著者
MORI James Jiro 伊藤 久男 柳谷 俊 松林 修 加納 靖之 木下 正高 MA Kou-fong
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々は,車籠埔断層を横断する温度プロファイルを観測するために,深さ250mのボアホールを掘削した.この掘削場所は1999年集集地震による温度異常が2000年に観測された場所のごく近傍である.2008年と2010年の温度測定では,温度異常は観測されなかった.このことは,2000年に観測された温度シグナルが地震による摩擦発熱による真のシグナルであったことを示している.
著者
大場 正昭 伊藤 一秀 小林 信行 倉渕 隆 菊池 世欧啓 菊地 世欧啓
出版者
東京工芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、様々な風向時における建物内外の乱流構造について風洞実験と数値シミュレーションにより検討し、局所相似モデルを提案し検証するとともに、開口部到達全圧の推定方法を提案した。得られた知見は次のとおりである。(1)アプローチフローが建物開口部に正対する条件では、建物前面下部に形成される循環流と開口部直上面を下降する気流との相互作用により、下向きの運動量輸送が開口部直前で増大し、流入気流が開口部を急激に下降しながら室内に流入した。開口部の圧力損失係数は流入角と風向角に依存した。(2)建物内外の乱流構造の把握を自的とした風向正面の場合の通風気流に関する乱流モデルの予測精度検証を行った。LKモデル,LK改モデルは、標準k-εモデルでは困難である建物前面下部の大きな循環と流入気流の下降をある程度再現し,流入乱流エネルギーの過大評価を緩和できた。LESモデルは通風量,風速ベクトル,乱流エネルギー,風圧係数等の統計量に関して風洞実験結果とよく対応し,k-εモデルに対し大きな改善が見られた。(3)開口部の流管形状解析から、開口部付近の短い区間での加減速の影響により,この区間の流管形状に大きな変化が生じていることが明らかになった。(4)様々な風向における通風時の乱流構造の把握において,風向角変化に伴う圧力変化について考察し,風向45゜まで全圧が概ね一定,以後低下する原因は風上コーナーでの気流の剥離に伴う乱流エネルギー生産でことが判った。(5)通風の局所相似性の仮定に基づく通風量予測モデルを提案し,妨害気流の横風成分が強い通風気流に対して.局所相似モデルは風向角に依らず一意的に開口部の流入特性を表現できることを示した。(6)壁面近傍の動圧測定値を風圧に加算して、開口部到達全圧を簡便に推定する方法を提案した。今回のケースでは開口部長辺の1/4程度壁面から離れた地点の動圧を用いることが適当であり,全圧の簡易測定結果は直接測定結果とよく対応した。
著者
湯上 登 東口 武史 伊藤 弘昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

超高強度超短パルスレーザー(ITW,100fs)を窒素ガス(50Pa)に集光し、そこから発生する電磁波の観測を行った.観測された電磁波のパルス幅は、実験条件には依存せず、200ps程度であった.電磁波の周波数は、周波数によって異なる感度を有する4種類のディテクターを用いて行った.電磁波は、レーザー進行方向に対して、30度程度の方向に強く放射され、コーン状の分布を有していることが確認された.また、電磁波の偏向方向は半径方向を向いていることが、すべての周波数領域において確認された.周波数の上昇とともに、放射角度が浅くなる傾向にあった.周波数は最大300GHzが観測されている.この実験結果を説明するために、プラズマ導波路を考えた.つまり、高強度レーザーが集光するとそのポンデラモーティブカによって、電子は排除されイオンだけが残った円筒状のプラズマ柱が形成される.イオンの電場を感じて電子は振動運動をすることになり、それが電磁波の放射を生み出す結果となる.電子の振動は径方向であるので、電磁波のモードはTMO1モードとなり、これは電磁波の偏向が半径方向である事実に適合する.また、数値計算を行ったところ、電磁波の周波数広がりが実験結果とよく一致した.また,高周波数の成分が浅い角度で放射される実験結果と一致する結果を得ている.以上より、レーザープラズマからの電磁波放射に関しての知見が得られ、今後高周波化、テラヘルツ化の実験の指針を得ることができた.
著者
永井 順也 伊藤将志 渡邊 晃
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告高度交通システム(ITS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.107, pp.39-44, 2008-10-30

地震等の災害時には,被災情報の配信や安否確認などの情報通信の必要性が高まる.混乱している被災者に確実な情報を与え,正しい行動をうながすことは二次災害の防止に役立つ.そのため,破壊されたネットワークの復旧や,新たなネットワークの構築など通信網の早急な整備が必要となる.特に断線による障害はネットワークが有線接続しているために発生する.そこで,被災地に無線メッシュネットワークを構築して,障害に強いインフラ網として利用する方法が研究されている.本研究では公衆無線 LAN の AP 自体に無線メッシュネットワーク機能を追加し,通常時は一般の AP として,高速で安定した有線経路を使い,被災時に有線や AP に障害が起こると AP が必要に応じて無線メッシュネットワークに移行し,即座にネットワークを復旧させる方法を提案する.At the time of disaster, such as an earthquake, the demand of information such as the safety confirmation rises. It is very important of prevention of secondary damage to give disaster victims accurate information and press a correct action. Thus, it is necessary to rebuild a broken network or build a new network immediately. Especially, the trouble by disconnection is caused by cable connection. Therefore, the method of making infrastructure strong for troubles by building the Wireless Mesh Network has been studied. In this paper, we propose a robust wireless LAN system, which can be smoothly recovered from the destruction state when access points or wires connecting access points are broken by the disaster. In this system, we add functions of the Wireless Mesh Network into the access point used as public wireless LAN.
著者
栢木 まどか 伊藤 裕久
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.71, no.603, pp.199-204, 2006
被引用文献数
1 1

This paper analyzed the fireproof communal building after Great Kanto earthquake, taking 3 examples planned by Reconstructing Building Assistance Co., ltd. supporting for fireproof architectures in Tokyo and Yokohama. Spatial composition of these buildings showed that the procedures of cooperation were very complex because of adjustment of different rights of land (ownership, leasehold and rented house). But they were achieved without the support of the law for communal building, and clarified that the communal building had various possibilities concerning the city residence of the revival period.
著者
伊藤 漸 小浜 一弘 近藤 洋一 竹内 利行
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

モチリンは消化管粘膜から分泌されるペプチドホルモンで消化・吸収の終了した空腹時に約100分間隔で血流中に放出され、先ず胃・上部十二指腸に一連の強収縮をひきおこし、これが順次下部消化管に伝播して、空腸・回腸に溜った胃液・腸液を大腸の方に押しやる働きをする。モチリンによる消化管平滑筋収縮作用は、動物種によって大きく異なる。例えば、ブタやイヌから抽出したモチリンは、ラット,モルモットの消化管には全く作用しない。イヌに投与すると空腹時強収縮をひきおこし、この作用はアトロピンによって抑制されるので、モチリンの作用はアセチルコリンを介していることが予想される。ところがin vivoのウサギの実験ではこの強収縮は観察できない。しかしウサギ腸管平滑筋条片をマグヌス管につるして筋の収縮を調べるとモチリンによる筋収縮を確認でき、しかもアトロピンでは抑制されず、モチリンの平滑筋への直接作用が考えられる。但し単離筋細胞を用いた培養実験では、アセチルコリンは筋収縮をひきおこすが、モチリンでは筋収縮を確認できていない。我々は、ウサギ平滑筋膜上にモチリン受容体の存在を想定して、膜分画への ^<125>Iーモチリンの結合実験を行った。 ^<125>Iーモチリンは膜の粗分画を用いると結合を認めたが、精製した膜分画を用いると結合が認められなかった。そこで我々は、モチリンが直接平滑筋に働くのではなく、神経に作用しアセチルコリン以外の伝達物質を介して筋に働いている可能性を考慮しているが、同時に、1) ^<125>Iーモチリンの比放射能活性を高める 2)13位のMetをLeuに置換して酸化をうけにくくさせる 3)第7位のTyrを除き、カルボキシル端にTyrを付加したモチリンを合成する,等の工夫により、生物活性がヨ-ド化によっても十分保持できるモチリンの作成を行なった。現在これらの修飾モチリンを用いて平滑筋膜分画との結合実験を継続している。
著者
西村 浩一 阿部 修 和泉 薫 納口 恭明 伊藤 陽一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「地震と豪雪」の複合災害の中で、「冬に地震が発生」した際の雪崩災害危険度の評価手法を開発し、被害軽減に資することを目的とした。今年度は、主に地震時の積雪の破壊強度とその挙動を調べる目的で、防災科学研究所の雪氷防災実験棟において小型振動台を用いた積雪の破壊実験を実施した。実験にはロシアのAPATIT雪崩研究所殻からChernouss博士も参加し、共同で実施された。加速度計を埋め込んだ積雪ブロックを凍着させ、一定振幅のもとで2次元の振動数を増加し、積雪がせん断破壊した時点の加速度、上載荷重、断面積から、「新雪」、「しまり雪」、「しもざらめ雪」の「高歪速度領域の積雪破壊特性」とその密度依存性が求められた。また2次元振動に伴う、法線応力の効果についても議論を行った。さらにこの破壊特性を積雪変質モデル(Snowpack)に組み込んで、対象領域の地震発生時の雪崩発生危険度予測図を作成した。一方、こうした一連の取組みに対して、トルコの公共事業省災害監理局から共同研究と技術支援の依頼があり、研究協力者2名とともに現地視察を行ったほか、地震による雪崩発生の現況および危険度評価と災害防止手法開発に関する意見交換を実施した。現在、今後の共同研究策定に向けて調整を実施中である。
著者
杉本 雅樹 出崎 亮 関 修平 伊藤 洋 山本 春也 吉川 正人
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

セラミックスの原料である高分子材料の薄膜にイオンビームを照射することで、個々のイオン粒子の飛跡に沿って薄膜中に円筒形の架橋部分を形成し、それ以外の未架橋部を溶媒で除去することで直径数十ナノメートルの高分子ナノファイバーが作製できた。この原料高分子材料に、触媒能等を有する機能性金属をあらかじめ混合しておくことで、金属を含有した高分子ナノファイバーが作製可能であり、これを不活性ガス中で焼成することで、触媒金属を含有したセラミックナノファイバーが作製可能であることを明らかにした。このナノファイバーの長さ・太さ・形成数は、それぞれ高分子薄膜の厚さ、イオンビームの線エネルギー付与(単位飛跡あたり高分子材料に与えるエネルギー量)、射量(イオンビームの個数)で独立して制御可能である。また薄膜に対し、斜め45°で異なる4方向からイオンを照射することで、薄膜中でイオンの飛跡を3次元的に交錯させ、ナノファイバーを立体的に接続した3Dナノメッシュ構造が形成可能であることを明らかにした。
著者
石川 永和 伊藤 彰則 牧野 正三
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.44, pp.177-178, 1992-02-24

現在我々は大規模な言語データベースの構築を行なおうとしている。データベース作成にあたっては大量のテキストを解析することが必要であり、これらのテキストを対して十分な語彙を持つ辞書を用意する必要がある。しかしながらあらゆるテキストに対処できる辞書を構成することは日本語の造語能力などの点から、因難である。またデータベース作成の趣旨からはテキスト中に辞書に記載されていない語が存在した場合この語の文法的性質や意味推定を行ない、最終的には新語として辞書に単語登録する段階に達することが望まれる。本稿ではデータベース作成の第一段階として行なわれる形態素解析において辞書未登録語を検出することを目的とする。従来さまざまな形態素解析法が提案されているがこれらは解析対象となるテキストに辞書未登録語が現れないことを前提としているものが多く、未登録語が存在する場合の動作は保証されていない。ここでは一旦形態素候補を作成した後、新たな形態素候補を加えることにより、未知語が存在しても形態素解析が行なえるアルゴリズムを開発することをねらう。
著者
林 進 伊藤 栄一 岡田 正樹 塚本 睦 中川 一 野平 照雄 山口 清 横井 秀一
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.9-26, 1992-12-25
被引用文献数
1

国指定天然記念物「臥龍桜」は,岐阜県宮村にある推定樹齢一千年の,淡墨桜に次ぐ県下第二位の老大樹である。その姿には,一千年という時間の厳しさ,またそれを生き技いてきた樹自身の生命力の強さが表されている。しかし,近年腐朽が進み樹勢維特上不安が持たれている。このため早急に何らかの対策を講じなければならない。樹木保護に当たっては総合的な対策が必要であるが,現在そのための調査方法や,対策技術が未確立な状況にある。そこでそれらの確立に向けて基礎調査研究を行った。調査は,現状を把握するため,桜本体の形状,腐朽部,成長状況,葉・花・根の様子,病虫害について行った。調査の結果から,臥龍桜の樹勢は旺盛である点,しかし,腐朽が強度に進行している部分もありそれらに対しての防腐対策,さらには,樹形保存のための外科手術など,多くの保護対策を講じる必要がある点などが考えられる。これらの保護対策は,それぞれ個別の対策ではなく,総合的に実施されること必要である。そのため,臥龍桜の保護管理サポートシステムを確立すること,モニタリングを長く継続して行うことが必要となる。以上のことから体系的樹木医学の確立へのステップとなり得る研究として報告する。
著者
久保田 滋 伊藤 美登里 樋口 直人 矢部 拓也 松谷 満 成 元哲
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究期間全体を通じて、申請書に記載した知事選や総選挙に関するサーベイ調査に加えて聞き取り調査も実施し、以下のようなデータが得られた。(1)投票行動に関するデータ。徳島、高知(2004年)、東京(2005年)、長野・滋賀(2006年)、東京(2007年)。(2)政治に関わる行為者に対する聞き取り。徳島(150件)、滋賀(40件)、高知・長野(各10件)。こうしたデータの解析のうち、徳島調査については成果を刊行し、他の都県については予備的な分析を発表し本格的な解析に着手するところである。そうした段階で当初の仮説の当否とその後の発展は、以下のとおりである。(1)政治的亀裂構造の再編に伴い、テクノクラシー-底辺民主主義-ポピュリズムという3つの供給様式が生じるという仮説は、調査地以外の宮崎・大阪といった事例をみても妥当かつ有効であることが検証された。(2)新たな政治的亀裂として院内-院外があるという見通しを得られたため、それを徳島の事例で検証したところ有効であることが確認できた。すなわち、院内=保革問わずすべての既成勢力は、既得権益に関わる争点が生じたときに対応できず、院外=既成勢力とは関係の薄い一般有権者の代弁者(住民運動や知事個人など)が現れたときに対抗しえない。(3)(2)の結果として、議会=政党を迂回した政治的意思決定がなされる「中抜きの構造」がもたらされる。(1)で述べた3つの新たな供給様式は中抜きの構造に親和的であるが、テクノクラシーが地方自治の脱政治化を目的とするのに対し、底辺民主主義とポピュリズムは再政治家をもたらす。このうち底辺民主主義は強い正統性を持つが、決定単位を分散化することで決定コストの上昇をもたらす点で、より効率の良いテクノクラシーに敗北することが、徳島調査の結論となる。
著者
伊藤 景一 渡辺 弘美
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(研究1)在宅ケアの質の測定はアウトカム評価に焦点が当てられているが、神経疾患を持つ在宅ケア患者へのケアの効果評価には、長期間のアウトカム指標を開発する必要がある。そこでケアの効果評価に活用する指標を開発し各種妥当性を検証した。指標開発のための追跡調査を2回実施。べースライン:5年間に大学病院神経内科を退院した463名(指標開発の対象者)。初回調査年から2年後フォローアップ:201名(妥当性検証)。開発手順は日常生活行動を遂行する困難度を基に5因子構造の指標項目を構成。構造方程式モデリング(SEM)と一般線形モデルから構成概念及び予測妥当性を検証した。臨床的関連性から指標の利用可能性評価。指標は25項目から成る5指標で構成。SEMから各指標の上位に総合的アウトカム指標を仮定した二次因子モデルのパス係数、適合度指標ともに受入基準を満たした。各指標は、疾病障害対処困難・不安指標、家族介護負担・Strain指標、運動機能不全指標、身体症状発現指標、地域医療・ソーシャルネットワーク利用阻害指標、と解釈。指標が2年後のHRQOLに及ぼす影響を、多重指標モデルで検証。5指標全てが有意に2年後のHRQOLに影響を与えていたが、第1指標と第3指標からのパス係数の値が大きかった。2年間における指標の改善の有無がHRQOLに与える影響をみると、各指標が影響を及ぼしている側面は異なっていた。身体機能と役割機能のドメインの改善群と非改善群間の差が大きかった。指標の改善率は26-40%、安定率は54-70%。第1と第3指標は在宅療養におけるHRQOLの多くの側面に関与することが示され、指標によるアセスメント結果を基に、在宅ケア患者の心理社会的問題の抽出とサービスの改善や新システムの構築に寄与できると考えられた。(研究2)追跡期間中の症状と機能レベルの変化が健康関連QOLに及ぼす影響をSEMによるパスモデルで解析し、先行研究の仮説を検証するべく各種臨床変数とHRQOLのリンケージを試みた。この結果は、Diseases→Symptoms→Change in physical disabilities→General health perception→HRQOLの順序で影響が及ぼされる階層的なパスモデル構造を見出した。
著者
伊藤 守 杉原 名穂子 松井 克浩 渡辺 登 北山 雅昭 北澤 裕 大石 裕 中村 潔
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究から、住民一人ひとりの主体的参加と民主的でオープンな討議を通じた巻町「住民投票」が偶発的な、突発的な「出来事」ではない、ということが明らかになった。巻町の行政が長年原発建設計画を積極的に受け止めて支持し、不安を抱えながら町民も一定の期待を抱いた背景に、60年代から70年代にかけて形成された巻町特有の社会経済的構造が存在した。「住民投票」という自己決定のプロセスが実現できた背景には、この社会経済的構造の漸進的な変容がある。第1に、公共投資依存の経済、ならびに外部資本導入による大規模開発型の経済そのものが行き詰まる一方で、町民の間に自らの地域の特徴を生かした内発的発展、維持可能な発展をめざす意識と実践が徐々にではあれ生まれてきた。第2に、80年以降に移住してきた社会層が区会や集落の枠組みと折り合いをつけながらも、これまでよりもより積極的で主体的に自己主張する層として巻町に根付いたことである。「自然」「伝統」「育児と福祉」「安全」をキーワードとした従来の関係を超え出る新たなネットワークと活動が生まれ、その活動を通じて上記の内発的発展、維持可能な発展をめざす経済的活動を支える広範な意識と態度が生まれたのである。こうしだ歴史的変容が、町民に旧来の意思決定システムに対する不満と批判の意識を抱かせ、自らの意思表明の場としての「住民投票」を可能にしたといえる。