著者
鈴木 淳 上野 洋三 久保田 啓一 西田 耕三 井上 敏幸 山田 直子 上野 洋三 鈴木 淳
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

山形県鶴岡市致道博物館所蔵の、庄内藩第7代藩主酒井忠徳の和歌・俳諧資料は、大名の文事研究の基礎固めのために、全資料を漏れなく集成することを前提として、和歌・俳諧の二つに分け、和歌については、和歌資料目録と同翻字篇(詠草その他・短冊・書簡)に、また、俳諧についても、俳諧資料目録と同翻字篇(俳諧之連歌・一枚刷・詠草その他・短冊)にまとめ、それぞれに解説を付した。この忠徳の和歌資料は、大名家における和歌製作時の、また、和歌修業の実際を伝えるものであると同時に、冷泉家と日野家が入れ替る当時の堂上歌壇の変化を生々しく写したものであり、他に類例を見出しえない貴重な資料であることが判明した。また、俳諧資料は、断片類までの全てが、大名の点取俳諧の実際を具体的に伝えるものであり、この資料の出現によって、初めて大名の点取俳諧の実際、俳諧連歌の創作の場、宗匠と連衆達の遣り取り、点を付け、集計し、賞品を贈るという点取俳諧の手順の実際等々が明らかとなったといえる。長野県長野市松代藩文化施設管理事務所(真田宝物館)、および国文学研究資料館史料館所蔵真田家文書、並びに同館真田家寄託文書中の真田幸弘の和歌・俳諧資料の調査は、ようやく全体を見渡せる地点に達したといえるが、資料の蒐集整理は、その作業に着手したばかりである。現在の進捗状況を示しておけば、 1,百韻620余巻分の詳細調査カード 2,『引墨到来覚』の翻字(全7冊中の3冊分) 3,『御側御納戸日記』全8冊よりの抄出翻字 4,幸弘追善俳書『ちかのうら』の紹介 5,和歌・俳諧・漢詩詠草類リストその他である。真田幸弘の俳諧資料は、総体では10万句を越える厖大なものであり、現時点において日本第一の大名点取俳諧資料だということができる。今後この真田家資料と酒井家資料とを重ねてみれば、大名の点取俳譜の全貌が見えてくる筈である。また、大名家の文事が、親しい大名仲間を核として、和歌・俳諧、さらには漢詩へと広がっていることが特に注目される。酒井家・真田家資料全体の調査研究を通して、新しい近世文学史の構築が期待できるように思う。研究はこれから始まるといってよいであろう。
著者
大野 希一 山川 修治 大石 雅之 高橋 康 上野 龍之 井田 貴史
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.535-554, 2005-12-30
被引用文献数
1

A cloud height generated by a volcanic eruption reflects the immensity and/or magnitude of the eruption; thus a measuring of the height's temporal variation during the event is very significant in judging whether the activity will become violent or decline. However, when a volcanic eruption occurs during bad weather, we must take information about the cloud's height by means of the pyroclastic deposits. In general, the total time taken for pyroclastic materials to be ejected and deposited at a given distance from the source vent can be divided into three parts as follows : the time for the eruption cloud to ascend and reach its neutral buoyancy level (T_1); the time for the pyroclastic materials to be transported laterally by the eruption cloud (T_2); and the time for pyroclastic materials to fall and be deposited on the ground (T_3). Since T_3 can be calculated from the settling velocity of pyroclastic materials, if the time that the pyroclastic materials fell at a given locality was observed and a given value for T_1 is assumed, the most suitable wind velocity to explain T_2 can be determined. Thus the height at which pyroclastic materials separate from the eruption cloud can be determined by using the vertical profile of wind velocity around the volcano. These ideas were applied to the eruption occurred at 19:44 (JST) on September 23, 2004, at the Asama volcano, which produced a pyroclastic fall deposit with a minimum weight of 7.2×10^6kg. Because this eruption occurred in bad weather, the pyroclastic materials fell as mud raindrops that were aggregate particles saturated by the rainwater. Based on the depositional mass, the number of impact marks of the mud raindrops in the unit area, and the apparent density and the equivalent diameter of these drops during their fall was estimated to be 2.2-3.1mm, which is consistent with the grain-size distribution of pyroclastic materials. According to some experienced accounts, mud raindrops several millimeters in diameter fell at 20:03 in the Kitakaruizawa area (about 9km north-northeast from the source). Assuming 2-5 minutes for T_1 and 11.5-12.0m/s of average lateral wind velocity, the height at which the mud raindrops separated from the eruption cloud can be estimated at 3,430-3,860m (3,610m on average). From this conclusion, the transportation and depositional process of the pyroclastic materials generated on September 23, 2004, at the Asama volcano can summarized as follows : the explosion occurred at 19:44 and the eruption cloud rose to 3,610m while blowing 2.49km downwind from the source. The cloud moved laterally for 4.51km with generating raindrops. At 19:54, mud raindrops separated from the cloud 7.0km north-northeast from the source, then fell to the ground at 20:03 after being blown 2.0km downwind by a lateral wind.
著者
上野 俊一
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.137-153, 1975

屋久島からは, これまでにチビゴミムシ類が3種知られ, そのうちのひとつは固有種, 他のひとつは固有の新属新種であることがわかっていた。1974年の夏に行なった現地調査で, 従来調べられていなかった地域からさらに1新種が発見されたので, 屋久島産のチビゴミムシ類は全部で4種になった。これらは次ぎのとおりで, あとのふたつが新種および新属新種である。1) ホソチビゴミムシ Perileptus japonicus H.W. BATES 2) ヤクシマチビゴミムシ Epaphiopsis (Pseudepaphius) janoi (JEANNEL) 3) ワタナベチビゴミムシ E. (P) watanabeorum S. UENO 4) ツヤチビゴミムシ Lamprotrechus convexiusculus S. UENO 以上の4種のうち, ホソチビゴミムシだけはよく発達した後翅をもち, アジア東部に広く分布しているが, 他の3種は後翅の退化した飛べない虫で, 屋久島以外の地域から発見される可能性がない。ヤクシマチビゴミムシとワタナベチビゴミムシは, ともにケムネチビゴミムシ属 Epaphiopsis のサイカイチビゴミムシ亜属 Pseudepaphius に含まれる。この亜属の種類は日本の南西部に広く分布するが, とくに四国と九州とでいちじるしい種分化を遂げ, 亜属の起源がこのあたりにあったことを示唆している。屋久島産の2種も, もともとは南九州から移住したものに違いないが, 木土の種類とは上翅の剛毛式が明らかに異なるので, 特別の種群として区別できる。したがって, これらの種の共通の祖先は, かなり早い時期に南九州の母体から隔離され, その後さらに同所的な種分化を起こして今日にいたった, とみてよかろう。両種はたがいによく似ているが, ワタナベチビゴミムシのほうが小型で扁平, 体色が暗く, 前胸背板の後角がひじょうに鈍くて小歯状にならず, 上翅の条線は浅くて点刻がきわめて弱い。また, 雄交尾器の形態にも顕著な相違が見られる(図2acd;5参照)。最後のツヤチビゴミムシは, 四国の高山に生息するヒサゴチビゴミムシ属 Iga のものにかなりよく似ているが, 上唇の前縁が深く切れこんで二片状になっていること, 前胸背板の側縁が完全であること, 上翅の剛毛式がいちじるしく異なること, 前脛節の外縁に縦溝がないことなどの点で明らかに異なり, 後者との関係も直接的なものではないらしい。しかし, どちらの属も, かつてヒマラヤから東アジアにかけて広く分布していた有翅の祖先型から分化し, 高山の特殊な環境だけに生き残ってきた遺存群であろと考えられる。この原型に近いと思われる形態を現在までとどめているのは, 台湾, 北ベトナム, 北ビルマおよびヒマラヤに分布するハバビロチビゴミムシ属 Agonotrechus である。いっぽう, 特殊化した型のほうは, 四国, 屋久島, 台湾, 雲南, チベットおよびヒマラヤ東部のいずれも高山のみに生息していて, それぞれ孤立した特徴をもち, 相互の関係がかならずしも近くはない。この群のチビゴミムシ類は九州からまったく見つかっていないが, ツヤチビゴミムシの起源が九州のどこかにあったことはまず間違いなかろう。おそらく更新世の初期に九州から屋久島へ侵入したものが, 島が分離されるとともに八重岳の高所へ定着して現在まで生き残ってきたのであろう。要するに, チビゴミムシ相から見た屋久島は, 大きくとれば九州や四国と同じ生物地理学上の地域に含まれるけれども, これらとのあいだにかなり顕著な断絶が認められる。隔離された島としての歴史がそれほど古くないにもかかわらず, このように特殊性が大きいのは注目すべき事実で, おそらく八重岳が孤立した高山として離島の役割を果たし, しかも降水量が多くて良好な生活環境が保たれてきたことに起因するのであろう。
著者
上野 誠也
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.386-391, 2008-07-01

航空宇宙システムの制御系は,その故障が重大な人身事故や多額の損失に至るために,高い信頼性が要求されている.本稿では,事例を紹介しながら,開発の歴史や将来の方向性を解説する.航空システムの制御系は,機体に搭載されたハードウエアのみならず,パイロットを含む閉ループ系で考察する必要がある.さらに地上支援の管制を含めれば,管制官を含むシステムで信頼性を扱う必要がある.安全性を高める目的で様々な対策が取られているが,人間が介在するために,人間中心の設計が重要であることが要求されている.一方,宇宙システムでは逆に人間が介在できない環境下で長期間運用することが要求されている.制御系を構成する電子部品には宇宙空間は厳しい環境であり,その環境でシステムが連続的に成立し続けることが必要である.高い信頼性の部品を使用し,冗長構成が採用され,故障が生じた時のFDIR機能を組込んだ制御系が使用される.それが厳しく制限させられたリソース内で実行されなければならない.また,ハードウエアの信頼性だけでなく,ソフトウエアの信頼性も高めることも必要である.その対策の事例を紹介する.
著者
上野正彦
雑誌
日法医誌
巻号頁・発行日
vol.17, pp.333-340, 1963
被引用文献数
1
著者
上野 茂昭 大川 博美 市原 史基 山田 哲也 島田 玲子
出版者
公益社団法人 日本冷凍空調学会
雑誌
日本冷凍空調学会論文集 (ISSN:13444905)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.193, 2018-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
5

本研究では鶏唐揚げの保存性を向上するために,種々の条件で保存した鶏唐揚げの衣の食感,肉のやわらかさ,ジューシーさ等を測定し,揚げたての品質を保つための保存条件の検討を行った.破断圧縮試験では25℃40%RH 条件が揚げたてに近い結果となった一方,高温度または高湿度条件では試料の脱液の進行に伴い硬化が認められた.40℃や40%RH 程度で保存することにより,他の条件に比べて鶏唐揚げは歩留まりよく,サクサクでジューシーな状態を保持可能であることが分かった.
著者
古川 全太郎 笠間 清伸 片山 遥平 秋本 哲平 上野 一彦 堤 彩人
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.23-00105, 2023 (Released:2023-12-20)
参考文献数
29

本論文では,浸透固化処理した砂質土を対象に実施された非排水中空ねじりせん断試験結果をもとに,地震時の液状化による構造物被害予測プログラム(FLIP)を用いて地震応答解析を行う際に必要な液状化パラメータを,浸透固化処理土の一軸圧縮強さから適切に設定する方法を示した.加えて,浸透固化処理工法で背後地盤を液状化対策した岸壁を対象にモンテカルロシミュレーションを行い,浸透固化処理部の一軸圧縮強さの空間的ばらつきが岸壁の地震時残留変位に与える影響を確率統計的に分析した.さらに,解析結果を浸透固化処理後の地盤調査に活用することを目的として,調査数に依存して生じる統計的推定誤差を考慮し,岸壁の地震時残留水平変位について信頼性水準に従って要求性能を照査する手法を提案した.

1 0 0 0 OA 赤カビ毒 (I)

著者
上野 芳夫
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.403-414, 1973-10-05 (Released:2010-03-01)
参考文献数
86
被引用文献数
4 5
著者
上野 真一 波田野 琢 服部 信孝
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.455-457, 2023 (Released:2023-11-27)
参考文献数
15

Parkinson disease (PD) is a neurodegenerative disease with various motor and non–motor symptoms such as bradykinesia, rigidity, tremor, constipation, sleep disturbance, cognitive dysfunction, and depression. Although multiple risk factors including aging, genetic predisposition, and environmental factors are involved in the pathogenesis of PD, the number of patients with PD has been increasing in recent years in the world. Previous reports have shown that the severity of PD is high in elderly patients from the early stage of the disease and that a particularly high percentage of them have symptoms such as impaired postural instability, freezing of gait, hallucination, and cognitive dysfunction that reduce their quality of life (QOL). In addition, it is necessary to take into account factors that may reduce motor function, such as frailty, cerebrovascular disease, and spinal disease, as well as the effects of multiple medications for comorbid diseases and the environment surrounding the patient, such as elderly caregivers. In this section, we discuss future issues, focusing on the epidemiology of PD.
著者
丸山 記美雄 上野 千草
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.23-00136, 2023 (Released:2023-11-20)
参考文献数
17

本研究の目的は,アスファルト混合物が水の存在や凍結融解が作用することで受ける影響を実験に基づいて定量的に評価することにある.室内試験によって,アスファルト混合物は水が浸透し凍結融解作用を受けることで,骨材飛散やひび割れに対する抵抗性が低下することを確認した.さらに,その影響程度を定量的に評価した結果,凍結融解作用が及ぼす影響は水分の含浸のみが及ぼす影響と比べても大きなものであると評価された.また,凍結融解作用はアスファルト混合物の空隙を増加させるが,アスファルトモルタル内部に元々存在する空隙を拡大させるだけでなく,骨材とアスファルトモルタルの境界面に沿って新たに空隙を形成しながら進行することや,混合物の骨材粒度や使用するアスファルトの種類によって凍結融解抵抗性が異なるなどの知見も得られた.
著者
小野寺 誠 塚田 泰彦 鈴木 剛 三澤 友誉 上野 智史 全田 吏栄 菅谷 一樹 武藤 憲哉 反町 光太朗 伊関 憲
出版者
福島医学会
雑誌
福島医学雑誌 (ISSN:00162582)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.57-64, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
26

要旨:【目的】福島市消防本部管内における照会回数5回以上の救急搬送困難事案に対して救急専従医である地域救急医療支援講座による二次救急輪番当直支援の有用性について検討すること。【方法】2017年1月より2020年12月までの4年間に福島市消防本部管内で発生した救急搬送困難事案を対象とした。対象データは,福島市消防本部で保存している救急搬送記録簿,および地域救急医療支援講座から輪番当直支援を行っている二次救急医療機関4病院(以下,A~D病院)の救急車搬送時間記録簿から抽出した。4病院別に救急搬送数を調査し,平日で地域救急医療支援講座から当直支援を行った日(以下,支援日)と行っていない日(以下,非支援日)の二群に分け,救急搬送困難事案数および比率を検討した。【結果】調査期間内に4病院へ搬送された救急車は計34,578台,そのうち搬送困難事案数は589件(1.7%)であった。支援日と非支援日を比較すると,4病院ともに支援日での救急搬送困難事案数は少なく,比率も有意差をもって支援日で少なかった(A病院6件 vs 34件:p < 0.001,B病院7件 vs 26件:p < 0.001,C病院5件 vs 35件:p < 0.001,D病院0件 vs 28件:p = 0.025)。【結語】福島市二次救急医療機関に対する当講座の輪番当直支援は,救急搬送困難事案を有意に減少させていた。救急専従医による適切なトリアージが要因と考えられ,救急専従医が不足している地域での有用なモデルになる可能性がある。