亀田 雅博 上利 崇 菊池 陽一郎
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012

視床下核などに対する深部脳電気刺激療法(DBS)は、パーキンソン病(PD)患者のwearing-offを改善し、ADL、QOLの向上をもたらすことが可能なため、重度のPD患者に対する有用な治療手段として確立している。近年、諸外国より、認知行動療法、薬物療法などのいかなる治療によっても十分な効果を得られなかった重度のうつ病患者に対してDBSが有効だったという報告が相次いで寄せられている。しかし、我々日本の脳外科医の立場からすると、動物実験に基づくscientificなデータの乏しさゆえ、DBSでうつ病を治療することが、医学的にも倫理的にも妥当なのか判断できないのが現状である。このような背景から、本研究ではうつ病に対するDBSの効果について、動物実験によるscientificな評価を行うことを目標として、今年度はうつ病モデルとしてどのモデルを利用するか検討した。これまでの報告では、うつ病モデルとしては、Tail suspension model、Forced swim model、Learned helplessness modelといったものがあり、これらはすでに抗うつ薬の評価などで用いられており、うつ病モデルとしてすでに十分に確立されているが、検討を重ねた結果、モデル作成から治療効果の評価といった一連の過程において安定した実験結果を得るためにはForced swimならびに,learned helplessnessを利用した市販システムを用いて実験を組むのがベストという結論を得た。
著者
上杉 彰紀 米田 文孝 長柄 毅一 清水 康二
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成29年度には、まず平成29年6月にバハレーン国立博物館において西暦紀元前後の時代の墳墓から出土した石製装身具のデータ化および分析を実施した。これはバハレーンを含むアラビア半島において出土する石製装身具が南アジア方面からもたらされたと考えられるためで、その可能性を実証的に検証し、南インドの社会が海洋交易にどのように関わっているか考察することを目的としたものである。調査の結果、西暦紀元前後の時代にバハレーン島の墳墓で出土する石製装身具は南アジア産である可能性が高いことが明らかとなった。今後、調査時に作成した玉の孔のシリコン型の顕微鏡観察を進め、南アジア産の可能性をより高い精度で検討する予定である。平成29年7月には、ケンブリッジ大学考古学・人類学博物館に所蔵される南インド巨石文化の墳墓から出土した石製装身具のデータ化を行った。石製装身具は、北インドと南インド、そして海洋交易を通じて西のアラビア半島や東の東南アジアとの関係を考える上で重要な資料である。南インド巨石文化の遺跡から出土する石製装身具は同時代の北インドの例との類似点が多く、北インドからの製品搬入のみならず技術移転によって南インドでも生産されるようになったと考えられる。それは南インド社会がより複雑化する過程を投影したものと評価できる。平成29年9・10月には、インド、ケーララ州およびマハーラーシュトラ州において巨石文化期の墳墓群の分布・測量調査を行った。広域に広がる墳墓群の悉皆的分布・測量調査はこれまでほとんど行われておらず、そうした調査は南インド巨石文化を研究する上での基礎資料となる。また、ハリヤーナー州に所在する青銅器時代・鉄器時代の遺物の記録化を実施し、南インドとの比較資料の蓄積を進めた。平成30年3月には同じくケーララ州およびマハーラーシュトラ州において分布・測量調査を実施した。
著者
関沢 和泉
出版者
東日本国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

日本の大学をはじめとした高等教育の改革において、組織ガバナンスの改革が課題とされています。そのために英米やドイツ、フランスの事例が先進事例として参照されるのですが、イタリアの事例が言及されることはあまりありません。しかし、イタリアは、主要な設置形態等で違いはありますが、英米モデルを参照しつつ実施された1994年からの各大学への評価制度導入を伴う権限委譲、2010年から学長権限強化、そしてその後の困難というプロセスが日本と類似しています。そこで一連の流れを構造的に分析することで、日本での改革において、同じ困難に陥らないようにするための条件を見出します。
著者
溝口 俊弥
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

非コンパクト剰余類に基づく N=2 超対称共形場理論によって特異的なカラビヤウ多様体を記述し、それをヘテロティック弦に応用した。一般の極小共形場理論が結合した系での局在場のスペクトラムを導き、特に3世代模型を構成した。一方、孤立特異点をもつ非コンパクトカラビヤウが、NS5-ブレーンと双対である事実に基づいて、交差する 5-ブレーンを表す超重力解中のゲージーノのディラック方程式を解き、 E6 の 27 および 27* に属するゼロモードがそれぞれ2および1世代存在することを示した。さらに、それが超対称シグマモデルの結果と一致することを示し、準南部・ゴールドストンフェルミオンによる世代統一の可能性を指摘した。
著者
皆川 泰代 山本 淳一 青木 義満 檀 一平太 太田 真理子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

本研究は自閉スペクトラム症(ASD)を主とする発達障害のリスクを持つ乳児と定型発達児を対象として,新生児期,月齢3ヶ月時期から3,4歳までの脳機能,知覚・認知機能,運動機能を縦断的に計測するコホート研究である。特に言語コミュニケーションに障害を持つASDリスク児と定型児の発達過程を比較することで,言語やコミュニケーション能力の獲得における脳,認知,運動の機能発達の関係性,発達障害を予測する生理学的,行動学的因子の2点を解明する。これまでの研究で非定型発達の脳機能結合特性等を明らかにする等,成果をあげたが,本研究は,貴重な本リスク児コホートを継続追加し,より詳細な検討を行うための研究である。
著者
青山 善充 紺谷 浩司 池田 辰夫 石井 紫郎 河野 正憲 瀬川 信久 加藤 雅信 松下 淳一 植田 信廣 三谷 忠之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本科研費による共同研究においては.10国立大学法学部(北大・東北大・東大・名大・阪大・香川大・岡山大・広島大・九大・熊本大)が.最高裁の方針により廃棄の運命にあった明治初年から昭和18年確定分までの民事判決原本を.各地の裁判所から暫定的に移管をうけたのを契機として.この貴重な史科群の保存利用に関し、多面的な検討を行った.具体的には.本研究会に4分科会を設け(外国法制研究、恒久計画測定.保存対策.プライヴァシ-.データベース).それぞれが核となって検討を重ねた結果、以下の知見を得た:1.民事判決原本に関する外国法制調査ヨーロッパ諸国(ドイツ・フランス・イギリス・イタリア・北欧).アメリカ合衆国.韓国.台湾.パナマといった諸国において.民事判決原本が如何なる機関において.如何なる期間保存され.どのように利用に供されているかを.現地調査やヒヤリングをも含めて調査した.この結果、国立の公文書館において.行政・立法の公文書とあわせて現用をおえた司法府の公文書を保存し.利用に供するのが一般的であること.そのシステムは.日本に比して発達した公文書館制度と表裏をなしていることが明確になった.2.日本における民事判決原本恒久保存施設の模索上記1に得た比較法的知見を踏まえて9民事判決原本の恒久的保存利用施設として如何なる機関が適切であるかを検討したところ.大学での保管はあくまで暫定的でイレギュラーな緊急〓措置であり.国立公文書館・国立国会図書館といった既存施設にもそれぞれ難点があるので.やはり.(名称はともあれ)司法資料を収容する国立の文書館を新設するのが筋であるという結論に達した.なお.このことと.民事判決原本を地域的に一箇所に集中するか地方分散とするかは.必ずしも必然的に結びつくものでないということが了解された.3.大学保管中の保存対策2の恒久保存施設に民事判決原本を移管するまで.3乃至4年間をめどに大学が保管の責務を負うのであるが.その間の保存対策について.史料保存学専門家の意見をきいて.協議し.空調・防虫対策・保安措置等について.各大学に助言を行うことができた.4.大学保管中の利用ガイドライン策定大学保管中に.大学は.可能な限り民事判決原本を学術利用に供することが移管に関する最高裁との協定からも望ましいが.これには.史料の性質上.プライヴァシ-保護を中心とする微妙な配慮を必要とする.これらの点を考慮しつつ.本研究会は.学術利用と事件当事者による閲覧との二類型を念頭においた詳細な利用ガイドラインとそれに応じた利用申請書式を策定し.それを.各保管大学で使用することとした.5.民事判決原本のデータベース化これまで民事判決原本へのアクセスを困難にしてきた最大の理由は.その検索の困難性にあった.この点は.民事判決原本に含まれるデータをデータベース化することによって大きく改善される.と同時に.原本自体を画像入力することによって.貴重な原本の損耗を防止できる.この見地から.フィージブルな民事判決原本データベースを模索した結果.明治23年までの判決原本を全文画像入力し.これに.最小限の項目データを付して検索の便を図ることが最善であるとの結論に達し.国際日本文化研究センターがこの作業を引き受けることとなった.
著者
武内 清 岩田 弘三 濱嶋 幸司
出版者
敬愛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

学生文化の変遷を、学生調査のデータをもとに考察した。特に、大学の「学校化」、学生の「生徒化」という側面に注目した。調査は2013年秋に全国の15大学(国立3校、私立12校)の大学生2789名から回答を得た。データから、現状に満足している学生の「生徒化」が読み取れた。授業の出席率は上昇し、授業満足度、友人関係満足度、そして大学満足度も上昇した。学生は、真面目で、素直で、従順になっている、つまり「生徒化」している。その背景には、大学生の就職難への対応と大学改革や各大学の努力の結果でもある。
著者
中山 大介 増崎 英明 三浦 清徳
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

自己免疫疾患の多くは女性に多く、妊娠により症状が変化するが、そのメカニズムは不明である。本研究では妊娠中に胎児細胞が母体血中に混入して母児の融合細胞を生じる現象(マイクロキメリズム)に着目し、自己免疫疾患のひとつである全身性強皮症患者を対象として患者血中から胎児DNAの検出を試みた。全身性強皮症患者では、他の自己免疫疾患患者と比較して血中に胎児由来のDNAが高い割合で検出され、マイクロキメリズムが発症に関与していることが示唆された。
著者
岩山 訓典
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

サンプル : アスピリン(ASA)腸溶錠100mgとテルミサルタン(TEL)錠40mgを1錠ずつ一包化した。保存条件 : 両薬剤が接触した状態で恒温恒湿器内に温度を30℃、湿度は75%RHまたは93%RHの条件下において1週間静置した。評価法 : 日本病院薬剤師会「錠剤・カプセル剤の無包装状態での安定性試験法について(答申)」に従った。結果 : 配合(形状)変化 : 両湿度条件でも変化が確認され、特に93%RH条件下では、TELの外観変化は著しく、以後の評価に影響を及ぼす可能性があるため、30℃/75%RH条件を採用した。・重量変化 : 保存前と比較して、両錠剤とも増加したことから吸湿の関与が示唆された。・硬度 : 両薬剤とも低下する傾向が見られたが、いずれも規格値内であった。・溶出試験 : ASA溶出率は40%であり、規格値外となった。また、ASAの分解物のサリチル酸は、増加した。TELでは大きな影響は見られず、規格値内であった。・含量試験 : ASA腸溶錠のみ実施した。ASA含量の低下が認められ、規格値外となった。・形状変化の原因探索 : ASA腸溶錠とTEL以外のアンギオテンシン受容体抗薬、ASA腸溶錠とTEL錠80mg (フィルムコーテング錠)との組み合わせでは、配合変化は観察されなかった。配合変化は、腸溶錠コーティング剤とTELとで反応している可能性が示唆された。・他の配合変化の組み合わせ : ラベプラゾール錠(腸溶錠)とTEL錠40mg (裸錠)との組み合わせでは、ASAと同様の配合変化が見られた。・配合変化の回避方法 : 一包化の薬剤を密閉容器に保管し、30℃/75%RH条件下で静置したところ、配合変化は見られなかった。以上のことから、配合変化したASA腸溶錠を患者が気付かず服用してしまうと、ASAの薬効に影響を及ぼす可能性が考えられる。配合変化は、腸溶製剤とTEL錠(裸錠)の組み合わせで高湿度状態により起こる可能性がある。そのため、乾燥剤存在下で保存するなどの湿度対策ができれば、配合変化を防止できると考えられる。本研究は、患者の一包化で服用できるベネフィットの低下を防ぐのに貢献するものである。
著者
Hanley Sharon
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

若い女性の子宮頸がんが増加しており、この多くの女性達は子宮頸癌検診を受けていない。本研究は、受診率向上へのHPV自己採取検査(SS)の有効性を検討した。検診受診者のSS道具の受入れや安全性に関する実現可能性の研究と、30歳未満の道具の受入れに関する質的研究を行った。職場健診で、医師による子宮頸癌検診とHPV検査の前に受けたSSは、痛みと恥ずかしさが有意に少なく、よりリラックスでき、指示も分りやすいと回答した。安全性への懸念は報告されていない。しかし、道具が注射器や台所用品のようだとの若い女性の感想があり、小さめの道具が好まれる傾向があった為、これからより小さい道具を用いた研究を行う予定である。
著者
佐久間 まゆみ 藤村 知子
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

日本人大学生と外国人留学生による2種の尾括型の論説文による要約文の表現類型と、日本語教師・国語教師・日本人大学生各5名による3種の評価調査の結果を比較して、両者の異同とその要因を明らかにした。その結果、日本語の論説文の「要約規則」を導き出し、要約文の作成方法と評価基準に関する以下のような結論を得た。(1)日本人と留学生による要約文の原文残存必須単位の組み合わせに基づく表現類型には、日本人の要約文は原文と同じ尾括型の類型が多いが、留学生の方は、内容・表現ともに問題のある異質の類型がある。(2)要約文の表現類型と教師と学生による評価には、関連性があり、各集団において、原文に近い類型のものほど偏差値平均は、日本語教師の留学生要約文の評価平均による評価が高く、原文と異なる類型は低いという傾向がある。(3)国語教師の日本人要約文の評価平均よりも高く、大学生の評価もこれに準ずる。(4)要約文の表現類型は、教師の要約文の評価の平均偏差値や評価項目と関連があり、一般に、「結論・要点」を備え、「具体例・要約者の意見・原文以外の内容」を含まず、「文章構成・文のつながり・まとまり・簡潔さ」を満たす要約文ほど評価が高い。これらは、論説文の「要約規則」や「要約技法」と見なすことができる。(5)国語教師は日本人要約文を、文章構成や簡潔さ等の表現面の巧拙を重視して評価するが、日本語教師は留学生要約文を、内容理解や「語句・文法・表記」等の正確さに主眼を置いて評価する。(6)日本語教師の留学生要約文の評価において、評価の高い要約文の偏差値平均は国語教師よりも高く、評価の低い要約文の偏差値平均は国語教師より低い。今後の課題として、より多くの資料を用いて、本研究で得られた結果の妥当性をさらに検証する必要があるが、要約文の表現類型の分類基準の精度を高め、情報伝達の手段としての要約技法を解明することが残されている。
著者
関 善弘
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

近年、急速に発達したイメージング研究により、ミクログリアが統合失調症の病態に深く関わることがわかってきた。ミクログリアは炎症性サイトカインの産生を介して白質に異常をきたし、病態を形成することが明らかになりつつある。また、統合失調症モデル動物においてオリゴデンドロサイト障害が指摘されており、活性化ミクログリアがオリゴデンドロサイトに影響を及ぼすことが想定されているが、いまだ詳細な報告はない。そこで本研究では活性化ミクログリア/オリゴデンドロサイトの共培養系を用いて、活性化ミクログリアと共培養後のオリゴデンドロサイトの病理学的変化について検討を行い、以下の(1)-(3)の結果を得た。(1)活性化ミクログリアはオリゴデンドロサイトにアポトーシスを誘導した。(2)非定型抗精神病薬であるアリピプラゾール(ARI)と抗生物質であるミノサイクリン(MINO)はオリゴデンドロサイトのアポトーシスを抑制した。(3)MINOは活性化ミクログリアの細胞内においてSignal Transduction and Activator of Transcription(STAT)-1のリン酸化を抑制し、炎症性サイトカインの産生を減少させていた。本実験の結果を受け、統合失調症モデル動物でin vitro実験の結果を検証すべく、免疫組織学的検索、分子生物学的検索や、代謝イメージング法などを用いた動物実験を推進している
著者
植田 弘師 澄川 耕二 井上 誠 藤田 亮介 内田 仁司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

神経損傷に伴う難治性の神経因性疼痛の分子機構解明において、リゾホスファチジン酸(LPA)をめぐる治療標的分子の同定に成功した。主たる働きは知覚神経と脊髄後角におけるLPAの逆行性シグナルとしての脱髄や遺伝子発現制御とLPA合成を介する疼痛増強する機構である。脊髄内におけるLPA誘発性のミクログリア活性化、上位脳における同様なフィードフォワード機構、疼痛制御遺伝子発現のエピジェネティクス性増幅制御の存在など、新しい視点に立った創薬基礎を築いた。
著者
石川 敏三 仲西 修 掛田 崇寛 山本 美佐 古川 昭栄 伊吹 京秀 徳田 信子 石川 浩三 鈴木 秀典
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性疼痛はしばしば不安や鬱を併発し、極めて難治性である。そこで、痛覚ー情動系における分子メカニズムを解明し、また神経栄養因子(BDNF)治療応用について検討した。その結果、前帯状回や脳幹部(網様体)におけるモノアミン変調に随伴したBDNFの機能低下が慢性疼痛や気分障害に関連すること、またカテーコール化合物や磁気治療の有用性が判明した。慢性疼痛の治療法に新たな指針を提唱するものと考えられる。